日本 の 女 子 マ ラ ソ ン選 手 の コ ンデ ィ シ ョニ ン グ に 関 す る研 究 (第2報)
現 在 お よ び マ ラ ソ ン の ト レー ニ ン グ開 始 後 の月 経 状 況 を 中 心 と して 阿 部 正 臣 ・梶 原 洋 子 ・〆木 一 郎
A Study of Conditioning of Marathon Runner for Women in Japan. (No. 2)
A Investigation about Menstrual condition from the beginning to present con- dition of training in the marathon
Masaomi Abe, Yoko Kajiwara, Ichiro Shimeki
1は じめ に
本研 究 第1報 に お いて は,日 本 の女 子 マ ラ ソ ン選 手 を対 象 に,マ ラ ソ ン に対 す る取 り組 み の 実 態 を把 握 す る と と もに,女 子 マ ラ ソ ン 選 手 の競 技 力 向 上 や普 及 へ の手 掛 りを得 る 目 的 か ら,マ ラ ソ ン に対 す る意 識,日 常 生 活 の 状 況,ト レー ニ ン グの状 況等 につ い て 検 討 を 試 み た 。
本研 究 第2報 に お い て は,第1報 に引 き続 き同 じ女 子 マ ラソ ン選 手 を対 象 に,ト レー ニ ン グ と月 経周 期 との 関連 につ い て検 討 を試 み た い。
月 経 は女 子 選 手 に と って切 り離 せ ない 問題 で あ り,運 動 や ス ポ ー ツが女 子 選 手 の 月 経状 況 に及 ぼす 影 響 につ い て は い ろ い ろ報 告 され て い る 。 た とえ ば,器 械 体 操 の選 手 や陸 上 競 技 の 中 ・長 距 離 選 手,バ レリー ナ は,一 般 女 子 に比べ て初 経 の遅 れ や月 経 不順 ・無 月経 等 の月 経 異 常 が 多 い こ と。 ま た,ト レー ニ ング 量 の多 い 長 距 離 選手 や ジ ョギ ン グ愛好 者 の よ うな持 久 的 運 動 を行 う者 に月 経 異 常 が 多 い こ とな どは よ く知 られ て い る1)2)3)…°°8)。
そ こ で,本 研 究 第2報 で は,激 しい トレー ニ ング を 日常 継 続 的 に行 って い る女 子 マ ラ ソ
ン選 手 の 現 在 の 月 経 状 況 お よ び マ ラ ソ ン ト レ ーニ ング 開始 後 の月 経 状 況 に対 す る影響 に つ い て,年 齢 ・競 技 記 録 と の関 係 か ら分析 し その 実 態 を把 握 し よ う とす る もので あ る。
1調 査方法
本 調 査 は 第4回(1982年)第5回(1983 年)東 京 女 子 国 際 マ ラ ソ ン大 会 お よび 第2回
(1983年)大 阪 女 子 マ ラ ソ ン大 会 に出場 の 日 本 選 手120名 を対 象 に,レ ー ス 後,質 問 紙 法
に よ る郵 送 の ア ンケ ー ト調 査 を実 施 し,回 答 の得 られ た90名 をサ ンプ ル と して 調 査 分 析 し た もの で あ る(回 収 率75.0%)。
調 査 内 容 1.現 在 の 月 経状 況
月経 周 期 の 順 ・不順,月 経 随伴 症 状,月 経 随伴 症 状 出現 の 時 期 とそ の 症状 の 程 度,生 理 用 品 の使 用 状 況 等 。
2.マ ラ ソ ンの トレーニ ン グ開 始 後 の 月経 状 況
月 経 周期 の順 ・不 順,月 経 随 伴 症 状,月 経 期 間,経 血量,ト レー ニ ング量 の増 減 に伴 う 月経 周 期 へ の 影響,月 経 期 間 中 の トレーニ ン グ軽 減 の有 無 等 。
本研 究 の 記 録 別 の分 析 で は,3°10'未 満 を
