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都市域における洪水流出特性と内水氾濫対策

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修士論文要旨(2007 年度)

都市域における洪水流出特性と内水氾濫対策

Runoff Characteristics and Countermeasures against Flood Disaster in Urban Area

土木工学専攻  1 号  赤羽  祐也 AKABANE Yuya

1.はじめに 

都市域の水災害は局所的な集中豪雨に伴う内水氾濫に よる被害が非常に多くを占めている.この原因は宅地や 道路等の造成による流域の市街地の拡大および道路側溝 や下水道の整備,河川改修等の流域の排水能力の不足が 挙げられる.また, 図-2 のように都市域の雨水の流動は 地表面や下水管を流れるだけでなく,貯留施設,ポンプ 排水および外水門の整備などにより複雑化している.と ころで,都市流域といっても完全に都市化した流域も存 在する一方,流域内に山林地域や里山が混在している都 市流域も存在する.また,都市中小河川や二級河川にお いては必ずしも水文データが充実しているとは言い切れ ない現状にあり,都市流域における流量データ,特に下 水道を流れる流量データが希少である. 

よって,様々な都市流域における現地流量観測を行う ことで水文データの不足した都市流域の流出特性の把握 を行い,都市域の詳細な水循環プロセスの解明のため,

地表面流出計算,管路流計算および氾濫計算を統合した 流出モデルを構築した.地表面流出過程において,著者 らが従来から提案している土壌・地形特性に基づく降雨 流出計算手法を完全に都市化した流域や山林地域が混在 する都市流域に適用した.また,降雨の時空間分解能の 違いが浸水区域に与える影響を定量的に評価し,水害発 生時の住民の迅速な避難・水防活動の円滑な支援をする ために浸水想定区域図を作成し効率的な雨水排水対策を 検討し都市水害を軽減することを目的としている.  

2.都市域における現地流量観測と流域特性

特徴の異なる都市域の流域特性を評価するために複数 の都市流域において実際に流量の現地観測を行った.実 際に都市流域における現地観測を行った一覧を表-1 に 示す.以下に一例として,いたち川流域における現地観 測の概要と結果を示す.

神奈川県横浜市栄区に位置する二級境川水系の二次支

川であるいたち川流域を対象とした.いたち川流域の特 徴は流域の上流部に山林地域が混在し,下流部は都市化 した流域である.流域面積は約 13.9km

2

であり,本川の 流路延長は約 9.0km である.いたち川流域の土地利用形 態の割合は市街地が 67%,裸地が 9%,水田が 1%,山林 が 23%である.いたち川流域の末端から上流 1.0km に位 置する水神橋地点と 2.2km に位置する城山橋地点の 2 箇 所でプライス式流速計を用いて流速(断面内 5 点)と水深 を計測し,流量を算出した.一例として 2001 年台風 15 号のときの水深及び流量,流速の現地観測結果を図-3 に 示す.現地観測結果より,周知のとおり都市流域におけ るピーク降雨時間とピーク流量の時間の差である洪水到

都市域の水災害の多くは 内水による被害 下水管・雨水管

を考慮した雨水 排水計画が必要

都市流域における流量の現地観測

都市・山地流域にも普遍的に適用可能な 流出計算,管路流計算および氾濫計算を

組み合わせた統合型モデルの構築

都市域の水循環プロセスの解明 効率的な雨水排水対策の検討

下水管・雨水管を流れる

流量データが希少 土地利用状況 を考慮した雨水 排水計画が必要 都市域の水災害の多くは

内水による被害 下水管・雨水管

を考慮した雨水 排水計画が必要

都市流域における流量の現地観測

都市・山地流域にも普遍的に適用可能な 流出計算,管路流計算および氾濫計算を

組み合わせた統合型モデルの構築

都市域の水循環プロセスの解明 効率的な雨水排水対策の検討

下水管・雨水管を流れる

流量データが希少 土地利用状況 を考慮した雨水 排水計画が必要

図-1  研究の位置づけ 

下水道

吐口 貯留施設 河川 ポンプ場

外水門 下水道

吐口 貯留施設 河川 ポンプ場

外水門

図-2  都市域における水循環プロセスの概念図 

(2)

修士論文要旨(2007 年度)

達時間は約 20 分と非常に短いことがわかる. 

