• 検索結果がありません。

医薬品の有効性および安全性の統計的評価 Statistical evaluation of efficacy and safety of drugs

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "医薬品の有効性および安全性の統計的評価 Statistical evaluation of efficacy and safety of drugs "

Copied!
72
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

成蹊大学審査学位論文(博士)

理工学研究科博士課程

医薬品の有効性および安全性の統計的評価 Statistical evaluation of efficacy and safety of drugs

平成 28 年度

山 野 香 澄

(2)

目次

第1章 序論 1

1.1 研究の背景 1

1.2 論文の構成 2

第1部 医薬品の有効性および安全性の統計的評価

第 2 章 日本の認知症患者における向精神薬とドネペジル塩酸塩の併用状況:使

用成績調査データの統合解析 3

2.1 はじめに 3

2.2 方法 4

2.2.1 Data source 4

2.2.2 Patients 5

2.2.3 Classification of psychotropic drugs 5

2.2.4 Clinical assessments 6

2.2.5 Statistical analysis 8

2.3 結果 9

2.4 考察 11

第 3 章 アルツハイマー病患者に対するドネペジル塩酸塩の長期投与での病態変 化と安全性:日本における長期大規模臨床研究J-GOLDの中間結果 14

3.1 はじめに 14

3.2 方法 14

3.2.1 Patients 14

3.2.2 Study method 14

3.2.3 Study items 15

3.3 結果 16

3.4 考察 23

第2部 ゼロ修正されたポアソン分布に関する統計的推測

第4章 ゼロ修正されたポアソン分布におけるゼロ修正パラメータの統計的推測 26

4.1 はじめに 26

4.2 ゼロ過少なポアソンモデルにおけるパラメータの意味 27

4.3 パラメータに関する統計的推測 28

4.3.1 推定方式 29

4.3.2 パラメータ推定上の留意点 30

(3)

4.4 シミュレーション 31

4.4.1 ZIP(λ, ω) における ω の信頼区間 31

4.4.2 ZDP(λ, ω) における ω の信頼区間 33

4.4.3 logit(ω) を用いた ω の信頼区間 34

4.5 おわりに 35

第5章 ゼロトランケートされたポアソン分布におけるパラメータの区間推定 37

5.1 はじめに 37

5.2. ゼロ修正された分布 38

5.2.1 ZMPモデルの定義 38

5.2.2 ZMPモデルでの点推定 38

5.3 信頼区間 40

5.3.1 ポアソンパラメータの信頼区間 40

5.3.2 ZTPモデルの下での推定 41

5.3.3 推定法の修正 43

5.4 まとめ 44

第6章 ゼロ過剰な確率モデルとその応用 46

6.1 はじめに 46

6.2 確率モデル 47

6.3 パラメータ推定 49

6.4 適用例 52

6.4.1 文献例(ベータ二項分布の当てはめ) 52

6.4.2 テスト得点の解析 55

6.5 おわりに 57

第7章 結語 59

参考文献 61

業績一覧 67

(4)

1章 序論 1.1 研究の背景

本邦において,医薬品は「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関 する法律(医薬品医療機器等法。平成26年11月25日施行)」にて規制されており,製造販 売承認を目的として実施する臨床試験(治験)を経て,独立行政法人医薬品医療機器総合 機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency;PMDA)に承認申請された医薬品候補は,

有効性,安全性および品質に関する審査を受け,承認して差し支えないと判断された場合 にのみ,医薬品として世に送り出される。しかし,承認された医薬品であっても,治験の データはいわゆるFive toos(too few:対象例数が少ない,too brief:投与期間が短い,too

median-aged:高齢者,小児が少ない,too narrow:疾患が限定されている,too simple:合併

症や併用薬が少ない)であることから,製造販売業者は「医薬品の製造販売後の調査及び 試験の実施の基準(Good Post-marketing Study Practice;GPSP省令。平成17年4月1日施行)」 に基づき,4 年~10 年の再審査期間に,製造販売後調査等(使用成績調査,製造販売後臨 床試験)を実施し,承認された医薬品について,有効性,安全性および品質に関する情報 を収集,検出,確認又は検証する必要がある(再審査制度)。製造販売後調査等のうち使 用成績調査は,日常診療下で安全性を中心に有効性を含めた情報を収集するために実施さ れる。収集したデータは統計解析処理後,論文化されることで医療現場に情報提供され,

医薬品の適正使用に活用される。

2006 年度の日本製薬工業協会医薬品評価委員会の調査結果によると,使用成績調査に要 する費用は概算で1 例当たり50,000 円と試算される。1調査あたりの症例数は3,000例が 一般的であることから,通常1調査あたり1億 5,000 万円の費用を要することになる。な お,製造販売業者は再審査期間中に多くの場合,複数の使用成績調査を実施するため,費 用面および人的な負担は大きい。

以上のように,製造販売業者は莫大な費用を投じてデータを収集し,再審査期間終了後 に統計解析結果を再審査申請資料として規制当局に提出し,「承認の取り消し」,「効能効果 の削除又は修正」,「特に措置なし」のいずれかの再審査結果を入手する。しかし,長くて 10年間数億円かけて収集したデータであっても,GPSP省令により定められた保存期間終了 後は,各社の社内規定に準じて多くはアーカイブに保存され,その後活用されることは殆 どない。

本研究の第1部の動機は,GPSP省令の枠組みで実施された調査データを,当局対応以外 の目的に活用することである。日常診療下で収拾されたデータに対し,多変量解析にて交 絡因子を調整し,得られた結果を臨床現場に提供し医薬品の適正使用に繋げることは,製 薬企業に在籍する統計家の重要な役割であると考える。

第 2 部の動機は,医薬品の副作用の生起など稀な事象のモデルであるポアソン分布に関 し,ゼロ修正されたポアソンモデルの有用性を示すことである。医薬品は発売 2 年後に副 作用報告数がピークに達し,それ以降は減少する Weber カーブの存在が知られている。す

(5)

なわち,製造販売後に副作用が過小報告される可能性が否定できない。本論文にてゼロ修 正されたモデルの有用性を示し,将来的には実際の副作用データへの応用も視野に入れる。

1.2 論文の構成

第 1 章は序章で,医薬品開発に関する包括的な説明と研究の動機,および本論文の構成 を述べる。最後の第 7 章は,本論文で得られた知見のまとめと今後の発展の方向性を示す 章である。以下,本論文の中核部である2つの部について概略を述べる。

第1部は,第2章「日本の認知症患者における向精神薬とドネペジル塩酸塩の併用状況:

使用成績調査データの統合解析」,第3章「アルツハイマー病患者に対するドネペジル塩酸 塩の長期投与での病態変化と安全性:日本における長期大規模臨床研究J-GOLDの中間結 果」の2つの章からなる。いずれも日本の認知症患者(アルツハイマー病患者)にドネペ ジル塩酸塩を投与した場合の有効性および安全性に関する大規模調査の結果を統計的に 分析したもので,公表論文に基づいている。なお,前者は向精神薬との併用の影響を統計 的に評価したもので,記述統計の効果的な適用法を示し,統計的検定ベースでの併用薬の 割合の推移を分析している。後者では,薬剤の長期投与の影響評価には多変量ロジスティ ック回帰分析が効果的に適用できることを示し,患者の認知機能の推移とそれに寄与する 要因を同定している。

第2部は,医薬品の副作用の生起などの稀な事象のモデルであるポアソン分布に関する もので,特にゼロ度数が通常のポアソン分布とは異なる,いわゆるゼロ修正されたポアソ ンモデルに関する統計的な推測法を議論している。具体的には,第4章「ゼロ修正された ポアソン分布におけるゼロ修正パラメータの統計的推測」,第5章「ゼロトランケートされ たポアソン分布におけるパラメータの区間推定」,第6章「ゼロ過剰な確率モデルとそのテ スト得点の解析への応用」の3つの章からなる。いずれも公表論文に基づいており,ゼロ 修正されたポアソンモデルに関する新しい統計手法の提案とそのパフォーマンス評価なら びに応用法を扱う。