「A群 」(28名) ,そ れ 以 上 を 「B群 」(62名) と した 。
対 象 者 の 内 訳 に つ い て は,図1〜 図4に 示 す と お りで あ る 。
皿 結 果 と考 察 1.現 在 の 月経 状 況 (1)現在の 月経周期
月 経 周 期 に関 す る問 題 点 の 一つ と して,ま ず,手 始 め に,現 在 の 月経 状 況 につ い て,そ の規 則 性,つ ま り,月 経周 期 の順 ・不 順 につ い て調 査 した(図5)。
全 体 的 に は,現 在 月 経 が 「規 則 的 で あ る」
(61.1%),次 回 の 月 経 周 期 の 発 来 を予 想 で き る 「た ま に周 期 が 乱 れ る」(20.0%)を 含 め て 月経 力剛頂調 で あ る とす る と,選 手 の8割 に順 調 な月 経 周 期 が 発 来 して い る。 しか し, 現 在 「月 経 が な い」(10.0%),「 月 経 が た ま に しか な い」(2.2%),さ ら に,「 月 経 周 期 が 何 日か,ま っ た く見 当 が つ か な い」(6.7%) 無 月 経 や希 発 月 経 等 の 月経 周 期 の異 常 は,選 手 の約2割 に発 現 して い る 。
こ の月 経 異 常 の 発 現 頻 度 は,女 子 ス ポ ー ッ 選 手 を対 象 と した,山 川 らの報 告 よ りか な り の低 率 に な る。2)4)その 理 由 と して は,本 調査 の対 象 の平 均 年 齢(31.5歳 ±8.83)が 高 い こ
とが 影 響 してい る と思 わ れ る。
月 経 異 常 の 発 現 は,経 年 齢 に よ る影 響 の 大 きい こ とが 報 告 され て い るが5),本 調 査 にお い て も,年 齢 別 にみ る と,そ の傾 向 が うか が われ,年 齢 が 高 い 選 手 ほ ど月 経 異 常 の 発現 頻 度 が 低 い 。 換 言 す るな らば,月 経 異 常 の発 現 鐔 度 は年 齢 の 低 い 選手 ほ ど高 く,20歳 代 で は
3割,20歳 未 満 で1ま5割 に も達 す る。
な お,本 調査 の20歳 未満 の月 経 異 常 の発 現 頻 度 は,新 体 操 や 器械 体 操 の選 手 に ほぼ 匹敵 す る5)。
記 録 別 で は,B群 よ りA群 に月経 異常 の発 現 頻 度 が 高 い 。 この理 由 と して は,A群 がB 群 よ り有 意 に平均 年 齢 が低 い こ と,ま た,ト レーニ ン グ量,す な わ ち,走 行 距 離 が 有 意 に 多 い こ とが 関係 して い る と思 われ る(表1)。
(2)月経 周期に伴 う身体的変化
月 経 中 や 月経 の発 来 が 近 づ くと,情 緒不 安
表1年 齢 お よび 月間走 行距 離
年齢(齢) 走 り込み期の平均 月間走行距離(km)
A群 B群 A群 B群
平 均 値 26.5
**
34.1
**
464.6 404.0
S.D. 8.6 7.9 137.3 127.8
P<0.01
定 に な っ た り,憂 うつ に な っ た り,ま た,頭 痛,腹 痛 等 女 性 の 心 身 の コ ン デ ィ シ ョ ン に 微
妙 な 変化 が起 こ る こ とが 知 られ て い る。 本調 査 にお い て は,月 経 周 期 に伴 う変化 の うち, 特 に,身 体 的変 化 のみ に着 目 して 調 査 した 。
月 経 周期 に伴 う身体 的変 化,す な わ ち,月 経 随 伴 症状(図6)は,全 体 的 に は選 手 の8 割 に も発 現 して い るが,他 の研 究 者 の報 告 に 比 べ て,著 しい差 異 は認 め られ な か った2)5) 8)0
具 体 的 な 月 経 随 伴 症 状(表2)の 発 現 頻 度 は,全 体 的 に は腹 痛(66.2%),腰 痛(61.5%) が 特 に 高 く,次 い で,体 の だ る さ(46.2%),
