全文

(1)

心疾患患者の学校,職域,スポーツにおける運 動許容条件に関するガイドライン (2008年改訂版)

Guidelines for Exercise Eligibility at Schools, Work-Sites, and Sports in Patients with  Heart Diseases (JCS 2008)

目  次

改訂にあたって………2

Ⅰ.心疾患における運動許容条件の必要性………3

1.学校(小学校〜高等学校) ………3

2.大学生 ………5

3.職域 ………6

4.スポーツ ………7

Ⅱ.運動許容条件の基本的考え方……… 10

1.心疾患のリスク分類と運動・作業強度分類 ……… 10

2.学校における運動許容条件の考え方 ……… 11

3.職域における運動許容条件の考え方 ……… 11

4.スポーツにおける運動許容条件の考え方 ………… 12

5.障害者スポーツにおける運動許容条件の考え方 … 13 Ⅲ.運動強度の分類……… 14

1.スポーツ・運動 ……… 14

2.学校 ……… 14

3.職域の作業強度の分類 ……… 17

Ⅳ.法的問題……… 20

1.学会のガイドラインというものの位置づけ ……… 20 合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本小児循環器学会,日本心臓病学会,日本心臓リハビリテーション学会,

      日本心電学会,日本心不全学会,日本スポーツ法学会,日本体育協会,日本体力医学会,

      日本臨床スポーツ医学会

班 長 長 嶋 正 實 あいち小児保健医療総合センター 班 員 伊 東 春 樹 榊原記念病院/クリニック分院

勝 村 俊 仁 東京医科大学健康増進スポーツ医学講座 川久保   清 共立女子大学家政学部公衆栄養学研究室 岸 田   浩 日本医科大学内科学講座

古 賀 義 則 久留米大学医学部附属医療センター循環器科 坂 本 静 男 早稲田大学スポーツ科学学術院 下 光 輝 一 東京医科大学衛生学・公衆衛生学 高 田 英 臣 横浜市立スポーツ医科学センター内科診療科 高 橋 幸 宏 榊原記念病院心臓外科

中 澤   誠 脳神経疾患研究所附属総合南東北病 院小児科

班 員 野 原 隆 司 北野病院心臓センター

橋 本   通 昭和大学藤が丘リハビリテーション 病院循環器内科

馬 場 礼 三 愛知医科大学小児科学講座 牧 田   茂 埼玉医科大学リハビリテーション科 武 者 春 樹 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病

院循環器内科

協力員 宇津木   伸 東海大学専門職大学院実務法学研究科 安 田 東始哲 あいち小児保健医療総合センター循環器科 小 林 義 典 日本医科大学内科学講座

村 瀬 訓 生 東京医科大学健康増進スポーツ医学講座

外部評価委員

浅 井  利 夫 東京女子医科大学東医療センター スポーツ健康医学センター 越 後 茂 之 えちごクリニック 太 田 壽 城 国立長寿医療センター

小 川   聡 慶應義塾大学呼吸循環器内科 齋 藤 宗 靖 さいたま記念病院内科

(構成員の所属は20089月現在)

(2)

2.ガイドライン利用に際しての留意点 ……… 21

Ⅴ.心疾患の病態別,対象別運動許容条件……… 22

1.先天性心疾患 ……… 22

2.先天性心疾患術後 ……… 25

3.後天性弁膜症 ……… 27

4.心筋疾患 ……… 31

5.冠動脈疾患 ……… 35

6.不整脈 ……… 38

7.高血圧 ……… 44

8.マルファン症候群 ……… 45

付録1  各スポーツ領域でのメディカルチェックの現状 … 46 文献……… 50

(無断転載を禁ずる)

改訂にあたって

ガイドラインの目的

 運動・スポーツへの参加は健康な人たちだけでなく,

種々の疾患を持った人たちにとっても,健康増進,

QOL

の改善,生活習慣病やメタボリックシンドローム の予防や危険因子の減少,心身の健康に対する危険因子 の減少などに欠かすことができないものであり,また社 会的交流の楽しさなども与えてくれる.

 一方,以前は心疾患などの慢性疾患を有する患者は病 状の悪化を恐れて運動を禁止される傾向にあったが,最 近では運動によって患者の

QOL

が改善することも明ら かにされてきたので,むしろ許容範囲内で運動・スポー ツへ参加することが勧められるようになっている.

 心疾患患者が運動・スポーツに参加することを希望す る場合にどのように許容するかを判断したり,スポーツ 選手が心疾患に罹患した後にどのようにスポーツ活動に 復帰できるかを判断したりすることがしばしば求められ る.また,学校教育においては心疾患を有する児童・生 徒にどの程度の体育授業や課外活動を許可するかについ て担当医や学校医が判断する必要がある.職域において は,心疾患を有する従業員がスポーツ活動を希望する場 合だけでなく,職場の作業条件を運動と考えれば,作業 従事の許容や心疾患罹患後の職場復帰について産業医が 判断する必要がある.

 本ガイドラインでは,心疾患を有する患者に対して,

心疾患の重症度に応じた運動許容条件について示すもの である.運動許容条件については,学校においては体育 授業や課外活動に関するもの,職域においては運動と共 に作業強度に関するもの,スポーツにおいてはスポーツ 活動に関するものを取り上げた.

 心疾患患者の運動許容条件については,無作為化比較 試験のようなエビデンスがないのが現状である.しかし,

心疾患患者の重症度の判定やそのための検査について は,エビデンスがある.そのエビデンスを利用して,多 くの専門家が合意するような運動許容条件の勧告あるい は目安を示すのが本ガイドラインの目的である.ある特

定の心疾患患者の運動許容の最終判断は,患者をとりま く環境を考慮して,担当医と患者本人が行うものであり,

その目安として本ガイドラインがある.したがって,本 ガイドラインは運動許容条件を判断する立場にある現場 の医師(健康スポーツ医,産業医,学校医)に利用され ることを前提としたものである.

今回の改訂にあたって

 本ガイドラインは循環器病の診断と治療に関するガイ ドライン(

2001

2002

年度合同研究班報告)「心疾患 患者の学校,職域,スポーツにおける運動許容条件に関 するガイドライン(

2003

)」(班長:川久保清)1に沿って,

新しく得られた知見やエビデンスを加えながら改訂した ものである.

 なお,

2004

7

月に厚生労働省が一般市民にも

AED

Automated external defibrillator

)の使用も認めてから,

運動・スポーツの現場を含めて急速に全国に普及し,

AED

による心室頻拍

/

心室細動の救急処置で患者が救命 されるようになっている.しかし,

AED

の普及には地 域のさらなる努力が必要である2

AED

は完全な救急救 命機器ではないので,

AED

が設置されているからとい う理由で運動許容基準を変更できるというわけではな く,あくまでも救命的な処置が可能になったと考えるべ きである.

