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地域包括支援センター職員の専門性と実用的スキル に関する考察

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地域包括支援センター職員の専門性と実用的スキル に関する考察

著者 田中 八州夫

雑誌名 同志社政策科学研究

巻 13

号 2

ページ 139‑153

発行年 2012‑03‑15

権利 同志社大学政策学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012735

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地域包括支援センター職員の専門性と実用的スキルに関する考察

田 中  八 州 夫

1 旧厚生省が策定した計画で、1990年から1999年までの10年間の高齢者に対する具体的な整備推進目標を定めた。市町村における在宅 福祉サービスの緊急整備、寝たきり老人ゼロ作戦、施設の緊急整備、生きがい対策等を内容としていた。在宅介護支援センターについ ては、全国300か所から10年間で1万か所まで拡大設置するよう計画された。1994年の老人福祉法の改正において、老人介護支援セ ンターとして規定された。

2 1987年に社会福祉士及び介護福祉士法により創設された国家資格。指定養成機関を修了するか3年間の実務経験後に国家試験を受けて

得られる介護職の資格である。

3 一般的に社会福祉援助技術を用いて、福祉相談を行う職種。必ずしも社会福祉士のような国家資格を有するとは限らず、無資格でこの 名称を用いても問題ない。

4 介護保険法第79条から第85条に規定する事業者で、ケアマネジャーを配置し介護保険利用者のケアプラン作成を行う事業所。

あらまし

 2000年に創設された介護保険法において、

中心的な役割を果たしてきた在宅介護支援セン ターが2005年の法律改正により廃止され、そ れに代わって地域包括支援センターが創設され た。そして、2012年に予定されている介護保 険法の改正は、「地域包括ケアシステム」の考 え方を中心に据えて検討されている。この「地 域包括ケアシステム」は、医療・介護・予防・

生活支援・すまいの5つを軸とした社会資源を 活用することにより、高齢者が安心して住み続 けることのできる地域をつくる事を目標として いるが、この地域包括ケアシステムにおいて中 心的な役割を果たすのが地域包括支援センター である。本論文では、地域包括支援センターの おもな業務である「介護予防支援」「総合相談」

「虐待防止・権利擁護」「包括的・継続的ケアマ ネジメント」のうち、地域包括ケアシステムに おける「総合相談」の重要性を明確にする。そ して、地域包括支援センターの運営形態及び地 域包括支援センターを構成する「保健師」「社 会福祉士」「主任ケアマネジャー」の3職種の 現状と課題を明らかにする。そしてその課題に 対し、運営形態に関する改善策及び今後地域包 括支援センターの職員に必要とされる資質・ス キルについて検討していく。

1.はじめに

 在宅介護支援センターは、1989年の「高齢 者保健福祉推進十カ年戦略(ゴールドプラン)」1 に基づいて、市区町村が設置した高齢者の相談 機関である。在宅の寝たきり高齢者等の介護に 関する総合的な相談に応じ、ニーズに応じた福 祉・保健サービスが受けられるよう行政等の関 係機関との連絡調整を行う事を目的として設置 された。その運営形態は、市区町村の直営また は社会福祉法人等への委託であり、職員配置は 保健師及び介護福祉士2またはソーシャルワー カー3及び看護師のいずれかの組み合わせを配 置基準としていた。

 2000年の介護保険法施行と同時に、在宅介 護支援センターは居宅介護支援事業所4を併設 し、ケアマネジャーを積極的に採用して、従 来から実施していた在宅介護支援センター業 務に加えてケアプラン作成業務も行うことと なった。行政が行っていた措置制度に代わって 創設された介護保険制度は、高齢者が事業者と 対等な立場で契約をすることで、福祉サービス の利用を高齢者の権利として位置づけた制度で あり、介護保険制度の浸透とともに、利用可能 な介護サービスが全国的に整備され、介護保険 の利用者が増加した。介護保険法の施行と同時 に、在宅介護支援センター職員の配置基準が2

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田 中  八 州 夫 140

名から1名に緩和され、運営委託料基準が年額 245万円に減額されたことが在宅介護支援セン ターの経営面を圧迫し、出来高払いであるケア プラン作成業務への偏重が進んだ。このような 状況の中、在宅介護支援センターの業務は、次 第にケアプラン作成が業務のほとんどを占める ようになり、従来から行っていた在宅介護支援 センター業務が十分に行えなくなった。これが いわゆる「2枚看板問題」といわれる現象であ る。この「2枚看板問題」が、後の2005年介 護保険法改正により創設された地域包括支援セ ンターへの移行原因のひとつと言われている。

 地域包括支援センターは高齢者の相談機関と して、65歳以上の高齢者人口3千人から6千 人に対して1か所設置することが定められてお り5、その職員体制は保健師、社会福祉士、主 任ケアマネジャーの3職種配置を基本としてい る。厚生労働省統計によると、2010年4月末

で全国に4,065センターあり、運営形態は市区

町村直営が29.7% 法人委託が69.1%となって いる。ほぼ中学校の1校区に1か所の割合で設 置されており、この中学校区を「日常生活圏域」

として、次に述べる地域包括ケアの対象単位と している。

 地域包括ケアとは、高齢者介護研究会6が 2004年に発表した報告書「2015年の高齢者介 護」において示された概念である。同報告書で は、地域包括ケアを、要介護高齢者を支援する ため、介護保険サービスを中核とした保健・医 療・福祉といった複数のカテゴリーに属する専 門職相互間の連携や地域の資源を統合した包括 的なケアである、と定義している。その地域包 括ケアシステムの構築を中心となって行う事を 期待されているのが、地域包括支援センターで ある。

 地域包括ケアシステムは、地域包括ケア研究

72009年度報告書において、第5期介護保険 事業計画8のグランドデザインとして公表され た。この報告書では、地域包括ケアシステムを

「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本 とした上で、生活上の安心・安全・健康を確保 するために、医療や介護のみならず、福祉サー ビスを含めた様々な生活支援サービスが、日常 生活の場(日常生活圏域)で適切に提供できる ような地域の体制である。」と定義し、医療・

介護・予防・生活支援・住まいといった関係者 のもつ資源を有効活用するとしている。また、

この日常生活圏域については、「おおむね30 分以内で駆けつけられる圏域」と説明してい る。これは、団塊の世代が後期高齢者に達する 2025年を見据え、自助を基本とし、互助・共助・ 公助9の順で取り組んでいくことを目標として おり、2010年の最終報告書では、入院に依存 しない在宅生活の実現のために、24時間対応 可能な短時間巡回型の医療・介護の訪問サービ スの提供を提言し、介護職員によるたんの吸引 等の基礎的医療ケアの推進を提唱している。

