3.2.4 大深度ボーリング試料による地質年代調査 (1) 業務の内容 (a) 業務題目 大深度ボーリング試料による地質年代調査 (b) 担当者 所属機関 役 職 氏 名 メールアドレス 独立行政法人産業技術総合研究所 地質情報研究部門 地球変動史研究グループ 物質循環研究グループ 沿岸都市地質研究グループ 島根大学総合理工学部 地球資源環境学科 (防災科学技術研究所併任) 主任研究員 主任研究員 主任研究員 主任研究員 主任研究員 助教授 柳沢幸夫 渡辺真人 高橋雅紀 田中裕一郎 木村克己 林 広樹 [email protected] [email protected] [email protected] [email protected] [email protected] [email protected]. ac.jp (c) 業務の目的 大都市圏の大深度ボーリングコアについて、微化石分析により地層の地質年代を明らか にし、あわせて地表地質と統合することにより、平野下の地下地質構造の解釈に資する。 (d) 5ヵ年の年次実施計画 1) 平 成 1 4 年 度:房 総 半 島 鴨 川 観 測 井 の ボ ー リ ン グ 試 料 に つ い て 微 化 石 分 析 を 行 い 年 代 を 決 定 し た 。 また、関 東 南 部 房 総 半 島 に お い て 掘 削 さ れ た ボ ー リ ン グ コ ア と 周 辺 に 露 出 す る 地 層 の 地 質 学 的 検 討 を 行 っ た 。 2) 平 成 1 5 年 度:足 柄 平 野 北 部 山 北 町 に お い て 掘 削 さ れ た ボ ー リ ン グ 試 料 に つ い て 年 代 地 質 調 査 を 行 っ た 。また、関 東 に お い て 掘 削 さ れ た 既 存 ボ ー リ ン グ コ ア 試 料 と 周 辺 に 露 出 す る 地 層 に つ い て 地 質 学 的 検 討 を 行 っ た 。 3) 平 成 1 6 年 度:大 阪 府 及 び 京 都 府 に お い て 掘 削 さ れ た ボ ー リ ン グ 試 料 に つ い て 年 代 地 質 調 査 を 行 っ た 。また、大 都 市 圏 に お い て 掘 削 さ れ た 既 存 ボ ー リ ン グ コ ア 試 料 の 地 質 年 代 学 的 検 討 を 行 っ た 。 4) 平 成 1 7 年 度:関 東 に お い て 掘 削 さ れ る ボ ー リ ン グ 試 料 に つ い て 微 化 石 年 代 分 析 を 行 う 。また、関 東 に お い て 掘 削 さ れ た 既 存 の ボ ー リ ン グ コ ア 試 料 お よ び 地 表 の 地 層 に つ い て 地 質 学 的 層 序 学 的 検 討 を 行 い 、 地 震 波 探 査 な ど の デ ー タ を 総 合 し て 、 関 東 平 野 の 地 下 構 造 モ デ ル 作 成 に 資 す る 。 5) 平 成 1 8 年 度:関 東 平 野 東 部 に お い て 掘 削 さ れ る 大 深 度 ボ ー リ ン グ 試 料 に つ い て 、 微 化 石 分 析 と 年 代 測 定 を 行 い 、 掘 削 到 達 深 度 に お け る 地 層 の 精 密 年 代 を 明 ら か に す る 。 ま た 、 本 プ ロ ジ ェ ク ト に よ っ て 収 集 さ れ た 既 存 の ボ ー リ ン グ コ ア 試 料 と そ の 周 辺 に 露 出 す る 地 層 に つ い て も 年 代 層 序 学 的 検 討 を 総 合 的 に 行 い 、 関 東
平 野 に お け る 堆 積 盆 構 造 モ デ ル 構 築 に 資 す る デ ー タ を 総 括 す る 。 (e) 平成17年度業務目的 関 東 に お い て 掘 削 さ れ る ボ ー リ ン グ 試 料 に つ い て 微 化 石 年 代 分 析 を 行 う 。また、関 東 に お い て 掘 削 さ れ た 既 存 の ボ ー リ ン グ コ ア 試 料 お よ び 地 表 の 地 層 に つ い て 地 質 学 的 層 序 学 的 検 討 を 行 い 、地 震 波 探 査 な ど の デ ー タ を 総 合 し て 、関 東 平 野 の 地 下 構 造 モ デ ル 作 成 に 資 す る 。 (2) 平成 17年度の成果 (a) 業務の要約 今年度掘削された千葉県山武市蓮沼の大深度ボーリング試料について地質年代調査を 進めた。