ガイドライン作成の経緯

 心疾患患者におけるスポーツ許容条件については米国 スポーツ医学会と米国心臓病学会によるベセスダ会議勧 告があり,最近では

2005

年に改訂された勧告が提案さ れている3.この勧告は米国における小児から成人まで の心疾患患者のスポーツ許容の判断に使われるものであ り,本ガイドライン作成の際,参考にした.また日本臨 床スポーツ医学会学術委員会内科部会勧告(委員長:村 山正博)は,循環器疾患におけるスポーツ参加・禁止の 基準を示しており,十分参考になる4

(3)

Ⅰ 心疾患における

運動許容条件の必要性

 本章では,領域ごとに運動中,作業中の心疾患による 事故の実態とその予防対策としての運動許容条件ガイド ラインの必要性を示すものである.心疾患による事故,

特に心臓性突然死の実態を把握することにより,運動許 容条件として取り上げるべき心疾患の病態が明らかにな るものである.

 もちろん,運動許容条件は運動量だけでなく,競技に おけるストレス,脱水の有無,運動に対する動機,意欲,

態度などスポーツをする側の条件や天候,気温,湿度,

高度などの環境条件にも影響を受けるのは当然であり,

それらを加味した総合的な判断が必要である.

1 学校(小学校〜高等学校)

 運動・スポーツは小児の心身の発達には欠くべからざ るものであり,心疾患の有無にかかわらず,原則的には 何らかの運動への参加を勧めるべきと考えられる.しか し,心疾患による運動中の突然死,運動による短期的・

長期的な病態の悪化,重篤な運動誘発性不整脈などもみ られ,運動制限の必要な症例もある.このような児童生 徒でも教科体育や学校行事などをすべて禁止するのでな く,可能な範囲で参加を考慮すべきである.たとえばサ  学校における運動許容条件については,日本小児循環

器学会学校 検診委員会などが作成した基準やガイドラ イン5があり,先天性心疾患や不整脈を有する小児の体 育実技や部活動の許容条件が示されている.日本学校保 健会で

2002

年度に心臓病管理指導表を改訂し,新しく

「学校生活管理指導表」が提案され,全国に使われてい る5.学校における運動許容条件については,これらを 参考にした.

 職域における作業許容条件については,米国疾病予防 センターと米国スポーツ医学会における身体活動ガイド ラインに示されている作業強度別の望ましい運動耐容能 を提示した6.また,就労中の作業強度は同一の職業で も作業内容により大きく異なるため,本ガイドラインで は,職業別,作業分類別の活動強度を広く示すことによ り,職場復帰及び復帰後の職務内容を決める際の参考と なるように配慮した.活動強度の基礎データについては,

Ainsworth

らのデータ7より

3METs

以上の労働に関する 活動を抜粋して提示した(表

11

).

文献の評価法

 文献の質的評価法は,運動許容条件そのものに関する 文献が少なく,エビデンスが乏しいため,簡易分類とし て

A

C

分類を採用した.

 クラス

A

:良好な証拠(メタ分析,無作為化比較試験,

コホート研究)がある.

 クラス

B

:かなりの証拠(ケースコントロール試験,

対照の少ない試験,一致しないデータであるが,治療指

針の作成に有用)がある.

 クラス

C

:専門家の意見

ガイドラインの構成について

 まず,「心疾患患者における運動許容条件の必要性」

について,学校,職域,スポーツの領域ごとに運動中や 作業中の事故の実態から概説した.続いて,「運動許容 条件の基本的考え方」の項では,心疾患患者のリスクの 程度と,運動(作業)強度との関連から,運動許容条件 設定の考え方を示した.心疾患のリスクとは,自分に対 するものと他者に対するものとし,自分にとっては,運 動・作業中の突然死や失神などによる事故と,自分が持 つ心疾患の病態が悪化することである.他者に対しては,

心疾患患者が失神などを起こすことで引き起こされる他 者に対する危害である.職域やスポーツの特殊な条件下 では他者に対する危害も考慮しなければならない.

 「運動強度の分類」では,既存のガイドラインの強度 分類を参考にした.法的問題の項では,法律の専門家に 運動許容条件を設定することと医師の安全配慮義務との 関連について執筆頂いた.「心疾患の病態別,対象別運 動許容条件」では,心疾患ごとに運動許容条件の考え方 を示した.先天性心疾患などでは主に学校で問題となる ため,疾患ごとに対象が異なる構成となっている.

 各スポーツ領域でのメディカルチェックの現状につい ては許容条件とやや異なる内容ではあるが参考になるの で付録として最後の項に示した

.

(4)

ッカーやハンドボールでは選手としての参加は難しくて も,ゴールキーパーやマネージャーとしての参加は可能 な場合もある.そのような判断に使われるのが運動許容 条件である.

1 運動中の突然死の実態

 小児期の突然死の頻度を死亡個票による集計で求めた ものでは,大阪の

5

19

歳の年間突然死は年齢相当人 口

10

万人に対して男子では

3.0

人,女子では

1.5

人で,

そのうち心臓性突然死と考えられるものが約

60

%と報 告されてきた8

 日本スポーツ振興センターは毎年,学校管理下の突然 死の実態を報告している9.それによると

10

数年前には 小学生,中学生,高校生全体で毎年

100

人程度の学校管 理下の突然死が報告されていた.しかし,最近では学校 管理下の心臓性突然死が減少し,平成

16

年度

44

名,平 成

17

年度は

35

名になっている.減少している要素とし て,学校心臓検診により突然死の可能性のある疾患が発 見されやすくなったこと,学校での心疾患児の管理が適 切になったこと,先天性心疾患の術前術後の管理が改善 されたことなどが推測される.

 年齢とともに突然死は増加する傾向がみられ,明らか に男子の方が多い.突然死の原因として

60

70

%が状 況証拠から心臓性と推測されているが,我が国では剖検 例が少なく,すべての症例が心臓性突然死と確認されて いるわけではない.

