1.はじめに
平成 30 年3月 30 日に高等学校次期学習指導要領が告示され,基本的に令和4年4月1 日以降に高等学校の第1学年に入学する生徒から学年進行により段階的に適用されること となった。本稿では,次期学習指導要領の工業科における改訂のポイントや特に今回科目 の整理統合が示された「工業情報数理」について過去の学習指導要領を振り返りながら,
この科目のポイントなどについて整理し,考察してみることとした。
2.中央教育審議会答申
平成 28 年 12 月の中央教育審議会答申においては,“よりよい学校教育を通じてよりよい 社会を創る”という目標を学校と社会が共有し,連携・協働しながら,新しい時代に求め られる資質・能力を子供たちに育む「社会に開かれた教育課程」の実現を目指し,学習指 導要領等が,学校,家庭,地域の関係者が幅広く共有し活用できる「学びの地図」として の役割を果たすことができるよう,次の6点にわたってその枠組みを改善するとともに,
各学校において教育課程を軸に学校教育の改善・充実の好循環を生み出す「カリキュラム・
マネジメント」の実現を目指すことなどが求められた。
①「何ができるようになるか」(育成を目指す資質・能力)
②「何を学ぶか」
(教科等を学ぶ意義と,教科等間・学校段階間のつながりを踏まえた教育課程の編成)
③「どのように学ぶか」(各教科等の指導計画の作成と実施,学習・指導の改善・充実)
④「子供一人一人の発達をどのように支援するか」(子供の発達を踏まえた指導)
高等学校 次期学習指導要領「工業」について
─「工業情報数理」を中心に─
後藤 博史
⑤「何が身に付いたか」(学習評価の充実)
⑥「実施するために何が必要か」(学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策)
3.次期学習指導要領 工業科の改訂のポイント
(1)現状分析
○もののインターネット化(
IoT
)など技術の高度化への対応が必要 ○耐震に関する技術など安全・安心な社会の構築への対応が必要○地球温暖化防止や省資源化など環境保全やエネルギーの有効活用への対応が必要 ○マイクロコンピュータの組込み技術など情報技術の発展への対応が必要
○海事生産性革命(
i-shipping
)の推進による造船など船舶に関わる人材育成への対応 が必要(2)改訂の基本的な考え方
安全・安心な社会の構築,職業人としての倫理観,環境保全やエネルギーの有効活用,
産業のグローバル競争の激化,情報技術の技術革新の開発が加速することなどを踏まえ,
ものづくりを通して,地域や社会の健全で持続的な発展を担う職業人を育成するよう学習 内容等を改善充実する。
(3)学習内容の改善・充実 1)技術の高度化への対応
現行の「生産システム技術」及び「電子機械応用」を「生産技術」に整理統合し,工 業生産の自動化システムの構成及び生産のネットワーク化に関する指導項目を位置付け るなど,もののインターネット化(
IoT
)に関する学習内容を充実した。2)安全・安心な社会の構築への対応
「建築構造」,「建築構造設計」,「建築施工」に耐震技術に関する指導事項を位置付け,
また,「土木基盤力学」,「土木構造設計」には内容の取扱いに耐震に関する配慮事項を 設定するなど学習内容を充実した。
3)環境保全やエネルギーの有効活用への対応
「工業環境技術」など現行学習指導要領に引き続き環境及び省エネルギーに関する学 習内容を充実するとともに,特に,「自動車工学」ではリサイクル及び省エネルギー対 策を取り入れるなど学習内容を充実した。
4)情報技術の発展への対応
「プログラミング技術」ではアルゴリズムとプログラム技法に関する指導項目に再構 成,「ハードウェア技術」ではマイクロコンピュータの組込み技術の内容を再構成,「ソ フトウェア技術」ではソフトウェアの制作に関する指導項目の設定,「コンピュータシ ステム技術」では
IoT
による情報化を通じた多様な分野をつなぐ動きへと発展するネッ トワーク技術に関する指導項目を取り入れるなど学習内容を改善した。5)地域や社会の健全で持続的な発展への対応
造船など船舶に関わる産業による地域の活性化に資する人材を育成する観点から「船 舶工学」を新設し,船舶の概要,船舶建造などの指導項目で構成した。
(4)学習指導の改善・充実
工業の見方・考え方を働かせ,見通しをもって実験・実習などを行い,科学的な根拠に 基づき創造的に探究するなどの学習活動を充実する。
(5)専門教科工業の科目と標準単位数
現行学習指導要領の科目と次期学習指導要領の科目の新旧対応表を表1に示す。
