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コーポレートガバナンスと情報開示の積極性

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(1)

コーポレートガバナンスと情報開示の積極性

著者 内藤 文雄

雑誌名 同志社商学

巻 71

号 6

ページ 1377‑1397

発行年 2020‑03‑13

権利 同志社大学商学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2020.0000000154

(2)

コーポレートガバナンスと情報開示の積極性

内 藤 文 雄

Ⅰ はじめに

Ⅱ 基本的前提

Ⅲ ガバナンス体制の機能不全の改善

Ⅳ 不正が事前に予防・摘発されず実行される可能性がある原因

Ⅴ 必要なガバナンス機能を有効に実現させるためのガバナンス体制の改善案

Ⅵ ガバナンスに優れた企業と情報開示の積極性の相関

Ⅶ おわりに

Ⅰ は じ め に

企業経営をめぐる次の

5

つのキーワードは,現代の企業経営においていずれも必須の 要素となっている。

①IFRSによる財務報告 ➡ 財務報告の信頼性確保/企業価値評価に資する情報 開示

②CSR報告 ➡ 有効・効率的事業活動/経済・環境・社会への貢献

③コーポレートガバナンスの確立 ➡ 法令定款等の遵守

④事業リスク情報の拡充 ➡ ゴーイングコンサーン/事業活動の将来性

⑤内部統制報告・監査 ➡ 財務報告にかかる内部統制の有効性確保 これら

5

点のいずれにも財務諸表監査は,直接・間接に関係している。

百合野教授は,上場会社の財務諸表監査のみに偏向した監査研究ではなく,より広く 監査の役割を考え,その社会的な役立ちを考察する監査研究であるべき旨を一貫して主 張されてきてい

1

る。本稿はこの考え方を検討することをねらうわけではなく,公認会計 士監査の役割を財務諸表監査だけでなく,より広く,会社のコーポレートガバナンス

(以下,ガバナンス)の確保におけるあり方に発展させることによって,百合野教授の 示唆される論点を議論したい。

監査もガバナンスもその機能が優れて発揮されたとしても表面化しない。その機能の 良し悪しが利益に対して直接に影響するわけではないからである。また,東芝のように アメリカ式のガバナンスの仕組みをいち早く取り入れ,ガバナンスが先進的と評価され ていても重大な会計不正が予防,摘発されなかったことも看過できないことである。

────────────

1 百合野正博〔13〕,2-3頁参照。

1377)147

(3)

財務諸表監査の質を計測することは現時点では困難である。その理由は,計測に足る データ(例えば,監査調書)が利用できないからである。同様に,ガバナンスの優秀さ を客観的に評価する一般モデルはない。監査やガバナンスの機能の発揮をどのように評 価すればよいであろうか。優れたガバナンスやガバナンスに対する経営者の意識の高さ をどのように評価すべきかには工夫が必要である。

そこで,本稿では,粉飾決算・会計不正などの企業不祥事が抑制されたかという消極 的な側面ではなく,ガバナンスに関する規制・制度上の改革に対して積極的に対応した 上場会社がそうでない上場会社に比較してよりよい財務業績を上げたかどうかというプ ラス面から接近する(「第

1

図」参照)。

米国エンロン事件(2001)等を契機に先進諸国ではグローバルに資金調達する上場会 社に対する規制・制度の改革として,内部統制の整備・運用が法定・義務化され,ガバ ナンスの強化が図られ,上場会社のリスク管理が一段と促進されることが期待された。

かかる規制・制度の改革が行われ(米

2002・日 2008),10

年以上が経過した。この 間,わが国ではオリンパス,東芝などでの会計不正が発覚し,日産自動車でのガバナン スの運用上の欠陥(特に,経営者層のガバナンス意識の欠如)が明らかになるなど,規 制・制度の改革の実効性は定かではない。

かかるガバナンス規制・制度の改革は,企業不祥事の防止という企業経営のマイナス の側面の改善に機能したかどうかで評価されることが多く,また,それが一般的であ

2

る。他方,より前向きに,かかる改革に積極的に取り組んだ企業は,その財務業績にも 好影響を及ぼしたのかどうかという意味での企業経営のプラスの側面も評価する必要が

────────────

2 ガバナンス・内部統制・リスク管理に関する先行研究は,これらの役割を持った企業内部の組織構成と その員数,命令系統,社外役員制度の導入とその程度,各種法令・ガイドラインの導入状況などに基づく 評価であり,経営者に対する質問票調査で行われている(例えば,日本コーポレートガバナンス研究所

〔11〕)。

1図 本稿の分析視角

同志社商学 第71巻 第6号(2020年3月)

148(1378

(4)

3

る。

そのためには,ガバナンスの有効性の計測・評価モデルを開拓しなければならない。

かかる計測・評価モデルは先行研究において確立されたものは存在していない。

ガバナンスは,企業経営において企業経営者の考え方が色濃く反映され,その有効性 の計測・評価を客観的に行うことには困難性が認識される。当該計測・評価にはその裏 付けとなる客観的・合理的なデータ・資料が必要である。本稿は,企業経営者のガバナ ンスに対する考え方が企業内容開示の姿勢に反映されるものと仮定し,各調査対象企業 による情報開示の積極性をかかるデータ・資料とする。

つまり,ガバナンスにかかる規制・制度の改革への積極的な取り組みの評価を,上記 に掲げた

5

つのキーワードすべてが含まれる統合報告書に焦点をあて,統合報告書を積 極的に開示している会社が,ガバナンスの取組みにおいて,外部の諸団体から高い評価 を受けているかどうかを探る。本稿のねらいはここにある。

統合報告書の開示の積極性とガバナンス評価との間の関係が明らかにできれば,これ に続いて,財務業績を算定し,両結果の関係性分析によって,ガバナンス規制・制度の 改革に対して積極的な対応を行った上場会社の財務業績の優位性を実証的に解明できる が,次稿の課題としたい。