 学校管理下の突然死の発症状況をみると,運動に関連 したものが多い10

1988

1993

年までに日本体育学校 健康センターに報告された学校管理下の心臓性突然死

536

例については,ランニングに関連した突然死が多く,

207

例(

38.6

%,うちランニング中

142

例,ゴール直後

49

例,ゴール直前

16

例)であり,その他,歩行

82

例(

15.3

%),球技

78

例(

14.6

%),座位

39

例(

7.3

%),水泳

28

例(

5.2

%)などであった10

2 突然死の原因疾患

1

30

歳までの

469

例の突然死の剖検例を集計した

Liberthson

らの報告11をみると,心臓性突然死の原因疾 患として心筋炎,肥大型心筋症,冠動脈疾患,先天性冠 動脈奇形,伝導障害,僧房弁逸脱,大動脈瘤破裂,術後 を含む先天性心疾患などが多くみられる.また死亡前に 明らかな心疾患を持っていることが判明している

327

例 の原疾患をみると,未手術例としては大動脈弁狭窄症,

肺血管閉塞性病変などが多く,それに続いて肥大型心筋 症,拡張型心筋症,心筋炎,

QT

延長症候群,房室ブロ

ックなどがあり,既手術例としてはファロー四徴症,短 絡手術,マスタード手術などが多かった11

 伊東らは

1988

1993

年に日本体育学校健康センター に報告された学校管理下の心臓性突然死

536

例中,生前 に心疾患が指摘されていた

209

例を検討し,術後先天性 心疾患の

69

例(

33.0

%),未手術先天性心疾患

32

例(

15.3

%),心筋症

51

例(

14.4

%),

QT

延長症候群

13

例(

6.2

%),

その他の不整脈

31

例(

14.8

%),川崎病

5

例(

2.4

%),

心筋梗塞

5

例(

2.4

%),原発性肺高血圧症

2

例(

1.0

%)

心筋炎

1

例(

0.5

%)であったと報告している10.  

Maron

は突然死した若年者のスポーツ選手

387

人の死 因を報告している(多くは剖検されている)が,それに よると肥大型心筋症

26.4

%,心臓震盪

19.4

%,冠動脈奇 形

13.7

%,原因不明の左室肥大

7.5

%,心筋炎

5.2

%,大 動脈瘤破裂(マルファン症候群)

3.1

12などで,不整 脈による突然死は比較的少ない.外国では日本が行って いるような学校心臓検診が行われておらず,前もって致 死的不整脈の有無については調査されていないことも原 因と考えられる.

 新村らは神奈川県の児童・生徒の急死例

97

例を検討 し,原因不明の急性心機能不全(剖検の結果,流動性の 心臓血,諸臓器の鬱血等の急性心臓死を示唆する所見の みで,器質的異常を認めないもの)

60

例,器質的心疾 患

18

例(肥大型心筋症

3

例,不整脈源性右室心筋症

2

例,

先天性心疾患

4

例,川崎病

3

例,心筋炎

3

例,

QT

延長症 候群

2

例,心房粗動

1

例),脳血管障害

14

例,熱中症

5

例と報告し,

97

例中

90

例は生前心疾患を指摘されてい なかったという13

 小児期心臓性突然死の機序がまだ充分解明されておら ず,不明な点も少なくない.生前まったく無症状で,心 電図にも異常を認めないものが多いのも現状である.

3 運動によって病態が増悪する 可能性のある心疾患または状況

①心筋疾患

 小児期では,肥大型心筋症が問題である.症状が比較 的軽微なため,運動制限が緩やかになりがちで,運動中 に突然死する場合が少なくない.また成人に比較して肥 大型心筋症の進行が早いものが多く,予後不良のものが 少なくない.

 剖検例では心筋炎が突然死の大きな原因疾患になって おり,小児期の突然死の

9

%を占めているという報告も ある14が,生前に心筋炎と診断することが困難なことも 多く,剖検で初めて診断されることも多い.心筋炎後の

(5)

患者において,運動許容条件の設定が必要になる.

②冠動脈疾患

 小児の運動による突然死の原因の中に冠動脈疾患も指 摘されている.しかし,我が国では剖検例が少ないこと,

川崎病による冠動脈疾患以外は生前には発見しにくいこ となどからその頻度や状況は明らかではない.運動時に 胸痛や失神があり,それに伴う心電図変化がある場合に は冠動脈疾患を念頭におく必要がある.小児期の冠動脈 疾患としては先天性冠動脈奇形(主に冠動脈起始異 常)12,川崎病による冠動脈病変15があげられる.

③先天性心疾患

 先天性心疾患は,非チアノーゼ性とチアノーゼ性に分 類されるが,軽症の非チアノーゼ性心疾患は健康児と同 じように運動しても病態の悪化はない16.大動脈弁狭窄 症や大動脈縮窄症などの左心系の狭窄病変は運動時の病 態悪化に注意が必要である.また僧帽弁逆流も運動によ って逆流量が増加する可能性がある.また肺高血圧に伴 う肺動脈閉塞性病変の著しいアイゼンメンガー症候群も 運動によって病態が悪化する可能性がある.チアノーゼ 性先天性心疾患の場合には,運動中の呼吸困難のため.

患児の能力以上の運動を強制することは困難である.

 先天性心疾患術後症例も運動によって病態が増悪する 場合がある.術直後だけでなく,術後遠隔期にも不整脈 の発生は増加し,突然死する可能性はある.多くは不整 脈死と考えられ,心筋切開,心筋切除,虚血,心筋障害 の進展,伝導障害などの不整脈の背景因子となる要因が 多数存在する17ので,術後長期の管理が必要である.不 整脈のほか残存弁逆流や肺動脈閉塞性病変がある場合に は運動に対する注意が必要である.

④不整脈

 運動によって誘発される不整脈が問題となる.

QT

延 長症候群は運動中や睡眠中にも突然死が起こりうるが,

水泳中にも多いことが報告されている18.学校検診で偶 然発見される無症候性の

QT

延長は予後良好なことが多 いが,

LQT1

LQT2

のような症例で運動中や水泳中に 失神や突然死が報告されている19.基礎疾患のない単形 性心室頻拍の予後は良好で,突然死の原因になることは まれである20.しかし,カテコラミン感受性(誘発)多 形性心室頻拍21)−23,不整脈源性右室心筋症,先天性心 疾患術後の心室頻拍

/

心室細動は失神や突然死の原因に なる.高度房室ブロックや完全房室ブロックでは長い心 停止や心室頻拍

/

心室細動などの心室不整脈が問題とな

る.

⑤心臓震盪

 心臓震盪(

Commotio cordis

)は前胸部に非穿通性の 衝撃を受け,突然,心室細動になり,突然死する可能性 のある病態である.小中学生に多く発生し,野球などの ボールによる胸部への衝撃が最も多い.一般的には心臓 は構造的には異常は認められない.予防のためにチェス トパッドが考えられているが,十分に予防できるわけで はない.

Maron

らの報告によると若年者スポーツ選手の突然死

原因の第

2

位にあげられている12.我が国では報告され た症例はまだ少ないが今後,注目すべき問題である.

⑥学校における AED の設置

 我が国でも若年者のスポーツ中の突然死を予防するた めに心室頻拍

/

心室細動の治療目的に

AED

の普及が全国 で急速に広まっている.スポーツ施設だけでなく学校で の設置も目ざましく増えているが,明らかな設置基準が ない

.

 アメリカでは以下の基準に

1

つでも合致すれば,学校 には

AED

を用意すべきであるとの勧告が出されてい る24.(

1

5

年以内に使用する可能性がある場合.(

2

) 心臓性突然死する可能性がある対象者がいる場合.(

3

90

%以上の症例が失神してから除細動まで,

5

分未満で 可能であること,または.訓練すべきこと.