(6)

1部 医薬品の有効性および安全性の統計的評価

2 章 日本の認知症患者における向精神薬とドネペジル塩酸塩の併用状況:使用成績調 査データの統合解析

2.1 はじめに

認知症とは認知障害の一種であり,後天的な脳の器質的障害によりいったん正常に発達 した種々の精神機能が慢性的に減退・消失することで,日常生活・社会生活を営めなくな った状態をいう。2015年の厚生労働省発表によると,本邦における認知症患者数は2012年 時点で約462万人であり,65歳以上の高齢者の7人に1人と推定されている。今後,高齢化の 進展に伴い患者数も増加し,2025年には700万人(65歳以上の高齢者の5人に1人)に達する と予測されている。

認知症の原因となる疾患のうち,最も多いのが脳の神経細胞が緩慢に死滅し脳が萎縮す る「変性疾患」であり,アルツハイマー型認知症(Alzheimer’s Disease;AD)(約55%)や レビー小体型認知症(約15%),前頭・側頭型認知症(約2.5%)などが含まれる。続いて,

脳梗塞や脳出血,脳動脈硬化などのために,細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり,その 部分の神経細胞が死滅する「脳血管性認知症」が約10%を占める。その他にも,正常圧水頭 症やビタミンなどの代謝・栄養障害,甲状腺機能低下等によっても認知症は引き起こされ るほか,複数の疾患が合併した混合型も見られる。

認知症で見られる症状は,記憶障害や見当識障害,判断力障害および失認・失行・失語 などの,認知症で必ず見られる中核症状と,妄想や幻覚,不安および徘徊などの,必ずし も見られるとは限らない周辺症状に二分される。周辺症状は,「行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)」との名称が近年一般的になりつつある。

認知症によるBPSDの現れ方は患者によって様々であり,患者の性格や周辺環境に依存す る。なお,認知症患者の60~90%にBPSDが観察されるとの報告がある。BPSDは中核症状よ りも患者の生活の質(Quality of Life;QOL)を低下させる。そのため,介護者負担の多く は,中核症状よりBPSDに起因し,患者のBPSDが介護者の重荷になる場合,BPSDに対する 治療が必要とされる。BPSDが比較的軽度の時には,認知刺激療法や運動療法などの非薬物 治療が検討されるが,中等度~高度の場合や介護者のQOLに影響を及ぼす恐れのある場合 は,薬物治療が必要となる。現在,BPSDに対して向精神薬が使用されるが,BPSDの治療 に適応を有している抗精神病薬はない。なお,向精神薬とは,中枢神経系に作用し生物の 精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称であり,抗精神病薬や抗うつ薬,抗不安薬,

睡眠薬が含まれる。

2005年4月,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)は,高齢の認知症患 者に対する非定型抗精神病薬の使用が死亡リスクを増加させているとの警告を発した。続 いて2008年6月に,定型抗精神病薬も死亡リスクに関連しているとの警告を発し,全ての抗 精神病薬の添付文書が改訂された。これらのFDAアラートを受け,本邦においても,2005

(7)

年8月に,厚生労働省が非定型抗精神病薬の適応外使用を禁じ,2009年に全ての抗精神病薬 に拡大した。また,2013年に「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神病薬使用ガイ ドライン」(BPSDガイドライン)が発行されたが,その中に「BPSD の治療では抗精神病 薬の使用は適応外使用になる。基本的には使用しないという姿勢が必要。向精神薬,特に 抗精神病薬については処方に際し十分な説明を行い,同意を本人およびあるいは代諾者よ り得るようにする」との記載が見られる。

ドネペジル塩酸塩(アリセプト;エーザイ株式会社)は,ADに対して本邦で初めて適 応を取得した薬剤である。ADでは,脳内コリン作動性神経系の顕著な障害が認められる。

ドネペジル塩酸塩は,エーザイ株式会社が独自に合成したアセチルコリンエステラーゼ

(AChE)阻害剤で,アセチルコリン(ACh)の加水分解酵素であるAChEを可逆的に阻害す ることにより,作用部位(脳内)でのACh濃度を高め,コリン作動性神経の神経伝達を促進 する。

アリセプトは,1999年に「軽度から中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症 状の進行抑制」との適応で製造販売承認を取得し,その後2007年に高度ADに対する適応が 追加された。なお,2016年12月現在,ADの認知症状の進行抑制を適応とする薬剤として,

アリセプト以外にガランタミン消化水素酸塩(レミニール;ヤンセンファーマ株式会社

/武田薬品工業。2011/3販売開始),メマンチン(メマリー;第一三共株式会社。2011/6 販売開始),リバスチグミン(イクセロンパッチ;ノバルティスファーマ,リバスタッチ

パッチ;小野薬品工業。2011/7販売開始)が販売されている。すなわち,本邦においては 1999年~2011年の約12年間,ADに対してアリセプト®のみが適応を有する薬剤であった。

調剤薬局の処方箋(レセプト)データベースを用いた最近の研究にて,2007年~2009年 にドネペジル塩酸塩の処方が開始された13,000人超の外来高齢AD患者において,8.9%に非 定型を中心とする抗精神病薬が処方されていたとの報告がある。これらの患者のうちの11%

に複数の抗精神病薬が処方されており,44%に3ヵ月以上連続した処方が行われていた。

本邦において,日常診療下におけるAD患者の向精神薬の処方実態に関する報告は少数に 留まる。今回我々は,ドネペジル塩酸塩が製造販売承認を取得した1999年以降に実施した 複数の使用成績調査データを統合し,AD患者における向精神薬の使用状況を把握する目的 で,本研究を実施した。

2.2 方法

2.2.1 Data source

1999年から2011年にかけて実施したAD患者を対象としたドネペジル塩酸塩(以下,本 剤)の6つの使用成績調査データを統合し,解析に用いた。対象となった6つの使用成績 調査はART01S,ART01T,ART02T,ART03T,ART04TおよびART05Tである(表2.1)。

6つの調査のうち,ART01S,01Tおよび02Tが2005年より前に,ART03T,04Tおよび05T が2005年4月以降に開始された。なお,全ての調査は法令に基づいて実施されたが,2005

(8)

年より前はGPMSP(市販後調査の基準。Good Post Marketing Surveillance Practice)省令に,

2005年の改正薬事法施行後はGPSP省令に基づいて実施された。なお,GPMSP省令は2005 年にGPSP省令とGVP省令(医薬品製造販売後安全管理の基準。Good Vigilance Practice) に分割された。

表2.1. 併合した調査の内訳

Study Description Registration

period n Remarks

ART01S Treatment surveillance study 1999–2002 3541 ART01T Safety & efficacy of administration in

AD patients with BPSD 2001–2002 316

ART02T Assessment of impact on ADL and

prognosis of discontinued cases 2001–2002 610 ART03T Safety & efficacy of 10mg

administration 2007–2009 843 Severe AD

(FAST stage 6–7) ART04T Assessment of family caregiver

burden of AD patients 2008–2009 416

ART05T Efficacy of long-term administration 2010–2011 10238 Mild to moderate AD (FAST stage 4–5) AD: Alzheimer's disease, BPSD: behavioral and psychological symptoms of dementia, FAST: Functional Assessment Staging

