特集論文
公共施設による自然体験活動を通じた地域活動の創始の可能性
:“ 工夫の余地 ” という行事設計
田代 優秋
1、阿部 聡
2、青木 利治
3、播磨 潤一
3、
松田 春菜
1、市原 眞一
1、樫本 幸実
4The possibility of starting local initiatives through
nature activities at public facilities
—Designing events that leave “room for ingenuity”
Yushu TASHIRO
1, Satoshi ABE
2, Toshiharu AOKI
3, Junichi HARIMA
3,
Haruna MATSUDA
1, Shinichi ICHIHARA
1, Koji KASHIMOTO
41. Sanagochi Nature Center 2. Insurance Division, Naruto City Office 3. Environmental Policy Division, Naruto City Office
4. Biotope Network Tokushima
This case involves a biotope pond intended for conservation of the endangered species Kawabatamoroko, which was repaired by two public facilities (Clean Center of Naruto City and Sanagochi Nature Center) in cooperation with local residents. The purpose of this paper is to clarify the “start-up empowerment method for proactive community activities." The Nature Center and Clean Center performed nature activities five times over the course of eight months. The concepts behind the nature activities were “events that anyone can do” and “room for ingenuity.” Initially, event participants were indifferent to public facilities. Post-event, however, participants were committed to the biotope pond and forests for owls. It was suggested from this result that "room for ingenuity" has provided participants with satisfaction and a high degree of freedom. Keywords: common space, public facility, community gathering place, social role and mission,
room for ingenuity, coordination
1徳島県立佐那河内いきものふれあいの里 2鳴門市保険課 3鳴門市環境政策課 4日本ビオトープ管理士会徳島支部
1.はじめに
近年、一般市民による自然環境保全活動の舞台は身近な 生活空間から地域全体へと広がりをみせている。これまで の自然環境保全活動を概観すると、高度経済成長に伴う身 近な生活空間で生じた大気、水質、土壌などの著しい環境 悪化(勝田 1988;楠田ら 1990)あるいは直接的な健康被 害を引き起こしてきた公害への抵抗(飯島 1970;松本 1973)であった。その後、社会基盤整備や都市開発などに よる物理環境の改変も加わり、野生生物の減少や生態系の 劣化(紀平 1983、坪川 1985、藤岡 1997)などに対する保 護活動(保坂 2007)も増加した。さらに、里地里山の課 題に代表されるように、ライフスタイルの変化や人口減少に起因した新たな環境問題であるアンダーユース(環境省 2012)に対する活動(山口・三橋 2007)も近年顕著にみ られる。こうした身近な生活空間から地域全体に広がって きたこの問題の解決には多様な主体の協力が必須となり、 自然環境保全活動は地域おこしや町おこしと呼ばれる地域 活性化・産業振興の活動(以下、地域活動)の中に再配置 さ れ、 全 国 各 地 で 隆 盛 し て い る( 吉 本 1999; 齋 藤 ら 2002;田中 2006)。 