また、関東において掘削された既存の大深度ボーリング(岩槻・下総・府中・江 東・大洋・波崎・霞ヶ浦・勝浦東の各観測井及び大洋温泉・東松山の温泉井)についても、 珪藻化石と石灰質ナンノ化石による地質年代調査を実施し、既存の年代資料と今年度のデ ータを総合して、より正確な年代層序を明らかにした。とくに、上総層群基底の黒滝不整 合、及び安房層群基底の庭谷不整合の深度に関しては、年代層序を総括することにより、 精密な層準を決定することができた。また、珪藻化石の産出の下限が、坑井における P 波 速度及び密度の急増層準に一致していることを示し、珪藻化石を作るシリカの続成作用が 坑井物性に大きな影響を与えていることを明らかにした。以上により、関東平野の地下構 造モデル作成に資する重要な資料を得た。 (b) 業務の成果 1) 蓮沼観測井ボーリング試料の地質年代調査 蓮沼観測井は千葉県山武市蓮沼(旧山武郡蓮沼村)の蓮沼海浜公園に位置する(図1)。 ここは、九十九里海岸の浜堤の上にあり、最上部の浜堤堆積物の下位には上総層群相当層 が伏在すると予想された。 今年度の調査では深度1,200m まで年代分析用の試料を分取し、微化石分析用のプレパ ラートを作成した。現在、石灰質ナンノ化石、珪藻化石及び浮遊性有孔虫化石を用いて地 質年代分析を進めている。 2) 関東の既存ボーリングコア試料の地質年代調査 関東において掘削された大深度ボーリングの岩槻・下総・府中・江東・大洋・波崎・霞 ヶ浦・勝浦東の各観測井(鈴木,2002)及び大洋温泉・東松山の温泉井について、珪藻化 石と石灰質ナンノ化石による地質年代調査を実施し、正確な年代層序を明らかにした。 これまでの研究で明らかにされたように、関東平野の深層地下の堆積層及びそれに相当 する地表の堆積層は、約 1530 万年前(15.3 Ma)の庭谷不整合と、約 250 万年前(2.5 Ma) の黒滝不整合によって三分される(高橋,2003;高橋ほか,2005;林ほか,2004a, 2004b)。
そこで、この報告では、庭谷不整合より下位の堆積層を富岡層群及びその相当層(N.8 層)、 庭谷不整合と黒滝不整合に挟まれた堆積層を安房層群及びその相当層(post N.8 層)、黒 滝不整合より上位の堆積層を下総・上総層群と暫定的に呼ぶことにする。
珪藻化石帯区分は、Yanagisawa and Akiba (1998)の北太平洋珪藻化石帯区分と低緯度 珪藻化石帯区分(Barron, 1985)を用いた。ただし、前者の年代は Watanabe and Yanagisawa (2005) を用いて一部修正した。また、浮遊性有孔虫化石帯は Blow (1969)、石灰質ナンノ 化石帯は Okada and Bukry (1980)を用い、後者については佐藤ほか(1999)の石灰質ナン ノ 化 石 層 準 の 年 代 も 併 用 し た 。 古 地 磁 気 年 代 層 序 は 最 近 新 た な 古 地 磁 気 年 代 層 序 (Gradstein et al., 2004) が公表されたが、まだ評価が定まっていない部分があるので、 ここでは従来の Cande and Kent (1995) 及び Berggren et al. (1995) を使用する。
分析試料はカッティングス試料とコア試料であり、年代の認定ではコア試料の結果を重 視した。カッティングス試料のデータは上位からの落ち込みがあることを前提にして、年 代決定では原則として終産出層準のみを用いた。ただし、再堆積現象も存在する可能性が あるので、全体としては総合的に判断した。
a)岩槻観測井の地質年代調査 岩槻観測井は1971 年に国立防災科学技術センター(現防災科学技術研究所)によって 掘削された地殻活動観測用の坑井である。埼玉県さいたま市岩槻区末田字巻の上に位置し (1 図)、到達深度は 3,510m である(鈴木ほか,1981;高橋ほか,1983)。 本坑井では、最深部の基盤岩について岩石記載、鉱物分析及び放射年代測定を行い、基 盤岩の帰属を決定した。また、堆積層については、有孔虫化石(高橋ほか,1983)と、石 灰質ナンノ化石(鈴木・堀内,2002)の年代分析がすでに行われているので、今年度は石 灰質ナンノ化石分析が行われたのと同一の試料について珪藻化石年代分析を実施した 本坑井の基盤岩の地質年代調査の成果については、高木ほか(2006)で詳しく公表し ているので、ここでは概要を述べるにとどめる。本坑井の最深部(3,505.0-3,510.5m)の 基盤岩は,ざくろ石トーナル岩質及び緑簾石角閃岩質マイロナイトからなり,ざくろ石, 角閃石,斜長石の化学組成と角閃石の K-Ar・Rb-Sr 年代(70-83Ma)から,領家帯に属す るものであることが明らかになった。