自治体総合計画の再構築と重層的な計画管理制度試 案 (椎名慎太郎教授コンスタンチン・サルキソフ教 授退職記念号)
著者名(日) 日高 昭夫
雑誌名 山梨学院大学法学論集
巻 67
ページ 7‑51
発行年 2011‑03‑30
URL http://id.nii.ac.jp/1188/00000398/
論
自
説治 体 総 合 計 画 の 再 構 築 と 重 層 的 な 計 画 管 理 制 度 試 案
日 高 昭 夫
目 次 一 はじ めに 二 自治 体政 策の 自律 性を 阻む 制度 的・ 政治 的障 壁 三 政策 の﹁ 優先 順位 づけ
﹂と その 方法 四 自治 体総 合計 画の 再構 築と 重層 的な 計画 管理 体制 五 結び にか えて
一 はじ めに 近年
︑自 治体 では 議会 基本 条例 の制 定が ブー ムに なっ てい る︒ 北海 道栗 山町 議会
︵二
〇〇 六年 五月
︶を 嚆矢 とし て︑ 二〇 一一 年一 月二 十六 日現 在︑ 都道 府県 一五
︑政 令市 四︑ 市九 二︑ 町村 五二
︑計 一六 三議 会で 制定 され て
( )
いる
︒
地方 分権 改革 以降
︑自 治基 本条 例制 定な ども 含め
︑自 治体 の議 会や 行政 ある いは 住民 によ る自 治立 法活 動は 活発 化 し全 国に 波及 する 傾向 がう かが える
︒議 会基 本条 例に 関し てい えば
︑そ の基 本理 念は
︑自 治体 議会 を﹁ 開か れた 討 議の 場﹂ とす るこ とに ある
︒こ うし た議 会改 革の 取り 組み は︑ 一般 的に は地 方分 権改 革に よる 議会 権限 の拡 充を 制 度的 背景 とし てい るが
︑同 時に
︑夕 張市 の財 政破 綻に 象徴 され る行 政の 失策 に対 して 議会 の行 政監 視機 能が ほと ん ど働 かな かっ た現 状︑ 行政 にお ける 住民 参加 や協 働の 取り 組み に比 して 議会 の対 応は 大き く出 遅れ
︑政 策立 案機 能 をほ とん ど発 揮し ない 先例 踏襲 の議 会運 営が
﹁学 芸会
﹂あ るい はそ れ以 下と も揶 揄さ れて きた 現状 など
︑い わば
﹁一
・五 元代 表制
﹂へ の反 省や 危機 感を 反映 して いる 一面 もあ る︒ その 意味 で︑ 議会 基本 条例 の制 定は
︑地 方議 会 サイ ドか らの 本来 的な
﹁二 元代 表制
﹂の 再建 運動 の象 徴と いえ る︒ 他方 で︑ 首長 サイ ドか らの
﹁新 しい
﹂地 方議 会論 が︑ やや 過激 な趣 をも って 表明 され るよ うに なっ てき た︒ たと えば
︑鹿 児島 県阿 久根 市の 前市 長竹 原信 一は
︑﹁ 議会 不要 論﹂ とも いえ る過 激な 言動 で衆 目を 集め た︒ 議会 を招 集せ ずに
﹁専 決処 分﹂ を連 発し たこ とに つい て︑
﹁政 策の 妨害 を続 ける 議会 に対 して
︑市 長が 使え る対 抗策 は
﹃専 決﹄ しか あり ませ ん︒ 私は 以下 の条 例な どを
﹃専 決﹄ しま した
︒ 市長 と議 員︑ 職員 のボ ーナ スカ ット
︑ 固 定資 産税 の減 税︑ 議 員報 酬の 日当 制︵ アン ケー トで は市 民の 八割 が支 持し まし た︒
︶⁝
⁝議 会を 招集 すれ ば必 ず 専決 した 条例 を元 に戻 しま す︒ 結果
︑私 が皆 さん に約 束し た公 約が 実現 でき なく なり
( )
ます
﹂と 述べ
︑自 らの
﹁議 会
不要 論﹂ を正 当化 して いる
︒ また
︑名 古屋 市長 河村 たか しの
