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いわゆる「推測統計学」における相関分析法につい て

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(1)

いわゆる「推測統計学」における相関分析法につい

その他のタイトル On the Method of Correlation Analysis in

"Inductine Statistics"

著者 岩井 浩

雑誌名 關西大學經済論集

15

2

ページ 161‑186

発行年 1965‑06‑30

URL http://hdl.handle.net/10112/15355

(2)

161 

いわゆる「推測統計学」における 相関分析法について

ま え が き

1.  「推測統計学」の立場からみた K.ビアソンの相関分析法

2 .  

「推測統計学」の相関分析法の生成と発展ー一学説史的考察

3 .  

「推測統計学」の推定理論と相関

4 .  

方法論的意味 あ と が き

ま え が き

相関(回帰)分析法(1)は,数理統計学の領域において,いわゆる「因果分析」の重要 な手法とされてきたのみならず,今日では「計量経済学」的研究方法(モデル・アプロー チ論)の主要な統計的手法として重用されている(2)。 したがって,

1 9 6 2

年に東独の「統 計実務」誌上で展開された相関論争(8)にみられるごとく, この手法の方法論的意味の解 明は,重要は課題の一つとなっている。

「近代経済学」の分野における相関分析法利用の一つの典型は,生産性と賃銀との相関 関係の統計的検証にみられる(4)。わが国の独占資本の復活を背景として打ち出されたい わゆる「生産性向上運動」の理論的武器として,「生産性と賃銀の統計的検証」に相関分 析法が利用されたのであった。すなわち,資本蓄積度(最大限利潤の追求)に規定される 労働生産性一一労働時間生産性ーと,労働力商品の価値に規定され,賃銀闘争によって決 定される賃銀一時間賃銀ーとの相関(それぞれ別の原因によって規定される事象間の相関)

の計算結果(相関係数値が

1

に近い)から,生産性(原因)は賃銀(結果)を規定すると

,  ,  ,  ,  ,  ,  , 

結論されている。そこでは,数量間の単なる形式的対応関係しか表示しない相関が,内在

,  ,  ,  ,  ,  ,  ,  ,  ,  ,  ,  , 

的因果関係にすりかえられ,近代的統計的分析手法による動かしがたき事実として宣伝さ れるのである。このように相関の物神崇拝は,近代経済学の諸理論の統計的検証にプラグ

(3)

162  賜西大學『纏済論集』第

1 5

巻第

2

マティックに利用されている。したがって,政治経済研究における相関分析法の方法論的 意味(いかなる認識手段たりうるか)の解明は,単に統計解析論(統計利用論)の課題で あるのみならず,政治経済学方法論の実践的な課題の一つになっていると思われる。

われわれは,この課題の解明のために相関分析法の生成,発展過程ー

1 9

世紀末から

2 0

紀初頭にかけての,自然科学,•特に生物学(遣伝学)の領域におけるゴールトン (Francis

G a l t o n )からカール・ピアソン ( K a r lP e a r s o n )

に至たる相関理論の形成過程と,ユール

( G . U .  Y u l e )による経済研究への導入過程

(5).さらにチュプロフ

( A . A .  Tschuprow) 

による相関理論の確率論的再編成の過程を分析し,それらの基本的諸形態と方法論的諸仮 定を抽象し,認識手段としての相関分析法の意味の一端を明らかにしてきた(6)

その結果,一般的には(対象の諸性質によって異なるけれども)統計的相関関係は比較,,,,,,, 

される数量間の平均的対応関係しか意味し得ず,したがって相関分析法は相互外在的にそ れぞれ変化する二つ(あるいは多く)の量の間に統計数字にもとづく外的な比較(相関計,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,, 

算)によって外的な連関が一応存在するか否かを形式的に判断する手法にすぎないもので あることが明らかにされた。そこでは,あらかじめそれらの量の担い手である質相互の内 在的な本質的な連関が捨象されているばかりでなく,量(多標識)の一側面(単一の量的 標識)だけが相互に外的に比較されるだけなのである(7)。 したがってユールのいう「無 意味な相関」 (8), その基本的性格から必然的に現象せざるを得なかったのであった。

しかるに,相関分析による因果性の認識という神話は,今日においても数理統計学者,計 量経済学者の一部において根強く支持されているのである。 (9)

したがって,われわれは,さらに経済研究における相関分析法利用の歴史的過程(特に 生物学で発達した相関分析法の経済現象への導入過程において,いかなる新しい諸規定が 加えられ,特殊的展開をとげたか)の分析とその具体的諸形態と内容の吟味批判(この手 法によると現実のいかなる側面が,正しく,またゆがめて認識されるか,さらに実践上い かなる役割を果たしているのか解明)を行なわなければならない。

しかし本稿では今しばらく生物学の領域にとどまり,

1 9 0 0

年代末から

2 0

年代にかけて,

ビアソン流のいわゆる「記述統計学」に対抗して形成されたいわゆる「推測統計学」 (10)

における相関分析法の形成過程を分析し,その基本的諸形態と方法論的諸仮定を抽象し,

その方法論的意味の一端を明らかにすることに問題を限定する。.というのは相関理論が現 在諸科学で広く利用されるにいたった重要な契機が推測統計学の手法であり,これがまた

「計量経済学」における相関(回帰)分析法にみられるごとく,現代の相関理論利用の主 要形態になっているからである。

それでは,推測統計学と相関理論との関連は何か?推測統計学は少なくともゴールトン 以来ビアソン,チュプロフによって作りあげられた相関理論の諸基本概念と計算法には何 もつけ加えなかった。推測統計学がつけ加えたのは,対象と資料との間に母集団と標本の 関係を想定し,標本の相関係数,あるいは回帰係数を基にして母集団相関係数.回帰係数 を確率的に推定する手法である。相関概念そのものにおける発展もしくは修正ではなく,

標本の相関によって母集団の相関を推定するという手法そのものの成立が,相関分析法の.

7 0  

(4)

「推測統計学」における相関分析法について(岩井) 163 

現代的利用の途をひらいたのである。

数理統計学の歴史上,

K .

ビアソンから

R .A .  

フィッシャーに至る過程においては,ぃ わゆる「フィッシャー革命」 (11)といわれる一大変革があったというのが,現在の数理統 計学者ならびに一部社会統計学者の見方である。われわれはこれに対して,果して「革 命」ともよぶべきものがフィッシャーによってなされたといえるのか,フィッシャーの思 想の煎芽はすでにビアソンにおいて見いだされるのではないか,フィッシャーにおけるい わゆる「推測統計学」の成立は標本の値から母集団の値を推定する手法が精密化したとい うにすぎないのではないか,この疑問をもっている(12)。フィッシャー革命の内容につい ては,母集団一標本概念の明確化, 推定値の効率概念,最尤法の導入:. 小標本理論の成 立,実験計画法,分散分析法の成立等々が列挙されている。しかし,これらのうちで,

K.

