42 1.はじめに
半導体超微細加工技術の発展によりナノメータースケールで半導体の加工が可能となっています。現 在の半導体産業では超微細大規模集積回路(VLSI)の最小加工寸法において45ナノメートルが実用段階 にあり、32ナノメートルが研究開発段階にあります。半導体を加工して電子に対してポテンシャル障壁 を設けることによりナノメートルスケールの微細領域に電子を閉じ込めたり、電子の通り道に薄い障壁 を設けた場合、電子の量子力学的な性質が顕著になります。この性質を巧みに利用することにより、量 子井戸構造発光素子をはじめ、トンネル効果素子、2次元電子トランジスタ、1つの電子を操作すること ができる単電子素子等の新しい機能を持つデバイスの創成が期待されます。特に1次元量子閉じ込め構 造である量子細線や0次元量子閉じ込め構造である量子ドットなどの低次元量子構造を半導体発光素子 構造の発光層に利用した半導体レーザーは従来の半導体レーザーに比べて、低閾値動作、発光強度増強、
温度安定性などの特性が飛躍的に向上することが指摘されています[1]。これらの量子井戸構造、量子 細線並びに量子ドット構造の量子効果デバイスを実現するためには、低次元構造半導体の形成方法の確 立、例えば、低次元構造半導体のサイズの均一性、ポテンシャル障壁構造となる他の半導体のサイズ均 一性も重要な研究開発要素となっています。本研究では自己組織化ナノ構造、励起子発光、室温量子効 果をキーワードにして、ZnO系半導体材料の高輝度可視発光ナノヘテロ接合素子の開発を行いました。
特に重要な課題としてZnO系半導体のLED構造や製造方法を詳細に検討し、さらに可視光発光層に自己 組織化ナノ構造形成を取り入れ、これまで蓄積されてきたZnO系基礎研究を発展すべく研究開発を進め ました。このナノヘテロ接合素子は、発光ダイオードの基本構造に従来の量子井戸構造からさらに原子 レベルの量子閉じこめをし[2]、発光エネルギー幅を狭窄させた構造を取り入れ、自然光に限りなく近 い演色性の高い発光ダイオードを目指し研究を進めました。
2.酸化亜鉛系材料と1次元閉じ込め量子ディスク構造
酸化亜鉛(ZnO)は直接遷移で禁制帯幅(3.37eV)が大きく、青色から紫外域の光電子素子材料とし て期待されています。酸化マグネシウム(MgO)や酸化カドミウム(CdO)との混晶化によって禁制 帯幅を変化出来、量子井戸などの多層構造が作成可能です。ほぼ同じ波長域をカバーする窒化ガリウム
(GaN)系化合物と比べても、励起子結合エネルギーが60meV(GaNは24meV、室温は25meVに相当す
酸化亜鉛系量子ディスクに関する研究
静岡大学電子工学研究所 中村 篤志 [email protected]
〔村田基金研究助成〕
43
Well Barrier
PL Intensity ( arb.units ) Emission energy (e V)
8nm
2.0 2.5 3.0
Photon energy(eV) Well width(nm)
3.5 4.0 0 2 4 6 8 10 4nm
2nm
3.2
3.0
2.8
2.6
る)、励起子分子の結合エネルギーが15meVと非常に大きい値を持ちます。また、励起子が関与した光 物性が顕著に現れ、応用した高効率の発光・受光、大きな光非線形特性が発現するものと期待されます。
特にナノスケールの新しい物理の発展と新規なデバイス特性発現並びに飛躍的な特性改善に寄与しま す。さらに均一な極微ナノ構造が実現出来れば、量子効果の明瞭な発現と励起子効果の大幅な増強が予 想されます。1次元量子ディスク構造とは、自己組織的に形成されるナノロッド形状の酸化亜鉛半導体 結晶内に量子井戸構造を設け、ポテンシャル障壁層となる井戸幅間隔を励起子のボーア半径程度の大き さまで狭めた2次元量子閉じ込め構造(量子井戸構造)に加え、ロッド径を狭めることで疑似的に量子 ドット構造を内包したナノワイヤー構造を指します。
3.酸化亜鉛ナノ構造
酸化亜鉛ナノ構造の結晶成長はリモートプラズマ支援有機金属化学気相堆積(RPE-MOCVD)法を用 いて行われました。有機金属原料はジエチル亜鉛(DEZn)、自メチルカドミウム(DMCd)、酸素をプ ラズマ化させ、基板温度350度でナノロッド結晶成
長を行いました。量子井戸構造はバリア層となる ZnOナノロッドを400nm程度成長させた後ZnCdO活 性層の厚さを2, 4, 8nm、さらにバリアキャップ層に ZnOを30nm成長しました。あらかじめZnO並びに ZnCdOナノロッドを成長させて成長速度を計測し た後、量子ディスク構造の各層の厚さを制御しまし た。図1に代表的な量子ディスクナノ構造のSEM写 真を示します。成長したナノロッドは40nm程度の 直径で成長基板面に対し垂直に配向して成長し、量 子構造はZnO(10nm)/ZnCdO(8nm)の井戸構造 を10サイクル形成された場合においてもディスクリ ートな個々のナノロッドが得られていることがわか ります。
4.量子ディスク発光特性
図1. サファイア基板上に成長したZnCdO/ZnO MQW nanocolumn量子ディスク構造
200nm
図2.量子ディスク構造における井戸幅を変化させたときの低温フォトルミネッセンススペクトル
(20K)と発光エネルギーの井戸幅依存性
44 低温フォトルミネッセンススペクトルは2つの発光ピークが観察され、バリア層となるZnOからの発 光(3.36eV)と井戸層となるZnCdOの厚さ8nmから2nmまで減少したことに対応して高エネルギー側に ブルーシフトした発光が認められます。井戸幅の減少に伴い2.78eVの青緑色発光は励起子のボーア半径 程度まで狭くした2nm井戸幅で2.96eVまでブルーシフトし、励起子閉じ込め効果が観察されました。
5.まとめ
本研究はRPE-MOCVD法を用いて酸化亜鉛系半導体のナノ構造形成を行い、ZnOナノロッド形状の結 晶構造内部に量子井戸構造を設けたZnCdO/ZnOナノロッドの低温フォトルミネッセンス測定より励起 子閉じ込め効果が確認されたことで量子ディスクへの応用が期待される。
6.参考文献
[1]T. Fukui and H. Saito, Appl. Phys. Lett., 50, 824 (1987).
[2]A. Nakamura, K. Okamatsu, K. Tawara, H. Gotoh, J. Temmyo, Y. Matsui, Jpn. J. Appl. Phys., 47, 3007- 3009 (2008).