専門教科・科目については,従前から,地域の実態や学科の特色等に応じるため,その 標準単位数の決定を設置者に委ねており,今回の改訂においても同様の扱いとなってい る。したがって,これらの各教科・科目について,公立学校にあっては各都道府県の教育 委員会等が,また,私立学校にあっては各学校法人がその標準単位数を定め,その標準 単位数を標準として各学校が具体的な単位数を定めることになる。各設置者においては,
当該地域の実態や管内の学校の実態等に留意し,適切な標準単位数を定めることが必要で ある。
表1 科目の新旧対応表
4.「工業数理」・「工業数理基礎」,「情報技術基礎」から「工業情報数理」に
(1)「工業数理」・「工業数理基礎」について
昭和 53 年の学習指導要領改訂当時は高等学校への進学率が著しく増加し,大学進学率 も上昇,社会の高学歴化志向が進行していた時代でもあり,高等学校の教育課程を新たな 視点で小,中,高等学校の全課程を見通して,相互の関連を図りながらそれぞれの教育内 容を一層適切なものにする検討が必要となった。
職業科高等学校における職業教育についても,産業界における著しい技術の進歩に対応 して,狭い分野の専門的な知識・技術よりも,幅広く変化に対応できる基礎的な知識・技 術などの育成が必要となったことにより,教育課程の弾力化などが考えられた。
昭和 51 年の教育課程審議会答申においても,職業教育(工業教育)に直接関連する改 善事項として指摘された主な事柄の中に,「各教科・科目の内容は,基礎的・基本的なも のに重点をおいて構成する。内容の構成やその取扱いに当たっては実験・実習等の実際的,
体験的な学習を重視する」とある。それを受けて,昭和 53 年の学習指導要領改訂時に工 業に関する専門科目はこれまでの 164 科目から 64 科目に集約され,各学科において共通に 履修させる工業の基礎的・基本的科目として「工業基礎」とともに新設された科目が「工 業数理」である。この科目の目標および内容の変遷を表2に示す。当初「工業の各分野に おける具体的な事象を,数理的,実際的に処理する基礎的な能力を養う」とされ,教科書 の内容も工業の事象や問題を広領域に取り上げ,それを解明し解決する手段として数学を 活用するという考えに立って組み立てられた。その後,平成 11 年3月改訂では内容を基 礎的・基本的な内容に厳選し,「工業数理基礎」と名称が改められ,目標も「工業の各分 野における事象の数理処理に関する知識と技術を習得させ,実際に活用する能力と態度を 育てる」となり,「基礎的な能力を養う」ことから,「実際に活用する能力と態度を育てる」
となり,数理処理に関する知識と技術を習得してより実践的に活用できるようになること が目標に掲げられた。また,この科目は新設当初「工業基礎」や「実習」「製図」とともに,
各工業の学科共通に履修させる科目(以下,原則履修科目と記す)に位置付けられたが,
平成 11 年3月改訂からはその位置づけから外れ,選択履修科目となった。このため昭和 60 年の国公立大学入学試験の共通一次試験の数学の選択科目としてこの「工業数理」が 取り入れられたが,平成 11 年3月の改訂以降(この時は「工業数理基礎」となっている)
選択履修になったことにより,年々この科目を活用しての受験者が減少し平成 27 年度の
試験(この時点では大学入試センター試験となっていた)を最後に大変残念であるが受験 科目から消えることとなった。
表2 「工業数理」の目標および内容の変遷
(2)「情報技術基礎」について
昭和 56 年から昭和 62 年にかけて臨時教育審議会(以下,臨教審と記す),教育課程審議 会,理科教育及び産業教育審議会(以下,理産振と記す)等の各種審議会が活発に教育改 革の議論を進め,数多くの答申の中で「急速な技術革新の進展や産業構造・就業構造の変 化等に適切に対応するため,“情報化への対応”と“問題解決能力や創造性を育成する”
こと」があげられ,それを受け,平成元年3月に学習指導要領改訂が行われ,情報化への 対応として「情報技術基礎」が新設され,「工業基礎」(現在の「工業技術基礎」)「実習」「製 図」「工業数理」(現在の「工業数理基礎」)「課題研究」とともに,原則履修科目として新 設された。工業科の学科の構成についても,標準学科13学科が15学科に改められて示され,
各学科の特色等に応じて,必要な各教科・科目を重点的に選択し,相互の関連を十分考慮 して適切な教育課程を編成するようにすることや職業教育を主とする学科のうち標準的な ものは表3に掲げるとおりであるが,設置者においては,必要がある場合には,地域や学 校の実態等に応じて,例えば,福祉科,情報科学科,産業技術科など複数の分野にまたが る学科等を設置することができるとした。表 4 に「情報技術基礎」の目標及び内容の変遷 を示す。