ビアソンと比較して真に本質的という変化はどれであったのか,そもそもこれらの諸手法 は統計学の理論体系の中でいかなる位置にあるのかー一これに対して「フィッシャー革 命」を唱える論者は答えてはいない。したがって, K.ビアソンからフィッシャーヘ至る 過程での変化自体の検討も課題として提起される。しかし,このためには,われわれは両 者の膨大な理論の全面的検討を行なわなければならず,当面われわれのなし得るところで はない。

本稿では,われわれは推測統計学的手法そのもののもつ意味の検討に重点をおく。 K. 

ピアソンから

R .A .  フィッシャーに至る過程上の変化については,小標本理論の成立に

ついてふれるにとどまる。

検討の順序は,まず推測統計学からK.ピアソンの相関理論をみるとき,どの点が不充分 とされるかをみ,ついで K.ビアソンが批判され,推測統計学が成立する歴史的過程を概 観し,かくして成立した推測統計学の相関理論を基本形態において叙述し,最後にこれが いかなる意味をもっているのかを批判的に吟味することである。

(1) 

一般には,・相関

( c o r r e l a t i o n )

または,相関計算

( C o r r e l a t i o nc a l u c u a t i o n )

と呼 ばれているが,「計量経済学」的分析手法の生成とともに,特にエゼキエール

( E z e k i e l )

の著書『相関分析法』

( 1 9 3 0 )以来,相関分析法 (Methodo f  C o r r e l a t i o n  a n a l y s i s ) ,  

回帰分析法

(Methodo f  R e g r e s s i o n  a n a l y s i s )

という呼称が支配的になっている。

(2) 

たとえば,

G .   T i n t n e r ;   E c o n o m e t r i c s .  

(邦訳『計量経済学』),

J .   J o h n s t o n  ;  E c o n o m e t r i c  Methods (邦訳『計量経済学の方法』)を参照せよ。特に,

ジョンストン

の著書は,相関分析法を中心に叙述されているところに特後がある。

(3)  H .   Waschkaw;  1 s t ・ d e r   B e g r i f f   " K o r r e l a t i o n "   i n   d e r   s o z i a l o k o n o m i s c h e n   S t a t i s t i k  notwendig? S t a t i s t i s c h e   P r a x i s ,  1

. 

1 9 6 2 ,   s s .   1 3

1 6 . E .   F o r s t e r  und C .   O t t o ;  L i q u i d a t i o n  d e r  K o r r e l a t i o n ? ,  S t a t .  P r a x . ,  7 .   1 9 6 2 ,   s s .   156‑158. 

この論争の要点は,客観的社会経済現象間の連関と交互関係の研究を課題とする社会経 済統計において,統計的「相関」概念がいかなる意義をもつかということにある。論争 の要旨は,拙稿「相関計算法の吟味と批判」(北大経済学,第

6

1 9 6 4 . 1 1 )

参照。

(5)

164  隔西大學『繹済論集』第

1 5

巻第

2

(4) 

代表的事例として,篠原三代平『所得分配と賃銀構造』をあげることができる。氏 は,その中で戦前,戦後の労働時間生産性と時間賃銀に関する統計数の相関計算から,

生産性と賃銀の強い相互依存関係ないしは因果関係の存在を検証している。しかし,そ れは, 山田耕之介氏や広田純氏によって早くから指摘されているごとく (『購座近代経 済学批判』

m . p . 1 9 0 ) ,  

いわゆる「にせの相関」利用の典型的事例にすぎない。

(5)  1 9 7 0

年代から

9 0

年代にかけての相関計算法の形成過程の学説史的研究としては,拙 稿「相関計算法の生成と発展」(北大経済学,第

5

1 9 6 4 . 1 )

参照。

(6) 

相関計算法の本質的,基本的形態であるピアソン=ユールの相関理論とチェプロフ の相関理論の方法論的意味の検討は,拙稿「相関計算法の吟味と批判」(北大経済学,

6

1 9 6 4 . 1 1 )

参照。

(7) 

因果性と相関(統計的相関も含む)に関する哲学的カテゴリーの諸見解の学史的研 究と唯物弁証法における因果性概念の研究としては,岩崎允胤,「相関と因果性」(唯物

1 3

1 9 6 5 . 5 .  

札幌唯研機関紙)(未だ序論部分しか公表されていない)がある。

氏は,アリストテレス,ヘーゲル, v‑ニン等の因果性と相関性の概念を検討し,統計 的相関概念の外的形式性ー内在的本質的連関(質)の捨象の上に成り立つ相互外在的変 数(量)間の単なる外的連関を示すもの一を明らかにしている。さらに,近代経済学に

おける相関性,関数性,因果性の諸概念が,吟味,批判されている。

(8)  G .  U. Yule; "Why do we s o m e t i m e s  g e t  N o n s e n s e ‑ C o r r e l a t i o n s  between Time‑

S e r i e s  ?‑A Study i n  S a m p l i n g ‑and t h e  N a t u r e  o f  T J m e ‑ S e r i e s " .   J .   R .  S .   S .   V o l .   8 8 .   1 9 2 6 .  

ユールにあっては, 「無意味な相関」とは比較する変数間に直接的関係がな いのに,両変数を規定する共通の原因によって,阿変数が相関関係にあるようにみる相 関を意味している。一般的には,共通の原因,またはそれぞれ別の原因に規定された変 数間の相関を「無意味な相関」または「にせの相関」と呼んでいる。

(9) 

相関(回帰)、分析による因果性へのアプローチという考え方は,近代経済学におけ る因果性概念の明確化の試みの中で,大きな位置を占めている。因果性に関する研究と して次のような諸論文がある;H. 

W o l d , ' C a u s a l i t y  and E c o n o m e t r i c s ' ,  E c o n o m e t r i c a   1 9 5 4 .  p .   1~2 — p. 1 7 7 .  

R o b e r t  

H. S

t r o z   and 

H. ・0. A

.  Wold,'A T r i p t y c h  on C a u s a l  S y s t e m s ' ,   Econom‑

e t r i c a ,   1 9 6 0 ,   p .   4 1 7 ― p .   4 6 3 .  

S i m o n ,  Models o f  Man, New Y o r k .  1 9 5 7 .  

Guy 

H. 

Orcutt,'Toward  P a r t i a l   R e d i r e c t i o n  o f  E c o n o m e t r i c s ' ,  The Review  o f   Economics and S t a t i s t i c s ,   1 9 5 2 .   p .   195 — p. 2 1 3 .  