﹁議 員報 酬削 減﹂ 等︵ 市民 税一
〇% 恒久 減税
+地 域委 員会
+議 会改 革︶ の主 張の 背景 にあ るの は﹁ ボラ ンテ ィア 議会 論﹂ であ る︒ やや 長い が︑ 名古 屋市 会平 成二 十一 年十 一月 定例 会で の河 村の 発
言を 引い てみ よう
︒ まず
︑一 九五 号議 案﹁ 住民 分権 を確 立す るた めの 市政 改革 ナゴ ヤ基 本条 例の 制定 につ いて
﹂で ござ いま す︒ まさ に日 本の 政治 の夜 明け が来 たと いう ふう に︑ 私は 強い 使命 感を 持っ て提 案を させ てい ただ いて おり ます
︒ この たび の定 例会 にこ の条 例案 を上 程す るこ とに いた しま した のは
︑政 治と 市民 のあ り方 につ いて の最 も根 本 とな る問 い︑ すな わち 政治 はボ ラン ティ アと して 行わ れる べき か︑ それ とも 家業 化し た職 業議 員に よっ て行 わ れる べき かに つい て︑ 議会 とい う市 民の 市民 によ る市 民の ため の公 開さ れた 発言 の場 とい う最 も崇 高な 場所 に おい て︑ 主権 者た る二 二五 万市 民の 皆様 に真 っ正 面か ら問 いか けて みた いと 思っ たか らで ござ いま す︒ これ は︑ 今ま で日 本で だれ も問 いか けた こと のな い論 点で はあ りま すが
︑名 古屋 市民 の皆 様の ため
︑ひ いて は日 本国 民 の皆 様の ため に︑ 今こ そ絶 対に 必要 な改 革で ある と考 えて おり ます
︒ 私は
︑本 来議 員と は︑ 自発 的で 見返 りを 求め ない ボラ ンテ ィア 精神 に基 づき
︑み ずか らの 信条 によ り︑ いわ ゆる パブ リッ クサ ーバ ント とし て市 民に 奉仕 する 存在 であ らね ばな らな いと 思っ てお りま す︒ しか し︑ 現状 を 省み ます と︑ 本来 の趣 旨に 反し
︑議 員が 税金 によ って 身分 保証 され
︑政 治が 家業 化︑ 職業 化さ れる こと によ る 集権 化が 進み
︑そ の結 果と して
︑市 民が 政治 や行 政に 参画 する 意欲 や機 会を 阻ん でい ると いう 弊害 が随 所に 見 受け られ ます
︒市 民の 声を 代弁 する 役割 を担 うは ずの 議員 が︑ 制度 的に は非 常勤 特別 職の 公務 員で あり なが ら︑ 庶民 に比 して 驚く べき 高額 の収 入を 得て おり ます
︒本 年は 特例 によ り一
〇% 程度 減額 され てお りま すが
︑条 例 上の 金額 は︑ 議員 報酬 に政 務調 査費 及び 費用 弁償 を加 えて 年額 二三 五〇 万円
︑年 額二 三五
〇万 円と なっ てお り︑
定数 につ いて も七 五人
︑七 五名 とい う多 さで す︒ さら に︑ 七五 人の 議員 一人 一人 の理 念に より 議会 の意 思が 形 成さ れる のが 本来 であ りま すが
︑党 議拘 束︑ そし て党 派の 交渉 によ って
︑わ ずか 数名 の議 員に より 議会 の意 思 が決 定さ れて しま うの が今 の議 会の 現状 でご ざい ます
︒ その よう にし て私 の条 例案 等が 否決 され てし まう こと は︑ 否決 され るの も結 構で ござ いま すが
︑こ のよ うな 少数 の議 員に よっ て議 会の 意思 が決 定さ れ︑ それ で否 決さ れる とい う現 状は
