阿部茂行教授最終講義録
著者 阿部 茂行
雑誌名 同志社政策科学研究
巻 20
号 1
ページ 1‑23
発行年 2018‑08‑10
権利 同志社大学政策学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2018.0000000258
川口学部長、ご挨拶ありがとうございました。また野間教授、私の業績紹介をありがとうございました。
本日は「開発経済学と私」というタイトルで、一時間ばかり話をしてみたく思います。私はアジアを 研究対象としてこれまで多くの地を訪れて参りました。写真を撮ることがひとつの趣味でもあり幸い多 くの写真を持ち合わせておりますので、それらをお見せしながら、アジアの過去・現在・未来を語るつ もりです。私がこれまで見てきた途上国、そしてその途上国がどうすれば先進国に近づけることができ るのかという私の研究の一旦も紹介したく思っています。ただし
60
分しか時間がありませんので、話を 少し絞りましてこれまで私が精力的に研究してきた貿易や海外直接投資に焦点をあてることにします。最終講義の話題一覧
まず最初に今日お話しする内容がどんなものか、項目を示しておきます。
途上国のイメージ
時代別に見る国際貿易に関わる開発政策
固定為替相場時代
変動相場からプラザ合意までの時代
海外直接投資とその破綻(アジア通貨危機)の時代
グローバル・バリューチェーンと FTA
の時代
DVA
の逆U
字仮説~現在進行形の研究~
写真にみる同志社での教育と研究
最後に~お気に入りの写真にそえて
途上国のイメージ
学生たちによく尋ねられるのが「先生、しょっちゅう外国行っておられるけど、何カ国ぐらいこれ まで行ったのですか」という質問です。今回調べてみました。パスポートの入国スタンプを丹念に確 認するという面倒な作業をしてみますと、ちょうど
50
カ国ということが判明しました。外務省が認 定している国の数は196
カ国ですからまだ4
分の1
しか行ってないということです。ということはあ と4
分の3
も訪れていない国があるということで、定年後の楽しみが増えたと喜んでいるところです。最終講義録
開発経済学と私
阿 部 茂 行
2018
年1
月15
日 尋真館30
教室にて阿 部 茂 行
2
50
カ国のうち途上国がやはり圧倒的に多いです。さてみなさんの途上国のイメージはどんなもので しょうか?途上国然とした写真をスライド1
で示しました。壁がペラペラのインドネシアの民家(a)、大きな鏡と椅子だけのベトナムのオープンエアの床屋(c)、などいかにも昔のアジアという感じがし ます。インドネシアもベトナムも
15
年ほど前ですが、ミャンマーは1
年前のものです。それも首都の ネピドーです。ネピドーでもバイクが一番の移動手段ではあるんですが、ビンに詰められて売られて いるものは何だと思いますか(b)?コーラでしょうか、水でしょうか?実はこれはガソリンなんです。危ないことこの上ないですが、所得が低いので小口で売らないと売れないし、先進国の様な給油所を 作ろうとすると大きな初期投資が必要ですね。子供の僧侶が裸足で歩いていて、自転車、バイク、自 動車、舗装もあんまりきちっと出来ていない(e)、ほとんど車の往来のない道路に出てみるとトラッ クの上は鈴なりの労働者
(d)。 20 ~ 30
年前はバンコク郊外でもこういう風景は見ることができました。スライド 1
スライド1
一方、アジア中進国の首都の写真をスライド
2
で示しましたが、どうでしょう。建物の高さ規制のあ る京都の方が途上国に映るほどの高層ビルがジャカルタ(a)
クアラルンプール(b)
にせよバンコク(c)
にせよ林立しています。アジアの首都は超モダンですが、スラムも現存していますし、田舎に行くとま だまだスライド
1
のような過去のものを思われる風景が見られます。繁栄と貧困が極端に同居している、それがアジア途上国の現状です。ほとんどのアジア諸国の首都というのはこんな感じです。なんでこん な発展が出来たのか。理由は簡単であります。外国からの助けもなく出来たかっていうとそんなことは ありません。やはり外国投資を招いて工場を建て、技術移転をし、製造業を軌道に乗せ、そうこうする
(a)インドネシア (b)ミャンマー
(c)ベトナム (d)ミャンマー (e)ミャンマー
うちに当地のエンジニアも育ち、経営者も育ち、こういう立派な都市が出来上がったということです。
スライド 2
スライド
2
開発経済学では繁栄があればトリクルダウンして貧困が解消すると考えられてきましたが、実情は 格差が広がるばかりです。こうした問題、所得格差、貧困は開発政策にとって最重要課題ですが、本 日の講義では省略して、もっぱら途上国が貿易・海外投資をうまく活用していかに発展してきたのか という点を整理していきます。
時代別に見る国際貿易に関わる開発政策
私の開発政策の講義では工業化には機械などの輸入をする必要があり、そのために外貨準備がない といけない、外貨を無駄にしないために自国で簡単に生産できるような物品に関しては外貨節約のた めの輸入代替工業化政策をとるのが良いと議論してきました。しかし輸入代替ではいつまでたっても 輸出産業が育たないので、世界をマーケットとして輸出志向工業化の方が良いと続けました。ここで は時代背景とともに国際貿易に関する開発政策を議論していきます。
まず固定相場時代です。戦後から
1971
年までが固定相場時代で、スライド3
を見て下さい。円レー トは360
円で固定されています。固定相場になる前は、自国の通貨を切り下げることが頻繁に行われ た時代でした。切り下げは自国の産物が安く相手国に売れるということを意味し、輸入より輸出が多
くなります。そうすると金が自国に流入することになります。重商主義とか金本位制度と言った言葉(a)ジャカルタ (b)クアラルンプール
(c)バンコク
阿 部 茂 行
4