' A c t i o n s ,   C o n s e q u e n c e s ,   and  C a u s a ,   ~elations', The Review・of Economics and  S t a t i s t i c s ,   1 9 5 2 .   p .   8 0 5

1 3 .

これら論文の総括的研究として,

G .Garb,'The Problem o f  C a u s a l i t y  i n  E c o n o m i c s .   KYKLOS. V o l .  X V I I .  1 9 6 4 .  

がある。

相関(回帰)分析による因果性の認識という考えは,特に

Wold

と H.

A .  Simon

によ

7 2  

(6)

「推測統計学」における相関分析法について(岩井)

6 : ;  

って主張されている。

Woldand J u r e e n ,  Demand A n a l y s i s ,  New Y o r k .  1 9 5 3 .  

(邦訳

『需要分析』

p .3 9 ) .  H e r b e r t  A .  Simon; " S p u r i o u s  C o r r e l a t i o n :  A C a u s a l   Interpreta•

t i o n , " .   J .   A S .   A .  V o l .  4 9 .   1 9 5 4

参照。たとえば

Simon

は,ザイゼル

(HansZ e i s e l )  

の因果分析法

( H .Z e i s e l ,   Say I t   w i t h   F i g u r e s .   1 9 4 9 .  

邦訳『数字で語る』)に立脚 し,あくまでも数学的(形式的)操作によって「にせの相関」を排除し,「真の相関」

(因果性を反映した相関)も明らかにしようとしている。しかし,「にせの相関」は,既 述のごとく統計的相関の基本的性格から必然的に現象するものであり,統計的相関が因 果性を反映しているか否かは,数学的操作によってではなく,理論的分析によってのみ 明らかにしうるものである。因果性,函数性,相関性に関しては,今野武雄『数学論』

(三笠書店)

p .   61 — p. 6 2 ,  

岩崎氏の先の論文参照。なお, 以上の近代経済学における 因果性(相関性,函数性を含む)概念の研究については,別の機会に検討したい。

( 1 0 )   " I n d u c t i v e  s t a t i s t i c s "

を「推計学」と訳し,特別な意味を含ませているのは日本 だけの習慣である。それによって,推測統計学があたかも実質諸科学の普遍的方法であ るかのごとく解釈され,流布されている。

( 1 1 )  

「フィッンャー革命」は,たとえば,

W.J .   Y o u d e n ,  "The F i s h e r i a n  R e v o l u t i o n   i n  Methods o f  E x p e r i m e n t a t i o n , "  J .   A. S .   A v o l .   4 6 .   1 9 5 1  p .   4 7

において唱えられ

ている。詳し くは,

R .A .  F i s h e r ' s  S t a t i s t i c a l  Methods f o r  R e s e a r c h  Workers

の出阪

2 5

周年記念諸論文

( J .A .  S .  A .  v o l .   4 6 ,  1 9 5 1 )  

(

R .A .  

フィッシャーと近代統計学」統 計研究会訳)参照。

( 1 2 )  

K. ピアソンの推定理論の紹介として,中川友長「統計的推定についてーケ・ピー アスンの業績に関連して」経商論纂

6 4 . p .   2 4

があるが,単なる紹介にとどまり,ピア ソンの推定理論とフィッシャーの推定理論の関係とそれらの相違点は明らかにされてい ない。

1.  「推測統計学」の立場からみた

K.

ビアソンの相関分析法

推測統計学の立場から

K .

ビアソンをふりかえるとき,

K . 1 : : . "

アソンが大標本理論に依拠 していたという点で不充分であったということが語られる。本節ではこの点をみる。

( 1 )  

推測統計学の立場

推測統計学理論の基本的特徴は,母集団

( p o p u l a t i o n )

と標本

( s a m p l e )

の概念を設定 することである。

R.A.

フィッシャーはいう,「どんな簡単な場合でもまず与えられた数値

(あるいはその集り)に対して,同じ条件のもとで得らるべき数値全体から成る仮想的な 無限母集団を考える。そして手許の資料はその無限母集団からの任意標本であると解釈す (1)「一つの性質または数個の性質に関してある頻度分布に従って分布する無限母集 団を考えることは,すぺての統計的研究の基礎となっている。たとえばある種族に属する 個体や,ー地方の気象に関する限られた経験から,標本の抽出された仮想的な無限母集団

(7)

166 

閥西大學『網済論集』第

1 5

巻第

2

の性質や,さらにわれわれの結論を適用すぺき将来の標本に関してある概念を得ることが できる」 (2)「この母集団の分母はある種の方法で数学的に規定することができて,その 数式の中には幾つかの(普通は少数の)パラメーター(常数)が入ってくる。しかし,実 際にはわれわれはバラメーターの値を正確に知ることは出来ず,その値の推定値を知るこ とが出来るだけであって,それも,多少とも不正確なものとなる。これらの推定値は統計 量とよばれてもちろん観測値から計算されるものである。」 (1)

以上,多少長く引用したが,ここに推測統計学の基本的,一般的な考え方が示めされて いる。すなわち,われわれが手にする資料は母集団から確率的にとりだされた任意標本

(random s a m p l e )であり,統計学の任務はこの標本をもとにして,母集団集団のパラメ

ーターを推定することであるというのである。したがって問題は母集団パラメーターの推 定技術であり,このために母集団から任意に抽出された諸標本が母集団の分布型および標 本の大きさに従って,どのように分布するかを確定することが必要となってくる。この標 本分布が確定されれば,推定は確率的に行なわれることとなるのである。推測統計学はこ の考えに基づき標本の相関係数,回帰係数から母集団の相関係数,回帰係数の推定を行な っている。

それでは,この推測統計学の立場からみて, K.ビアソンの相関分析法は, どの点で不 充分なものとされたのか

( 2 )   K. ビアソンの推定理論

K. 