2.2.2 Patients

統合したデータのうち,各調査で安全性解析対象となった患者を,統計解析に用いた。

安全性解析対象集団には,登録後本剤を少なくとも1回服用し,また本剤投与後の安全性評 価が少なくとも1回実施されている患者を含めた。6調査で安全性解析対象となった計14,729 例のうち,3例がAD又はADの疑いとの診断前に登録されていたため,本研究の対象から除 外した。したがって,14,726例が本研究の解析対象となった。

2.2.3 Classification of psychotropic drugs

本研究では,向精神薬を5カテゴリ(定型抗精神病薬,非定型抗精神病薬,抗うつ薬,

抗不安薬,睡眠薬)に分類した。薬剤別には,定型抗精神病薬は,chlorpromazine hibenzate, chlorpromazine hydrochloride,sultopride hydrochloride,sulpiride,nemonapride,haloperidol, pipamperone hydrochloride,fluphenazine,propericiazine,bromperidol,levomepromazine hydrochlorideおよびthioridazine hydrochlorideとした(12 薬剤)。非定型抗精神病薬は,

mosapramine hydrochloride,oxypertine,clocapramine hydrochloride hydrate,zotepine,nortriptyline hydrochlorideおよびquetiapine fumarateとした(6薬剤)。抗うつ薬は,amitriptyline

hydrochloride,clomipramine hydrochloride,lofepramine hydrochlorideおよびlithium carbonate とした(4剤)。抗不安薬はalprazolam,etizolam,clotiazepam,chlordiazepoxide,diazepam, bromazepam,ethyl loflazepateおよびlorazepamとした(8薬剤)。睡眠薬は,amobarbital,

(9)

zopiclone,nimetazepam, passiflora extract,flunitrazepam,brotizolam,bromvalerylureaおよび lormetazepamとした(8薬剤)。

2.2.4 Clinical assessments

認知症の重症度の評価スケールとして,Functional Assessment Staging(FAST)を用いた。

FASTのクライテリアを表2.2に示した。FASTは7段階から成り,Stage 1は「認知機能の障害 なし(正常)」であるが,stageが上がるにつれて認知機能は重症化し,最高のStage7では「非 常に高度の認知機能の低下(高度AD)」に分類される。

表2.2. Functional Assessment Staging(FAST)分類

FAST stage 臨床診断 FASTにおける特徴

1 認知機能の障害なし 正常 主観的および客観的機能低下は認められない。

2 非常に軽度の認知機能の低下 年齢相応 物の置き忘れを訴える。喚語困難

3 軽度の認知機能低下 境界状態 熟練を要する仕事の場面では機能低下が同僚に よって認められる。新しい場所に旅行することは 困難。

4 中等度の認知機能低下 軽度のアルツハイ マー型認知症

夕食に客を招く段取りをつけたり,家計を管理し たり,買い物をしたりする程度の仕事でも支障を きたす。

5 やや高度の認知機能低下 中等度のアルツハ イマー型認知症

介助なしでは適切な洋服を選んで着ることがで きない。入浴させるときにもなんとかなだめすか して説得することが必要なこともある。

6 高度の認知機能低下 やや高度のアルツ ハイマー型認知症

(a)不適切な着衣

(b)入浴に介助を要する。入浴を嫌がる。

(c)トイレの水を流せなくなる。

(d)尿失禁 (e)便失禁 7 非常に高度の認知機能低下 高度のアルツハイ

マー型認知症

(a)最大限約6語に限定された言語機能の低下 (b)理解しうる語彙はただ1つの単語となる。

(c)歩行能力の喪失 (d)着座能力の喪失 (e)笑う能力の喪失 (f)昏迷及び昏睡

認知機能はMini-Mental State Examination(MMSE)で評価した。MMSEは11の設問から成 り,0点~30点の範囲をとる。点数が低い程,認知機能が重症となり,本研究では27点以上 を正常,20点未満を中程度,10点未満を重症と評価した(表2.3)。

(10)

表2.3. Mini-Mental State Examinaton(MMSE)

質問と注意点 回答 得点

1.時間の 見当識

「今日は何日ですか」

「今年は何年ですか」

「今の季節は何ですか」

「今日は何曜日ですか」

「今月は何月ですか」

0 1 0 1

0 1

曜日 0 1 0 1 2 場所

の見当

「ここは都道府県でいうと何ですか」

「ここは何市(*町・村・区など)ですか」

「ここはどこですか」

(* 回答が地名の場合,この施設の名前は何ですか,と質問をかえる。正答は建物名のみ)

「ここは何階ですか」

「ここは何地方ですか」

0 1

0 1

0 1

0 1

0 1

0 1

3.即時想

「今から私がいう言葉を覚えてくり返し言ってください。

『さくら,ねこ,電車』はい,どうぞ」

* テスターは3つの言葉を1秒に1つずつ言う。その後被験者に繰り返させ,この時点で,い くつ答えたかで得点を与える。

* 正答1つにつき1点。合計3点満点。

「今の言葉は,後で聞くので覚えておいてください」

* この3つの言葉は,質問5で再び復唱させるので3つ全部答えられなかった被験者について は, 全部答えられるようになるまでくり返す。(ただし6回まで)

0 1 2 3

4.計算 「100から順番に7をくり返し引いてください」

* 5回くり返し7を引かせ,正答1つにつき1点。合計5点満点。

正答例: 93 86 79 72 65

* 答えが止まってしまった場合は「それから」と促す。

0 1 2 3 4 5 5.遅延再

「さっき私が言った3つの言葉は何でしたか」

* 質問3で提示した言葉を再度復唱させる。 0 1 2 3

6.物品呼

時計(又は鍵)を見せながら 「これは何ですか?」

鉛筆を見せながら 「これは何ですか?」

* 正答1つにつき1点。合計2点満点。 0 1 2

7.文の復

「今から私がいう文を覚えてくり返しいってください。

『みんなで力をあわせて綱を引きます』

* 口頭でゆっくり,はっきりと言いくり返させる。1回で正確に答えられた場合1点を与える。

0 1 8.口頭指

* 紙を机に置いた状態で教示を始める。

「今から私がいう通りにしてください。右手にこの紙を持ってください。それを 半分に折りたたんでください。そして私にください」

* 各段階毎に正しく作業した場合に1点ずつ与える。合計3点満点。

0 1 2 3 9.書字指

「この文を読んで,この通りにしてください」(目 を 閉 じ て く だ さ い)

*被験者は音読でも黙読でもかまわない。実際に目を閉じれば1点を与える。 0 1

10.自発 書字

「この部分に何か文章を書いてください。どんな文章でもかまいません」

*テスターが例文を与えてはならない。意味のある文章ならば正答とする。

(*名詞のみは誤答,状態などを示す四字熟語は正答) 0 1

11.図形 模写

「この図形を正確にそのまま書き写してください」

*模写は書くが10個あり,2つの五角形が交差していることが正答の条件。手指のふるえなど

はかまわない。 0 1

さらに,記憶を中心とする認知機能検査として,改訂長谷川式認知症スケール(Hasegawa’s Dementia Scale-Revised;HDS-R)を用いた(表2.4)。HDS-Rは9つの設問から成り,0点~

30点の範囲をとり,20点以下で認知症の疑いありとした。

(11)

表2.4. Hasegawa’s Dementia Scale-Revised(HDS-R)

1 お歳はいくつですか?2年までの誤差は正解) 0 1 2 今日は何年何月何日ですか? 何曜日ですか?(年月日,曜日が正解でそれぞれ1点ず

つ)

曜日

0 1 0 1 0 1 0 1 3 私たちがいまいるところはどこですか?