を聞いたことがあるかと思うのですが、金を貯めるということが一国にとって非常に重要な時代だっ たわけです。A国が為替を切り下げるとB国も切り下げる、どんどんそういうことが起こってしまい ました。近隣窮乏化政策
(beggar thy neighbor policy)
といいますが、英語の方がよりダイレクトで生々 しいそんな政策ですが、これではWin-Win
の関係に世界はならないわけで、世界が縮小方向に向かっ てしまいます。これを避けるために戦後のブレットン・ウッズ体制で各国の通貨交換比率を固定する ということが行われたわけです。スライド 3
スライド3
先を急ぎます。この時代では、国際収支の均衡を保つことが非常に重要になってきます。日本でも高 度成長期の前半、設備投資の増加で輸入が急増し景気は拡大しましたが、外貨準備が枯渇する前に金融 が引き締められ景気を後退させたのです。外貨準備が十分ないと国際収支を赤字にする余裕がありませ ん。赤字になりそうだと景気を後退させます。景気が後退すると所得が減り輸入が減少、物価が下がり 輸出が増大します。国際収支が黒字になって行きすぎるとまた金融が引き締められる。この繰り返しで す。こうした政策をストップ・アンド・ゴー政策と呼びます。途上国では輸出の稼ぎ頭は一次産品です。
一次産品で稼いで自国でまかなえない物品を輸入、工業化のために機械等を輸入するということになり ます。外貨準備を枯渇させることはできません。ですから輸出を安定化させるというのが非常に重要に なってくるのです。そこで緩衝在庫というものを持っておいて、高く売れる時にそこから市場に供給する、
それも途上国全体で協力し合う
、それが国際商品協定です。カルテルを組んだり、安定化基金を創設し
たりしました。一次産品とはどんなものでしょうか?スライド4
はタイの塩田とマレーシアのゴムとドリ アンのプランテーションの写真です。熟して木から落ちてきたドリアンは今まで食べた中でも一番甘く美味いものでした。ゴムの木っていうのは斜めにタッピングというのですが切り口を一本入れ、ラテック ス(ゴムの樹液)が上から切り口に沿ってらせん状に這っていって一番下の錫の缶に溜まるようにして います。毎朝タッピングして夕方ラテックスを収集する作業は今やマレー農民はせずインドネシアから の移民労働者に頼っています。こういう一次産品がタイでもマレーシアでも長期間輸出の稼ぎ頭でした。
スライド 4
スライド
4
外貨準備はこうした一次産品輸出で確保し、工業化のために不要不急な輸入はしない。今まで輸入し ていたようなものを自国で生産すると輸入代金を支払わなくて済む訳で、今まで輸入していた例えば石鹸 なら簡単に作れるから自国で作ろうというのが輸入代替工業化です。それが外貨の節約に繋がるからで す。もう一つ採用されたこの時代の政策が幼稚産業保護政策です。将来有望な国内の産業を外国の競争 から守るため、しばらくは高関税をかけて保護し、競争力がつけば関税をとっぱらうというのがこの政策 です。往々にして高関税が長期間にわたりかけ続けられ、その政策と汚職が絡む事態が常態化しました。
輸入代替工業化とか適正技術、そのイメージはスライド
5
です。インドネシアのバンドンから70km
ほど 離れた農村に調査に行きまして、その村で一番大きな工場だと聞き喜んで見に行ったんですね。皆さん がお化粧する時に使うコットンパフをここで作っていたのです。綿を集めてきて、これを足で踏んで洗う 工程、それに女工さんが干す工程の写真です。まさにこれは輸入代替工業化です。見るからにクオリティ が悪く外国に売れる品質ではありませんね。インドネシアにとっては日本から輸入することをやめて国内 で供給できる産業の一つがこれでした。いろんな産業を起こす時に機械を先進国から輸入すればいいと いっても非常に高価ですよね。やはりその国の経済のレベルに応じた技術を使うのが一番いいわけです。阿 部 茂 行
6
ミャンマーでたまたま発見したのがの手作り感
100%のサトウキビ絞り機です。中国北京郊外の鞄作りの
工業地帯の写真もあります。乱雑にものが置かれミシンの前の女工さんたちを見ても大変過酷な労働環 境であることが分かります。やはり途上国で最初に工業を起こすっていうのはこんな感じになってしまう んですね。それがこの時代を象徴するようなものだと思います。スライド 5
スライド
5
次に変動相場からプラザ合意までの時代
1985
年までを考えます。その間円ドルレートはスライド6
のように360
円/ドルから240
円/ドルまで落ち込むわけです。この間、アジア途上国というより 日本がものすごく変貌を遂げました。この時代は労働は国境をまたいでは動きませんが資本は自由に 動く時代です。外国の企業が途上国に行って工場を建設することが可能になるわけで、アジア途上国 がとった政策というのが自国の力で輸出志向をするのではなくて、外国の力に頼り輸出志向をすると いうことでした。そのために外資優遇策をとることになります。輸送加工区を競って作り、電力を安 定的に供給する、税制の優遇策などを施行しました。マレーシアについてみると松下電器は1960
年 代にすでにマレーシアに進出済みでしたが、電子部品を扱う松下電子部品は1972
年、東芝とオムロ ンが1973
年、日本電気が1974
年、シャープが1976
年に進出しています。マレーシア政府の外国投 資奨励政策、日本国内の労働力不足、変動相場制移行に伴う円高の流れにより、こうした直接投資が 拡大しました。アメリカも同様に手先の器用な労働略を低賃金で確保するため1971
年から1972
年に かけてナショナル・セミコンダクター、インテル、テキサスインスツルメント、モトローラ、AMD などの大手半導体メーカーが一斉に進出を開始しました。アメリカは日本と違って次第に労働集約的な生産体制から、資本集約的生産体制へのシフトを行いました。
スライド
7