ピアソンの相関理論は,①二変数の正規相関曲線=

e ‑

2

r , , a , v

2(1‑r2)

{.±.‑竺竺+立―}

6

a , , a , a , 2  

を前提し,③この正規相関曲面の方程式を最大にする

rとして,

相関係数 r=

S ( x y )  

nd,,dy を導き,⑧この rの値を測定する際に資料nが大きいならば,測 1‑r2 

定の誤差は正規分布し,したがって確率誤差は

0 . 6 7 4 5 v 

-—である。しかもこの式にお

いて標本数が大きいならば真値いの代りに資料から獲得される相関係数がを

r

今りとし て用いてよい—というものであった。

K. ビアソンの推定理論を吟味する上で,特に注目すぺきものは⑧である。獲得された資 料にもとづいて

r

を測定しようとするとき,そこには常に誤差が生じ,この誤差の分布は

1‑r2 

資料の数が大きなときには,平均

r ,

標準偏差

vn 

―—の正規分布するというのである。

1‑r2 

正規分布においては,標準偏差(われわれの湯合-~)と分布の全体の面積を 100 と

vn

したときの面積との間には次の関係があるとされている。 (表ー

1)

1‑r2  このことは測定値のうちの50%が真値

r

を中心としたプラス・マイナス

o . 6 7 4 5 vn ― 

1‑r2 

にあること,すなわち土0

. 6 7 4 5 vn 

—ーの誤差をもつということである。 K.ビアソンは

74 

(8)

(表ー 1)

「推測統計学」における相関分析法について(岩井) 167 

r

0 . 6 7 4 5 1‑r2 

V

1‑r2  r

士lX

.  vn  ‑ 1‑r2  r

2x vu  ‑ 1 ー r 2 r 土 3x vn  ‑

l‑r2  r

cox v  ‑ n 

50.0(%)  6 8 . 3   9 5 . 4   9 9 . 7   1 0 0 . 0  

この50%にあたる誤差をとくに確率誤差と名付けているのであるが,正規分布においては 上述のように確率誤差は標準偏差の0

. 6 7 4 5

倍の値である。そして K.ビアソンは,この確 率誤差の分布を研究したのであった(8)

さて,今K.ビアソンから一歩進んで1測定値ー相関係数ー(これを

a

としよう)によって,

真値を推定するという問題を提出してみるなら,上述の確率誤差分布によって,推定の結論

1‑a2 

「1

0 0

回中約5

0

回程度において真値

r

は区間〔a+0.6745

——, a  ‑0.06745  1‑a2  —-]

にある」ということがいえることになる。そしてさらに(1)でのべた推測統計学の母集団,

標本の概念を導入するならば,

r

は母集団相関係数,上の確率誤差分布は標本相関係数の 分布であるとみなすことができ,問題は大きさnの任意標本からえられた標本相関係数a によって,母集団相関係数

r

を推定するというこ、とに置きかえることになる。一般に推測 統計学が登場する以前のK.ビアソンには,母集団と標本,標本分布,しがたって標本によ って母数(バラメーター)を推定するという考えが不明確であったとされている。そし て,これが実は推測統計学と K.ビアソンの統計学(いわゆる「記述統計学」)を区別する 重要な点であるとされているのである。しかし,われわれは上でみたように,相関係数の 確率誤差分布の研究まで進んだK.ビアソンの考えの中に,後に推測統計学理論として大き くとりあげられるに至る「標本から母数を推定する」という問題への契機が含まれている ことを知り得るのである。そこで推測統計学の概念を用いて K. ビアソンの推定理論を整 理しなおすと次のようになる (以下,母(集団)相関係数を

p ,

標本相関係数をrと使い 分ける)。

①  母集団の分布は正規分布である(独断的に想定される)。母相関係数はPとされる。

②  標本相関係数

( r )の分布は,標本の大きさ ( n )が大であるとき正規分布する。

1‑r2 

③  確率誤差は,

0 . 6 7 4 5 vn 

—(ここで P今r とされている)

1‑r2 

④  したがって,母相関係数Pは

5 0

彩の確率で区間〔r+0.6745 ii 

—-, n  r  ‑0.6745  1‑r2 

一〕に存在する。

ii 

(9)

168  隔西大學『網清論集』第

1 5

巻第

2

(3)  K. ビアソンの推定論の不充分性

上においてわれわれは母集団,標本概念を導入することによって,ビアソンの推定論の 到達点をみた。それではK.ピアソンの理論が批判されるべき点はどの点においてなのか?

母集団, 標本概念の不明確性もその一つの点であることはすでにふれたが, K.ビアソン の理論がいわゆる大標本理論であるという点が大きな批判論点となっているのである。

K. ビアソンにおいては,標本は大きいものとされ,標本分布は正規分布をなすものとさ

れていた。しかし,標本が小さい場合はどうなるのであろうか?寺田一彦氏の具体例(4)

を引用しつつ説明して行くと次のとうりになる。

今母相関係数

P =

C二つの回帰直線が直交している母集団)である母集団として次表 を設定し,そこからの標本抽出を考えよう。

この

P=

Oの母集団から 8組の標本を抽出 し,それぞれの相関係数を計算すると以下のよ うな表となる。

この結果をみると,母相関係数

P=O

の母集 団から抽出された標本相関係数の値は,

r=O

を中心に,プラス方向,マイナス方向に大きく 散らばっていることがわかる。したがってこの 小標本の例において,もはやビアソンの正規分 布を前提とした相関係数の確率誤差の概念は妥 当し得ないことが明らかである。

さらに今, 8組の標本を母集団からとった 時,標本相関係数

r

がどんな分布をするかをみ よう。

P=0および P=0.8

の母集団からの標

(表ー

3) 1  2  3  4  5  6  7 

1  2 

゜゜ ゜゜

1  4 

゜゜ ゜゜

(表ー

2)

3  4  I  s 

1  4  1  ゜゜゜

゜゜

4  8  4  1 

8  1 4   8  4  8  4  1  4  • 1 

x Ylx Ylx Ylx ylx Y x Ylx Ylx Y1 

2  3  5  3  4  4  3  3  4  5  4  4  2  4  4  3  3  5  4  4  4  7  4  4  5  5  4  5  5  4  4  4  4  7  5  5  5  2  3  4  3  5  4  5  3  3  2  4  3  5  5  3  6  4  5  4  4  5  7  4  4  3  4  3  6  4  4  5  4  6  4  3  4  4  4  4  4  5  4  3  5  4  4  4  3  5  6  4  3  2  3  4  4  2  7  4  4  3  3  4  4  6  5  4  3  4  5  4  4  4  6  4 

+ o .   1 8  ‑0. 2 7  ‑0. 4 9   I  + o .   4 8   I  + o .   5 3   I  ‑0. 2 3  + o .   0 5   I  + o .   7 2  

本抽出について調べてみると,下の図のようになることが明らかにされている。

次に,標本の大きさの増大につれて,

r

の分布曲線Pのまわりにどの程度収紋した分布

76 

(10)

「推測統計学」における相関分析法について(岩井) 169 

(図ー

1)

op= 

oの場合の

r

の分布曲線は,

対称であるが,しかし正規曲線に 比べて中央のふくれが大きい(ち

らばりが大きい)

o  p=0.8

の場合の

r

の分布曲線は,

きわめて非対称である。

0 . 8

以上 のr

1 . 0

までの,

0 . 2

だけの範 囲にしか入らないが,

0 . 8

以下だ と,ー

1 . 0

までの1

. 8

の広い範囲に 入る。しかも,

r

0 . 8

よりも,

0 . 9

の方が, しばしば起るのが特 徴である。

を示すかをみると,次の図のようになることが明らかにされている。

‑ 1 . 0 ‑ 0 . 8  ‑ 0 . 6  ‑ 0 : 4  ‑ 0 . 2   0 0 1   0 . 4   0 . 6   0 . 8   1 . 0   Y 

(`•8\AK

2 1  

(図ー

3)

n : 3 0 0  

(図ー

2)

