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一斉授業における自律的な日本語学習への試み

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一斉授業における自律的な日本語学習への試み

―自己分析作業の過程から―

白頭 宏美 ・ 久保田 美映

要 旨

 本研究では、一斉シラバス型の日本語授業における学習者の自律性を促す試みを報告す る。また、意識調査から一斉授業において学習者が自律的に学習を進めるために必要なこ とを考察する。実践は大学交換留学生の初級後半クラスで行い、通常の一斉クラス授業の 一部を利用し、定期的に学生が自己分析をする機会を設けた。自己分析の目的は、以下の 2点である。1)自己のニーズに気づき目標を持って学習を進めること、2)自分の力で日 本語運用力を分析し、振り返ることで自己を客観的にみつめること。実践では、自己分析 することで目標がより具体的に設定できた、振り返りの機会を持つことで、より客観的に 自己評価ができた、などの事例が見られた。そして、意識調査の結果から、自己分析作業 は今後の学習を自律的に進める一助となることが示唆された。

【キーワード】 自律性、自己分析、自己評価、振り返り、一斉シラバス型授業

1.はじめに

 近年、日本語学習者に対し自律的な学習が注目されている。学習者の自律性とは、「学 習者が自分で自分の学習の理由あるいは目的と内容、方法に関して選択を行い、その選択 に基づいた計画を実行し、結果を評価できる能力である」(青木 2005)。こうした考えのもと、

自律的な学習は主に個別対応型の授業で取り入れられ、実践されている。

 しかし、自律的な学習は、個別対応型授業のみではなく様々な形態の授業においても取 り入れることが可能である。教科書を用いた一斉シラバス型授業においても、自己の学習 目的を意識し、自己分析をする機会を設けることで自律的な学習の支援ができないかと考 え、実践を試みた。

 桜美林大学日本語プログラム「グループさくら」(2007)では、自律学習の理念を取り入れ、

学生自身が学習目標の設定、学習リソースの選定、自己評価などを行い学習の自己管理を 行うという個別対応型の授業例を紹介している。そして、自律的な学習には「意識する」「計 画する」「実行する」「振り返る」の4つの段階が大切であるとしている。

 そこで、本実践では自律的な学習を進める上で最初に必要となる「意識する」こと、そし て、次の学習の段階へ進むために必要な「振り返る」ことに注目した。この2つの作業はど のような形態の授業においても取り入れられるものであり、自律的な学習を進める上で、

まず必要となることである。そして、「意識する」こと「振り返る」ことに共通する「自己評価」

を取り入れた。自己評価することで、現時点での日本語運用力を学習者が把握し、学習者

̶事例報告̶

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自身による目標設定や、目標を設定するために自分に必要な日本語を意識することを促し た。そして、学習者が自己評価、目標設定、振り返りなどを行うための一連の作業を「自 己分析」とし、自己分析を行うための記入シート「自己分析シート」を考案した。

 本稿では、「自己分析シート」への記入を通し、学習者が自己の日本語能力を評価し、目 標を設定した過程を事例をもとに検証する。

2.先行研究

 これまでも、学習者が自己評価を行う利点やその効果などについては研究されており、

自己評価は、「自律学習促進の必要不可欠な要素」として位置づけられている(小山 1996)。

青木(2000)は、「メタ認知(metacognition)の働きにより学習過程を意識化させるもの」、

また「学習者に自律を促す指導方法」として自己評価は授業活動に広く取り入れられている としている。

 また、いくつかの実践も報告されている。土屋(2008)は、学習者主体で行う自律的な授 業において、学習者が記録する「自己評価シート」(学習者が授業後に書く学習記録)に注 目し、自己評価シートへの記入を通して、学習者が学習の過程で起こっている変化を意識 しているという。古市ほか(2007)では、「学習目標チャート」を用い、学習者自身が日本 語能力の長所、短所などに気づくことによって学習目標設定につながったという報告もあ る。

 このように、自己評価し、学習者が自身の日本語能力に気づくことが、自律的な学習を 進めるうえで重要な意味を持つことがわかる。しかし、一斉授業において自律的な学習を 取り入れている実践例の報告はまだ少ない。