自然環境保全活動を含めた地域活動には、成功事例で あっても失敗事例であっても必ずコトの始まり、つまり活 動のきっかけがある。成功事例を問題意識を持つ者の発意 から多様な主体と連携した持続的な活動への発展と捉える ならば、それはすでに多く存在している。そして、成功要 因の 1 つとして体制、運営、予算、支援施策などの視点か ら論じられている(石浦ら 2004;木村ら 2008;久保田 2003;水谷・星野 2006;宮本ら 2001;山添ら 2003)。高塚・ 進士(2008)は、田園環境再生活動を対象に活動のきっか けを 3 つに類型化している。すなわち、生物の減少への懸 念といった 1)環境的要因、高齢化・担い手不足への懸念 といった 2)社会的要因、および行政主導の事業からの発 展といった 3)外的要因である。この整理は、地域が抱え る課題からみた捉え方といえる。他方で、登場する個人・ 団体・組織が実際にとった行動や言動、思い、考え方といっ た経緯に着目している事例(馬場 2006;水島ら 2008;松 岡 2009)もいくつかある。しかしながら、こうした事例 報告も、地域の事情や人間関係が背景にあるなど個別的要 素が強く、コトのはじまりについてそもそも研究として取 り挙げられることが少ない。また、立ち上げ初期は事業規 模が小さいこと、その後の成功/失敗が分からないことか ら研究対象として扱われず、その詳細が表明化することは あまりない。 今後の地域活動には、地域住民に加えて行政、企業、学 校、教育・研究機関、NPO・NGO、ホビーイスト(同好会) などが参画した緩やかな連携体「新しい公共」に期待が寄 せられている(沖田 2005;金ら 2005;細谷ら 2005)。こ うした中で、今まさに何らかのアクションを創始する個人・ 団体・組織にとって、協力者を獲得し、良好な人間関係を 構築し、持続的な活動へと発展させるためには、どのよう な考えに基づき最初の一歩をどこへどのように踏み出せば よいのか、誰とどのような連携関係を萌発できるのか、未 経験者ならではの不安感や焦燥感といった心理的な負担は 大きい。 そこで本論では、自然環境保全活動といってもその内容、 規模、主体が多様であるため、ここでは活動の場所として 最もよく利用され(栗田・植竹 1998)、コミュニティが形 成されやすい(齊藤・八木澤 1996)といわれる公共空間 の中にある共有地を対象とし、活動の立ち上げ初期に着目 する。つまり本論では、共有地を舞台に、多様な主体が参 画した地域活動を創始したい個人・団体・組織などがどの ようにして公益性の高い地域活動をデザインしたかについ て立ち上げ初期に着目したプロセス分析を行った。取り上 げた具体的な事例としては、自然林や二次林を所有、管理 する公共施設(鳴門市クリーンセンター、徳島県立佐那河 内いきものふれあいの里)が共有地の利用と管理に住民参 加の可能性を見出した過程であり、明確な方針に基づき活 動し、その結果地域住民からどのような評価がなされたか アンケート調査を通じて論じる。
2.対象組織の概要
2.1 鳴門市クリーンセンター 鳴門市クリーンセンター(以下、クリーンセンター)は 徳島県鳴門市瀬戸町堂浦に位置し、敷地面積約 58,000 m2 のゴミ焼却施設とリサイクルプラザを主要施設として 2004 年 7 月に着工、2008 年 3 月に竣工した。プラザ内には、 鳴門市の環境学習の拠点として環境学習館が設置され、そ の活動舞台として敷地周辺を囲うように「フクロウと子ど もたちの森」(以下、フクロウの森)が面積約 560,000 m2 に渡って広がり、2013 年時点でこのうち 85,000 m2が整備 されている。 このフクロウの森は、2004 年に策定された鳴門市環境 基本計画(鳴門市 2004)において望ましい環境像を実現 するために緊急的に取り組む 3 つの重点実施事業のひとつ として位置づけられている。現行の環境プラン推進計画 2012(鳴門市 2012)においても個別目標のひとつとして 継承され、フクロウやカスミサンショウウオが暮らす原始 の森を再生させ、子供たちが自由に探検・冒険ができる森 づくりが進められている。また、ここにはフクロウの森に 生息するカスミサンショウウオや水生昆虫の生息場とし て、約 10 m 四方のビオトープ池も併設されている。 2.2 徳島県立佐那河内いきものふれあいの里 徳島県立佐那河内いきものふれあいの里(以下、ネイ チャーセンター)は徳島県名東郡佐那河内村大川原に位置 し、動植物とのふれあい活動(調査研究、自然観察会、講 演活動、ゲストティーチャーなどを指す)を通じて、自然保護思想の普及に資することを目的として、1992 年に環 境庁「ふるさと自然ネットワーク整備事業」の一環として 設置された。本施設には 3 つの主要施設、すなわちネイ チャーセンター、自然観察路(林)、およびキャンプ場が ある。ネイチャーセンターは全体の拠点施設であり、調査 研究と教育普及活動を行う専門研究員 4 名が常駐してい る。