2.地域包括支援センターの組織と人材 2. 1 福祉専門職の歴史と特性

 福祉専門職には、介護を行う介護職や相談支 援を行う相談援助職など様々な職種が存在す る。本論文で取り上げる福祉専門職は、身体へ の直接処遇を行う介護職種ではなく、相談援助 職に限定して検討していくこととする。

 これまで福祉専門職は、直接面談または電話 により個々の相談者からの個別相談に対応して きた。個人の課題に接し、それを分析し、解決 への方法を模索し、支援につなげるのが福祉専

5 介護保険法施行規則第140条の66第1項第2号

6 2003年に設置された厚生労働省老健局長の私的研究会。2004年度末を終期とするゴールドプラン21後の新たなプランの策定の方向性、

中長期的な介護保険制度の課題等を検討するために設置。座長はさわやか福祉財団堀田力理事長で、ほかに9人の委員で構成された。

7 地域包括ケア研究会は、2012年度から始まる第5期介護保険事業計画を展望し、地域における医療・福祉・介護の一体的提供(地域包 括ケア)の実現に向けた検討にあたっての論点整理のために、2008、2009年度老人保健健康増進等事業として開催された。研究会座長 は田中滋慶応義塾大学教授が務め、合計9人のメンバーで構成され、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが庶務を担当している。『地 域包括ケア研究会報告書〜今後の検討のための論点整理〜』、2009年。http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/05/h0522-1.html『地域包括ケ ア研究会報告書』、2010年。http://www.murc.jp/politics_c1/care/index.html 2011/8/1アクセス

8 各都道府県・市区町村が作成する介護保険の事業計画であり、第5期は2012年度から3年間の計画である。国はこの計画策定のため の指針を2011年度末までに公表し、その指針に基づいて各自治体で事業計画を策定することとなる。

9 従来、共助は近隣の助け合いを意味したが、この報告書では保険サービスを示している。ここでは、従来の共助を互助と言い換え、公 助は税金によるサービスと位置付けている。

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門職の役割である。福祉専門職の資格の歴史は 浅く、社会福祉士は1987年に新設された国家 資格でありながら相談機関に必置となったの は、2006年の地域包括支援センターの創設時 が初めてであった。それまでの相談援助職は、

福祉事務所のケースワーカーと病院のMSW10

(medical social worker)が中心であった。福祉 事務所のケースワーカーは通例、大学卒業後自 治体に採用され、社会福祉主事任用資格11を得 て相談援助職に就いていた。この社会福祉主事 任用資格は、もともと自治体にケースワーカー を任用するための資格であり、大学で一定の科 目を履修するか、入職後に一定の研修を経た者 に資格を付与するものである。このような資格 取得方法のため深い知識や実務経験を問われ ず、他部署への定期異動もあり、個々のケース ワーカーの専門性は高くないのが現状である。

 上原(2007)によると、病院のMSWは歴 史が古く、1929年に聖ルカ病院(現在の聖路 加病院)医療社会事業部に浅賀ふさが勤務し たことに始まる12。その後大規模病院を中心に MSWの配置が進んだが、公的に明文化された のは、1989年の旧厚生省が発出した「医療ソー シャルワーカー業務指針」であった。その後の 2002年11月29日付厚生労働省保険局長通知 により、業務内容がさらに明確化した。上原は、

MSWが法定配置の義務化や配置による報酬算 定がなかったことにより、過去において、病院 などの組織内で都合のよい便利屋のような専門 職として扱われたと指摘しつつ、MSWは医師 の指示で動くのではなく、福祉の視点からクラ イアントにアプローチしていく、独立性・特殊 性の高い特性を持った職種であると述べてい る。その後、2006年3月の厚生労働省の通知13 により、診療報酬において社会福祉士の配置を 要件とした報酬算定が新設されたことは、福祉 専門職の専門性を高めていくうえで、大きな貢 献を果たしたといえる。

 このように、福祉専門職は医療とは異なる福

祉をベースにした独立性・特殊性の高い業務で あり、その専門性は福祉事務所のような公的機 関よりも民間の医療機関の中で発展してきたと いえる。

2. 2 地域包括支援センターの職種配置 2. 2. 1 3職種の配置と包括的支援事業

 地域包括支援センターの設置目的は介護保険 法14に「地域住民の心身の健康の保持及び生活 の安定のために必要な援助を行うことにより、

その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に 支援することを目的とする施設とする。」と規 定されている。

 地域包括支援センターには保健師、社会福祉 士、主任ケアマネジャーの3つの職種が配置さ れている。これらの職種はそれぞれの特性を考 慮し、地域包括支援センターに課せられた4つ の業務を正確かつ効率的に果たすために配置さ れている。保健師は介護予防ケアマネジメント を、社会福祉士は総合相談と虐待・権利擁護を、

主任ケアマネジャーは包括的・継続的ケアマネ ジメントを主に担当することになっている。(図 1参照)

 介護予防ケアマネジメントとは、高齢者が要 介護状態やその前段階である要支援状態になら ないように、運動や口腔、栄養教室等の介護予 防教室の利用に向けたアセスメントを行う業務 である。総合相談は後ほど詳しく述べるが、高 齢者の有する課題解決のためのすべての入り口 であり、地域包括支援センターの中でも特に重 要な業務である。虐待防止は、高齢者に対する 肉体的・精神的・経済的虐待などのほか、介護 者の介護放棄や自己による介護放棄(ネグレク ト)も対象となる。権利擁護とは、認知判断能 力の一定程度低下した高齢者に対し、市町村の 行う地域権利擁護事業や民法に定められている 成年後見事業等の利用援助を指す。また包括的・

10 医療ソーシャルワーカー。病院・診療所等で医療にかかっている人がかかえる経済的、社会的、心理的な課題について、相談援助を行 う職種。法律で定められた資格ではない。

11 社会福祉主事任用資格は社会福祉法第19条第1項で規定されている。

12 アメリカのシモンズ女子大社会事業学校に学び、日本で初のMSWとなった。後に中部社会事業短大(現日本福祉大学)教授となり、

日本MSW協会初代会長を務めた。著作に『ソーシャルケースワーク』がある。

13 2006年3月6日付 厚生労働省保険局医療課長通知

14 介護保険法第115条の45

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継続的ケアマネジメントとは、ケアマネジャー の質の向上を目的としたケアマネジャーに対す る指導・助言及びネットワークづくりを指す。