は外資のアジア進出事例です。タイ・ワコールと東大阪の鉄鋼加工メーカー、アメリカ のフェアチャイルドの写真です。日本は安い労働を目的として進出しているのですが、アメリカはすでスライド 7
スライド
7
スライド 6
スライド6
阿 部 茂 行
8
に労働集約的な生産体制から資本集約的生産体制へのシフトを行っていることに注目して下さい。こ の時代、日本は進出先で賃金が上昇するとより賃金の安い新たな途上国へ進出するということを繰り 返していきました。ワコールは安い労働力を求めての投資で、その一方、アメリカのフェアチャイルド という電子部品を作っている企業はペナンに進出し、当時すでにロボット装置を導入しています。スラ イド
7
の下段の写真はインドネシアの機械部品・鉄製品を作っている日本企業なんですが、よく観察 すると最新のすごい機械を持って行ってるとは思えません。実際、機械のラベルを見たら大正13
年製 とか、昭和6
年製とか新しくとも昭和20
年製の日本の古い機械を持っていって生産していました。日 本のFDI
とアメリカのFDI
とこの時代にすでに違った様相を見せ始めたことになります。スライド 8
スライド8
次の時代区分はプラザ合意からアジア通貨危機後までです(スライド
8)。この時期はプラザ合意
で急速に円高に振れ、それに伴い日本企業がアジア全域に進出し、アジアが一気に世界の工場へと変 わった時期です。240円/ドルから120
円/ドルと一気に円高になりましたが、それ以降は比較的安 定的に推移しています。日本の直接投資は進出先の特徴に合わせてのアジア全地域での分業体制をと るようになりました。これがグローバルバリューチェイン(GVC)
と呼ばれる分業体制の始まりです。賃金が安い国には労働集約的な工程を、少し技術力が高まった国にはより資本集約的な工程やデザイ ンなどの部門を持って行くわけで、それまで一国で完結していた生産体制が工程毎に最適な国に配置 する
GVC
がアジアで発展していきます。世界が生産において相互依存し、シンクロナイズしてきた わけです。アジアの経済成長率が高止まりし、それとともに無謀な経済運営も散見されるようになっ てきました。アジア途上国の危うさというものが表面化してきます。典型的なのが、タイですが、外資の最大限の活用を図った結果、為替レートをドルと固定し、金利を
7%ぐらいにします。その頃、
アメリカの金利は
2%ぐらいと低い。そうしますと、為替レートが将来ずっと変わらないことが約束
されるなら、アメリカの投資家は株に投資するということをせずに、タイの銀行に預金しておくだけで
7%と 2%の差 5%の利鞘が手に入るわけです。
タイはそうした資金を短期で借り、投資はリゾート開発とかゴルフ場とか病院や高層アパートの建設 といったものにつまり長期に投資をしました。タイは経済成長を成し遂げ、庶民の懐も豊かになり、輸 入の伸びの方が輸出より大きくなってしまいます。そうすると国際収支赤字で外貨準備がどんどん枯渇 していきます。枯渇してしまうとどうなるか?それまでタイに投資していた投資家はタイ通貨がそのう ち切り下げられると考えます。すぐにでも預金を引き出さないと元本割れを引き起こすと感じます。そ れゆえに資金の引き上げが一端発生するとすべての投資家が追随しますので、アジアの小国はひとたま りもありません。1997年についにアジア通貨危機が発生してしまいました。経済状況がタイに似たよう な国がインドネシア、マレーシア、韓国でしたので、すぐにこれらの国々にも通貨危機は波及し、ルピ アもウォンも激しく減価しました。SM論争という投資家ソロス
(S)
とマレーシア首相マハティール(M)
の間の有名な論争があります。「あなた方金融投資家というのは私達が一生懸命努力して経済運営して いるのに、あっという間に自分達の財産を失わせてくれる」こういう主張をしたのがマハティール、「い やいやそうではない。私達はあなたの国が危なっかしいことをやっているから投資資金を引きあげたん だ。そうすることによってもっと健全な経済運営をして欲しいと願うからだ」とソロスが返す、そうい う論争も起こりました。SM論争をやるぐらいの強気のマハティールですので、今まで世界がやったこ とのないような資本規制政策をスタートさせたのでした。これが意外に成功したんですね。資本規制っ て何かっていうと外資が入ってきます、すぐに引きあげるのだったらすごい違約金を取る、3年とか
5
年とかマレーシアに残す措置をとるというものです。経済学者はそんなこと、まかり通らないと思って たのですが、意外に効いたのです。これが最近では途上国の取り得る一つのオプションになっています。この頃アジアに進出した一つの企業の実情を紹介しましょう。プラスティック部品を生産する東大 阪の中小企業のケースです。スライド
9
に工場の全貌が示されています。従業員は500
人、社長一人 だけが日本人なんです。なんでだと思いますか?日本人を雇うと高くつくからです。日本人一人雇う のをやめると現地の労働者を100
人は雇える。それは一般的な給与計算プラス日本人に対しては外国 で暮らすプラス の給料を払わないといけないからです。またベトナムの制度も一因となっています。ベトナムは日本人に給料を払うととんでもない税金をかけるんですね。ですから日系企業は、例え ば
10
社あるとすると、そのうちの8
社ぐらいの社長はぎりぎりいられる期間、例えば8
カ月だけ滞 在するようにして、出入国を繰り返して税金を逃れる。プラスチックを成型する機械なんですが、こ の企業は最初東大阪の工場を閉めて、保有していた5
台の機械を持ってきて生産を開始しました。同 じ工業団地の中にヤマハのバイク工場があってそこに納入していたところ、ベトナムとかインドネシ アのバイクの需要っていうのはうなぎ上りで、年率30%ぐらい成長しています。受注は年々増え機