かかる分析の前提として,次節以下では,ガバナンスに対する本稿の基本的考え方を 示しておきたい。

Ⅱ 基本的前提

本稿での議論の前提は次の

7

点である。

(1)ガバナンスは,株主にとっての企業価値の下落(企業ブランドの喪失)を防ぎ,企 業価値を重視した統制を行うことを目的とする。そのためには,COSOが内部統制機 能の目的とする次の

3

点すべてを担保することがガバナンスには含まれると考えられ る。

①経営資源の有効かつ効率的な利用(財産保全を含む)

②信頼できる報告(財務情報に限定されない)

③法令遵守(法令は会社経営のみならず事業活動全般に及ぶ)

(2)企業価値の下落を防ぐ基本は財産保全(名目資本維持)である。かかる下落には次 の事象等が含まれる。

①事業活動による業績不振

────────────

3 ガバナンス改革がROEROSとの関係性を持つかどうかの実証研究(例えば,伊藤邦雄・加賀谷哲 之等〔5〕)が代表的である。

コーポレートガバナンスと情報開示の積極性(内藤) 1379)149

(5)

②不祥事の発生(製造物責任/経営者不正・違法行為/従業員不正・違法行為(共 謀))

③リスク対応・予防の失敗

④チャンス対応の失敗

⑤希少資源の利用に対応した社会的責任(CSR・ESG)の不履行・不作為 など

(3)ガバナンスは,(2)を予防・摘発するのに必須である。特に,COSOが公表される 以前において,内部統制は,従業員不正・違法行為を防止・摘発するものと理解され ていた。この理解は不適切・不十分(狭義の内部統制)であり,経営者不正・違法行 為も統制の対象となり,かつ,それがより重視されているのが現代のグローバル・ス タンダードである(特に,SOX法以降。広義の内部統制)と理解できる。また,内 部統制は,その仕組みの整備(構築)だけでは,統制が有効かどうかは明確でない。

内部統制の仕組みの運用が有効かどうかが明らかにされなければならない。

(4)有効なガバナンスにとって必須なのは,次の諸点である。これらはすべて広義の内 部統制でカバーされる。

◇取締役会の監督機能

◇監査役・監査役会・監査委員会の監査機能

◇内部監査の監査機能

◇経営トップによる「適切な企業風土」の醸成(役員・従業員への啓蒙を含む)

◇企業内部の「風通し」(情報共有・透明性)(内部通報システムを含む)

◇子会社・事業部等企業グループに対する統制

これらの機能・事項は,その整備だけでなく運用が大切である。仕組みを作っても 適切に運用しないと無意味であるのは言うまでもない。

また,これらが目的通りに整備・運用されれば,次の不正の

3

発生要因はすべて抑制 されうる。ただし,抑制されるだけであって不正が全く生じなくなるわけではない。

①不正の動機

②不正の機会

③不正の正当化

なお,財務諸表監査人・会計監査人による監査・指導機能は,会社外部からのチェ ック機能であり,上記の(1)とも関係している。特に,財務報告にかかる内部統制 の有効性の程度については,財務諸表監査の実施の前提条件ともなる(有効性に問題 がある場合には,実証手続をより高い証拠力を得られる手続の実施や適用範囲の拡大 につながる)ため,財務諸表監査人による当該有効性の程度の把握は重要である。

(5)取締役会・監査役会の各機能の確実な発現には次の条件が必須である。

①取締役・監査役の独立性(利害関係の払拭・厳格な条件)

同志社商学 第71巻 第6号(2020年3月)

150(1380

(6)

②取締役・監査役の専門性(専門的知識と経験)

③取締役会の監督機能と執行機能の分離(場合によっては,これらの機能とは別に 監査役による監査機能の存在)

(6)内部監査の監査機能は,内部監査の役割の重要な一つである。他方,内部監査は,

事業活動の有効かつ効率的な実施に対する監査・助言の機能を果たす役割も必要であ る。内部監査の機能に対する指揮・監督を次のように分離することも有効でありう る。

・報告の信頼性および法令・定款遵守に対する内部監査によるチェック機能について の指揮・監督は,監査役・監査委員会

・有効かつ効率的な事業活動に対する内部監査によるチェック機能についての指揮・

監督は,取締役・執行役

(7)情報開示・報告の意義は,情報受信者に対して情報を与え,その情報内容の理解・

認知を促進したり(情報開示),与えられた課題について課題遂行の顛末を報告する のが一般的な意義である。

しかし,その意義はこれだけにはとどまらない。上記の意義を遂行するためには,

情報内容や報告内容を作成する必要があり,そのためには,それらの根拠となるデー タ・資料等を収集・整理・保管する必要がある。つまり,経営管理を徹底していなけ れば,正しい情報発信にはつながらないと言える。開示・報告した内容について,そ の客観的な裏付けを確保しておかなければならないのである。この理解からすれば,

情報開示・報告に積極的な企業のガバナンスは,より良好であることが推測される。

本稿では,特に(7)の前提条件を重視し,ガバナンスが優秀とされる会社について その実態を分析する。

Ⅲ ガバナンス体制の機能不全の改善

ガバナンスが機能不全となっている場合,あるいは,機能不全が疑われる場合,何を どのように改善すべきであろうか。

改善のねらいは,ガバナンスの機能が実効性をもって発揮できることを目的とした,

ガバナンス体制・仕組みとその有効な適用に必須の要件を提示することにある。

この場合,ガバナンスの体制・仕組みありきではなく,正常なガバナンスを確保する ためには,どのような機能が正常に働くことが必要なのかを先に考え,その機能を実現 するためにはどのような体制・仕組みが望ましいかを導出する必要がある。

