渡部和雄1 岩崎邦彦2
ネット購買における消費者意識 にもとづく商品類型化
研究論文 1-1
1 東京都市大学環境情報学部教授 2 静岡県立大学経営情報学部教授
1.はじめに
インターネットの利用者増加に伴い、消費者向け 電子商取引市場(BtoC 市場)が年々拡大している
(総務省2006、2008)。ネットショップ(オンライン・
ショップ)では多種多様な商品が販売されている。
しかし、よく売れる商品もあれば、そうでない商品 もある。消費者がネットで購入しやすい商品、購入 しにくい商品はどのような特性を持っているのだろ うか。本研究ではこの疑問に答えるため、特に消費 者が商品をネット購買する場合に持つ抵抗感に着目 した。消費者にネットショップでの買い物について アンケート調査を行い、商品のポジショニングマッ プを作成し、商品類型ごとに特性を分析することと した。なお、本論文で「店舗」あるいは「実店舗」
とは街などに実際の店を構えている小売店、「ネッ トショップ」とはインターネット上に開設されてい る小売店、単に「店」とはこの両者を指すものとす る。
2.本研究の目的と方法、先行研究 2.1 本研究の目的と方法、手順
本研究の目的は、消費者のネットでの購買要因を 明らかにすること、および消費者がネットショップ で買いやすい商品(の分野)、買いにくい商品(の 分野)とその特性を明らかにすることである。
本研究では、まず消費者にネット購買への意識、
商品のネット購買への抵抗感、個人属性についてア ンケート調査を行い、購買要因を分析する。次に、
消費者が商品をネットショップで購入することに対 する抵抗感は商品ごとに異なると考えられるので、
ネットショップで買いやすい商品、買いにくい商品 を明らかにする。さらに、ネット購買に対する抵抗 感にもとづく商品ポジショニングマップを作成し、
商品の類型化を行って商品の特性を考察する。
2.2 ネット購買関係の主な先行研究
(1)ネット購買のリスク、不安感、抵抗感について ネットでの購買は多くのリスクを伴い、消費者に 購買を躊躇させる大きな要因となっている。ネット 購買者の7割以上がネットでの購買に不安を覚えて いるという(正田、2001)。野島(2001)はネット ショップにおける消費者の知覚リスクを商品品質リ スクと取引リスクの2つとし、販売者側のリスク削 減制度を調査した。また、消費者の知覚リスクを削 減するためのネットショップの情報提供のあり方を 論 じ て い る(野 島、2003)。Cases(2002)は ネ ッ トショッピングにおける多様なリスクを挙げ、リス ク緩和方策を検証している。Forsythe ら(2003)は オンライン購買の認知リスクのため、多くの消費者 はオンラインで集めた情報を使い、店舗で購入する と報告している。彼らは金銭的リスク、製品機能的 リスク、心理的リスク、時間・利便損失リスクの4 種類の認知リスクを検証した。Forsythe らの述べ る認知リスクは オンライン・ショッピングの障害 を説明するために有用である。青木(2005)は様々 な知覚リスクを整理した上で、販売者による緩和策、
消費者による緩和策を示している。Moe(2004)ら はネットでの購買に対して消費者が持つ抵抗感を購 買の見極めに利用している。彼らは消費者がウェブ を訪問して商品を購入する確率を予測するため、消 費者の心理的抵抗を購入する/しないのしきい値と している。
筆者らの知る限りでは、消費者が持つネット購買 への抵抗感と商品特性を結びつけて分析した研究は
ない。本研究ではアンケート結果から消費者のネッ ト購買への抵抗感と商品特性の関係を分析する。
(2)消費者の買い物行動にもとづく商品分類 Copeland(1923)は消費者の買い物行動により 商品を最寄品、買回品、専門品の3グループに分類 したが、その後、多くの商品分類の研究がなされて いる(コトラー、2003;大坪、1996;井戸、2007)。 田村(1978)は商品分類論争に言及した上で、消費 者の買い物行動データを因子分析およびクラスター 分析により5グループに分けた。しかし、クラスター 分析によることもあり、分類軸が明確ではなく、商 品グループ間の特性が判別しにくくなってしまっ た。寺島ら(1994)は田村の分類基準を一部批判し ながら、消費者の買い物行動特性や商品特性データ による日常性、便宜性、百貨店指向など4つの因子 から、商品を「食料品」、「日用雑貨品」、「衣料・流 行品」、「耐久・娯楽品」に分けた。この分類は明瞭 性が高いというが、「衣料・流行品」と「耐久・娯 楽品」の境界は明確ではない。大槻(2006)は商品 単価の高低と購買頻度の大小で4分類することを提 案しているが、各グループの商品数に極端な偏りが あり、また、必ずしも商品特性を反映した分類では ない。