︑私 を選 んで いた だい た市 民の 皆 様の 願い がか なえ られ ない こと につ なが りま す︒ こう した 状況 を打 開す るた めに
︑こ の条 例は
︑政 治を ボラ ンテ ィア 化す るこ とに よっ て住 民へ の分 権を 推進 し︑ 住民 が主 体と なっ た市 政を 実現 する ため の改 革の 基本 とな る事 項を 定め たも ので ござ いま す︒ 古い 言葉 に なっ てし まい まし たが
︑ま さに 主権 在民
︑古 くな って しま いま した が︑ この 主権 在民 を僕 は毎 日思 い出 しま す︒ まさ に︑ この 主権 在民 を日 本で 本当 に実 現す るた めの もの であ りま す︒ 具体 的に は︑ 地域 委員 会制 度の 創設
︑ 市民 税の 減税
︑議 会の 改革 を市 政改 革の 三本 柱に 位置 づけ ると とも に︑ 改革 の実 施時 期を 平成 二十 二年 三月 ま でと 明示 し︑ また
︑市 長で ある 私が 率先 して 改革 実施 の責 務を 負う こと を明 らか にす るこ とに よっ て市 政改 革 を断 行し
︑歴 史に 残る 街ナ ゴヤ にふ さわ しい 市政 を確 立し よう とす るも ので ござ い
( )
ます
︒
名古 屋市 議会 の議 員報 酬等 の金 額の 多寡 はさ てお き︑ この
﹁ボ ラン ティ ア議 会論
﹂の 背景 には
︑竹 原と 同様 の
﹁議 会不 要論
﹂が 垣間 見え る︒ そし て周 知の 通り
︑そ の後 河村 は︑ 地方 自治 法第 十三 条及 び七 六条 に基 づく 議会 の 解散 請求 に執 着す るこ とに
( )
なる
︒
もう 一例 だけ 挙げ てお く︒ 大阪 府知 事橋 下徹 のい わゆ る﹁ 議会 内閣 制論
﹂で ある
︒橋 下は
︑平 成二 十二 年一 月十 四日 の地 域主 権戦 略会 議の 予備 的懇 談会 で﹁ 首長 と地 方議 会が 協働 し責 任を 共有 する 仕組 みが 必要
﹂と して
︑副 知 事・ 副市 町村 長や 部局 長な どの 行政 要職 に議 員を 政治 任用 でき る﹁ 議会 内閣 制﹂ の導 入を 提案
( )
した
︒
これ らの トピ ック スに は︑ 社会 格差 感情 が広 がり をみ せつ つあ る中 で︑ 政治 や行 政に 対す る国 民・ 住民 の素 朴な 不信 感︵ 端的 には
︑﹁ 優遇 され た﹂ 政治 家や 公務 員と いう 判り やす い表 象に 対す る不 満︶ を︑ 自ら が掲 げる
﹁改 革 構想
﹂す なわ ち二 元代 表制 の﹁ 変質
﹂= 議会 縮小 論に 巧み に誘 導し てい く﹁ 大衆 迎合 的﹂ 政治 手法 が共 有さ れて い るよ うに みえ る︒ その 意味 で︑ 政治 的な 危う さが 看取 でき る︒ しか しな がら
︑こ うし た政 治手 法が 国民
・住 民か ら一 定の 評価 を得 てい ると いう 事実 の中 に︑ より 深刻 な﹁ ガバ メン トの 危機
﹂が 投影 され てい るこ とを 見逃 すべ きで はな い︒ とい うの は︑ 国民 ある いは 住民 から みた
﹁議 会不 信﹂ と﹁ 行政 不信
﹂は
︑﹁ 特権
﹂的 地位 の議 員と
﹁優 遇﹂ され た公 務員 とい う表 象を 介し て︑ 国と 地方 を問 わず
︑ 同一 次元 で結 合さ れて いる から であ る︒ 議員 定数
・議 員報 酬・ 期末 手当
・政 務調 査費 など の削 減は
︑職 員定 数・ 給 与な どの 削減 とい う﹁ 行政 改革
﹂の 一環 とし て当 然の こと と受 容さ れる
︒﹁ 議会 縮小
