現代中学生の歴史意識の現状と課題
-茨城県土浦市新治地区における地域史に関する意識調査を事例に-
岡野 英輝*・木村 勝彦**
(2009 年 11 月 30 日 受理)
Current situations and issues of historical consciousness of modern junior high school student
-The consciousness survey concerning a regional history in Ibaraki Prefecture Tsuchiura City Niihari the district to the case-
Hideki O
KANOand Kathuhiko K
IMURA(Received November 30, 2009)
はじめに
歴史教育を考える時には,様々な立場があり得る。ここではまずは単純に三つの立場を考えてみ たい。一つは過去の歴史的事実を事実そのもののおもしろさという点で把握する方向である。これ は,いわば教養としての歴史を学ぶ立場である。学習対象の歴史事象の現在との関連や歴史を学ぶ ことの意義については一端,留保し,歴史事象それ自体のおもしろさ,それに対する学習者の興味 等を重視することで歴史教育が成立すると考える立場でもある。第 2 に歴史を学ぶことで歴史の法 則性を把握を把握し,それを現実の生活の指針に役立てようとする立場が考えられる。これにはか つての唯物史観の影響を強く受けた立場や,あるいは近代化論による歴史把握による立場などがあ げられる。これは,いわば歴史を学ぶことで未来予測に役立てようとする立場でもある。そして,
第 3 に過去の事実を現在の事実との関係の中で把握しつつ歴史的因果関係を重視し,歴史事象を学 ぼうとする立場も考えられよう。これは学んだ内容を将来にそのまま生かせるかどうかは留保し,
例えば,自らの生活の歴史的根拠を歴史事象の中に求めたり,現在の日本の社会的事象の来歴を確 認したりする場合が,当てはまる。言い換えれば,生活との関係で歴史のおもしろさを味わい,間 接的に目標を設定することでもある。
以上の立場は,形を変えつつ学習指導要領や教科書,また様々な歴史教育の実践に表れていると 考えられる。そしてこのような様々な歴史教育の立場を考えるに当たって,その基盤となるものが 学習者の歴史に対する意識,すなわち歴史意識である。歴史をどう意識するかということについて は,歴史学においても重要な問題であった。それは歴史における主観と客観という問題に突き当た る。例えば,林健太郎の次の文はそのことを表している
1)。
* かすみがうら市立千代田中学校(〒315-0065 かすみがうら市立千代田中学校)
** 茨城大学教育学部社会科教育研究室(〒310-8512 水戸市文京2-1-1)
「歴史とは何であるか」という問題が「いかにしてそれが認識出来るか」という問題につき当たらなければなら ないことは,哲学における実在論が認識論につき当たるのと同じく必然的なことである。そもそも歴史は人間にとっ て,その言葉の多義性が暗示しているように,常に人によって知られ,考えられることなしには存在しなかった。
すなわち,歴史を把握するためにはそれを把握する当事者の認識或いは意識を考えざるを得ないの である。その意味で,歴史教育において学習者の歴史意識を考慮するということは,極めて重要なこ とである。本論では,そのことを前提にしつつ,中学校に焦点を当て,学習者の歴史意識を検討の対 象とし,歴史教育に示唆を提供することを目的とした
2)。
1 歴史意識研究の課題と目的
平成 20 年改訂の中学校学習指導要領(以下, 「新指導要領」と記する)社会科では「公共的な事柄 に自ら参画していく資質や能力」 ,すなわち「社会を形成する力」を身に付けるため,社会的な見方 や考え方の育成を一層重視する視点に立ち,社会的事象の意味,意義を解釈したり,事象の特色や事 象間の関連を説明したりする学習の充実が求められている
3)。こうした傾向の中で歴史的分野におい ては,歴史的諸事象を多面的・多角的に考察し,その関連性を見出す中から,時代がそれら諸事象の 連関によって特色付けられており,それをふまえて歴史の流れが形成されていることを理解させるこ とが重要である。