本研究ではネットで購買することに対する消費者 の抵抗感をもとに、ネットで販売されている主要な 商品(38商品)のポジショニングマップを作成し、
従来の分類にはないネット特有の商品分野を見出し ている。
3.アンケート調査
3.1 アンケート調査概要と主な結果 3.1.1 アンケート調査概要
2.1節に述べた研究目的のため、消費者にアンケー ト調査を行い、結果を分析する。日本全国で、年齢 が20代、30代、40代、50代、60代以上がほぼ均等に なるように、計3,370人のインターネット利用者に 電子メールでアンケートへの回答を依頼し、電子 メールにリンクされている Web ページ上のアン
ケートに答えてもらった。有効回答数は825だった
(表1)。調査時期は2007年9月下旬である。
(有効回答数:825)
¥50,000 中央値
14505879 分散
¥82,778 平均
18.4%
152 5.10万円超〜90万円
18.8%
155 4.5万円超〜10万円
26.3%
217 3.2万円超〜5万円
27.9%
230 2.1円〜2万円
8.6%
71 1.0円
Q5 過去1年間の ネットショップで の購買額合計
6回 中央値
109.13 分散
9.95 平均
20.1%
166 5.20回〜60回
23.4%
193 4.10回〜19回
7.8%
64 3.6回〜9回
40.1%
331 2.1回〜5回
8.6%
71 1.0回
Q4 過去1年間の ネットショップで の購買回数
13.6%
112 5.1000万円以上
19.9%
164 4.1000万円未満
21.9%
181 3.700万円未満
27.6%
228 2.500万円未満
17.0%
140 1.300万円未満
Q3 世帯年収
20.6%
170 5.60代以上
19.4%
160 4.50代
19.0%
157 3.40代
20.4%
168 2.30代
20.6%
170 1.20代
Q2 年代
54.3%
448 2.女性
45.7%
377 1.男性
Q1 性別
構成率 度数 回答
質問
表1 アンケートの主な結果
3.1.2 回答者の属性など
回答者の属性やネットショッピングの行動につい ての主な質問事項と回答の集計を表1に示す。過去 1年 間 に ネ ッ ト シ ョ ッ プ で 購 買 経 験 の あ る 人 は 91.4%と非常に多い(Q4)。また、購買回数が10
回以上の人、購買額が50,000円を超える人がそれぞ れ約4割となり(Q4、Q5)、活発にネットショッピ ングを行っている人が多い。
3.1.3 商品に対するネットでの購買への抵抗感 ネット購買における消費者意識にもとづいた商品 分類を行うため、ネットで購買しやすい商品と購買 しにくい商品の特性を明らかにしたい。消費者が商 品をネットで購買することへの抵抗感は商品によっ て大きく異なると考えられる。そこで、商品につい てネットで購買するとした場合の抵抗感をアンケー トで尋ねた。アンケートでは、旅行サービス、食料 品、家電製品など38種類の商品それぞれについて、
ネットで購買する場合の抵抗感を、「全く抵抗はな い(1)」、「抵抗はない(2)」、「あまり抵抗はない(3)」、
「どちらでもない(4)」、「少し抵抗がある(5)」、「抵 抗がある(6)」、「非常に抵抗がある(7)」の7点尺度 で全員に回答してもらった。調査対象とする商品は インターネット白書(2007)の「実際にオンライン で購入した製品・サービスのジャンル(複数回答)」
(回答数1,472)を参考に選定した。これによると、
回答者が購入した製品・サービスは多いものから順 に、本(62.6%)、CD・DVD(49.8%)、衣 類、旅 行・宿泊予約、パソコンハード、食料品・酒、パソ コンソフト、航空・鉄道チケット、化粧品、AV 機 器・家 電 製 品、家 具・雑 貨、ゲ ー ム 機、ギ フ ト
(21.9%)・・・車・バイク(3.5%)などとなって おり、最も購入されていないものは不動産(0.1%)
である。そこで、購入度合いの高い主要な商品に、