2006 年から指定管理者制度が導入され、2012 年度以 降は NPO 法人大川原によって運営されている。 ネイチャーセンターでは、指定管理業務である自然観察 会を開催地の地域振興や町おこしのひとつの手段にアレン ジして開催することに注力している(田代・松田 2013)。 これまでの自然観察会は、自然観察路(林)を利用して動 植物を見て学習する行事、あるいは外部機関(地方自治体、 教育機関、任意団体など)からの依頼により当地に出向い て開催する出前観察会であった。一方で、近年各地で活発 化する地域活性化の中で、こうした自然観察会自体がその 地域の自然資源探しであったり、地域課題を掘り起こす手 段として位置づけられる。そこで、ネイチャーセンターで は自然観察会をひとつの社会貢献活動と捉え、新たな社会 的役割として自然資源探しのひとつの手法として出前観察 会を積極的に実施している。 2.3 両センターの初見の経緯 本論を進めるにあたり、クリーンセンターとネイチャー センターとが連携に至った経緯について概説しておきた い。これまで両センターは、設置目的が隣接しながらも交 流や連携は全くなかった。この理由として、所管する行政 機関の違いや距離が離れていたことなども挙げられるが、 最も大きな点としては互いの存在、使命、機能・能力、ニー ズが知られていなかったことにあった。 次に両センターの初見のきっかけとなった生物種カワバ タモロコとその保全活動について、連携構築の背景要因と なるため触れておきたい。カワバタモロコは、徳島県では すでに絶滅したと考えられていたコイ科の小型純淡水魚で ある。ところが、2004 年 8 月に鳴門市大津町の農業水路 で県内の淡水魚愛好家によって偶然再発見された。その後、 専門家らによる周辺水域での複数回の分布調査が実施され たが、未だに再発見地以外では発見されていない。このた め 2008 年以降、本種の保護を目的に緊急避難的措置とし て徳島県立農林水産総合技術支援センター水産研究所1) で親魚の飼育と繁殖事業が実施された。2010 年度以降は 本種の繁殖に成功し、約 5,000 尾まで増殖した。 2012 年以降は本来の生息地への野生復帰を最終目標と して事業展開がなされている。現在は、増殖個体のリスク 管理(疾病、突発的な事故など)と本種の保全に対する県 民の理解を深めるために産官学民連携2)のもと分散飼育 事業が実施されている(徳島県 2013)。これら本種を巡る 保全活動には、ネイチャーセンターの専門研究員3)が中 心的に携わってきた経緯がある。 本種の分散飼育事業において、再発見地の自治体である 鳴門市が果たす役割は大きい。保全活動の望ましい方向性 としては、本種が絶滅から鳴門市で再発見されるというド ラマティックな経緯を持つこと、および現在でも再発見地 以外では発見されていないことから、鳴門市域での持続的 な生息が求められている。このため鳴門市の環境学習の拠 点施設であったクリーンセンターが、本種を環境学習教材 として利用することを再発見から数年後には構想してい た。そして、徳島県からクリーンセンター内のビオトープ 池への放流要請をきっかけにして保護・保全に努めること となった。その後 2012 年 12 月に、このビオトープ池に増 殖した個体の一部を放流し、野生復帰させつつ、本種を維 持していくこととなった。 このように両センターは、カワバタモロコを保全する社 会的な枠組みづくりの中で共通する利益を見出せたことで 連携に至った。クリーンセンターでは本種を地域資源とし て利用、保全しながらフクロウの森づくりを進めることが できる。他方で、ネイチャーセンターでは専門的立場から 森づくりへの助言や技術支援することで、再発見地の自治 体と連携した本種の持続的な保全体制を構築ができ、徳島 県全体の環境保全に貢献することができる。このような初 見の経緯から、両センターは連携関係を構築していった。
3.基本方針とその評価方法
3.1 プロジェクトの方針と行事設計 両センターの連携に基づいたフクロウの森づくりの基本 方針としては、子供たちが自由に探検・冒険ができること を前提に地域住民から積極的に関与してもらうこと、すな わち主体形成型で進めることとした。当初、フクロウの森 の整備基本図案は存在していたが、ビオトープ池や野外学 習広場などを含め総面積約 560,000 m2と広大であり整備 には多額の予算が必要であること、整備後の維持管理等の 理由から様々な試行錯誤がなされていた。こうした中で出 前観察会を通じて各地の活性化に貢献することを目指して いたネイチャーセンターから、カワバタモロコを鳴門市の 地域資源と捉え、その話題性や希少性をきっかけにしてフクロウの森づくりを進めることが提案された。そこで初め に、放流が検討されていたビオトープ池の改修をプロジェ クト化して「じゃぶじゃぶ池づくり~いきものいっぱいプ ロジェクト~」(以下、プロジェクト)を企画した。