表3 工業科に関する標準的学科(平成元年改訂時)
表4「情報技術基礎」の目標及び内容の変遷
この科目の目標は当初「社会における情報化の進展及びコンピュータの役割を理解させ るとともに,コンピュータに関する基礎的技術を習得させ,実際に活用する能力と態度を 育てる」とある。当時は産業の各分野におけるエレクトロニクス,管理技術,システム技 術,バイオテクノロジー等の技術革新の進展に対応するとともに情報化,サービス経済化,
国際化高齢化等の進展に伴う産業構造・就業構造の変化に適切に対応することが必要であ り,特に,情報に関する教育の充実を図ることが急がれていた。その後平成 11 年3月改 訂の学習指導要領においては,「情報技術基礎」の目標は「社会における情報化の進展と 情報の意義や役割を理解させるとともに,情報技術に関する知識と技術を習得させ,情報 及び情報手段を活用する能力と態度を育てる」に変更となり,コンピュータに関する基礎 的技術習得から情報の意義や役割を理解し,情報技術に関する知識と技術を習得させると し,情報技術全体を理解し活用する能力と態度を育てることが求められることとなった。
また,基礎的なマルチメディア技術を取り入れるとともに,普通教育に関する教科として 教科「情報」が必履修化されたことにも配慮し,産業社会と情報技術に関する内容も新設 し,工業における情報技術を幅広くとらえる科目に変更された。
(上記は,中教審,理産振,教育課程審議会等で再び活発な教育改革議論が進み,平成 9年 10 月理産振が文部大臣より諮問を受けた「今後の専門高校における教育の在り方等 について」の中間まとめ答申や平成9年 11 月教育課程審議会の「幼稚園,小学校,中学校,
高等学校,盲学校,聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改善について」中間的なまと めの答申で ②高等学校における各教科・科目の編成
ア普通科,専門学科及び総合学科を通じて共通の必修教科・科目の編成。
イ普通教育に関する教科として教科「情報」(仮称)を設置する。
ウ職業に関する教科・科目については,教科「福祉」(仮称),教科「情報」(仮称)を 新設する。 を受けてのことと考えられる。)
平成 11 年3月の改訂は工業科では,将来のスペシャリストとして必要とされる専門性 の基礎・基本をしっかりと身につけさせることを重視し,科目構成を見直し,現行の 74 科目を 60 科目に削減した。
さらに,原則履修科目を「工業基礎」「実習」「製図」「工業数理」「情報技術基礎」「課 題研究」の6科目から「工業技術基礎」及び「課題研究」の2科目に削減を行った。
また,各教科の指導にあたっては,コンピュータや情報通信ネットワークなどの活用を はかり,学習の効果を高めるよう配慮するものとした。実習・実験を行うにあたっては,
施設・設備の安全管理に配慮し,学習環境を整えることとした。
(3)「工業情報数理」について
この科目は,工業の各分野における情報技術の進展への対応や事象の数理処理に必要な 資質・能力を育てることを主眼として内容を構成している。
今回の改訂では,平成21 年3月改訂の学習指導要領の「工業数理基礎」と「情報技術 基礎」を整理統合して再構成し,実際にコンピュータを活用するなどして情報,数学,物 理及び化学の理論を工業に関する事象を処理する道具として活用できるよう産業社会と情 報技術,コンピュータシステム及びプログラミングと工業に関する事象の数理処理を指導 項目として位置付けるなどの改善を図った。「工業情報数理」の目標及び指導項目を表5 に示す。
表5 「工業情報数理」の目標及び指導項目
1)科目の目標
この科目においては,工業の各分野について情報技術の活用と事象を数理処理する視 点で捉え,情報,数学,物理及び化学の理論について工業に関する事象を数理処理する ことなどと関連付けて考察し,実践的・体験的な学習活動を行うことなどを通して,工 業の各分野における情報技術の進展への対応や事象の数理処理ができるようにすること をねらいとしている。
目標の(1)については,情報技術,情報手段及び数理処理ができるようにするために,
工業の各分野における情報技術の進展と情報の意義や役割及び数理処理の理論を理解す
るとともに,工業に携わる者としてものづくりにおける様々な状況に対応できる技術を 身に付けるようにすることを意味している。