3.地表面流出計算,管路流計算および氾濫計算を組み 込んだ統合型モデルの構築 

著者らは,土壌・地形特性と降雨強度の関係から表面 流,鉛直浸透流,飽和・不飽和側方流に関する多層流れ を表現可能な,単一斜面における降雨流出計算手法を提 案している.この理論は地形・土壌特性と降雨強度の関 係から流出量を算出するため山地・都市域に問わず普遍 的な適用が可能である.これらの式から求まる地表面流 出量は集水域からマンホールへの流入量として求め,管 路及び河道部における不定流計算を行い,管路から溢水 は 2 次元の不定流計算を行うことで,地表面流出計算,

管路流計算および氾濫計算を組み込み都市域の水循環プ ロセスを追跡可能な統合型モデルを構築した.

4.都市域の洪水流出特性 

  (1)土壌・地形特性に基づく降雨流出計算手法の実流 域への適用 

いたち川流域における実測値と計算値の流量ハイドロ グラフの比較を図-4 に示す.不浸透域では降雨強度より 飽和透水係数が小さいため Horton 型の表面流が発生し,

逆に浸透域では降雨強度より飽和透水係数の値が上回り 地中に浸透し中間流として流出している.また,管路及

び河道部の追跡を行った水神橋(河口から 1.0km)地点に おける計算値と実測値の流量ハイドログラフの比較より,

管路及び河道追跡を行いピーク流量が下がりかつ流量ハ イドログラフの逓減が遅くなり計算値は実測値とほぼ一 致した.

(2)里山の残存が洪水流出特性に与える影響  表-1  都市域における現地流量観測の一覧 

観測地点  観測期間  観測方法  観測項目 

神奈川県横浜市  いたち川水神橋地点 

(柏尾川合流地点から上流 1.0km) 

A=13.9km2 

・2000 年〜2001 年の    3 つの台風の出水 

(①R=195.5mm,Rmax=6mm/10min    ②R=140mm,Rmax=12.5mm/10min    ③R=89.5mm,Rmax=7mm/10min) 

・プライス式流速計を用いて横断方向    5 地点(左岸,中央,右岸,高水敷    両側),鉛直方向 1 地点(6 割水深) 

  の流速と水深を計測   

流速,水深       

大津市流域商業地域  管路網吐き口 

A=10.27ha     

・1996 年 9 月〜12 月までの 3 ヶ月間 

・1998 年 6 月〜1999 年 4 月までの    10 ヶ月間 

(①R=43.5mm,Rmax=3mm/10min    ②R=34.5mm,Rmax=1.5mm/10min    ③R=59.5mm,Rmax=4mm/10min    ④R=50mm,Rmax=3.5mm/10min) 

・吐き口に堰を設置し,水深と流速    を計測 

       

雨量,流速,水深           鶴見川末吉橋地点 

(河口から上流 5.9km) 

A=235km2     

・2004 年 8・9 月の平水時 24 時間    連続観測 

・2003 年及び 2006 年の 2 つの    台風の出水 

(①R=52mm,Rmax=38mm/hr    ②R=189mm,Rmax=11mm/hr) 

・堤防に設置された H-ADCP を用いて    流量と流速を定点計測 

・ADCP をリバーボートに乗せて    流量と流速の橋上操作の曳航観測   

流速,水深          神田川一休橋地点 

(河口から上流 10.8km) 

A=105km2       

・2002 年〜2007 年の台風及び    洪水の 5 つの出水 

(①R=29.5mm,Rmax=11mm/hr    ②R=95mm,Rmax=14.5mm/hr    ③R=102mm,Rmax=14.5mm/hr    ④R=81mm,Rmax=12mm/hr    ⑤R=36mm,Rmax=7mm/hr)   

・プライス式流速計を用いて横断方向    3 地点(左岸,中央,右岸,),鉛直    方向 1 地点(6 割水深)の流速と    水深を計測 

・ADCP をリバーボートに乗せて    流量と流速の橋上操作の曳航観測   

流量,流速,水深          

0.0 1.0 2.0 3.0

10 5 0

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

時刻

水深[m]

:城山橋(上流側)

:水神橋(下流側)

0:00 6:00 12:00 18:00 0:00 18:00

10:00〜11:30欠測

10分間降雨強度[mm/10min]

流量[m3 /s]流速[m/s]

総降雨量=89.5[mm]

2001年9月10日〜9月11日(台風15号)

ピーク降雨強度=

7.0[mm/10min]

9/10 9/11

流出係数:0.34 洪水到達時間:

20分

図-3  いたち川水神橋地点(流域末端から 1.0km) 