これらを総称して包括的支援事業15といい、地 域包括支援センターの中心的業務である。

 この包括的支援事業の他に、介護予防支援業 務16(要支援者のケアプラン作成と管理業務)

があり、認定者数の増加にともない、業務量が 増大している。

2. 2. 2 資格試験科目からみた3職種

 地域包括支援センターの職種配置の妥当性を 検証するひとつの方法として、それぞれの職種 の資格試験科目の分析を試みる。

 保健師は看護師資格を基礎資格とした国家資

格であり、看護師資格に加えて地域看護学、疫 学・保健統計及び保健福祉行政論の試験が課せ られる。地域看護学は、地域全体を一つの単位 として着目し、地域住民の疾病の予防、健康水 準の維持と増進を目的としている。地域社会に おける、高齢者・障がい者(精神・身体・知的)・ 難病患者・妊産婦・新生児 ・ 乳幼児など多様な 問題をかかえる人及びその家族を対象とする学 問分野である。また保健福祉行政論は公衆衛生、

地域保健福祉活動、健康増進・疾病予防を学問 分野としている。保健師は、看護師の対象領域 である個々の人に対するケアに加えて、多種多 様の人で構成される地域社会をひとつの単位と してとらえ、そこにある課題を抽出し、保健衛 生の観点から総合的なケアを行っていく職種で ある。2010年度国家試験の合格率は86.3%と

15 介護予防ケアマネジメント(介護保険法第115条の44第1項第2号)総合相談支援事業(法第115条の44第1項第3号)権利擁護事 業(法第115条の44第1項第4号)包括的・継続的ケアマネジメント(法第115条の44第1項第5号)を包括的支援事業という。(第 115条の44第1項)

16 介護保険法第115条の20

図1 地域包括支援センターの職員配置とそのおもな業務

32回社会保障審議会介護保部会資料・2010年9月17日開催

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地域包括支援センターの職員配置とそのおもな業務

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なっている。

 社会福祉士は、1987年に施行された「社会 福祉士及び介護福祉士法」の制定により創設さ れた国家資格である。主な業務は、社会福祉施 設等でのソーシャルワーカーとして相談援助で あったが、業務独占資格でなく名称独占資格17 であったため、雇用現場において、必ずしも有 資格を評価されなかった資格である。しかし、

地域包括支援センターの創設に伴い、資格誕生 後初めての必置資格となった。国家試験の内容 は社会保障制度全般が対象であり、多分野にわ たった内容となっている。地域包括支援セン ターの権利擁護業務である後見・権利擁護の分 野も試験範囲に含まれている。受験資格は基本 的には福祉系大学において指定科目を履修する ことであるが、短期大学や指定科目を履修して いない場合は、実務経験を1年ないし2年経て 受験することになる。また、一般大学からの受 験は実務経験と養成機関在籍1年により、受験 が可能になる。このように社会福祉士は、大学 または短期大学の卒業を前提にした資格である ことが特徴的である。2010年度国家試験の合

格率は27.5%となっている。

 主任ケアマネジャーは正式名称を主任介護支 援専門員といい、介護保険法に規定されている 介護支援専門員資格18の発展資格である。主任 ケアマネジャー自体に試験制度はなく、介護支 援専門員の実務経験5年以上の者が、所定の研 修19を修了すれば資格が得られる。国家資格で はなく、業務独占資格でもなく、「主任」とい う名称自体に独占権もない。地域包括支援セン ターに配置が義務付けられていることと、ケア プランを作成する指定介護支援事業者の特定事 業所加算の算定に必要な資格であるが、業務に おいて一般のケアマネジャーとの差異は実務上 も権限上も存在しない。

 これら3つの資格は、保健・医療・福祉・介 護に関する専門知識の修得を前提とした資格で あり、それぞれが専門知識を活用し、地域包括

支援センターにおける包括的支援事業を遂行で きるよう配置された職種である。

2. 2. 3  業務マニュアル示されている4 つの視点

 地域包括支援センター職員に求められる資 質・能力を検討する前提として、今後、地域包 括支援センターが解決すべき課題を明らかにす ることが重要である。図2に示されているよう に、地域包括支援センターは地域包括ケアシス テムの中心的な役割を果たす事が期待されてい る。この地域包括ケアシステムにおいて、中心 的な役割を担うために3つの専門職が配置され たのであるが、さらに地域包括支援センター業 務マニュアル20には、目的を達成するために「総 合性」「包括性」「継続性」「予防性」の4つの 視点が不可欠であると記載されている。

 「総合性」とは、高齢者の多様な相談を総合 的に受け止め、尊厳ある生活の継続のために必 要な支援につなぐことである。「包括性」とは、

介護保険サービス、地域の保健・医療・福祉サー ビス、ボランティア活動、支え合いなどの多様 な社会資源を有機的に結びつけることを意味す る。「継続性」とは、高齢者の心身の状態変化 に応じて、生活の質を確保し、適切なサービス を過去、現在、未来の時間軸で継続的に提供す ることである。「予防性」とは、地域の高齢化 率、世帯形態などの予測、地域住民の声を把握 し、地域における将来の課題を見据えた予防的 対応をすることである。

 地域包括支援センターの3職種が、これら4 つの視点を備え、地域包括ケアシステムに掲げ られた目的を達成するためには、上記の試験科 目に関する知識のみでは不十分である。なぜな らば、3つの専門職は各自の分野ごとの知識は 備えているが、業務をおこなう現場においては、

「総合性」「包括性」で示されるように、他の分 野との連携が必要になってくるからである。加

17 業務独占資格は、特定の業務遂行に際して特定の資格を有する者のみが従事可能な資格である。名称独占資格は、資格取得者以外がそ の資格の呼称やそれに類似した紛らわしい呼称の使用が禁止される資格である。

18 介護支援専門員は社会福祉士、看護師、介護福祉士等の資格を有する者が5年間900日以上の実務経験を経て、介護支援専門員実務研 修受講試験に合格し、実務研修を修了後に得られる資格である。試験は、福祉・介護・医療に関する基礎知識、介護保険制度論などか ら出題される。2010年度合格率は20.5%であった。

19 介護保険法施行規則第140条の68第1項に規定する研修で、保健医療福祉サービスの提供事業者との連絡調整、ケアマネジャーに対 する指導助言、介護支援サービスの適切かつ円滑な実施のための知識と技術を習得する内容となっている。

