- 29 -
指定難病に該当する可能性のある小児慢性特定疾病についての検討
研究分担者 盛一 享德(国立成育医療研究センター小児慢性特定疾病情報室 室長)
研究協力者 桑原絵里加(国立成育医療研究センター 小児慢性特定疾病情報室 研究員)
研究協力者
森本 康子(国立成育医療研究センター 小児 慢性特定疾病情報室 研究員)
A. 研究目的
小児慢性特定疾病対策(小慢)は、1968(昭 和43)年の先天性代謝異常の医療給付事業を嚆 矢とし、以降、複数の医療給付事業や治療研究 事業の統合に、新たに加わった疾患を含め、
1974(昭和49)年に創設された小児慢性特定疾 研究要旨
小児慢性特定疾病対策制度の創設当初と比べ、医療技術の進歩等による患児の生命予後の 改善がみられる一方で、療養の長期化による児や家族の負担増大が指摘されるようになって いる。また対象年齢である20歳を超えた年齢で、公的医療費助成制度がなくなり、医療費の 増大とそれによる最善の治療を断念する事例や、登録が中断される事により、疾患の原因や長 期予後の解明が難しくなるといった問題が挙げられている。
慢性疾患(難病)の公的医療費助成制度である特定疾病医療費助成(指定難病)は、対象年 齢に制限がないため、20 歳を迎えた場合の助成制度として利用が期待されるが、指定難病と 小児慢性特定疾病は根拠法を別にする異なる制度であるため、必ずしも対になる制度とはなっ ておらず、20歳を超えると公的医療費助成制度が利用できない疾病が存在する。
本研究は、小児慢性特定疾病対策の対象疾病のうち、指定難病とはなっていない疾病につい て、その理由の整理を行った。包括的疾病を含む小児慢性特定疾病の対象 819 疾病のうち、
208疾病が、現在指定難病と対応しておらず、かつ過去に指定難病への追加要望が提出されて いた。指定難病の要件を満たさないと判断された理由の検証では、「診断に関し客観的な指標 による一定の基準が定まっていること」を満たさないと判断された理由が最多で 116 疾病あ り、次いで、「長期の療養を必要とすること」を満たさないと判断された理由が59疾病あっ た。これらの指摘がなされた背景には、小児期に発症し診断される疾病では、成人に対する診 断基準や成人期の長期予後が明確でないがゆえ、指定難病の要件を満たさないと判断された 可能性があると推察された。いずれも指定難病の要件判断に必要となる知見の蓄積のために、
疫学研究等の推進が必要と考えられた。
令和2年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業))
「成育医療からみた小児慢性特定疾病対策の在り方に関する研究」 分担研究報告書
- 30 - 患治療研究事業を起源とする。その後、定期的 に制度の見直しが行われ、現在では包括的疾病 を除き16疾患群762疾病が対象とされている。
本制度は、児童福祉法を根拠とし、公平で安定 的な医療費助成の仕組みの構築と、研究の推進 および医療の質の向上、慢性疾患児の特性を踏 まえた健全育成・社会参加の促進、地域関係者 が一体となった自立支援の充実を目標に定め ている。
制度の創設当初と比べ、医療技術の進歩等に より患児の生命予後は改善が見られている 1)。 一方で、療養の長期化による子どもや家族の負 担増大が指摘されるようになってきた。一部の 疾病では、小慢の対象年齢である 20 歳を超え た年齢で、公的医療費助成制度がなくなり、長 期にわたる高額な医療費の負担や、疾患の原因 や予後解明につながらないことが問題として 挙げられている。2015年(平成27年)、国は、
「小児慢性特定疾病その他の疾病にかかって いることにより長期にわたり療養を必要とす る児童等の健全な育成に係る施策の推進を図 るための基本的な方針」(平成27年厚生労働省 告示第431号)において、小児慢性特定疾病で あって、指定難病の要件を満たすものについて、
切れ目のない医療費助成が受けられるよう、成 人後も医療費助成の対象とするよう検討する と定めた。
慢性疾患の公的医療費助成制度の一つに、指 定難病に対する特定疾病医療費助成があり、対 象年齢に制限のない制度として利用されてい る。指定難病と対応のある小慢対象疾病につい ては、20歳を超えても指定難病として医療費助 成が受けられる可能性がある。令和3年3月末 現在、333 疾病に対して指定難病の公的医療費 が助成され、研究が推進されている。