2 大学生

 小・中学生,高等生と年齢が増すにつれ,心臓性突然 死の発生頻度が増加することから,大学生においても心 臓性突然死の頻度が高くなることが推察される.しかし ながら,我が国における大学生の運動中の突然死に関し て,その原因や発生頻度,病態生理,予防策など十分に 解明されているわけではない.大学生では,競技スポー ツを含め運動を行う者が多いにもかかわらず,心臓に関 するメディカルチェックは十分に行われていないのが現 状である.

1 運動中の突然死の実態

 米国における若年スポーツ選手の突然死の発生頻度 は,女子の

1.33

/100

万人

/

年に比較して,男子では

7.47

/100

万人

/

年と男子で高頻度である25.また,男 子高校生の

6.60

/100

万人

/

年に比し,男子大学生では

14.50

/100

万人

/

年と大学生で高いことが報告されて

(6)

いる25

 我が国の全国

243

大学,短期大学における突然死アン ケート調査26では,回答のあった

181

校(

74

%)の延べ 学生数

11,868,668

名(昭和

54

1

月から昭和

62

8

月 まで)のうち,

38

校,

102

例(男:女=

99

3

)の突然 死が報告された.女子の

3

例は基礎疾患を有しており,

予期せぬ突然死は男子のみで,その頻度は

8.5

/100

万 人

/

年であった.また,全国

576

の大学,短期大学を対 象とした循環器検診アンケート調査26では,昭和

57

年 度から昭和

63

年度の

7

年間に

21

例の突然死があり,そ の発症率は

12.8

/100

万人

/

年と報告されている.

2 突然死の原因疾患

 我が国における大学生の突然死の原因疾患に関する調 査はほとんどないため,欧米の若年スポーツ選手の報 告3),27),28について述べる.突然死の原因疾患には人種差,

地域差がある.米国3),27では若年スポーツ選手の突然死 の原因として,肥大型心筋症が最も多く,心臓震盪,冠 動脈奇形,原因不明の左室肥大(肥大型心筋症疑い)が 一般的である.イタリア28では不整脈源性右室心筋症が 最多で,冠動脈硬化性疾患,冠動脈奇形と続くが,肥大 型心筋症は少ない.欧米での若年スポーツ選手の突然死 例は剖検例が多いこともあり,基礎心疾患が明らかとな ることが多い.

 我が国においては,剖検率が低く,死亡診断書の病名 に急性心不全とする傾向があり,正確な死因が明らかで ないことが多い.

1948

1999

年の

52

年間の東京都

23

区内におけるスポーツ中の突然死例

534

件(剖検率

72.8

%)の疫学調査29によれば,年齢別では

10

歳代

116

例(

21.7

%)が最も多く,男女比は約

5

1

である.若年者の死 因の第

1

位は形態上急性心臓死の結果としての所見しか なく,突然死の機序が明らかでない急性心機能不全で,

その平均年齢は

20.4

±

9.5

歳である.急性心機能不全は

10

歳代の

51

%,

20

歳代の

46

%を占め,他の心疾患(弁 膜症,心肥大,心筋炎,冠動脈起始異常,心筋症,心奇 形など)は

10

歳代の

26

%,

20

歳代の

21

%に認めている.

運動との関連では急性心機能不全,他の心疾患はそれぞ れ運動中に

60

%,

58

%,運動直後に

15

%,

20

%が突然 死を起こしていた.生前に健康あるいは病歴のない者が,

他の心疾患では

4

割強であるのに対して,急性心機能不 全では

70

%以上を占めていた.

3 運動によって病態が増悪する 可能性のある心疾患

 大学生においても,運動許容条件に含めるべき心疾患

は,小児とほぼ同様と考えられる.すなわち,先天性心 疾患,心筋症,不整脈,冠動脈疾患などである.若年ス ポーツ選手では肥大型心筋症とスポーツ心臓との鑑別が 必要となる.まれではあるが

Brugada

型心電図を有する 若年スポーツ選手に運動中の心室性不整脈誘発例があ り,心電図の経過観察が必要と思われる.川崎病の長期 予後は不明であったが,成人期に達した川崎病例に虚血 性心疾患発症が報告され30)−33,経過観察が必要な重要 な既往疾患となった.また,高身長の若年スポーツ選手 でマルファン症候群による心血管系病変が突然死の原因 となりうるため,慎重な管理が必要である.

3 職域

 スポーツ選手や運動指導員のように,職業としてある いは仕事の一部として運動を実施している者もいるが,

仕事中に特別な運動を実施していなくても,一般に労働 は身体活動を伴うものであり,平日では

1

日のうち

30

40

%の時間が費やされることが多い.そのため,心 疾患を有する者が建設業や運送業などの高強度の身体活 動を伴う労働に従事する際は,活動に制限が必要となる 場合がある.また,近年問題となってきている過労死の 中には,心疾患や脳血管疾患が多く含まれており,十分 な配慮が必要となる.さらに,電車,バス,航空機など の公共交通機関の運転手や運送業に従事する者は,仕事 中に心事故を起こした場合には,乗客を巻き込んだり,

重大事故となったりすることもあり,他者に及ぼす影響 も大きい.したがって,職業として運動を実施していな い場合でも,心疾患を有する場合には適切なリスク評価 を行った上で就業許可を与える必要があり,その条件を 示すことは重要なことであると考えられる.

1 労働に関連した心疾患死亡や 突然死の実態と原因疾患

 労働者の心筋梗塞の発症状況や死亡状況などの調査報 告及び職種別の心疾患発症状況などについての報告はい くつかあるが,労働による負荷と心疾患発症との直接的 な関連については報告が少なく,十分には検討されてい ないのが現状である.

Hirobe

ら は

1994

年か ら

2000

年に か け て

71

施 設の

257,440

名(男性

207,310

名,女性

50,130

名)の労働者 における心筋梗塞の発症率を

WHO MONICA

研究34),35 に準じて調査した.その結果,

35

64

歳の男性におけ る人口

10

万人あたりの年間発症率は

40.2

95

CI

32.2

48.3

)であり,死亡率

22.2

%(

95

CI

17.3

(7)

27.2

)であったと報告している36

Kitamura

らは,大阪 の企業

8

施設を対象として,

40

59

歳の労働者の心筋 梗塞や脳卒中の発症状況を

1963

年から

1994

年にかけて 調査し報告している37.この報告によると,

1963

1970

年の心筋梗塞の発症が人口

1,000

人当たり

1

年間に

0.2

95

CI

0

0.3

)であったのに対し,

1987

1994

年の発症は

1.0

95

CI

0.7

1.3

)へと増加している.