さらに不動産も加えた38種類の商品を選定した。
3.1.4 消費者のネット購買全般に対する意識、態度 消費者が商品をネット購買する場合の抵抗感は消 費者のどのような意識、態度が背景にあって形成さ れるかを分析するため、消費者のネット購買全般に 対 す る 意 識 や 態 度 に つ い て も 質 問 し た。Kim ら
(2006)のネット上での価格競争緩和要因の研究で は、認知価格、購入意思、スイッチング・コスト、
信頼、利便性の要因に分けて、それぞれについてネッ ト利用者に4問から6問の質問をしている。そこで、
筆者らは彼らの研究を参考に、Kim らの挙げた要 因をもとに、ネット上の情報取得、ネットショップ の信頼性、店の評判、ブランド、店頭での感触、店 員の説明、クチコミなどの購買要因となり得る要因 について質問を追加作成した。そして、「ネットか ら得られる買い物情報を重視する」、「ネットショッ プで買うのは不安だ」、「店の評判を重視する」、「友 人、知人からのクチコミを参考に買い物することが 多い」、「実際に商品を手に取って選びたい」など42 の質問について、「全くそう思わない(1)」、「そう思 わない(2)」、「あまりそう思わない(3)」、「どちらで もない(4)」、「まあまあそう思う(5)」、「そう 思 う
(6)」、「かなりそう思う(7)」の7点尺度で回答して もらった。
3.2 消費者のネット購買に対する意識、態度の集約 上述のように、消費者のネット購買全般に対する 意識、態度についての質問は42と非常に多く、この ままでは分析で扱いにくい。そのため、消費者のこ れらの意識の背後にあると考えられる比較的少数の 要因に集約しておきたい。そこで、これら42問につ いて回答を因子分析(主因子法、バリマックス回転)
した結果、固有値が1を超える因子が11現れたので、
これらを消費者のネット購買に対する意思決定要因 とする。なお、各因子には得点の高い質問内容を考 慮して、以下のようにラベルを付した。
因子1 ネット情報重視(ネットを使って買い物情 報を得ることに熱心)
因子2 実店舗コミュニケーション重視(実店舗の 店員とのコミュニケーションを重視)
因子3 価格重視(店での商品販売価格を比較し、
低価格を重視)
因子4 ネットショップ不信(ネットショップの信 頼性に不信感を抱く)
因子5 サービス・評判重視(店の評判、信用、ア フターサービスを重視)
図1 商品別布置図 因子6 ストア・ロイヤルティ重視(よく訪れる気
に入った店で購入することを重視)
因子7 クチコミ重視(ネットでのクチコミを含む クチコミを重視)
因子8 実感重視(実際に商品を見たり、手に取る ことを重視)
因子9 スイッチング・コスト(買う店を変更する ことによる犠牲を重視)
因子10 時間節約重視(商品探索や入手のための時 間節約を重視)
因子11 ブランド志向(商品のデザインやブランド を重視)
4.ネット購買における商品特性の分析 4.1 商品の類型化
消費者のネット購買への抵抗感から商品のポジ
ショニングを行い、ネット購買において消費者が持 つ商品への抵抗感と商品特性の関係を分析する。具 体的には、ネット購買への抵抗感の回答データから ユークリッド距離による非類似度行列を作成し、多 次元尺度構成法 ALSCAL を使って布置図を作成し た。布置図において距離が近い商品群をグループ化 していくと、図1のように「サービス・コンテンツ」、
「最寄品」、「買回品」、「専門品」の4類型が抽出さ れた。次元1(横軸)は商品のネット購買への抵抗 感を表しており、消費者は右に布置されている商品 ほどネットで購買しやすく、左にある商品ほどネッ トでは購買しにくく感じている。次元2(縦軸)は 上方は有形(tangible)な商品が多く、下方はデジ タル関連コンテンツやサービス、保険など無形(in- tangible)な商品が多い。「買回品」の中で下方に 位置するゲーム機、携帯電話、デジタルカメラ、パ
(重回帰分析方法:強制投入法。「因子1」〜「因子11」の名前の下の数字は標準化回帰係数で、**・・・1%水準で有意、*・・・5%水準で有意。)
0.035
‐0.004
‐0.091**
0.163**
‐0.136**
0.017 0.062
0.259**
‐0.043 専門品
‐0.009
‐0.101**
‐0.108**
0.153**
‐0.021 0.031
0.060* 0.295**
‐0.103**