指定難病と小慢は対比されることが多いが、
対象疾病の要件は、小慢が(1)慢性に経過する疾 病である、(2)生命を長期に脅かす疾病である、
(3)症状や治療が長期にわたって生活の質を低 下させる疾病である、(4)長期にわたって高額な
医療費の負担が続く疾病である、という4つを 満たすことが要件であることに対し、指定難病 は、他の施策体系が樹立されていない疾病を対 象とし、(1)発病の機構が明らかでない、(2)治療 方法が確立していない、(3)希少な疾病である、
(4)長期の療養を必要とする、(5)患者数が本邦に おいて一定の人数に達しない、(6)客観的な診断 基準が確立している、という6つを満たすこと が要件であり、必ずしも対になる制度ではない。
これまで、小慢の対象疾病であるが、指定難病 に追加を要望したものの、指定難病の要件を満 たさないと判断された疾患も存在する。
本研究は、慢性疾患への長期安定した医療費 助成制度の構築と、疾病に対する原因および予 後解明につなげることを目的に、小慢対象疾病 のうち、過去に指定難病への追加要望が行われ たが、指定難病として要件を満たさないと判断 された疾病を抽出し、その理由について整理を 行った。
B. 研究方法
検討は、以下のように行った。
1.小慢の対象疾病について、指定難病との対応 の有無を分類
2.指定難病との対応のない疾病について、既に 別の施策体系が用意されていると判断される 悪性新生物を除外した上で、指定難病への追 加要望の提出の有無を分類
3.厚生科学審議会(疾病対策部会指定難病検討 委員会)において指定難病の要件を満たさな いと判断することが妥当とされた疾病の抽出 4.追加要望が提出された疾病のうち、指定難病
の要件を満たさないと判断することが妥当と された疾病について、その理由を分類
方法の詳細
1.小慢の対象疾病について、指定難病との対応 の有無を分類
小慢の対象疾病、すなわち包括的疾病を含め た819疾病について、既に指定難病として対応
- 31 - している疾病と、一部対応している疾病、対応 していない疾病に分類した。
2.指定難病との対応のない疾病について、悪性 新生物を除外した上で、指定難病への追加要 望の提出の有無を分類
小慢の対象疾病のうち指定難病との対応の ない疾病から、既に別の施策体系が用意されて いると判断される悪性新生物を除外した。次い で1.で抽出した指定難病への追加要望が提出さ れた疾病一覧に該当する疾病としない疾病を 分類した。
3.指定難病への追加要望が提出された疾病およ び指定難病の要件を満たさないと判断された 疾病の抽出
2014年(平成26年)7月以降、2019年3月 まで、厚生科学審議会(疾病対策部会指定難病 検討委員会)から公表されている、指定難病の 検討に関する資料 2)より、指定難病への追加要 望のあった疾病として、「研究班や関連学会か ら情報提供のあった疾病」一覧と、「委員会と して指定難病の要件を満たしていないと判断 することが妥当とされた疾病」一覧を全て抽出 した。
4.追加要望が提出された疾病のうち、指定難病 の要件を満たさないと判断することが妥当と された疾病について、その理由を分類
指定難病の要件を満たさないと判断するこ とが妥当とされた疾病については、厚生科学審 議会でその判断の理由を以下の5つに分類され ている。
(1)発症の機構が明らかでない、または他の施策 体系が樹立していない
(2)治療方法が確立していない (3)長期の療養を必要とする
(4)患者数が本邦において一定の人数に達しな い
(5)診断に関し客観的な指標による一定の基準
が定まっている
各疾病について、上記の理由を分類、集計し た。なお、指定難病への追加要望が複数回提出 された疾病が存在することなどのため、理由が 複数挙げられた場合は、それぞれの理由につい て集計した。
(倫理面の配慮)
本研究は、公開されている情報を元に検討を 行っており、特別な倫理的配慮は必要ないもの と判断した。
C. 研究結果
小慢対象 819疾病(包括的疾病を含む)につい て、これまでの要望状況とその結果をまとめたとこ ろ、指定難病と対応があるものが381疾病(46.5%)、
一部対応があるものが 32 疾病(3.9%)、指定難病 と対応がないものは406疾病(49.6%)であった(図 1)。