目標の(2)については,工業の各分野に関わる情報技術や事象に着目して,情報化 の進展が産業社会に与える影響に関する課題を見いだし,単に生産性や効率だけを優先 するのではなく,発信する情報や数理処理などが社会に与える影響に対して責任をも ち,科学的な根拠に基づき工業に携わる者として倫理観を踏まえ工業技術の進展に対応 し解決する力を養うことを意味している。
目標の(3)については,工業の各分野において情報技術及び情報手段や数理処理を 活用する力の向上を目指し,情報,数学,物理及び化学の理論を工業に関する事象の数 理処理に活用することなどについて自ら学ぶ態度や,工業の発展に主体的かつ協働的に 取り組む態度を養うことを意味している。
2)内容とその取扱い
表5に示すように,この科目は,目標に示す資質・能力を身に付けることができるよ う,(1)産業社会と情報技術,(2)コンピュータシステム,(3)プログラミングと工業 に関する事象の数理処理の三つの指導項目で,2~4単位程度履修されることを想定し て内容を構成している。内容の中をみると従前の情報技術基礎の内容が大きくウエイト を占めている点がこの科目の特徴と思われる。内容を取り扱う際には,以下のことが示 されている。
〔指導項目〕の(1)については,最新の情報技術や産業界の動向に着目するとともに,
情報技術が産業を支える要の技術であることを理解させるとともに,実際に発生した情 報技術に起因する事件,事故などの事例についても適切に活用し,社会に及ぼす影響が 大きいことなども理解できるようにすること。
〔指導項目〕の(2)については,ハードウェアとソフトウェアの役割と関係,情報通 信ネットワークの仕組みを理解できるようにすること。
〔指導項目〕の(3)については,コンピュータ言語にこだわることなく,物事の因果 関係を整理し順序立てて考えることができる論理的思考力を高め,コンピュータによる 課題解決ができるようにすること。
従前の「工業数理基礎」の内容が取り入れられているのは,〔指導項目〕の(3)のプ ログラミングと工業に関する事象の数理処理にみうけられるが,ここでは,科目の目標 を踏まえ,プログラミングと工業に関する事象の数理処理について,工業の事象の数理
処理をモデル化する視点で捉え,科学的な根拠に基づき情報,数学,物理及び化学の理 論と関連付けて考察し,実践的・体験的な学習活動を行うことなどを通して,工業の各 分野において情報技術及び情報手段や数理処理を活用する力を身に付けることができる ようすることをねらいとしている。特にこのねらいを実現するため,次の①から③まで の事項を身に付けることができるよう,〔指導項目〕を指導するとし,
① プログラミングと工業に関する事象の数理処理について工業に関する事象の数理 処理をモデル化してシミュレーションを行うアルゴリズムを踏まえて理解すると ともに,関連する技術を身に付けること。
② 工業の事象の数理処理のモデル化に着目して,プログラミングと工業に関する事 象の数理処理に関する課題を見いだすとともに解決策を考え,科学的な根拠に基 づき結果を検証し改善すること。
③ プログラミングと工業に関する事象の数理処理について自ら学び,情報技術の活 用に主体的かつ協働的に取り組むこと。
ア アルゴリズムとプログラミング
課題の解法についてアルゴリズムを用いて表現する方法を取り上げ,コンピュータ による処理手順を自動実行する有用性について扱う。また,アルゴリズムに基づいた プログラムの作成方法についても扱う。
プログラム言語の例としては,手続き型言語,オブジェクト指向言語,マクロ言語 などが考えられる。
イ データの入出力
実際にコンピュータにデータを入力し結果を出力する流れについて扱う。
データについては,キーボードやファイルからの入力や,画面やファイルへの出力な ど,データの扱い方や効果的な設計方法などについて扱う。
ウ 数理処理
工業の事象の計算,面積・体積・質量の積算及び単位と国際単位系(
SI
)を含む単 位換算について扱う。速さと加速度,質量と密度,力とエネルギー,力とつり合い,流れの基礎,計測と 誤差,構造物の安全性,流れとエネルギー,時間とともに変化する事象などのモデル を想定したシミュレーションなどについて取り上げ,コンピュータを活用した数理処
理についても扱う。
エ 制御プログラミング
コンピュータや組込みコンピュータなどを用いて,センサやアクチュエータなど,
実際に制御するプログラミングについて扱う。
となっている。特に項目ウが「工業数理基礎」と重なる部分と考えられる。