つま りこのプロジェクトでは、鳴門市の中でも特に近隣住民の 参加を中心として、池づくりを入り口にして森づくり全体 へと関心を持ってもらう主体形成が目標であった。 この目標を達成するための自然体験活動(以下、開催行 事)の設計は、2 つのコンセプトに基づいた。1 つ目には、 主体形成を行うためのプロジェクトであることから、参加 者が好きなように活動でき、創意工夫しながら体験できる 等の自由度が高い「工夫の余地」(田代ら 2012)とした。 一般的な自然観察会では、対象生物、観察方法、観察ルー トなど決められたものが多い。こうした知識提供型行事の 場合、短時間でまとまった知識を教示することには優れて いるが、観察場所への愛着の醸成や自ら考え行動すること までは見込まれていない。そこで、今回の開催行事では、 参加者が自由に施設敷地内を歩きながら生き物を探せるよ う最低限の行程しか決めない行事設計に努めた。2 つ目に は、両センター共催の活動から森づくりへの発展が目標で あるため、将来的にはクリーンセンターと参加者が主体的 に実施できるよう「誰でも実施できる行事」とした。最初 はネイチャーセンターが行事内容を発案し、クリーンセン ターと協議しながら進め、徐々にクリーンセンターに自然 観察会の企画・立案、運営、実施方法などのノウハウが蓄 積されるように配慮した。 3.2 開催行事の実施者の行動分析 クリーンセンターとネイチャーセンターが共催した行事 は、2012 年 8 月から 2013 年 3 月までに計 5 回あった。主 に鳴門市在住の親子を対象としたが、市外在住でも参加希 望者があった場合は受け付けた。それぞれの開催日と参加 者数を表 1 に示す。参加組数は各行事の保護者数に相当し、 述べ 28 組、参加者数は述べ 64 名であった。この内訳はリ ピーターが多く、実際の参加組数は 15 組であった。ここ では、全 5 回行事において参加者の主体性を引き出すため の 2 つのコンセプト「工夫の余地」、「誰でも実施できる行 事」に基づき、両センターがどのような行動と配慮を行っ たかについて中心にまとめた。 3.3 アンケートによる行事評価の方法 アンケート調査は、行事の評価、および工夫の余地を持 たせた行事設計の評価を目的として実施した。アンケート の対象行事は、カワバタモロコをシンボルとして企画され た前半 3 回のじゃぶじゃぶ池づくりと放流イベントに限定 した場合、本種の希少性や話題性に強く影響される可能性 があった。そのため、後に開催されたカワバタモロコとは 直接関連しない 5 回目の行事までを含めた。アンケートは 2013 年 4 月に参加者全 15 組へ郵送し、回答を依頼した。 アンケート対象者は、我が子の満足度が保護者の評価に影 響を及ぼすと想定されたため、保護者と子供とを区別して 行った。アンケート内容は、保護者用が大きく 4 つから構 成され、居住地、年齢、過去の来訪実績などの 1)参加者 属性、参加した理由として 2)参加動機、行事の満足度や 専門家のガイドの評価として 3)プロジェクト全体への評 価、クリーンセンターへの関与意欲の変化とコンセプトに 対する評価として 4)工夫の余地に対する評価とした。子 供用は言語能力を勘案して 2 つとして、1)行事全体の評 価と、再度行事に参加したいか、2)参加の意欲とした。 アンケートの回答は、これまでの参加者全 15 組中 9 組(回 収率 60%)から得られた。回答数は保護者が 9 名、子供 が 11 名であった4)。
4.結果
4.1 開催行事の実施者の行動分析 (1)第 1 回いきもの調べ カワバタモロコの放流予定池であったビオトープ池の改 修が前半 3 回の目的であったことから、まずは池とその周 表 1 これまでの開催行事の一覧 開催行事名 開催日 参加者数(人) 保護者 子供 合計 第 1 回 いきもの調べ 2012 年 8 月 19 日 (日) 4 6 10 第 2 回 池の設計図づくり~あったらいい池を描いてみよう~ 2012 年 9 月 23 日 (日) 4 7 11 第 3 回 DIY で池づくり~石や土で池を作ろう~ 2012 年 11 月 3 日 (土) 9 10 19 第 4 回 カワバタモロコの放流会 2012 年 12 月 8 日 (土) 6 6 12 第 5 回 早春の ” 謎の生き物 ” 探し 2013 年 3 月 23 日 (日) 5 7 12 合計 28 36 64辺の森林(陸地)も含めどのような生物が生息しているの かを参加者に把握してもらうことから始めた。そこで、ガ イド役の専門家が生物の探し方だけを参加者に伝え(落ち 葉や石をめくってみる、石垣の隙間を覗いてみるなど)、 その後は全員でゆっくり移動しながらあちこちで自由に探 してもらった(図 1)。この結果、水辺と陸域を生息場と して利用するアカテガニ、カスミサンショウウオ、水生昆 虫類が見つかり、森へも関心を持てるよう情報提供(生活 史に応じて生育場を移動すること)を行った。 (2)第 2 回池の設計図づくり 参加者には前回のいきもの調べの結果を伝え、再度池の 周辺を散策しながら池の改修イメージを深めてもらった。 その後は室内に移動し、池の白地図上に事前に準備した桟 橋、石、水草などのイラストパーツを自由に配置してもら い、その他の事前に準備されていないパーツは直接描き込 んでもらった(図 2a)。このような手法を選定した理由は、 小学生低学年の参加が想定されたこと、絵を描くことへの 心理的な負担を減らすこと、第 2 回目からの参加者への配 慮といった点にある。ここでは設計図を完成させることは せず、参加者 6 組の描いた改修イメージ図を自己紹介して もらいながら、そこに共通したパーツを抽出し(桟橋、石 積みの島、深み)、参加者間で共有を図った(図 2b)。 (3)第 3 回 DIY で池づくり ここで実際に改修作業を行った。池をどのように改修す るか寸法や手順などを書いた詳細な設計図は準備せず、第 2 回の設計図づくりで抽出された共通パーツに関する土木 資材と道具のみを準備するに留めた。これは 2 つの理由か らであり、1 点目は参加者の創意工夫を促すため、2 点目 は参加者と主催者がその場で試行錯誤する過程そのものを 行事と位置づけていたためであった。そうすることで参加 者に “ 自分が造った池 ” という愛着を醸成できると考えた。 また同様に、参加した子供にも自ら作業する場を用意した。 例えば、自分が気に入った竹を山から切り出してきてもら い、トンボ類や鳥類の止まり木として池に設置してもらっ た(図 3a)。ここでの作業範囲は、湛水前までにすべき作 業(桟橋や島の土台作り、深み造成)までとし、その他の 池護岸際の緑化や水生植物については湛水後の状況をみな がら、今後の参加者の意向変化にも対応できるように徐々 に進めていくこととした(図 3b)。 (4)第 4 回カワバタモロコの放流会 基礎作業が完成した改修池にカワバタモロコを放流した (図 4)。これは、鳴門市長や徳島県関係者にも出席を依頼 図 1 第 1 回いきもの調べの様子。森の中で探し方だけを 教えて参加者に自由に探してもらっている。 図 2b 参加者 6 組が描いた池の設計図。共通してみられ たものとして観察用桟橋があった。 図 2a 第 2 回池の設計図づくりの様子。生息していた種 の情報をもとに、自分たちが観察したい遊びたい池を設計 してもらった。
しており、ややセレモニー的な意味合いが強かった。しか し、これまで参加していた親子にも同席してもらい、自ら が整備したことでカワバタモロコの放流ができるように なったという公益性の高い活動だったと感じてもらうこと を狙った。 (5)第 5 回早春の “ 謎の生き物 ” 探し カワバタモロコの放流後にビオトープ池だけでなく周辺 に広がるフクロウの森の整備にも関心をもってもらうため に、この回では意図的に観察対象種を 2 種選定した。1 種 はカスミサンショウウオで、この種は産卵・幼生期が水中 で、変態して幼体となった後は陸上生活に移行する。つま り、水辺と森林の両方の必要性を伝えることで、森への関 心を引き出せると考えた。もう 1 種はフクロウであり、森 の名称に使われているシンボル的な存在である。クリーン センター整備前には生息が確認されていたが、その後は詳 細な調査が実施されておらず、生息状況は不明であった。 そこで、フクロウを探すことで参加者に森の現状を理解し てもらうことを想定した。行事では、自ら考え工夫しなが ら行動してもらうことを狙い、あえて対象種の種名は伏せ、 卵塊写真や生態情報のみを参加者に伝え、ゲーム感覚で周 囲を探してもらった。ただし、探索する範囲は安全管理上、 保護者や主催者が見渡せる範囲内とした(図 5a)。その結 果、カスミサンショウウオは見つけることができたが、フ クロウとその生息の痕跡は見つけることができなかった (図 5b)。 4.2 行事評価のアンケート結果 (1)参加者属性 回答者の全員が当該市の鳴門市在住で、保護者の年齢は 30 代(4 名)、40 代(4 名)、50 代(1 名)と比較的若かっ た。回答した子供は幼稚園児~小学校 5 年生であった。ク リーンセンターの認知度については、ごみ焼却施設である ことは保護者 9 名中 8 名が認識していたものの、環境学習 館や自然観察スポットの存在は 3 名だけしか知らず、保護 者全員が未訪問であった。まとめると、今回の参加者はク リーンセンターが環境学習施設であるとの認識がなく、自 分との関わりを見いだせていない “ 無関与者 ” であった。 (2)参加動機 回答者が、小学生程度の子供を持つ保護者層であったた めに 9 名全員の共通動機として「子供に自然や生きものに 触れさせたかったから」が挙げられていた(図 6)。また、 図 3b 湛水前までにすべき作業を実施してできた池の様 子。湛水後でも可能な作業は参加者の意向を聞きながら整 備することとしている。 図 3a 第 3 回 DIY で池づくりの様子。生物の隠れ場にな る石積み、観察用の桟橋、避難場としての深みといった要 素だけを決め、配置や大きさなどはその場で参加者同士が 話し合いながら作り上げた。 図 4 第 4 回カワバタモロコの放流の様子。これまでの参 加者を中心に鳴門市長とともに約 1,000 尾を放流した。