しかし,これだけでは,ガバナンス改善は実効性をもって日の目をみない可能性があ ると考えられるところから,ガバナンスの改善には,ガバナンス体制・仕組みに加え

コーポレートガバナンスと情報開示の積極性(内藤) 1381)151

(7)

て,①ドラスティックなガバナンス体制改革およびアライアンスの大幅な見直しによる 企業風土・企業文化の変革と②グローバル・ガバナンス体制の早期確立による主導的企 業連携の構築も考慮しておく必要がある。

前者①では,従前のガバナンス体制・仕組みが新たな方向に動き出したとのメッセー ジを利害関係者やグローバル社会に与えうるような改革に資する提案が必要であり,こ のためには,ガバナンスの体制・仕組みを提案するだけではなく,これに加えて,それ が十分に機能するための要件を明示することが必須である。

また,従業員のモチベーションの問題も関係していることを看過すべきではない。ガ バナンスはともすれば経営者層の問題であって従業員には無関係という考え方を払拭し ておく必要がある。従業員の気持ちを「わが社」,「働くことが誇り」というような前向 きな気持ちになるガバナンスの改善でなければならない。すなわち,上からの改革では なく,上下の関係なく改革につなげるために,従業員の気持ちを汲み取った改革であ る。

さらに,これを実現するためには,従業員にも「ガバナンスのごたごたは早く収まっ てほしい,落ち着いてほしい」というような消極的な気持ちではなく,「ガバナンスの 改善は,企業の存続にも大きく影響する事態であり,全社一丸となって改革しなければ ならない」という,積極的な気持ちをもつことが必須である。そのため,ガバナンスの 改善は,小手先の改革ではなく,根本的な大改革であって,職場環境も過去の遺物と縁 を切らなければならないことを内外の利害関係者に認識させるほどのドラスティックさ の必要があると考えられる。

要するに,「経営者層が改革をやっているようだ」ではなく,「私たちも一緒に改革に 協力しよう」という意識の醸成である。これがなければ,提案による具体的な改革には 魂が入らず,ガバナンスは結果として改善されない。その証左として,企業不祥事をく り返す企業が少なからず存在するが,当該企業では意識の改革が行われてこなかったと 推測できる。

後者②について,ガバナンスの改善は,企業管理体制を本来の正常な姿に戻すことが 主眼であるが,それだけであると何の価値も付加されない。いち早くガバナンスの姿を 正常な姿に戻し,そのうえで正常な事業活動を前向きに積極的に行う上での具体的な目 標を示すことも求められる。このため,本稿ではその目標を「主導的な企業連携の構 築」としている。企業連携の趣旨は,企業グループ全体での連携を強化したグローバル 企業集団の意味である。つまり,企業グループに属するすべての経営者層と従業員が一 丸となって,この目標を実現できるように努力するガバナンス改善でなければならない という趣旨である。

それでは,ガバナンスが機能不全となっている場合,あるいは,機能不全が疑われる

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152(1382

(8)

場合,具体的にどのようにガバナンスを改善すべきであろうか。

ガバナンスが機能不全あるいはそれが疑われるケースは,何らかの不正行為が発覚し ている場合であろう。かかるケースがなぜ発生したかの原因を確認しなければならな い。原因には,外観的な原因と実質的な原因の両者が考えられる。

外観的な原因は,ガバナンスの体制・仕組みの整備状況が不適切または不十分なとき に認識できる。ガバナンスの体制や仕組みについて,例えば,ガバナンスが優れている と評価されているヤマハ

4

㈱では,「第

2

図」のようなガバナンス体制の図解が

WEB

上 に示されている。

「第

2

図」に示されたガバナンス体制では,外観的には,ガバナンスの体制・仕組み として重要な問題が認識されない。必要十分な体制が完備されていると考えられる。こ のように十全なガバナンスの体制・仕組みが整備されていたとしても不正が発生すると 仮定すれば,どのような点に問題がありうるであろう

5

か。次節で検討する。

────────────

4 日本取締役協会,「コーポレート・ガバナンス・オブ・ザ・イヤー」の2018年度の最優秀賞「Grand Prize Company」を受賞している。

5 十全なガバナンス体制・仕組みが整備されていたとしても全く不正が生じないとは言えないため,あえ て問題を提起しているのであって,ヤマハ㈱において不正が生じる可能性を論じるものではないことを強 調しておきたい。

2図 ヤマハ㈱の「コーポレートガバナンス体制(2019625日現在)」

(出所)ヤマハ㈱WEB,「コーポレートガバナンス体制」,https : //www.yamaha.com/ja/ir/governance/#

02(2019/12/5)。

コーポレートガバナンスと情報開示の積極性(内藤) 1383)153

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Ⅳ 不正が事前に予防・摘発されず実行される可能性がある原因

ガバナンス体制が十全に整備されていたとしても不正が予防・摘発されず実行されて しまうとすれば,それはどのような原因であろうか。一言で言えば,それはガバナンス 体制が適切に運用されないことである。以下に例示的に指摘する。

(1)不正を犯した経営者層やその共謀・協力者の経営倫理の欠如・コンプライアンス 違反,および,種々関係者の善管注意義務の不十分な履行や懐疑心の欠如

(2)不正を事前に予防または事後的に摘発するうえで,ガバナンス体制・仕組みの機 能状況の不備

◆取締役会の監督機能の欠如

◆監査役・監査役会の監査機能の不全

◆内部統制・統制環境の機能の有効性評価(監査役・内部監査・内部統制監査 人)の不

6

(3)かかる機能状況の不備を生み出す体制・仕組み上の問題の存在

◆経営者への過度の権限集中(例えば,取締役会構成員の報酬決定・人事の掌 握)

