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北海道における国営土地改良事業の展開と評価 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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学 位 論 文 題 名

博 士( 農 学)    森   繁

北海道における国営土地改良事業の展開と評価

学位論文内容の要旨

  土 地 改 良 事 業 は , 近 代 以 前 か ら 国 家 の 経 済 基 盤 で あっ た 米の 生産 を 支え る重 要 な政 策の ー っで あっ た 。 明 治 維 新 後 の 近 代 に お い て も , 人 口 増 加 に 伴 う 食料 増 産の ため , 国家 政策 と して の土 地 改良 事業 の 重 要 性 は 増 し , 国 の 関 与 も 高 ま っ た 。 北 海 道 で は 明 治2年(1869)に 開 拓 使 が 設 置さ れ, 士 族授 産,

人 口 増 加 に 伴 う 食 料 確 保 な ど の 政 策 実 現 の た め , 土 地改 良 事業 が進 め られ てき た 。特 に第 二 次世 界大 戦 後 , 緊 急 食 料 増 産 対 策 や 復 員 引 揚 者 の 受 入 れ を 背 景と し て北 海道 の 開発 が強 カ に進 めら れ ,土 地改 良 事 業 へ も 大 き な 投 資 が 継 続 的 に 行 わ れ た 。 そ の 結 果 , 平 成20年 度(2008)の 都 道 府 県sI亅 食 料 自 給 率 で は210% ( カ ロ リ ー べ ー ス ) に 達 す る な ど , 我 が 国 の 食 料 基 地 と し て 確 固 た る地 位を 築 くこ とと な っ た 。 こ れ を 国 の 行 政 機 関 と し て 支 え た の が 昭 和25年(1950)に 設 置 さ れ た 北 海 道 開 発 庁 で あ り , 実 施 機 関 と し て 翌 年 設 置 さ れ た 北 海 道 開 発 局 で あ っ た。 し かし ,近 年 は予 算の 大 幅な 減少 や ,国 と地 方 の 役 割 分 担 の 議 論 な ど , 土 地 改 良 事 業 を 巡 る 情 勢 が 大 き く 変 化 し つ っ あ る 。   本 論 文 で は , 北 海 道 に お け る 戦 後 の 国 営 土 地 改 良 事業 を 対象 とし て ,農 業政 策 が土 地改 良 事業 を通 じ て ど の よ う に 実 現 さ れ て き た か を 明 ら か に し , 国 営土 地 改良 事業 を 国や 受益 者 がど のよ う に評 価し て い る か を 検 証 し た 。 そ の な か で , 国 営 土 地 改 良 事 業が 果 たし てき た 役割 や課 題 を明 らか に し, 北海 道 に お け る 国 営 土 地 改 良 事 業 の 制 度 や 実 施 体 制 の 今 後 の 方 向 性 を 見 極 め る こ と を 目 的 と し た 。   戦 後 の 国 営 土 地 改 良 事 業 の 実 施 経 過 に つ い て は , ま ず 第1期 計 画 か ら 第7期 計 画 ま で の 北 海 道 総 合 開 発 計 画 に 位 置 付 け ら れ た 土 地 改 良 政 策 を 分 析 し , 国営 土 地改 良事 業 の予 算, 実 施地 区数 , 実施 面積 な ど の 実 績 か ら 成 果 を 検 証 し た 。 さ ら に , 投 資 の 結 果で あ る農 業部 門 社会 資本 の スト ック 量 につ いて も 分 析 を 加 え た 。 そ し て , 国 が 実 施 し て い る 事 後 評 価結 果 を分 析し , 各事 業の 課 題を 明ら か にし た。

  こ の 結 果 、 北 海 道 開 発 庁 が 予 算 を 確 保 し 政 策 を 実 現し て きた 過程 が 明確 に示 さ れた 。一 方 ,予 算の 一 括 計 上 権 と 移 用 権 ( 開 発 予 算 を 各 省 に 移 し 替 え る 際, 事 業間 調整 を 行う こと が でき る権 限 )が 北海 道 開 発 庁 に は あ る も の の , 移 用 権 は こ れ ま で 一 度 し か使 わ れて いな ぃ 。北 海道 開 発庁 の出 先 機関 であ る 北 海 道 開 発 局 も , 土 地 改 良 事 業 の 実 施 に あ た っ て は農 林 水産 省の 指 揮監 督を 受 ける 実態 を 踏ま え,