(自発的にでれば2点,5秒おいて家ですか?病院ですか?施設ですか?のなかから正しい選択を すれば1点)

0 1 2 4 これから言う3つの言葉を言ってみてください。あとでまた聞きますのでよく覚えておいてくだ

さい。(以下の系列のいずれか1つで, 採用した系列に印をつけておく)

1 a)桜 b)猫 c)電車 2 a)梅 b)犬 c)自動車

0 1 0 1 0 1 5 100から7を順番に引いてください。

100-7は?,それからまた7を引くと? と質問する。最初の答えが不正解の場合,

打ち切る)

93

86 0 1

0 1 6 私がこれから言う数字を逆から言ってください。

6-8-23-5-2-9を逆に言ってもらう,3桁逆唱に失敗したら,打ち切る)

2-8-6

9-2-5-3 0 1

0 1 7 先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってみてください。

(自発的に回答があれば各2点,もし回答がない場合以下のヒントを与え正解であれば1点)

a)植物 b)動物 c)乗り物

a 0 1 2 b 0 1 2 c 0 1 2 8 これから5つの品物を見せます。それを隠しますのでなにがあったか言ってください。

(時計,鍵,タバコ,ペン,硬貨など必ず相互に無関係なもの) 0 1 2 3 4 5 9 知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください。

(答えた野菜の名前を右欄に記入する。途中で詰まり,約10秒間待っても出ない場 合には そこで打ち切る)

050点, 61点, 72点, 83点, 94点, 105

0 1 2 3 4 5

合計得点

2.2.5 Statistical analysis

投与開始時における患者背景と臨床所見は,記述統計を用いて集計した。特に断りのな い限り,計数値は症例数と割合を算出し,計量値は平均値±標準偏差を算出した。調査期 間内に向精神薬を少なくとも1回使用した患者を併用患者とし,全体および向精神薬の種類 別,性別,年齢別,調査実施時期別に向精神薬の併用割合を算出した。

2005年のFDAアラートによる死亡割合の変化を確認する目的で,調査期間を2期(1999

~2004,2005~2011)に分割し,調査期間で併用患者と非併用患者の分布が異なるかを,χ2 検定を用いて検討した。続いて,期間毎に併用患者と非併用患者の死亡割合を算出した。

さらに,向精神薬の併用の有無と患者の状態(死亡/生存)の調査期間の等質性を検討す

(12)

る目的で,Breslow-Day検定を実施した。調査期間でオッズ比が等しいとの帰無仮説が棄却 されなかった場合,評価期間の交互作用はないと判断し,併用患者と非併用患者の死亡割 合の相違を,Cochrane-Mantel-Haenszel(CMH)検定にて評価した。

検定を実施する際の有意水準は,特に断りのない限り両側5%両側とした。統計解析には SAS Release 9.3(SAS Institute, Inc, Cary, NC)を用いた。統計解析は,株式会社CLINICAL

STUDY SUPPORTにて実施した。

2.3 結果

投与開始時における患者背景と臨床所見を表2.5に示す。解析対象14,726例中,女性が 占める割合は67.0%であり,年齢分布は79.3±7.2歳(平均±SD)であった。ADの罹病期

間は平均586日(0日~9,290日)であった。調査開始時のFASTは,1(認知機能の障害な

し)又は2(非常に軽度の認知機能の低下)の患者は見られず,3(軽度の認知機能低下)

が0.1%,4(中等度の認知機能低下)が59.3%,5(やや高度の認知機能低下)が32.7%,6

(高度の認知機能低下)が6.8%,7(非常に高度の認知機能低下)が0.8%であった。投与

開始時のMMSEは18.3 ± 5.4(平均±SD)であった。併用している向精神薬の数別では,1

剤:8.2%,2剤:8.1%,3剤以上:5.5%であった。

調査期間内で,向精神薬を少なくとも1回併用した患者の割合は24.2%であった(表2.6)。 向精神薬の種類別では,睡眠薬が最も高く11%,続いて,定型抗精神病薬:7.8%,抗不安 薬:6.4%,抗うつ薬:5.7%,非定型抗精神病薬:4.4%であった(複数回答)。男女別では,

男性:22.7%,女性:25.0%であり,女性で併用割合が僅かに高かった。年齢別では,65歳

未満が27.6%と最も高く,65歳~74歳:25.9%,74歳~84歳:23.8%,85歳以上:23.5%と,

年齢が上がるにつれて併用割合は低下した。

調査期間別では,1999年~2004年では31.7%,2005年~2011年では21.3% であった。

向精神薬の種類別では,定型抗精神病薬は14.8%から5.0%へ,抗うつ薬は7.0%から5.2%へ,

抗不安薬は8.1%から5.7%へ,睡眠薬は 13.7%から10.0%へ,それぞれ低下した。非定型抗 精神病薬のみ,3.6%から4.6%へ若干増加した。

調査期間中に向精神薬を少なくとも一回併用した患者での死亡割合は2.6%であり,併用 しなかった患者での死亡割合は1.8%であった(表2.7)。調査期間別では,1999年~2004 年では併用患者では2.3%,非併用患者では1.7%であった。2005年~2011年では,併用患 者では2.7%,非併用患者では1.9%であった。

1999年~2004年と2005年~2011年の向精神薬の併用割合について,χ2 検定にて有意差が 認められたため(31.7% for 1999~2004 vs. 21.4% for 2005~2011。χ2 =172.0,P < 0.001),

Breslow-Day検定を実施したところ,調査期間でオッズ比が等しいとの帰無仮説が棄却され

なかったため(P = 0.779),Cochrane-Mantel-Haenszel検定にて,調査期間を層とした死亡の オッズ比を推定したところ,向精神薬の併用患者にて死亡リスクが高いことが示唆された

(オッズ比:1.4,95%信頼区間:1.1~1.8,P =0.005)

(13)

2.5. 被験者背景および投与開始時の特性 1999–2004

(n = 4115)

2005–2011 (n = 10611)

Total (n = 14726) Age (years)

Mean ± SD 77.2 ± 8.0 80.1 ± 6.8 79.3 ± 7.2

Sex –n (%)

Men 1436 (34.9) 3421 (32.2) 4857 (33.0)

Women 2679 (65.1) 7190 (67.8) 9869 (67.0)

Status of donepezil use –n (%)

New 4115 (100) 4170 (39.3) 8285 (56.3)

Continued 0 (0.0) 5535 (52.2) 5535 (37.6)

Previously used 0 (0.0) 906 (8.5) 906 (6.2)

Duration of AD (days)

Median (Min–Max) 518 (0–9290) 609 (0–8466) 586 (0–9290) Missing –n (%) 1274 (31.0) 2669 (25.2) 3943 (26.8) Number of psychotropics –n (%)

1 671 (16.3) 539 (5.1) 1210 (8.2)

2 300 (7.3) 895 (8.4) 1195 (8.1)

3 or more 181 (4.4) 630 (5.9) 811 (5.5)

None 2963 (72.0) 8547 (80.5) 11510 (78.2)

FAST –n (%)

Stage 1 0 (0.0) 0 (0.0) 0 (0.0)

Stage 2 0 (0.0) 0 (0.0) 0 (0.0)

Stage 3 8 (1.4) 3 (0.0) 11 (0.1)

Stage 4 388 (65.9) 6254 (59.0) 6642 (59.3)

Stage 5 165 (28.0) 3500 (33.0) 3665 (32.7)

Stage 6(a)–6(e) 1 (0.2) 763 (7.2) 764 (6.8)

Stage 7(a)–7(f) 0 (0.0) 84 (0.8) 84 (0.8)

MMSE

Mean ± SD 17.9 ± 5.6 18.3 ± 5.4 18.3 ± 5.4

HDS-R

Mean ± SD 14.5 ± 5.7 15.6 ± 5.8 15.6 ± 5.8

Hospital status –n (%)

Outpatient 3411 (82.9) 9383 (88.4) 12794 (86.9)

Inpatient 454 (11.0) 633 (6.0) 1087 (7.4)

Doctor’s home visit 250 (6.1) 592 (5.6) 842 (5.7)

Unknown 0 (0.0) 3 (0.0) 3 (0.0)

AD: Alzheimer's disease, FAST: Functional Assessment Staging, HDS-R: The Revised Hasegawa's Dementia Scale, MMSE: Mini-Mental State Examination, SD: Standard deviation

Note: Summary statistics for MMSE and HDS-R were calculated with missing values excluded.