◆複数種類のガバナンス社内部署等の責任者が特定の者に集中

◆通常の経理処理を経ない資金移動や別勘定の設置

◆連結・非連結海外子会社・関連会社に対する管理統制の欠如

(4)ガバナンス体制・仕組みの機能状況を重要視せず,制度対応の形式主義となって いる企業風土

◆COSO改正(2013年

5

月)・会社法改正(2014年

6

月)・ガバナンスコード設 定(2016年

6

月)などガバナンス強化の動向を契機としたガバナンスの見直 しのチャンスへの不十分な対応

(5)経営管理と現場とのあつれき(セクショナリズムによる「情報・伝達」機能停 止)

◆「現場」ですべてを処理・対応すると言う考え方がはびこり,経営管理機能に おける情報伝達の不十分さ

────────────

6 内部統制には,従業員の不正・誤謬を防止・摘発する仕組み・機能だけでなく,経営者の不正・誤謬を 防止・摘発する仕組み・機能が含まれる。ここで言う統制環境は後者の意味で用いている。

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154(1384

(10)

Ⅴ 必要なガバナンス機能を有効に実現させるための ガバナンス体制の改善案

前節で指摘したガバナンス機能の有効な発現を阻害する原因を防止するために,ガバ ナンス体制はどのように構築しておくべきであろうか。特に,監査役監査設置会社にお いて不正の問題が発生したケースでは,ガバナンス体制が新たな方向に動き出したとの メッセージを利害関係者やグローバル社会に与えうるような改革が必要であるから,こ の観点での改善案として「第

1

表」のような案が考えられよう。

1表 ガバナンス体制の改善案 ガバナンス

機関・組織 改善案

●執行と監督との分離

●取締役会内部に指名委員会および報酬委員会を諮問 委員会として設置

(ただし,指名委員会等設置会社の場合には,東芝の ガバナンスの不十分さが露呈しているため,その問 題点をクリアしておくことが必要)

●指名委員会等設置会社の場合,取締役の2/3と執行 役(現任・経験者)との兼任禁止(ただし,執行役 会会長および過去6年間に執行役でなかった者を除 く)

●両委員会とも社外取締役の員数を過半数とし,か つ,委員長は社外取締役(社内取締役は執行役員と の兼任を容認)

●社外取締役の独立性と専門性を厳格化

●選解任プロセスおよび報酬決定プロセスに関する情 報提供・開示(透明性確保):

◇取締役会報告

◇株主総会報告事項

◇ガバナンス関連の各種情報においても開示(有価 証券報告書/事業報告/ガバナンス報告書/サス テナビリティ報告書/統合報告書など)

●代表権のある会長・社長の任期制

●ガバナンスの観点から代表権のある会長および社長 について任期制を導入

●任期は原則として13年間,三選禁止。ただし,

26年間担当後,1年更新で最長10年間も可能

●取締役会議長と会長・社長・CEOとの

兼任禁止 ●取締役会規則・内規等関連規定の改訂

●権限集中につながる過去の取締役会決議 の見直し(撤回または条件追加)

●新たなガバナンス体制の制約条件になりうる過去の 取締役会決議の見直し

●取締役・執行役員に対するガバナンス教 育(統制環境の重要性を含む)の徹底

●経営者不正がいかに企業ブランドおよび会社財産の 喪失につながるかを継続して周知徹底

●代表取締役名による役員・従業員への CSRの意義の定期的・継続的発信

●CSRを重視した経営理念・方針を全関係者に周知 徹底し,CSRを尊重する企業文化・風土を醸成

●取締役会の監督機能の検証

●社内委員会に独立的検証委員会設置(本来は,監査 役・監査委員の監査機能)

●外部の検証組織への依頼

コーポレートガバナンスと情報開示の積極性(内藤) 1385)155

(11)

●監査役・監査委員の常勤保持 ●過半数の常勤監査役・監査委員(下記の独立性・専 門性の条件をクリアする必要)

●監査役・監査委員の独立性を徹底

●過半数の社外監査役・社外取締役

●社内監査役・監査委員として,過去6年間における 取締役・執行役員・執行役経験者の就任不可

●監査役・監査委員の専門性を重視

●会計専門性(グローバル連結会計監査の経験のある 公認会計士)

●法務専門性(弁護士)

●経営管理の知識・経験保有者(他企業の取締役経験 者(現任者は不可)または過去6年間において取締 役・執行役員・執行役経験者でない者)

●監査役の場合,独任制の徹底

●監査役監査報告書は監査役毎に個別に作成

●取締役会での不十分な情報共有および不十分な報告 の場合の取締役会議事録への署名・捺印の拒否

●取締役会の監督機能状況の監査(内部統 制監査)

●内部統制は,従業員不正・誤謬の防止・摘発目的 と,経営者不正の防止・摘発目的との区別が重要

●監査役・監査委員は,経営者不正の防止・摘発目的 の内部統制の有効性の監査の実効性を確保

●監査役の場合,監査役室のスタッフ人事 と予算の権限の確保

●取締役会の監督機能の状況を監査することに特化し た職務補助者としての複数のスタッフを監査役の権 限において常置

●取締役会議案・報告案の事前入手 ●関連部署に対する事前ヒアリング

●会社定款・規則の整合性・網羅性の監査

●会社開示情報の適切性の監査

●内部監査機能の分離

●コンプライアンス機能(準拠性監査)と経営助言機 能(経営監査)とを区別し,分離して業務実施

◇前者は外部委託

◇後者は会社内部機関

●両機能の指揮命令・管理・報告の責任者

◇コンプライアンス機 能(準 拠 性 監 査):監 査 役 会・社外監査役・監査委員

◇経営助言機能(経営監査):社内取締役・執行役

●内部統制監査における「統制環境」の運 用状況の監査を重視

●統制環境の運用状況評価にかかる監査要点の点検・

見直し

●連結・非連結海外子会社・関連会社に対 する内部統制の有効性の監査

●内部統制の有効性評価の評価ポイントの 確立

●取締役会への報告だけでなく,監査役会 および会計監査人にも定期的な報告を義 務付け

●有価証券報告書・ガバナンス報告書・事 業報告において,ガバナンスの整備およ び運用状況に関する詳細な説明を記載

●ガバナンス報告が一例

●当該説明には,「取締役会の監督機能の検証」の結 果(社内委員会および外部依頼)を含める

●連結・非連結海外子会社・関連会社に対 する内部統制の確立

●内部統制は経営者不正も対象とすること を役員・従業員に周知徹底するための教 育・研修を定期的・継続的に実施

同志社商学 第71巻 第6号(2020年3月)

