博 士 ( 農 学 ) 萩 原 栄 揮
学 位 論 文 題 名
テンサイ Owen 型雄性不稔細胞質に作用する 稔性回復遺伝子の解析
.学位論文内容の要旨
花粉形成の阻害をもたらす細胞質雄性不稔性(CMS)は、多くの植物種において一代雑種の採種に利 用されている育種形質である。CMSの遺伝機構は花粉不稔の原因となるミトコンドリア遺伝子とそ の抑制に働く核コードの稔性回復遺伝子(RDとの相互作用により説明される。したがって核とミトコ ン ド リ ア の 相 互 作 用 の 機 構 を 調 査 す る 上 で も 興 味 深 い 形 質 と 言 っ て よ い 。 テンサイはCMSの遺伝`育種学的研究が活発に行われてきた植物のーつであり、最近では他の植 物に先駆けて正常型およびOwen CMS型ミトコンドリアゲノムの全塩基配列が決定された。また、雄 性不稔性発現との関連が強く示唆されるポリペプチドとそれをコードするミトコンドリア遺伝子 preSatp6の同定も完了した。しかしながら稔性回復遺伝子に関する知見は乏しい。Owen型不稔細胞 質の稔性回復には2個の補足遺伝子(RfXおよび可乃が働くという仮説が提起されたが、この仮説と矛 盾するデユタが得られる場合も少なくなbゝ。
R遺伝子の解析はCMSの分子機構の解明に不可欠である。また、Rfが同定されるならば、検定交 配に依拠するCMS維持花粉親(ゲをホモ接合型で持つ個体)選抜の効率化が実現するため、その育種的 貢献は大きい。本研究ではRfのポジショナルク口ーニングを目的に実験を進め、Rfの分子マーカー によ る 標 識 、Rf座周辺 におけ る物理地 図の作成 、なら びにRf候補 遺伝子 の選抜を 行った 。
1稔性回復遺伝子に連鎖するマーカーの同定および遺伝分析
CMS系統を母体とし、彫を保持する稔性回復系統「NK198」の花粉を交配して育成した後代を4 集団準備した。これらを用いてRf遺伝子座近傍の連鎖地図を作成すると共に、得られた分子マーカ ーを適用して稔性回復性の遺伝仮説を検証した。
まず、稔性回復性に連鎖するRAPDマーカーおよびAFLPマーカーを設定した。814種のプライマ ーを用いたRAPD分析の結果、稔性回復性と連鎖する2種のマーカーを同定した。より近接するマー カーを得るため更に2,721種のプライマー組合せにおいてAFLP分析を行い、稔性回復性と密接に連 鎖する8種のマーカーを得た。これらのマーカーを用いて連鎖地図を作成した。得られた分子マーカ ーは同一連鎖群に帰属し、勾貧を標識することが明らかとなった。RfX座は3.4cMの範囲に限定され、
RfXと共分離を示すマーカーも複数得ることができた。
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標 識さ れたRjXの分 離と 雄性 不 稔型 の分 離に 基づ いて、 「NK198」による稔性回復の 遺伝様式につ い て 検討 を加 えた 。本 研 究に 用い た4集団 の何 れに おいて も、稔性回復の遺伝様式は相 加的に働く2 遺 伝 子を 想定 する 既往 の 仮説 では 説明 で きな かっ た。そこ で、Owen型不稔細胞質に働 き稔性回復を も たらす勺貿と、RfXに対して 相互作用を示し稔性の向上もしくは低下を促す変更遺伝子(群 )が分離 し ていると仮定することにより 観察結果を説明した。
2BACライブラリーの構築およびRfX座の物理地図
テ ンサ イの 町単 離に 利 用可 能な ゲノ ム ライ ブラ リーはこ れまでに報告されていない 。そこで、稔 性 回 復遺 伝子 を有 する 系 統「NK198」 を材 料にBACライ ブラ リ ーを 構築 した 。総数32,180ク口ーン か ら なる 本ラ イブ ラリ ー の平均 インサート長は97.8kbであ り、テンサイ核ゲノムサイズ(758Mb)の約 3.4倍 に相 当 する 。作 製し たラ イ ブラ リー 中か ら勺 ズ座周 辺に位置するマーカーを含むBACク口ーン を 選 抜し、クロモソームウォー キングを行うことで約800kbに亘る一連のコンティグを完 成した。RfX を 挟むAFLPマーカー間の物理距 離は約600kbと推定される。
