︿資料V
韓 国 の 行 政 審 判 法
1解説と全訳‑
龍澤
はじめに
韓国は︑日本の行政不服審査法に相当するものとして︑それまでの﹁訴願法﹂を廃止して︑一九八四年一二月一五
日に行政審判法を制定し︑翌八五年一〇月一日から施行した︒その後︑数度の改正を経て今日に至っている︒韓国に
おいては本法は期待どおりの成果を上げており︑韓国の行政民主化に大きな貢献をしている︒そのためか︑ここ日本
においても注目を集め︑例えば総務庁から働行政管理研究センターへの委託研究のために組織された﹁事後救済制度
バユ 調査研究委員会﹂(委員長・小早川光郎東京大学教授)において︑比較の対象として︑アメリカ︑イギリス︑ドイツ︑
オーストリア︑フランス︑スウェーデンとともに韓国の行政審判法が選ばれ︑筆者もその委員会で韓国の行政審判制
度について簡単な報告をした︒
ヨ 行政審判法の制定経過︑内容及び運用の実態については︑これまでに幾つかの紹介をしたことがあるので︑ここで
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は︑一九九七年八月の改正内容を盛り込んだ最新の行政審判法を全訳して資料として掲載することにし︑その概略及
び改正の経過については簡単に紹介するにとどめた︒なお︑この拙訳は︑総務庁が刊行した﹃事後救済制度に関する
調査報告書﹄(一九九八年)に収録されたものであるが︑﹁部内資料﹂であるために︑多くの研究者にとって必ずしも
入手しやすいものではない︒そこで︑ここに︑新たに簡単な解説を付して韓国の﹁行政審判法﹂の全訳を掲載するこ
とにしたものである︒
ところで︑制定当時の行政審判法の主要な特色を要約することは困難であるが︑あえて挙げるとするならば︑①従
来の訴願法に基づいて設置された訴願委員会が諮問機関に過ぎず国民の権利利益の救済に不十分であったので︑行政
審判法では︑裁決庁に必置する行政審判委員会を議決機関化して︑民間人委員を含む行政審判委員会の議決内容のと
おりに裁決庁が裁決するようにしたこと(具体的には︑中央行政機関所属下の行政機関が行った処分に対する審理・議決
をするために中央行政機関各部に置かれた中央行政機関行政審判委員会︑市・道所属下の行政機関が行った処分などに対する
審理・議決をするために各市・道に置かれた市・道行政審判委員会︑及び次に述べる国務総理行政審判委員会の三種類があっ
た)︑②中央行政機関の長(各部長官11大臣)がした処分に対する行政審判は︑国務総理に所属する行政審判委員会(
国務総理行政審判委員会)で審理・議決するようにしたこと︑③審判請求人に被請求人たる処分庁の答弁書や証拠書
類を受ける権利︑口頭審理の申請権などを認めて︑手続的権利を保障したこと︑であろう︒
その後︑一〇年余りの施行過程において現れた運営上の不備を改善するために︑一九九五年一二月六日に改正法が
公布され︑九六年四月一日に施行された︒
この改正法の主要な特色は︑①中央行政機関行政審判委員会を廃止して︑従来︑この行政審判委員会で審理・議決
う していた不服申立てを︑国務総理行政審判委員会において審理・議決するように変更したこと︑②国務総理行政審判
委員会を含めて︑行政審判委員会の委員のうち民間人委員を過半数にしたこと︑③従来︑行政審判の審理は書面審理
主義を原則としていたが︑これを口頭審理主義と書面審理主義の併用へと変更し︑さらに当事者が口頭審理を申請し
たときは︑原則として口頭審理を行わなければならないようにしたこと︑である︒
この改正後も︑複雑・多様化する経済社会の情勢の変化に対応して︑行政審判委員会の運営の迅速性と専門性を⊥目同
めるとの観点から︑改正法が一九九七年八月二二日に公布︑同年一〇月一日から施行された︒
この改正の主な内容は︑①国務総理行政審判委員会の定数の増員(定数を三〇人から三五人以内に︑常任委員を一人
から二人以内に変更)︑②執行停止の改善(執行停止の申請の提出先を裁決庁から行政審判委員会に変更)︑③処分の根拠と
なる命令等が法令に根拠がないなど著しく不合理であると認められる場合における︑国務総理行政審判委員会による
当該命令等の是正措置の要請の導入などである︒
注
(‑)この委員会は・総務庁からの働行政管理研究センターに対する委託調査研究を実施するために同センタ!で組織したもの
である︒検討事項は︑①諸外国の事後救済制度(行政不服申立て︑行政苦情申出)の調査︑②現行の事後救済制度の利点と
問題点の検討︑③事前手続︑司法救済手続等との関係の検討︑④事後救済制度の見直しの視点の整理などであり︑平成八年
一〇月から平成一〇年六月までに委員会を一七回開催して︑本年(一九八九年)︑報告書を出した︒