また,深度 2,943-3,327m の基盤岩は石英斑岩から なり、黒雲母の K-Ar 年代(17.7Ma)から西南日本中央構造線に沿った瀬戸内火山岩類よ りも古い値をとることが判明した。さらに、最深部の再結晶石英粒径に基づくマイロナイ ト化の程度区分と、基盤岩全体のカタクレーサイト化から、中央構造線は岩槻観測井の基 盤岩の深度位置から南側 500m 以内に存在すると推定される。 表 1 岩槻観測井から産出した珪藻化石 次に本坑井の堆積層の珪藻化石年代分析の結果を表 1 に示す。84 試料について検討し たが、珪藻化石が検出されたのは 12 試料のみである。深度 60-520m の試料からは、年代 決定に有効な種は検出されなかったが、深度 100m と 140m の試料から産出した珪藻はす べて淡水性であり、この層準が非海成層であることを示している。深度 2,310-2,610m の 試 料 か ら は 、 溶 解 し た 非 常 に 保 存 の 悪 い 珪 藻 化 石 が 産 出 し た 。 同 定 さ れ た 種 の う ち 、
Actinocyclus ingens f. nodus は、その産出が珪藻化石帯区分の NPD 4A 帯の上部から NPD 4B 帯の区間にあるので、この種が産出した 2,337.6m はこの年代に限定できる。 次に、既存の有孔虫化石(高橋ほか,1983)と石灰質ナンノ化石(鈴木・堀内,2002) の年代分析のデータと、今回の珪藻化石年代分析の結果から、本坑井の堆積層の年代層序 を総括した(図 2)。高橋ほか(1983)は、主に岩相によって近隣の比企丘陵の層序に対 比して本坑井の層序・年代を定めているが、本報告では主に微化石年代に基づいて不整合 と堆積層の年代を決定して層序の対比を行った。 まず、富岡層群と安房層群を画する庭谷不整合は、深度2,050 と 2,090m の間に推定し た。それは、この層準で石灰質ナンノ化石の Sphenolithus heteromorphusの終産出(13.6 Ma)とCyclicargolithus floridanusの終産出(11.8Ma)の2つの年代基準層準が同時に 見られ、かつ浮遊性有孔虫の産出がこの層準で一時的に途絶えるからである。庭谷不整合 の年代は約 15.3Ma と推定されるが、岩槻観測井では庭谷不整合の推定される層準より下 位に石灰質ナンノ化石の CN3/4 境界(15.6Ma)が認められており、上述の推定と矛盾し ない。なお、林ほか(2004a)では、庭谷不整合の深度を深度約 2,050m 付近に推定して いるが、今回微化石年代層序データを総合的に検討した結果、それよりもやや上位にある と推定された。以上の微化石年代データに加えて、深度 2,080m より上位に礫岩が挟まり 岩相が粗粒化することから、ここでは深度 2,080m 層準に庭谷不整合を認定した。 安房層群と上総層群の境界である黒滝不整合の層準については、深度1,000m 付近から 上位で鮮新世〜更新世の年代を示す海生浮遊性有孔虫が産出し始め、かつ岩相が急激に粗 粒化することなどから、高橋ほか(1983)と同様に黒滝不整合は深度 1,040m 付近にある と推定した。 以上から、岩槻観測井の堆積層は、下位より富岡層群相当層(深度2,780-2,080m)、安 房層群相当層(深度 2,080-1,040m)、下総・上総層群相当層(1,040-20m)に区分される。 b) 下総観測井の地質年代調査 下総観測井は国立防災科学技術センター(現防災科学技術研究所)によって1977 年に 掘削された地殻活動観測のための坑井である。本坑井は、千葉県柏市藤ヶ谷(旧東葛郡沼 南町)の海上自衛隊下総基地東隣に位置し(1 図)、到達深度は 2,330m である(鈴木ほか, 1981;鈴木ほか,1983)。 本坑井の堆積層については、有孔虫化石(鈴木ほか,1983)と石灰質ナンノ化石(鈴 木・堀内,2002)の年代分析がすでに行われている。今回は石灰質ナンノ化石分析と同一 の 61 試料について珪藻化石年代分析を実施した。その結果、そのうちの 40 試料から珪藻 化石が産出した(表 2)。珪藻化石の保存は比較的悪く、珪藻殻数が計数可能と判断された 試料は 40 試料中 13 試料のみである。また、珪藻化石の産出下限は深度 1,251m であり、 こ れ よ り 下 位 で は 珪 藻 化 石 は 全 く 検 出 さ れ な い 。 年 代 決 定 に 有 効 な 種 と し て 、 Neodenticula koizumii、 N. seminae、 Nitzschia fossilis、 N. reinholdiiなどが産出し た。