156(1386

(12)

●財務報告にかかる内部統制監査における 統制環境の有効性の監査の重要視

●統制環境の運用状況評価にかかる監査要点の毎年の 点検・見直し

●過年度の統制環境の有効性評価を更新するのではな く,毎年度,新規に有効性評価(内部監査による評 価において過年度との変更点のみの確認は不可)

→たとえば,取締役会の開催状況(開催回数/開催 時間/決議事項と報告事項の網羅性/監査役の出 席と発言状況など)は毎年異なり過去の有効性評 価は参考にできない

●非財務報告の適切性・十分性の監査

●監査役・監査委員・内部監査・内部統制委員会から の情報提供

●会社公表情報の点検

●通報窓口を,執行を担当しない社外監査 役・監査委員とすること

「第

1

表」の提案を詳細に説明する紙幅の余裕はないが,監査役会設置会社,監査委 員会等設置会社,指名委員会等設置会社のいずれの機関設計を選択するのかについて,

考察しておきたい。

仮に,従前のガバナンスの機能状況では,監査役会設置会社に期待されたガバナンス 機能の発揮ができていない場合を念頭に,そのようななかでの指名委員会等設置会社へ の移行について吟味する。

この移行には,社内体制の大掛かりな改革と役員・従業員の意識改革が必要である が,それに対応できるかどうかについて,監査役会設置会社においてガバナンス機能が 発揮できていなかったとすれば,不確実性が高い。従前,内部管理に重きを置いていな いことがその背後にあるとすれば,機関設計の変更による実効可能性には疑問符がつく 可能性がある。

他方,指名委員会等設置会社は,ガバナンスの仕組みとして完全であるわけでないに せよ,グローバル経済社会からは理解が得られやすいこと,および,カバナンス改善が ドラスティックに行われることを会社内外へのメッセージとしてアピールし,社員の意 識改革を促し,全社一丸となって会社を変えるという認識をもたらすためには望ましい と考えられる。

指名委員会等設置会社は,業務執行と監督を分離し,業務執行者(執行役)に対する 監督機能(取締役会)を強化することが狙われている機関設計である。「執行と監督と の分離」が望ましいことには言を俟たない。しかし,完全に分離されるかと言えばそう ではない。当該機関設計のもとでの取締役会では,「監督」だけではなく,「執行方針

(経営の基本事項・中長期経営方針)の決定および計算書類の承認」も行われ

7

る。

また,監査委員会を除き,指名委員会と報酬委員会の取締役として執行役が就任で

────────────

7 決定された執行方針のもと,執行役が業務を実施するという点ではスピーディーな業務執行が可能であ る。

コーポレートガバナンスと情報開示の積極性(内藤) 1387)157

(13)

き,この点では,執行と監督は完全に分離されない。つまり,CEOが取締役会議長を 兼務する可能性を排除できない。この可能性は,経営者による不正行為が発生する危険 性を孕んでいる。つまり,取締役は,業務執行の意思決定に参画することになる一方で

「監督」の機能を果たす必要があり,「執行と監督との分離」に矛盾する。

特に,監査委員会の取締役は,①取締役と執行役の職務の執行の監査および監査報告 の作成,②株主総会に提出する会計監査人の選任・解任・不再任に関する事項の決定,

③監査委員による執行役等の行為の差止を行うが,①の取締役の職務の執行の監査には 自らの取締役としての職務の執行(執行方針の決定および計算書類の承認)の監査が含 まれることになる。

「監査」は本来「監督」とは異なり,ガバナンス上の問題を認識・発見し,その是正 を求め,是正が行われず放置される場合には,当該問題を取締役の職務の執行上の問題 として提起する監査役監査報告書により株主総会に報告し,取締役会構成員の指名の妥 当性の議論につなげることにある。

要するに,監査委員会の取締役は,執行方針等の意思決定に参画し,かつ,監督を担 う一方で,執行役のみならず取締役の職務の執行の監査を行うことから,この点で自己 監査となり,取締役会の職務の執行自体をチェックする監査の機能が本来の意味で発揮 されないことになる。

しかし,かかる監査論的な批判は,重要ではない可能性がある。つまり,取締役会全 体で行う執行方針の決定は,執行役会の原案に対して,批判的かつ分析的に検討するも のである。この検討プロセスが十分かつ適切に行われているかどうかについて監査する ものであり,原案内容の妥当性を監査しないとすれば,自己監査の指摘は当たらないこ とになる。また,計算書類の承認について,監査委員たる取締役が監査を実施したのち に承認を行えば,自己監査とはならない。

監査委員会に関する別の論点は,その情報収集能力の問題である。

当該監査委員会の構成員は,全員,非常勤の社外取締役が通例であり,会社法上も常 勤は必須条件とされていない。取締役会の監督機能の発揮状況を監査するためには,た とえ内部監査機能との連携が確保でき,その問題の指摘を認識したとしても,自らが入 手した証拠に基づいて批判的に検証することが必要である。非常勤の社外取締役が入手 可能な情報は,内部監査など社内のガバナンス関係部署からの報告・説明である。常勤 でない場合,かかる報告・説明の真偽を監査委員として自ら検証することができるだけ の時間的・物理的な条件が確保できないのではないかと考えられる。