また,上畑は,労働に関連した心疾患による死亡の状況 を,心疾患の職業別調整死亡率で検討し報告してい る38

1970

年と

1985

年で

15

64

歳男子就業者の心疾 患の年齢調整死亡率の変化について,全体で

13

%増加,

職業別にみた場合,専門的・技術的職業従事者で

68.1

%,

運輸・通信従事者で

51.1

%と著しい増加がみられたとし,

循環器疾患による死亡に職業間の相違があったことを報 告している.

 労働者の突然死の実態については,平成元年度人口動 態社会経済面調査において,壮年期(

30

65

歳未満)

死亡をテーマとして「急な病死」の実態調査が行われて いる39.この調査では,死亡する

1

週間前の状態が,入 院中もしくは疾病によって日常生活上に支障があった者 を除く急な病死が,全死亡の

12.2

%あり,原死因の

31.5

%が心不全,

19.8

%が虚血性心疾患等,心不全と虚血性 心疾患を合わせた心疾患は男性で

54.0

%,女性で

45.7

% と約半数を占めていたことが報告されている.そのうち,

発症から死亡までの期間が

1

日以内のケースは,心不全 で

88.4

%,虚血性心疾患で

81

%を占めていた.また,

性別では男性,年齢別では

50

歳代に多く,生産・運輸 職が

28

%,事務・技術・管理職が

25.0

%となっていた.

 また,日本の

10

企業の従業員

196,775

人について検討 した報告40では,突然死は男性で

251

人,女性で

13

人(

10

万人あたりそれぞれ

21.9

5.7

)あり,そのうち心臓病 は

153

例,

58.6

%を占め,内訳では急性心不全が最も多 く

100

例,次いで心筋梗塞が

43

例,肥大型あるいは拡 張型心筋症が

4

例であったことが報告されている.発症 から死亡までの情報が詳細に記録されている心疾患によ る死亡の

131

症例では,発症から

1

時間以内に

52.7

%が,

1

3

時間の間に

24.4

%が死亡しており,心疾患による 突然死が,他の疾病に比較して死亡までの時間が非常に 短いことを示している.

2 心疾患の病態が増悪する 可能性のある労働条件

 過労死とは

1978

年に上畑がはじめて報告したもので,

「過重な労働負担が誘因になり,高血圧や動脈硬化など の基礎疾患が悪化して脳血管疾患や心筋梗塞などの急性

循環器障害を発症,死亡や永久的労働不能に陥った状態」

と定義されている41.上畑の報告42によると,過労死 の特徴としては男性が約

90

%を占め,

35

54

歳の壮年 期や中高年の労働者に多く,ホワイトカラーでは営業販 売職,専門技術職,記者・編集者,教員など,ブルーカ ラーでは夜勤労働者,職業運転手,建設作業員などの順 に多く,両者はほぼ同数であるとされている.

2003

年 度では約

300

件が過労死の労災認定を受けており,約

180

件が脳血管疾患であり,約

120

件が虚血性心疾患な どの心疾患により占められている.また,被災者の

3

分 の

2

が週

60

時間以上,月

50

時間以上の残業及び所定休 日の半分以上の出勤など,長時間労働をほぼ日常業務と している.このような報告から,過労死症例の検討から 恒常的な長時間の労働が疲労の蓄積を生じさせ,脳・心 臓疾患を発症させる恐れがあると考えられるようになっ てきている43.そのため厚生労働省では平成

14

2

月に,

100

時間を超える時間外労働を行わせた場合,または

2

か月間ないし

6

か月間の

1

か月平均の時間外労働が

80

時間を超えた場合については,産業医等の面接による保 健指導を受けさせるように通達を出している.さらには,

2005

11

月には労働安全衛生法が一部改正され,上記 の条件に該当する場合の産業医等による面接が

2006

4

月から実施されている.

Devereux

らは,携帯型血圧計により仕事中の血圧を

測定し,随時血圧より左室心筋重量係数との相関が高い ことを示し,仕事中の血圧が臓器障害に重要な影響を与 えると報告している44

Schnall

らは,職業ストレス(

Job

strain

)が高い男性では仕事中の血圧が高く,心肥大も

進行しやすいことを報告している45.また,シフトワー クは冠動脈疾患を増すことがいくつかの研究で報告され ており,交替制勤務はストレス負荷が大きいと理解され ている46.固定的な夜間勤務労働者では,睡眠時の血圧 低下を減少させ,睡眠時血圧を高くすること47や夜間勤 務の看護師では日中勤務と比較して

non-dipper

の割合が 高く,覚醒時の収縮期血圧の変動が大きいとの報告48も あり,交感神経のリズムが行動に同調していないことが 指摘されている.

 以上のことから,心疾患を有する労働者を長時間勤務 や交代制勤務に従事させることは,循環器系に身体活動 強度以上の負荷をかけることにもなり,慎重な判断が必 要になると考えられる.

4 スポーツ

 スポーツは,競争を含む身体運動であることから,顕

(8)

性のみならず潜在性疾患により事故を発症する危険を常 に内在している.また,特殊なスポーツ種目(自動車レ ース,スキー滑降など)では,他者にも危害を与える可 能性がある.スポーツの危険性は,運動強度が高いと考 えられる競技スポーツに発生頻度が高いとは限らず,一 般市民スポーツにおいても突然死が報告されている.潜 在性を含めて心血管に異常を有する者においては,疾病 の重症度の限度を超えた負荷が加わった場合には,スポ ーツの種類や競技に関係なく,顕性の疾病として発症す ることになり,突然死に結びつくことがある.この潜在 性及び顕性の疾患を明らかにし,安全にスポーツを行う ためには,競技スポーツに限らず,一般市民スポーツ,

さらに運動療法をも含むスポーツ活動を行う者すべてが メディカルチェックの対象となり,スポーツ参加の許容 を判定することになる.

1 スポーツにおける突然死の実態

①疫学(表1)

 米国では毎年

30

万例を超える突然死が発生し,その 半数が心血管障害による突然死である49.しかし,スポ ーツ活動に伴う突然死の頻度は低く,疫学的研究として のデータは,世界的にみても報告が少ない.米国におけ るスポーツ選手の突然死の頻度は,クロスカントリース キーの

13,000

時間に

1

件からジョギングの

396,000

時間 に

1

件と報告されている50.スポーツ関連の突然死に関 する報告(表1)では,対象及び集計方法により異なるが,

年間数十万人から数百万人に

1

件の発生頻度とする報告 が多い.我が国においてもスポーツ関連の突然死に関す

る疫学的検討は少なく,大規模調査は主にアンケート調 査により行われたものである.我が国におけるスポーツ 関連の突然死の発生頻度は,対象年齢が小児を多く含む 都道府県体育施設では

1,636

万延べ施設利用者に

1

51 と低い頻度であり,大学生における発生頻度は

34

万人 に

1

26と米国の頻度とほぼ同様の結果である.しかし,

中高年が多い社会人やフィットネス施設における調査で は,大学生に比べ発生頻度は高く,社会人

42,887

人に

1

54及び

1

/497

万人延べ施設利用者55となっている.