4 名は「絶滅したと思われていたカワバタモロコを自分あ るいは子供が見たかったから」と回答しており、本種の存 在も参加動機になっていた。これ以外に「自分が生き物や 自然体験が好きだったから」(3 名)、「池作りなど自分で 自由に工夫できそうなイベントだったから」(3 名)を挙 げていた。このことから、子供に自然体験の機会を与えた いという “ 子供のため ” であったことに加えて、参加する 保護者自身も楽しみたいという “ 自分のため ” の意識が伺 えた。 (3)プロジェクト全体への評価 保護者の満足度は、「満足」が 4 名、「やや満足」が 5 名 と全員が高い評価であった。子供も「楽しかった」が 10 名、 「ふつう」が 1 名とほぼ高い評価であった。専門家のガイ ドについても「よかった」と回答した保護者が 7 名、「や やよかった」と「ふつう」が 1 名ずつであり、連携に対す る評価も高かった。子供に次回行事への参加希望を聞いた ところ、9 名が再度「いきたい」、2 名が「好きな内容だっ たらいきたい」と全員が参加を希望していた。評価に関す る自由意見として、保護者からは「参加者に主体性がある から(満足している)」、「本格的に山の中にはいったり、 見たこともないような近所ではみられない生き物に出会え たり、本当に参加して得るものが大きかった。(子供は) 家の中でゲームをしている時よりも自然の中でのびのび生 き物を探している時の方がずっと目がキラキラしていると 思い、親としてもうれしかった」、「クリーンセンターのま わりにあのような自然があることをはじめて知って、子ど 図 5b 第 5 回早春の〝謎の生き物 ” 探しの様子。探す目 標の種名は伏せて、生態的特徴や卵の写真から、参加者自 らが対象種を類推して、いそうな場所を探すように企画し、 生物を発見した様子。 図 5a 第 5 回早春の謎の生き物探しの様子。保護者が子 供の安全性を確保しつつ、自由に行動していた。 図 6 保護者の参加動機
もも喜んでいた」、「思ったより大きな池だったのでやりが いがあった」との意見があった(引用符内の括弧は文意を 補完するため著者挿入)。これらのことからプロジェクト 全体への保護者の評価は、子供に自然を見せてやりたいと 思い参加した結果、子供が楽しそうにしていたこと、自分 も楽しめた点が高評価につながったと判断された。 (4)工夫の余地に対する評価 参加者の主体性や発展性を引き出したかった意図は保護 者 9 名全員が感じていた(6 名が「感じた」、3 名が「やや 感じた」)。この理由として「主催者側の企画を押し付ける ような姿勢がなかったから」、「その場で思いついた案に皆 が協力して実行した」との回答があり、この意図は回答者 から好意的に受け取られていた。その結果、今後の自身の かかわり方の程度について、保護者 7 名が「企画された行 事があれば参加したい」という “ 受動的関与者 ” であり、 その他に 1 名が「スタッフと共に行事だけでなく池づくり や森づくりなどをやっていきたい」、1 名が「スタッフと 共に行事を自分で企画、運営、実施してみたい」と回答し た “ 能動的関与者 ” であることが見出された。次に子供か らの自由意見として「また池みたいに何かをつくりたい」、 「池をつくるのが面白かった」とあり、開催行事を通じて 施設整備に関与したいという意欲が子供からも見出された 可能性がある。したがって、これまで未訪問であった保護 者と子供ともに、将来的な関与者として見出すことができ た。
5.考察
本論では、絶滅したと考えられていたカワバタモロコの 話題性と希少性を利用しながら共有地の利用と管理を一体 的に達成する地域活動を創始したい両センターが、地域住 民の主体的な活動をどのように設計するか、立ち上げ初期 に着目したプロセス分析を行った。この結果、クリーンセ ンターをこれまで訪問したことがなく、環境学習施設とし ての認識がなかった “ 無関与者 ” から、今後も行事に参加 する “ 受動的関与者 ”、行事づくりや森づくりに主体性を 持って参加する可能性が見込める “ 能動的関与者 ” を保護 者と子供双方に見出すことができた。わずか 8 ヶ月間 5 回 の行事で施設管理(池づくり、森づくり)を担ってもらえ る可能性のある人材を見出せたことは、本論で採用した基 本方針であった 2 つのコンセプト「工夫の余地」、「誰でも 実施できる行事」が影響していることが推察される。