しかし,この問題は,監査委員たる取締役の職務をどうとらえるかで回避される。つ まり,監査委員自らが監査証拠を収集する部分の関与をどのように設定するかである。

監査委員が監査を専門とする執行役を指名し,重点監査項目を指示し,監査結果の相当

同志社商学 第71巻 第6号(2020年3月)

158(1388

(14)

性を評価することを主な職務とすれば,常勤でなくともこの責任を果たすことが十分可 能である。ただし,監査委員は,常勤である方が望ましいことは言うまでもない。

また,監査委員たる取締役は,グルーバル監査体制の総指揮者として,リスクアプロ ーチ(COSO-ERMに依拠)を駆使した監査を指示・指揮することになる。当該監査に は相当数の人員が必要であるが,これを動員できる権限を有することになり,監査の実 効性を確保できる。これに対して,監査役監査の場合,監査役には人事権や予算執行権 が与えられず,手足として確保される人員・予算には限りがあり,さらに,CEOの協 力がなければ,ガバナンス部署の積極的な協力・連携が得られない場合があり,監査役 監査が

CEO

に依拠してしまう点で独立的評価が阻害される可能性がある。監査委員の 場合にはこの可能性がない。

以上の通り,機関設計上,指名委員会等設置会社の形態にも問題点が認められ,ガバ ナンス上,万全とは言えない点もある。しかし,グローバルな投資社会では当然のこと と受け止められている以上,グローバルな事業活動に比重が大きい会社は,この機関設 計を考慮せざるを得ないであろう。

いずれの機関設計を採用したとしても,グローバルなコーポレートガバナンスの考え 方において,デファクト・スタンダードとなっている

COSO(ただし,米国委員会設置

会社を前提。2013年

5

月改正)が定める,内部統制の

5

構成要素に関する基本原則と 着眼点に照らして,新たなガバナンス体制とその機能が妥当かどうかを示す必要があ る。COSOは,経営者の視点で内部統制機能を説明するのではなく,株主の視点で内部 統制機能を説明しており,統制環境が最重要の構成要素と規定している。本稿で例示的 に提示したガバナンス改善案が,このような考え方に基づく

COSO

の基本原則・着眼 点をクリアしていれば,日本型のガバナンス体制・機関設計であったとしても,グロー バルな理解に耐えうるものと考えられる。

本稿のガバナンス改善提案は,わが国上場会社の大多数が採用している監査役会設置 会社におけるガバナンスが真の機能を発現するうえでの重要な示唆を与えるものであ り,ビジネスがグローバル化しているなかで,企業としてのガバナンスのあり方に資す るものではないかと考えられる。

Ⅵ ガバナンスに優れた企業と情報開示の積極性の相関

ガバナンスが優れた企業の特徴を把握することについて,当該企業は

ROA

も高いと いう実証研究があ

8

る。また,ガバナンスの良い企業を評価・選定する,次のような取り

────────────

8 例えば,藤島裕三〔9〕や松橋渉〔6〕。ROEについては,ガバナンスが優れていればROEも高いと言 う結果が過去に示されている(例えば,伊藤邦雄・加賀谷哲之等〔5〕や藤島裕三〔9〕)。

コーポレートガバナンスと情報開示の積極性(内藤) 1389)159

(15)

組みが行われている。

◇日本取締役協会,「コーポレート・ガバナンス・オブ・ザ・イヤー」(2015/10/2 新

9

設)

◇日本コーポレートガバナンス研究所,「JCGIndex調査」(第一期調査

2002

年〜

2017

年,第二期調査

2019

年以

10

降)

前者のガバナンスの評価・選定方法(2018年度)は次の通りであ

11

る。

審査のポイントは,1)コーポレートガバナンス・コード全則が適用される東証1部上場 企業(約2,000社,201881日現在)の中から,2016年〜2018年を通じて社外取締役3 名以上を選任していた企業625社を対象に,2)稼ぐ力の指標として,非金融 3期平均 ROE 10% 以上,ROA 5% 以上,金融3期平均ROE 10% 以上,ROA 2% 以上,また社会へ の貢献度の指標として時価総額1,000億円以上である企業106社を選びました。

次に加点要素として,3)ガバナンス体制整備の指標として,特定の大株主がいない,開 かれた株主比率(30% 以下),取締役会議長の執行からの分離(社外取締役,非執行=代表 権の有無),独立取締役比率,組織形態,指名・報酬委員会(任意も含む)の設置,4)パフ ォーマンス評価として,みさき投資による経営指標分析を活用,時価総額や営業利益の安定 性などの総合評価を行い,Winner Company 3社を選出。

最後に5)審査委員によるCEOへのインタビュー調査を行い,Grand Prize Company 1 を決定しました。

後者のガバナンスの評価・選定方法は次の通りであ

12

る。

JCGIndexとは,企業にガバナンスおよびマネジメントに関する種々の質問を投げかけ,企

業から返ってきた回答に点数を付け,それを合計した点数を100点満点の数値に変換した指 数です。東証上場会社の代表者に質問票を送付し回答をお願いする調査がJCGIndexサーベ イです。

(中略)

このような良質の経営を実現するためには,企業の経営者に対して明確な企業業績目標を与 えるとともに,経営者がそれを責任もって実現する体制を確保することが不可欠です。この 役割こそ上述の取締役会のガバナンスです。そのためには,経営者である執行役員による業 務執行すなわち経営と取締役会による経営の監督とを明確に分離するとともに,経営の状況 を,株主を始めとする企業のステークホルダーに常に明らかにしておく透明性の確保が重要 です。この観点から,JCGIndex調査においては,「JCGRコーポレートガバナンス原則」に 基づいて,次のような事項に関する質問群を設けました。