指 揮 系 統 の 二 重 性 と い っ た 組 織 上 の 課 題 の あ る こ と を指 摘 した 。北 海 道に おけ る 農業 社会 資 本ス 卜ッ ク は 確 実 に 蓄 積 さ れ , 農 業 生 産 性を 向上 さ せて きた が ,近 年は 農 業社 会資 本 スト ック の 対前 年比 が1.0 に 近 接 す る 傾 向 に あ り , 将 来 の 農 業 生 産 に 影 響 す る 恐 れ が あ る と い う 課 題 も 明 ら か に な っ た 。   事 後 評 価 の 分 析 結 果 か ら , 全 事 業 の 総 費 用 総 便 益 比 が1.0以 上 あ っ た こ と , 受 益地 区の 戸 当た り農 業 所 得 が 市 町 村 単 位 の 平 均 値 よ り 高 い こ と , 受 益 地 区の 農 業就 業者 の 年齢 も所 在 する 市町 村 の平 均値 よ り 若 い こ と な ど が 明 ら か に な っ た 。 こ れ ら を よ り 詳細 に 検討 し, か つ国 営土 地 改良 事業 の 効果 を実 証 す る た め , 受 益 農 家 に 対 す る ア ン ケ ー ト 調 査 を お こ な っ た 。

  ア ン ケ ー ト 調 査 の 結 果 , 「 国 営 事 業 の 効 果 あ り 」 とす る 回答 が89% にの ばり , 受益 農家 も 効果 を認 識 し て い る こ と が 確 認 さ れ た 。 ま た , 受 益 者 が 効 果 を認 識 する 要因 は ,収 量や 品 質の 向上 と 所得 の向

―1007―

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上であった。さら に,84%の受益者が国営事 業は必要と答えており,効果を裏付ける結果であった。

必要な理由として ,負担金が少ないなどの経 済的な面に加えて,予算の確実性や高度な技術性など,

国営事業に対する信頼感もあることが明らかになった。

  戸当たり農業所 得増加の一要因と考えられ る経営面積の増加は,事業による増加よりも離農跡地の 購入などによる増 加が大きく,事業の効果と しては実証できなかった。しかし経営規模拡大の意欲が 高く,一部には新たな農地開発による規模拡大を望んでいる農家もあった。

  後 継 者に つい ては , 受益 地区では48%と全道平均の24%の2倍あ り,受益地区では後継者が高 い 割合で確保されて いることが明らかになった 。60歳以上の農業就業者割合が所在する市町村より受益 地区で小さいこと の検証はできなかったもの の,受益地区で後継者の割合が高いということは,意欲 ある若い農家が多いということを間接的に示唆している。

  次に事業主体の あり方について,国営,道 営,団体営と階層的に実施する制度と,総合事業として 同一の事業主体が 実施する制度は,ともに受 益農家に支持された。このことから,これらは事業の性 格に 応 じた 合理 的な 制 度で ある と考 えら れ ,今 後も この制度を柔 軟に適用すべきものと考える 。   事業での希望工 種は,営農に近い工種から ,すでに廃止となった農地開発まで,幅広い要望があっ た。要望の傾向は「既耕地改良型」,「酪農型」,「排水改良型」,「開拓型」に分類された。これらの要 望は 今後の 土地改良事業制度を設計する 際,また調査計画の立案の 際,参考にすべき事と考える 。   環境への配慮に 対しては,肯定的な意見と 否定的な意見に分かれたが,環境配慮の「掛かり増し経 費 」 は 国 が 負 担 す べ き と す る 意 見 も 多 く , 受 益 農 家 は 公 的 負 担 を 期 待 し て い る 。   平 成22年(2010)か ら 開始 され た農 業者 戸 別所 得補 償制度につい ては,土地改良事業とは政策 目 的が異なることを受益農家が認識していることが明らかになった。