械を頻繁に増強する必要に迫られる。当時多くの中小企業が倒産していって日本の工場は閉鎖されま した。しかし機械はまだ使えるというので中古機械のマーケットが日本で成立していたのです。とい うことで、100台ぐらい中古機械を増強して現在に至っているといいます。もう一つGVC
で流通をMUJI
に頼っている例を紹介しましょう。スライド9
の下の写真はタイのOTOP
っていう一村一品運 動のクッションです。こういう縫製品はミシンさえあれば比較的簡単に作れます。デザインや品質管阿 部 茂 行
10
理が必要ですし、なにより流通がしっかりしていないと売れません。写真の製品タグを見ると
MUJI
とあり20
バーツの価格がついています。これはタイ人向けに売られているのですが、明らかにこの 村ではこういう製品を作ってMUJI
に供給している。この村でこれを国際的に市場で売ろうとしても その術を知らない。けれど、販売のほうでMUJI
と組むといくらでも売れるという状況なのでしょう。途上国にとってはこういうプラスティック業の社長さんだけでもいいから来てもらう、あるいは外国 の企業とタッグを組むということでうまくいくということになります。
最後の時代区分は
21
世紀になってから現在までです(スライド10)。この時代の特徴としては関税が
一気に下がってきます。そしてFTA
がすごいスピードで進んでいきます。途上国にとって最優先の政策 はいかにGVC
に自国を組み込むことになってきます。あとで説明しますけれど、アセンブリーだけでは やっぱり問題なので、より高度な製造販売、企画等々、これがスマイルカーブの両サイドに駆け上るってスライド 9
スライド9
スライド 10
スライド10
スライド 9
いうこと、それをやらないといけない(ス ライド
11)。
スマイルカーブは横軸に工程、縦軸に付加価値の大きさをとっています。
工程と付加価値の関係は両サイドが大き く真ん中が小さくなっています。それゆ え両サイドに駆け上がる必要が出てくる ということです。
この時代のもう一つの特徴はこれま では資本だけが動くとしてきましたけ れども、労働が動く時代にもなってい ることです。労働が動くなんて従来の 国際経済学では考えもしませんでした
が、現実味を帯びています。それも大きな規模で動くようになりました。実際に学生を連れてマレー シアのパナソニックの工場を訪れ驚きました(スライド
12)。工員にマレーシア人がいません。少な
くともいないように見えました。ほとんどがバングラディシュ人やネパール人でした。管理部門には マレーシア人がいるんです。「えっ!」って感じですね。つまり時代はそういうふうに変わっている。先に述べましたけれども、最初賃金が安いということで中国に進出する、だけど中国の賃金が上がっ てくると賃金の安いベトナムに工場をシフトするということが起こっていたのですが、進出先の政府 が外国人労働者の雇用
OK
という方針に変えれば、その進出企業はそこに留まる。外資を引き留める ためには外国人労働者雇用を認めることが一つの有効な政策になってきています。GVCの存在がよく理解されるようになったのは二つの自然災害です。ひとつが東日本大震災です。
スライド 11
スライド 12 スライド
12
阿 部 茂 行
12
2011
年3
月11
日に発生したこの震災は、自動車の電子部品工場が東北地方に集中立地していたため、その部品供給が滞ることになり、世界の自動車生産が落ち込むことになりました。同年
10
月に起こっ たタイの大洪水もまた、ソニーやホンダが工場の生産が相当長期間生産できない事態を引き起こし、多 くの電子電気製品や自動車関連産業が多大な被害に遭いました。その頃すでに世界のHDD (ハードディ
スクドライブ)生産の中心はタイでした。洪水でタイでのHDD
生産がストップしてしまったのですが、それだけにとどまりません。HDDは
PC
をはじめいろんな電子電気製品に搭載されています。タイで 生産していますが、メーカーは当時モトローラやシーゲートというアメリカの企業でした。両社は生産 をマレーシアからタイにシフトさせていたのです。その際マレーシアの工場はそのままにしてあったた め、大洪水でマレーシアの工場が息を吹き返すことになりました。日本の企業も大きな打撃を受けてい ました。ダイキンのタイ工場は部品がタイ国内で調達できなくなり、ダイキン中国、ダイキンベトナム 海外進出している自社企業から部品を急遽融通して貰ったという話を聞きました。インドネシアのヤマ ハでも面白い話が聞けました(スライド13)。日本企業からは進出先の労働者が折角熟練工にしたにも
かかわらず、これまでは少しでも高い賃金がオファーされると仕事をいとも簡単に変わってしまうとい う不満を聞くのが常でした。実はそれを逆手にとって、工員は全て一年契約で雇っているというのです。なぜか?ずっと雇い続けると給料は上がっていくが、一年契約で切っていくと労働コストを安く抑えら れるというわけです。新米工員にトレーニングを一週間もすればものになるといいます。「部品をどこ から調達しているか、FTAは利用しているか?」という質問に対しては、「いやいやそんなことはでき ない。ほとんどがインドネシア国内から調達している」と。海外で安いところもあるかもしれないが、
スライド 13
㻜 㻡 㻝㻜 㻝㻡 㻞㻜 㻞㻡 㻟㻜 㻟㻡 㻠㻜
㻝㻥㻥㻞 㻝㻥㻥㻟 㻝㻥㻥㻠 㻝㻥㻥㻡 㻝㻥㻥㻢 㻝㻥㻥㻣 㻝㻥㻥㻤 㻝㻥㻥㻥 㻞㻜㻜㻜 㻞㻜㻜㻝 㻞㻜㻜㻞 㻞㻜㻜㻟 㻞㻜㻜㻠 㻞㻜㻜㻡 㻞㻜㻜㻢 㻞㻜㻜㻣 㻞㻜㻜㻤 㻞㻜㻜㻥 㻞㻜㻝㻜 㻞㻜㻝㻝 㻞㻜㻝㻞 㻞㻜㻝㻟 㻞㻜㻝㻠 㻞㻜㻝㻡 㻞㻜㻝㻢
Average Tariff Rate: Selected Asian Countries
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Source: World Bank, World Development Indicators, 2018.