3.実践方法 3. 1 実践の目的

 自律的な学習を進めるためには、まず、自己を客観的に見つめ、自分に何が必要か把握 し目標を設定することが大切である(桜美林大学日本語プログラム「グループさくら」

2007)。自律性の中でも、特に学生が「自分の状況を認識する」「自分が求めていることを意 識する」ことを重視し、授業では、通常の文型導入や会話練習などのクラス活動を行うと ともに、定期的に以下の2点を目的とした実践を試みた。

 1) 学生が自己のニーズに気づき目標を持って学習を進めること

 2) 学生が自分の力で日本語運用力を分析し、振り返ることで自己を客観的にみつめる      こと

3. 2 実践の方法

 対象は、大学の交換留学生として半年あるいは一年の期間で来日した初級後半の学生で、

出身国は主に米国である。1クラスの学生数は学期によって異なるが、9 〜 15 名である。

 実践方法は資料1のとおりである。学期初め、学期途中、学期末の3回、自己分析シー

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トに記入する時間を設けた。これらは、授業内で行ったが、通常は教科書などを用いた一 斉授業を行っている。また、学期途中と学期末には学生と個別セッション(注1)を持ち、

自己分析シートに記入した項目についての確認や、学習方法などのカウンセリングを行っ た。なお、シートへの記入や個別セッションは、初級レベルでは日本語ですべてを表現す ることに限界があるため、日本語と英語を併用した。

 本実践は、2007 年秋学期に開始し、現在も継続しているが、本稿では主に 2008 年度春 学期の学生のデータを扱う。

資料1:実践方法

項目 作業の目的 内容

学 期 初 め

教科書・コース 分析シート

教科書の内容やコースシラバ スを確認し、自己の目標やニ ーズと結びつける。

以下の項目を記入。

・このクラスで勉強したら、何がで きるようになるか

・自分の「できないところ」は教科 書のどの部分を勉強すればできる ようになるか

・ 自分の今学期の目標設定 自己分析シート コースで扱う学習項目につい

て、現時点での日本語レベル を自己評価する。

学習項目のリストを見、各項目につ いて4段階で自己評価。なぜそう思 うか、理由も記入。

学 期 途 中

自己分析シート

学期初めと現時点と比べて、

何ができるようになったか、

把握する。

学習項目のリストに対し、学期初め を振り返っての自己評価と、現時点 の自己評価を、4段階で評価。

自己分析シート

学期初めに設定した日本語学 習の目標を再検討し、改めて 目標を設定する。

現時点でできるようになったこと、

まだできないことなどを振り返り、

改めて自己の目標を記入する。

個別セッション 学習を振り返り、自己評価、

学習目標、学習方法について 確認する。

これまでの自己分析シートを振り返 り、学生と担当教師が個別に話し合 う。

学 期 末

自己分析シート 学期初めと現時点と比べて、

何ができるようになったか、

把握する。

また、一学期全体の学習を振 り返る。

学習項目のリストに対し、学期初め を振り返っての自己評価と、現時点 での自己評価を、4段階で評価。ま た、目標設定や学習方法について振 り返り、自己評価。

意識調査 自己分析シートへの記入や個 別セッションなどの実践から 自分の日本語学習への姿勢や 考えの変化を調査する。

5項目について、6段階評価で記入。

理由やコメントなども記入。

個別セッション 一学期間の学習を振り返り、

今後の日本語学習について確 認する。

自己分析シートや意識調査の記入事 項について学生と担当教師が個別に 話し合う。

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4.事例報告

4. 1 自己のニーズの意識化

 学期初めに「教科書・コース分析シート」への記入を行った。これは桜美林大学日本語プ ログラム「グループさくら」(2007)を参考に、学生のニーズと一斉授業の学習内容を結び つけられるよう作成したものである。

 資料2は、学期初めの「教科書・コース分析シート」に学生Aが記入したものである。

資料2:学生A「教科書・コース分析シート」より

Q2.  What do you want to be able to do using Japanese?(日本語を使って何ができる   ようになりたいですか。)

  ・use honorifics and humble form with little difficulty    ・read more kanji

Q4.  What part of the textbook corresponds to what you want to be able to do using    Japanese?(日本語を使ってできるようになりたいことは、教科書のどの部分を勉   強すればできるようになると思いますか。)

