1 まえがき
デイビット,A.アーカー著、阿久津聡監訳(2005)『ブランド・ポートフォリオ戦略』
(ダイヤモンド社)によると、ブランドポートフォリオ戦略とは、ポートフォリオの構造と そのブランドの範囲・役割・相互関係を明確にし、差別化され、活力のあるブランドを創 造することである(p. 14)。これを理解することの重要性として、ブランドに明確の役割を 与えるポートフォリオであれば競争優位を築くことや、将来の成長プラットフォームの創 造可能性について言及している。また、ブランド同士がつながりを持たない場合のブラン ドポートフォリオ戦略にマルチブランド戦略というものがある。マルチブランド戦略は 個々のブランドが独立しており、ブランド間のシナジーによる恩恵は受け難い一方で、製 品と矛盾するブランドの連想を回避したり、ニッチなセグメントを支配することができた りと、リスク分散に効果的というのが一般的な特徴である。
同書ではマルチブランド戦略の例としてロレアルが挙がっている。そこで、以前ロレア ルについて深く研究していたこともあり、ロレアルが実際にどうブランドをマネジメント しているのか疑問に思った。本稿では多種多様なブランドを擁するロレアルの具体的なブ ランドポートフォリオマネジメントとマルチブランド戦略を見ていきたい。同社の高業績 が、それぞれブランドの特徴が絶妙に異なり、うまくポジショニングできていることに起 因するという仮説のもと、様々な尺度で各ブランドを見ていきたい。
2
研究方法ロレアルが持つ様々な会社は、大きく分けてリュクス事業、コンシューマー プロダク
ロレアルのブランド戦略についての一考察
天田桃子、オング一星、皿谷のぞみ、細谷望
* 社会科学総合学術院 長谷川信次教授の指導の下に作成された。
ツ事業、プロフェッショナル事業、アクティブ事業の
4
つに分かれる。本稿ではロレアル が買収してきた会社を事業別に見て、ヘアケア、スキンケアなどといった製品種類別と、展開市場の地域別構成など、複数の尺度から分析したものをまとめる。そしてポートフォ リオ全体としてのバランスについても分析する。
3 リュクス事業
3 ─ 1 概要
リュクス事業は、独自のブランド展開により主にメイクアップ、スキンケア、フレグラ ンスの
3
種類に分けられる製品を展開している。販売チャネルは百貨店のみならず、化粧 品店やウェブサイトなど多岐にわたる。ロレアルのホームページに掲載された21
種類の ブランドをマトリクスにし、ポートフォリオを見ていく。3 ─ 2 製品×展開地域でみたマトリクス
リュクス事業の歴史を辿ってポートフォリオの変化を見ていきたい。製品展開別にカテ ゴライズしたブランドと販売地域から、リュクス事業のマルチブランド戦略を整理したの が図表
1
である。製品種類については、ロレアルのホームページ及び各ブランド公式サイ トを参考にし、販売地域についても同様である。図表
1
をみると、各ブランドは網羅的に販売地域に配置され、グローバルブランド、地 域ブランド、特定国(中国)専用ブランドの3
つからなるマルチブランド戦略をとってい ることがわかる。メイクアップ、スキンケア、フレグランスの全製品を展開する
Lancôme、Giorgio Armani、Yves Saint Laurent Beauté
の3
社はグローバルに展開しているものの、どのよう な違いがあるのかを、次に見ていこう。3 ─ 3 ブランド比較
Lancôme
がパッケージや広告に用いているバラのロゴマークは世界共通であり、創設者のこだわりによって当時から図案を変えて引き継がれている(VOGUE JAPANホームページ
『ランコム LANCÔME』より)。また図表
2
に示すように、高級志向の消費者をターゲットと している中でも比較的安価な商品展開をしている。一方で、デザイナーズブランドとしてラグジュアリーコスメに展開をしている
Giorgio
Armani
は他2
社(Lancôme、Yves St. Laurent)に比べ値段は高価格帯である。デザイナ ーズブランドということもあり、有名なメイクアップアーティストと提携した商品も存在 していて、常に流行の最先端をいく高級志向の消費者をターゲットとしている点では優位性を保てていると考えられる。
第
3
に、赤と黒を基調に力強い印象をもたらす商品展開をしているYves Saint Laurent
Beauté
の商品の価格帯は他2