以下 では、工夫の余地の構成要素を考察しながら、今まさに何 らかのアクションを創起する個人・団体・組織がどうすれ ば住民参加を促すことができるかについて考えたい。 5.1 工夫の余地とは何か? 基本となる 2 つのコンセプトの 1 つ、参加者が自由に工 夫しながら活動できる自由度の高さであった「工夫の余地」 とはどのような考え方で、どのような働きかけによって無 関与者から “ 能動的関与者 ” へと変革したのかここで考え たい。 工夫の余地については、建築や都市計画分野で文言は異 なるもののいくつかの事例がある。岩村・横張(2001)は、 都市公園に地域住民が創作性を反映できる花壇を設置する ことで維持管理作業への参加が促進されるとしている。齊 藤・八木澤(1996)は、コーポラティブ方式で建設された 戸建て住宅地に誰でも利用可能な共有地を設置することで コミュニティ形成の向上がみられたと述べている。同様に、 赤澤・中瀬(1999)も、居住者が自由に緑化活動を楽しめ る公的な場として団地内に屋外緑地を設置することで、高 齢者の積極的な利活用がみられ、知り合いが増えるなどコ ミュニティ形成機能があったと述べている。また、これら とは異なる農業土木分野でも、田代ら(2012)は、公共空 間である農業水路内に誰でも自由に使える場所を設けたこ とで、環境保全活動に関わる農家を生み出すことに成功し ている。以上のことから、本事例と上述の先行事例との共 通点として浮揚する工夫の余地を構成する要素としては “ 空間的余地 ” と “ 公益性 ” と “ 心理的余地 ” の 3 点が指摘 できよう。まず、関与を希望する者が何らかの活動を実践 するためには空間的な場所、すなわち “ 空間的余地 ” が最 低限必要となる。これは、いずれの事例でもビオトープ池、 花壇、緑地、水路と存在している。さらに、そこは個人的 な活動に供される私的空間ではなく、特定のコミュニティ によって占有的に利用できる共有空間であることから、社 会的規範が暗黙知として存在し “ 公益性 ” の高い活動に自 然と誘導される。しかし、場所と規範だけではこれは成立 し得ない。無藤(1994)は、やる気が生じるための最も基 本的な要因の 1 つとして「遊びとしての自由さがあること」 を挙げており、自ら工夫できる活動を行うときに意欲を感 じるとしている。つまり、自らの行動に対して強制や制限 を受けずに公益性を損なわない範囲において自由に楽しく 活動できる “ 心理的余地 ” が最も重要であると指摘してお きたい。本論においても行事参加者の意見として、主催者 側から押し付けられることがなく、思いついたことをすぐ に実行でき、参加者に主体性があったといった自由度の高さが評価されていた。このことが能動的関与者の獲得へと つながった点であろう。 しかし、ここで新たな論点が生じる。公益性と心理的余 地との競合である。心理的余地は参加者が自由に行動でき ることであるのに対して、公益性は個人的な欲求よりも地 域全体の利益を優先することで、場合によっては外的阻害 要素、あるいは自己抑制要素として働く。今回の開催行事 の中で両方のバランスは、参加者にとっての満足できる範 囲にあったとしかいえない。しかしながら、今後起こりう る可能性として、例えば公共施設側の管理能力を超えるよ うな独創的な意見が参加者から出され、実現不可能と制限 を受けた場合、もしくは参加者同士で活動内容や方針が異 なった場合に公益性を判断材料として誰がどうやって決め るのか、たちまち困った問題となり、公益性と心理的余地 がトレードオフとなってしまう。両方のバランスには、富 田(2010)が指摘するように同床異夢を許容しながら「一 時的な同意」を繰り返し、価値観の多様性が尊重される仕 組みが内包されなければならないだろう。つまり、本論で 提示した工夫の余地には、これが成立し、公益性と心理的 余地がバランスされ続けるための “ 制度的余地 ” といった 構成要素の存在が予見される。しかしながら本事例からこ れ以上の議論は、短期間かつ立ち上げ初期であったため論 拠として耐えうる材料がない。今後の検証にその評価を待 ちたい。 5.2 公共施設における役割分担 今まさに地域活動として何らかのアクションを創始する 個人・団体・組織等にとって、住民参加や協働はトップダ ウン的な強制によって生み出されるものではなく、芽生え を創出することが必要となる。これは往々にして時間と手 間がかかり、ひとつの主体が計画、立案、運営、実施、継 続・フォローアップの全行程をこなすことは人材・予算・ 時間・実務量からみて現実的には難しい。したがって、実 際の現場では最初の一歩をどこへどのように踏み出せばよ いのか、経験的、場当たり的であった。 本事例から考えると、コトのはじまりとしてはこれまで 接点のなかった地域住民が参加できる場を創作することが 挙げられよう。