20 財団法人長寿福祉センター『地域包括支援センター業務マニュアル』、2010年。

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齢に伴う心身の変化に応じたサービスの提供を 行う「継続性」を確保しつつ、「予防性」を視 野に入れた業務を行うためには、本論4.1で述 べる法律知識に基づいた法的な判断力、経験に 基づいた企画・交渉・運営能力が必要となって くると思われる。地域包括支援センター業務に 関する研修体系の整備と、事例を経験すること で得られる実用的スキルの修得が重要になって くる。

3  地域包括支援センターの総合相談の 重要性

3. 1  早期発見、早期対応による予防施策 の要

 改正介護保険法の基本コンセプトである「介 護予防」は、さまざまな解釈がなされうるが、

その意味するところは、高齢者が要介護状態に ならないように予防し、また要介護状態の悪化

を防止するということである。疾病予防と介護 予防を比較すると、疾病は治癒の可能性がある のに対し、要介護状態は本質的に不可逆である。

疾病は予防を重要視し早期発見、早期治療に努 めてきたが、本質的に不可逆である介護におい ては、さらに一層の早期発見・早期対応に努め ることが重要である。

 そこで必要になってくるのが、早期発見・早 期対応の窓口となる地域包括支援センターの存 在であり、その地域包括支援センターの業務の うち特に重要であると思われる「総合相談」の 充実である。地域包括支援センターの行う総合 相談(総合的な支援)は、介護保険法第115条 の44第1項第3号に次のように規定されてい る。

①  被保険者の心身の状況、その居宅における 生活の実態その他の必要な実情の把握

②  保健医療、公衆衛生、社会福祉その他の関 連施策に関する総合的な情報の提供、関係 機関との連絡調整

③  その他の被保険者の保健医療の向上及び福 図2 地域包括ケアシステムの構築

32回社会保障審議会介護保部会資料・2010年9月17日開催

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厚生労働省社会保障審議会介護保険部会資料

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祉の増進を図るための総合的な支援を行う 事業

 地域包括支援センター業務マニュアルにおい ても、「総合相談事業は、他の包括的支援事業 と並立の関係ではなく、地域包括支援センター の事業を展開するための基盤的機能を果たし、

すべての事業は総合相談から始まる。」と記載 されている。さらに総合相談は介護保険のサー ビスを利用の有無を問わずすべての高齢者を対 象とする業務21であり、介護保険だけでは対応 できない課題に対し、さまざまな制度や専門機 関を活用して解決に導くことが地域包括支援セ ンターの重要な業務である。身近な場所にあっ て気軽に相談でき、信頼のおける機関を整備す ることで、地域の高齢者は住み慣れた地域で安 心して在宅生活が続けられるのである。2010年 3月に作成された地域包括ケア研究会報告書22 の中でも、地域包括支援センターによる総合相 談体制の整備拡充の重要性が指摘されている。

 厚生労働省の2009年調査では、地域包括支 援センターにおける年間総合相談件数は、全国

で7,079,520件に達し、地域包括支援センター

1か所当たり単純平均では年間1,700件を超え ている。相談件数は年々増加し、例えば京都市 がまとめた市内61か所ある地域包括支援セン ター統計によると、相談件数は表1のように増 加23している。

3. 2  ミクロレベルとマクロレベルの2つ の視点

 介護保険法第115条の44第1項第3号によ ると、総合相談とは対象者の支援に必要な情報 を把握し、各種の情報を提供し、関係機関と連 絡調整を行い、総合的な支援を行う事とされて いる。多岐にわたる高齢者の相談に対し、ひと

つの窓口で受ける「ワンストップ窓口」の機能 を地域包括支援センターが果たすことは、相談 窓口が縦割りで散在していた従来の弊害を解消 し、高齢者にとって便利で信頼性の高い相談窓 口となる可能性を示している。ここでの地域包 括支援センターの役割は、高齢者個人のミクロ レベルの相談を受け、その相談内容に応じた適 切な関係機関と連絡調整を行うことであり、縦 割りになっている制度へ橋渡しをすることであ る。社会保障制度のなかで医療、福祉、介護と いうジャンルは、それぞれに担当する行政の部 局が異なり、部局間で情報や知識が共有されず、

また一元的に管理する部局もなかった。しかし、

相談内容はひとつのジャンルだけに該当するこ とはまれで、困難ケースなどの複合的課題を抱 える事例は、医療、福祉、介護等の複数の制度 を多角的に活用することで解決が可能になるこ とが多い。また、フォーマルサービスだけでな く、地域にある支えあい活動や互助組織による 奉仕活動等のインフォーマルなサービスを積極 的に活用することが求められる。このミクロレ ベルの相談は、時間の経過に伴い個人の課題が 変化していくため、その時の課題に対応した最 適な制度や資源の適用を行う事が必要になって くる。

 地域包括支援センターが行う高齢者の総合相 談には、高齢者個人の課題に対するミクロレベ ルの相談を行うほかに、地域社会のさまざまな 課題に対してマクロレベルの視点からアプロー チをおこなう相談がある。このマクロレベルの 総合相談とは、さまざまな課題を抱えている高 齢者個人で構成される地域社会をひとつのユ ニットとしてとらえ、その地域社会全体の抱え る課題を把握することで、将来に向けた対応策 を予想し、解決に向けた方策を構築していくこ とである。地域社会には、高齢者をはじめとし

21 厚生労働省介護保険事業状況報告2011年8月暫定値によると、65歳以上の高齢者のうち要介護認定・要支援認定を受けている割合は 17%にとどまっている。

22 前出7、44-45頁。http://www.murc.jp/politics_c1/care/index.html 2011/8/1アクセス

23 相談件数については、2008年度以降、集計方法を市が変更したため件数がいったん減少している。

年 度 2006 2007 2008 2009

年間相談件数(件) 246,322 253,367 214,512 235,007 表1 京都市内の地域包括支援センターの年間相談件数

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てさまざまな課題を抱える個人が存在してお り、時間の経過と共に人口・年齢構成・個人の 課題が変化していくため、その時の地域社会の 抱える課題に対応した最適な制度や資源の適用 を行う必要がある。

 ミクロレベルの視点の場合は高齢者個人の抱 える課題が時間の経過と共に変化するが、マク ロレベルの視点の場合は、時間の経過と共に地 域社会の人口・年齢構成・個人の課題が変化す ることで地域社会全体の課題が変化していく。

このため総合相談を行う際には、時間の経過を 視野に入れた総合的な課題分析を行う事が重要 になってくる。地域包括支援センター職員には、

断片的な知識の蓄積だけでなく、医療・福祉・

介護などの複数のカテゴリーに属する情報を整 理・把握し、時間と地域という2つのスケール を意識しながら、それらを総合的に調整して課 題の解決に結びつけていく能力が求められる。