────────────

9 日本取締役協会〔12〕。

10 日本コーポレートガバナンス研究所〔11〕。

11 日本取締役協会〔12〕。

12 日本コーポレートガバナンス研究所〔10〕。

同志社商学 第71巻 第6号(2020年3月)

160(1390

(16)

1.経営者のガバナンスに対する姿勢 2.明確な企業業績目標の設定

3.CEOの責任体制の運営

4.独立取締役を中心とする取締役会のメンバー構成 5.委員会構造による取締役会の経営監督機能

6.業績目標を達成するためのCEOの経営執行体制

7.コンプライアンス,内部統制等を柱とするリスクマネジメント 8.IR等の情報活動によるアカウンタビリティの遂行

9.ディスクロージャーによるステークホルダー全般に対する透明性の確保 さらに,これらの事項に関する質問事項を次の4つのカテゴリーに再分類します。

Ⅰ 業績目標と経営者の責任体制

Ⅱ 取締役会の機能と構成

Ⅲ 最高経営責任者の経営執行体制

Ⅳ 株主とのコミュニケーションと透明性

最終的に,4つのカテゴリーの得点を集約してコーポレートガバナンスの状態を表す指標 JCGIndexを算出します。4つのカテゴリーすべてが万全であれば,JCGIndex100であり,

万全に遠いほど0に近づくことになります。

前者の調査は,社外役員の員数や代表取締役の決定方法や財務指標などを選定材料に しており,ガバナンスが優れているかどうか,あるいは,ガバナンスの意識が高いかど うかを直接に確かめたものではない。また,後者の調査は,アンケート調査によるもの で,質問票を見る限り,ガバナンス体制の整備に関する設問が大半であり,運用に関す る設問は設定されていないため,前者と同様に,ガバナンスの優秀さを独立した根拠で 検証していな

13

い。

ガバナンスの優秀さや意識の高さは,ガバナンスの仕組みを整えていることをもって 断言できるわけではない。その仕組みをどのように運用しているかにかかっているから である。上記の調査はこの点で不十分である。しかしながら,一定の選考基準を明確に した上での調査結果は,相対的にガバナンスに優れた企業を示すものとして有用であ る。

それでは,ガバナンスの優秀さを客観的な基準で選別するとすれば,どのような基準 を設定するのがよいであろうか。本稿では,その試みとして,企業の開示の積極性を取 り上げる。開示の積極性は,財務情報にしろ,非財務情報にしろ,情報の裏付けとなる データをいかに収集,整理し,分析するのかに依存している。このような作業は,経営 管理のなかで経理部門が中心となっているものと考えられる。経理部門は,事業活動を 数値に写像し,経営のより有効で効率的な実践に資する提言を他の諸部門になげかける

────────────

13 したがって,両調査とも意味がないと言っているわけではない。ガバナンスの質を確認しようとするア プローチとして評価すべきである。

コーポレートガバナンスと情報開示の積極性(内藤) 1391)161

(17)

機能を有しているからである。

そこで,経理機能の強さを示す調査結果として,「『財務』を経営の武器にしている日 本企業ベスト

10」の企業を代替的に取り上げることとする。これに,上記の

14

2

種類の

調査で選定された企業を加えて,本稿での調査対象とし,「ガバナンスの意識の高い企 業は,企業内容開示に積極的である」という観点を確認する。対象とした企業を整理し たものが,「第

2

表」である。

「企業内容開示に積極的である」ことについて,さまざまな見方ができる。情報の種 類を含めた情報量の多寡,あるいは,情報に記載された内容の詳細さなどが考えられ る。

本稿では,企業内容開示の積極性の表れの一つとして,「統合報告書」を公表してい るかどうかを判断材料とする。統合報告書を開示するためには,社内のシステムが確立 され,それらが適切に運用されていなければ,一定以上の信頼性をもって情報を公表で きないと考えられるからである。

ま た,統 合 報 告 書 は,戦 略,財 務,環 境,ガ バ ナ ン ス,従 業 員 ケ ア,地 域 貢 献,

SDGs

など企業の社会に対する付加価値を明らかにする報告書であることから,企業内 容開示の新たな情報発信媒体として優れている。自社の価値創造プロセスを利害関係 者,特に株主や投資者に伝える意識があれば,統合報告書に財務情報および非財務情報 を集約して記載することにつながるはずである。価値創造は,自社の経営管理やガバナ ンスが適切に行われていなければ実現可能ではない。自社の事業活動のリスクとチャン スを的確にとらえたうえで,ヒト,モノ,カネ,情報を組み合わせて,自社の競争力の 源泉にしたがい事業活動に活かすことにより価値創造が成し遂げられるものであるか ら,このプロセスを統合報告書に整理し,公表することができれば,経営管理やガバナ ンスも一定水準以上であることを暗黙的に主張することにもなる。

さらに,統合報告書は,法定開示書類ではなく,IRの一環として任意開示によるも のであり,企業の自主性次第である。つまり,経営者の意識が如実に表れるものである と同時に,この意識をすぐに実現できるだけの社内体制と企業全体の意識が醸成されて いることを十分に推測させるものと考えられる。ガバナンスに優れた企業であれば,か かる体制や意識は自ずと高次元で存在するであろう。

このような考え方から,以下,統合報告書を

WEB

で開示している会社が,上記の

3

────────────

14 本調査の結果は,フォーブス ジャパン編集部〔3〕と〔4〕に公表されている。その選定基準は,次の 通りである。「フォーブス ジャパン編集部が今回,「『財務』を経営の武器にしている会社」を選定した 基準は,昨年に引き続き,ファイナンスは飛び道具ではなく,経営資源の配分にいかに貢献するか,とい う観点から,1.グローバル対応や高機能化などを狙った組織構築 2.CEOをはじめビジネス側との連 携による企業価値への貢献 3.IRや資金調達などの資本市場との対話,という3つの視点だ」。なお,