5.まとめ -科目の変遷から見えること-
次期学習指導要領の工業のポイントや過去の学習指導要領の科目の変遷から見えること をいくつか整理し,考察してみたい。
1)「工業数理」的な内容をどのようにフォローするか
「工業数理」が導入された背景には,工業を学ぶ者にとって,激しく移り行く事象を,
ただ表面的に追うのではなく,その基礎にある原理原則をしっかりとつかみ,狭い専門 分野にとどまることなく,隣接の分野,さらに広く工業の各分野にわたって目を向け,
そこに共通な工業技術の精神と態度を学ぶことが求められたからである。「工業数理」は,
昭和 45 年 10 月改訂の学習指導要領の数学の中にあった「応用数学」を解消し,一面で はその意図を継承し,発展させたものとみることもできる。数学は工業技術に豊富な応 用の場を持ち,技術の要求が数学の進歩を促したことも少なくない。現在の工業の学習 のためには,分野によって多少の違いはあっても,数学的なものの見方や考え方の基礎 は決して欠かすことができない。ところが昨今の生徒の中には,従来の数学教育によく なじむことのできなかった者も少なくない。一方,従来の数学教育は,その内容と扱い 方の点で,工業技術との結び付きが十分ではない傾向も見受けられた。この点を改善し,
かつ生徒の特質に一層よく適合するように指導することが「工業数理」に期待されてい たところである。
この科目が導入された当初は細分化された学科の中では取り扱う領域が幅広い分野で あったため,なかなか現場になじまないこともあったが,その後学校再編等学科の統合 などにより一括募集やくくり募集をする学校が増えてきたこともあり,入学して間もな い1年生の段階で幅広い工業の数理的な取り扱いを教授する科目として履修され定着す るようになってきた。今回の改訂でこのような科目がなくなったことにより,各学科の 専門科目の中で基礎的基本的な数理処理の学習を取り入れていくことが求められること
となる。
2)社会の変化と情報技術の発展への対応
生産年齢人口の減少,グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等により,社会構造 や雇用環境は大きく,また急速に変化しており,予測が困難な時代となっている。こう した変化の一つとして,進化した人工知能(
AI
)が様々な判断を行ったり,身近な物 の働きがインターネット経由で最適化されたりするIoT
が広がるなど,Society
5.
0とも 呼ばれる新たな時代の到来が,社会や生活を大きく変えていくとの予測もなされてい る。また,情報化やグローバル化が進展する社会においては,多様な事象が複雑さを増 し,変化の先行きを見通すことが一層難しくなってきている。このように,これからの時代は情報教育とグローバル教育は避けて通れない状況とな る。その意味で今回の改訂において工業であれば前述したような改訂が行われこれから の社会を生き抜くための知識や技術,思考力・判断力・表現力,学びに向かう人間性の 育成が重要になってきている。
一方で,情報技術や処理の教育が小学校から導入され中学校でも学習してくる状況を 見れば,一段高いレベルでの専門性を持った教育を行う必要性があると考える。工業科 においては,アルゴリズムとプログラム技法,マイクロコンピュータの組込み技術,ソ フトウェアの制作,
IoT
による情報化を通じた多様な分野をつなぐ動きへと発展する ネットワーク技術等に関する指導は必須となってくるであろう。また,STEAM
教育を 通してAI
を取り込んだ技術を扱うことができる専門的人材を育成するとともに,文理 両方を学ぶことにより,必要なAI
に関する素養を身に付けた人材を育成する必要もあ ると考える。しかし,一つ注意しなければならないことは,STEAM
教育においてとか く科学技術教育を推進するあまりエンジニアとしての教育を取り残さないようにしてい かなければならない。「ハードがあってこそのソフトだと」言い切る会社経営者もいる。どんなに良い理論のもとにものを設計しても形にできるエンジニアリングが抜け落ちて しまってはものづくりはできないことを忘れてはならないと考える。
3)学校における ICT 環境の整備
文部科学省が実施している「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」の平 成 31 年3月 31 日時点での調査結果では,学校における
ICT
環境のうち,主な整備状況は ①教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数 5.