買回品
‐0.029
‐0.245**
0.068* 0.009
‐0.111**
‐0.014 0.078**
0.328**
‐0.141**
最寄品
‐0.077**
‐0.231**
0.035
‐0.009
‐0.064*
‐0.047 0.145**
0.248**
‐0.114**
サービス・コンテンツ
ブランド 志向 時間節約
重視 スイッチ ング・コ スト重視 実感
重視 クチコミ
重視 ストア・
ロイヤル ティ重視 サービ
ス・評判 重視 ネット
ショップ 不信 価格
重視 商品分野
因子11 因子10
因子9 因子8
因子7 因子6
因子5 因子4
因子3
0.075*
‐0.139**
0.000 14.750
0.884 0.155
0.166 0.408
5.62 専門品
0.117**
‐0.298**
0.000 28.454
1.142 0.268
0.278 0.527
4.27 買回品
0.068*
‐0.126**
0.000 24.651
1.009 0.240
0.250 0.500
3.36 最寄品
0.021
‐0.238**
0.000 23.541
0.872 0.231
0.242 0.491
2.58 サービス・コンテンツ
実店舗 コミュニ ケーション 重視 ネット
情報重視 有意
F 値 確率 標準
誤差 調整済み R2乗 R2乗
R ネット 購買への
抵抗感 平均 商品分野
因子2 因子1
表2 商品全体および商品類型別ネット購買への抵抗感の重回帰分析 ソコンなどもソフトウェアが重要であり、無形性が
強いと考えられる。原点(0、0)の近くで縦横に線 を引いて4つの象限に分けてみると、右上の第1象 限は「最寄品」を中心とした比較的安価な商品が多 く、左上の第2象限は「専門品」を中心とした比較 的高価な商品、左下の第3象限は「買回品」、右下 の第4象限は「サービス・コンテンツ」が布置され ている。このようにネット購買においても布置図上 で商品類型が明確に位置づけられる。このことは、
消費者は「サービス・コンテンツ」、「最寄品」、「買 回品」、「専門品」の商品特性を意識的あるいは無意 識的に理解して対応していると考えられる。
4.2 商品類型別ネット購買への抵抗感の重回帰分析 ネット購買への抵抗感はどのような要因の影響が 強いのかを明らかにするため、商品類型別にネット 購買への抵抗感の重回帰分析を行った。従属変数は 4つの商品類型別ネット購買への抵抗感の平均、独 立変数は3.2節で抽出された11因子の因子得点とし
た。結果を表2に示す。重回帰モデルはすべて有意 確率が0.000となり、1%水準で有意となった。ま た、「ネット情報重視」、「価格重視」など多くの因 子が1%水準で有意となった。標準化回帰係数の符 号が負のものはネット購買に対する抵抗感を緩和す る因子であり、正のものは抵抗感を強める因子であ る。
因子のうち、ネット購買への抵抗感を緩和する要 因は「ネット情報重視」、「価格重視」、「クチコミ重 視」、「時間節約重視」の4つである。このうち、「ネッ ト情報重視」は4つすべての商品類型で1%水準で 有意になっており、値の絶対値も大きい。また、「価 格重視」、「時間節約重視」の2因子は「サービス・
コンテンツ」、「最寄品」、「買回品」の3類型で1%
水準で有意となっている。「クチコミ重視」は「サー ビス・コンテンツ」、「最寄品」、「専門品」の3類型 で有意である。ネットで商品(サービスを含む)を 購入する人の多くはネットから商品情報を得て、価 格やクチコミを重視し、時間節約にも関心が高い傾
図2 商品類型別ネット購買要因の抵抗感への影響
(標準化回帰係数は有意なもののみ表示した、
**・・・標準化回帰係数が1%水準で有意、*・・・同5%水準で有意)
サービス・コンテンツ 標準化回帰係数 ネット情報重視 −.24**
時間節約重視 −.23**
価格重視 −.11**
クチコミ重視 −.06* 実感重視
ネットショップ不信 +.25**
実店舗コミュニケーション
サービス・評判重視 +.15**
スイッチングコスト
$
買回品 標準化回帰係数
ネット情報重視 −.30**
時間節約重視 −.10**
価格重視 −.10**
クチコミ重視
実感重視 +.15**
ネットショップ不信 +.30**
実店舗コミュニケーション +.12**
サービス・評判重視 +.06* スイッチングコスト −.11**
#
!
