ネットワーク産業としての電子支払システム
藤田渉
Abstract
In the last few years, several articles have been devoted to the study of electric commerce on the open network, electric payment models and sketching their emerging developments. A great deal of ef- fort has been made on security technologies and stability of financial systems. What seems to be lacking, however, is research of the market structure of electronic payment services and consideration of their com- petition and public interest.
The purpose of this paper is to examine the market characteristic of electronic payment services and to investigate suitable regulation policies for competition. It is concluded that electronic payment ser- vices have the characteristics of network industries and the asym- metrical market which consists of a precedence monopoly firm and new entry firms as "bypass" will occur. Therefore, regulation theories rele- vant to network industries and public utilities are considered to be effec- tive.
1.はじめに
混乱を招きやすい「電子マネー」なる用語はわずかの期間に広く知られる ようになってきた。テレビや雑誌・新聞などのマス・メディアでも頻繁に取 り上げられ,そこでの論調は,経済・社会に与える影響,信頼性・安全性へ
の警告,国際的な動向に対する乗り遅れへの危倶など様々ではあるが,欧米 での各種の先行実験
( p i 1 o tt r i a
l)の様子が紹介されるなど,その定義・概念 はさて置き,高度情報化社会あるいは将来のネットワーク社会の一つの象徴 的事象として一般に認識され始めているようである。また,情報工学分野で はもちろんのこと,社会学的視点からの議論(田中[1 9 9 6 ]
,岩村[19 9 6 ] )
とと もに,当然ながら金融分野やマクロ経済学からのアプローチも進んできてい る(須田[1 9 9 6 ]
,須粛[1 9 9 6 ]
,深浦[1 9 9 6 ]
等) (註1)。その意味では当初のこ とさらに仮想社会・仮想空間( v i r t u a lw o r l d / v i r t u a l s p a c e
,p a r a l l e l w o r l d )
における実態経済と対抗するような経済の発展を強調する論議は一段落し,想定される個々の問題点についての地に足のついた議論に移行したといえよ う。また個々のアイデアの実現可能性や参入企業についての具体的な話題 のレベルになりつつある。本稿はこのような現実化も想定されるような段階 であることを念頭に置き,電子支払システムのサービスあるいは市場につい てこれまでの議論を再整理するとともに検討を行うものである。また,本稿 においては当該サービスの定義を殴昧にしかねない用語である「電子マネー」
の代わりに,
r
電子支払システム」を用いる(註2)
。2
. オ ー プ ン ・ ネ ッ ト ワ ー ク と 社 会 構 造 変 化本節においてはネットワーク社会における電子マネーの浸透を決定付ける 背景や要因について,導入論的な議論を展開する。ただしこれはネットワー ク社会の概観や技術的な未来予測を叙述することを目的とするものではな い。ネットワークと不可分な電子マネー・サービスおよびその市場を論ずる に当たって,その性質を把握するための予備的議論の一つの主題は,電子マ ネーおよびネットワーク社会は取引コストを低減し,また情報偏在の解消に 寄与し,究極グローバルな一物一価を達成するものであると期待されるが,
そのような産業に対して政策はどうあるべきかということである。
いわゆる電子支払システム
C e l e c t r o n i cpayment mechanism)
や,そこで 提案される電子キャッシュC e l e c t r o n i c / d i g i t a l c a s h )
)のアイデアに対してイ ンターネットに代表されるオープン・ネットワークは次のような状況を与え ていると考えられているC M a t o n i s [ 1 9 9 5 ]
を基に再整理)C
註3)
。①情報通信ネットワークの急速な拡大によって,まとまった量でのネット ワーク上での事業機会が発生している。またネットワークを利用する事業へ の参入・退出が技術的・費用的に容易になりつつある。
②マイクロプロセッサー技術や周辺システム技術の進歩,およびそれらを用 いた個人用機器・システム(パーソナル・コンビュータ:
PC
,ワークステー ション:WS
,スマートカード・IC
カード,その他パーソナル・ユースの デジタル通信機器など)の長足の能力向上と価格低下により,従来極めて高 速の演算速度が要求された高度な暗号技術が一般に利用しやすくなってき た。①多年の整備計画達成により接続可能な既存の金融ネットワークが充実し,
インフラストラクチャーとしての余裕を持ち始めてきた。
④ネットワークの拡大と個人用ターミナルとして用いることが可能なコンビ ュータの能力向上や普及度から,リアルタイムで市場情報(価格や通貨を含 む単位聞の換算値・レートなど)が広範に伝達可能になってきた。即ちこれ はコミュニケーションの変化を意味し,既存の,電話などに代表される
l ‑ t o ‑ l 2‑way