4. 地域包括支援センター職員に求めら れる資質・スキル

4. 1 必要とされる知識分野の出現 4. 1. 1 法律知識・法的判断力

 地域包括支援センターが創設されて5年が経 過したが、この間、総合相談の分野で顕著なの は、相談の内容が複雑化、高度化してきている 点である。福祉・介護のカテゴリーにとどまら ず、高齢者をとりまく契約や金銭に関する法律 関係の相談が増えている。たとえば、京都市の ある地域包括支援センターでは、次に挙げるよ うな家屋の賃貸借トラブルや金銭トラブルの相 談が寄せられた。

(事例1)

 生活保護を受給しているアルコール依存症の 高齢者が、家賃を滞納し、再三の支払い督促を 無視していた。民生委員が不動産管理会社から

「合鍵で住居に入るので、安否確認を兼ねて立ち 会ってほしい。」と依頼され、どう対応してい いかわからない民生委員は、地域包括支援セン ターに立ち会いの同行を求めた。このケースは、

家賃滞納整理と民生委員の職務とは別の課題で あり、安否確認を理由に無断で合鍵を使って室

内に入ることは住居不法侵入になると判断した。

地域包括支援センターとして同行を断り、民生 委員に対しても立ち入る権限はないと説明し、

不動産管理会社の申し出を断るよう助言した。

(事例2)

 軽い認知症のある独居高齢者宅に、過去の入 院時に世話をしていた家政婦が居宅に入り込 み、言葉巧みに本人に取り入って、預金と土地 家屋を生前贈与させようとしていたケースが あった。この高齢者が生前贈与すれば、生活費 も住居も失い生活が破たんすることは明らかで あったが、高齢者は家政婦に精神的に依存して おり、贈与すると譲らなかった。地域包括支援 センターは、高齢者の唯一の身内である養子を 説得し、弁護士に早急に相談するよう働きかけ た。しかし、高齢者の意思が定まるまで時間を 要し、最終的に示談になって多額の慰謝料を家 政婦に支払うこととなった。

 本事例のようなある程度の法律知識を必要と する相談に対し、地域包括支援センター職員に よる対応は現状では困難である。初期相談に的 確に対応し、弁護士等の専門機関を紹介する場 合でも、相談で得られた情報を専門機関に正確 に伝えるために、一定の法律知識が必要となっ てくる。法律知識を習得することは、法的なも のの考え方(Legal Mind)を基礎にした判断力 を養う事になり、さまざまな相談に対して公正 中立の判断をおこなう事が可能になる。今後、

研修体系の中に法律科目の講義を取り入れるこ とが重要であると思われる。

4. 1. 2 企画力・交渉力・運営力

 前項の二つの事例はミクロの視点からみた事 例である。次に、マクロな視点から見た京都市 内の事例を取り上げる。京都市山科区では、銭 湯が次々と廃業していき、自宅に風呂のない高 齢者が、地下鉄に乗って隣の区の銭湯に通って いる地域があった。区内に4軒残った銭湯のう ち一軒の銭湯の主人が、ボランティアで高齢者 の送迎をしたいと福祉事務所に相談した。福祉 事務所は、銭湯に困っている高齢者の所在と数 の把握ができておらず、また民生委員など地域 役員の持っている情報を、銭湯の主人に提供す ることはできないと申し出を断り、ボランティ ア送迎は実現しなかった。その後、銭湯の主人

(10)

が地域の老人クラブの役員を通じて、S地域包 括支援センターを紹介されたのが問題解決の きっかけとなった。

 相談を受けたS地域包括支援センターは、

対象地域の民生委員・老人福祉員24が把握して いる個人情報を活用し、銭湯の主人への情報提 供とその後の送迎の運用方法に一定の工夫をし て、独自の送迎システムを作った25。この方法 とは、個人情報保護の観点から、高齢者の所在 や数の情報を銭湯の主人に直接提示することは せずに、高齢者が自主的に一定の場所に集まる バス停方式を採用したことである。送迎を希望 する高齢者に指定の時間に決められた場所に集 合してもらい、その時間に合わせて、銭湯の主 人が集合場所まで迎えに行く仕組みを作ったの である。運用開始後の毎回の送迎希望の確認は、

高齢者と銭湯の主人の当事者同士の責任におい てやりとりしてもらうという仕組みも追加して いる。地域の老人クラブの役員の紹介に始まり、

全くの白紙の状態からのスタートであったが、

地域の人的資源を通じて個人情報を集め、それ を活用しつつ銭湯の主人には情報の開示をする ことなく、かつその後の送迎活動に支障がない 方法を創りだすに至った。送迎方法としては、

特に斬新なものではないが、銭湯の送迎にこの バス停方式を採用することで、地域の課題を解 決に導いた点に意義がある。

 この事例から抽出できるポイントとして、地 域包括支援センター職員が、地域を見渡すマク ロな視点により、前例のないものを創り、応用 していく「企画力」、またステークホルダーと 折衝を行って合意形成していく「交渉力」、事 業を継続していく「運営力」などが大切である 事が挙げられる。個人情報を持つ地域の役員と ボランティアの意欲を持つ人を、結び付けてい く方法が成否の分岐点となった事業であった。

この解決手法は他の地域包括支援センターにも 活用され、区が主催する地域福祉推進委員会で も取り上げられ、民間ボランティアと地域の ニーズを結びつける解決方法の一例として、他

の事例に応用可能であるとして紹介された。地 域活動の際に個人情報や地域の情報が重要にな るが、情報の保護に傾きすぎず、また情報を必 要以上に開示することもなく、情報管理に関し ては両者のバランスポイントを見出す力が必要 になってくる。企画・交渉・運営という一連の 流れの中で、総合的な判断のできる能力が、地 域包括支援センター職員には必要である。

4. 2 医療専門職との専門性の比較

 福祉専門職は介護福祉の現場だけでなく、病 院・診療所などの医療現場と連携し、医療・保 健・福祉・介護の分野にまたがった課題に対し て、医師・看護師等の医療専門職と連携する機 会が増えている。そこで、福祉専門職は医療専 門職と比べてどのような特徴があるのか、比較 検討してみる。

 松浦(1999)によれば、福祉専門職の形成は 家庭機能の延長が始まりであり、家庭内で解決 できない課題を、高齢・障がい・児童等の分野 に分化させたものがケースワークに発展してき た経緯があるとしている。このような経緯のな か、福祉専門職は業務独占資格に至らず、専門 性のレベルに課題を残すと指摘している。また 竹中他(2009)は、福祉専門職の専門性の評価 が低い理由として、福祉相談は生活に密着した 領域が多く、私的経験に基づく経験によっても 対応が可能なため、専門性の認識がされにくく、

