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自己開示の動機と抵抗感が精神的健康に及ぼす影響 一 対 面 と
LINE上 の 自 己 開 示 一
人間教育専攻
臨床心理士養成コース 前 野 稜 賀
1.問題と目的
自己開示とは自分がどのような人物であるか を他者に言語的に伝える行為であり(榎本,
1997)
, 自己開示を行うことは精神的健康に効 果があると言われている(丸山・今川,
2001 ) 。
自己開示には自分のことを話したいという動 機(以下,自己開示動機と記,JZs:)がある(榎本,
1989)
。小林・宮原
(2012)は孤独感を感じてい る人は,受容的なサポートを期待して自己開示
していると報告している。
一方,自己開示にはその行為に伴う抵抗感 (以下,自己開示抵抗感と記述)がある(遠藤,
1995)
。命・松井
(2012)は 自 己 解 決 」 を 基 にした自己開示の抑制は精神的健康によいが,
「あきらめ」や「他者への配慮」は精神的健康 を害していることを明らかにした。
他者へ打ち明けたいとし、う欲求があるにも関 わらず打ち明けられないということが精神的健 康に負の影響を与えていると考えられる。
以上のことから,自己開示と精神的健康の関 連を明らかにするためには,自己開示劃麟と自
己開示抵拘惑の
2つの要因を考慮する必要が考 えられる。そこで本研究では,自己開示動機と 自己開示抵腕惑が精神的健康にどのような影響 を及ぼしているかを明らかにすることを目的す る 。
さらに,近年,
SNSの普及によりインターネ ットを用いた自己開示をする機会が増えてきて
指 導 教 員 久 米 禎 子
いることから,
SNSの一形態である
LINEを 取り上げ,対面での自己開示と比較検討する。
野口
(2011)は,ネット上での自己開示は対面 の代替ではなく,現実の関係を強化する役割を 果たしていると述べている。このことから,
LINE
上での自己開示の動機や抵抗感は,対面 によるものとは異なっていることが予想される。
2.
方法
私立
A大学および国立
B大学の大学生
208名(男性
:92名,女性:
109名,不明
:7名,平均 年齢:
19.87歳 , S
lJ.1 . 1 9 )の協力を得て,
2016年
7月
1日から
7月
15日の間に,講義時間の 一部を使用し,集団形式で、調査を行った。質問 紙は自己開示動機尺度(榎本,
1989),自己開示 抵抗感尺度(遠藤,
1995),精神的健康尺度
(KlO) (Kessler et al.古)
11ら訳
2003),フェイ スシートの
4種類で構成され,自己開示動機尺 度と自己開示抵抑惑尺度は対面用と
LINE用の
2種類の場面を設定した。
3.
結果
自己開示動機尺度および自己開示抵抑惑尺度
の各下位尺度について
Cronbackの
α係数を算
出し,信頼性の確認で、きたもののみをその後の
分析に使用した。自己開示軍撤は「相談的自己
開示動機(以下,相談的動機J , r 理解・共感的
自己開示動機(以下,朝平・共感的動機」自己
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開示抵抑惑は「プライド喪失J,I否定的評価J, 対面ではイメージ変化への抵抗感が精神的健康
「内容特殊性JIイメージ変化」の信頼性が石信忍 に負の影響を与えるが, LINEではそのような
できた。 影響はなかった。
自己開示動機と自己開示抵抑惑が精神的健康 に及ぼす影響ついて検討するために,自己開示 動機と自己開示抵抗感,およびその2つの交互 作用項を説明変数,精神的健康を目的変数とす るステッフ。ワイズ法による重回帰分析を行った。
まず,男性について,対面の場合, I瑚手・共 感的動機jと「イメージ変化」の交互作用項が 有意であり理解・共感的動機Jを群分け変数 とする単純千頃斜検定を行った結果理解・共感 的動機」が高い場合にのみ, Iイメージ変化」が 高いほど有意に精神的健康の値が増加していた。
また, LINEの場合相談的動機」と「プライ ド喪失Jの交互作用項が有意であり, I相談的動 機Jを群分け変数とする単純傾斜検定を行った 結 果 相 談 的 動 機 」 の 高 さ に 関 係 な く プ ラ イド、喪失」による精神的健康の値は有意に変化 しなかった。 したがって,男性では,対面で自 己開示を行う場合,理解や共感を得たいという 動機が高いにも関わらず,自己開示する際にイ メージの変化による抵抑惑を感じることが精神 的健康を害していることが示された。
一方,女性の場合,対面においてもLINEに おいても車蝦と抵抗惑の交互作用項が有意では なかった。したがって,女性は話したいけど話 せないとし、う葛藤が精神的健康を害していると
いうことは示されなかった。また,女性の場合,
動機と抵抑惑の相関につし、して, LINEにおけ る「イメージ変化」でのみ有意に正の相闘があ
り,対面では葛藤が起きていなかった。
対面とLINEを比較すると,十生別に関係なく,
対面の場合, Iイメージ変化」が有意で、あったが,
LINEでは,有意で、はなかった。したがって,
4.考察
男性では,対面で自己開示することによって 理解や共感を得たいにもかかわらず,それによ ってイメージが変わってしまうことを恐れると いう葛藤が健康を害しているということが示さ れたが,女性では,動機と抵抗感との聞に起こ る葛藤は精神的健康に影響を与えず,対面では その葛藤事態が起こらないことが示された。
Derlega
&
Ch訂kin(1975)によると,一般に,男性は無口で自分の弱し、面は表面に出さず,女 性は多弁で自分の弱し、面もついつい出してしま うとしづ社会通念があると言われており,男性 の場合,理解や共感してもらいたいとしづ気持 ちが強くある場合,男性性というイメージから 外れやすく,葛藤が起こりやすいのではなし、か と考えられる。 一方,女性はそのリスクが少な く,葛藤が起こりにくいのではなし、かと考えら れる。
対面とLINEの自己開示を比較した場合,対 面ではイメージ変化への抵抗感が精神的健康を 害していたが,LINEで、はその影響はなかった。
原田 (1997)によると,コンピューターを介し
た自己開示は,対面とは異なり,自分の発言を 十分に編集してからの発話が可能であり,非言 語の部分もコントロールしやすく,自らの意思 によって自己呈示することができる。そのため,
LINEでは安全な形で自己開示でき,イメージ の変化を恐れなくて済むのではなし、かと考えら れる。また,女性はLINE上でしか葛藤を抱い ていなかったため,その葛藤は対処可能であり,
精神的健康に影響しなかったと考えられる。