   Lesson14: having a job interview    Lesson19: arranging a meeting

   Lesson21: things done by someone/problems

 学生Aは、日本語でできるようになりたいこととして「尊敬語や謙譲語をあまり困難な く使う」「漢字をもっと読む」ことを挙げた。そして、教科書の項目の学習項目から自分が 特に必要だと感じる学習項目が含まれている課を取り出し、できるようになりたいことと 結びつけた。

 このように、学生Aは学期初めに自分にとって必要な日本語は何かと考え、そして、自 分が必要としていることと自分が履修している一斉授業の内容と関係があることを意識化 することができた。

 一方、学期初めには「自分ができるようになりたいことはこの教科書にはない」とする学 生もいた。そのような学生には、学期途中の個別セッションにおいて、クラスで学んだこ とと自分が必要なことをどのように結び付けたらいいか話し合った。その上で、改めて自 分に必要な日本語は何か考えるように促した。

 また、「教科書・コース分析シート」への記入は目標を設定する準備としても有用であっ た。自分に必要なことを考え、目標を設定する作業は、特に学習の目的が不明確な場合や 自分で学習目標を設定する経験がない場合は戸惑うことがある。そのような際、教科書が リソースとして目標を設定する助けとなるであろう。

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̶ 154 ̶ ̶ 155 ̶ 4. 2 目標の意識化

 学期初めに、各学生は学期終了時の目標を「自己分析シート」に記入した。

 学生Bは、学期初めの目標が「pass all the kanji test」であった。学期途中の個別セッシ ョンの際、この目標に設定した理由を尋ねると、「because ○○大学で I didn’t pass all the  kanji.(出身大学でいつも漢字テストに合格しなかったため)」ということであった。そこ で学生 B には、何のために漢字を勉強したいか、漢字を覚えて何をしたいかを問いかけた。

B は最終的に「漢字を覚えて看板や簡単な読み物などが読めるようになる」という目標を立 てた。このように、学習目標設定においては、日本語を使って何をしたいかという意識す ることが大切であると考える。

 学生は、学期初めには必ずしも明確な目標を持っているとは限らない。また、これまで の実践から、目標が漠然としている場合や、「毎日宿題をする」といった一見具体的であっ ても、目標ではなく学習内容がそのまま目標となっている場合は、コース終了後に目標を 達成できなかった、あるいは学習に満足していないと感じた学生が多いという結果が出て いる。そのため、学期初めにたてた目標を学期途中の個別セッションで再検討し、必要な 場合はより具体的な目標を立てるように導いた。また、その目標を達成するために、どの ような学習方法をとればいいかを話し合い、目標をより明確なものにした。

 しかし、中には学期末まで具体的な目標を設定できない学生もいた。そのような学生に は、個別セッションで問いかけを続けながらも、具体的な目標を設定することを強いるこ とは避けた。あくまでも学生自身が自己のニーズに気づき、学生自身で目標を設定するこ とが重要であると考えたためである。学期中に具体的な目標を設定できなかった場合も、

学期末にはどのような目標がよかったか気づいた学生もおり、それも学習のプロセスであ ると考える。

4. 3 自己評価

4. 3. 1 自己の日本語力の意識化

 学期初め、学期途中、学期末の「自己分析シート」では現在の日本語力の自己評価を行っ た。評価は4段階で、4:よくできる、3:少し間違えるができる、2:たくさん間違え るがなんとかできる、1:全然できない、である。

 資料3は、学期初めより学期途中・学期末の方が自己評価が上がった例である。

 学生 C のように、学期初めより学期途中や学期末では評価が上がる場合が多い。学習す ることで日本語力があがったということを、自己の日本語力を可視化することで改めて認 識したといえる。また、学習項目の中の「②電話をする」で、学習をして身に付いたものの、

未だ自己評価がそれほど高くない理由として、「I have no chance to do it.(あまり使う機 会がなかった)」とコメントしている。自己評価に対して、理由付けも行うことでより明確 に自己分析をし、どうすればできるようになるのかも考えるよう促した。