‑ 0 . 8 ‑ 0 . 7 ‑ 0 . 6 ‑ 0 . 5  M ‑ 0 3 ‑ 0 . 2 ‑ 0 . 1   0  0 . 1   0 2   0 3  0 4   0 . 5   0 . 6   0 . 7   0 . 8   0  0 . 2   0 . 4   .  0 . 6   0 . 8   1 . 0  

nが大きい時には, rの標準偏差 d,

1‑p2 

11 

p2 

d , =

戸コ{

+4 (n‑1)+

} 

と計算されうることは,明らかにされているので,図からnが大きいと, rは Pに近似す

1‑r2 

るので, d占

V

百ーと考えることが出来る。この値に

0 . 6 7 4 5

を掛けたものが,ビアソン

1‑r2 

r

の確率誤差

( 0 . 6 7 4 5 vn 

—-)であった。すなわち, ピアソンは標本の大きさが大で ある場合を前提としているのであり,ここにビアソンの推定論が大標本理論といわれるゆ えんがある。しかし

( l ) n

が小さい場合には,この確率誤差の概念は利用できないことは明 らかである。さらにまた(2)n が大きくとも, IPI が 1 に近い場合,たとえば IP/~O.

7 5

の場 合にも,この確率誤差を使用できないことは,第3図から理解される。

以上, K.ヒ゜アソンの推定論は標本分布が正規分布であることを前提していたこと。 し

(11)

I 7 0   開西大學『網済論集』第1

5

巻第

2

かしこれは,標本数

n

が充分大きな場合にのみ許される前提(すなわち大標本理論)であ り,標本数nが小さいとき,またnが相当大きい場合でも

I P I

1に近い場合には,標

本分布は非正規分布をなすこと。したがって厳密な推定を行なうためには,これら非正規 的な分布を確定しなければならなかったことをみてきた。

上の図で示めされたような標本相関係数の精密な分布は,

1 9 0 0

年代末から

1 9 2 0

年代にか

けて“ステューデント•

( " S t u d e n t " ,  

本名ゴセット,

G o s s e t ) , R .  A .  フィッシャー( R . A . f i s h e r )

等によって

t

分布,

z

分布等として確定される。

次節では,その学説史的「発展」過程を考察する。

() 

1  R .  A. F i s h e r ;  S t a t i s t i c a l  Methods f o r  R e s e a r c h  Workers.  Eleventh E d i t i o n  p .   6 7. 

(邦訳『研究者の為の統計的方法』

p .5 )  

(2)  R .  A .  F i s h e r  ;  i b i d  (邦訳) .  p .   3 4 .  

(3) 

相関係数の確率誤差の最初の研究は,

K .P e a r s o n  ;  " R e g r e s s i o n ,   H e r e d i t y ,   Pan‑

m i x a , "  P h i l o s o p h i c a l  T r a n s a c t i o n s  o f  t h e  Royal S o c i e t y  o f  London. S e r i e s  A .  V o l .   1‑r2 

1 8 7 .   1 8 9 6 .  

の中で行なわれ,

0 . 6 7 4 5 0 6

とされたが,今日の形式

( 0 . 6 7 4 5 0 6 vn(l+r

1‑r2  v n  

ー ) は , K.P

e a r s o n  a , n d   L .  

N. G

.  F i l o n ;  "On t h e  P r o b a b l e  E r r o r s  o f  Frequency  C o n s t a n t s  and on t h e  I n f l u e n c e  o f  Random S e l e c t i o n  on V . a r i a t i o n  and C o r r e l a t i o n , "  

P h i l .  t r a n s .   R o y .  S o c .  London, S e r i e s  A .  v o l .   1 9 2 .   1 8 9 8において定式化された。

(4) 

寺田一彦『推測統計法』(改訂新阪,

1 9 5 8 )p .   132p. 1 3 7 .  

2 .  

「推測統計学」の相関分析法の生成と発展—学説史的考察 小標本理論ならびにその相関係数の精密分布の最初の研究は,まだビアソン流の大標本 理論とその正規度数分布に基づく相関計算法の全盛期である

1 9 0 8

年に,イギリスのビール 会社の農業化学の技術者であった ステューデント"

( " S t u d e n t " ,  

本名ゴセット,

G o s s e t )

によって行なわれた。彼は発酵技術や,ビール原料としての大麦の品種比較につ いて,実用上の必要から数理統計学の適用を試みたのである。発酵の研究においては,原 料が変化しやすいこと,発酵過程が温度にきわめて敏感であり,また実験が小系列からな ることなどの理由によって,多数の個体を扱う大標本理論の利用には限界があった。した がって小標本を正しく利用する方法の必要性に ステューデント は直面したのである。

1 9 0 8

年の ステューデント の

2

論文(

1 )「平均の確率誤差」

(1)

( 2 )「相関係数の確率誤

差」 (2) この研究の出発点となった。第

1

論文で発表された標本分布は,今日「ステ ューデント分布」または「

t

分布」と呼ばれている重要な分布である。かれは正規母集団 から確率的に抽出された大きさ

nの標本 ( x 1

2 , .

… ·•Xn) について,標本平均値をぇ,

標本標準偏差をSとするときの

Z=

/ s

の分布を見い出した。(この

zの分布は今日の t

‑2 

  ―

布をさしている)。この

Z=

/ s

の分布曲線は

P ( z )=const  x  ( 1  +z2) 

と定式化され,

7 8  

(12)

「推測統計学」における相関分析法について(岩井) I 7 I  n·=4~10 の場合の函数表が作成された。•そして n~30 となると,

Z= え / s

は平均値

0'

標準偏差

V

元二

5

の正規分布に近づくことも明らかにされた。この

Z=

/ s

は,後に

R . A .  

フィッシャーによってより精密化され,今日の形態をとることとなった。

ステューデント は,第

2

論文において第

1

論文での研究を基礎に標本相関係数の分

1 炉 .