のコミュニケーションや,マスメディアに代表されるl ‑ t o ‑ N
l‑way C b r o a d c a s t )
のコミュニケーションなどに変わって,時間や空間的な 制約を超越したN‑to‑N2‑way
のリアルタイム・コミュニケーションが一 般化・日常化する可能性を指す。さらにネットワーク上のデータベースや サーチ・エンジン利用が,ユーザーが所有し操作・認知する領域はもちろん のこと,所有すれども自動化され認知できない(していなし、)部分でも可能 になってきたことを指している。また,既存のインターネットがオープン・ネットワークとして理解される ことが多いが,現在のインターネットはそれに包含されるか代替・吸収され る一つのネットワークに過ぎない。現在および将来のインターネットに接続 される既存・将来の各種ネットワーク,また有線・無線,さらに状況によっ てはオフラインで接続される多くのホストを含む。このホストは
PC
やWS
だけではなく双方向
TV
や双方向サービスを可能にする多くのデジタル・ターミナル
( P O S ‑ t e r m i n a l
やゲーム機器,I C
カード,家電機器など)を含 む。さらに専用回線や電話回線を介して明示的なネットワークに加入してい なくても,家庭用・個人用の電気機器や電子機器を保有したり,また日常の サービス購入に伴い会員証的なI C
カードを手渡されたり商品にチップを埋 め込まれた時点から意識しない内に何らかのネットワークに加入し,また オープン・ネットワーク上で電子的に追跡(本人は意識しないl ‑ t o ‑ N 2‑way
のリアルタイム・コミュニケーションと考えられる)されることも 十分考えられる(註4)
。このようなオープン・ネットワークが浸透した社会は単に通信網の充実や 高度化というだけでは済まないであろう。プライバシーを侵害するようなネ ットワーク・サービスは論外としても(註5
)
,日常生活や行動が多くの認 知・非認知のネットワーク・サービスに依存するようになり,あるネット ワーク・サービスに未加入であることが不利益を伴うような社会が形成され る可能性は否定できないであろう。現在でも一部のネットワーク型の産業で 議論になっている概念,例えば電話事業における「ライフライン」や「ユニ バーサル・サービス(註6 )( u n i v e r s a l s e r v i c e
:西国[ 1 9 9 5 ]
,林・田)11[1994],林[1
9 8 9 ] )
についてと同様の議論が必要なサービスも生起する可能性が高い。ネットワークおよびその上で事業化されるネットワーク・サービスの内いく つかは必需財になりかねず,電子マネーもその可能性が高いサービスの一つ である。ここで,この電子マネーを現行のクレジットカードを使用するよう に,
I C
カード型の電子財布を用いて買い物をしたり,PC
やWS
の前に座りインターネット上のベンダーのホームページに用意された
Web
マーケッ トでの買い物に電子的な支払いをするようなケースを想定すると誤解を招く ことになる。電子支払いシステム自体はこのような現行の支払方式の延長だ けではなく,価格・料金の体系を改善することにより経済厚生を向上させた り,また公平性を高めることが理論的に可能であるにもかかわらず,リアル タイムでの課金や料金徴収を行うためのインフラストラクチャーが整備され ていないためにその理論を現実に適応することができなかったサービス領域 などで効果がより期待されるはずである(内海・藤田・芝[19 9 1 J )
。ここで上記に述べたような状況はどのような技術的背景により実現される のかを簡単に説明する。ネットワーク
C n e t w o r k )
とは元来,網細工や網織 物を指す言葉である(註7 )
。ネットは網であり,糸と糸同士の結び目の選び 方により多くの編み方のバリエーションを持ち,一本の糸の時には想像もつ かなかった形状と有用性を人類にもたらしてきた。この糸(線)と結び目(交 差媒体)からなる複雑な形状(Iin ea n d c r o s s
,g r a p h a n d n o d e
など)は,そこから転じであたかも網の目状に相互に結び付き合った組織やシステムを 形容する用語として用いられるようになってきた(註8
)
。またもはやその構 成要素聞の相互の結びつきを単純に記述不可能なほど複雑な系全体を指す時 にも用いられるようになってきた。最近では情報処理装置であるコンビュータと電信電話網から始まった電気 通信系のネットワークが融合したものを情報ネットワークや情報通信ネット ワーク,あるいは単にネット(ワーク)と呼ぶことが多い。また組織名・事 業者名や提供サービス名などを先に付けて
00
ネット(ワーク)と呼称する ことが一般的な用語として浸透してきている。さらにそれら情報通信ネット ワークの提供する(あるいはネットワークを介在して提供される)サービス を含めて考えていることもある。情報通信ネットワークはアナログ情報を伝送していた通信回線網をデジタ ル信号伝送対応に発展させ,また同時に交換局をデジタル信号処理を行うコ
ンビュータで置換していったものである。これはコンピュータ側から見れば 電気通信回線網を外部パスとして拡張していったともいえる。電気機器の僅 体を開ければ昔の真空管ラジオなどでは目で追えた配線が,電子機器の時代 には素子の集積化と並行して複層の微細なプリント配線網へと複雑なものに 変化してきた。この配線網が僅体からはみ出して相互に結線しつつグローバ ルに広がっていったいったもの,これが現代の情報通信ネットワークのハー ドウェアである。現在の我々は箱としてのコンピュータの「外側」から CRTを見つめてキーボードを叩いているつもりが,主要な配線であるネッ トワークが敷設されている側の空間,即ち「箱の内側」で生活しているので ある(註9
) 。
コンビュータは社会よりも一足早く仮想化してきた。これはいわゆる仮想 空間や電脳空間を意味するものではなく,物理的存在であるシステムとして の仮想マシンのことである。周知のように初期においては
CPU
および記憶 装置などコンビュータ・システムは非常に高価であったため,計算センター に設置されるメインフレームに多数の端末が接続されていた。これを激変さ せたのはパーソナル・コンビュータ(PC)
およびワークステーション(WS)
の普及である。ハードディスク(HDD)
などの記憶装置やCPU