(14)

2.6. 調査時期別の向精神薬の種類別併用状況 1999–2004

(n = 4115)

2005–2011 (n = 10611)

Total (n = 14726)

n (%) n (%) n (%)

Patients who used at least

one type of drug 1303 (31.7)* 2265 (21.3)* 3568 (24.2) Typical antipsychotics 610 (14.8) 532 (5.0) 1142 (7.8) Atypical antipsychotics 148 (3.6) 493 (4.6) 641 (4.4)

Antidepressants 287 (7.0) 548 (5.2) 835 (5.7)

Anxiolytics 335 (8.1) 602 (5.7) 937 (6.4)

Hypnotics 564 (13.7) 1058 (10.0) 1622 (11.0)

* A statistical significance was observed in the difference in population distribution on psychotropic use between the two time periods (χ2 = 172.0, P <0.001).

2.7. 調査時期別の向精神薬の併用別死亡状況

1999–2004 (n = 4115)

2005–2011 (n = 10611)

Total (n = 14726)

Used Not-used Used Not-used Used Not-used

Death n 30 48 62 157 92 205

(%) 2.3* 1.7* 2.7* 1.9* 2.6 1.8

Total 1303 2812 2265 8346 3568 11158

*Breslow-Day test: P = 0.779.

*Cochran-Mantel-Haenszel test: estimated common odds ratio: 1.4, 95% confidence interval: 1.1–1.8, P = 0.005.

2.4 考察

本研究では,6つの使用成績調査データを併合して,ドネペジル塩酸塩の投与を受けてい る日本のAD患者における向精神薬の併用割合を推定した。その結果,AD患者の約1/4に向 精神薬の併用が見られ,女性が男性より僅かに併用割合が高く,年齢が上がるにつれて併 用割合は低下した。さらに,FDAアラート後に併用割合は低下した。調剤薬局のレセプト データベースを用いた先行研究に比べて,本研究では向精神薬の併用割合が高かったが(vs.

8.9% for antipsychotics),定型抗精神病薬では7.8%,非定型抗精神病薬では4.4%と,ほぼ同

程度の数値であった。先行研究にて,抗認知症薬と向精神薬の併用は,米国や欧州といっ た他の国と比べて本邦では低いことが示されている。本研究では,男女別の併用割合は男

性:22.7%,女性:25.0%であったが,対照的に,ノルウェーの研究では,抗認知症薬と向

精神薬の併用割合は,男性:57.4%,女性65.8%であり,本研究と比してノルウェーの研究 で顕著に高かった。この違いは,国によって向精神薬の処方環境が異なることに加え,ド ネペジル塩酸塩以外の抗認知症薬(リバスチグミン,ガランタミン,メマンチン)が市販 されていたとの事実によっても説明できる。また,年齢が上がるにつれて向精神薬の併用

(15)

割合は低下したが,高齢になると言葉も発せず,車椅子状態となり,BPSD はむしろ軽減 することが知られているため,BPSDに対する治療が必要とされなくなったためと思われる。

本研究では,2005年を境に6つの調査を2つのグループに分けた。認知症に関連した精神 病に対する治療を受けている高齢者にて非定型抗精神病薬が死亡リスクを上昇させるとの FDAアラートが2005年に発出された。2005年以降に実施された3つの調査における向精神薬 の併用割合は,2004年までに実施された3つの調査と比べて有意な低下を示し,調査期間別 の患者集団が両期間で異なることが示唆された。FDAアラートは本邦の日常診療下での薬 剤使用の低下に寄与した可能性がある。なお,米国の研究にて非定型抗精神病薬の使用の 僅かな低下が報告されているが,他の向精神薬の置き換えに関する報告は乏しい。本邦の レセプトデータベースを用いた先行研究は,FDAアラートの前後で明らかな変化は見られ なかったと報告した。これは,研究期間が本研究のものと異なること,また本研究の患者 の多くは2010年に開始した比較的最近の調査の患者であることに起因している可能性があ る。本邦では,2013年にBPSDに対する向精神薬の使用に関するガイドラインが発行されて おり,現在の向精神薬の併用状況はガイドラインの影響を受けている。本研究にて,FDA アラートの後,向精神薬併用患者では死亡割合が0.4%,非併用患者では0.2%増加したが,

向精神薬の併用に関連する死亡状況に時期効果は見られなかった。また有意に高い死亡割 合が,非併用患者に比して併用患者で見られた。しかし,死亡の頻度は非常に小さく,結 果の正確な解釈は困難であった。さらに,6つの使用成績調査データを併合し解析に用いた が,データは調査の本来の目的に依存するため(ADの重症度が異なる,主要な評価指標が 異なる等),併合したデータは患者の臨床的特徴に関してバランスが悪かった。したがっ て,FDAアラートの前後で死亡割合に関連した向精神薬の併用状況を評価するには,さら なる研究が必要と考える。2005年以降,非定型抗精神病薬の併用割合のみ2004年以前に比 べて高くなったが,恐らく,非定型抗精神病薬の薬剤が多く市販され,それらは従来の定 型抗精神病薬に比べて副作用が少ないと考えられたことから,医師の処方動機が増加した ためと思われる。調査期間中,向精神薬の非併用患者の死亡割合は併用患者に比べて低か った。この傾向は,調査期間を2期に分割しても観察された。

本研究には,いくつかの限界がある。第一に,結果の一般化可能性が挙げられる。解析 は併合した調査データを用いて実施したが,上述のようにAD患者の臨床的特徴は個々の調 査の目的に応じて異なっているため,結果は注意深く解釈する必要がある。第二に,一つ

の調査(ART01T)を除いて,個々の調査は元々BPSDを評価する目的で実施されておらず,

AD患者におけるBPSDの有無や重症度に関する詳細な統計解析に至らなかった。全ての調査 で,BPSDの有無やBPSDの症状が収集されはしたが,それらは有害事象として収集された ため,評価指標として取り扱うことは出来なかった。第三に,向精神薬の正確な投与時期 を同定することが困難な患者がいたため,本研究では調査期間内での向精神薬の併用の有 無に焦点を当てた。そのため,調査開始前から使われている向精神薬もデータに含まれて いる。この点で,近年重要性を増しているレセプトデータベースの活用は,薬剤がいつ処

(16)

方されたか正確に特定することが出来るため,有用であると考える。第四に,本研究では 向精神薬を5つのカテゴリに分類したが,カテゴリ分類は国によって異なるため,分類によ っては結果が変わる可能性がある。最後に,本研究の観察期間はART04Tの最長4年である が,いくつかの調査は12週又は12ヵ月の観察期間であった。ドネペジル塩酸塩が投与され たAD患者における向精神薬の使用による死亡状況を検討するためには,さらに長期の観察 研究が必要と考える。

併合した使用成績調査データを使用した本研究にて,本邦でドネペジル塩酸塩の投与を 受けている認知症患者の約1/4に向精神薬の併用が見られた。2005年以降は,2004年より前 に比べて向精神薬の併用患者の割合は低下したが,2005年のFDAアラートがこの低下に影 響を与えていることが示唆された。

(17)