次に、既存の有孔虫化石(鈴木ほか,1983)と石灰質ナンノ化石(鈴木・堀内,2002) の年代分析のデータと、今回の珪藻化石年代分析を総合し、本坑井の堆積層の年代層序を 総括した(図 3)。また、有効な時間基準面を基にして堆積速度曲線を作成した(図 4)。
表 2 下総観測井から産出した珪藻化石
地表に露出する上総層群と安房層群(三浦層群)の浮遊性有孔虫化石層序の研究(Oda, 1977)によれば、Globolotalia conomiozea, G. acostaensis, Globigerina nepenthes は安房層群 (三浦層群)からしか産せず、上総層群からは産出しない。一方、Globorotalia inflata は上 総層群のみから検出され、安房層群からは見つかっていない。以上の指標となる浮遊性有 孔虫の本坑井における産出状況から、安房層群と上総層群の境界となる黒滝不整合は、深 度 1,200m と 1,300m の間に限定できる(図 3)。実際に堆積速度曲線(図 4)も、この区間 で明らかな時間間隙の存在を示唆している。微化石年代層序からは、この不整合の層準を これ以上絞り込むことはできない。しかし、岩相が深度 1,240m 付近を境に、それまでの 砂質泥岩から、砂岩を主とする岩相へと明らかに上方に向かって粗粒化することから、こ
の層準に黒滝不整合が存在すると考えるのが妥当である。 ところで、鈴木ほか(1983)は深度 1,289m に黒滝不整合を認定しているが、この層準 には顕著な岩相変化はない。彼らは密度検層の結果を重視し、深度 1,289m で密度が不連 続に変化することを根拠に、この深度に不整合を推定している。しかし、この密度変化は 後述するように、泥岩のシリカの続成作用の進行に伴う密度の不連続な変化である可能性 が高い。 図 3 下総観測井の年代層序.時間基準面の括弧内の数字は 佐藤ほか(1999)の石灰質ナンノ化石基準面の番号を示す.
図 4 下総観測井の堆積速度曲線.時間基準面の括弧内の数字は 佐藤ほか(1999)の石灰質ナンノ化石基準面の番号を示す. 以上から、下総観測井の堆積層は、下位より安房層群(深度 1,500-1,240m)及び下総・ 上総層群(1,240-20m)に区分される。また、堆積速度曲線から、本坑井の安房層群の年 代は約 4.8-3.3Ma、上総層群の年代は 2.1-0.8Ma と計算される。なお、本坑井の安房層群 は鮮新世の範囲に納まり、地表の安房層群の最上部(天津層最上部から安野層)に相当す
る。 表 3 府中観測井から産出した珪藻化石 c) 府中観測井の地質年代調査 この地殻活動観測井は、国立防災科学技術センター(現防災科学技術研究所)によって 1979 年に、東京都府中市南町 6 丁目の多摩川左岸(1 図)で掘削された坑井で、到達深度 は 2,781.5m である(鈴木ほか,1981;鈴木・高橋,1985)。本坑井の堆積層(深度 2020m 以浅)の年代に関しては、有孔虫化石(鈴木・高橋,1985)と石灰質ナンノ化石(鈴木・ 堀内,2002)の報告がある。 今回は65 試料の珪藻化石年代分析を行い、うちの 35 試料から珪藻化石が産出した(表
3)。本坑井から産出した珪藻化石の保存は悪く、珪藻殻数が計数可能と判断された試料は 35 試料中 12 試料のみである。年代決定に有効な種として、Neodenticula koizumii, N. seminae, Nitzschia fossilis, N. reinholdii, Rhizosolenia praebergonii, Thalassiosira convexa などが産出した。珪藻化石が産出した最も深い試料は 1,470-1,480m の試料であ り、これ以深からは珪藻化石は検出されなかった。
以上の珪藻化石年代と、有孔虫化石(鈴木・高橋,1985)及び石灰質ナンノ化石(鈴木・ 堀内,2002)のデータを総合し、本坑井の堆積層の年代層序(図 5)と堆積速度曲線(図 6)を総括した。
Oda (1977)によれば、浮遊性有孔虫の Globolotalia conomiozea, G. acostaensis, G. miozea conoidea は安房層群(三浦層群)からのみ見つかり、上総層群には産出しない。
図 5 府中観測井の年代層序.時間基準面の括弧内の数字は 佐藤ほか(1999)の石灰質ナンノ化石基準面の番号を示す.
図 6 府中観測井の堆積速度曲線.時間基準面の括弧内の数字は 佐藤ほか(1999)の石灰質ナンノ化石基準面の番号を示す.