指定難病になっていない 406 疾病のうち、悪性 新生物が 91 疾病含まれていた。小児のがんは小 児期では小慢対象疾病であるものの、20 歳以降 はがん対策推進基本計画の取り組みがあることか ら、特定疾病医療費助成を受けることができない 3)。 このため、本検討ではこれを除外した 315 疾病に ついて検討を行った。指定難病との対応のない 315疾病のうち、過去に要望の無かったものは107 疾病であった。そのうち慢性心疾患が47疾病で最 も多く、先天性心疾患が多くを占めていた。次いで、
包括的疾病が28疾病(心疾患の包括的疾病3疾 病を含む)であった。
指定難病と対応がなく、かつ過去に要望のあっ た 208 疾病について、指定難病要件を満たさない と判断された理由を検証したところ、「(1)発症の機 構が明かでない、または他の施策体系が樹立して いない」ことを満たさないと判断されたものが 43 疾 病、「(2)治療方法が確立していない」ことを満たさ ないと判断されたものが8疾病、「(3)長期の療養を 必要とすること」を満たさないと判断されたものが 59 疾病、「(4)患者数が本邦において一定の人数
- 32 - に達しない」ことを満たさないと判断されたものが 15 疾病、「(5)診断に関し客観的な指標による一定 の基準が定まっていること」を満たさないと判断さ れたものが116疾病であった。208疾病中33疾病 で、指定難病の要件を複数満たさないと判断され ていた。また、69疾病で、要望書が 2 回以上提出 されていた。
D. 考察
令和2年3月末現在の小慢対象疾病のうち、指 定難病と何らかの対応があった疾病は約半数あり、
2014 年からの 5 年間で 208 疾病について、指定 難病への追加要望が提出されていた。
指定難病への要件を満たさないと判断された理 由の中で最も多かったものは、「診断に関し客観的 な指標による一定の基準が定まっていること」を満 たしていないためであった。これは、小児期に発症 し診断され、成人期まで経過を追跡することが可 能な疾病に対して指摘された可能性があり、成人 期に初発して診断される症例が少ないため、成人 に対する診断基準が曖昧であることが理由の一つ であると推察された。
次いで、「長期の療養の必要性を満たさない」と いう理由が多く見られたが、小児期発症例の長期 予後に関する知見が不足しているために、成人期 の病態の重症度が明確ではなく、要件を満たさな いと判断された可能性があると思われた。
このように、過去に指定難病を要望し要件を満 たさないと判断された疾患の半数以上は、疫学研 究等の疾病研究による知見の収集により、再検討 の余地があると思われた。一方で、小児期発症例 が中心となる疾病では、難病研究班の公募申請が 認められづらいことも現実問題として存在し、また 多くが希少疾病であることから、発症から十数年以 上を経過した遠隔期の症例を多く集めることの難し さも改めて浮き彫りとなった。
指定難病への追加要望は、関係学会の承認の
もと難病研究班から提出され、指定難病検討委 員会にて検討され、厚生科学審議会疾病対策部 会の審議を経たうえで指定される。検討委員会 や審議会の議論で必要となる情報を提示する ためには、難病研究班が設置されること、遠隔 期予後を捉えるための疫学研究の推進など、指 定難病の要件判断に必要となる知見を集積す ることが必要であると考えられた。
E. 結論
小慢対象疾病のうち、指定難病との対応のな い疾病について、指定難病の追加要望の提出の 有無と、指定難病の要件を満たさないと判断さ れた理由を分析した。小児期に発症することの 多い疾病に対する、長期予後や成人期の診断基 準などの知見を蓄積することの必要性が示唆 された。
F. 研究発表
なし。
G. 知的財産権の出願・登録状況(予定を含 む。)
特許取得/実用新案登録/その他 なし/なし/なし
参考文献
1)加藤忠明. 近年の保健・医療の進歩と小児保 健の課題.小児保健研究.2008;67(5):701-705.
2)厚生労働省ホームページ 厚生科学審議会
(疾病対策部会指定難病検討委員会)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi- kousei_206844.html (最終閲覧日2021年4月 8日)
3)樋口明子,移行期医療に対する患者会の取り 組み 小児がんにおける移行(トランジション).
小児科臨床.2016;69(4):519-526.
- 33 -
図1. 小児慢性特定疾病の対象疾病と指定難病との対応