学校教育においても暗記型学習からの脱却が叫ばれて久しく,そのため興味・関心の喚起や思考力 の育成など,その脱却に向けての様々な試みが展開されてきた。しかし,歴史教育が「教育」である 以上,学習者の実態把握が大切である。なぜなら,教育には必ず目標があり,その目標を達成させる ために必要な内容や指導方法が決められるが,その目標・方法が妥当であるかどうかを検討する上で は,「児童・生徒が,その発達段階に応じて,歴史事象のどのような側面に興味・感心を持ち,歴史 事象をどの程度,どのようにして理解・認識することが可能になるか」の問題が不可避となるからで ある
4)。この興味・感心,理解・認識に関する意識は「歴史意識」とよばれている。特に中学校では
「歴史の大きな流れ」 (筆者はこれを「通史」と称する)の理解が目標の一つとなっているが,この 理解を深めるために取り入れられてきたのが「地域史」である。この通史と地域史の関連についても 多くの研究がなされてきた。しかし,教科書偏重は一面的解釈を問題視され,地域偏重はお国自慢の 学習となりかねない課題も指摘されている。両者を関連付ける目的ならびにあるべき関係性のスタイ ルは未だ定着しているとは言い難い。この地域史を効果的に取り入れる際にも,前述した「歴史意識」
について考えることは重要であると考える。なぜなら,中学生が歴史に対してどのように思考し,ど のように認識していくかを明らかにすることによって,地域史素材をどのように教材化し,そこから 何を捉えさせ,通史学習とどう関わらせていくかの方向性を見出すことができるからである。
以上のことを前提に,以下では戦後社会科発足直後から研究されてきている「歴史意識」に着目し,
歴史意識についての先行研究を分析して,中学校期の特色を捉える。そして,それを現在の中学生の 実態と比較・検討することによって,歴史意識発達の現状と課題について明らかにしていき
たい。とりわけ筆者は, 「地域史」の効果的な導入の方向性について検討していくため,地域史の視
点から歴史意識の実態把握に取り組んでいくこととする。
2 歴史意識調査の歴史
(1)斎藤博による「歴史意識の層構造」
歴史意識調査において,その先駆的役割を担ったものに,1953 年に信濃教育会教育研究所の斎 藤博によって提唱された「歴史意識の層構造」がある。これは,斎藤自身が戦前の国史教育に対し て厳しく批判し,歴史学習の方法が確立していないことによる戦前への逆戻りに対して警鐘を鳴ら していることに端を発している。斎藤は,「よりよい社会形成への課題解決に,生きて働く力とな る歴史的な見方・考え方を養うところに重点がある」
5)との視点から,「歴史的な考え方」がどうい うものであり,「どんな層構造を持っているか,更に構造づけているそれぞれの考え方はどのよう な発達を示しているか」
6)を明らかにする必要性を唱えた。斎藤は,この歴史意識=歴史的考え方 の構造と発達に「時代的距離感」の発達を加え,それらを実証的に解明することを試みた。この層 構造を段階的に位置付けることで,その発達に応じた効果的な学習内容を考えるための示唆となる べき調査であった。
日常生活において歴史意識がどのような場合にどのように現れてくるかを考えたとき,斎藤は 「少 なくとも課題の解決を迫られた場合か,又は危機的な状態に直面したときであろう」
7)と述べてお り,このときの意識を心理機能的に分析すると,次のような層構造に分かれるとしている。
すなわち「a)今昔の相違がわかる」「b)変遷(発達)がわかる」「c)歴史的因果関係がとら えられる」「d)時代構造がわかる」「e)歴史の発展がわかる」の五つである。
そして,この5層が「下部層から芽生え,児童生徒の発達に応じて上部層へと順々に芽生えてく るであろう」
8)と予想した上で調査・検証を行った。そして,後述する各学年(年齢)ごとの歴史 意識の発達の特色について,その傾向を明らかにした。
それによると,中学校期における発達について,齋藤は以下のように論じている
9)。
中学一年生(十二-十三才児)は,今昔の相違がわかり,社会事象の変遷や発達の原因を,間接的な原因まで捉 えることができはじめる段階である。社会事象の変化が及ぼす影響を他の分野(機能)まで考えられるが,いくつ かの分野に及ぶまでにはいたらない。中学二年生(十三-十四才児)は,歴史意識の発達に大きな転換が見られる 学年であり,成人の歴史意識ともいえる高度のものが芽生えはじめる時期である。事象と事象との関連を多面的に 考えることができはじめ,時代構造が理解できはじめるのもこの学年である。中学三年生(十四-十五才児)は,