経理と財務はその職能が異なるが,経理力が高いかどうかに関する調査を入手できていないため,財務力 に関する調査で代替している。

同志社商学 第71巻 第6号(2020年3月)

162(1392

(18)

2表 調査対象企業一覧 A.日本取締役協会

「コーポレート・ガバナンス・

オブ・ザ・イヤー」

B.日本コーポレートガバナンス研究所

「JCGIndex 第一期・第二期調査」

C. Forbes JAPAN

「ファイナンスが優れた日本企業ベスト10」

(優れたCFOCEOとともに 経営をリードする10社)

調査 年度

直近年度 の調査 会社数

・東証1部上場企業(約 2,000社,201881 日現在)の中から,2016 年〜2018年 を 通 じ て 社 外取締役3名以上を選任 していた企業625

調査 年度

直近年度 の調査 会社数

・東証1部上場企業 2,148社(201992 日時点)に対するアンケ ート調査に回答した165

調査 年度

直近年度 の調査 会社数

・言及なし

2018 1 ヤマハ 2019 1 ソニー 2017 1 ソフトバンクグループ

2 TDK 2 日立製作所 2 キリン

2 明治ホールディングス 3 エーザイ 3 ソニー

大臣賞 オムロン 4 コニカミノルタ 4 アシックス

都知事賞大和ハウス工業 5 ヤマトホールディングス 5 花王

2017 1 花王 6 荏原製作所 6 京セラ

2 参天製薬 7 日本板硝子 7 エーザイ

2 第一三共 8 いちよし証券 8 豊田通商

都知事賞野村総合研究所 9 テルモ 9 オムロン

2016 1 HOYA 10オムロン 10小松製作所

2 アステラス製薬 10横河電機 2016 1 日立製作所

2 花王 2017 1 ソニー 2 ソニー

2015 1 ブリヂストン 2 いちよし証券 3 花王

2 小松製作所 3 エーザイ 4 村田製作所

2 HOYA 4 日立製作所 5 京セラ

2 りそなホールディングス 5 コニカミノルタ 6 エーザイ

2 良品計画 6 オムロン 7 オムロン

*4年間での合計社数:15社(重複除く) 7 スミダコーポレーション 8 トヨタ自動車

*数字は各調査での順位

**Bでは,上位50社の社名が公表さ れているが,ここでは上位10社を 掲記

8 −(会社名公表非承認) 9 小松製作所 9 −(会社名公表非承認) 10信越化学

10いちご *2年間での合計社数:14社(重複除く)

2016 1 ソニー

2 日立製作所 3 オムロン ABCで選別された会社

4 いちよし証券 AとBとで選別された会社

5 エーザイ AとCとで選別された会社

5 スミダコーポレーション BとCとで選別された会社

5 コニカミノルタ 5 −(会社名公表非承認)

9 いちご 10パルコ

10りそなホールディングス 10−(会社名公表非承認)

2015 1 ソニー

2 日立製作所 3 オムロン

4 スミダコーポレーション 5 いちよし証券

6 日本板硝子 7 コニカミノルタ 7 ニッセンホールディングス 9 ヒューリック

10エーザイ

*4年間での合計社数:17社(重複除く)

コーポレートガバナンスと情報開示の積極性(内藤) 1393)163

(19)

3ガバナンスの意識が高い企業候補 統合報告書等 の公表

A.日本取締役協会 「コーポレート・ガバナンス・オブ・ザ・イヤー」統合報告書等 の公表 B.日本コーポレートガバナンス研究所 JCGIndex第一期・第二期調査」統合報告書等 の公表

C.ForbesJAPAN 「ファイナンスが優れた 日本企業ベスト10 2018201720162015201920172016201520172016 ソニーソニーソニーソニーソニーソニー 日立製作所日立製作所日立製作所日立製作所日立製作所 エーザイエーザイエーザイエーザイエーザイエーザイ オムロンオムロンオムロンオムロンオムロンオムロンオムロン 花王花王花王花王 小松製作所小松製作所小松製作所 りそなホールデ ィングスりそなホールデ ィングス ヤマハコニカミノルタコニカミノルタコニカミノルタコニカミノルタキリン サステナビリテ ィレポートのみTDKCG報告書のみいちよし証券いちよし証券いちよし証券いちよし証券CSRポート のみソフトバンクグ ループ 明治ホールディ ングス日本板硝子日本板硝子サステナビリテ ィレポートのみアシックス 大和ハウス工業荏原製作所CSRポート のみ京セラ京セラ CSRポート のみ参天製薬ヤマトホールデ ィングス豊田通商 第一三共テルモ村田製作所 野村総合研究所横河電機サステナビリテ ィレポートのみトヨタ自動車 サステナビリテ ィ・WEBのみHOYAHOYACSR・WEBスミダコーポレ ーションスミダコーポレ ーションスミダコーポレ ーションサステナビリテ ィレポートのみ信越化学 CSR・WEBアステラス製薬CSR・WEBいちごいちご149社(64.3%) サステナビリテ ィレポートのみブリヂストンパルコ 該当なし**良品計画CSR・WEBニッセンホール ディングス 159社(60.0%)CSR のみヒューリック 1712社(70.6%)合計○重複除く,全38社中22 (57.9%) *統合報告書(名称が異なっている場合を含む)が公表されていれば「○」を記載している。統合報告書がない場合,CSRリポート,サステナビリティレポート,コーポレートガバナンスCG報告書をカウントしている。 **CSRCGに関するWEB情報はあるが報告書としてのまとまりがないため「該当なし」とした。

同志社商学 第71巻 第6号(2020年3月)

164(1394

参照

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