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資料3:学生C「自己分析シートⅠ」(学期途中)より

4. 3. 2 自己評価の修正

 資料4は、学期途中の自己分析シートで学期初めを振り返り、学期初め・学期途中の自 己評価を修正した例である。

資料4:学生D「自己分析シート」(学期初め)より

 (学期途中)より

 学生 D は、ほとんどの項目に対し、学期初めの自己評価よりも再度学期初めを振り返っ た際のほうが評価が低く、現在は一番高い4と評価している。その理由について、学期途 中の個別セッションで資料5のように述べている。

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資料5:学生D「個別セッション」(学期途中)より       (T:教師の発話、S:学生の発話)

 

T:(学期初めは「休みにすることを話す」は「4:よくできる」と評価し、学期途中の 自己評価では、学期初めは2、現在は4になったと評価したことに対し、)少し数 字が違いますけどこれはどうしてですか。

 S: 4 月はこれできます。でも、クラスの時はこれはちょっと違います。私の学校は

ちょっと違います。そして what I know now is different.

 T:何が違いますか。たとえば?

 S:I thought it was one way. するつもり、or 行きたい . …(中略)

  I thought I knew it before, and then I realized, oh, this is slightly deferent from  what I thought it was.  

 T:じゃあ何を? What did you think it was?

 S:I thought it was 行きたい、or するつもり、but is 何々しよう、何々よう。新し

い expression を勉強しました。

 T:今は全部 4 ですね。今ぜんぶできると思っていますか。

 S:うん、今毎日 most of these, I do.

   

 以前の知識と現在知っていることは異なり、現在は知識が増えた分、より上手に日本語 が使えるようになったと感じている。そして、学期初めはよくできると評価していたが、

学期途中で以前はそれほどできていなかったことにも気づいた。

 学生Dのように、学期途中で自己評価を修正した学生は多い。日本語力を自己評価する 作業が、振り返りの場となり、自己の日本語力を改めて捉えなおすきっかけとなったと考 えられる。

 学習者が自己の学習を振り返ることは、学習者の自己分析を促し、自身で学習目標を定 め、今後の予定を立てるといった自律性を促す利点があると言われている(川村 2005)。学 習を振り返ることによって、改めて自己を客観的に捉え、より的確な自己分析ができるよ うになると言えよう。

4. 4  学期末振り返り

 学期末に、これまでの学習を振り返り、評価を行った。以下の項目に対し、学生自身が その評価をパーセンテージで表した(資料6参照)。

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資料6:「自己分析シート」学期末より

桜美林大学日本語プログラム「グループさくら」2007 より筆者一部改訂

4. 4. 1 目標設定、学習の自己評価

 今学期、目標がうまく設定できたかという問いかけに対し、およそ 7 割が「うまく設定 できた(自己評価 80%以上)」と評価している。うまく設定できた学生は、コメント欄に

「I think my goals were feasible and within reach(自分の目標は適当で実行可能な目標だ った)」と記入し、学習を振り返っている。また、今学期の目標については「できました」

としながらも「ほんとうのゴールはまだ」と、日本語の目標と短期間の目標の違いを認識し、

最終的な目標と今学期の目標の2つを意識していた学生もいた。

 一方、目標がうまく設定できなかった学生の中には、「My goal was too high(自分の目 標は高すぎた)」とコメントした学生がいた。この学生は、目標を「improve  speaking  and  writing(話すのと書くのを上達する)」と設定していた。学期末の個別セッションで、こ のことについて「that’s  impossible  in  4 ヶ月(4 ヶ月で達成するのは無理だ)」、「as  far  as  my  goal,  I  can  never  say  I’ve  completed  it.(このゴールでは、いつになっても達成でき たということは言えない)」と振り返っている。また、帰国後、ホテルのレストランで働く ため、レストランで「use really polite speech(本当に丁寧な話し方をする)」のような具体 的な目標にすべきであったとコメントした。この学生は、今回は目標をうまく設定できな かったものの、今後は実現したいことを見つけ学習を進めていくことができるのではない だろうか。

 また、期待通りの成果が得られたか、目標に向けて積極的に取り組んだかという項目は、

目標がうまく設定できたと分析した学生は高く、設定できなかったとした学生は低かった。

このことから、学期初めまたは学期途中の目標設定が、その後の自己の学習態度や評価に 大きく影響していることがわかる。

4. 4. 2 学習満足度

 学期末の自己分析シートでは、今学期の自分の学習に対する満足度を 100%を満点とし てパーセンテージで評価した。その結果、満足度 90%以上が 6 名いたものの、30%以下も 2 名いた。満足度が高かった学生はその理由を「I  learned  many  new  things  and  try  to  implement  them(新しいことをたくさん学び、それを使おうと試みた)」と学習に積極的