中学二年生に可能になりはじめた歴史的考え方(能力)が急速に発達していく学年である。事象と事象の関連も多 面的にほぼ全部が考えられる段階に達している。
この理論を基に,和歌森太郎は「因果関係を間接的な因由で把握できはじめるのが,中学一年生で
あり,三年生に至って,ほぼこれが可能となるといえるであろう。」
10)と述べているように,斎藤
の理論による中学生の歴史意識は,「c)歴史的因果関係がとらえられる」の意識が発達してくる
時期である。そして,中学校期においては,直接的な因由だけでなく,間接的な因由の把握が可能
になることに特色があると言える。
斎藤の理論は,現在においても児童生徒の歴史意識を把握する上での基準となる極めて価値の高 い調査研究である。後に横山十四男は,斎藤の研究を,歴史意識調査の「研究成果の白眉」
11)と称 している。しかし,上記の理論は歴史意識を心理機能的に捉えたものであり,学習が歴史意識に及 ぼす影響や歴史学習による発達と変容などについての視点からは考えられていない。この点に関し ては木全清博も,「教育的働きかけ(教育内容の創造)に有効な視点を提供できず,(中略)理論的 抽象的思考発達の問題にアプローチできない」と斎藤の発達研究の限界性を述べている
12)。
(2)藤井千之助による「歴史意識の理論的・実証的研究」
前述した斎藤による研究に対する批判の中から,歴史意識の実態調査だけなく,「歴史意識をど う育てるか」という問題関心が生まれ,「歴史意識の発達の問題への接近を図ろうとする研究」
13)がさかんになった。つまり,歴史意識を歴史教育により育成するという点に目を向けた研究であり,
それは,木全の言う「心理主義的形成面の静的把握から動的な歴史意識への把握」の転換であった
14)。 中でも広島大学社会科教室を中心とする「日本社会科教育研究会(以下,日社教と称する)」によ る研究は,中学~高校生を中心に歴史意識の実態を調査して授業との関連での分析を行い,さらに 卒業した生徒たちに追跡調査を実施したり,歴史意識育成に関する教育実験的な試みを行ったりす るなど,その調査方法の多様さと期間の長さから,横山十四男も「それまでの歴史意識の研究の集 大成」
15)の役割を果たしていると評価するなど,今日の歴
史意識研究にも大いに参考になるものである。この日社教 の調査研究の中心人物として研究を進め,『歴史意識の理 論的・実証的研究』としてまとめたのが藤井千之助である。
藤井は,歴史意識を「A)心理的側面としての歴史意識」
「B)歴史的思考」「C)歴史的問題意識」の3つに大別 し,これらが生活体験や歴史学習の影響により,互いに関 連し合い,図1のように螺旋的な成長・発達をしていくも のであるとの理論を唱えた
16)。この研究は,中学校・高等 学校など中等教育における歴史意識の発達を明らかにした ものとして意義あるものであり,その後の歴史意識の調査
や研究には,この藤井の理論を基にしたものも少なくない。それによれば,中学校期における歴史 意識の発達位相の特徴を以下のように挙げている
17)18)(図2参照)。
○社会的機能の相互関係の因果的把握が一般に可能になってくる。
○因果関係を間接的因由で把握し始めるのが中学校第1学年ごろであって,中学校第3学年には,それがほぼ可 能になってくる。
○中学校第2学年は,一般的に歴史意識の発達において転換期になるものが多い。
以上のことから,藤井は中学生の歴史意識を歴史的因果関係を間接的因由で把握することができ るようになってくる発達の転換期である,と定義付けており,そこに彼の特色があると考えられる。
図1 歴史意識の構造(藤井 1985)
(3)中学校期における歴史意識の特色
以上のように,心理学的な発達を中心に分析 を行った斎藤の理論,学習が及ぼす影響をふま えた藤井の理論を検証すると, 「歴史的因果関係」
の把握ができる時期である点に言及していると いう共通点がある。したがって社会的事象を他 の事象との関連性の中で捉えることができるよ うになってきており,その事象間の関連性に着 目した学習活動を行っていくことが,因果関係 把握の歴史意識を発達させていくことにつなが っていくと考えている。
では,その因果関係把握の意識が発達した結 果の姿というのは,どのような姿であろうか。