(2)筆者は・事後救済制度調査研究委員会の第二回委員会(平成八年=月二二日)で﹁韓国の行政審判法について﹂と題し
た簡単な報告をした︒
(3)例えば︑①拙著﹃韓国行政審判制度の研究﹄(創価大学アジア研究所︑一九九六年)をはじめ︑拙稿として②﹁韓国にお
ける行政審判制度改正の一素描訴願法から行政審判法ヘー﹂﹃創価大学創立一五周年記念論文集﹄(創価大学︑一九八
五年)︑③﹁日・韓両国における行政争訟制度改正の経過について﹁訴願法﹂から﹁行政不服審査法﹂と﹁行政審判法﹂
へー﹂﹃創大アジア研究﹄第八号(一九八七年)︑④﹁韓国における行政審判法の特質と問題点について﹂﹃創価法学﹄第
一六巻第三・四号(一九八七年)がある︒なお︑制定当時(一九八四年)の韓国行政審判法の全訳は④の論文の後ろに︑ま
た︑一九九五年改正後の全訳は①の著書の巻末に︑それぞれ収録されているので参照されたい︒
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(4)事後救済制度調査研究会編﹃事後救済制度に関する調査研究報告書﹄(一九九八年)には︑日本の現行の事後救済制度の
課題並びに各国の行政審判制度の基本法の翻訳と簡単な紹介などが収録されていて︑まことに有益である︒なお︑調査研究
報告書の第三章﹁現行の事後救済制度の利点と問題点﹂と第四章﹁事後救済制度の見直しの視点﹂は︑小早川光郎﹁行政救
済制度の課題﹂として︑﹃ジュリスト﹄一=二七号(一九九八年)に収録されている︒
(5)国務総理行政審判委員会の運営及び行政審判制度の総括・調整の事務を管掌する機関は法制処であるが︑これについては
高橋滋.李在鶴.李永鏑﹁韓国の法制処とその役割﹂﹃ジュリスト﹄一一四五号(一九九八年)を参照のこと︒
韓国行政審判法
第一章総則
(目的)
第一条この法律は︑行政審判手続を通じて︑行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使又は不行使等による
国民の権利又は利益の侵害を救済するとともに︑行政の適正な運営を期すことを目的とする︒
(定義)
第二条この法律で使用する用語の定義は︑次のとおりとする︒
一﹁処分﹂とは︑行政庁がする具体的事実に関する法執行としての公権力の行使又はその拒否その他これに準ず
る行政作用をいう︒
二岬不作為﹂とは︑行政庁が当事者の申請に対して相当の期間内に一定の処分をしなければならない法律上の義
務があるにもかかわらず︑これをしないことをいう︒
三﹁裁決﹂とは︑行政審判の請求に対して︑第五条の規定による裁決庁が行政審判委員会(国務総理行政審判委
員会を含む︒)の審理及び議決の内容に従ってする判断をいう︒
②この法律を適用するに当たって︑行政庁には︑法令により行政権限の委任若しくは委託を受けた行政機関︑公共
団体及びその機関又は私人が含まれる︒
(行政審判の対象)
第三条行政庁の処分又は不作為について︑他の法律に特別な定めがある場合を除くほか︑この法律に基づき行政審
判を求めることができる︒
②大統領の処分又は不作為については︑他の法律に特別な定めがある場合を除くほか︑行政審判を求めることがで
きない︒
(行政審判の種類)
第四条行政審判は︑次の三つに区分される︒
一取消審判行政庁の違法又は不当な処分の取消し又は変更を求める審判
二無効等確認審判行政庁の処分の効力の有無又はその存在の可否について確認を求める審判
三義務履行審判行政庁の違法若しくは不当な拒否処分又は不作為について一定の処分をするように求める審判
第二章審判機関㎜
(裁決庁)
第五条行政庁の処分又は不作為については︑第二項から第五項までの規定によるほか︑当該行政庁の直近上級行政
機関が裁決庁となる︒
②次の各号に定める行政庁の処分又は不作為については︑当該行政庁が裁決庁となる︒
一国務総理︑行政各部長官及び大統領直属機関の長
二国会事務総長︑法院行政処長︑憲法裁判所事務処長及び中央選挙管理委員会
三その他所管監督行政機関がない行政庁
③特別市長︑広域市長又は道知事(教育監を含む︒以下同じ︒)の処分又は不作為については︑各所管監督行政機
関が裁決庁となる︒
④特別市長︑広域市長又は道知事に所属する各級国家行政機関又はその管轄区域内にある自治行政機関の処分又は
不作為については︑それぞれ特別市長︑広域市長又は道知事が裁決庁となる︒
⑤国家特別地方行政機関の処分又は不作為については︑第二項から第四項までの規定に準じて大統領令が定める上
級行政機関が裁決庁となる︒
(行政審判委員会)
第六条行政審判の請求(以下﹁審判請求﹂という︒)の審理及び議決をするために︑
行政機関の長である裁決庁を除く︒)の所属の下に行政審判委員会を置く︒ 各裁決庁(国務総理及び中央