の 急激なコスト・パフォーマンスの向上は,コンビュータを大組織の計算セン ターの独占物から単なる消費財や日用品( c o m m o d i t y )
の位置にまで引き下 げてしまった。ただしこのため情報は計算センターを介した共有物から個人 別のものになり,スタンドアロン・コンビュータ間で情報の重複や組踊が生 じたり,知識を共有できないことによる弊害も生じてきた。これを解決でき ると考えられたのがコンビュータ・ネットワークである。コンビュータの基本構成(アーキテクチャ)概念はこの進化の間にほぼ不 変であると言ってよく,パスと呼ばれる情報の主要因廊に
CPU
,記憶装置,入出力装置(I/
O)
がぶら下がるという構造は何等変化していない。ネット ワークの通信回線はこのパスの進化概念に過ぎず,情報ネットワークは個々STEPl
メインフレーム と端末STEP2 PC
時 代 ネットワーク化計算センタ
パス
PC/WS(
ホスト)・白 大 容 量 補 助 記憶装置
...センタ・ホスト
STEP3 :
( て ご う に ご コ : (電子キャッシュ企業、第三者認証機関、e t c ) 1 CPU
ネットワーク社会 にと工工
の仮想マシン :一一一i一一‑‑‑‑'‑一一; ネットワークパス=通信回線
図1 コンピュータのネットワーク化
のノード機器の設置場所を越えて社会に広がっている仮想マシンとしてとら えることができるのである。
ここで,図中のエージェントとは一般的にネットワークの中を渡り歩き,
その作成者の意識の一部としてネットワーク各所のホストで分散処理を行 い,また各種の情報をセンタ・ホストと自動通信することにより重要な意思 決定に寄与しうるソフトウェアのこととされる。ネットワークの中を渡り歩 くというのは一種の比倫であり,実際はネットワーク各所のホストに常駐し,
必要に応じてホスト所有者に負荷を与えずに自動的に更新される。その存在 や機能はホストの所有者は当然承知済みのものであり, トロイの馬とは異な
るものである。またエージェントの常駐はホストの所有者にも相応の利益を もたらす相互的なものでなければならない。
このようなソフトウエアはネットワーク上でのハード診断サービスや,ソ フトの自動更新サービスを可能にする通信ソフトとして数多く既出であり,
また現状の
PC
が必要とする巨大なHDD
やファイル・システムを不要にす る小型で安価で,かつユーザフレンドリーな次世代ネットワークPC
のオペ レーティング・システムとして期待されている技術である。ネットワーク・ゲーム機のコンセプトや
J a v a
等のネットワーク言語はその一つの動向であ る。さらに現状でも実際に家庭内レベルにも浸透しており,ユーザが意識し なくても事業者が遠隔操作可能なCATV
のチャンネル・コントローラやペ イTV
のスクランフル・デコーダ,また長距離電話の際の電話会社選択シ ステムなどとして隠れた普及領域もある。またエージェントはオン・デマン ド技術やリアルタイム・マーケッティング技術の重要な要素であり,またネ ットワークサービスにおけるユーザー情報の収集やサービス料金徴収を効率 化するものである。そして将来の電子支払システムがもし普及するならば,顧客のホスト上で商品探索支援や電子キャッシュ使用時の暗号処理,また認 証機関への確認などをユーザに意識させずに行う重要なキー・ソフトウェア になるはずである。
ネットワーク社会は単なる通信インフラストラクチャーの整備・充実や個 々の情報機器の高性能化,小型化,低価格化のみで成立するのではなく,
N ‑ t o ‑ N 2 ‑ w a y
のリアルタイム・コミュニケーションを実現するための4情報 処理機能,例えば上記のエージェントといったものが開発され,広く浸透し た上で、成立する。過去のロボットのイメージは人間の能力を超えた作業を視 認できるスケールの機械がこなすありさまであったが,無形のロボットが至 る所あまねく浸透しているのがネットワーク社会の姿と言える。前者をlumped s y s t e m
としてのロボットとすれば,後者はd i s t r i b u t e ds y s t e m
とし てロボットである。電子支払システムは以上のようなネットワーク技術やネットワーク・イン フラストラクチャーに大きく依存するサービスである事は明らかであり,こ のためインフラ整備を必要とする部分に関しては電気通信,輸送・交通,エ ネルギーなどの分野と同様,自然独占性を伴うような産業と同様の特性を備 える可能性が非常に高い。またその双方向性は電気通信サービスと同様に需 要側の規模の利益とも言われるネットワーク外部性の問題と深く関連するこ
とになる。この産業としての特性は,既に多くの研究で検討されている金融 システムとしての議論のみならず,自然独占型産業やネットワーク産業とし ての規制理論の必要性も示唆するものである。
3 . 電子支払システムの概観
現在提案されている各種の電子支払いシステムのアイデアについて統一的 な分類,および特徴について概観する。ただし本稿では個々のアイデアやサー ビスの紹介は目的としていない(註10)。
註
2
において,概念の原産国においては「電子マネー」に相当するe l e c ‑ t r o n i c money (e‑money)
"やd i g i t a lmoney"
の用例は,主流的なe l e c ‑ t r o n i c payment mechanisms"
やd i g i t a lc a s h "
と比較して希であることをイ ンターネット上のテキスト検索によって定量的に示した。これは次に示すよ うな実際の電子支払システムを概観することによっても理解できる。ここで は代表的なD i g i C a s h
社のEcash
を例を見てみる。加入の後,取ヲ│から決済 にいたるまでの流れは以下のようになる。例)
E c a s h ( D i g i C a s h
社)、
、
(コイン保存)
①支払要求
①コイン送付
①領収証
①商品 (online)
・......................................・............................... . 購入者
日←一千一一一一三ごご二ー一一
J
①①商品(offline)… … 販売業者・
図
2 E c a s h ( D i g i C a s h
社)における手順P e i r c e
,M.