その認識が専門性の低さにつながっていると述 べている。

 福祉専門職の専門性に関しては、堤26(2010)

は、ケアマネジャーの行う業務は医療専門職と 比べ科学的な裏づけが十分でなく、専門職とし ての専門性が低いという認識を示している。和 田(2007)によると、介護保険の試作段階での 内部検討資料27に、ケアマネジャーは特別の資 格とせず、一定の実務経験と研修履行を条件と して登録する旨の記載がされている事を明らか にしている。実際の福祉介護の現場においても、

24 京都市が、独居高齢者の安否確認のために委嘱したボランティア。委嘱された地域住民は、1人あたり月平均約30件の訪問活動を行っ ている。

25 京都新聞特集記事「ひとりじゃないよ」に紹介記事あり。http://www.kyoto-np.co.jp/info/syakai/hitorijanaiyo/101130.html 2011/8/11アクセス

26 大阪大学大学院教授。もと厚生労働省老健局長で介護保険制度をつくった1人である。

27 1994年4月に旧厚生省内に、介護保険の企画立案のための高齢者介護対策本部が設置された。官僚で構成される同本部において法案検

討が進められ、1995年1月31日高齢者介護対策本部事務局内部検討用資料として、介護保険法事務局試案のポイントがまとめられた。

(11)

田 中  八 州 夫 148

医療主導で行われるケースカンファレンスや介 護認定審査会が多く見受けられるように、福祉 専門職が専門性の低い職として評価されている ことは否定できない。

 福祉の相談助言に関しては、竹中他(2009)は、

ソーシャルワーカーが行う面接場面を第三者が 目撃したとしても、そこに専門技術の存在を実 感することは困難であり、その理由として、医 療行為が可視的行為である事に比べ、ソーシャ ルワーカー業務は可視的な専門技術としてとら えにくいためであると指摘している。つまり、

福祉総合相談は福祉専門職のスキルの差によっ て結果に大きな差を生じるにもかかわらず、そ のスキルの差を相談者や第三者が正当に評価 することは少ない。その理由として、専門技術 の非可視性という事が挙げられ、結果的にその ことが福祉専門職の専門性の評価の低さにつな がっている。またこの評価の低さは他者からの 評価だけでなく、福祉専門職自身の自己評価に も同様の事が言える。

4. 3 プロフェション

 地域包括支援センターには3つの専門職が配 置されているが、日本標準職業分類によれば、

専門的・技術的職業従事者に分類される。これ らの職種は、職務に対して資格に基づいた専門 的な知識により、独自の判断で業務を行う職種 である。専門職と分類される職業は数多くある が、その中でプロフェションという定義を満た すものは少なく、福祉専門職もプロフェション に至るまでには、改善すべき課題がある。

 太田(1992)は、プロフェッションには次の 4つの要件が必要であると定義している。

 ①  専門的知識・技術に基づく仕事に従事す る職業。その専門的知識・技術は理論的 基礎を必要とし、長期の教育訓練(大学 等での体系的教育訓練)によって獲得さ れる。

 ②  サ ー ビ ス の 提 供 に あ た っ て は、プ ロ フェッショナルとしての倫理的規範に従

うことがもとめられる。

 ③  これら能力的・倫理的基準を維持するこ とを主目的とした職業団体が存在する。

 ④  このような専門性・倫理性を保証する内 部規制が存在するため、専門の領域にお いては独占的権限が伴う。

 そして典型的なプロフェッションとして聖職、

法曹、科学の分野を挙げており、現在の職業で いえば僧侶、弁護士、医師などが該当する。こ の定義にしたがえば、地域包括支援センターの 3つの職種は、上に掲げた4つすべての条件は 満たしてはおらず、プロフェッションには該当 しないと思われる。具体的には、②の倫理的規 範については3職種とも規定されているが、① 主任ケアマネジャーは理論的基礎が十分でなく、

教育訓練プログラムが体系化していないため該 当しない。③保健師には職業団体は存在しない。

④3職種とも業務独占ではないため該当しない。

 しかし地域包括支援センターの専門職は、そ れぞれが一定の専門的な知識・技能を発揮して いることから、エチオーニのいう「セミプロ フェッション」28という位置づけが適当ではな いかと思われる。セミプロフェッションは被雇 用が前提で、科学的な体系化が十分でなく、プ ロフェッションに比べ養成期間も短い。またこ れらの職種として看護師・ケースワーカーが挙 げられており、女性が多く、プロフェッション と上下のハイラルキーを構成するとしている。

ここで興味深いのは、セミプロフェッションと 呼ばれる職種の人々が、プロフェッションに近 づくための方法として、自らの業務のうち専門 性の低い業務をハイラルキーの低位にある職種 に移行することで、自らの専門性を高めまた維 持してきたという指摘29である。

 今後の地域包括支援センターの3職種の専門 性を高めるためのひとつの方策として、専門性 の低い業務を、ハイラルキーの低位にある職種 に移行をしていく事も検討されるべきである。

たとえば、地域包括支援センターが行う総合相 談業務のうち、簡易な連絡調整や事務書類の作 成、またケアマネジャー業務のうち給付管理30

28 桑田耕太郎・田尾雅夫『組織論』、有斐閣、2010年、356-357頁。

29 医師が看護を看護師に、看護師が介護を介護士に、移行してきたという指摘。同様の指摘は、石橋(2006)も行っている。

30 介護保険のレセプト請求事務の一種。利用者の利用実績を確認し、支払機関である国民健康保険団体連合会に請求書類を提出する業務 である。現在でも大規模事務所は、専門の事務員を配置し、給付管理業務の一部を集中して行わせているところも出現している。

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などの事務的要素の強い業務などがこれに該当 する。これらの業務を事務職員に代行させるこ とで、福祉専門職がより専門性の高い業務に集 中することができ、専門性を高めていく結果に 結び付く可能性がある。

5.地域包括支援センターの現状と課題 5. 1 保健師・看護師問題

 2005年の介護保険法の改正により、在宅介 護支援センターに代わって創設された地域包括 支援センターは、総合的な介護予防システムの 確立という政策目的を実行するための中心的な 機関として位置づけられた。創設当初から危惧 されてきたことではあるが、介護予防支援(予 防ケアプラン作成)の業務の多さが、地域包括 支援センターの重要な業務である包括的支援事 業を圧迫している31。しかし、ここ数年間に地 域包括支援センターが包括的支援事業を十分に 実施できなかった原因は、介護予防支援の業務 量の多さだけとはいえない面がある。それは、