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に取り組んだためとしている。「I can effectively speak with my friends for the most part

(たいていの場合、友人と効果的に話すことができる)」「the  environment  makes  me  speak  more(環境のおかげでたくさん話すようになった)」と、自己の目標達成度や環境 から満足度を考えた学生もいる。

 それに対し、満足度が低かった学生は、「I couldn’t understand the book too much.(教 科書の内容がよく理解できなかった)」と、自分が目標としていた学習内容の満足度ではな く、授業で用いた教科書の内容に対する理解度の低さを理由として挙げている。これは自 分が目標としていた学習内容の満足度ではなく、学習全体の満足度について述べたもので あるが、この学生は、目標設定や学習の自己評価も非常に低かった。目標自体も「To  effectively  talk  to  a  Japanese  person(日本人に効果的に話す)」であり、明確な目標を設 定することができなかった学生である。このことからも、自己のニーズに気づき、一斉授 業と自己の目標を結びつけて学習を管理していくことが、日本語学習の満足度につながる と言えるのではないだろうか。

5.実践結果

 学期末に、自己分析シート等への記入や個別セッションをしたことについて、学生に対 し意識調査を行った。回答は6段階評価で、6は「当てはまる」、1は「全然当てはまらない」

である。また、評価の理由やコメントも記入し、学期末の個別セッションの中でそのコメ ントについても確認した。以下、質問項目ごとに結果を報告する。

5. 1 目標設定

 質問項目:「自己分析シートを記入したり、個別セッションを行ったことは、目標を立て        ることに役立ったか」

 11 人中7人(63%)が当てはまる:5または6と答えた。

 本実践を始める以前は、日本語を勉強する目的は、「特にない」「なんとなく」という学生 が多く、そのような学生のモチベーションをいかに高めるかということも課題であった。

今回の実践を通して、6割が「一連の活動が自分の目標を立てることに役立った」と答えて いる。

 また、4.4.1 でも、漠然とした目標ではなく、具体的な目標を立てるべきであったと、自 らの気づきについてコメントした学生の例をあげた。これは、実際に目標をたて、一学期 間取り組んだ経験から出た気づきであり、今後の学生自身の学習に役立てられるのではな いだろうか。

5. 2  日本語運用力の自己評価

 質問項目:「自己分析シートに記入したり、個別セッションを行ったことで客観的に自己        評価ができたか」

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 全員が自己評価はできた(4以上)と回答した。また、自己分析シートを用いることは、

「I now have a better idea of which areas I am weak in and thus need to work on(どの 部分がまだ弱いか意識することができ、今後の学習に役立てられる)」との記入もあり、同 様のコメントも複数見られた。

 しかし、「sometimes I put myself in a higher level of comprehension than I ought to  be,  other  times,  I  place  myself  too  low  so  I  feel  I  don’t  have  a  accurate  feel  of  my  Japanese  language  skill.(実際よりも高く自己を評価するときもあり、低く評価しすぎて しまうときもあり、自分の日本語運用力について正しく判断できていると感じない)」と、

自己評価は難しいものだというコメントをした学生もいた。ただ、今回の実践では、学生 が正しく自己評価をしているかというよりは、自己評価を行うことにより、自己の日本語 レベルや学習を振り返るということを重視している。学習の振り返りを積み重ねていく上 で、客観的に自己評価をする力が向上していくと思われる。

5. 3 学習管理

 質問項目:今後自分で学習を管理、計画、評価できそうだ

 11 人中7人(63%)が当てはまる:5または6と答え、今後も自分で学習を管理、計画、

評価できそうだと答えた学生が多かった。その中には、「As  my  home  university  offers  no further Japanese, I will have to study on my own until I reach graduate school.(帰国 後、出身大学では中級レベル以上の日本語クラスがないため、学習は自分で管理しなけれ ばならい)」という学生もいる。そのような学生が今後も自律的に学習を進められるように なることは望ましい。