,Q'Mahony
,D . [ 1 9 9 5 ]
を参考に作成まず利用者は
Ecashと現実通貨との交換業務を行う銀行に口座を開設し,
現実通貨の預金を
Ecash
に交換する。次にEcash
を自分の電子財布( c y b e r ‑ wa l 1 e t
,自分のHDD
上に置かれるエージェント・ソフト)に引出す。ここ でEcashと現実通貨の口座は別に開設され,前者は mintと呼ばれる。また
口座間の移動には手数料が課せられる。Ecash
は以下の手順により利用者の電子財布に保存される。( 1 ) Ecash
ソフトで引出し指示( 2 )
(乱数列+金額数値列)一一ー暗号処理(電子封筒)~銀行に送信( 3 )
銀行は相手確認後,封筒を未開封のまま(暗号は解けない)ブライン ド署名(電子的裏書)一一+電子封筒を返信( 4 )
利用者は電子封筒を開けて銀行の署名付きEcash
をHDD
に保存さらに以下の手順で取引が行われる(付番は図に従う)。
①インターネット上で販売業者のホームページにアクセスレ~、要事項を選択 し,購入を申し込む
②業者側ソフトウェア
( c y b e rc a s h ‑ r e g i s t e r )
を起動③購入確認と
E c a s h (
コイン)支払要求①代金に相当する
E c a s h (
コイン)が利用者のHDD
から消えて業者のHDD
に移る(支払の完了)①販売業者は直ちに
Ecash
を銀行に送金①銀行は
Ecash
の数字列をデータベースで照会し,未使用を確認,正当なEcash
ならば業者の口座に入金(残高が増やされる)し,業者に通知(販売 業者の取引Ecash
銀行が購入者の取引銀行と異なる場合は,銀行間での決 済プロセスが追加される)⑦業者は利用者に領収を通知
③①商品発送
取引きに伴い受け渡される
Ecash
コインなる「情報(註11)J
は明らかに 貨幣( m o n e y )
の機能を満たしていない。貨幣の機能とは,決済(交換)手 段,価値尺度,価値保蔵手段,の3
機能を指すがE c a s h
に限らず電子支払 システムの機能は小口の決済(交換)手段に集中している。しかしこれも上 図において決済が完了するのは(債権債務関係の解消,あるいは代金の回収 が終了したという安堵を実感するの)は早くても①以降の段階であり,Ecash
情報を受け渡した④の段階ではない(註1 2 )
。いわゆる「電子マネー」単体では決済機能さえも完備しておらず,決済機能は既存の金融ネットワー
クと信用関係を持って接続された場合にのみ,そのシステム(ネットワーク) 全体で機能することになる。即ち電子支払システムの持つ決済機能は既存の 金融ネットワークと電子支払システムとの複合ネットワークの提供するサー ビスであり,電子支払システム単体の機能ではない。交換される「電子キャ ッシュ」は,それを構成する「一情報」に過ぎない。
このようなシステム・プロセスを見る限り「支払」の自動化・完全電子化 に特徴が有ると言え,概念の原産国において「電子(ネットワーク)支払シ ステム」と訳すべき
i e l e c t r o n i c j n e t w o r k p a y m e n t m e c h a n i s m s j
なる呼称 が支持されているのには合理性がうかがわれる。また交換される情報( b i t )
についても匿名性などが一つの特徴として強調される場合のみ比喰的にi c a s h j
やi c o i n j
が用いられるのも同様の抑制が感じられる。以上では
E c a s h
を例に検討したが,他のアイデアについても同様である。従って電子支払システムの交換する「情報」は現行の受取人あるいは支払人 起動の預金移動や引落・預金についての「指図」内容程度の機能しか備えて いない。電子支払システムのネットワークは,既存の金融ネットワークに対 して,預金口座の変化の指図や起動を可能な限り電子化したものに過ぎない と言ってもよいであろう。決済手段は依然として預金通貨が主であり,また 決済方法も,既存の振替・振込,あるいはクレジットカードや小切手・手形 などから甚だしく相違しているわけでもない。
以上から電子支払システムの機能は,発行銀行に対する現実通貨との交換 請求権の証書のようなものであり,
0
取引の確認情報(支払行為の手段)0
決済手段である預金通貨の移動や変化の指図情報O
決済完了は既存の金融ネットワーク内部と整理できるであろう。従って電子支払システムは既存のクレジットカード,
小切手,プリペイドカード,振替・振込といった決済方法をさらに高度情報 化したり,それらの要素を電子化の上に複合化して行くものと考えるべきで
あろう。金融ネットワーク側から見れば決済方法のバリエーションというこ とで
i (
新)電子決済システム」のように決済を強調する場合も考えられる。電子支払システムはその決済方法や,既存の決済手段や決済媒体との類似 性・関連性で分類される事が多いが(註1
3 )
,以上のように考えることによ り,クレジットカード,小切手,プリペイドカード,振替・振込といった決 済方法が電子化・情報化を伴いながら進化しているシステムと,上述のEcash
などのように現金(キャッシュ)的な要素,特に匿名性や追跡不能性 (匿名での連続譲渡)を重視したいわゆる「電子(デジタル)キャッシュ( d i g i t a l c a s h
,e l e c t r o n i c c a s h ) J
をある程度同列に括ることが可能になる(註1 4 ) 。
電子支払システムのより一般化したモデルは以下のように考える事ができ る(J
a n s e n
,P .
,Wainder
,M . [ 1 9 9 5 ]
を参考)。基本的に全ての取引( t r a n s a c ‑ t i o n s )
はオープン・ネットワーク(例えばインターネット)上でも可能で あるが,既存の金融ネットワーク( f i n a n c i a ln e t w o r k )
を決済のために用い る考え方が主流になっている。この理由は主として安全のためと,企画・開 発の経緯や制度的な受容性を考慮するといった理由による。金融ネ'1トワーク
取引情報の流れ
4
一一一ー通貨の流れ 一一一歩・
図
3
電子支払システムの一般化モデルJ a n s e n
,P .