﹂論 は民 主主 義の 根幹 に関 わ る問 題で あり
︑行 政効 率と は次 元が 異な ると いう
﹁正 論﹂ が︑ 今日
︑何 故通 用し ない のか
︒こ れこ そ問 題に しな け れば なら ない
︒
﹁失 われ た十 年﹂ と揶 揄さ れた 一九 九〇 年代 以降
︑今 日に 至る
﹁失 われ 続け た二 十年
﹂と もい うべ き日 本社 会の 失速 は︑ ほぼ 間断 なく 投入 され てき た景 気対 策や 経済 対策 にも かか わら ず︑ 生活 実感 との 乖離 や社 会的 格差 の拡 大 を伴 い︑ 政府 の政 策対 応の 有効 性へ の国 民の 信頼 を根 底か ら損 ねる 結果 を招 いて いる
︒先 進国 中最 悪と もい われ る
長期 債務 残高 は︑ 二〇 一〇 年度 末で 国と 地方 を合 わせ て八 六九 兆円 程度 に上 り︑ 対G DP 比で 一八 一% に及 ぶ見 込 みで
( )
ある
︒こ の財 政的 重圧 のも たら す圧 迫感 は︑ 政府 の採 択す るあ らゆ る政 策選 択に 対す る国 民の 疑心 を膨 らま せ
る作 用を して いる
︒い まや ガバ メン トの 正統 性の 危機 とす らい える 状況 にあ る︒ ガバ メン トの 正統 性の 危機 が︑ 国と 地方 を問 わず 訪れ てい ると する なら ば︑ ガバ メン トや 政治 の原 点に 立ち 戻っ た﹁ 正統 性の 再建
﹂が 必要 であ ろう
︒現 代社 会に おけ るガ バメ ント の正 統性 が︑ 主と して
﹁政 策﹂ の有 効性 を介 し て担 保さ れる とす れば
︑﹁ 政策 の有 効性
﹂を 高め る措 置が 必要 であ る︒ 少な くと も国 民や 住民 の政 策に 対す る﹁ 有 効性 感覚
﹂を 向上 する こと が不 可欠 であ ろう
︒ もち ろん
︑価 値観 の多 様性 が容 認さ れて いる 現代 の政 治社 会に おい て︑ 政策 の﹁ 有効 性﹂ をめ ぐる 判断 を一 律の 規準 で行 うこ とは きわ めて 困難 であ る︒ 政策 の有 効性 を判 定す る価 値規 準は
︑最 大多 数の 最大 幸福
︑個 人的 自由 の 最大 尊重
︑最 も不 利な 人々 への 保障
︑あ るい は︑ 共同 体へ のコ ミッ トメ ント など
︑時 に激 しく 対立 しあ う政 治哲 学 に裏 打ち され てい る場 合が 少な くな いか らで
( )
ある
︒た だ︑ 一般 の国 民や 住民 の多 くが 感じ とる 政策 の﹁ 有効 性感
覚﹂ は︑ 必ず しも 原理 的首 尾一 貫性 だけ に支 配さ れる わけ では なく
︑政 策実 施の 実態 的な
﹁効 果﹂ やプ ラス
・マ イ ナス の﹁ 副次 効果
﹂に 対す る日 常的 な感 覚的 評価 を介 して
︑社 会学 的も しく は社 会心 理学 的に 形成 され るも ので も
( )
ある
︒﹁ 有効 性感 覚﹂ のそ うし た特 性に 着目 する なら ば︑ たと え政 治諸 原理 の﹁ 混合 物﹂ に帰 着し たと して も︑ よ り
有効 性感 覚の 高い
﹁合 意﹂ や﹁ 同意
﹂が 成立 する 余地 は広 がる
︒そ のた めに は多 様な 価値 規準 の間 の﹁ 開か れた 討議 の場
﹂と して の政 治の 復権 が欠 かせ ない
︒ガ バメ ント の中 に多 様な チャ ンネ ルや 方法 で﹁ 開か れた 討議 の場
﹂ を構 築す るこ とが
︑政 策の 有効 性感 覚を 向上 させ
︑ひ いて はガ バメ ント の正 統性 の回 復に 寄与 する こと につ なが る