尺 膵 を 含 む 領 域 を 更 に 限 定 す る た め 、BACコ ン テ イ グか らCAPSマー カー およ びPCRマ 一 カー を 作 出 した 。こ れら の新 規 マーカ ーを利用し、遺伝学的手法 によりRfX座の絞り込みを図 った。雄性不 稔 型 の分 離を みる 戻し 交 配集 団の509個体 から 勺係 近 傍で 遺伝 的組 換 えを 生じた13個 体を選抜し、
マ ー カー の遺 伝子 型を 判 別す るこ とに よ って 、RfX座乗域 を約300kb領域に限定するこ とができた。
3 RfX座乗域に見出された発現 領域
勾 儺 が 座 乗 す る300kb領 域 に は30個 のORFが 見出 され た。 こ れら のORFの うち レト ロエ レ メン ト と の 高 い 相 同 性 を 有 す るORFを 除 い た28個 のORFを 対 象 にRT‑PCRを 行 っ た 。 そ の 結 果 、Rfを 有 す る 稔 性 回 復 系 統 「NK198」 の 花 芽に おい て発 現が 見 られ る18個のORFを特 定し た 。こ れら のORF は 何 れ も ´ み を ホ モ 接 合 型 で 持 つ 系 統 の 花 芽 に お い て も 、 転 写 さ れ て い る こ と が 判 っ た 。 見出された発現領域のうち、 ベチュニアやコセナダイコ ンで単離されたRfが有するPPR(pentatrico‑
peptide repeat)モチ ーフ を含 むORF7、およびミトコンドル ア局在が予想された5個のORFについて特 徴 付 けを 進め た。 クロ ー ン化 したcDNAの 構造 から 推定され るアミノ酸配列を基に細胞 内局在予測を 行 っ た結果、ORF6(機能未同定夕 ンパク質との相同性を示す )および4種のメ夕口プロテ アーゼ様配列 (ORF10,12,15,17)において ミ卜コンドリア移行が予測さ れた。一方、PPRファミリーに属するORF7に 関 し ては 葉緑 体遺 伝子 の 発現 制御 に働 く トウ モロ コシCRP1と最も高い相同性を有し、 有意な細胞内 局 在 性は 予測 され なか っ た。 これ らのORFの転 写に は 器官 特異 性は み られ ず、何れも 葯において転 写 産 物の蓄積が確認された。ま た、サザンプロット実験によ ルメタロプロテアーゼ様配 列のコピー数 に は 明 瞭な 系 統間 多型 が検 出さ れ 、4コ ピ ー存 在す る「NK198」 に比 し てめ め系 統で はコ ピ 二数 が 減 じていることが明らかになっ た。
以 上の よう にPPRフ んミ ルー に 属す るORF7と 勾鬣 と の関 連は 特に 認 めら れなかった 。また、トウ モ ロ コシRj2がコ ード する アル デヒドデヒドロゲナーゼやそ の代謝経路に関連する遺伝 子は馬質座乗 域 に 存在 しな い。 よっ て 、RfXはこれまでに報告例のない新 規のRfである可能性が高い 。系統間多型 が 見出されたメ夕口プロテアー ゼ様配列と馬ばとの関連が 注目される。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
テン サイOwen 型雄性不稔細胞質に作用する 稔性回復 遺伝子の 解析
本論 文は 87 頁 から なる 和文 論文 であ り、 図 26 と表 22 を 含む。 別に 、参 考論 文3 編が添えられている。
テンサイは小型の両性花をっける。テンサイのハイブリッド品種を育種する際に は、種子親の雄蕊を取り除かなけれぱならない。ただ花のサイズが小さいので、機 械的な除雄は不可能である。そのため細胞質雄性不稔を利用し花粉を作れない種子 親を準備した上で、ハイブリッド採種が行われてきた。