例えば、自然環境保全活動に特に関心がな くても子供の情操教育に強く価値を感じる保護者にとって 子供の伸び伸びとした活動を制限しない自由度の高い活動 を設計すれば新規関与者として見出だせる可能性がある。 この際には、工夫の余地の考え方が役立つだろう。 一方で、こうした参加者側や外部者の視点に立った行事 設計は主催者だけではしばしば先入観や固定観念によって 難しくなる。そこで、連携による利益が見込まれる個人・ 組織・機関間での対話がはじめの一歩として有効ではない だろうか。本事例のように、異なる役割や能力を持つ公共 施設間(クリーンセンターとネイチャーセンター)が利益 を共有して適切な役割分担を図ったことでクリーンセン ターを拠点とする地域活動についての新しいアクションが 創始できた。実際に、クリーンセンターに一度も来たこと がなく、公益性の高い活動ができる場所であると認知して いなかった人を獲得することができた。また、ネイチャー センターのような県立の公共施設では自然体験活動を通じ た支援はできても、県下全域を所管するためすべての場面 で実働を担うことは困難であり、各地にこうした地域活動 の拠点が整備されていくことは意義深い。公共施設の社会 的使命が問われ、公共政策の中で再配置が加速する昨今の 情勢を鑑みると、公共施設同士または行政機関同士が地方 自治体の枠を超えて、得意な能力に応じてこうした役割分 担を明確化させることは必須であろう。ただし、本事例の ように連携による利益がすぐに見出されることはむしろ少 ないため、地域住民と公共施設、公共施設間の一歩目の対 話をコーディネートする中間支援的施設を設置することが 喫緊の課題ともいえよう。
6.おわりに
本論では、公共施設である鳴門市クリーンセンターと徳 島県立佐那河内いきものふれあいの里ネイチャーセンター が連携して自然林・二次林という地域の共有自然資源を舞 台にして、絶滅したと思われていた魚カワバタモロコを地 域資源と位置づけて、どのように主体的な住民参加を構築 していくか、立ち上げ初期の行動に着目してアンケート調 査から評価を試みた。その結果は以下の 4 点に要約された。 (1)池づくり、森づくりを題材とする 8 ヶ月間計 5 回の自 然体験活動を通じて、公共施設を認知していなかった無関 与者層の中から自ら積極的、主体的に参加することを望む 能動的関与者を見出すことができた。これは、参加者が自 ら創意工夫したり、自由に活動できる「工夫の余地」を持 たせた行事設計による可能性が高い。 (2)「工夫の余地」を構成する要素は、活動できる場所と して “ 空間的余地 ”、私的な活動にならない “ 公益性 ”、そ して参加者自らが自由に楽しく参加できる “ 心理的余地 ” であった。しかし、「工夫の余地」が成立・持続するため には、これ以外に “ 制度的余地 ” の存在が予見された。(3)地域住民による主体形成を最終目標とした何かのアク ションを起こそうとする個人・組織・団体は、初めの一歩 として、無関与者層と新たな交流を持てる自由度の高い行 事を設計することが 1 つとして挙げられた。 (4)アクションを創始しようとする者にとっては行事の設 計は未経験、あるいは不慣れな点も多く、連携による利益 が見込まれる個人・組織・団体との対話も有効な一歩目で ある。これを支える社会の仕組みとしては、中間支援的機 能を持つ組織、あるいは公共施設間の社会的役割を明確化 することが必要であると指摘した。
補注
1) 2013 年度から組織改編に伴い、徳島県立農林水産総合技術支 援センター水産研究課に変更になっている。 2) 産官学民連携は「カワバタモロコ増殖・放流連絡会議」のこ とであり、徳島県農村振興課、農業基盤課、自然環境室、東 部農林水産局整備第一担当、県立農林水産総合技術支援セン ター水産研究課、県立博物館、県立佐那河内いきものふれあ いの里、鳴門市環境政策課、大塚製薬株式会社、日亜化学工 業株式会社、鳴門市大津西小学校、県立科学技術高校、日本 ビオトープ管理士会徳島支部、徳島県土地改良事業団体連合 会の全 14 部局から構成され、緩やかな連携を基盤とした協 議体である。 3) ネイチャーセンターの専門研究員の前職は、徳島大学の研究 者であった。 4) 2013 年 7 月 3 日に追加のアンケート回答が 1 組(保護者 1 名、 子供 1 名)あったが、本論では集計から除外した。謝辞
鳴門市クリーンセンターおよび徳島県立佐那河内いきも のふれあいの里ネイチャーセンターによる一連の行事にご 参加いただいた方々、アンケートにご協力いただいた方に 深甚なる謝意を表す。ビオトープ池の整備については日本 ビオトープ管理士会徳島支部から技術的なご指導を頂い た。カワバタモロコの放流には、県立農林水産総合技術支 援センター水産研究課や徳島県農村振興課をはじめとする カワバタモロコ増殖・放流連絡会議の皆様にご協力頂いた。参考文献
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