3 章 アルツハイマー病患者に対するドネペジル塩酸塩の長期投与での病態変化と安全 性:日本における長期大規模臨床研究J-GOLDの中間結果

3.1 はじめに

認知症に罹患している患者の数は世界中で約4400万人,本邦では約400万人と推定され 今後更に増加すると予想されている。ドネペジル塩酸塩(アリセプト,以下本剤)は1999 年10月に本邦初の「軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行 抑制」との適応で承認され,さらに2007年8月に10mg投与による重度ADへの適応が追 加された。しかし,本剤の多数症例を対象とした長期投与データは非常に少なく,最長4 年間で約900例を対象としたART03Tがある程度である。そのため,認知症重症度FASTと 患者の日常生活動作(Activities of Daily Living;ADL)に関する詳細な研究はほとんどない。

AD患者における本剤の長期投与の安全性と,主にFASTにて評価された病態の変化に関 する大規模データは,患者のみならず家族や介護者,医師に対しても非常に重要である。

病態に関する具体的な情報を提供することで,医師は患者や家族,介護者に適切な治療と 助言が可能となる。さらに,将来起こり得る状況をイメージすることで,患者の家族と介 護者は,患者の症状が悪化した時に備えて,心の準備や対策を講じることが出来る。

本剤の投与を新たに開始する患者(新規投与患者)又は本剤の投与を継続中の患者(継 続投与患者)10,000例のデータを得るために,2010年に長期大規模調査を開始した。観察 期間は48ヵ月とした。この調査は現在も継続中であり,最大24ヵ月の新規投与患者の病 態変化と安全性データに関して,中間集計を実施した。

3.2 方法

3.2.1 Patients

米国精神医学会作成の「精神障害の診断・統計マニュアル第4版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th edition;DSM-IV)」によりADと診断され,認知症の重症度が

軽度(FAST4)又は中等度(FAST5)の患者を対象とした。

3.2.2 Study method

調査担当医師は患者を登録し,新規投与患者については投与開始日を記録した。本剤の 投与スケジュールは,添付文書に準拠した。通常,成人にはドネペジル塩酸塩として 1 日

1 回3 mg から開始し,1~2 週間後に5 mg に増量し,経口投与した。高度AD患者には,5

mg で4 週間以上経過後,10 mg に増量した。なお,症状により適宜減量した。本調査は日 常診療下で実施されたため,用量は患者の症状によって調整され,用量や投与スケジュー ルに制限を設けなかった。各患者における観察期間は,投与開始から48ヵ月間とした。3 週 間以上連続して本剤を休薬した場合又は本剤の投与を中止した場合は,調査中止とした。

なお,本剤の減量又は3週間未満の休薬は,調査継続とした。患者のデータは,Electronic Data

Capture(EDC)システムを用いて収集した。研究デザインの科学的,倫理的妥当性はエー

(18)

ザイ株式会社によって検討され,「observational study Japan – Great Outcome of Long-Term

Trial with Donepezil (J-GOLD)」として実施された。本調査は, GPSP省令に準じて実施

された。加えて,本調査に関する個人情報は個人情報保護法に準拠して管理された。

3.2.3 Study items Patient characteristics

性別,年齢,AD発症時期,合併症,併用薬,居宅サービスの利用状況,要介護認定関連 項目を調査した。

なお,要介護認定関連項目として「要介護状態区分(要支援1~2,要介護1~5,要介護 認定を受けていない)」,「認知症高齢者の日常生活自立度」,「障害高齢者の日常生活 自立度(寝たきり度)」および「要介護認定における認定調査項目「歩行」」を調査した。

「認知症高齢者の日常生活自立度」の内容を表3.1に示す。

3.1. 認知症高齢者の日常生活自立度

ランク 判定基準 見られる症状・行動の例

I 何らかの認知症を有するが,日常生活は 家庭内及び社会的にほぼ自立している。

II

日常生活に支障を来すような症状・行動 や意思疎通の困難さが多少見られても,

誰かが注意していれば自立できる。

IIa 家庭外で上記IIの状態が見られる。 たびたび道に迷うとか,買物や事務,金銭管理などそれまででき たことにミスが目立つ等。

IIb 家庭内でも上記IIの状態が見られる。 服薬管理ができない,電話の応対や訪問者との応対など一人で留 守番ができない等。

III

日常生活に支障を来すような症状・行動 や意思疎通の困難さが見られ,介護を必 要とする。

IIIa 日中を中心として上記IIIの状態が見られ

る。

着替え,食事,排便,排尿が上手にできない,時間がかかる。

やたらに物を口に入れる,物を拾い集める,徘徊,失禁,大声・

奇声をあげる,火の不始末,不潔行為,性的異常行為等。

IIIb 夜間を中心として上記IIIの状態が見られ

る。 ランクIIIaに同じ。

IV

日常生活に支障を来すような症状・行動 や意思疎通の困難さが頻繁に見られ,常 に介護を必要とする。

ランクIIIに同じ。

M

著しい精神症状や問題行動あるいは重篤 な身体疾患が見られ,専門医療を必要と する。

せん妄,妄想,興奮,自傷・他害等の精神症状や精神症状に起因 する問題行動が継続する状態等。

Efficacy

有効性は,FASTおよび認知機能検査(HDS-R,MMSE)により評価した。

(19)

Safety

本剤を投与された患者に生じた全ての好ましくない又は意図しない疾病又はその症状,

徴候,あるいは臨床検査値等の異常変動を有害事象とし,本剤との因果関係の有無は問わ ないこととした。また,有害事象のうち,本剤との因果関係が否定できないものを副作用 とした。ただし,ADは進行性の疾患であり,その進行とともに認知機能や自立度が低下す ることが知られているため,自然悪化と判断される認知機能の悪化や要介護認定関連項目 の悪化は有害事象と扱わなかった。

Study and evaluation time points

FASTの評価時期は,調査開始時,本剤投与開始から6,12,18,24,30,36,42および48 ヵ月後(又は中止時)とした。認知機能検査は,FASTと同じタイミングに加えて,本剤投 与開始後の早期評価として投与開始12週後に評価した。なお,検査が評価時期と評価時期 の間に実施された場合でも,集計に含めることとした。

Statistical analysis

有害事象と副作用は,医薬品規制調和国際会議(International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use;ICH)で合意された 医学用語集の日本語版「ICH国際医薬用語集日本語版(MedDRA/J)verion 16.0」でコーディ ングした。有害事象や副作用が発生した患者の例数や割合は,MedDRAの大分類(System Organ Class;SOC)および基本語(Preferred Term;PT)毎に集計した。FAST評価に関して,

評価時期毎に例数と割合を重症度別に示した。また,投与開始時からのFASTが改善又は悪 化した例数と割合を示した。さらに,24ヵ月時のFASTの変化(改善/不変又は悪化)を目 的変数とし,多変量ロジスティック回帰分析を実施した。認知機能評価に関しては,評価 時期毎に投与開始時からの変化量に対して要約統計量を算出し,paired t-tests を実施した。

検定を実施する際の有意水準は,特に断りのない限り両側5%とした。多変量ロジスティッ ク回帰分析での変数選択に関しては,有意水準は両側30%とした。なお,本研究において,

解析は探索的な位置付けで実施したため,検定を複数回実施することにより生じる多重性 は考慮しなかった。統計解析は,イーピーエス株式会社および株式会社CLINICAL STUDY

SUPPORTにて実施した。

3.3 結果

Patient composition

患者は1,798の医療機関から登録された。医療機関の多くが一次医療のクリニックであっ

た。登録例のうち,本剤の新規投与患者3,964例分の,2013年9月までの投与開始6ヵ月後の データが収集された。約40%の患者が調査を中止しており,12ヵ月後は2,965例,18ヵ月後

は2,465症例,24ヵ月後は1,427例分のデータが含まれた。3,964例から,103例が「調査開始

(20)

後一度も来院がない」等の理由で除外され,結果として3,861例が安全性解析対象となった。

さらに,685例が「調査開始後に認知機能検査/FASTを一度も測定していない」等の理由で 除外され,結果として3,176例が有効性解析対象となった(図3.1)。

†Patients who were found to not meet enrolment criteria after CRF collection. ††Patients for whom data about manifestation of an adverse event could not be obtained. †††Patients who never received Functional Assessment Staging Test or cognitive function examinations after the start of administration. CRF, case report form.