これに対し、Globorotalia inflata(及びその類縁種である G. inflata praeinflata)は、上総 層群のみから検出される。以上から、本坑井における安房層群と上総層群の境界(黒滝不 整合)は、深度 1,690-1,700m の試料と 1,620-1,630m の試料の間にあると思われる(図 5)。 ただし、堆積速度曲線(図 6)では、使用できる時間基準面が少ないため、明瞭な時間間 隙を推定することはできない。岩相の変化からも、不整合の層準をこれ以上特定すること は難しいので、現段階では深度 1,650m 付近に黒滝不整合を推定しておくことにする。 以上、府中観測井の堆積層は下位より安房層群(深度 2,022-1,650m)と下総・上総層群 (1,650-14m)に区分される。
表 5 江東観測井から産出した珪藻化石(2)
図 7 江東観測井の年代層序.時間基準面の括弧内の数字は 佐藤ほか(1999)の石灰質ナンノ化石基準面の番号を示す. d) 江東観測井の地質年代調査 この観測井は防災科学技術研究所が1991 年に東京都江東区青海 2 丁目の埋立地で掘削 した坑井で(1 図)、到達深度は 3,030m である(鈴木,1996)。本坑井の堆積層(深度 2795m 以浅)については、有孔虫化石(鈴木,1996)と石灰質ナンノ化石(鈴木・堀内,2002) の年代分析が行われている。今年度は石灰質ナンノ化石分析と同一の 107 試料について珪 藻化石年代分析を実施した。その結果、そのうちの 54 試料から珪藻化石が産出した(表 4, 5)。珪藻化石の保存は比較的良好である。珪藻化石の産出下限は深度 1,670-1,675m の 試料であり、これより下位では珪藻化石は産出しない。年代決定に有効な種としては、北 太平洋珪藻化石帯区分の指標種である Neodenticula kamtschatica, N. koizumii, N. seminae, Proboscia barboi, Thalassiosira antiquaと、低緯度珪藻化石帯区分の指標種で
ある Nitzschia fossilis, N. reinholdii, Fragilariopsis doliolus, Rhizosolenia
praebergonii, Thalassiosira convexaが産出し、両珪藻化石帯区分が年代決定に使用でき る。 既存の有孔虫化石(鈴木,1996)及び石灰質ナンノ化石(鈴木・堀内,2002)と、今 回の珪藻化石年代分析を総合し、本坑井の堆積層の年代層序を総括した(図7)。また、有 効な時間基準面を基にして堆積速度曲線を作成した(図 8)。 図 8 を見てわかるように、堆積速度は多少の変動はあるものの、堆積速度曲線は全体 としてなめらかであり、とくに不整合を示す堆積間隙は見あたらない。したがって、これ から安房層群と上総層群の境界となる黒滝不整合の位置を定めるのは難しい。 図 8 江東観測井の堆積速度曲線.時間基準面の括弧内の数字は 佐藤ほか(1999)の石灰質ナンノ化石基準面の番号を示す.
安房・上総層群に関する最新の年代層序と広域火山灰層序を総括した里口(2006)によ ると、安房層群(=三浦層群)最上部の安野層上限の年代は、関根ほか(2004)の石灰質 ナンノ化石年代に基づき、約 2.8Ma と推定される。一方、地表に露出する上総層群の下限 の年代は 2.3-2.4Ma であり、黒滝不整合による時間間隙はおよそ 2.8-2.4Ma の 40 万年間と されている。この年代値に基づくと、江東観測井における黒滝不整合の深度は、堆積速度 曲線から約 1100m から 1320m の間となるが、この区間はほとんど泥質の堆積物からなり、 岩相には不整合を示す兆候が全く見られない。したがって、年代層序に基づく推定では、 江東観測井において黒滝不整合の層準を特定することは難しい。 一方、岩相の変化をみると、1,550-1,420m の区間は砂質泥岩を主とする岩相となってい て、泥岩ないしシルト岩からなる上下の区間より相対的に粗粒となっている。とくに深度 1,470-1,440m 付近には礫岩・砂岩がはさまっており、より岩相が粗くなっている。そこで、 本報告では、この層準(1,470m 付近、年代は約 3Ma)に暫定的に安房層群と上総層群の境 界をおくこととする。一方、林ほか(2004a)は、深度 950m 付近の礫岩層の基底に黒滝不 整合を推定しているが、堆積速度曲線からはこの付近に時間間隙を伴う不整合を想定する のはやや難しい。いずれにしろ、黒滝不整合の存否を含めて、江東観測井の層序について は、さらに検討が必要である。 e) 大洋観測井の地質年代調査 この観測井は防災科学技術研究所が茨城県鉾田市(旧行方郡大洋村)汲上で掘削した坑 井で(1 図)、到達深度は 1,231m である(鈴木・小村,1999)。本坑井については、石灰 質ナンノ化石分析(鈴木・堀内,2002)がなされているので、今回は同じ試料について珪 藻化石分析を行った。その結果、2 試料から珪藻化石が産出した(表 6)。