 また、「I know specifically what I need to focus on to make sure I understand stuff,  and because I know my trouble area, what things I need to look for.(自分に必要な日本 語は何かわかったため、今後何を目標にすべきかわかった)」とコメントをした学生もいた。

繰り返し自己分析を行ったことで、自分に必要な日本語について客観的に見つめることが できたと考えられる。

6.結論

 一斉授業における自律的な日本語学習への試みは、意識調査や個別セッションの結果か らある程度効果があったといえる。学生は自己分析することで自己のニーズや目標を意識 化し、日本語力についてもより客観的に自己評価できるようになった事例がみられた。ま た、振り返りの機会を持つことにより、自己の学習を意識化し、学習管理につながる道筋 を見出した。教師は常に学習の場に存在しているとは限らない。学習を自己管理していく うえでも、自律性は一斉授業のような一般的に行われている学習形態においても今後強く 求められていくことではないだろうか。

 また、一斉授業で自己分析作業を取り入れる際の利点は、以下の2点が挙げられる。第

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一に、通常のクラス授業の多くは教科書を使用することである。そのため、自己分析作業 に戸惑った場合も教科書の助けを得ることができる。教科書を見ることで目標設定や自分 に必要な日本語を明確にしていくことも可能である。第二に、一斉授業の中に自律的な学 習を進めるための過程が組み込まれていることである。学習を「意識する」「振り返る」な どの過程を含め、教師は通常のクラス授業の中で日本語学習をトータルで支援していくこ とになる。学習者と接する機会も多いため、学習者の目標を意識し適宜アドバイスをする 機会が多くある。

 一方、今後に向けて課題も残されている。第一に、一斉授業の中で自己分析作業を行う 場合の実施方法である。一斉授業のもと学習を進めるのを好み、自己評価に意味を見出さ ない学生もおり、慎重な姿勢で臨む必要がある。第二に、自律性を促すことと一斉授業の 中における教師の支援のバランスである。定期試験でよい成績をとることのみを目標とし て掲げる学生もいた。一斉授業での頻出する新規学習事項を熱心に学習するうち、本来の 自己の目標に意味を見出さなくなった学生もいた。そのため、現在は学習を振り返り自己 の学習を意識することを目的とし、ポートフォリオの活用を模索している。今後は、その ような観点からも検討していきたい。

付記

 本研究は文部科学省の科学研究費補助金(平成 20 年度,基盤研究 C,課題番号 18520412「自 律学習を基盤とした個別対応型日本語授業の基礎的研究および実践モデルの構築」研究代 表者齋藤伸子)からの助成を受けたものである。

(1) 桜美林大学日本語プログラム「グループさくら」(2007)では、教師が学習者と学習に ついて話し合い、学習カウンセリングやコンサルテーションをする活動を、その活動形 式に着目して「個別セッション」と呼んでいる。本稿でもこのような活動を「個別セッシ ョン」と呼ぶこととする。

参考文献

青木直子(2005)「自律学習」日本語教育学会編『新版日本語教育辞典』大修館書店 . 733-755 青木ひろみ(2000)「自律学習を促す自己評価活動―認知アプローチを取り入れた日本語教

育実習指導の試み」『日本語教育論集』16 号 , 65-84, 国立国語研究所日本語教育センター 桜美林大学日本語プログラム「グループさくら」(2007)『自律を目指すことばの学習―さく

ら先生のチュートリアル』凡人社

川村千絵(2005)「作文クラスにおけるポートフォリオ評価の実践―学習者の内省活動に関 するケーススタディ―」『日本語教育』125 号 , 126-135, 日本語教育学会

小山悟(1996)「自律学習促進の一助としての自己評価」『日本語教育』88 号 , 91-103, 日本語 教育学会

(12)

土屋真理子(2008)「自律的な学習を目指した教室授業における自己評価シートの役割」『桜 美林大学言語教育論叢』第4号 , 1-13, 桜美林大学言語教育研究所

古市由美子 ; 菅谷有子 ; 岩崎夕子 ; 山﨑佳子(2007)「「学習目標チャート Target Skill Chart」

を用いた自己評価による意識化―工学系大学院生を対象として」『小出記念日本語教育 研究会論文集』15, 71-85, 小出記念日本語教育研究会

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