Patient characteristics

表3.2に,3,176例の有効性解析対象集団の背景を示した。女性が男性より多く(67.0% vs

33.0%),全体の平均年齢は80.2歳であった。認知症の重症度は,軽度(FAST4)が71.3%,

中等度(FAST5)が28.7%を占めた。

Efficacy

Changes in severity of dementiaFAST

投与開始24ヵ月後までのFASTの分布を図3.2に示した。投与開始時に対して,FASTが改 善した患者の割合は,6ヵ月:14.3%,12ヵ月:18.5%,18ヵ月:19.1%,24ヵ月:19.4%であ った。投与開始時に対して,FASTが悪化した患者の割合は,6ヵ月:8.9%,12ヵ月:17.0%,

18ヵ月:20.5%,24ヵ月:25.2%であった。投与開始時に対して,FASTが改善又は維持した

(すなわち悪化以外)患者の割合は,6ヵ月:91.1%,12ヵ月:83.0%,18ヵ月:79.5%,24

ヵ月:74.8%であった(表3.3)。

図3.1. 症例構成図

(21)

Factors that affect the FAST

投与24ヵ月後のFASTの変化に影響を及ぼす要因を探索する目的で,多変量ロジスティッ ク回帰分析を実施した。有意水準を30%(両側)とし,ステップワイズ法にて変数選択を実 施した結果,日常生活自立度(P < 0.001),罹病期間(P = 0.059),要介護状態区分(P = 0.144) がFASTの変化に影響を及ぼす要因と考えられた。しかし,要介護状態区分はP値が0.1を超 えており,また日常生活自立度と同様の指標であるため,最終モデルには含めなかった。

前述の要因に加えて,性別,発症時年齢,合併症(高血圧)の有無,合併症(脂質代謝異 常((高脂血症))の有無,合併症(糖尿病)の有無が,臨床的にFASTに影響を及ぼすと 考えられたため,多変量ロジスティック回帰分析のモデルに含め,調整オッズ比を算出し た(図3.3)。その結果,日常生活自立度と(P = 0.001) と罹病期間(P = 0.005) が,FASTの変 化に有意に影響を与える要因と考えられた。ただし,オッズ比の点推定値が2を越えていた のは日常生活自立度のみであった。

Changes in cognitive function

MMSEとHDS-Rの投与開始時からの変化量は共に,投与12週後にピークとなり,6ヵ月後

においてもpaired t-tests にて有意に改善した。しかし,投与12ヵ月後と18ヵ月後には投与開 始時とほぼ同水準となり,24ヵ月後には投与開始時と比して有意に悪化した(図3.4,3.5)。

Safety

本剤との因果関係が否定されなかった有害事象を副作用と扱った。安全性解析対象3,861 例に発生した副作用を表3.4に示した。なお,表には10件以上発生した副作用を含めた。主 な副作用は,食欲減退,悪心,激越,下痢,嘔吐,浮動性めまいであった。

3.2. 患者背景

Background items Number of patients %

Number of patients 3176

Sex Male 1047 33.0

Female 2129 67.0

Age (years) Mean ± standard deviation 80.2±6.5

Duration of

Alzheimer’s disease (years)

Number of patients 2325

Mean ± standard deviation 1.21±1.43

Daily dose of donepezil at baseline (mg/day)

< 3 34 1.1

3 2972 93.6

5 170 5.4

(22)

3.2. 患者背景(続き)

Severity of dementia at start of

administration

Mild (FAST4) 2266 71.3

Moderate (FAST5) 910 28.7

Cognitive function at start of administration / MMSE (score)

Number of patients 1078

Mean ± standard deviation 18.9±5.0

≤14 194 18.0

15-20 438 40.6

21-23 255 23.7

≥24 191 17.7

Cognitive function at the start of

administration / HDS-R (score)

Number of patients 2759

Mean ± standard deviation 16.4±5.3

≤14 931 33.7

15-20 1233 44.7

21-23 383 13.9

≥24 212 7.7

Presence or absence of complications

Absent 720 22.7

Present 2456 77.3

Hypertension 1610 50.7

Abnormal lipid metabolism

(hyperlipidemia) 845 26.6

Diabetes 428 13.5

Heart disease 325 10.2

Kidney disease 58 1.8

Liver disease 45 1.4

Others 1560 49.1

Independence level in the daily life of elderly with dementia at the start of

administration

I 576 18.1

IIa 1070 33.7

IIb 880 27.7

IIIa 385 12.1

IIIb 100 3.1

IV 63 2.0

M 20 0.6

Unknown 82 2.6

† There are duplicate data included in complications

(23)

表3.3. FAST Stageの変化(投与開始時との比較)

Evaluation

time point Number patients of

FAST stage

improvement FAST stage

exacerbation FAST stage improvement or

maintenance Number

patients of

Percentage

(%) Number

patients of

Percentage

(%) Number

patients of

Percentage (%)

At 6

months 2747 394 14.3 245 8.9 2502 91.1

At 12

months 2292 424 18.5 389 17.0 1903 83.0

At 18

months 1829 349 19.1 375 20.5 1454 79.5

At 24

months 1136 220 19.4 286 25.2 850 74.8

図3.2 FAST stageの分布

(24)

図3.3. 24ヵ月後のFASTに影響を与える要因

図3.4. 認知機能(MMSE)の投与開始時からの変化量の推移

(25)

Items Total Degree of seriousness

Serious Non-serious

Number of study centers 1114

Number of study patients 3861

Number of patients who developed

ADRs 288 28 261

Cases of ADRs 366 40 326

Incidence of ADRs (percentage of

patients) 7.5% 0.7% 6.8%

Type of ADRs Cases of ADRs by type (and percentage %)

Metabolism and nutrition disorders

Decreased appetite 55 (1.4) 3 (0.1) 52 (1.3)

Psychiatric disorders

Agitation 34 (0.9) - - 34 (0.9)

Nervous system disorders

Dizziness 10 (0.3) - - 10 (0.3)

Gastrointestinal disorders

Diarrhea 27 (0.7) - - 27 (0.7)

Nausea 50 (1.3) 5 (0.1) 45 (1.2)

Vomiting 20 (0.5) 2 (0.1) 18 (0.5)

†Only ADRs with ≥10 cases are listed in the table.