および城山地点(流域末端から 2.2km)に 

おける実測の水深・流量・流速の時系列 

(3)

修士論文要旨(2007 年度)

里山が残存するときと里山が市街化したときの流出特性 の違いの考察を行った.不浸透域面積率を市街化率と定 義して,現況の市街化率 67%及び里山を都市化させた場 合を市街化率 70%,75%,80%,85%, 90%の条件で計 算を行った. つまり, 現況の不浸透面積比率の0.67を 0.7,

0.75, 0.8, 0.85, 0.9 として残りの面積比率を山林地域が 1 に対して,裸地を 2 倍になるよう与え流出計算を行っ た.つまり,里山が都市化し浸透域である裸地,森林地 域から不浸透域への土地被覆状態の変化を飽和透水係数,

斜面長,地表面の粗度係数の土壌・地形特性を変化させ 表現し,表層土層厚,有効空隙率,斜面勾配は同じ値を 用いた.その計算結果を図-5 に示す.市街化率が上昇す るに伴って,流出量は主に不浸透域から発生する表面流 で構成され,主に中間流が発生する浸透域の山林地域か らの流出量が減少していることがわかる.つまり,いた ち川流域のように里山が23%程度存在するような流域に おいては里山が残存することで洪水流量のピークカット の役割を担い,里山が流出現象に与える効果が大きいこ とを示した.

5.降雨の時空間分布が洪水流出特性に与える影響    現在,一般的な雨水排水計画は中央集中型の 1 時間降 雨量を設計外力としている.しかし,既往の研究から 1 時間降雨量は 10 分間降雨量でみると約 1.5〜3 倍大きい ことがわかっており.中央集中型以外の時間的に異なる 降雨波形の降雨が氾濫現象に与える影響の違いの考察を 行った.総降雨量 50mm,60mm および 75mm の降雨に おいて降雨のピークが前方集中型,中央集中型および後 方集中型の時間的に異なる降雨波形の氾濫現象に与える 影響の結果を図-6 に示す.その結果,総降雨量 50mm の 降雨においては氾濫が生じなかったが,総降雨量 60mm,

75mm の降雨においては前方集中型,中央集中型,後方

集中型の降雨の順に氾濫面積が増加していることがわか る.このことから,都市域の内水氾濫現象に対してもピ ーク降雨時以前の先行降雨の影響が大きいことがわかっ た.また,降雨の空間分解能の違いが氾濫現象に与える 影響の考察を行った.対象とした流域は浦安市全域(流 域面積 17km

2

)であり,6 箇所の雨量観測所の雨量を用 いた場合とそれらの流域平均雨量を用いた場合の流出計 算結果を図-7,8 に示す.その結果より,浸水箇所の再 現を目的とするときにおいて,降雨の空間分布が浸水箇 所に与える影響があることがわかった.

6.雨水排水計画案とその効果 

  浦安市当代島第 2 排水区において管渠布設替え,ポン プ場の新設および地下貯留施設の新設整備とそれらの組 み合わせの整備の雨水排水計画案のシミュレーションを 行った.将来,地球温暖化に伴い外力である降雨の規模 が増大したときに設定した雨水排水対策が有効であるか どうかを評価するために設定した降雨外力およびその降 雨が 1 割,2 割,3 割,4 割,5 割増加した場合において も氾濫シミュレーションを行った.設定した基準降雨は

60mm/h の仮想降雨とした.現況の整備施設および各種

雨水排水対策の氾濫計算結果より算出した被害額を図-9 に示す.その結果,各種雨水排水対策において降雨の規 模が増大するに伴い,被害額は増大することがわかる.

ここで,雨水排水対策の効果を評価するために算出した 費用対効果を図-10 に示す.また,対象流域とした浦安 市において河川が東京湾へ東西に横断しており,その河 川の河口部に外水門を設置する対策も行い,同様に氾濫 計算から算出した費用対効果の結果を図-10 に示した.