専門職3職種以外に介護予防支援(予防ケアプ ラン作成)を専門に行うプランナーを配置する 地域包括支援センターが増えており、専門職3 職種の負担が軽減しているにもかかわらず、包 括的支援事業に目立った成果が現れていないか らである32。3職種に時間的な余裕ができてい るにも拘わらず、包括的支援事業に目立った成 果が表れないのは、この3職種の働きに何らか の問題があると推測できる。その原因のひとつ として考えられるのが、配置職員のうち主任ケ アマネジャーを除いた、他の2職種に経験年数 条項を規定していなかったことと、保健師の代 わりに「経験のある看護師」の配置を認めた事 である。「経験のある看護師」とは、保健師配

置が困難な市区町村が多数発生する事態を想定 し、その対応策として規定されたものであり、

都市部を中心に多くの地域包括支援センターに 配置されている33

 保健師資格は看護師資格を基礎資格として、

地域看護と保健福祉行政をさらに修得してお り、包括的支援事業のような地域を対象として 行う業務には保健師資格に基づいた視点が欠か せない。保健師の配置の代替策として規定され た「経験のある看護師」の「経験」については、「地 域ケア、地域保健等に経験のある」と厚生労働 省通知に規定されている34。この「経験の基準」

について京都市に問い合わせたところ、この通 知に基づき自治体独自の人員配置基準を定めて いた。その配置基準は在宅介護支援センター、

訪問看護、訪問介護、訪問入浴事業所において 地域における相談支援の経験のある者で、ケア マネジャー資格のないものは1年、ケアマネ ジャー資格を有する者は半年を経験とみなすと 規定されている。この基準により設定している 経験年数の短さもさることながら、以前に行っ ていた業務が相談援助ではなく、訪問看護等の 訪問系サービスであるにもかかわらず、包括的 支援事業35を行うための経験として認定してい る点に問題がある。介護予防をはじめ、地域包 括支援センターの行う包括的支援事業を遂行す るスキルの有無と、保健師の専門性とをリンク させていない現状が明らかであり、このような 実質的な資格不足の職員配置が容認されている ことも、包括的支援事業が進まない原因の一つ と考えて差し支えない。介護予防支援を専門に 行う要員を加配したセンターが多くあるにも拘 わらず、包括的支援事業が進展しない原因の一 つは、包括的支援事業を行うために必要な地域 福祉と保健に関するスキルが職員に不足してい るためと考えられる。

31 社団法人全国保健センター連絡会『地域包括支援センターのネットワーク化と業務の重点化・効率化に関する調査研究報告書』による と、地域包括支援センターの業務時間割合の44.4%が介護予防支援に要していた。総合相談を含む4つの業務で構成される包括的支援

事業は46.3%しか時間配分ができていない。

32 太田貞司(2011)も地域包括ケアの課題に関し、同様の指摘をしている。71頁。

33 2009年厚生労働省介護サービス施設・事業所調査によると、全国合計では保健師/看護師の配置数が3133人/2518人、指定都市計で

281人/465人、中核市計で315人/354人である。

34 厚生労働省老健局計画課長・振興課長・老人保健課長通知(平成181018日発出・第1018001)地域包括支援センターの設置運営 について 第6(1)①

35 前出脚注15

(13)

田 中  八 州 夫 150

5. 2 変化する雇用形態

5. 2. 1 「直営から委託へ」の問題点

 1990年代から英国を中心に広がった新公共 経 営(New Public Management=NPM)は、近 年日本の行政改革に少なからず影響を与えた。

NPMが登場した背景には、現在の日本と同 じ財政の逼迫が理由として挙げられる。大住

(1999)によると、NPMは多様な改革手法の総 称であるが、次の2つの原則を有する。

①  政策を執行する組織単位の執行者に裁量を 与え、成果による統制を行うこと。

②  市場メカニズムを活用し、競争原理によっ て効率化を図ること。

 秋吉貴雄ほか(2010)によるとNPMには、

民営化、外部委託、ヴァウチャー36、PFI37(Private Finance Initiative)など多様な制度がある。総 務省の2003年度調査によれば高齢者・障害者 等への配食サービスは94%、一般ごみ収集は 84%の自治体が委託を進めている。

 介護福祉分野においても外部委託が進んで おり、地域包括支援センターでは2010年4月 末時点で全国に4,065センターあり、市町村直

営が29.7%、社会福祉法人等民間への委託が

69.1%となっている38。民間委託は年々増加し

ており、その傾向は現在も続いている。しかし 地域包括支援センターの委託については、次の 二つの点において問題があると考えられる。

 第1に、入札による事業者選定に伴う問題で ある。外部委託は競争入札などによって事業者 を選定することで競争原理が働き、より少ない

費用でサービスの供給が可能な事にメリットが ある。しかし、地域包括支援センターのような 専門性が高いサービスでは、入札可能な事業者 は限られており39、また一定の質の確保や均一 性を維持することが難しく、一般競争入札にな じまない要素がある。このような、利用者と専 門職との間に情報の非対称性が生じる要素が強 い地域包括支援センターの相談業務は、行政が コントロール可能な直営方式が望ましいと考え る。職員配置などの人事権を含めた日常業務を 執行する権限を受託法人に移行することは、成 果による統制が困難になる可能性が危惧される からである。

 第2に、委託料の決定方法が明確でなく、行 政職員の給与水準より低く設定して40委託料の 算定基礎にしているケースが見受けられる41。 このため、受託法人は人件費を節約するために 経験のある職員の配置を避けて新卒や未経験の 職員を配置し、また業務に支障が生じる可能性 があることを認識しつつ、契約に定めた下限ぎ りぎりまで人員配置を削減する可能性がある。

業務委託に関してこのような事態が起こりうる ことを、委託者である自治体は十分に認識しな ければならない42

 地域包括支援センター業務に関して一定以上 の経験がなければ、事業の成果の質が落ちる事 は明白である。特に相談系の福祉専門職は、達 成度の数値化や査定が困難であり、委託者が取 り扱い件数など可視的な単純要素により達成度 を判断するにとどまっており、経験の差による 成果に対する正当な評価が現れにくい職種であ る。このため未経験の職員を配置していても、

36 行政が住民にヴァウチャ―(金券)を配布し、住民は行政に登録された候補の中からヴァウチャ―と引き換えにサービスを受ける仕組 み。外部委託に住民の選択の余地を加えたもの。