戸 ・ 年 ず 元

‑ : : p 2 ) {

布をとりあげた。かれは正規相関曲面の方程式

2 p , , 3

万 戸 が

(p=

母相関係数)をもつ正規母集団から抽出した標本相関係数の分布が

P=  0

の場合に,

c o n s t x  ( 1 ‑ r 2 )  

となるだろうと経験的に推定した。

以上の

1 9 0

碑球: ステューデント によって開拓された小標本理論の相関分析法は,主

R .A. フィッシャー ( R .A .   F i s h e r )

によって,

1 9 1 0

年代から

2 0

年代にかけて体系化 される。フィッシャーは,まず

1 9 0 5

年に論文「無限大母集団からの標本の相関係数値の度 数分布」 (3)において,上記の ステューデント の

2

論文,特に第

2

論文の相関係数0 分布を詳細に研究し,仮説検定に必要な正確な確率分布を算定した゜

かれは論文の初めで ステュデント の 2つの論文の要旨を次のようにのぺている。

「 ステューデント"は,小標本の平均値によって,適切な推定値を得ることを望んで,そ のような標準誤差は一般に,それが抽出される正規母集団の標準偏差とは等しくないとい

う事実も考慮する必要があることをみい出した。」 (4)「これらの

2

つの論文の第

2

では,

相関係数の度数分布に関するより困難な問題が試みられた。大きさ

2

の標本に関して,

2

だけの可能値ー

1

+1

の間の度数分布は,シェパード

( s h e p p a r d )

の定理によって,.

比率

4+sin‑1p: ユ

2  . 

L‑sin‑lp( p

は母集団の相関)の中にあると決定された。 この 理論的結果に加えて ステューデント は経験的データにだけ訴える。これらのことから 彼は

P=0

の時の分布の試験式を引き出し,幾つかの価値ある提案をしている。」 (5)フィ ッシャーは ステューデント の研究成果の上に立って正規母集団からの任意標本の相関 係数の正確な分布を求めた。結果だけを示めすと,相関係数の分布は,

( i  c o s e c  

0)•-1伽ー 2(i

c a t  0 )

(1‑r2)2

n‑4  または簡便式

(1ヂ)デ侶(-¾o-)み

と定式化されている。これは,先の ステューデント によって経験的に推定されていた 相関係数の分布に理論的証明を与えたものである。

またフィッシャーは,従来のビアソン流の確率誤差による相関係数の最良値の推定法の 欠陥を指摘し,従来の方法にかわって,「測定値が領域みに入る確率はPの変化に従っ

"

1  n

(1‑p2)

( 1

ヂ ) す

x(sin

如)

n 1 f

心に比例するので,われわれは,この数 量が最大となる

P

の値を見い出さなければならない」 (8)として第

1

の近似値として

1‑r2 

r=p(l

211)を提出している。このP の近似値は,ホテリング

( H a r o l dH o t e l l i n g )  

(13)

172  隔西大學『纏演論集』第1

5

巻第

2

によると「P の最大推定値」であり, 「現在の検定および推定理論の発展における決定的 ポイントであった」 (7)とされている。

ここで示めされたフィッシャ一の標本相関係数の分布は,

2

年後の1

9 1 7

年に,ソーパー

( H .  E .  S o p e r ) ,  

ヤング

( A .W. Young), 

ケープ

( B .M. C a v e ) ,  

アリス・リー

( A . h e e ) ,  

ビアソン (K.

̲ P e a r s o n )の共同研究論文「小標本の相関係数の分布について」

(8)

の中で詳細に研究された。ホテリングはこれを次のように評価している。 「彼等は鍛測さ れた解剖学上の相関データを利用し,それに度数分布の大雑把なあてはめを行なって,こ れを P の推定値とその確率極限の計算に際してフィッシャー函数と結びつくべき先験的 分布として用いた。彼らはフィッシャーの統計量分を,

p

について仮定された一様な先験 的確率密度を基礎とする並み推定値

( m o d a le s t i m a t e )

として記述した。これはフィッシ ャーによって,厳しく拒否されたのである」。 (9)フィッシャーは,

1 9 2 1

年の論文「小標本 から抽出された相関係数の確率誤差について」 (10)の中で,これらの共同研究の結論を批 判し,単なる仮定的な先験的確率に依拠するのでなもあくまでも観測を基とする検定と 推定でなければならないとした。

・ピアソン流の正規分布に基づく近似的推定法にかわって小標本の場合にも使用可能な推 測統計学の推定法は,先の ステュデント 分布(

i分布)と並んで重要な分布である

Z 布に基づくものである。この

Z

分布は,ビアソンの

x 2

分布, ステューデント の

t

布を検討したフィッシャーのi

9 2 4

(1i)の論文において発見された。かれは同時にこの論

文で分散分析法を提起している。

数量は

z ,

方程式 Z=-万—log(S12/S22) によって定義される。ここで S12 と S社は 分散 (12をもった正規母集団からの抽出された 2組の独立した標本の分散である。この

zの分布から種々の特殊的分布が導かれるのであって,次のようになる。

1) n1=(

1

の標本の大きさ)

=n1, 加(第

2の標本の大きさ)

=oo

のとき,

z=‑log 2 

/n)を代置すると,

x 2

分布をなす。

2) n1=l, 加=n

のとき,

z=logtとおくと, ステューデント の t

分布をなす。

3)  n1=l, n2=00のとき, z=log x

とおくならば,正規分布をなす。

4) n1=n‑l, n2=nであり, rを大きさ,町標本から計算された級内相関係数とす

るとき, z=tan忙1r=-—log(l+r/1-r〕は r の分布をなす。

フィッシャーは,このZ分布について次のようにいっている。「特殊な場合の

2

のより 一般的分布は,非常にしばしば現われる。私は,第

1

に相関係数の誤差函数の研究におい て,それを見い出した。相関が仮にN組の兄弟 (Np

a i r s  

of 

b r o t h e r s )の間に対称的表の

形式によって得られるならば,われわれは,いわゆる級内相関を得る。

rがそのような相

関であるならば,

r=tanhz, ni=N‑1, n2=Nとすると

この変換は,

N

が標本の数である時,

zの分布による rの任意標本の分布をあらわ

( 1 2 )

80 

(14)

「推測統計学」における相関分析法について(岩井) 173 

l+r 

'~

r=tan

加 はZ変換と呼ばれ,

z=tanh‑1r=21oge 戸 7と定式化されている。

この

Z変換によって,標本相関係数の分布は,母相関係数

Pに対応する

Zp(=tanh‑1p)

を平均値にもち,標準偏差 d p = ‑ ‑ =とするほぽ正規型で分布することが明らかにさ

v ' n

れ,このZ分布の正規性を利用して,相関係数の有意性検定が行なわれるようになった。

なおこの論文では同時に相内比,重相関係数の分布がとりあげられている。

フィ.ッシャーのこれらの

t

分布,

z

分布による相関係数の有意性検定,・相関比, 重相 関係数の有意性検定の方法は,

1 9 2 5

年の有名な『研究者のための統計的方法』

( 1 3 )の中

で,明確に定式化され,さらに,

1 9 2

碑三の論文「重相関係数の一般的標本分布」

( 1 4 )