最寄品 標準化回帰係数
ネット情報重視 −.13**
時間節約重視 −.25**
価格重視 −.14**
クチコミ重視 −.11**
実感重視
ネットショップ不信 +.33**
実店舗コミュニケーション +.07* サービス・評判重視 +.08**
スイッチングコスト +.07*
"
専門品 標準化回帰係数
ネット情報重視 −.14**
時間節約重視 価格重視
クチコミ重視 −.14**
実感重視 +.16**
ネットショップ不信 +.26**
実店舗コミュニケーション +.08* サービス・評判重視
スイッチングコスト −.09**
向にあることがわかる。「スイッチング・コスト」は
「買回品」、「専門品」のネット購買への抵抗感を和 らげる方向に貢献しており、比較的高価な商品につ いて消費者はよく訪れる同じ店で買うことに安心感 を持っていると考えられる。
一方、ネット購買への抵抗感を強める因子は主に
「ネットショップ不信」、「サービス・評判重視」、「実 感重視」、「実店舗コミュニケーション」の4つであ る。「ネットショップ不信」はすべての商品類型で 有意となっている。商品類型によっては消費者の
「サービス・評判重視」や「実店舗コミュニケーショ ン重視」の姿勢がネット購買への抵抗感を強める要 因となっている。「ストア・ロイヤルティ重視」、「ブ ランド志向」のネット購買に対する抵抗感への影響 は限定的である。
4.3 商品類型別ネット購買特性
4.2節における商品類型別の重回帰分析の結果を 踏まえて、商品類型別にネット購買の特性を考察す る。図2では第1象限に「最
寄品」、第2象限に「専門品」、 第3象 限 に「買 回 品」、第4 象限に「サービス・コンテン ツ」を配置し、重回帰分析で 各因子の標準化回帰係数を示 している。
(1)サービス・コンテンツ
「サービス・コンテンツ」は 旅行やスポーツ観戦のチケッ トのような無形商品(サービ ス)と、媒体に記録された文 字や音楽、動画のような情報
(コンテンツ)である。「サー ビス・コンテンツ」は回答者 のネット購買への抵抗感が最 も少なく(7段階で平均2.5)、 4類型で最も消費者がネット で購買しやすい商品が多い分
野である。「サービス・コンテンツ」は今回の分析 で初めてネット購買特有の類型として抽出された。
図2の「サービス・コンテンツ」の類型を見ると、
「ネット情報重視」、「価格重視」、「時間節約重視」の 標準化回帰係数が負のため、これらの要因を重視す る回答者は「サービス・コンテンツ」類型のネット 購買への抵抗感が減少する(購買しやすい)傾向に あることがわかる。特にネット情報を重視する人に は非常に買いやすいが、この理由は、音楽や映画、
旅行などの「サービス・コンテンツ」は、購入の判 断に目で見たり触ったりするよりも情報が重要であ り、ネットである程度の情報が得られれば買いやす くなるためである。また、時間節約については、「サー ビス・コンテンツ」は一部を除いて比較的安価なも のが多く、買い物をなるべく短時間で済ませたいと いう消費者の意識が現れている。商品類型別ネット 購買の比較を表3に示す。
(2)最寄品
「最寄品」は比較的安価なものが多く、比較など
ネットで商品情報収集 実感、実店舗を重視 実店舗での購買が中心 ネット情報を最も重視
ネットでも実店舗でも購買 時間節約を最も重視
ネット情報を重視 短時間で効率的に購買 ネット購買
の特徴
スイッチング・コスト ネット購買
阻害要因
サービス・評判重視 サービス・評判重視
サービス・評判重視 サービス・評判重視
実店舗コミュニケーション重視 実店舗コミュニケーション重視
実店舗コミュニケーション重視
ネットショップ不信 ネットショップ不信
ネットショップ不信 ネットショップ不信
実感重視 実感重視
スイッチング・コスト スイッチング・コスト
ネット購買 促進要因
クチコミ重視 クチコミ重視
クチコミ重視
価格重視 価格重視
価格重視
時間節約重視 時間節約重視
時間節約重視
ネット情報重視 ネット情報重視
ネット情報重視 ネット情報重視
買いにくい やや買いにくい
買いやすい 最も買いやすい
ネットでの 買いやすさ
強い やや強い
弱い ネット購買 最も弱い
への抵抗感
高価 固有の特性 購買に努力を惜しまない 比較的高価
比較購買 比較的安価
頻繁に即時に購入 最小の努力 無形