  将来の基盤整備 の必要性については,受益 農家の84%が何らかの整備を必要としており,若齢層や 後継者のいる農業 者からは近い将来必要とい う回答が多かった。これは,意欲ある農業者が,土地改 良 事 業 を 通 じ た 投 資 に よ っ て 生 産 を 積 極 的 に 維 持 向 上 さ せよ う とす る意 向を 反 映し てい る。

  以上の分析と調 査を踏まえ,北海道におけ る今後の土地改良事業制度と実施体制の在り方について 次のとおり提言する。

  国 民 の食 料を 永続 的 に確 保す るた め, 優 良農 地を 維持管理する 土地改良事業は重要である。 土 地改 良 事業 の公 共性 や 受益 農家 の国 営事 業 に対 する 認識,要望な どに鑑み,例えば過去の国営 事 業実 施 区域 を指 定し , 厳密 な計 画, 審査 , 事後 評価 を前提として ,全額国費負担とする土地改 良 事業制度の創設も検討する必要があると考える。

  実施主体につい ては,地方分権や道州制の 議論はあるが国の出先機関,地方自治体などの実施組織 を問題とするので はなく,土地改良事業本来 の目的が達成されるよう,合理的,効率的な体制を選択 すべきである。

  現在,北海道の 国営土地改良事業では,水 田地帯の農地再編整備事業が農家の要望を受けて盛んに 実施されている。 この事業の成果を,受益者 の評価とあわせて継続的に検証していくことは,農業・

農村の将来像を描くうえで必要な作業であると考える。

  本論文で示した 事後評価結果を受益農家の 視点で検証するという手法は,全国の国営土地改良事業 ぱかりではなく都道府県営事業においても適用が可能であり,今後幅広い研究の広がりが期待される。

‑ 1008―

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学位論文審査の要旨 主査 副査

副査 副査

教授 特任教授 講師 名誉教授

井上 長南 山本 長澤

学 位 論 文 題 名

     京 史男 忠男 徹明

北海道における国営土地改良事業の展開と評価

  本 論 文 は 、 図27、 表33、 引 用 文 献63編 か ら な る 全102ぺ ー ジ の 和 文 論 文 で あ る 。 参 考 論 文2編 が 添え ら れて いる 。

  近 代 以前 から 土 地改 良事 業 は国 家の 経 済基 盤で あ った 米の 生 産を 支え る 重要な政策であっ た。明治維 新後 に おい ても 、 国家 政策 と して の土 地 改良 事業 の 重要 性は 増 し、 国の 関 与も高まった。北 海道では明 治2年(1869)に 開 拓 使 が 設 置 き れ て 以 来 、 土 地 改 良 事 業 に 大 き な 投 資 が 行 わ れ 、 そ の 結果 、 平成20 年 度(2008)の 都 道 府 県 別 食 料 自 給 率 で は210% ( カロ リー べ ース )に 達 する など 、 我が 国の 食 料基 地 とし て 確固 たる 地 位を 築く こ とと なっ た 。こ れを 支 えて きた の が、 国が 実 施してきた国営土 地改良事業 であ る 。し かし 近 年は 予算 の 大幅 な減 少 や、 国と 地 方の 役割 分 担の 議論 な どがあり、土地改 良事業を巡 る情 勢 が大 きく 変 化し つっ あ る。 この よ うな 背景 の もと 、本 論 文は 北海 道 における戦後の国 営土地改良 事業 を 対象 とし て 、農 業政 策 が土 地改 良 事業 を通 じ てど のよ う に実 現さ れ てきたかをまず明 らかにし、

また 国 や受 益者 が これ をど の よう に評 価 して いる か を検 証し た 。そ の中 で 国営土地改良事業 が果たして きた 役 割や 課題 を 明ら かに し 、北 海道 に おけ る国 営 土地 改良 事 業の 制度 や 実施体制の今後の 方向性を見 極め る こと を目 的 とし てい る 。