それは,両者が「間接的因由」に着目している 点に如実に表れている。すなわち,直接的原因 から間接的原因へも視点を移行して捉えること ができるかどうかということに注目されるので ある。言い換えれば,ある歴史的事象が他分野
へ影響を及ぼすことがあるということ,またある他分野からの影響を受けて今見ている歴史的事象 が成り立っているということ,などについて着目して考えることができるかが発達のバロメーター となる。これは,現代の学習の視点でいう「多面的・多角的な見方や考え方」を育てることにつな がる。歴史的因果関係把握の意識を発達させることは,事象を一方からの見方だけでなく,様々な 視点から捉えることで,事象を立体的に見つめ,事象間の関連性を把握できるようにすることであ るとも言える。
近年,歴史認識の理論仮説モデルを設定するために,日本教材文化研究財団が子どもの歴史意識 について調査した。その中で, 中学校を経ると「出来事の意味を考える」等,理論的に考える学習活 動に興味が出てくるという結果が報告されている
19)。歴史的事象が見られる意味について考察するため には事象間の因果関係に目を向け,様々な視点からその関係性について捉える力が必要となってくる。
この研究からも,前述した齋藤,藤井の中学生の歴史意識把握の特色には妥当性があると言える。
3 現代の中学生の歴史意識の現状
(1)歴史意識についてのアンケート調査の実施
上述してきた齋藤・藤井の理論は,それぞれ 1950 ~ 1970 年代にかけて行われた調査を基に構築 されている。これらの調査結果は重要な参考資料となるが,現代の中学生の実態を把握するために は,やはり現代の児童生徒への調査・分析が欠かせない。そこで,筆者は斎藤・藤井のアンケート 設問を参考とし,歴史意識についてのアンケートを作成・実施することとした。
図2 歴史意識の発達位相(藤井 1985)
アンケートはどの学年もすべて同じ内容で実施している。回答時間も 15 分と設定した。また,
岡野が勤務していた茨城県土浦市立新治中学校生徒だけでなく,翌年中学校に進学する予定である 新治中学校学区内の3小学校の第6学年の児童についても調査を実施した。これにより小6~中3 までの4学年分の歴史意識のデータを収集することができた。
小学校という他校への依頼であることや,中学校においても各学年・学級によって社会科の授業 時間が異なるなど,アンケート調査担当者は,小学校の場合は各学年・学級の担任であり,中学校 の場合は社会科担当教員となる。しかし,アンケートの解釈になるべく相異点が出ないよう,アン ケート調査担当者に対して各設問の意図や質問が出たときの対応については別紙を用意し,説明した。
表1 アンケート調査の概略
〔調査実施時期〕 平成
19年9月下旬~
10月初旬
〔調査協力校及び調査人数〕
土浦市立新治中学校第1学年~第3学年
230名(1:
80名 2:
84名 3:
66名)
土浦市立藤沢小学校第6学年
52名 土浦市立斗利出小学校第6学年
18名 土浦市立山ノ荘小学校第6学年
20名
〔調査法〕 質問紙法
15分
〔調査問題〕
問1 あなたの住んでいる地域(新治地区)の歴史に興味がありますか。ア~オのどれか1つに○を つけてください。
ア とてもある イ 少しある ウ あまりない エ まったくない オ わからない 問2 家の人と,歴史に関係のあるお話をしますか。ア~オのどれか1つに○をつけてください。
ア よくする イ たまにする ウ あまりしない エ まったくしない オ わからない 問3 あなたの住んでいる地域(新治地区)は,他の地域にくらべて歴史的なもの(遺跡や建物など
古くからあるもの)が多い方だと思いますか,少ない方だと思いますか。ア~オのどれか1つに
○をつけてください。
ア とても多い イ 多い方だ ウ 少ない方だ エ まったくない オ わからない
問4 あなたが地域について学習する場合,いちばん勉強したいと思うものはどれですか。いちばん 興味を感じるものを1つだけ選んで,ア~オの記号を○でかこんでください。
ア 自分の住んでいる地域がどのように変化してきたか,現在までの移り変わりを調べる。
イ 自分の住んでいる地域が周辺の地域にどのような影響を与えてきたか,またはほかの地 域とどのようなかかわりをもってきたか調べる。