にお いて一応完成されている。

一方,回帰方程式の適合度の測定と回帰係数の有意性検定は,

1 9 2 2

年の論文「回帰公式 の適合度と回帰係数の分布」 (15)において扱われた。

かれは,ビアソンとスルッスキー

( S l u t s k y )の

Xりこよる回帰公式の適合度の検定,ビ アソンの相関比による適合度の検定の不正確性を明らかにし,自由度を考慮した正確な

x 2

の分布を与えた。しかし,この論文の重要な成果は,回帰係数の有意性検定のための

t

布(当時は Z分布と呼ばれた)を明らかにしたことである。

かれは一次の回帰方程式

Y=a+b(z

― え ) に'

s ( y ( z

s ( z

2

について, aに関する

t

分布として

Z =   (a‑a)v'N

― 

a=

母集団係数

v's(y‑Y)2  c =

標本係数 .. bに関する

t

分布として

f J =

母集団回帰係数

Z =  

( b . , . ‑/ J ) v ' s (

←え)2

吹 戸 筍

(b=

標本回帰係数

となることを明らかにした。この二つの分布によゲて回帰係数の比較,有意性検定が行 なわれるようになった。この回帰係数の有意性検定の方法は,『研究者のための統計的方 法』において,一層明確に整理されている。

以上のように,

1 9 0

昭こに ステューデント によって提起された小標本の場合に有効は 相関係数の推定の研究は,

1 9 1 5

年から

1 9 2 0

年代後半にかけて,フィッシャーによって,相 関係数, 回帰係数の有意性検定,推定法として体系化されたのである。(今日的完成形態 は,さらに1

9 3 0

年代に

E .S .  

ピアソン,ネイマン

( J . Neyman)等によって補充,

確立 されたものである。)

( : 1 )  . . ' S t u J . e n t ' ;  "The p r o b a b l e  e r r o r ・ o f  a  mean,• ̲ B i o m e t r i k a .  6 . 1 9 0 8 .  

(2.)'Student,'"On t h e .  p r o b a b l e  e r r o r  o f  a  c o r r e l a t i o n .  coefficient.• B i o m e t r i k a .  6 .  

1 9 Q 8 .   . 

(15)

174  )鵬西大學『糎済論集』第

1 5

巻第

2

(3)  R .  A .  F i s h e r  ;  "The f r e q u e n c y  d i s t r i b u t i o n   o f ・ t h e  v a l u e s  o f  t h e .  c o r r e l a t i o コ c o e f f i c i e n t  i n  s a m p l e s  from an i n d i f i n i t e l y  l a r g e  p o p u l a t i o n :  B i o i n e t r i k a ,   1 0 . 1 9 1 5 .   (4)  R .  A .  F i s h e r  ;  i b i d  :  p .   5 0 7 .  

(5)  R .  A .  F i s h e r  ;  i b i d  :  p .   5 0 8 .   (6)  R .  A .  F i s h e r  ;  i b i d  :  p .   5 2 0 .  

(7)  H a r o l d  H o t t e l i n g  ;  "The I m p a c t  o f  R .  A .  F i s h e r  on Statistics.• J . A . S . A .  V o l .   4 6 .   1 9 5 1 .  

(邦訳「R

.A .  フィッツャーと近代統計学」統計研究会訳, p . 2 8 )  

(8)  H .  E .   S o p e r ,  A .  W. Y o u n g ,  B .  M. C a v e ,  A .  L e e ,   and K .  P e a r s o n  :  "On t h e   d i s t r i b u t i o n  o f  t h e  c o r r e l a t i o n  c o e f f i c i e n t  i n  s m a l l  samples.•·Biometrika. 1 1 .   1 9 1 7 .   (9)  H .  H o t t e l i n g  ; 

前掲論文,邦訳

p . 2 8 .  

( 1 0 )   R .  A .  F i s h e r  ;  •on t h e  p r o b a b l e  e r r o r  o f  a  c o e f f i c i e n t  o f  c o r r e l a t i o n  d e d u c e d   from a  s m a l l  s a m p l e , "  M e t r o n .   1 ,   1 9 2 1 . ・  

( 1 1 )   R. A .  F i s h e r  ;  On a  d i s t r i b u t i o

● 

y i e l d i n g  t h e  e r r o r  f u n c t i o n s .  o f  s e v e r a l   w e l l   known  statistics.• P r o c e e d i n g s  o f  t h e  I n t e r n a t i o n a l  M a t h e m a t i c a l  C o n g r e s s ,   1 9 2 4 .   ( 1 2 )   R .  A .  F i s h e r  ;  i b i d ,  p .   8 0 9 .   . 

( 1 3 )   R .  A .  F i s h e r  :  Statistic~l Methods f o r  R e s e a r c h  w o r k e r s .  F i r s t  E d i t i o n ,   1 9 2 5 .   ( 1 4 )   R .   A .  F i s h e r  ;  "The g e n e r a l  s a m p l i n g  d i s t r i b u t i o n  o f  t h e  M u l t i p l e  c o r r e l a t i o n  

coefficient.• P r o c e e d i n g s  o f  t h e  R o y a l  S o c i e t y ,  S e r i e s  A .  v o l .   1 2 1 ,   1 9 2 8 .  

( 1 5 )   R .   A .   F i s h e r  ;  "The G o o d n e s s  o f  F i t  o f   R e g r e s s i o n   Formul

ぉ,

andt h e   D i s ‑ t r i b u t i o n  o f  R e g r e s s i o n   Coefficients.• J .   R .   S .   S .  v o l .   8 5 ,   1 9 2 2 .  

( 1 6 )  

学説史的考察には,以上の論文の外,次の諸論文を参照した。

1 .   H .  L. R i e t z  ;  "Comments on A p p l i c a t i o n s   o f   R e c e n t l y   D e v e l o p e d   Theory o f   S m a l l  S a m p l e s , "  J .   A .  S .  A .  V o l .   2 6 ,   1 9 3 1 .  

2 .   P .   R .  R i e d e r  ;  "A Note on S m a l l  Sample T h e o r y , "  ] . A S . A .  V o l .   2 6 ,   1 9 3 1 .   3 .   H .  H o t t e l i n g  ;  " R e c e n t  I m p r o v e m e n t s  i n   S t a t i s t i c a l  I n f l u e n c e ,  

J . A . S . A .V o l .  

2 6 ,   1 9 3 1 .  