  ま ず 、北 海道 総 合開 発計 画 に位置付 けられた土地改良 政策にっいて分析し 、国営土地改良事 業の予算、

実施 地 区数 、実 施 面積 など か ら政 策を 検 証し た。 投 資の 結果 で ある 農業 部 門社会資本のスト ック量につ いて も 分析 を加 え た。 そし て 国が 実施 し てい る事 後 評価 結果 を 分析 し、 各 事業の課題を明ら かにした。

その 結 果、 北海 道 開発 庁が 北 海道 総合 開 発計 画に 基 づき 政策 を 実現 する 過 程が明示された。 北海道にお ける 農 業社 会資 本 スト ック が 確実 に蓄 積 され てき た 一方 で、 近 年は スト ッ クの 対前 年 度比 が1.0に近接 す る 傾 向 が 見 え 、 将 来 の 農 業 生 産 に 影 響 を 与 え る 恐 れ が あ る と い う 課 題 も 明 ら か に な っ た 。   事 後 評価 結果 の 課題 を実 証 する ため 、 受益 農家 に 対し てア ン ケー ト調 査 を行った。その結 果、国営事 業 の 効 果 あ り と い う 回答 が89% にの ぽ り、 国営 事 業の 必要 性 につ いて も84% の受 益 者が 必要 と 答え 、

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受益農家も効果を認識していることが確認された。また受益者は収量や品質の向上と所得の向上で効果 を認識していた。国営事業の必要な理由は低い負担金だけではなく、予算の確実性や技術への信頼感も あった。受益 農家に後継者のいる割合は48%と全道平均の24%の2倍あり、意欲ある若い農家が多い ということが間接的に示唆された。事業主体の在り方について、国営、道営、団体営と階層的に実施す る制度と、同一事業主体が総合的に実施する制度は、ともに受益農家に支持された。このことから、今 後もこの制度を柔軟に適用すべきと判断された。事業での希望工種は、営農に近い工種からすでに廃止 となった農地開発まで幅広い要望があり、今後の調査計画や制度設計に参考とすべきと考えられた。環 境への配慮にっいては、肯定的な意見と否定的な意見に分かれたが、環境配慮の「掛かり増し経費」は 国が負担すぺきなど、受益農家は公的負担を期待している。将来の基盤整備の必要性にっいて、受益農 家の84%が何らかの整備を必要としており、若齢層や後継者のいる農業者からは積極的な回答が多く、

意欲ある農業者が土地改良事業に投資しようとする意向を反映していた。

  以上の分析と調査を踏まえ、北海道における今後の土地改良事業制度と実施体制の在り方について次 のように提示している。

  優良農地を維持管理し国民の食料を永続的に確保するためには、例えば過去の国営事業実施地区を指 定し、厳密な計画、審査、事後評価を前提として、全額国費負担とする国営土地改良事業制度の創設も 検討する必要がある。実施主体については、国の出先機関、地方自治体などの実施組織を問題とするの ではなく、土地改良事業の目的達成のための合理的、効率的な体制を選択すべきである。現在、北海道 では、水田地帯の農地再編整備事業が農家の要望を受け盛んに実施されており、今後この事業の成果を、

受益者の評価とあわせて継続的に検証していくことは、農業・農村の将来像を描くうえで必要な作業で ある。本論文で示された事後評価結果を受益農家の視点で検証する手法は、各種の土地改良事業におい ても適用が可能であり、今後幅広い研究の広がりが期待される。

  以上のように本論文は、北海道において戦後展開されてきた国営土地改良事業が農業政策の一翼を担 いつっその成果を発揮してきた過程を照射するとともに、事後評価内容や受益農家の意識調査から事業 課題を抽出分析し、今後の国営土地改良事業の方向性にっいて提示したものとなっており、学術上およ ぴ施策検討の 実務上、寄与するところ多とするものである。よって、審査員一同は、森繁が博士(農 学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと認めた。

―1010―

参照

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