深度300m の試料は、Neodenticula kamtschaticaを含み、かつ N. koizumiiを含まな いことから NPD 7Bb 亜帯に確実に対比され、3.5Ma より古い年代を示す。以上の結果は 石灰質ナンノ化石のデータと整合的である。
図 9 に大洋観測井の年代層序をまとめた。林ほか(2005)が明らかにしたように、深度 410m 付近には不整合があり、それより下位の深度 410-1,234m は石灰質ナンノ化石の CN3-4 帯にあたり、富岡層群(N.8 層)に対比される。一方、410m 以浅の堆積層は、石灰質ナン ノ化石帯の CN11-14 帯に対比され、上総層群に対応する。しかし、上総層群の基底の年代 が 2.4Ma 前後(里口,2006)だすると、深度 300-410m の区間には、3.75Ma や 3.5Ma の年 代を示す基準面があるので、この部分は上総層群の年代範囲を越えて、安房層群の最上部 に相当する.この矛盾を説明するため、林ほか(2005)は深度 200m 付近にもう一つの不 整合を想定している。しかし、大洋観測井に近い福島県南東部から茨城県南部の常磐地域 の鮮新統では、4Ma から 2Ma 前後まで海成層(例えば、大年寺層)が整合に堆積しており、 この区間に不整合はない(たとえば、柳沢ほか,2003)。もし,大洋観測井の鮮新統・更新 統がこれらの地層と一連のものであるとすれば、とくにこの層準で不整合を考える必要は ない。そうすると、本坑井の鮮新統・更新統は、関東堆積盆の上総層群に属するとするよ りも、常磐地域及びその沖合に広く発達する常磐沖堆積盆の堆積層の一部と考える方が妥 当かもしれない。 図 9 大洋観測井の年代層序.時間基準面の括弧内の数字は 佐藤ほか(1999)の石灰質ナンノ化石基準面の番号を示す.
表 7 波崎観測井から産出した珪藻化石
写真 1 波崎観測井から産出した石灰質ナンノ化石の光学顕微鏡写真(クロスニコル) 1,2: Sphenolithus hetermorphus Deflandre, 3: Cyclicargolithus floridanus (Roth and Hay) Bukry, 4: Coccolithus pelagicus (Wallich) Schiller, 5: Discoaster deflandrei Bramlette and Wilcoxon, 6: Pseudoemiliania lacunosa (Kamptner) Gartner, 7: Gephyrocapsa oceanica Kamptner, 8: Gephyrocapsa parallela Hay and Beaudry, 9: Emiliania huxleyi (Lohmann) Hay and Mohler
f) 波崎観測井の地質年代調査 本坑井は茨城県南東部の神栖市(旧鹿島郡波崎町)で掘削された。今回堆積層の年代を 明らかにするため、珪藻及び石灰質ナンノ化石分析を行った(表 7,8,写真 1)。 深度 300m 以浅からは更新世の年代を示す指標種が、また深度 750m 以深の試料からは 中期〜前期中新世の年代を示す指標種が産出した(図 10)。ただし、深度 500-700m の試 料からは年代を特定できる微化石は検出されなかった。 深度 300m 以浅と深度 750m 以深の区間の年代の隔たりは大きく、深度 300m と 750m の間に時間間隙を持つ不整合があると推定される。残念ながら深度 500-700m の区間の年 代は不明であるが、本坑井の岩相変化を検討すると、深度 390-430m に顕著な礫岩が発達 しているので、ここではこの礫岩を不整合の基底礫岩と考え、深度 430m に不整合が存在 すると解釈する。この不整合は庭谷不整合と黒滝不整合が重複しているものである。 以上から、本坑井の堆積層(最上部は除く)は、下位より富岡層群相当層(深度 930-430m) と上総層群相当層(深度 430-46m)に区分される。