,W a i n d e r
,M . [ 1 9 9 5 ]
を参考に作成決済が完了するためには,電子支払には以下の現実通貨の流れが必要であ る(J
a n s e n
,P .
,W a i n d e r
,M . [ 1 9 9 5 ]を整理,番号は上図に対応)。
①払い戻し・引き出し[
w i t h d r a w a
l,購入者( b u y e r )
一一+取引金融機関 (is s u e r ) ]
購入者が現金でプリペイドカードを購入する, ATM経由で入金する。あ るいは払い戻しにより口座の預金残高を減らしたり貸出残高を増やすなど。
②決済・清算[c1
e a r i n g
,購入者の取引金融機関(is s u e r )
一一子販売者の取 引金融機関( a c q u i r e r )]
金融機関内部あるいは金融機関聞の預金移動。
③預け入れ・預金
[ d e p o s i t
,販売者の取引金融機( a c q u i r e r )
→ 販 売 者( s e l 1 e r ) ]
販売者の口座への入金など。
さらにどの時点で電子取引情報と現実通貨のリンクが行われるかで支払シ ステムを分類することができる(同じく
] a n s e n
,P .
,W a i n d e r
,M. [ 1 9 9 5 ] )
。a )
前払システム( p r e ‑ p a i d( d e b i t ) p a y m e n t s y s t e m )
「①(事前)→取ヲ│→③→②」のリンクが行われる。プリペイカードや支 払保証小切手が代表的なものであるが,スマートカード
( I C
カード)によ る電子財布を用いる電子キャッシュ・システムや前出のE c a s h
のように一 旦現実通貨の口座から電子キャッシュ用の口座に預金移動を行ったり,自分 のHDD
上の電子財布に移動するシステムは皆このシステムに分類される。b )
同時支払システム( p a y ‑ n o wp a y m e n t s y s t e m )
支払いと同時に①→②→①のリンクが行われる。振込・振替を電子的に即 時に行うシステム,例えばATMカードシステムなど。
c )
後払システム( p a y ‑ l a t e r( c r e d i t ) p a y m e n t s y s t e m )
「取引→③→②→①(事後)Jのリンクが行われる。クレジットカードが代 表的なシステム。
この視点に立てば電子支払システムの中でも注目される事が多い電子キャ ッシュは,スマート・カードや可搬装置による電子財布を用いるオフライン 型も,使用者のネットワーク端末から使用するオンライン型も,利用者が事 前に金融機関に発行を要請する電子キャッシュはいずれも前払
( p r e ‑ p a i d payment)
システムになる(註1 5 )
。またクレジットカードを用いたネット ワーク上での電子取引は後払( p a y ‑ l a t e rp a y m e n t )
システムになる。電子支払システム概念の中でも電子(デジタル)キャッシュは現金的な機 能を果す可能性があるとして注目されているものである。これは他のシステ ムがクレジットカード,小切手,プリペイドカード,振替・振込といった既 存の決済方法・システムに依存したものであり,さらに電子化が進められた としても現実通貨に代替する可能性は少ないとされるのに対し,電子キャッ シュは電子情報それ自体が現実通貨と同等の決済手段になり得る可能性を持 ち,そのことが既存の金融システムや金融政策に大きな影響を与えかねない
とされるからである(伊藤穣一・中村隆夫
[ 1 9 9 6 ] )
。そのような機能をもたらしうる電子キャッシュの要件としては,まず以下 の
6
要素が提案されている(Ja n s e n
,P .
,羽T a i n d e r
,M . [ 1 9 9 5 ] )
(註1 6 )
。現状 で提案されているものでこれらをすべて満たすものは存在していなし、。また,現状で提案されている電子キャッシュは法定通貨の代理通貨
( t o k e n
, トー クン)であり,私的な独自の発行は概念として論じられている状況である(註 17)。
①安全性:
S e c u r e ( u n a b l e t o a l t e r / r e p r o d u c e )
洗練された暗号技術により高度な安全性が確保されていなければならな い。例えば変造や複製,二重使用が防止されなければならない。またシステ ムを構成するハードウェアの安全性や,ネットワーク自体の頑健性・信頼性 が重要である。
②匿名性および追跡不能性:
Anonymous ( u n t r a c e a b l e )
暗号技術による匿名性や連続譲渡シーケンスにおける追跡不能性は現金と 代替するシステム同士の競争上の重要なポイントになってくると考えられて いる。まず支払いに関しての匿名,さらに取引自体を不可視にすることを意 味する。これは批判の対象になっている場合もある(註
1 8 )
。①可搬性:
P o r t a b l e ( p h y s i c a l i n d e p e n d e n c e )
安全性と使用はどんな物理的な配置にも依存しない。コンビューター・ネ ットワークを通しでも,またコンビューター・ネットワークから他の保管装 置へ移すことも可能。持歩き可能であり,オフラインでの配布も可能である。
また唯一の独占的コンビューターネットワークに制限されない。
④双方向性:
Two‑way ( u n r e s t r i c t e d )
他のユーザーへ移転可能である。現在のクレジットカードシステムのよう に一方が支払を受ける資格が登録されている必要はない。
①オフライン能力:
O f f ‑ l i n e c a p a b l e ( a v a i 1 a b i 1 i t y )
二者聞の交換がオフラインで可能であること。すなわち支払プロセスにお いて認証機関などの第三者介在
( h o s t ‑ c o n n e c t )