37 PFIは、学校、道路などの社会資本の設計資金調達建設運営などを民間に任せ、完成直後か完成から一定期間経過後に行政に譲渡する。

民間は一定期間の運営権を得ることができる制度。

38 2009年4月末には、市区町村直営31.5%、民間委託67.3%であった。

39 地域包括支援センターが創設された際、委託可能な法人は、介護保険法第115条の46第1項により、在宅介護支援センターを運営し ている法人に限られた。

40 一例をあげれば、京都市の地域包括支援センター運営委託料は年額1580万円であり、これで専門職3人の人件費と運営に係る経費を すべて含めた額として法人と委託契約を締結している。

41 社団法人全国保健センター連絡会『地域包括支援センターのネットワーク化と業務の重点化・効率化に関する調査研究報告書』による と、直営953センターのうち55%、委託1436センターのうち70%が財源不足と回答。それを補うための運営費以外の収入があると答 えた775センターのうち、運営主体からの赤字補てんがあるのは35%に上っている。これは受託法人から持ち出しがあるということを 意味している。

42 2011年8月4日京都新聞記事によると、大阪府泉南市で起きた小学校一般開放プールで小学生が溺死した事故で、プール監視を受託し

ている会社社長は次のように語っている。「5年前から委託料だけでは十分な監視員を雇えないと、市教委の担当者に相談していた。が んばれと言われるだけでストップがかからなかったので、大丈夫かなと思った。」後日の取材でこの会社は監視員4人配置の契約にも拘 わらず、事故当時1人も配置していなかった。事故当日の午前に、水質検査のため市の担当者が来訪していたが、人員配置のチェック は担当業務外のため問題にされなかったという。

(14)

成果の質の低下が表面化するには時間を要し、

問題が潜在化して解決が困難になる危険性を含 んでいる。

5. 2. 2 公務員の削減と専門職の確保

 このような条件にも拘わらず委託が推進され てきた理由は、公務員の定数削減と人件費の 支出増加抑制策がベースにあったと考えられ る。それに加えて、各基礎自治体が福祉専門職 を全く採用しないか、採用しても少数であった ため、福祉専門職の早急な確保が困難であった という事情がある。近年、保健センターの保健 師・管理栄養士などの必置職種は定期的に採用 しているが、福祉事務所のケースワーカーの多 くは一般事務職として採用され、人事異動によ り福祉事務所のケースワーカーとして配属され ている。採用側の都合から言えば、どの部局に でも異動可能な一般事務職のほうが効率的であ るため、福祉専門職の採用を控えてきたと思わ れる。しかし、ここ数年福祉専門職の必要性が 再認識され、採用が復活してきている指定都市 もある43。このような動きは、指定都市などの 大都市においては、人材が豊富であり採用が比 較的容易であるが、地方都市においては専門職 の絶対数が少なく、すでに地元の社会福祉法人 等に就職したり大都市に就職先を求めたりして 転出しており、地域に適当な人材が少ないとい う事情もある44

 地域包括支援センターに配置されている3職 種のうち、経験条項のあるのは主任ケアマネ ジャーだけであり、保健師も社会福祉士も未経 験での配置が可能である。これは、人事配置に かかる経費の面からみると、受託法人に有利な 条件設定であり、また委託する自治体にとって も、委託額を抑制できる要素として働くため、

結果的に未経験の職員配置を促進させる働きを した。このような委託側と受託側の両方の事情 が一致したことが、地域包括支援センターの運

営方法が直営から委託に傾いた一因であると考 えられる。

5. 2. 3 採用基準と身分保障

 福祉専門職の採用において、公務員と民間法 人職員の違いは、能力実証試験の有無にある。

地域包括支援センターの3つの専門職などは、

資格要件が採用のポイントの中心であり、民間 法人の採用時には面接か小論文程度の採用試験 で合否を決めているところが多い。地域包括支 援センターのような公共性の高い職務を行う職 場においても、能力の実証よりも取得資格を重 視した採用が多く、筆記試験等による能力の実 証を検証している法人は稀である45

 比較的安易な採用形態をとっているためか、

採用後の身分保障は公務員に比べて不安定であ り、頻繁な人事異動や未経験職員の配置などが 行われ、配置された専門職員に過剰な負担がか かり、結果としてバーンアウトする地域包括支 援センター職員も多い。また、身分上の上司が 受託法人であり、職務上の上司が委託元の自治 体であるという2つの命令系統があるという事 情も、バーンアウトの原因のひとつと考えられ る。

 地域包括支援センター職員の身分保障を確固 にする事は、包括的支援事業の安定的な推進の ために必要な条件である。受託法人の自己本位 な人事異動等を防止するため、委託内容に関し て詳細な取り決めを行い、厳格な運用を確保す ることが求められるが、自治体の作成する委託 契約書類は、法定の人員配置と基本的な事業実 施を明記するにとどまっている事が多い。この ため、受託法人は職員の経験・能力を考慮せ ず、契約に定められた職員数を確保し、一定の 事業実績をクリアすれば、その成果の質や程度 を問われることなく、委託料を受け取る仕組み になっている。このように、委託内容の規定が 緻密でないために、配置職員への過剰な負担を

43 大阪市は1970年代から福祉専門職を採用していたが途中で中止し、2007年度から採用を再開している。京都市は、2011年度に福祉専 門職を採用開始している。

44 20091026日三重県S市の直営地域包括支援センターを実地調査した際に、担当係長がこのように説明してくれた。

45 ハローワーク・インターネットサービスで、相談援助職の社会福祉士の募集を検索したところ、全国で2,000件近くヒットした。その うち新規募集の50件を詳細に検索したが、筆記試験を課している法人はなく、ほとんどは面接と経験年数による選考により採用する としていた。参考として、近隣の施設長や採用担当者に選考方法を尋ねたところ、採用時に筆記試験を実施している施設はほとんどな いのが実態であり、もともと給与水準が低い業界のため、募集に対して多数の応募がないという経緯から、試験を実施しない施設が多 いという情報であった。

参照

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(国民保護法第102条第1項に規定する生活関連等施設をいう。以下同じ。)の安

水道施設(水道法(昭和 32 年法律第 177 号)第 3 条第 8 項に規定するものをい う。)、工業用水道施設(工業用水道事業法(昭和 33 年法律第 84 号)第

第2条第1項第3号の2に掲げる物(第3条の規定による改正前の特定化学物質予防規

条第三項第二号の改正規定中 「

(5) 帳簿の記載と保存 (法第 12 条の 2 第 14 項、法第 7 条第 15 項、同第 16

61 の4-8 輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律(昭和 30 年法律 第 37 号)第 16 条第1項又は第2項に該当する貨物についての同条第