図 10 波崎観測井の微化石層序
表 9 大洋温泉井から産出した石灰質ナンノ化石
g) 大洋温泉井の地質年代調査
本坑井は茨城県東部の鉾田市(旧行方郡大洋村)で掘削された温泉井である(図 1)。今 回堆積層の年代を明らかにするため、石灰質ナンノ化石を分析した(表9)。その結果、深 度 440m 以浅から鮮新世〜更新世の年代を示す指標種が産出した(図 11)。深度 440m 以
浅は、大洋観測井との対比から上総層群に対比される。また、深度 480-530m に発達する 礫岩は上総層群の基底礫岩である可能性が高く、この礫岩の基底(深度 530m)に不整合 が存在すると考えられる。それ以深の頁岩砂岩互層は、年代を示すデータは得られていな いが、大洋観測井との対比から中期中新世の富岡層群に対比するのが妥当である。以上か ら、本坑井の堆積層(最上部は除く)は、下位より富岡層群相当層(深度1000-530m)と 上総層群相当層(深度 530-40m)に区分される。 表 10 霞ヶ浦観測井から産出した石灰質ナンノ化石 h) 霞ヶ浦観測井の地質年代調査 本坑井は茨城県かすみがうら市(旧霞ヶ浦町)に掘削された観測井である(図 1)。本年 度の調査では深度 440m 以浅の堆積層の年代を明らかにするため、深度 338m と 426m の 試料について石灰質ナンノ化石分析を行った(表 10)。その結果、更新世の年代(CN13 帯?)を示す群集が産出し(図 12)、この坑井の堆積層がほぼ上総層群に対比されること が判明した。
図 12 霞ヶ浦観測井の微化石層序 i)勝浦東観測井の地質年代調査 本坑井は千葉県勝浦市で掘削された観測井である(図 1, 13)。今回深度 491m 以深の 8 個のコア試料について石灰質ナンノ化石分析を行った(表 11)。その結果、深度 491.5m から 566.5m の試料からは CN12 帯、深度 802m、804m、813m の試料からは CN11b 帯 に対比される石灰質ナンノ化石が産出した。年代からみて、深度 491.5m から 566.5m の 試料は上総層群に、深度 802m、804m、813m の試料は安房層群に属すると判断される。 図 13 勝浦東観測井の微化石層序
表 11 勝浦東観測井から産出した石灰質ナンノ化石 j) 東松山温泉井の地質年代調査 本坑井は埼玉県東松山市で掘削された温泉井である(図 1)。今回堆積層の年代を明らか にするため、珪藻化石の分析を行った(表 12)。 深度 110m の試料からは NPD 5B 帯の珪藻化石が産出した。この試料は年代から安房層 群に対比される(図 14)。一方、深度 300m からは NPD 4A 帯、深度 480m と 590m の試 料からは NPD 3B 帯の珪藻化石が検出された。これらの試料は富岡層群に対比できる。
表 12 東松山温泉井から産出した珪藻化石 以上の珪藻化石データと坑井の岩相から、本坑井の堆積層は下位より富岡層群相当層(深 度 770-180m)、安房層群相当層(深度 180-80m)及び上総層群相当層(深度 80m 以浅)に 区分できる。庭谷不整合は深度 180m に、黒滝不整合は深度 80m 付近のあるものと見られ る。 地表の層序(高橋・柳沢,2004)との対比では、深度 770-180m(富岡層群相当層)は比 企丘陵の小園層・荒川層・市ノ川層に、深度 180-80m(安房層群相当層)は岩殿丘陵の神 戸層・根岸層・将軍沢層にそれぞれ対比できる。また、深度 80 以浅(上総層群相当層)は 岩相から岩殿丘陵の物見山層に対比可能である。
図 14 東松山温泉井の珪藻化石層序 3) シリカの続成作用と坑井における物性変化の関係 泥ないし泥岩中に含まれる珪藻や放散虫化石の殻からなる生物源シリカ(SiO2・nH2O) は、非晶質シリカであり、「オパール-A」と呼ばれる状態にある(図15)。しかし、この状 態は常温でも不安定で、堆積物が埋没してゆく過程で温度・圧力が上昇し、「オパール-CT」 という状態を経て、最終的には鉱物学的に安定な「石英(水晶)」へと変化してゆく(Kano, 1979など)。 図15 シリカの続成作用と密度の変化.Kano (1979)の図から作成. 縦軸は続成作用の程度を示す.Am:非晶質シリカ,Qz:石英, *はクリストバライト101結晶面の面間隔(d(101))を示す.