②スポーツの種類(表2)

 スポーツ中の突然死に関する主な文献による

1,412

症 例の集計(表2)では,欧米での突然死に関連したスポ ーツ種目は,バスケットボール,ラグビー,サッカーな どの球技が半数近くを占め,次いでランニング,体操(フ ィジカル・トレーニング)が多いと報告されている.我 が国ではランニングが最も多く,次いで水泳があり,球 技の頻度が高い諸外国と傾向が異なる報告であった.こ れは,欧米と我が国において一般的に行われるスポーツ 種目が異なることに加え,主として行っている運動をス ポーツの種類としてとらえるか,突然死に直接関わった 運動を原因とするかなど報告により解釈が多少異なるこ とによる.我が国の報告69),71では,各種スポーツのト レーニングとしてランニングが多く行われていることか ら,ランニングが原因としての頻度が高い要因となって いると推定される.しかし,

Quigley

59によるアイル ランドにおけるスポーツ関連の突然死の報告では,球技 の中でもゴルフにおける突然死が最も多く,我が国の中 高年の傾向71と類似している点も認められる.スポーツ 表 1 スポーツにおける突然死の発生頻度

報告者(発表年)文献) 対象 発生頻度

村山正博(1983)51) 都道府県体育施設利用者 1件/1,636万人

(延べ施設利用者数で算出)

Ragosta(1984)52) ロードアイランド・ジョガー 30歳以下 1件/280,000人/年

Phillips(1986)53) 米国空軍軍人 17〜28歳 1件/735,000人/年

Amsterdam(1987)50) クロスカントリースキー   1件/13,000時間

ジョギング   1件/396,000時間

杉本恒明(1990)26) 大学生   1件/339,104人 小堀悦孝(1990)54) 社会人   1件/42,887人

    ニアミスを含む場合 1件/37,526人

村山正博(1992)55) フィットネス施設利用者   1件/497万人   ニアミスを含む場合 1件/149万人

Van Camp(1995)25) 高校・大学スポーツ選手   男性:7.47件/100万人/年

    女性:1.33件/100万人/年

Maron(1996)56) マラソンランナー 平均年齢37歳 1件/50,000レース完走者

Maron(1996)57) 高校スポーツ選手   0.46件/10万人/年

  1件/72,500人/高校生活3年間

Corrado(1998)58) イタリアVeneto州市民   1.6件/10万人/年

Quigley(2000)59) アイルランド市民   1件/60万人

(9)

に関連する突然死の頻度は,スポーツの種類により国・

地域の差が若干はあるものの,あらゆる種類で発生して おり,スポーツの種類・強度に関係なくスポーツ参加者 の運動許容判定が必要である.

2 スポーツ中の突然死の原因疾患

(表3)

 スポーツにおける突然死の基礎疾患としては,半数以 上が心血管系の疾患である(表3).我が国の報告71に 多く含まれる急性心不全や急性心機能不全や他の中にも

表 3 スポーツ関連突然死の基礎疾患

報告者(発表年)文献) 症例数 年齢 基礎疾患

CAD HCM ILVH ARVC CAA Myo Ao 不明

Buddington(1974)60) 109 9〜39 43 5 18 0 7 4 0 0 32

Opie(1975)61) 19 17〜58 19 0 0 0 0 0 0 0 0

Maron(1980)62) 29 13〜30 3 14 5 0 4 0 2 1 0

Tsung(1982)63) 4 14〜18 0 1 0 0 2 0 0 1 0

Kennedy(1984)64) 11 10〜49 7 2 0 0 1 0 0 1 0

Virmani(1985)65) 32 14〜60 8 2 4 0 3 4 1 2 8

Northcote(1986)66) 60 22〜66 51 1 0 0 0 0 0 2 6

Virmani(1987)67) 33 8〜47 14 2 2 0 2 2 0 6 5

Thiene(1988)68) 10 13〜30 0 0 0 10 0 0 0 0 0

Niimura(1989)69) 62 〜15 0 8 2 0 0 5 0 23 24

Burke(1991)70) 34 14〜34 9 8 3 1 4 2 0 4 3

Murayama(1993)71) 645 139 9 369 128

Whittington(1994)72) 52 8〜82 43 2 0 0 0 0 0 0 7

Maron(1996)73) 132 12〜40 3 48 13 4 25 8 6 4 21

Virmani(1997)74) 62 10〜65 11 5 8 4 13 21

Corrado(1998)58) 49 11〜35 9 1 0 11 6 3 1 0 18

Larsson(1999)75) 16 18〜32 0 4 0 4 0 7 0 0 1

Tabib(1999)76) 80 35.8±14.6 27 20 0 8 0 2 0 0 23

Quigley(2000)59) 51 15〜78 42 1 0 0 1 1 0 0 6

合計 1490   428 124 55 42 55 38 19 426 303 CAD:冠動脈疾患,HCM:肥大型心筋症,ILVH:左室肥大,ARVC:不整脈源性右室心筋症,CAA:冠動脈奇形

Myo:心筋炎,Ao:大動脈解離・破裂,不明:急性心不全(剖検なし)・急性心機能不全(剖検あり)を含む 表 2 突然死に関連したスポーツの種類

報告者(発表年)文献) 症例数 年齢 スポーツの種類

球技 体操 ランニング 水泳 その他

Buddington(1974)60) 109 9〜39 30 31 28 6 14

Opie(1975)61) 19 17〜58 11 0 0 0 8

Maron(1980)62) 29 13〜30 21 1 4 1 2

Tsung(1982)63) 4 14〜18 4 0 0 0 0

Kennedy(1984)64) 11 10〜49 9 0 2 0 0

Virmani(1985)65) 32 14〜60 13 6 8 2 3

Northcote(1986)66) 60 22〜66 60 0 0 0 0

Virmani(1987)67) 33 8〜47 13 9 6 1 4

Thiene(1988)68) 10 13〜30 4 1 1 1 3

Niimura(1989)69) 62 〜15 0 18 29 7 8

Burke(1991)70) 34 14〜34 19 3 0 3 9

Murayama(1993)71) 645 201 19 165 80 180

Whittington(1994)72) 52 8〜82 26 1 6 8 11

Maron(1996)73) 134 12〜40 108 0 17 3 6

Virmani(1997)74) 62 10〜65 30 − 11 − 21

Corrado(1998)58) 49 11〜35 39 1 1 4 4

Larsson(1999)75) 16 18〜32 − − 16 − −

Quigley(2000)59) 51 15〜78 37 0 8 2 4

合計 1412 625 90 302 118 277

(10)

表3に示した疾患以外の心血管系疾患が含まれており,

報告されている突然死の基礎疾患の大半は心血管系と推 定される.