を要求されない。また有効 性は制限はなく第三者認証無しにいかなる時点でも支払あるいは価値の移転 が可能である。⑥可分性:
D i v i s i b l e ( f u n g i b l e )
ある額は,より小さな額の部分に分割可能であり,望む単位での両替・つ り銭を作ることが可能であり,任意規模の小額取引を容易にする。
上記要件中において,
I
安全性」には本質的な重要性がある。これは暗号 技術に注目が集まる事が多いが,システムを構成するハードウェアやネット ワーク自体の頑健性・信頼性は非常に重要である。例えばネットワーク事故,記憶装置事故が生じないことや,生じた場合の迅速で安全な復旧の手段が用 意されているかなどの要件であるが,この問題は各種の電子支払システムの
提案においては明確に述べられていないことが多い。
いずれにしても電子支払システムは単に
IC
カード技術や暗号技術のパッ ケージ化のみで達成できるものではなく,膨大なパックヤード・インフラス トラクチャーの整備と技術開発投資が必要であり,ネットワーク産業として の特性が際立つているものであるといえよう(註1 9 )
。4 . ネットワーク産業としての電子支払システム
電子支払システムによるサービスを提供する企業,あるいは産業の享受す るメリットはさておき,当該サービスが導入されることによる利用者のメリ ットはどのようなビジョンが提案されているのであろうか。
既に論じられているように(岩村
[ 1 9 9 6 ]
など)例えばスマートカード型の 電子支払システムを用いることの現行のクレジットカードに対するメリット は,既存のクレジットカード利用の形態を考える限り明確なものではない。極めて強力な暗号技術を採用し安全性を高めた,とりあえず技術的に高度な ものという説明ができたとしても,それは直接の利用メリットを主張するも のではない。利用者一般にとって支払いメカニズムをブラックボックスとす れば,確かに同じくカードで買い物していることに積極的な相違を主張する ことは難しいであろう。特に事故時に不正使用であることの立証責任が依然 利用者にあるとすれば,多少の安全強度の差は決定的な相違として利用者に 受け止められることは少ないかもしれない。悪意にとれば強力な暗号技術の 採用は,電子支払サービスを提供する企業のアリバイ操作に過ぎないと考え るかもしれない。また利用機会がクレジットカードと比較して果たして広範 であるのかということも利用者にとっては関心事であろうし,また事実上ク レジットカードのメリットとともいえる「つけ払い」機能と比較して魅力あ る物なのかということも重要なであろう。
そしてこの問題における用意された回答は,一つはネットワーク社会,高
度情報化社会におけるマイクロ・ペイメント領域(註2
0 )
であり,もう一つ は企業レベルでのマクロ・ペイメントやスーパー・ペイメント領域である。前者はネットワーク社会において提供される情報サービスに含まれる微少な 有料サービスや従来切り上げなどの端数処理をされてきた課金の正確な支払 いなどに代表される。あらゆるサービスや権利に対する対価を,利用部分に 応じて細分化された課金・徴収を可能にし,サービスの多様性や利用可能性 が追求可能になるというものである。また,クレジットカードでは手数料的 に見合わない支払いや,銀行振り込みでは手数料が上回るような送金を可能 にしたり,さらに一般の商品でも釣り銭を気にしないで済む自由な価格付け が可能になり,利用者は小銭や間接税計算の心配をすることなく価格競争を 享受可能などのメリットが想定されている。
後者のマクロ・ペイメントでは企業聞の決済毎の銀行手数料や現金取り扱 いコストを節約したり,スーパー・ペイメント領域では
M&A
がらみの巨 額資金の送金などにおける各種のリスクやコストの低減に寄与するとされて いる。どの領域においても利用者にとっては決済コストの低下がメリットと されていると考えることができる。また当然のことながら電子支払システム の発達過程において,小切手や手形や振替・振込など預金通貨利用システム の持つ特性や,クレジットカードの持つ後払機能などはそれら自体の電子化 も進展することから,サービスとしての複合化・融合や包含化が進み,新し い決済方法のメリットは機会費用の低減なども含めた全般的な決済コストの 低下に収束していくであろうことは理解できる。ところで一般の利用者に注目し,マイクロ・ペイメント領域から消費財市 場領域に至る程度の支払規模の市場を考えてみよう。この電子マネー・サー ビスでの決済コストを C
e
• 現金通貨で一般的に取引される市場の集合にお ける決済コスト C1• 現行の預金通貨での取引が利用者にとって有利な市場 の集合における決済コストC 2
とすれば,o
~Cl 三三 Ce三三 C2•
あるいはo
~Cl 三 C2::三 Ceなる関係が成立することになる。現金通貨による決済は通貨を発行する主権 国家により保証されており,そのシステムのためのインフラストラクチャー はいわば公共財であり,利用者は税金により間接的にコストは負担しでも通 常の支払時にそれを意識することはない。また電子支払システムによる支払 (決済)コストはマイクロ・ペイメントである限り現行の一回毎の振込・振 替手数料よりも低く設定されるはずであるが,集計された手数料の総支払額 に対する比率がどうなるかは未だ不明である。現在でも振込・振替において は利用者にとって手数料が合理的と考えられる額の支払に利用されているは ずであり,それが電子支払システムの支払額に対する支払コスト比率と比較 してどうなるかも不明である。またクレジットカードと比較して,直接・間 接の利用者負担額がどうなるのかも不明である。ただし現行のクレジット カード・システムよりも仕掛けとして簡単なシステムとは考え難いのは事実 であろう。確かに現在では預金通貨やクレジットカードでは取引不可能な新 領域に関しては
o
~Cl 三三 Ce( =C2new) 豆 C201d~ ∞なる関係が想定される。ここで添字
new
は電子支払システムに包含された ものを意味し ,o l d