表2月 経 随伴症 状(身 体 的 変化)の 種類 (/)
項 目 全 体 年 齢RU 記 録 別
20歳 未 満 20歳 代 30歳 代 40歳 代 A群 B群
1.乳 房痛 43.1 37.5 33.3 46.4 54.5 38.9 44.7
2.腹 痛 66.2 100.0 72.2 64.3 36.4 55.6 70.2
3.腰 痛 61.5 100.0 64.7 57.1 45.5 61.1 61.7
4.頭 痛 9.2 12.5 11.1 7.1 9.1 0 12.8
5.体 が だ る い 46.2 50.0 22.2 57.1 54.5 38.9 ,・
6.体 が熱 っ ぽ い 7.7 0 16.7 7.1 9.1 5.6 8.5
7.便 秘 7.7 12.5 5.6 7.1 9.1 0 10.6
8.そ の 他 16.9 0 22.2 21.4 0 16.9 17.0
重 答
乳房 痛(43.1%)で あ る。
年齢 別 で は,月 経 随伴 症状 の発 現 頻 度 は, 20歳 代 と30歳 代 が 高 い 傾 向 にあ る。具 体 的 な 月 経 随伴 症 状 と して は,ど の 年齢 も全 体 と同 様,腹 痛 ・腰 痛 ・体 の だ る さ ・乳房 痛 の4症 状 の 発 現頻 度 が 高 い。 しか し,20歳 未満 ・20 歳 代 で は腹 痛 と腰 痛 に そ の頻 度 が 集 中 し,30 歳 代 ・40歳代 で は上 記 の4症 状 に分 散 す る と い う よ うに,年 齢 に よ り若 干 の差 異 が 認 め ら れ た。
記 録 別 で は,両 群 問 に差 異 は認 め られ なか っ た。
なお,本 調査 に お い て極 め て大 まか で あ る が,月 経 随伴 症 状 の発 現 時 期 につ い て も,月
経 前 ・月 経 期 間 中 に 大 別 して 調 査 した(図 7)0
月 経 随伴 症 状 は,全 体 的 に は選 手 の7割 が 月 経 開始 前 か ら,3割 は月 経 期 間 中 に発 現 し て い る。 年齢 別 には,20歳 代 を 除 く年 齢 で は 月 経 前 か ら月 経 随伴 症 状 が 発 現 す る選 手 が7
〜9割 と多 い の に対 して,20歳 代 で は月 経 前 と月 経 期 間 中が各 々5割 とな っ て い る。
腹 痛 ・腰 痛 等 月経 随伴 症 状 の程 度(図8) は,全 体 的 に は 「辛 い が 我 慢 で き る」
(51.4%)と 「余 り気 に な らな い」(45.7%) が 各 々5割 で あ る。 しか し,厂 日常 生 活 が 送 れ な い程 辛 い 」 とい う月経 困難 症 の選 手 は極 め て少 な い ものの,女 子 マ ラ ソ ン選 手 中2名
一97
図8月 経随 伴症状 の程 度 含 まれ て い る。 月 経 随伴 症 状 の程 度 に は年 齢
に よ る差 異 が 認 め られ,20歳 未 満 で は月 経 困 難 症 に陥 らない まで も,他 の年 齢 よ り症状 の 重 い選 手 が か な り多 くみ られ る が,実 際 に は,
トレー ニ ングの 量 や 強 度 をお とす とい う軽 減 措 置 は約2割 しか 講 じて い な い 。
記 録 別 で はA群 よ りB群 に症 状 の重 い選 手 が多 い。
(3)生理用品 の使用状況
マ ラ ソ ンは他 の種 目 と異 な り,長 時 間 に わ た る運 動 で あ る。 最 近,マ ラ ソ ン レー ス 中 に 起 きた ア クシ デ ン トか ら考 えて も,女 子 マ ラ ソ ン選手 に と って は,普 段 の 日常 生 活 や練 習 時,あ るい は,大 会 時,さ ら に,経 血量 の多 少 に よ って,生 理 用 品使 用 へ の 配 慮 が 異 な っ て くる もの と思 わ れ る。 こ こで は,全 体 お よ び年 齢 別 に生 理用 品 の使 用 状 況 を検 討 して み た(表3)。
