Title
乾田直播栽培の導入に伴う用水量の増加と効率的な水利シ
ステムの運用による対策( 内容の要旨 )
Author(s)
李, 尚奉
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(農学) 甲第301号
Issue Date
2003-03-13
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/2642
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。氏 名(本(副籍) 学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与年月 日 学位授与の要件 研究科及び専攻 研究指導を受けた大学 学 位 論 文 題 目 審 査 委 員 会 李 尚 奉 (大韓民国) 博士(農学) 農博甲第301号 平成15年3月◆13日 学位規則第4条第1項該当 連合農学研究科 生物環境科学専攻 岐阜大学 乾田直播栽培の導入に伴う用水量の増加と効率的な 水利システムの運用による対策 主査 岐阜大学 教 授. 副査 岐阜大学 助教授 副査 信州大学 教 授 副査 静岡大学 教 授 照一弘智 正 眞 和 家村村 屋 千 西 木 土 論 文 の 内 容 の 要 旨 GATで(関税と貿易に関する一般協定)による国際貿易情勢の変化から農産物価格の抑 制が重要課題となり,とくに水田農業を取り巻く環境は厳しさを増している.これらの解 決策の一つとして直播栽培が注目され,とくに代かきや田植え作業を行わない不耕起乾田 直播(乾直)栽培の導入による水田農業の省力化や低コスト化が図られている.しかし,
乾直栽培は代声増作業を省略することによって浸透量の増加が予想され,また浸透量の増
加は水田用水量に影響を与えると考えられる.そこで,本研究では,乾直栽培の導入によ る用水量の増加を定量的に明らかにするとともに,このような用水量の増加に対応するために経済・嶺境的な面を考慮した新しい水渡確保の手法について検討した.研究内容は,
以下のように大きく3つに分けられる. Ⅰ.不耕起乾田直播栽培の導入による水管理と水田用水量の変化 岐阜県巣南町内に約0.5baの乾直水田と移植水田それぞれ一筆ずつを選定し,3年間にわたり水収支観測を行い,乾直裁倍の導入に伴う水管理や用水真の変化について明らかに
した.その結果,以下のことが明らかになった.①営農組合による大規模な栽培管理が行われている潅漑地区で軋移植水田の初期用水量
が代かき・田植えなどの初期作業のタイムラグによって大きく変化した. ②移植水田は耕盤層の存在によって降下浸透量が小さいことから,代かき用水量は田面均平度や取水強度よりも作土層の置換容気量によって強く影響された.
③乾直水田の蒸発散浸透量は移植水田に比べて大きい.これは代かき作業を行わない乾直④乾直水田の栽培管理用水量は小さく,総供給水量に対する栽培管理用水量甲割合も移植 水田に比べはるかに小さい・これは,乾直水田の浸透強度が移植水田に比べて大きく,取 水した用水の大部分が降下浸透によって消費されたことによるものである.
⑤乾直水田の湛水深は栽培期間中を通して変動が大きい.これは,乾直水田の浸透強度が
大きく変動も激しいので,取水強度と浸透強度の大小関係によって湛水深が大きく変動しキものと思われる・また,このような湛水深の変動によって降雨を貯留するための空き容
量が増加し,移植水田に比べて有効雨量が大きくなっている.
⑥耕盤層を境に上層と下層の土壌水分張力を測定した結果,移植水田における鉛直方向の
水分移動が耕盤層によって強く影響され開放浸透の傾向が見られたのに対し,乾直永田で
は耕盤層の影響が小さく閉鎖浸透ゐ傾向が確認された.Ⅱ.不耕起酪田直播栽培が水田減水深に及ぼす影響
岐阜県巣南町内の水田31輩(乾直15筆,移植16筆)を対象として減水深の集中観測を行い.乾直栽培導入による減水深の変化と影響要因との関係を数量化理論Ⅰ類などの手
法を用いて定量的に検討した・■その結果,以下甲ことが明らかになった.①移植栽培から乾直栽培へ栽培方法が変わると初年度から減水深が大幅に増加する傾向
が見られ,大規模な乾直栽埠を導入するには,用永計画上十分な配慮が必要であることを
②乾直水田の減水深が増加する原因は,代かき作業の省略によって耕盤の緻密性が低下し,
降下浸透量が増加したことによるものと考えられる.③調査地区の水田では中干しによる減水深の変化が見られなかった.これは,・調査圃場の
土壌に含まれる砂成分の割合が大きく(平均67軋乾燥収縮による亀裂の発生が少ないこ とによるものと推測した.④移植・乾直水田ともに面積の大小による減水深の葦はほとんど見られず,区画の大規模