.テンサイの細胞質雄性不稔に関しては2 個の補足遺伝子Rf 丶足鏐が、ミトコン ドリアに含まれる雄性不稔原因遺伝子の作用を抑制して、花粉稔性回復に働くとい う仮説が提起されている。しかし、艀遺伝子の実体は明らかでない。艀遺伝子の 研究は雄性不稔の機構解明に重要であるのみならず、効率的な雄性不稔維持花粉親
(rf を劣性ホモ接合型でもつ個体)選抜法の開発にっながり、育種的貢献も大き いと期待される。本研究では、主に分子的手法を用いて、艀を解析した。得られ た結果は以下のように要約される。
1 .稔性回復遺伝子に連鎖するDNA マ一力一の同定
雄性不稔分離集団を供試して、稔性回復性と連鎖する分子マーカーを設定した。
814 種のプライマーを用いたRAPD 分析の結果、2 種の連鎖マーカーを同定した。
より近接するマーカーを得るため更に2 ,721 種のプライマー細.合せにおいてAFLP 分析を行い、稔性回復性と密接に連鎖する 8 種のマーカーを得た。得られた分子 マーカーは同一連鎖群に帰属し、Rf を標識することが明らかとなった。RfX 座
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夫
介
雄
彦
哲 啓
芳 友
上 村
野 保
多
三
喜
佐
久
授 授
授 師
教 教
教 講
査 査
査 査
主 副
副 副
は3 . 4cM の範囲に限定され、Rf と共分離を示す複数のマーカーも得ることがで きた。
2 .BAC ライプラリ―の構築および RtX 座の物理地図
テン サイのRf 単離に利用可能なゲノムライブラリーはこれまでに報告されて いな い。そこで、稔性回復遺伝子を有する系統「NK198 」を材料にBAC ライブラ リーを構築した。総数32 ,180 クローンからなるライブラリーの平均インサート 長は 97. 8kb であり、テンサイ核ゲノムサイズ(758Mb) の約3 .4 倍に相当する。
この ライブラリーよりRf の連鎖マーカーを含むクローンを選び、クロモソー ムウォーキングを行って800kb に亘るコンティグを作った。続いて、雄性不稔型 の分 離をみる戻 し交配集 団の509 個体 から、Rf 近傍で遺伝的組換えを生じた 13 個体を選抜し、分子マーカーの遺伝子型を判別した。その結果、Rf 座乗域を300kb 領域に限定できた。
3 .RfX 座領域の遺伝子発現
Rf 座を含む 300kb 領域には30 個 の ORF (タン パク質読 み取り枠 )がみっかっ た。Rf 遺伝 子は葯で発現するとともに、ミトコンドリアへの移行シグナルをも っはずである。300kb 領域には、これらの条件を備えたORF が5 個含まれている。
最 近 、 ペ チ ュ ニ ア や ダ イ コ ン で ク ロ ー ン 化 さ れ た Rf は い ず れ も PPR (pentatricopeptide repeat) モチーフを有するが、今回テンサイで見出したRf 候補ORF には このような構造的特徴はみられない。一方、興味深いことに、4 個 のテンサイORF のコードタンパク質はタンパク質の品質管理等に働くメタロプロ テアーゼ との相同性を示しており、テンサイのRf はこれまでに報告例のない新 規のRf である可能性が高い。
本研究の成果はテンサイの細胞質雄性不稔性の機構解明と育種技術の開発に寄 与 す る と こ ろ が 大 き く 、 学 術 お よ ぴ 応 用 の 両 面 で 高 く 評 価 で き る 。 よって審査員一同は萩原栄揮が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を 有するものと認めた。
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