女 子 マ ラ ソ ン選手 が使 用 して い る生 理用 品 は,普 段 の時 に は,全 体 的 に も,ま た,年 齢 別 にみ て もナ プキ ンの み の使 用 が 約7〜8割
と圧 倒 的 に多 い 。 しか し,ナ プ キ ンの み の使 用 は練 習 時(64.1%)や 大 会 時(48.1%)に
よ っ て異 な り,特 に,大 会 時 に は ナ プキ ンの み の使 用 が顕 著 に減少 し,そ れ に代 って,タ ンポ ンの み の使 用(25.3%)や ナ プ キ ンと タ
ンポ ンの併 用(22.8%)が 増 加 して くる。 ま た,経 血 量 の 多 い 時 に も同様 の傾 向が み られ るが,練 習 時 ・大 会 時 とは異 な り,ナ プ キ ン と タ ンポ ンの併 用(35.0%)が 顕 著 に増 加 し て くる。 こ の よ う に,選 手 の使 用 す る生 理 用 品 は選 手 の お か れた状 況 に よ って大 き く異 な って くる 。
しか し,年 齢 別 にみ る と,20歳 未満 で は練 習 時 ・大会 時等 に よ って 生 理 用 品 の使 用 状 況 は左 右 され る こ とは ほ とん どな く,一 貫 して,
表3生 理用 品の使 用状 況
3‑1普 段 の時 (/)
項 目 全体 年 齢 別
2味 満 2曦代 30歳代 4嗷代 1.ナ プ キ ンの み 73.1 80.0 66.7 .. 76.5 2.タ ン ポ ン の み 3.8 0 4.8 0 11.8 3.ナ プキンとタンポンの併用 9.0 10.0 4.7 15.6 il.7 4.ナ プキンとタンポンの使い分け 14.1 10.0 23.8 15.6 0
3‑2大 会 時 (/〉
項 目 全体 年 齢 別
20未満 2穢代 30歳代 40歳代 1.ナ プ キ ン の み 48.1 90.0 47.6 35.5 47.1 2.タ ン ポ ン の み 25.3 10.0 28.6 29.0 23.5 3.ナ プキンとタンポンの併用 22.8 0 19.0 32.3 23.5 4.ナ プキンとタンポンの使い分け 3.8 0 4.8 3:2 5.9
一98一
3‑3練 習 時 (/)
項 目 全体 年 齢 別
20未満 20歳代 30歳代 40歳代 1.ナ プ キ ンの み 64.1 90.0 57.2 53.3 76.5 2.タ ン ポ ン の み 12.8 0 23.8 10.0 11.8 3.ナ プキ ンとタンポンの併用 15.4 0 9.5 26.7 11.7 4.ナ プキンとタンポンの使い分け 7.7 10.0 9.5 10.0 0
3‑4経 血 量の多 い時 (/)
項 目 全体 年 齢 別
2味満 2嗷代 3曦代 40歳代 1.ナ プ キ ンの み 52.5 80.0 47.6 46.9 52.9 2.タ ン ポ ン の み 6.3 0 14.3 3.1 5.9 3.ナ プキ ンとタンポンの併用 35.0 20.0 28.6 40.6 41.2 4.ナ プキンとタンポンの使い分け 6.2 0 9.5 9.4 0
ナ プ キ ンのみ の使 用 が 顕 著 で あ る。 これ に対 して他 の年 齢 で は,全 体 と同様 の 傾 向 が み ら れ,タ ンポ ンの み の使 用 お よ びナ プ キ ン とタ ンポ ンの 併用 や そ の使 い 分 け を含 む タ ンポ ン の使 用 が,普 段 の時 に比 べ て,大 会 時等 で は 増加 し,場 に応 じた 使 用状 況 とな って い る 。
2.ト レー ニ ン グの 月 経状 況 に対 す る影 響 冒頭 で も述 べ た よ うに,運 動 や ス ポ ー ッが 女 子 選 手 の月 経 状 況 に 影響 を及 ぼす とい う報 告 は多 い。 本 研 究 第2報 に お い て は,マ ラ ソ
ンの トレー ニ ング 開始 後 の 月 経状 況 に対 す る 影響 に つ い て も,さ らに検 討 して み た。