ここで,費用対効果である B/C の B(総便益)は現況の 整備施設の氾濫被害額から整備後の被害額を差し引いた

0 25 50

15 10 5 0

10分間降雨強度[mm/10min]

流量[m3/s]

9/10 0:00 9/10 12:00 9/11 0:00

時刻 総降雨量:88.5[mm]

ピーク降雨強度:7.0[mm/10min]

:計算値(不浸透域+浸透域)

:実測値(柏尾川合流地点から 上流1.0km地点) 2001年9月9日〜9月11日(台風15号)

:計算値(不浸透域)

:計算値(浸透域–裸地)

:計算値(浸透域–山林)

:計算値

(管路及び河道追跡も含む)

図-4  いたち川水神橋(流域末端から 1.0km) 地点   における地表面流出量ハイドログラフ      

0 25 50 75

15 10 5 0

10分間[mm/10min]

地表面流出[m3/s]

9/10 0:00 9/10 12:00 9/11 0:00

時刻 総降雨量:88.5[mm]

ピーク降雨強度:7.0[mm/10min]

:現況の土地利用形態 (市街化率67%) 2001年9月10日〜9月11日(台風15号)

:市街化率70%

:市街化率80%

:市街化率90%

:現況の土地利用形態 (市街化率67%)

:市街化率70%

:市街化率80%

:市街化率90%

全地表面流出量

山林からの流出量

図-5  現況の土地利用形態(市街化率 0.67%)と  里山を市街化させた場合(市街化率 70%, 

80%,90%)の地表面流出量ハイドログラフ

(4)

修士論文要旨(2007 年度)

被害の差額とし,C(総費用)は整備費用と整備後の維 持管理費の総額と定義した.図-10 の結果より,対象と した流域において B/C の値が 1 を越えるような被害の軽 減効果が大きい整備計画は「管渠布設替え」 , 「貯留施設 の新設」 , 「管渠+貯留施設の新設」および「外水門の新 設」の整備の場合である.しかし,降雨強度の増大に伴 い,雨水排水対策の費用対効果の値が逆転している場合 もある.このことから,雨水排水対策を策定する際には 整備計画年数での費用対効果とそれを越える長期的なス パンでの費用対効果の双方を考慮することで,より効率 的な対策を投じることができる.

7.結論 

1)都市流域において現地観測を行い,流量の実測値と 計算値を比較することにより,土壌・地形特性と降雨強 度の関係に基づく流出計算手法が都市域・山地地域にお いて普遍的に適用可能であることを示した.

2)いたち川流域のように里山が 23%程度存在するよう な流域においては里山の残存が洪水流量の低減の役割を 果たすことがわかった.

3) 異なる降雨波形が氾濫現象に与える影響においては,

前方集中型→中央集中型→後方集中型の降雨の順に氾濫 面積が増加し降雨の時間分布が浸水箇所に影響を与える ことがわかった.また,雨量観測所ごとの降雨と流域平 均雨量を用いた流出計算結果より降雨の空間分布が浸水 箇所に影響を与えることを示した.

4)対象とした流域において,降雨の規模により効率的 な雨水排水の整備の優先順位が異なることがわかった.

参考文献 

1) 土屋修一,土肥学,海野修司,山田正:管路網水理解析による 都市洪水流出特性に関する研究,土木学会水工学論文集,

Vol.46,pp.259-264,2002.

2) 呉修一,山田正,吉川秀夫:表面流の発生機構を考慮した斜面

多層降雨流出計算手法に関する研究,土木学会水工学論文集,

Vol.49,pp.169-174,2005.

3)土屋修一,呉修一,佐藤直良,山田正:降雨の時間特性に関する 研究,水工学論文集, Vol.47,pp.139-144,2003.

0 5 10 15 20

前方集中型

の降雨 中央集中型

の降雨 後方集中型

の降雨

:総降雨量50mmの降雨

:総降雨量60mmの降雨

氾濫面積の割[]

:総降雨量75mmの降雨

図-6  降雨の時間分布が氾濫現象    図-7  流域平均雨量を用いた      図-8  6 箇所の雨量観測所の雨量を  に与える影響      流出計算結果      用いた流出計算結果 

0 5 10 15

被害[億円]

降雨強度

●:現況の管路網  :管渠布設替え  :ポンプ場の新設  :貯留施設の新設

:管渠+ポンプ整備

:管渠+ポンプ +貯留施設整備

:管渠+貯留施設整備

:ポンプ+貯留施設

(基準降雨:r)

r 1.1r 1.2r 1.3r 1.4r 1.5r

図-9  各種雨水排水計画案の被害額 

–2 0 2 4

対効果[–]

降雨強度  :管渠布設替え  :ポンプ場の新設  :貯留施設の新設

:管渠+ポンプ整備

:管渠+ポンプ +貯留施設整備

:管渠+貯留施設整備

:ポンプ+貯留施設

r 1.1r 1.2r 1.3r 1.4r 1.5r

(基準降雨:r)

1

 :外水門の新設

 

図-10  各種雨水排水計画案の費用対効果 

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