化による減水深の変化が小さいことを明らかにした.⑤乾直水田の減水深は排水路水位の影響を強く受ける傾向が見られたが,移植水田の減水
深は排水路水位によって変化が見られなかった・このことから,畦塗りを行わない乾直水 田では排水路側への畦畔浸透量の増加が予想された. Ⅲ・用水系における余剰水の有効化を目的とした調整池の効率的な運用方法農業用水系内に中間貯留目的の調整池を設置し既存の水利システムを効率的に運用する
ことによって降雨時に発生する余剰水を活用する手法を検討した.その結果,以下のこと を明らかになった.①ダムの放流管理を行う際に必要となる河川自流量の予測モデルを提案した.このモデル
を実際の用水系に適用し頭首工地点の河川自流量を予測した結果,ダムの効率的な運用を 行うのに十分な予測精度が得られることを確認した.②既存の水利システムに調整池を導入し降雨時に頭首土から放流される余剰水を効率的
に運用することによって,渇水年・平水年ともに用水量が大幅に増加することを確認した.③導入する調整池の容量が大きくなるとより多くの用水が確保できるものの・.調整池の運
用効率は低下した.以上のことから,乾直栽培を導入するとより多く用水が必要であることを定量的に明ら
かにした・また,乾直栽培の大規痍な導入を計画する場合には,小規模な調整池を設置し,
既存の水利システムと連係換作することによって,環境・経済的な面を配慮した用水の確 保が可能であることを提案した. 審 査 結 果 の 要 旨 近年,水田農業の省力化や低ヲスト化の対策として,田植え・代かきを行わない 乾田直播(以下,乾直)栽培の導入が図られている.しかし,乾直栽培は代かきの 省略による浸透量の増加が予想され,水田用水量や栽培期間中の水管理に影響を与えている.本論文では,乾直栽培の導入による用水量の増加を定量的に明らかにす
るとともに,このような用水量の増加に対応し経済・環境的な面を考慮した新い、 水源確保の手法について検討している.本論文は大きく3つの章で構成される.第 2章では岐阜県巣南町内の乾直と移植水田それぞれ1筆を対象として圃場単位用水量や水管理の実態を3年間観測し,乾直栽培の導入I羊伴う用水量や水管理の変化に
ついて明らかにしているこその結果,①乾直水田の初期用水量は浸透量によって,
移植水田は初期潅水前の作土層置換容気量によって影響された.②藤植水田の初期
用水量は営農組合の代かきや田植えの作業体系によって大きく変化した.③普通期 における乾直水田の蒸発散浸透量は移植水田に比づて大きく,代かき作業の省略に よる耕盤層の機能低下が原因として考えられた.④乾直水田では,取水した用水の 大部分が浸透によって消費され,栽培期間中に掛け流しで発生する栽培管理用水量の発生が少なかった.⑤乾直水田の浸透強度が大きいことから田面湛水深の日変動
も大きく,降雨の有効化率を高める原因となった.などが明らかになった.第3章 では同地区内の水田31筆(乾直15筆,移植16筆)を対象とした減水深の集中観 測を行い,乾直栽培導入による減水深の変化と影響要因との関係を数量化理論Ⅰ類 などの手法を用いて定量的Ⅰ羊立証している.その結果,①移植水田に比べ乾直水田 の減水深が大きく,また移植栽培から乾直栽培に変わると減水深は初年度から大幅に増加した.②乾直水田の減水深は排水路水位の影響を強く受け,畔塗り作業の省
略が畦畔痩透量を増加させる原因であることが予想された.③乾直水田における耕
盤層の透水係数は全般的に移植水田より大きく,代かき作業の省略によって耕盤層 の緻密性が低下した.などが明らかになった.第.4章では農業用水系内に中間貯留目的の圃整地を設置し既存の水利システムを効率的に運用することによって降雨
時に発生する余剰水を活用する手法について検討している.提案した水利システムの運用方法を実際の用水系に適用した結果,小さな調整池セあっても降雨時に発生
する余剰水が有効に利用できることを明らかにしている.
以上,本論文の研究成果は水田用水計画上重要な情報を提供するとともに,経済▲・環境的な面を考慮した用水確保の実用的な手法を提奏している.故に,審査委
員全員一致で本論文が岐阜大学連合農学研究科の学位論文として十分価値あるも のとして認めた.<発表論文> 李尚奉,西村眞一,伊藤健吾,千家正照:用水系における余剰水の有効化を目的とした調 整池の効率的な運用方法,水文・水資源学会誌15(5),p..505-512(2002) 李尚奉,千家正照,伊藤健吾,林博康:不耕起乾田直播栽培が水田減水探に及ぼす影響一 岐阜県巣南地区を対象とした減水深の事例研究-,農業土木学会論文集224,印刷中 李尚奉,千家正照,伊藤健吾,林博康:不耕起乾田直播栽培の導入による水管理と水田用 水量の変化,農業土木学会論文集224,印刷中