Maron

らの報告62),73をはじめとして米国で は肥大型心筋症の頻度が高く,次いで冠動脈疾患が多 い74),76.しかし,

40

歳以上の対象を多く含む報告59),61),

66),71),72),74では,虚血性心疾患の頻度が高く,欧米と本 邦で同様の傾向である.一方,

1996

年の

Maron

の報告

73では冠動脈奇形の頻度が高く,肥大型心筋症に次いで 報告の

19

%を占めている.米国での特徴的なことは人 種間の相違であり,黒人で肥大型心筋症が多く,白人で 冠動脈疾患が多い70とされている.また世界的な地域性 でみるとスウェーデンでオリエンテーリング選手に心筋 炎が多いことが報告されている75.この心筋炎の原因と し て は,森 林の中を駆け め ぐ る際の感 染 症と し て

Chlamydia pneumoniae

及びその関連として

Bartonella

が 疑われ,

Chlamydia

関連抗体価の高いことが認められて いる.一方,イタリアの

Corrado

77の報告では,スポ ーツ参加者の中で不整脈源性右室心筋症が多く,地域性 が高いことから,遺伝的素因の関与が疑われている.さ らに,

2004

年のベセスダ会議からの報告では,内因性 の突然死ではないが心臓震盪が取り上げられている3

3 運動許容条件を設定すべき心疾患

 心疾患患者のスポーツについての運動許容条件作成上 取り上げるべき心疾患は,スポーツによって突然死の発 生や病態が増悪する小児から青年期に多い心疾患に加え て中高年の事故原因として多い冠動脈疾患である.

Ⅱ 運動許容条件の基本的考え方

1 心疾患のリスク分類と運動・

作業強度分類

1 心疾患のリスク分類

 心疾患における運動許容条件は,心疾患の重症度と実 施する運動・作業の強度との関連から,心臓性突然死や 心疾患の病態が増悪するリスクの程度を判断するもので ある.本ガイドラインでは,心疾患の重症度は軽度リス ク,中等度リスク,高度リスクの

3

段階に分けた.ただし,

入院による安静治療が必要な病態については,高度リス クには含めなかった.原則として,

NYHA

の心機能分

類のⅠ度からⅢ度までの心機能を持つ心疾患について判 断することとした.この判断の基準は,原則として個々 の患者の運動耐容能(最高酸素摂取量など)である.

 ただし,学校においては学校生活管理区分には,

A

(在 宅医療・入院が必要),

B

(登校はできるが,運動は不可)

が含まれている.また,小児においては軽微なリスクす なわち健常者と同程度のリスクという考えがあり,それ も小児のリスク分類には含めた.

2 運動・作業の強度分類

(表4)

 運動・作業の強度には,絶対的な強度と相対的な強度 がある.絶対的な強度は,運動・作業の平均的な酸素摂 取量で表現され,各種運動や作業実施時に測定した酸素 摂取量のデータを集約した表47を用いて予測するのが,

一般的である.その場合には運動・作業強度は

METs

単 位(安静座位の酸素摂取量

1 MET

3.5ml/kg/

分の何倍 の酸素摂取量かの単位)で表現される.相対的な強度は,

個人の最高運動能力(最高酸素摂取量)の何%かの強度 で表現される.

 本ガイドラインでは,運動・作業強度を,

METs

を用 いて

3

段階(軽い,中等度,強い)に分類した.この強 度の指針は米国疾病予防センターと米国スポーツ医学会 における身体活動勧告ガイドライン6によった.このガ イドラインでは,中等度の運動を

3

6 METs

として,

成人は毎日

30

分,早歩きに代表される中等度強度の運 動を実施することが勧告されているものである.

 学校においては学校生活管理指導表としての運動強度 区分の定義は,主に自覚的な運動強度を中心に

3

強度に 分類されている.

3 運動許容条件の示し方

 本ガイドラインでは,運動・作業強度と,それを実施 するために望ましい運動耐容能と心疾患重症度の関係か ら,表4に示した運動・作業許容条件とした.運動許容 条件として適合するには,各種の運動・作業を自覚的運 動強度(表

8

を参考)

13

以下(ややきついか,楽な強度)

で行えることを基準とした.これは,「心疾患における 運動療法に関するガイドライン」79に示された運動強度 に合わせたもので,最高酸素摂取量の

40

60

%強度で ある.ある

METs

数の強度の運動を「ややきついか楽な」

強度で行うには,心疾患患者はその

METs

以上の運動耐 容能が必要になる.たとえば,

3METs

の軽い運動を行 うには,

3

÷

0.6

5 METs

の運動耐容能(

Bruce

法トレ ッドミルの第

1

段階をクリアすること)が必要となる.

6 METs

までの中等度の運動をややきつい以下の強度で

(11)

行いうるには,

6

÷

0.6

10METs

の運動耐容能(

Bruce

法のトレッドミルの第

3

段階まで行なえる)が必要とな る.

 心肺運動負荷試験を行った場合には嫌気性代謝閾値

AT

:ここでは呼気ガス分析による換気閾値を指す)が,

疾患の種類によらず,ほとんどすべての心疾患での運動 強度の上限として目安となる78),79.したがって,

AT

を 測定すれば,職域での作業レベルやスポーツでの可能な 運動強度が想定できる.

 しかし,運動・作業強度は推定値であり,個々の患者 にはあてはまらないことは十分に予想されることであ る.本ガイドラインの適応には個々の患者の状態と環境 を考慮して個別に判断すべきことである.また,運動・

作業強度の

METs

値に関しては,米国のデータが主であ り,日本人の新しいデータがないことも適応上の問題点 である.

 表4で,「許容」とされるのは,その強度の運動がす べて許容される場合である.「条件付き許容」とされる のは,治療後の経過やある条件によって許容されるもの である.禁忌はその強度の運動が禁忌と判断するもので ある.

2 学校における運動許容条件の 考え方

(表5)

 心疾患患児に対する運動許容条件判定の目的には,① 運動による急性心不全の発生と運動中の突然死予防とい う短期的目的,②運動による継続的心負荷に伴う不整脈,

心拡大,慢性心不全惹起による余命短縮の防止という長 期的目的があり80,ひいては,③個々人に即した安全な

運動習慣から,心血管系や筋骨格系の発育を促し,将来 的な高血圧,糖尿病,高脂血症などの冠危険因子を是正 すること,④積極的な社会参加及び生産的役割の向上を 目指す長期効果にも注目することにあると考えられる.

そこで,学校,特に中学校以降の運動部の部活動につい て配慮するため「軽度リスク」の上に,よりリスクの少 ない「軽微なリスク」のランクを設け,長期的にも問題 がないと考えられるものをこのランクに当てはめた.こ れは,健常者と同等のリスクという意味である.

 したがって,本ガイドラインの運動許容条件を,児童・ 生徒・学生用に表

5

のようにする.