(1)月経周期へ の影響
マ ラソ ンの トレー ニ ン グ に よ る月 経 周 期 へ の影 響(図9)は,全 体 的 に は 「不 規 則 に な った」 と 「月 経 が な くな った」 等 は選 手 の 約 5割 に発 現 し,そ の ほ とん どは月 経 周 期 の不 規 則 性 で あ っ た。 また 無 月経 に 陥 る 頻 度 は1 割 で あ っ た。
こ の結 果 は,ト レ ーニ ング実 施 に 関連 した 月 経 異 常 の発 現 は,持 久 的運 動 で顕 著 で あ る
とす る報 告 と よ く一 致 す る。
本 調 査 の 女 子 マ ラ ソ ン選 手 の月 経 異 常 の発 現 頻 度 は これ まで の報 告 に比 べ て 高 い方 に属 す る2)5)6)8)。
月 経 異常 の発 現 頻 度 に は年 齢 に よ る差 異 が 認 め られ,特 に20歳 未 満(84.6%)が 顕 著 に 高 く,加 齢 に伴 って低 下 す る傾 向 が み られ た。
進 藤 らは,40〜50歳 の 中年 女 性 の 調 査 か ら, 運 動(ト レー ニ ング)が か え って 月 経 異 常 を 正 常 月経 へ と も どす と指 摘 して い るが,本 調 査 の40歳 代(23.5%)・30歳 代(14.7%)・
20歳 代(8.0%)に も,同 様 な 傾 向 が み られ た。
記 録 別 で は,月 経 異 常 の発 現 頻 度 はA群 が
・ ・
B群 よ り も高 い。
本 調 査 に お いて は,特 に,ト レーニ ン グ量 の増 減 が 月経 周 期 に影 響 を及 ぼ したか ど うか に つ い て も(図10),選 手 の こ れ ま で の ト
レ ーニ ン グ過 程 にお け る経 験 に照 して 回答 し て も ら った と こ ろ,選 手 の約3割 が マ ラ ソ ン の 月 経 周 期 へ の 影 響 を認 め て お り,選 手 は特 に トレ ーニ ン グ量 の増 大 が 月経 周 期 の延 長 ・ 不 規 則 ・短 縮 等 を招 くと考 えて い る(表4)。
% 25.674.4
TT
影響 があった 影響 がなかった
図ioト レ ー ニ ン グ量 の 増 大 の 月経 周 期 へ の 影 響 の 有 無
表4ト レー ニ ング量 の増大 の 月経 周期へ の影 響
こ の よ うに,ト レー ニ ング量 の増 大 が月 経 周 期 に影 響 を与 え る よ うで あ るが,こ の こ と
を さ らに 明確 にす る た め に,女 子 マ ラ ソ ン選 手 の 走 り込 み期(鍛 練 期)の 平 均 的 な 週 当 た りの 走行 距離 と月経 異 常 の発 現 頻 度 との 関係
につ い て 検 討 した(図11,図12)。
本 調 査 で は,月 経異 常 は週 当 た りの走 行 距 離 が70kmを 越 え る選 手 の4〜6割 に発 現 し て い る。Feichtら が指 摘 して い る よ うに,本 調 査 に お いて も,月 経 異常 は週 当 た りの走 行 距 離 が多 くな る ほ ど発 現 頻 度 が 高 くな る傾 向 に あ るこ とが 認 め られ た 。
以 上 の よ う に,ト レー ニ ン グ 量(走 行 距
図11週 当 一吐の走 行距 離 と月経異 常 の発現 頻 度 との 関係
図12走 行 距離 と月経異 常 との 関係
離)の 増 大 が 月経 異 常 の 発現 の原 因 とな る こ とが 示 唆 され たが,ト レー ニ ング量(走 行 距 離)の 増 大 の ほ か,体 脂肪 量 の減 少,精 神 的 ス トレス等 も これ に深 く関 って い る もの と思 わ れ る1)2)4)9)。
(2)月経 期間の 日数 および経血 量へ の影響