インドネシアの税関を通すとなると、それが工場に来るまでに許容できいほどの時間ラグがあって、ちゃ んとした生産体制がとれないと言います。GVCもいろんなバリエーションがあるということです。
GVC と FTA
スライド
13
は関税率が各国でどれぐらい下がってきたかということを示しています。2000年を越す頃 からすごく低くなっています。シンガポールはもちろんゼロなんですけれども、ほとんどの国で5%を切っ
ています。これはほとんど企業家にとっては無税に近い。FTAで域内貿易は無税にするといっても面倒な 原産地原則(Rule of Origin)があります。つまりFTA
締結国内でどれだけの部品を調達しているかにつ いてルールを設けていて、例えばそれが50%以上であるするとその証明をしないと無税にならないわけで
す。その書類作成のコストが製品価格の3%ないし 5%ぐらいになって、関税を払うのとどっちがいいかと
いうオプションになる。外資にとっては関税がすでに十分低くなっているので、FTAの域内貿易無税の特 典は不要という判断をすることが多いわけです。スライド14
はFTA
の数です。グレーの部分はほとんどスライド 14
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Evolution of Regional Trade Agreement in the world, 1948-2017
㻺㼛㼠㼕㼒㼕㼏㼍㼠㼕㼛㼚㼟㻌㼛㼒㻌㻾㼀㻭㼟㻌㼕㼚㻌㼒㼛㼞㼏㼑 㻺㼛㼠㼕㼒㼕㼏㼍㼠㼕㼛㼚㼟㻌㼛㼒㻌㻵㼚㼍㼏㼠㼕㼢㼑㻌㻾㼀㻭㼟
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Source: WTO
ホームページのデータをもとに作図。https://www,wto.org/english/tratop_e/region_e.htm
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Evolution of Regional Trade Agreement in the world, 1948-2017
㻺㼛㼠㼕㼒㼕㼏㼍㼠㼕㼛㼚㼟㻌㼛㼒㻌㻾㼀㻭㼟㻌㼕㼚㻌㼒㼛㼞㼏㼑 㻺㼛㼠㼕㼒㼕㼏㼍㼠㼕㼛㼚㼟㻌㼛㼒㻌㻵㼚㼍㼏㼠㼕㼢㼑㻌㻾㼀㻭㼟
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Source: WTOホームページのデータをもとに作図。
https://www,wto.org/english/tratop_e/region_e.htm
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㻜 㻝㻜 㻞㻜 㻟㻜 㻠㻜 㻡㻜 㻢㻜 㻣㻜 㻤㻜
㻝㻥㻠㻤 㻝㻥㻡㻞 㻝㻥㻡㻢 㻝㻥㻢㻜 㻝㻥㻢㻠 㻝㻥㻢㻤 㻝㻥㻣㻞 㻝㻥㻣㻢 㻝㻥㻤㻜 㻝㻥㻤㻠 㻝㻥㻤㻤 㻝㻥㻥㻞 㻝㻥㻥㻢 㻞㻜㻜㻜 㻞㻜㻜㻠 㻞㻜㻜㻤 㻞㻜㻝㻞 㻞㻜㻝㻢
Evolution of Regional Trade Agreement in the world, 1948-2017
㻺㼛㼠㼕㼒㼕㼏㼍㼠㼕㼛㼚㼟㻌㼛㼒㻌㻾㼀㻭㼟㻌㼕㼚㻌㼒㼛㼞㼏㼑 㻺㼛㼠㼕㼒㼕㼏㼍㼠㼕㼛㼚㼟㻌㼛㼒㻌㻵㼚㼍㼏㼠㼕㼢㼑㻌㻾㼀㻭㼟
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Source: WTO
ホームページのデータをもとに作図。https://www,wto.org/english/tratop_e/region_e.htm
㻜 㻝㻜㻜 㻞㻜㻜 㻟㻜㻜 㻠㻜㻜 㻡㻜㻜 㻢㻜㻜 㻣㻜㻜 㻤㻜㻜
㻜 㻝㻜 㻞㻜 㻟㻜 㻠㻜 㻡㻜 㻢㻜 㻣㻜 㻤㻜
㻝㻥㻠㻤 㻝㻥㻡㻞 㻝㻥㻡㻢 㻝㻥㻢㻜 㻝㻥㻢㻠 㻝㻥㻢㻤 㻝㻥㻣㻞 㻝㻥㻣㻢 㻝㻥㻤㻜 㻝㻥㻤㻠 㻝㻥㻤㻤 㻝㻥㻥㻞 㻝㻥㻥㻢 㻞㻜㻜㻜 㻞㻜㻜㻠 㻞㻜㻜㻤 㻞㻜㻝㻞 㻞㻜㻝㻢
Evolution of Regional Trade Agreement in the world, 1948-2017
㻺㼛㼠㼕㼒㼕㼏㼍㼠㼕㼛㼚㼟㻌㼛㼒㻌㻾㼀㻭㼟㻌㼕㼚㻌㼒㼛㼞㼏㼑 㻺㼛㼠㼕㼒㼕㼏㼍㼠㼕㼛㼚㼟㻌㼛㼒㻌㻵㼚㼍㼏㼠㼕㼢㼑㻌㻾㼀㻭㼟
㻯㼡㼙㼡㼘㼍㼠㼕㼢㼑㻌㻺㼛㼠㼕㼒㼕㼏㼍㼠㼕㼛㼚㼟㻌㼛㼒㻌㻾㼀㻭㼟㻌㼕㼚㻌㼒㼛㼞㼏㼑㻌㼍㼚㼐㻌㼕㼚㼍㼏㼠㼕㼢㼑㻌㻾㼀㻭㼟 㻯㼡㼙㼡㼘㼍㼠㼕㼢㼑㻌㻺㼛㼠㼕㼒㼕㼏㼍㼠㼕㼛㼚㼟㻌㼛㼒㻌㻾㼀㻭㼟㻌㼕㼚㻌㼒㼛㼞㼏㼑
㻯㼡㼙㼡㼘㼍㼠㼕㼢㼑㻌㻺㼡㼙㼎㼑㼞㻌㼛㼒㻌㻼㼔㼥㼟㼕㼏㼍㼘㻌㻾㼀㻭㼟㻌㼕㼚㻌㼒㼛㼞㼏㼑
Source: WTOホームページのデータをもとに作図。
https://www,wto.org/english/tratop_e/region_e.htm
阿 部 茂 行
14
機能していない、協定はあるけれども動いていない
FTA
で、斜めがけの部分が実際に動いているFTA
で す。現在279
のFTA
があります。この二つのスライドを観察しますと、FTAと関税の動向がよく分かりま す。関税が低くなっているのは、FTAの功績というよりか外国企業を呼び込みたい現地政府が、中間材を 輸入するときは無税にという優遇策をどんどん出してきて、実質的に無税に近くなっているということを 示していると読みとれます。ですからFTA
は後追いの政治的スタンスにすぎないのではと疑うわけです。DVA の逆 U 字仮説 〜現在進行形の研究〜
さて、これからは最新の研究を紹介することにします。2017年
12
月バンコクで開催されたSEASIA
という国際会議で発表した論文に基づいています。国際収支を付加価値で考える
なぜ
GVC
に着目するのか?これまで国際収支は中国がアメリカに輸出して、中国がアメリカから輸入 するその差額が中国の対米国際収支と定義しています。ですのでiPhone
はApple
社がデザインし、台湾 のメーカー鴻海が中国で生産していて、アメリカにも台湾にもiPhone
一台売るごとに所得が流れると しても、中国から輸出していますので、iPhoneの価格 × 輸出台数が輸出になります。もう少し詳しく 言うと、iPhoneを作るために中国は多くの部品をいろんな国から輸入しています。中国国内でiPhone
につけた付加価値はほんのちょっとなんですね。対米国際収支は第三国から輸入した部品のコスト も計算に入れません。現状の国際収支統計は中国のiPhone
に関する付加価値で測ったものではなく、iPhone
の対米輸出は最終財の価格で計算されます。その生産に必要な輸入部品のコストも最終財の価格に含まれています。国際収支統計はこの様に計算され、それを見て、トランプ大統領は中国に対し て「あなたのところはアメリカにこんなにも物を売っている、これはどうにかしてもらわないと困る」
と非難している訳です。アメリカが買っているものは
Apple
社の製品で、iPhoneで一番も儲けている のはアメリカです。iPhoneの製品価格にはApple
社のデザイン料、知的財産権、販売マージン等々が 含まれていますし、アメリカ製部品価格も含まれています。ナイキにしてもしかりです。皆さんの知っ ているブランドはその多くがアメリカ国内で作られず中国で作られていますが、それをアメリカに輸 出するときはアメリカ自身が生み出すデザインや部品の付加価値も含まれているわけです。こうした事実を直視して国際収支を付加価値ベースで見直してみようという動きが出てきまし た。この重要性に気づかせてくれたのが
2010
年のYuqing Xing