ウ 教科書に出てくる「○○時代」のころや歴史上の有名な人物が活躍したころ,自分の住 んでいる地域ではどんなことがおこっていたか調べる。
エ 自分の住んでいる地域で活躍した人物が,地域のためにどんなことをしたか調べる。
オ 今でも近くに残っている歴史的なもの(遺跡や建物など古くからあるもの)が,自分が 住んでいる地域の歴史とどのように関係しているかを調べる。
問5 ほかから来た人に,「新治地区のよいところはどこですか?」と質問されました。あなたは何と
答えますか。しょうかいしたい新治のよいところを1つ書いてください。
問6 新治地区がますます発展していくには,どのようなことをしたり,どんなところを変えたりし たらよいと思いますか。1つ書いてください。
問7 みなさんの家の近くにつくばエクスプレスの駅ができて,鉄道が通ったとしたら,家のまわり はどのようなことが変わっていくと思いますか。考えただけ書いてください。
問8 下のグラフは,むかしの新治村にあった人力車(右の写真の ように,お客さんを乗せて人が運転する乗り物)の数をあら わしたものです。現在に近づいてくると,台数がどんどんへ ってきています。どうしてへってきたのでしょうか。あなた が考えた理由を,グラフの下の□の中に書いてください。
【新治村にあった人力車の台数】
問9 地域(新治地区)の歴史に関係のある人物名,場所の名前,古くからあるものの名前,
地名などを知っているだけ書いてください。なお,一つの□には,一つのことだけを 書いてください。
この中の問1~問4は, 「歴史的興味関心」についての質問である。これら4問は藤井の歴史意識調査の アンケートとほぼ同じ質問内容である。問1は地域史自体に対する興味関心,問2は学習以外での歴史に 対する興味関心,問3は地域に遺る歴史的事象についてのイメージ,問4は地域史学習に対する興味関心 である。問5~問6は, 「歴史的問題意識」についての質問である。問5は地域の長所,問6は地域の課題 についての自由記述である。これは,藤井が実施した歴史的問題意識に関する設問を参考としているが,
設問自体は筆者が考案したものである。児童生徒に地域の長所や課題について質問したとき,それがどの ようなジャンルから発した考えとして表出するかを見ようとするものである。問7~問8は「歴史的思考 力」についての質問である。この両問はいずれも斎藤の歴史意識調査のアンケートを参考にし,設問内容 や提示された資料及びその数値を本校の所在する新治地区のデータに修正して提示したものである。共に ある歴史的事象が他事象とどのような関連性をもっているかについての質問であるが,問7は「社会事象 の変化の影響がどのような分野にまで及ぶか」
20)という関連の把握,つまりある事象の変化が,別の事象に も変化を及ぼすこ
とがあり,その及ぼす影響を考えるという事象間の関連性についての問いである。それに対して問8は「社
会事象の由ってきたる因果の関係」
21)の把握,つまりある事象が変化してきたのには,その事象を変化させ
た理由(別な事象との関連性)があり,その理由が何かについて考える問いである。尚,問7~問8につ
いては,斎藤の分析視座に基づいて以下の表2のように視座を設定して段階を設け,分析することとした
22)。
表2 問7・問8の分析視座 問7の解答分析
視 座 視 座 の 詳 細 及 び 具 体 例 段階 備 考
不 可 能 ( 含 無 ① 歴史的関係性についての意識が
解答) 未発達。
・家の人が喜ぶ・遠くに行 交通に関係することへの影響し 直接的影響 ける・つくばに楽に行ける ② か考えられない。
・早く行ける が同じ分野(機
能 ) に 関 係 し 間接的影響(素朴な因 ・バスも増える・住む人が 駅や鉄道と結びついて考えられ た 影 響 だ け が 果関係の把握,まだ事 増える・家が多くなる・に やすいもの(他の交通機関,人 把握できる 象と 事象の関連は把 ぎやかになる・道が広がる ③ の乗り降り,家の増加,道の整
握 できていない) 備)までは考えられる。
・人がたくさん来るから・ 一見,鉄道とは関係ないが結び
・店が増える・ものが運び つけて考えられる。「鉄道の発 他の一つの分野への やすいから・工場が増える ④ 達=人の行き来さかん=商業の 社 会 現 象 の 変 影響(一面的) 発達」など。それが一つの分野
化 が 他 の 分 野 に限定されている。
( 機 響 ま で 把