マ ラ ソ ン トレーニ ン グが 月経 期 間へ 影 響 を 及 ぼす か 否 か につ い て は(図13),影 響 が な い とす る選 手 は全 体 の6割 で あ る。 影 響 が あ る とす る選 手 で は,月 経期 間 の短 縮 す る者 が 延 長 す る者 よ り も多 い 。
こ れ を年 齢 別 ・記 録 別 に み る と,月 経 期 間 へ の 影 響 が あ る とす る選 手 は20歳 未 満 が 少 な いの に対 して,他 の年 齢 で は4〜5割 に も達 す る。 しか し,月 経 期 間へ の 影 響 は い ず れ の 年 齢 も短 縮 す る者 が延 長 す る者 よ り多 い 。 記 録 別 で は,比 率 に若 干 の差 異 はあ るが,両 群
と も 同様 の傾 向 が み られ た。
経 血 量 へ の 影 響 に つ い て は(図14),全 体 的 に は影 響 が な い とす る選 手 は6割 で あ る。
経血 量 に影響 が あ る とす る選 手 につ い て み て み る と,経 血 量 の減 少 す る者 が 増加 す る 者 よ
一101一
り も多 い 。
年 齢 別 で は経 血 量 へ の影 響 が な い とす る選 手 は,40歳 代 と20歳 未 満 が 特 に多 く,次 い で, 30歳 代,20歳 代 で あ り,そ の 範 囲 は4〜8割
と年 齢 に よる差 異 が 認 め ら れた 。 経 血 量 に影 響 が あ る とす る選 手 で は,40歳 代 を除 くどの 年 齢 も経 血 量 の減 少 す る者 が 増 加 す る者 よ り 多 く,20歳 代 に顕 著 で あ っ た。
記 録 別 で は,両 群 間 に差 異 は認 め られ なか っ た。
(3)月経随伴症状への影響
マ ラ ソ ンの トレ ーニ ン グの 月 経 随伴 症 状 へ の影 響 に つ い て は(図15),影 響 が あ る とす る選 手 で は,月 経 随 伴 症 状 の 軽 減 され た 者 が 重 症 に陥 る者 よ り も多 く,年 齢 別 ・記 録 別 で
も同様 の傾 向 が認 め られ た。
1Vま と め
第4回 ・第5回 東京 女 子 国 際 マ ラ ソ ン大 会 お よ び第2回 大 阪 女 子 マ ラ ソ ン大会 に 出場 し た 日本 選 手90名 を対 象 に,現 在 の 月経 状 況 お よび マ ラソ ン トレ ーニ ン グの 月 経状 況 に対 す る 影 響 に つ い て 検 討 を試 み,次 の よ う な結 果 ・結 論 を得 た。
1.月 経 異常 の発 現 頻 度 は,年 齢 の 低 い 選 手 ほ どそ の頻 度 は 高 く,年 齢 の高 い選 手 ほ ど
低 い 。 この こ とは,経 年 齢 が 増 す に した が って,月 経 周 期 の発 来 が 順 調 に な る傾 向 に あ る こ と を意 味 す る もの と思 われ る。
2.月 経 随伴 症 状 は選 手 の8割 に発 現 し,そ の 具 体 的 症状 と して は腹 痛 ・腰 痛 ・体 の だ る さ ・乳 房痛 が多 い。 選 手 の うち,特 に, 20歳 未 満 で 月経 随伴 症 状 の重 い者 が多 く, そ の8割 が 辛 い と感 じて い る が,実 際 に は,
トレー ニ ン グ を軽 減 す る よ うな措 置 は講 じ て い な い。 月 経 周期 に関 わ る問題 は,年 齢 や個 人差 が 大 きい の で,こ うい った 面 で の 指 導者(コ ーチ)の 理 解 が 要 求 され よ う。
3.生 理用 品 の使 用 は,普 段 の 時 は ナ プキ ン の 使 用 が多 く,大 会 時 ・練 習 時 等 に は タ ン ポ ンの 使 用 が多 くな り,状 況 に応 じた使 い 方 を して い る 。 しか し,20歳 未 満 の み 一貫
して ナ プ キ ンの使 用 が 顕 著 で あ る。