とNeal Detert
による“How the iPhone Widens the United States Trade Deficit with the People's Republic of China”
と い う 論 文(ADB WorkingPaper No.257 December 2010)です。彼らは iPhone
を分解し部品コストの内訳を計算しました。そうするとほとんどが中国ではなく先進国に帰属するコストで、中国の付加価値はわずか製品価格の
3.6%
にすぎないということがわかったのです。この論文は一般紙にも引用され多くの人が目にすることに なりました。スライド
15
はWall Street Journal
に載ったものです。先ほど述べたスマイルカーブですが、付加価値が一番大なのはデザイン、企画、研究開発、素材生 産、部品生産なんですね。中国は一番割に合わない組み立てだけなんです。ですから
3.6%という低
い付加価値シェアになっています。物流は日本になってますが、ヤマト運輸や日通とか結構その一端を担っています。営業はアフターサービス。アメリカはうまいところばかりとってるじゃないですか?
中国の貢献は
3.6%に過ぎないけれど、トランプ大統領は中国が 100%悪いと主張している。こんな
不合理はないだろうっていうわけです。ありとあらゆる製品ごとにこういう分解をすべてやり、中国の貢献度、すなわち付加価値を計算す るというのはほぼ不可能です。それをもう少しシステマチックに国際産業連関表を使って計算しよう と
OECD
をはじめ世界中の研究者が研究を開始し始めました。今回の研究もその延長線上のものです。この講義の
TA
をしてくれている博士後期課程の朱浩良君が博士論文でこのトピックに取り組んでい ることから、私にデータを提供してくれました。このデータを使って、難しい計算の過程は省きますが、どんなことをやったかというと、一つは先 ほど言った
3.6%という国内付加価値シェアが 10%になるとか 20%になるとか 30%になるとか、ど
のように時代とともに国によって変わっていっているのかを明らかにしました。大切なのでもう一度 言い直しますと、付加価値シェアと経済発展の段階は関係しているのだろうか、それを明らかにする ことが私のリサーチ・クエッションの一番目です。そして同じことが自動車産業と電子電気産業に違 うのか、つまり産業部門によって違うかという設問になります。その他の問題にも挑戦していますが、今日は時間の都合上それらは省きます。
最初はアジア諸国の輸出における国内付加価値(Domestic Value Added; DVA)のシェアですね。先
の中国の
3.6%と似た指標を国際産業連関表から計算しています。この表により、一つの中国のこの
製品を作るためには中国の他の分野からどれだけの部品を使っているのか、外国からどれほど部品を 使っているのかという統計がとれます。私の関心はこのシェアと経済発展が関係があるのかどうかで す。そのためにミャンマーだとかベトナムであるとかタイであるとかそういった国の
DVA
シェアも 計算してやる、そしてそれをきれいに見える形にしている、その見える形っていうのは、横軸に左かスライド 15
A Case of iPhone
Source: https://www.wsj.com/articles/SB10001424052748704828104576021142902413796
スライド
15
阿 部 茂 行
16
ら右へと所得の低い国から高い国をならべること、つまりミャンマーからシンガポールまできれいに 並べてやる。そして
DVA
を縦軸にとってグラフ化することで見える化が可能です。スライド16
を見 て下さい。これは繊維業のDVA
シェアと経済発展の関係を示しています。棒グラフの点の部分が国内部品の調達額で、斜めがけの部分が外国からの調達額です。アジアは額 で見ると人口の差が大きく貧しい国でも輸出は大きくなります。で、国内部品の調達シェアを見る必
スライド 17
44%
29%
67%
71%
62%
44%
48%
54%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
Cambodia Viet Nam India Philippines Indonesia Thailand Malaysia Singapore
DVA Share in Total Exports in Asia Machinery: 2011
DVA FVA DVA%
スライド 16
41%
62%
80%
84%
82%
74%
51%
44%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
0 5 10 15 20 25
Cambodia Viet Nam India Philippines Indonesia Thailand Malaysia Singapore
DVA Share in Total Exports in Asia Textile (2011)
DVA FVA DVA%
要があります。このシェアはカンボジアは小さく、シンガポールでも小さい、所得が真ん中ぐらいの フィリピンではこのシェアが大きくなっています。折れ線グラフで表すと、それは逆
U
字を描いて いる。経済発展が進むにつれてDVA
は低いところから高いところにいってまた落ちる。逆U
字を見 たとき。他の産業ではどうなっているかすぐにチェックしました。大発見だと思ったからです。機械 産業でもまあちょっと変な動きになっているところもありますが、シンガポールも特殊だし、カンボスライド 18
44%
29%
69%
71% 73%
34% 33%
60%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
0 10 20 30 40 50 60 70
Cambodia Viet Nam India Philippines Indonesia Thailand Malaysia Singapore
DVA Share in Total Exports in Asia Computer: 2011
DVA FVA DVA%
スライド 19
47%
33%
66%
72% 74%
46%
37%
47%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
Cambodia Viet Nam India Philippines Indonesia Thailand Malaysia Singapore
DVA Share in Total Exports in Asia Electrical Machinery: 2011
DVA FVA DVA%
阿 部 茂 行
18
ジアも特殊だと考えれば真ん中辺りはまあ逆
U
字が言えるかなって感じです。全部みたらスライド17 ~ 20
で示した感じなりました。スライド17
が機械産業,スライド18
がコンピューター、スライ ド19
電気機械、スライド20
自動車となっています。すべてなかなか良い結果だと思いました。スライド 20
45% 45%
67%
60%
74%
43%
41%
52%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
Cambodia Viet Nam India Philippines Indonesia Thailand Malaysia Singapore