4 .   R .  A .  F i s h e r ' s  S t a t i s t i c a l  Methods f o r  R e s e a r c h  Workers

2 5

周年記念諸論文

( J . A . S . A .  V o l .   4 6 ,   1 9 5 1 )  

3 .  

「推測統計学」の推定理論と相関

推測統計学における相関理論とは,相関概念そのものには変更を加えることなく.  ,任意 標本を基にして母集団の相関係数,回帰係数,その他のパラメークーを推論する理論であ る。そしてこの推測の手法が, K.ビアソン以後, ステューデント を経てフィッシャー に至って体系化されたことは上にみてきたとうりである。この推定理論を基礎にして手法 を一層手のこんだものとし,これを生物学から,医学,工学,社会科学等へと形式主義的 に応用,拡大せんとするのが,統計学においてはもちろん諸実質科学にも根強くみられる

.  8 2  

(16)

「推測統計学」における相関分析法につVヽて(岩井) 1・7 5 

現在の傾向なのである。これは,大橋隆憲氏や岩崎允胤氏が,再三にわたって指摘されて いるように(1), プラグマティズムを哲学的基礎とした現代科学の数学主義,確率論主義 の主要な形態に外ならないのである。相関概念の諸科学での利用も,この現代哲学を背景 として,もっぱら推定理論との結びつきにおいてであるといえる。この手法の歴史的発展 を追ったわれわれは, ここで一応完成形態にある現在の推測統計学での相関概念を用い

・て,推定理論の基本形態と基本概念を明らかにしておこうと思う。

われわれがここで主要なものとしてとりあげるのは,相関と回帰のおのおのについての 検定と推定の手法である。個別的解明に入る前に,すでに簡単に触れたのではあるが,推 定理論の構造について若干予備的説明を行なっておく。

(1)  推定理論が常に母集団と標本の関係を前提することは再三指摘してきたとおりであ る。われわれはまたK.ビアソンが不充分だと批判され,その後の「発展」といわれてい ることも,実は砥集団から確率的に抽出された標本の特性値(平均値,相関係数,回帰係 数等々)の分布を正確に把握することをめぐってであることをみた。それでは,確率的に 抽出された諸標本分布は,検定,推定理論でいかなる意味をもつのか?相関係数Pの母集 団からの任意標本相関係数rを例にとろう。この rの分布が確定されると̲!,ヽうことは,

既知の母集団からのなん回もの標本抽出を想定する時,その諸標本の値がどめように分布 しているかが定められることであり,これによって特定の誤差をもつ標本が全標本のうち の何彩であるかがわかるということである。

今,標本の大きさ が充分大なるものとするとき,標本相関係数9の分布は母相関係

P

を平均

I

ともつ正規である。

(図ー

4)

〔諸標本相関係数の分布〕

. ,  

. ,

 

‑ 3  

‑21

上図からわかるように, ごく概略的にいうならば,

r

の分布が正規であるということ は,母相関係数 P から遠くへだたった標本相関係数は,へだたればへだたるほど,まれ にしか獲得されず,他方, Pに近ければ近いほど,頻繁に獲得されるということである。

しかし,標本相関係数の分布が正規分布であることが確定されることによって,標本相関 係数の分布の標準偏差と全体の面積との関係は,数量的に明らかなので,稀れにしかおこ

らないとか,しばしばおこるという表現が数量的

I C

評価されることになるのである。

すなわち表ー

4

によって,標本相関係数の約

6 8

バーセントが母相関係数

P

の士

lx

1‑r2 

v

n

 

(17)

176  腸西大學『鯉済論集』第

1 5

巻第

2

1‑r2 

内に,

9 6

バーセント 士 2x~内に,

9 9 . 7

ii 

1‑r2

パーセントが士 3x~内にあるというこ

ii 

とがいえるのである。これが標本分布が確定 されるということの意味である。

さて,標本分布は既知母集団から抽出され る標本全体が示す分布であった。しかし,母 集団についてなんらかの推論を行なおうとす るとき,われわれが手にしているのは一組の 標本だけである。この一組だけの標本によっ て毎数を推定する際に媒介手段となるのが,

先の標本分布なのである。母数の推論には,

仮説検定と推定の二形態がある。そのおのお のについていかに推論が行なわれるかをみよ

<仮説検定>ここでは母集団相関係数値

p

t = ‑ 1 ! .  

ニと

< I ,   0 . ゜ 5 0   0 . 6 7 4 5  

1  2  3 

(表ー

4)

p + t < I ,  

p ‑ t < I ,

との間の面積

0 . 3 ゜ 8 2 9   0 . 5  

(図の

0 . A 6 8

2

7分

(図の

A+B

の部分)

0 . 9 6 4 5  

(図の

A+B+C

の部分)

0 . 9 9 7 3  

は,たとえば

0 . 7

である等の仮説がおかれて,この仮説がわれわれの手にしている一組の 標本の相関係数によって検定される。すなわち,相関係数

0 . 7

の母集団から標本をとりだ したとき標本がどのように分布するかが理論的に与えられる。この理論分布に照らして,

われわれが今手にしている標本相関係数は頻繁に獲得される値なのか,稀にしか獲得され ない値なのかが問題とされる。もし稀な場合にあたるなら,稀にしか生起しないことが起 るということは,なにか意味がある(有意である)と考えて,母集団の仮説

p=0.7

が誤 っていたのであろうと判定され,仮説は棄てられるのである。このようにして,また別の 仮説

P = D . 5 ・ …••

等が設定され,判定されるという手続が続けられるのである。

しかし,ここで注意しなければならないことは,この検定方式にあっては,仮説の棄却 から次の仮説設定への移行が方法論的に与えられていないことである。すなわち,これに よっては,仮説が客観的事実として生起したか否かを一義的に判定できないのである。し たがって仮説が,事実として危険率(稀な場合)の範囲内に生起したのか,範囲外に生起

したかを判定し得えず,正しい仮説が棄却されてしまう誤謬を常に伴うのである。

<推定>相関係数Pの母集団からの標本相関係数は,先の説明によって,

1‑r2  1‑r2 

p 土 1x~内に68バーセント, p 士 2x~

i l n   i l n  

内に9

6

バーセント,等々の割合で分布し ていることが理論的に与えられている。そこで,推定においては獲得された一標本を中心

1‑r2  1‑r2 

に考えて,母相関係数は

r

1 x ; ; , ; =

内に6

8

パーセントの確率で存在し,

r

2 x ; ; , ; =

に9

8

バーセントの確率で存在するという判断が行なわれるのである。これは区間によって 母数を推定するので区間推定法とよばれる。しかし,ここにおいても注意しなければなら ないことは,現実に手許にある資料の相関係数が客観的に9

6

バーセントの範囲内に存在す

8 4  

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