4 人/
台(全国平均)②普通教室の無線
LAN
整備率 40.
7% という状況が公表されている。各機器等の整備状況は各都道府県によるところが大きく,例えば,教育用コンピュータ1台当たりの 児童生徒数においても最大で 1
.
8 人/
台~最小で 7.
5 人/
台とかなり大きな格差が生じて いる。人とものとお金がなければ,充実した教育はなかなか進まないのが常である。情報教 育並びに個別最適化された学びの提供を目指すのであれば,学校現場の
ICT
化および ネットワーク環境の施設設備の整備は急務と思われる。一人1台パソコンによるさまざ まな教育展開を実現させるためにも重要なことと考える。4)専門教科・科目による必履修教科・科目の代替について
次期学習指導要領総則第2款3(2)イ(イ)に「専門教科・科目を履修することに よって,必履修教科・科目の履修と同様の成果が期待できる場合は,その専門教科・科 目の履修をもって必履修教科・科目の履修の一部又は全部に替えることができる」とあ る。
これは,各教科・科目間の指導内容の重複を避け,教育内容の精選を図ろうとするも のであり,必履修教科・科目の単位数の一部を減じ,その分の単位数について専門教科・
科目の履修で代替させる場合と,必履修教科・科目の単位数の全部について専門教科・
科目の履修で代替させる場合とがある。
実施に当たっては,専門教科・科目と必履修教科・科目相互の目標や内容について,
あるいは代替の範囲などについて十分な検討を行うことが必要である。この調整が適切 に行われることにより,より効果的で弾力的な教育課程の編成に取り組むことができる。
高等学校学習指導要領解説 工業編では以下のように示している。工業に関する学科 においては,例えば,「工業情報数理」の履修により「情報Ⅰ」の履修に代替すること などが考えられるが,全部代替する場合,「工業情報数理」の履修単位数は,2単位以 上必要である。このことから,「工業情報数理」という科目が共通教科情報科の「情報1」
と目標や内容を調整し同等であると判断すれば,代替が可能となるため,原則履修科目 として位置付ける必要性も出てくる。その意味でこの科目の重要性が出てくる面もある。
また,令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト出題教科・科目の数学の
「数学Ⅱ・数学
B
」と並んで専門教育を主とする農業,工業,商業,水産,家庭,看護,情報及び福祉の8教科に設定されている情報に関する基礎的科目が出題範囲とされるこ とが示されている。今後さらに,共通教科情報科の「情報1」は次期大学入試共通テス トの科目に取り上げられる方向が示されている。以前大学入試センター試験に「工業数
理基礎」がおかれていたように,出題科目として「工業情報数理」が認められれば,工 業系を学んでいる生徒にとっても次期大学入試共通テストに臨みやすくなり大変励みに なるものと思われる。
[参考引用文献]
文部省・文部科学省
・高等学校学習指導要領 昭和 53 年8月,平成元年3月,平成 11 年3月 平成 21 年3月
・高等学校学習指導要領解説 工業編 昭和 54 年5月,平成 12 年3月
・平成 28 年 12 月 中央教育審議会答申「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支 援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)(中教審第 197 号)」
・高等学校学習指導要領の改訂のポイント
・高等学校学習指導要領 平成 30 年3月
・高等学校学習指導要領解説 総則編 平成 30 年7月
・高等学校学習指導要領解説 工業編 平成 30 年7月
・「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」 平成 31 年3月 31 日 調査結果 大学入試センター
・令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト出題教科・科目の出題方法等