こうした変化は、軟らかい堆積物が硬い岩石へと変化してゆく作用(続成作用)の一部 である。シリカの続成作用では、結晶状態が変化する際に物性が不連続に変化することが 知られている。とくに、オパール-Aからオパール-CTに変化する際には、泥岩の密度や音 波速度(P波速度)が不連続に増加する(図15)。したがって、シリカの続成作用は平野地 下の速度構造モデルを構築する際に考慮に入れなければならない重要な要因となる。しか し、これまで関東平野を含む堆積平野の速度構造モデルの研究においては、続成作用の効 果はほとんど考慮されてこなかった。 図 16 下総観測井における珪藻化石産出下限層準と泥質部の物性の関係
図 17 府中観測井における珪藻化石産出下限層準と泥質部の物性の関係 オパール-Aからオパール-CTへの変化は、珪藻化石の溶解を伴うため、この反応が起こ る深度以深では珪藻化石は溶解して産出しない。つまり、珪藻化石が産出する最も深い深 度(産出下限層準)は、オパール-Aからオパール-CTへの変化層準にほぼ一致する。した がって、珪藻化石分析を行うことによって、オパール-Aからオパール-CTの変化層準を特 定することができる。ただし、厳密にはエックス線回折分析で確かめる必要がある。 今年度の微化石分析の結果、下総・府中・江東観測井では、珪藻化石の産出下限層準が 明瞭に特定されたので、この層準を音波速度と密度の検層結果と比較した(図16, 17, 18)。 ただし、音波速度と密度のデータは泥質部の値のみを抽出している。
図 18 江東観測井における珪藻化石産出下限層準と泥質部の物性の関係 下総及び府中観測井では、珪藻化石の産出下限層準付近に粗粒物質が挟まれているので、 厳密な対応関係をつけることはできないものの、珪藻化石の産出下限層準を挟んで、音波 速度と密度が不連続に変化している(図 16, 17)。一方、江東観測井では、深度 1,670-1,675m の試料と 1,700-1,705mの試料との間に珪藻化石の産出下限が見られ、この層準は音波速度 が約 2.5km/secから 2.7km/secへと不連続に増加する層準に一致する(図 18)。また密度も同 様にここで約 2.0g/cm3から約 2.1g/cm3以上へと増加する。しかし、この層準では岩相には とくに変化がない。したがって、この物性の不連続な物性変化は岩相変化によるものでは
なく、シリカの続成作用の結果である可能性が高いと解釈できる。 以上のように、それぞれのコアにおいて、珪藻化石の産出下限層準が音波速度と密度の 不連続な増加にほぼ一致することが確認された。したがって、これらの坑井においては、 シリカの続成作用によりオパール-A がオパール-CT に変化することによって、音波速度と 密度が不連続に増加していると考えられる。 今年度の調査では、シリカの続成作用に伴う物性変化が関東平野においても存在する可 能性が高いことが初めて明らかにされた。続成作用による物性境界は各種物理探査におい ても検知されると予想されるので、今後関東平野を含む堆積平野の速度構造モデルを構築 するには、続成作用の効果を考慮する必要がある。 (c) 結論ならびに今後の課題 今年度の調査では下記に示すように、関東平野の地下構造モデル作成に資する重要な成 果を得ることができた。 1) 今年度千葉県で掘削された蓮沼観測井の試料について地質年代調査を進めた。 2) 関東の既に掘削された 10 本の大深度ボーリングについて、珪藻と石灰質ナンノ化石 による地質年代調査を実施し、正確な年代層序を明らかにすることができた。 3) 珪藻化石の産出の下限が、坑井における P 波速度及び密度の不連続な変化層準に一致 していることを示し、シリカの続成作用が物性変化に大きな影響を与えていることを明ら かにした。 今後、蓮沼観測井については微化石年代調査をさらに進め、詳しい地質年代層序を明ら かにする必要がある。また、今年度の調査によって、続成作用が地下の堆積層の物性変化 に大きな影響を及ぼしていることがはじめて明らかになったので、今後関東平野を含む堆 積平野の速度構造モデルを構築するために続成作用の効果を更に詳しく検討してゆくこと が必要である。 (d) 引用文献
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Abstract of 2nd Intern. Workshop, Strong Ground Motion Prediction and Earthquake Tectonics in Urban Areas 平成17 年 10 月 高橋雅紀 日本海拡大時の東北日本弧 と西南日本弧の境界 地 質 学 雑 誌 , Vol.112, pp.14-32. 平成18 年 1 月 高橋雅紀, 林 広樹, 笠原敬司, 木村尚紀 関東平野西縁の反射法地震 探査 記録 の 地質 学的 解 釈— とくに吉見変成岩の露出と 利根川構造線の西方延長 地 質 学 雑 誌 , Vol.112, pp.33-52. 平成18 年 1 月 高木秀雄, 鈴木宏芳, 高橋雅紀, 濱本拓志, 林 広樹 関東平野岩槻観測井の基盤 岩類の帰属と中央構造線の 位置 地 質 学 雑 誌 , Vol.112, pp.53-64. 平成18 年 1 月
高木秀雄, 高橋雅紀 松伏 SK-1 坑井基盤岩試料 からみた関東平野の中央構 造線 地 質 学 雑 誌 , Vol.112, pp.65-71. 平成18 年 1 月 (f) 特許出願,ソフトウエア開発,仕様・標準等の策定 1)特許出願 なし 2)ソフトウエア開発 なし 3) 仕様・標準等の策定 なし (3) 平成 17年度業務計画案 関東平野東部において掘削される大深度ボーリング試料について、微化石分析と年代測 定を行い、掘削到達深度における地層の精密年代を明らかにする。本プロジェクトにより 収集された既存のボーリングコア試料と周辺に露出する地層についても、年代層序学的検 討を総合的に行い、平野における堆積盆構造モデル構築に資するデータを最終的に総括す る。