4.ト レ ーニ ング の月 経 周 期 へ の 影 響 で は, 年 齢 の 低 い選 手 ほ ど月 経 異 常 の発 現 頻度 が 高 くな る傾 向 に あ る。20歳 ぐらい まで は性 機 能 完 成 に 向 け て の過 敏 な時 期 に あた り, 月 経 異 常 の頻 発 の可 能 性 が 大 き くな る もの
と思 わ れ る 。
5.選 手 の 約3割 が,ト レーニ ン グ量 の 増大 が 月 経 周 期 の延 長 ・不 規 則 ・短 縮 等 月経 異 常 を招 来 さ せ る と考 え て い る。 ま た,ト
レー ニ ン グ量,す な わ ち,週 当 た りの 走行 距 離 と月経 異 常 の発 現 頻 度 との 関係 で は, 走 行 距 離 が多 くな る ほ ど月 経 異常 の発 現 頻 度 が 高 くな る傾 向が 認 め られ た 。
6.ト レー ニ ング の月 経 期 間 へ の影 響 は,月 経 期 間 の短 縮 す る者 が 延 長 す る者 よ りも多
い 。 また,経 血 量 へ の 影 響 で は,経 血 量 の 減少 す る者 が 増 加 す る者 よ り多 い。
7.ト レー ニ ング の月 経 随伴 症 状 へ の影 響 は, 影 響 が あ る とす る選 手 は3割 で,そ の多 く
は軽 減 され る例 が 多 い 。
本 調査 の女 子 マ ラ ソ ン選 手 は,マ ラソ ン ト レー ニ ング 開始 後 に月 経異 常 の発 現 頻 度 が 高 ま り,ト レー ニ ン グが 高度 の場 合 に は無 月 経 に 陥 る例 も少 な くない 。 しか し,こ れ まで の 研 究 で は,月 経 不 順 や 無月 経 が 身体 に何 らか の弊 害 を もた らす とい う科 学 的 実 証 は得 られ て い な い以 上,マ ラ ソ ン トレーニ ン グの 中 止 の理 由 は ど こ に も見 当 らな い。
確 か に,マ ラ ソ ンの よ うな持 久 的 運動 が 月 経 異 常 を引 き起 こす可 能 性 はあ るが,ト レー ニ ン グ量 の 減少 や体 重 の増 加 ,す なわち,体 脂 肪 量 の 増加 等 に伴 っ て正 常 月経 に も どる例
を筆 者 らの 日本 の女 子 マ ラ ソ ン選 手 を対 象 と した 面接 で,そ の こ と を認 め て い る 。 ま た, 一般 女 性 の調 査 か ら
,激 しい トレー ニ ン グ に よる月 経 異 常 は,ト レ ーニ ング 中止 に よ って 正 常 月 経 に もど る と指摘 す る報 告 もあ り,月 経 異 常 は トレーニ ング に よる適 応 と も考 え ら れ よ う。
女 子 マ ラ ソ ンは 冒頭 に記 した よ う に極 め て 歴 史 の 浅 い競技 種 目で あ り,女 子 マ ラ ソ ン選
手 に み られ る月経 異常 が将 来結 婚,妊 娠,出 産 等 に どの よ うな影 響 を与 え る か に つ い て は, これ か らの 地 道 な追 跡 的研 究 に よ っ て ,こ れ らの 問 題 に回答 を与 え て くれ る もの と思 わ れ る。
参 考 文 献
(1)H.J.Medau,P.E.Nowacki共 著 朝 岡 正 雄 訳 :女 性 と ス ポ ー ッ,オ ー ム 社,1984 .
(2)蜂 屋 祥 一 他:女 子 選 手 と 性 機 能,Japanese JournalofSPORTSSCIENCES,Vol.5(9)
514‑521,1986.
(3)田 中 宏 暁:一 般 女 性 と ス ポ ー ッ 運 動, JapaneseJournalofSPORTSSCIENCES,Vol.5
(9)594‑601,1986.
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む
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