3 職域における運動許容条件の 考え方

 心疾患患者の職場復帰をどのように進めるのか,また,

職場において心疾患患者をどのように管理するのかつい ては,労働安全衛生規則第

14

条に定められた産業医の 安全配慮義務を考慮する必要がある.心疾患の発症ある いは心疾患による死亡などの心事故が発生した際に業務 との関連性が認められれば,業務上疾病として扱われる ことになるため特別な配慮が必要となる.第

14

条の中 で,特に関係のある項目は,①健康診断の実施及びその 結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関す ること,②作業の管理に関すること,③上記のほか労働 者の健康管理に関することなどである.

 ③では,産業医は主治医の診断書の下に,患者が職場 復帰するにあたっての就業上の指示を事業者に対して行 うことになる.通常は,時差出勤,半日勤務,残業・出 張禁止,また職務内容によっては配置転換などの指示が 表 4 運動・作業強度と運動許容条件の関係

軽い運動 中等度の運動 強い運動

運動・作業強度 3 METs未満 3〜6 METs 6.0 METsを超える 望ましい運動耐容能 5 METs未満 5〜10 METs 10 METsを超える 心疾患のリスク

軽度リスク 許容 許容 許容あるいは条件付き許容

中等度リスク 許容 条件付き許容 条件付き許容あるいは禁忌

高度リスク 条件付許容 禁忌 禁忌

*:運動・作業強度を最大運動能の60% で行うとした場合に,望まれる運動耐容能

註:ただし小児においては,運動の強弱と上で示したMETs値の関連は合わないことが多いので別に示した

表 5 学校における運動許容条件の示し方

運動の強度 軽い運動 中等度の運動 強い運動 運動部での運動

軽微なリスク 許容 許容 許容 許容

軽度リスク 許容 許容 許容 条件付き許容

中等度リスク 許容 許容 条件付き許容 禁忌

高度リスク 許容 条件付き許容 禁忌 禁忌

*運動の強度については,運動強度の表9を参照のこと

(12)

出される.また,②の作業の管理に関連することとして は,職場での作業の種類,作業強度,作業時間などの指 示が該当する.これについては,病院・診療所の主治医 からの診断に基づいて行われるが,その際には,心疾患 患者の運動負荷試験データの下に作業条件の指示が出さ れなければならない.表4に示した基準で,許容される 運動強度と等価の作業強度までの条件を就労上の指示と して出すことになる.また,これを行うにあたっては,

運動負荷試験から得られる情報は主に有酸素能力に関す ることであるので,重量物の運搬などのアイソメトリッ クな作業は,別に考慮しなければならない.さらに産業 医は,①の健康診断においても,その事後措置の一環と して,作業内容の変更,労働時間の短縮など必要に応じ て心疾患患者に対して事後指導を行っていく必要があ る.

 事業所の産業医が,上記の職務を遂行するにあたって は,産業医は職場における就業者の作業内容について作 業場の巡視などを通して把握していることが必要であ る.そして,主治医との密接な連携の下に心疾患を有す る就業者の管理を行っていかなければならない.

 しかし,就業後の患者の評価をどのように行い,許容 条件の指示を行っていくかについては,従来の問診,身 体所見,安静時心電図などの簡単な検査のみでは不十分 である場合も多い.運動負荷試験のみならず,作業中の ホルター心電図や携帯型血圧記録によって就業者の作業 中の状態を知ることが,今後重要になるものと思われる.

4 スポーツにおける運動許容 条件の考え方

(表6)

 スポーツにおける運動許容条件の設定はメディカルチ ェックを経て行われる.メディカルチェックの結果から,

スポーツ参加の可否を判定することになる.我が国にお いても,成人のスポーツ参加に関する個人の身体状況の

把握,健康管理は,米国と同様に自己責任と法的には考 えられており,スポーツ参加に際してメディカルチェッ クを受けた者の運動許容に関しては,医師の診断ないし 勧告が必要となっている.特に我が国においては,諸外 国にはないスポーツの参加に際して診断書の提出を求め られることがあり,心疾患を有する者の運動許容条件が,

一般診療の場において必要とされている.

 スポーツへの参加を希望する心疾患患者の重症度評価 には,運動負荷試験は重要であるが,潜在性心疾患を検 出するための運動負荷試験の適応については議論が多 い.一般成人に対するスポーツ参加のためのメディカル チェックとしては,米国では中高年のスポーツ選手に対 する

AHA

(米国心臓協会)の勧告が示されており,メ ディカルチェックの基本項目は,学生を中心とした競技 選手に対するスポーツ参加前のスクリーニング73項目と 同じ問診

8

項目と身体所見

4

項目の合計

12

項目である(表 6).安静心電図や心エコー検査,最大運動負荷試験は 医師の判断で行うことになっている.この勧告における 運動負荷試験の適応73としては,リスクファクターを持 たない無症候の外見上健常者への運動負荷試験の適応は ないとして米国心臓病学会(

ACC

)と

AHA

の運動負荷 試験ガイドライン81に準拠している.このガイドライン では外見上健常者における冠動脈疾患の検出のための運 動負荷試験は,陽性率の低さ,偽陽性の多いことから,

有益性よりも悪影響が大きいとしている.心エコー検査 は,既往歴,身体所見において弁膜症,肥大型心筋症,

不整脈源性右室心筋症及び心筋梗塞の既往がある者が対 象となる82

 我が国では,日本臨床スポーツ医学会から一般人を対 象としたスポーツ参加のためのメディカルチェック基本 項目4が示されている.この基本項目の中で運動負荷試 験の適応としては,安静心電図に異常を認めた者,及び リスクファクターの有無に関わりなく男性で

40

歳以上,

女性で

50

歳以上の者が対象になるとしている.心エコ ー検査の適応疾患は特定されておらず,メディカルチェ ック基本検査において異常の認められた者に対し,精密 検査として追加の検査として行うものとされている.日 本臨床スポーツ医学会の勧告の中には,メディカルチェ ック後の診断書(案)も呈示されている.

1971

年,公式競技に参加する者全員に法的にメディ カルチェックを義務づけたイタリアでは,毎年,一般的 診察(身体所見),安静心電図,及び最大下運動負荷試 験を最低限の検査として行っており,

1985

年からは心 エコー法も通常の検査として行われている.さらに,循 環器的異常が疑われた場合には,追加の検査を行うこと 表 6 スポーツ参加前のスクリーニング検査(AHA勧告 文献73)

家族歴 1. 若年者の突然死

  2. 心臓病患者

既往歴 3. 心雑音

  4. 高血圧

  5. 易疲労

  6. 失神

  7. 労作時呼吸困難

  8. 労作時胸痛

理学所見 9. 心雑音

  10. 大腿動脈脈拍

  11. マルファン症候群の特徴

  12. 血圧測定

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参照

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