図3.5. 認知機能(HDS-R)の投与開始時からの変化量の推移

表3.4. 副作用の発現状況

(26)

3.4 考察

本剤を服用していないAD患者において,FASTが軽度(FAST4)から中等度(FAST5)に 悪化するまでに要する時間は24ヵ月,中等度(FAST5)から高度(FAST6)に悪化するまで に要する時間は18ヵ月との報告がある。本調査に,本剤の非服用群(無治療群)は含まれ ておらず,本剤服用群と非服用群の直接比較は不可能である。しかし,約75%の患者におい て,本剤投与開始後24ヵ月間,FASTの維持又は改善が見られたことから,進行性疾患であ るADにおいて,本剤による治療は有用であると思われる。特に,FASTの悪化に関する上記 の報告がされて10年以上たつため,本結果は日本のFASTの変化に関する貴重な情報になる 可能性がある。

日常生活自立度と罹病期間は,24ヵ月後のFASTの変化に有意に影響を与える要因とされ た。多くの研究にて,糖尿病や脂質代謝異常(高脂血症),高血圧症がADの発症に影響を 及ぼすと報告されているが,今回の中間集計では要因として特定されなかった。使用成績 調査では,一般的に,投与開始時の個々の合併症の有無のみを調査項目とするため,観察 期間中の合併症の変化を調査することも必要である可能性がある。

本剤投与開始12週後,認知機能は一時的に改善するが,以降は徐々に悪化するとの報告 がある。本調査は無治療群を置いていないため,本剤の有効性に関する直接比較は実施で きないが,海外AD患者におけるMMSEの変化のメタアナリシスによると,無治療AD患者の MMSE変化量は,約-3点/年との報告がある。本調査におけるMMSEの変化量は-0.4点/年 であり,先行研究の無治療群の変化量に比して小さかった。

安全性に関して,24ヵ月までの副作用発現割合は7.5%(288例/3,861例)であった。この 数値は,臨床第III相試験(軽度から中等度のADを対象とした24週間投与二重盲検プラセボ 対照並行群間比較)の10.3%(14例/136例)や52週間の継続投与試験の27.3%(71例/260 例),承認取得後に実施した使用成績調査(ART01S)の10.7%(346例/3240例)に比して 低かった。

FASTや認知機能(MMSE,HDS-R),副作用の発現状況により評価した本剤の有効性お よび安全性は,治験および市販初期に実施した使用成績調査に比して臨床的に好ましい結 果となった。しかし,これらは10年以上前に実施されており,認知症の病態や薬物/非薬 物治療に関する医学・介護学の進歩や知識の向上が,好ましい結果に貢献した可能性があ る。また,本調査は日常診療下で実施しているため,「本剤投与開始後に来院しなかった 患者の除外」,「認知機能検査を実施しなかったかなりの数の患者の存在」,「服薬状況 の確認の困難」等,いくつかの限界が存在する。

本調査は,本邦のAD患者を対象とした最大規模の前向き研究であり,日常診療の現実を 示している。本報告は調査開始2年次の中間集計であり,今後もデータ収集を継続し4年次 のデータを解析し,報告することを計画している。

ところで,第2章と第3章の統計解析は,観察されたデータをそのまま用いて実施したも のである。医薬品の副作用に関しては,発売2年後に副作用報告数がピークに達し,それ以

(27)

降は減少するWeberカーブの存在が知られている。本来であれば,新薬発売後,使用患者数 の増加につれて副作用発生数も増加すると予想されるが,実際には両者に比例関係は観察 されない。理由として,新薬に対して人は熱心に副作用を見つけようとし報告数は増加す るが,その後落ち着くためと言われている。すなわち,製造販売後は副作用が過小報告さ れる可能性がある。

本論文の第2部では,医薬品の副作用の生起など稀な事象のモデルであるポアソン分布に 焦点を当て,ゼロ度数に特徴を持つポアソンモデルおよび関連するモデルについて検討す る。第2部にてゼロ修正されたモデルの有用性を示し,将来的には,例えばPMDAが提供し ている「医薬品副作用データベース(Japanese Adverse Drug Event Report database;JADER)」

等の実際の副作用データへの応用が期待される。

(28)

2部 ゼロ修正されたポアソン分布に関する統計的推測

第 1 部では,日常診療下で実施された使用成績調査データに対して統計手法を適応し結 果を論じたが,第 2 部ではゼロ度数に特徴のある(可能性のある)データを対象とし,ゼ ロ度数が修正されたモデルを考え,そのパラメータ推定およびシミュレーションによる性 能評価を論ずる。

統計的データ解析では,例えば医薬品の安全性評価における薬剤の投与時の副作用の件 数など,研究対象の結果変数がある事象の生起回数というカウント(計数)データである ことが多い。特に稀な事象の生起回数に関する研究では,カウントデータの分布を表す統 計モデルとして,ポアソン分布が仮定されるのが通例である。しかし,現実のデータ解析 では特にゼロカウントの度数(ゼロ度数)が,カウント 1 以上の度数の分布とは異なる様 相を示すことが少なくない。ゼロ度数が通常のポアソン分布で期待されるよりも多い場合,

それをゼロ過剰なポアソン分布 (zero-inflated Poisson (ZIP) distribution) といい,ゼロ度数が 過少な場合にはゼロ過少なポアソン分布 (zero-deflated Poisson (ZDP) distribution) と呼ばれ る。特にゼロ度数が全く観測されない場合を,ゼロトランケートされたポアソン分布 (zero-truncated Poisson (ZTP) distribution) という(たとえばJohnson, Kemp and Kotz (2005),

岩崎 (2010) 等を参照)。これらの分布はゼロ修正されたポアソン分布 (zero-modified

Poisson (ZMP) distribution) と総称される (Dietz and Böhning, 2000)。

第 2 部では,ゼロ修正されたポアソン分布に関する統計的推測を議論する。第 2 部は 3 つの章からなり,第4 章では,ゼロ修正パラメータの統計的推測,第 5 章では,ゼロトラ ンケートされたポアソン分布におけるパラメータの区間推定,第 6 章ではゼロ過剰な確率 モデルとその応用をそれぞれ扱う。

各章では,統計的推測法の性能評価を,点推定量の漸近分散や信頼区間の被覆確率の観 点から行い,数学的な結果およびシミュレーション研究の結果を提示する。

表 2.1.  併合した調査の内訳
表 2.2. Functional Assessment Staging ( FAST )分類
表 2.3. Mini-Mental State Examinaton ( MMSE ) 質問と注意点  回答  得点  1. 時間の 見当識 「今日は何日ですか」 「今年は何年ですか」  「今の季節は何ですか」  「今日は何曜日ですか」  「今月は何月ですか」  日  0  1 年 0 1 0 1 曜日 0 1  月  0  1  2  場所 の見当 識  「ここは都道府県でいうと何ですか」  「ここは何市(*町・村・区など)ですか」 「ここはどこですか」  (* 回答が地名の場合,この施設の名前は何です
表 2.4. Hasegawa’s Dementia Scale-Revised ( HDS-R ) 1  お歳はいくつですか? ( 2 年までの誤差は正解)  0   1  2  今日は何年何月何日ですか? 何曜日ですか?(年月日,曜日が正解でそれぞれ 1 点ず つ)  年  月  日  曜日  0   1 0   1 0   1  0   1  3  私たちがいまいるところはどこですか? (自発的にでれば 2 点, 5 秒おいて家ですか?病院ですか?施設ですか?のなかから正しい選択を すれば1点)  0
+7

参照

関連したドキュメント

Giuseppe Rosolini, Universit` a di Genova: [email protected] Alex Simpson, University of Edinburgh: [email protected] James Stasheff, University of North

This is a consequence of a more general result on interacting particle systems that shows that a stationary measure is ergodic if and only if the sigma algebra of sets invariant

We solve by the continuity method the corresponding complex elliptic kth Hessian equation, more difficult to solve than the Calabi-Yau equation k m, under the assumption that

In [9], it was shown that under diffusive scaling, the random set of coalescing random walk paths with one walker starting from every point on the space-time lattice Z × Z converges

We describe a generalisation of the Fontaine- Wintenberger theory of the “field of norms” functor to local fields with imperfect residue field, generalising work of Abrashkin for

Shen, “A note on the existence and uniqueness of mild solutions to neutral stochastic partial functional differential equations with non-Lipschitz coefficients,” Computers

John Baez, University of California, Riverside: [email protected] Michael Barr, McGill University: [email protected] Lawrence Breen, Universit´ e de Paris

Here we shall supply proofs for the estimates of some relevant arithmetic functions that are well-known in the number field case but not necessarily so in our function field case..