DVA Share in Total Exports in Asia Motor Vehcle: 2011
DVA FVA DVA%
スライド 21
0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
200 2000 20000
DVA Share and GDP per Capita: World Data
Automobile Textile Emachinery Computer
スライド 20
それゆえ、すべての国、すべての産業を使って散布図を書いてみました。それがスライド
21
です。何にも見えてきません。逆
U
字が描けないのです。ここでこの研究はThe End
と普通はなるのですが、研究者はしつこいのです。いやいやこれは全世界のケースだからそうでアジアに限れば、逆
U
字は 成立するのではないか、そう考えました。このデータからアジアだけを抽出してやってみました。な ぜそうしたかといいますとまずGVC
がアジアで最も発達していることと、先に紹介したいろんな進 出企業の実情を思い起こしたからです。例えば東大阪のプラスティック成型の工場っていうのは、最 初は5
台の機械だけでやっていたが、気が付けばそれは100
台にもなっていたではないか?中古のマ シンを買った云々で10
倍以上に生産を拡大して、つまりこれはDVA
を増やしているということです よね。ヤマハもそうです。ヤマハは最初部品を輸入していたけれども、「あ~めんどくさい。自分達 で開発して部品はインドネシアの中で作ろう」というふうにDVA
を増やすってことを成し遂げてい ます。それに加えもうひとつこう考えることに至った事実があります。それは経産省の『世界経済白 書』に掲載された図です。スライド22
では外国進出日本企業がどれだけ現地調達し、どれだけ現地 で売っているかを示したもので、産業によって差はあるものの、GVCが盛んな自動車、電気・電子、機械などでは現地調達、現地販売の比率が極めて高いことを示しています。すなわち自動車は
75%
ぐらいの部品を進出先で調達していますし、電気・電子で
60%です。時系列推移は自動車なら、最
初は
50%だったのが今や 75%になってるとか、電気・電子だと 30%ぐらいが 40%超えるようになっ
ている。一般機械になると
42%が 60%近くになっていることが分かります(スライド 23)。
DVAの逆
U
字がアジアについては描けそうという予感がするスライド22
と23
です。このDVA
逆スライド 22
0 20 40 60 80 100
0 20 40 60 80 100
Thelocalsalesratiotototalsales(%)
The local purchase ratio to total purchases (%) (%)
Transport machinery
Information and communication electrics equipment
Chemicals
Foods
Non-ferrous metals
Electric machinery
Iron and steel Petroleum and coal products
Lumber, paper and pulp Others
Textiles
General-purpose machinery Ceramic, stone and clay products
Business oriented machinery Metal products
Production machinery
Notes: 1. Purchases refer to purchases of raw materials, parts and components, and semi-finished products.
2. The size of a circle represents the total amount of local procurement and local sales.
3. A red crystal represents the sales and purchase ratio of the entire manufacturing industry to/from the local countries, Japan and third countries within the region.
Source: Basic Survey of Overseas Business Activities (METI).
Sales and purchases (local countries) Sales and
purchases (Japan) Sales and purchases
(third countries within the region)
スライド 21
阿 部 茂 行
20
U
字仮説ですが、どのように理論付けするかも考えないといけません。さしあたり、次の様に考えて います。GVCに途上国が組み込まれるためには外国企業に最初進出して貰わないといけない。外資 が途上国国内で生産を始めると、部品を最初は第三国から輸入するが、そのうち国内での部品を調達 する方が納期や安さなどで有利になってくる。またそれが出来るほどの技術移転・技術進歩も望め る。これが第2
ステージで逆U
字で登り坂を駆け上がるフェイズです。そしてその国が十分に経済 発展を遂げると、今度はタイがそうであるように一部生産をミャンマーやラオスに移すことになる。このとき、逆
U
字の頂点から転げ落ちるフェイズになるわけです。この理論構成はもう少し緻密に やる必要がありますが、先を急いで、実証に話を移しましょう。これが検証できるかどうかですね。経済学で逆
U
字というとクズネッツのものが有名ですので、それを紹介しておきましょう。クズネッ ツは経済発展と所得格差の関係を考え、経済発展の初期には所得分配が悪化するとしました。これは クズネッツの説明によるとある程度儲けが十分ないと企業家は努力しない、しかしある程度所得が高 くなると今度は貧乏な人がかわいそうじゃないかと政府もそれに対していろんな施策をとるようにな る。累進税課税制度を導入したり、社会保障を分厚くしたり、そうすると経済は逆U
字に沿って所 得分配が良好になっていくようになるというものです。クズネッツは他に業績も沢山ありますが、こ の逆U
字でノーベル経済学賞を受賞しました。私のDVA
の逆U
字が何かの賞を貰うためにはまだま だこれから研究を深化させる必要がありますが、こうした研究はまだ誰もやっていないという意味 でワクワクするものです。実証の結果はこうです。アジアだけ見ているときれいに逆U
字が描ける。DVA
を一人あたりGDP
の多項式で推定すると非常に良い推定結果がでます。スライド24
を見て下 さい。一人あたりGDP
を横軸に、そしてDVA
をとって散布図を描き、それに重ね合わせるように多 項式の推定結果を逆U
字で描いてあります。決定係数は0.70
と高いですし、係数の符号も予想通り のものとなりました。スライド 23
スライド 22
バンコクでの国際会議では、多くの研究仲間と会え、新しい知見を得ることができました。FTA を研究する大御所たちが集まりました。一人は
Narongchai
です。彼はタマサート大学教員から転身 して、金融会社を経営し、その後工業大臣、環境大臣を歴任、現在は不動産を手がける実業家です。AFTA