情報、サービス 趣味的 特質
専門品 買回品
最寄品 サービス・コンテンツ
表3 商品類型別ネット購買の比較
のコストをあまりかけずに、頻繁に購入するもので ある。図2の「最寄品」を見ると、ネット情報、ク チコミ、時間節約、価格を重視する人にとって「最 寄品」は買いやすい。特に「時間節約重視」の標準 化回帰係数の絶対値が大きいので、消費者は比較的 安価で購買頻度の高い「最寄品」には商品情報取得 や商品比較にあまり時間をかけずにいつもの商品を 購買している様子がうかがえる。
(3)買回品
「買回品」は価格も高くなり、購入する商品を検 討する際に通常はいくつかの店を回っていくつかの 商品を比較するものである。「買回品」はパソコン やゲーム機、家電製品、携帯電話など、機能や特徴、
仕様や価格、商品マニュアル、販売店情報など、ネッ トで多様な情報が提供されている商品が多い。消費 者はネット情報を重視する(4類型で標準化回帰係 数の絶対値が最も大きい)が、時間節約や価格は
「サービス・コンテンツ」や「最寄品」ほどには重 視しない。消費者はネットショップに対してある程 度の不信感を持ち、商品を実際に見て触れる実感や 店員と話をする実店舗でのコミュニケーションを重 視して、実店舗での購入も検討する。「買回品」は その定義のように消費者が慎重に比較購買を行って いることがうかがわれる。
(4)専門品
「専門品」は固有の特性を持ち、ある特定の購買 者グループは購買のための努力を惜しまないとされ る。「専門品」は非常に高価なものが多いこともあ り、ネットだけで購入されるとは考えにくい。図2 の「専門品」を見ると、ネットで商品情報を調べ、
商品についてのクチコミを重視する傾向にある。し かし、「ネットショップ不信」を持ち、実感や実店 舗コミュニケーションを重視する回答者はネット購 買への抵抗感を増大させている。「専門品」では消
費者はクチコミを含めた商品情報をネットで収集し た上で、実店舗で実際に商品を見て、触れて、店員 と話すなどの上で購入を決める様子がうかがわれ る。「専門品」では「時間節約重視」や「価格重視」
は有意でないことも上記のような「専門品」の商品 特性を反映している。
5.まとめ
本研究の目的は、消費者のネットでの購買要因を 明らかにすること、および消費者がネットショップ で買いやすい商品(分野)、買いにくい商品(分野)
とその特性を明らかにすることであった。
本研究ではまずネットでの買い物について消費者 にアンケート調査を行い、825人から有効回答を得 た。そして、ネット購買に対する消費者意識をもと に11の購買要因を抽出した。次に、商品をネットで 購買する場合に消費者が持つ抵抗感に注目し、商品 のポジショニングを行い、類型化した。具体的には、
ネットで購買されている主な商品38種類について、
消費者のネット購買への抵抗感をもとに MDS(多 次元尺度構成法)を使って布置図を作成したところ、
図1のように商品を「サービス・コンテンツ」、「最 寄品」、「買回品」、「専門品」の4類型に分けること ができた。そして、4つの商品類型ごとのネット購 買への抵抗感を従属変数、11因子の因子得点を独立 変数として重回帰分析を行い、商品特性を考察した。
その結果、ネットショップでの商品購買への抵抗感 を緩和する要因として、「ネット情報重視」、「時間 節約重視」、「価格重視」、「クチコミ重視」があり、
抵抗感を強める要因として、「ネットショップ不信」、
「実店舗コミュニケーション重視」、「サービス・評 判重視」、「実感重視」があることを示した(図2)。 さらに、商品類型ごとに抵抗感に影響する要因につ いて考察した。
最後に今後の研究課題を挙げる。ネット購買にお ける影響要因について、消費者の商品への関与の度 合い、オピニオンリーダーなどのネット購買への影 響も調査、検証することがある。また、調査対象と
する商品、サービスの幅を広げたり、逆に特化させ たりすることで、より広範または詳細な調査、分析 を行うことも課題である。さらにこのネット購買に おける商品分類を利用して、ネットショップの戦略、
あるいは逆にネットショップに対抗しての実店舗の 戦略の構築も課題と考えられる。
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