は既存のものを示す。またC 1
に関する左端の項について は現金通貨でも支払不能な領域ならば必要ない。今のところ支払(決済)コ ストの低減と言っても,その合意は,電子支払システムは公共財ではなく,またビジネスとして最低限の費用は回収される(さらにレントが発生する可 能性もある)ということでしかない。
また,各システムの導入範囲(取引可能市場の集合)の関係についての簡 略化した概念図を以下に示す。電子支払システム各計画のアナウンスを信じ る限り,現行の現金通貨および預金通貨・クレジットカードを用いた各支払 形態,決済方法に代替・補完が可能なはずである。その場合,下図のように 公共財である現行通貨のインフラストラクチャーに代替・補完するような,
極めて公共性の高い巨大なインフラストラクチャーが形成されることにな
電子化が難 しい傾域 低普及の場合の 電子支払システ
ム取引領域
"・・・・、
域傾の可
FhH A
aa
ふJつ
電子支払シ ステムに不 参 加
現行の預金通貨利 用支払システム
電子支払シ ステムによ る新市場
図
4
電子支払システムの市場る。このようなサービスであることを前提とする電子支払システム市場に関 する議論は十分なされているのであろうか(註
2
1)。すでに述べたように電子支払システムはネットワークと物理的あるいはソ フトウェア的に深く関係したサービスであり,またそのサービスは公共財で ある現行の通貨システムと代替・補完するような機能を有する極めて公共性 の高いものであるはずであり,なおかっそれは私企業により経営される事業 である。経済学においては私企業による公共性の極めて高い,またネットワー クを形成するようなサービスの市場については既に十分な研究が行われてい る。またこの種のサービス市場に対する公的な規制や規制緩和についても深 い分析が行われてきた領域である。ここではそれらの成果を援用しつつ,新 たなネットワーク産業ともいえる電子支払システムの市場に関して示唆され る事項を検討する。
ネットワーク産業の提供するサービスの消費(ネットワーク型の消費)と は,その財やサービスの利用価値が,同じ財・サービスの利用者が他にどれ だけ多く存在しているかによって決定されるような消費がなされることであ る(林[1
9 8 9 ] )
。例えばある電話網に加入するに当たっては,通話の必要がある取引先や緊急、呼出し,あるいは知人が既に加入しているか至近に加入す るという確信がなければ加入の価値が無いことになる。このように普及率(加 入率)が大きいほど参加者の享ける便益が大きいような現象を「ネットワー ク外部性
( n e t w o r ke x t e r n a l i t i e s ) J
という。以下,簡略化されたモデルによりまずネットワークの均衡規模が内生的に 決定されるメカニズムを確認する。ここではネットワーク外部性の尺度とし て消費者余剰の増分を考える(註
2 2 )
。特定の電子支払システム・サービスに参加(加入)している利用者数
q
を グ= η
とする(n=N
で普及率n/N=l
,即ち社会規模をN
と置く, 1 くnくN)。ここでグとは均衡加入者数を意味する。利用者数グ=n
,即ちn‑
構成要素
( n o d e )
ネットワークの潜在的な取引(交換)パターン数は下図 の簡単なモデルより,l ‑ n o d e
あたり( n ‑
J)であることからn ( n ‑
J)である。図5 n‑'構成要素 (node)ネットワークの潜在的な取引(交換)パターン
従って今利用者数がnから
η+1に増加した時の電子支払システムを用い
た取引(交換)可能性は追加的に 1利用者が増加したことにより ,n ( n ‑
J) から(n+
J)n
に変化し,(n+
J)n
寸t ( n ‑
J)=2n
の潜在的な取引パターンが増加する。この事自体が直接的なネットワーク外
部性の存在を示唆するが,さらに以下の仮定のもとに
η
加入者(n/N
普及) が期待される時の,その加入者数条件付き需要曲線グ (p,n )
と消費者余剰を 検討する。ここで需要関数 q*(乱η )
において,ρ
は変数(貨幣単位),n
は 期待される加入者数を意味する。消費者余剰の増分で示されるネットワーク 外部効果 ~EX は以下のように表される(ミッチェル,B.M.
他[ 1 9 9 5 ] )
。2 手 ナ
(. . an¥
これはグ (p,
n )
から q*(¥
p,n+
一)への加入者数条件付き需要曲線のシフトにa p J
より生じた消費者余剰の増加部分に相当する。
p l
およびρ2
はそれぞれの on /^
~ù..-' ^
期待加入者での均衡価格である。またーく
a p O
でありL‑のサービスは正常 財であることを仮定している。期待加入者数グ
=n
の時,加入第一番目の利用者の感じる便益(ネットワー クの価値)と加入コストの差を潜在的取引可能パターン数に比例する,a ' n (
冗‑1)とし(別な加入者が増加すればそれだけの潜在的便益が発生する ような,各加入者はそれぞれ取引するにたるu n i q u e
な性格を有するものと する),最後の第 n番目の利用者(期待均衡点)の感じる便益と加入コスト の差を0
とするα ( > 0
:比例定数)。このような便益の構造を持つならば明らかに潜在的加入者が進んで支払う 意志のある価格を示す需要曲線は右下がりであり,また直線としてモデル化
しでも一般性は失わない。この時,第
i
番 目 (0
豆i
豆n)の加入者の進んでG . n ( n ‑ l ) ( n ‑ i )
支払う意志のある価格を
= α
・η ( n ‑ i )
とすることができ,n‑l G・
n'"加入者数条件付き需要曲線の傾きは, 一一一
n =‑a'n
,である。ただしこの 需要曲線グ (ιη) は期待加入者数グ =n~こ対応する点以外はすべて不均衡点 からなることに注意しなければならない。逆需要関数で表せば,P *
(q,n )
で あり,変数q
に関して減少関数である。従って期待加入者数がn ‑ l
からnへ 変化したときの外部性効果は逆需要関数を用いて,.