握できる 他の二つ以上の分野 ・商業も工業も発達する ④と同じだが, 「商業と工業」 「金 への影響(多面的) ・銀行や映画館ができる ⑤ 融と娯楽」など二つ以上の分野
への影響まで考えられる。
【関連性が把握できるとは】
交通上の変化の影響が生産とか消費流通,または厚生・慰安・教育といったような他の分野(機能)で 把握できなければならない。
【他の分野への影響を多面的に把握できるとは】
例えば,政治上の変化が単に生産・教育とかの個々の分野への影響だけでなく,生産に も消費にも教
育にもというようにその影響が連関的に考えられること。このことが可能の 段階に達していれば,ある
時代の各分野が相互に関連し合って独特の個性を生み出していることが理解できる。
問8の解答分析
視 座 視 座 の 詳 細 及 び 具 体 例 段階 備 考
不可能(含無解答) ① 歴史的因果関係についての意識
が未発達。
歴史的因果関係がとらえ ・運転する人が減った・人力車が作られな 時間的な因由が考えられない。
られないもの(空間的因 くなった・人気がなくなった ② 果関係)
歴史的因果関係まで考え ・他の乗り物が増えてきた・より便利な乗 「新しい交通手段の出現」とい られるもの り物が出てきた・自転車や車,バスができ ③ う時間的因由による旧手段の衰 てきた 退 に つ い て 考 え る こ と が で き
る。
【②と③のちがいについての補足】
例えば,「新しい乗り物が出てきたので,人気がなくなった。」という解答は,「衰退と いう事実→その原因の思考」という歴史的関係性を捉えた上で歴史的因果関係がとらえら れているため,③に該当する。「人気がなくなった。」だけでは,「衰退という事実」はす でにグラフに表されており,そのグラフの説明に終始していることになるので,②に該当 する。
問9は,地域の歴史に対してどの程度の既得知識を有しているか把握すると共に,問3で回答し た地域の遺跡に対するイメージと実際の知識がどのような関係性を有しているかについて分析する ための設問でもある。
(2)アンケート結果と分析
以上のアンケート調査を各学年ごとの分析と先行研究による結果との比較の二点でいかに分析する。
①各学年ごとの分布から 問1
全体的には,学 年による大きなち がいはなく,イや ウなどのやや消極 的に興味のあるな
しを答える児童生 図3 地域史に対する興味・関心
徒が多いという結果になった。またア,イをトータルすると,小6が 54 %,中1が 58 %,中2が 45
%,中3が 52 %となり,低学年の方が比較的興味関心が高いということがわかる。
問2
小6は過半数の 児童が話をして おり,中学生に なると減少する。
またよく話をする 割合は小6~中2
までは学年が上が 図4 家族との歴史に関する会話
るにしたがい減少し,全く話をしない割合は学年が上がるにしたがい増加している。全体的に,中 学生は話をしない割合が高い。家族の会話の中に歴史に関する話題が出ていないことが多いという 結果になった。
問3
イ,ウと答える割 合が多いが,ほとん どの学年において,
ウの方が割合が高い。
またオ(わからない)
の割合が,どの学年
においても 20 ~ 30 % 図5 地域の遺跡・文化財に対するイメージ
を占めている。新治地区の遺跡に関しては,子どもたちの意識が低い,あるいはあいまいである。
これは個人がもつイメージや経験によって,多く感じたり少なく感じたりしているものと考えられ る(問9も参照)。
問4
中学生になると,
ウ(通史との関 連)について,
興味をもつ生徒 が学年が上がる
にしたがい,増加 図6 地域史学習への興味・関心ある内容
している。ア(時代の変遷)については,中2までは興味をもつ割合が安定している。さらにはイ
(他地域との関係)やエ(先人の業績)の割合が少ない。これは小学校や地理的分野で既習してい
ることも関係しているのではないかと思われる。
問5
どの学年も自然が豊か,緑が多いなど,自然について言及するものが圧倒的に多い。また身近な地 域や歴史を勉強しはじめた小6,ならびに歴史的分野の学習をはじめた中1においては,地域の歴 史について言及した者の数も多い。しかし,中2,3年になるにしたがい,割合が低くなる。
図7 地域(新治地区)のよいところ
問6
どの学年も自然環境,商業について言及する生徒が多く,歴史・文化はどの学年も少ない方である。