の設立に貢献したことでもよく知られています。TPPの研究の第一人者のMichael Plummer、
FTA
やアジア研究で著名なシンガポールのChia
などと侃々諤々の議論を交わしました。彼等と議論 していると新しい発見がいつもあります。ChiaはASEAN
のFTA
の一番の問題は労働移動だと言っ てのけます。「そうだそうだ、それが問題だ」とNarongchai
も同意します。ミャンマーは224
万人もASEAN
域内に労働者を出していて、それは実に国民総数の3.9%を海外に労働者として出している
ことになります。北朝鮮の話ではありませんが、すごいです。受け入れで一番すごいのはシンガポー ルです。132万人で、これは全国民の
24%にあたります。タイ、マレーシアはだいたい 5%
で、全体で見ると
1.1%動いているということなります。アジアは 100
人に1
人が国境を跨いで動いているのです。Narongchaiは「自分も労働移動については非常に悩んでいる。私の企業では、外国人労働者を
6,000
人雇っている。ひょっとしたら9,000
人かもしれない。多くがミャンマー人で、ミャンマー人は国外で子供を作るとミャンマーの国籍をもらえない。タイは自国の法律でタイで生まれた外国人の 子供にはタイの国籍を与えない。つまり自分が雇用しているミャンマー労働者が結婚してタイで子供 を作るとその子供は無国籍、こんな不条理が通っていいはずがない。自分は一生懸命運動しているん だけれども、なかなかタイ政府がいうことを聞いてくれない」と苦悩を漏らしてくれました。今後の アジアの課題は、国境をまたぐ外国人労働者のマネジメントにあるようです。
スライド 24
y = 2E-27x6 - 3E-22x5 + 2E-17x4 - 5E-13x3 + 7E-09x2 - 4E-05x + 0.61 Manufacturing R² = 0.49466 y = 1E-27x6 - 2E-22x5 + 1E-17x4 - 4E-13x3 + 5E-09x2 - 2E-05x + 0.432
Computer㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌R² = 0.70186
y = 2E-27x6 - 4E-22x5 + 2E-17x4 - 6E-13x3 + 8E-09x2 - 3E-05x + 0.5618 Automobile R² = 0.47841
y = -3E-27x6 + 4E-22x5 - 3E-17x4 + 8E-13x3 - 1E-08x2 + 6E-05x + 0.6068 Textile R² = 0.15854
y = 1E-27x6 - 2E-22x5 + 8E-18x4 - 2E-13x3 + 2E-09x2 + 5E-06x + 0.4761 Machinery R² = 0.54617 y = 2E-27x6 - 4E-22x5 + 3E-17x4 - 8E-13x3 + 1E-08x2 - 5E-05x + 0.5332
Elecric Machinery R² = 0.59818
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
0 10000 20000 30000 40000 50000 60000
Inverse U Relationship between GVA% and GDP per Capita:
Selected Asian Countries and USA
Manufac Computer Automobile Textile Machinery Emachinery
多項式 (Manufac) 多項式 (Computer) 多項式 (Automobile) 多項式 (Textile) 多項式 (Machinery) 多項式 (Emachinery)
阿 部 茂 行
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写真にみる同志社での教育と研究
もう終らないといけないので先に進みましょう。私の同志社での教育体験についてです。私のゼミは留 学する学生が多くまた大学院に進学する学生も多い。この講義の最初に学生が私が訪れた国の数を聞い てきたと書きましたが、私に劣らずゼミ生たち、卒業生たちは世界中にすでに拡散し活躍しています。同 志社大学の制度もフルに利用していろんなことをやってきました。海外研修旅行も都合
4回実施しました。
スライド
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はそんな一コマです。タイで一番有名なNGO
を訪ね、マグサイサイ賞を受賞しPrateep
さん に会ったり、国連 ESCAP
で一日ブリーフィングをしてもらったり、プレアビヒア寺院を訪れたり、タマ
サート大学、チュラロンコン大学、マラヤ大学で学生交流をしたりしました。ゼミ生たちはいまだにその 時会ったタイやマレーシアの学生達と交流を持ち続けています。卒業生には海外青年協力隊で働いたも のがもう3
名も出てきました。その一人は世界で最も貧しい国マラウイの電気も水もない村での体験を同 志社で喋ってくれました。あるときフィリピンが台風被害にあったとき、フィリピンに留学中のゼミ生が 逐一被害報告をしてくれたことがありました。それを聞きイギリス留学とアメリカ留学から帰国したゼミ 生が中心になって、ベイクセールをやろうと言い始め、2―4回生が一緒に募金活動に奔走しました。先ず プロジェクトプロポーザルを作り政策学部事務室に提案し、許可を得て2
日間にわたって今出川キャン パスと新町キャンパスで募金を募り、学生、一般の方々から多大な志をいただきました。研究室でクッキー の成形をみんなでやって、一週間ほど甘い匂いが残ったことも今では愉しい想い出です。スライド 25
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最後に〜お気に入りの写真にそえて
もう時間がありません。最後にロンドンの地下鉄の駅で見つけたピアニスト内田光子のポスターに ついて一言。このポスターを見たときは本当に嬉しくなりました。国際化というのは個人個人が内田 光子になることだと思ったからです。“Born in Japan, Raised in Vienna, Now a Londoner” とのキャッチ コピーは「日本で生まれ,ウィーンで育ち、今やロンドン子」と言う意味ですが、今後のあるべき世 界を示しています。日本は今後外国人労働者の助けが必要となる少子高齢化社会に突入します。アジ アから人々が日本に、日本から世界に人々が移動して暮らすそういう社会が目前です。そのときに誰 もがどこで生まれようが、どこで育てられようが、住んでいる土地で現地の人から同胞と呼ばれるよ うな人材になることが真の国際化なのです。
私の同志社での一番嬉しく思うのは、ゼミの 卒業生たちが、海外研修旅行や留学等で海外 に出かけることで、グローバルな感覚を身に つけ、卒業後もゼミ仲間とつながり、切磋琢 磨して、すでに内田光子にならんとそれも無 意識に肩肘はらず世界中で活躍していること です。
14年間の
Doshisha Life
はあっという間で した。愉しく、いろいろ学ぶことができました。本当にみなさん、有り難うございました。 スライド 26
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