il
EX =
肌 一 民 一1 = J ( p * ( p , n ) ‑Tl)dq‑ J ( p * ( 仰 )‑ P 2 )
々と表せる。
この時,図
6
に示すように左辺第一項に相当する消費者余剰W
らは底辺n
, 高さα . n 2
の三角形となり ,W;n‑2 ー ら
U. n
f V3
となる。ま?第一項は,期待加入者c . . . . . ' d ‑ ' . , )
O ,,*,''‑?P‑数
q*=n‑1
の場合である。即ち ,n ‑ 1
加入者(仇一J)/N
普及)が期待される ときの,その加入者数条件付き需要曲線T*(ι n ‑
J) と消費者余剰はそれぞれ 傾き ,‑ a
削 , 院 ー1 ‑ 2 α
(n‑1 ) 3
である。追加的な 1利用者増により均衡が変化したことによるネットワーク外部性 効果は需要曲線の移動による消費者余剰の差,
1 /
.,~
1r ~ / ., ~l
.il
EX=W
ム‑ W
ら‑1
=~a'n3 -~a ・ (n- 1) 3=;;-al がー (n ー 1 )3 12~'V 2~v V
2~L'. ~/J > 0 {aEX̲
1:̲̲W
ム‑ W
ム‑h=3a
",,2 ¥
で示されている。│一一一=lim"
n "n‑n v : n
21o ¥
a n h
→' o h 2 ' .
J. p*(q , n
・1ノ
p .p オ ( q ,
n)傾き
=‑8.
'nr P伽 J
。 n ‑ l
n N q 図6
ネットワーク外部性効果以上では加入者数条件付き需要曲線 T*(
ι ω
に関しては,その傾きが示されているのみで切片は未知である。さらに仮定のもとにこの加入者数条件付 き需要曲線
P * ( q
,n)を特定し,期待均衡点全体の集合ρ ( ι q )
を考察する。ま ずO
普及レベルでの消費者の便益は0
であり ,P * ( ι 0 ) =0
,およびω ρ
,0 )
=0
である。また ,N
→∞の場合の発散や無限大消費を防ぐために以下の仮 定を置く。l i ! p p ( q
,q)=D(NpN)=0
従って
n=N
の時に期待均衡点は期待均衡需要グ= N
,期待均衡価格P*=
0
であり,この時の加入者数条件付き需要曲線P * ( ι N)
は,ρ * ( q , N ) = ‑a.N.q+α . N2
で表される。この関数形をn
二 N
以外にも用いれば加入者数条件付き需要曲線P * ( ι
n)は,p * ( q
,n ) =‑a
・η 'q+ α .N'n= α .n(N‑q)
p
a
.Jf。 2 3 n ‑ l n
Nq
図
7
均衡加入者集合p(q
,q )
曲線と表すことができ,これはこれまでの仮定をすべて満足するO この時,期待 均衡点全体の集合,
ρ( q
,q ) = ( q
,t * ( q
,q ) ) = ( q
,a . q ( N ‑ q ) )
,0 三 三 q 三 三 N
は図7
のようになる。ρ ( q
,q )
はq‑ ρ
平面において上に凸である二次曲線t=‑a.q2+ α . N . q = α . q ( N ‑ q )
を描く。これは
Rohls
,J . [ 1 9 7 4 ]
および林[ 1 9 8 9 ]
,[1 9 9 4 ]
でのネットワーク外 部性モデルとほぼ同じ形である(このケースではα = N ‑ 2 ) (
註23)。上記のような形状を有する均衡加入者集合
ρ ( ι q )
が導出された場合,い くつかの興味深い市場特性が指摘されている(林[1 9 8 9 ]
,[1 9 9 4 ] )
。p
A
D
cl
o
q .
匂 Q.~ N q
図8均衡加入者集合
p(q
,q )
と複数の期待均衡点図
8
から明らかなようにユーザーのネットワーク加入コスト(加入価格) がC 1
の場合,期待均衡点はq=O
,E
,F
の三点である(この内,点E
は不 安定であり点F
は安定)(註2 4 )
。何らかの方法により qlを超える普及から 開始すれば,ネットワーク加入者は増加を続け ,Ql
に至る。もし同じコスト構造により加入価格
C 1
を持つ企業が複数存在したとしても,先に何らか の価格差別以外の方法により qlを超える普及を達成した企業があれば,他 の企業は先行企業ユーザーの過剰慣性により新規参入は不可能になる。また,別なコスト構造による加入価格
C 2
を持ち,安定な期待均衡点においてはよ り安価なサービスを多くのユーザーに提供可能(Q2>Q1)
な企業が存在し たとしても,C 1
型の企業の方が先に臨界普及水準 ql (くq2)に達するため に新規参入は不可能になる(註25 )
。ネットワーク産業市場の特性として,競争の自由化が必ずしも技術的に優位な企業に有利ではない事に注意する必 要がある。
また,競争的独占の場合(例,図9,ac)を除いて独占価格設定の結果,
社会的な均衡点
( Q e
,P e )
と訴離した(Qm
,P m)でのサービス提供が行われる
ことになる(Economides
,N. [ 1 9 9 6 ] )
。P
P
岡P c
o Qc Qm Qc N
q
図9
均衡加入者集合p
向,q )
と独占的価格設定以上から電子支払サービスに対しては,技術的に優れたシステムが社会的 に選択されるためにはどのような政策が採られるべきであろうか。少なくて もシステムの崩壊を防止するためにシステム・デザインや技術,あるいは運