自然環境については,地域の自然を守り,あるいはこのまま維持していくことを望む回答が多く,
商業については,都市部や市街地のように買い物への利便性を向上させる町づくりを望む回答が多 かった。一方で「わからない」とか無答の生徒はどの学年にも多く見られる。長所に比べ,課題は 現状を的確に把握して後に見出すことのできるものであるので,書けない児童生徒が増えたものと 思われる。
図8 地域(新治地区)の課題
問7
全体的に,学年が上がるにしたがい,より 高次の歴史意識(歴史的関係性)を有してい る。そして小6の歴史意識において,低次の 割合(①~②)が高い。また④における,鉄 道開通による他分野への影響について,「自 然破壊」や「環境問題」につなげる児童生徒 の回答が非常に多かった。これは 50 年前のア ンケート調査では見られなかった回答である。
近年の学校における環境教育や子どもたちを
取り巻く環境から得られる自然保護やエコロジー 図9 歴史的関係性の把握 についての情報・知識が子どもたちの意識に少なからず影響を与えているものと思われる。
問8
どの学年においても,③が圧倒的に多い。この時期の生徒は,歴史的因果関係にかかわる歴史意識 を身に付けることができる時期であると言える。
図10 歴史的因果関係の把握
問9
全体的に書かれた語句の個数は非 常に少ない。細かく見れば,低学年 ほど挙げられる語句は少なく,高学 年になるにしたがい,語句の数は増 加している。
図11 地域の遺跡・文化財に対する理解
②先行研究による結果との比較による分析
Ⅰ 歴史的思考力について(斉藤博による統計結果(1952年)との比較)
ⅰ)「歴史的関係性」(問7)についての学年ごとの比較
(%) (%)
図12 歴史的関係性の意識比較(小6) 図13 歴史的関係性の意識比較(中1)
(%) (%)
図14 歴史的関係性の意識比較(中2) 図15 歴史的関係性の意識比較(中3)
どの学年においても,現代の児童生徒の方が,より高次の関係を捉えている割合が低い。昭和 20 年代の生徒は中学2~3年生になると,低次(①~②)の意識はほとんどなくなるが,現代の児童 生徒の方には,低次(①~②)の存在が認められる。これは現代の歴史的関係性についての思考力 が未熟になっていることを表していると言える。
ⅱ)「歴史的因果関係」(問8)についての学年ごとの比較
(%) (%)
図16 歴史的因果関係の意識比較(小6) 図17 歴史的因果関係の意識比較(中1)
0%
10%
20%
30%
40%
50%
ある 少しある あまりない ない わからない
S高校生 H小中学生
0%
20%
40%
60%
80%
よくする たまにする あまりしない 全くしない わからない
S高校生 H小中学生
(%) (%)
図18 歴史的因果関係の意識比較(中2) 図19 歴史的因果関係の意識比較(中3)
概観すると大きな変化はなく,各時代の学年の児童生徒ともに,③まで捉えている割合が高い。
Ⅱ 歴史的興味関心について(藤井千之助による統計結果(1963年)との比較)
ここでの項目ⅰ~ⅳについては,比較する生徒が“高校生”となっている。これは,藤井が当時 高校生を対象にしたアンケートを実施したためであり,中学生の記録は掲載されていない。中高生
(生徒)という,大幅なくくりになってしまうが,歴史意識について検討するための題材として,
敢えて比較を試みた。
ⅰ)問1との比較
地域の歴史には少し興味があるとの回答 が多く,あまりないが次に続いている。一 方で昭和 30 年代の生徒もほぼ同じ傾向を 示しており,はっきりとあるなしを答える 生徒は中学生であれ高校生であれ多くはない。
図20 歴史的興味・関心の意識比較
ⅱ)問2との比較
現在の生徒は家庭での歴史に関する対話 や伝承などについての話をあまりしない割 合が多い。昭和 30 年代の生徒は,高校生 であっても,かなりの割合で話をしている ことが分かる。「歴史への出会い」という視 点からも,地域史や歴史全般に対する興味 関心にもこの結果は影響を与えているもの と考えられる。
図21 家族との歴史に関する会話の意識比較
0%
10%
20%
30%
40%
50%
とても多い 多い方だ 少ない方だ まったくない わからない
S高校生 H小中学生
0%
20%
40%
60%
80%
時代変遷 他地域との関係 通史との関連 先人の業績 史跡の意味
S高校生 H小中学生