社に比べ中間価格帯である。さらに、ターゲットを若い男女に設定しているため、新しい商品を展開する際には著名人に
SNS
上で宣伝をしてもら うセールスプロモーションも特徴的である(Influencerdbホームページ『Influencer marketingʼs finest; Yves Saint Laurent Beauté #getashock』より)。以上の
3
社を比較したところ、価格帯やブランドのイメージ、ターゲットにしている顧 客は重複しないように上手にポートフォリオを管理していると考えられる。またポートフォリオをバランスよく管理している点が、ロレアルにどう影響をもたらし ているのかを検証すべく、ロレアル リュクス事業の財務諸表と照らし合わせながら検討
図表 1 リュクス事業部における各ブランドの地域展開
買収年 日本 中国 アジア 北米 南米 アフリカ 欧州 全製品
Lancôme 1969
Giorgio Armani 1985 Yves Saint Laurent Beauté 2008 メイクアップ
Helena Rubinstein 1985
Shu Uemura 2002
Urban Decay 2012
IT Cosmetics 2016
スキンケア
Biotherm 1997
Kiehl's 2000
Yue Sai 2004
Clarisonic 2011
House 99 2018
フレグランス
Paloma Picasso 1984 カナダ
Ralph Lauren 1985
Guy Laroche 1989 タイ カナダ 仏、独
Victor&Rolf 2009 Maison Margiela 2009
Diesel 2011
Proenza Schouler 2015
Atelier Cologne 2016 香港 韓国
Cacharel 不明
※House 99、Cacharelは不明 出所: LʼOréal Groupホームページ『History』https://www.loreal.com/group/history(アクセス2018/11/
12)より筆者作成
した。しかし、買収を行ってブランド数を増やしたからといって業績は著しく拡大してい るとは言えない。一般消費者をターゲットとしたラグジュアリーコスメのビジネスにおい ては、バランスの良いポートフォリオの管理は業績の拡大にはつながっていないことが示 唆される。
4
コンシューマー プロダクツ事業4 ─ 1 概要
コンシューマー プロダクツ事業は、全世界にわたる一般消費者向けに化粧品を販売し ている事業であり、スーパーマーケットやドラッグストアなどマスチャネルで販売され る。製品の用途はスキンケア、メイクアップ、ヘアケア、ネイルなど多岐にわたる。今回 は、ロレアルのホームページに掲載されたブランドのポートフォリオ分析をする。
4 ─ 2 ブランドポートフォリオの変遷
まず、各ブランドの製品用途、展開市場などの特徴やブランド獲得の目的をみながら、
買収を通したブランドポートフォリオの変遷をみたい。コンシューマー プロダクツ事業 は、一般消費者を広くターゲットとするが、図表
3
のようにユニークなブランドを獲得し ており、時代とともに買収意図が変化している。買収意図の変化は
3
段階に分類できる。まず、1996
年以前は現在も花形ブランドとされる
Garnier、Maybelline
を獲得しており、化粧品の基幹事業(スキンケア、メイクアッ図表 2 リュクス事業部におけるメインブランドの特徴
Lancôme Giorgio Armani Yves Saint Laurent Beauté
買収年 1969 1985 2008
ターゲット 高級志向の消費者
20─30代女性 高級志向の消費者 若い男女
・ 最近はミレニアル世代に 商品展開をしている メイン商品 La vie est belle の香水
マスカラ Siの香水 Black Opiumの香水
口紅
特徴
・ 医学会と共同して基礎研 究を行っている
・ 世 界 各 国 に 研 究 所 が あ り、高価格でハイクオリ ティの製品を展開してい る
・ デザイナーズブランド
・ 世界的メイクアップアー ティストと提携
・ デザイナーズブランド
・ SNSを使った広告
フレグランス $26─200 $24─370 $29─250 メイクアップ $13─38 $30─200 $33─60
スキンケア $60─280 $55─420 $40─400 出所: LʼOréal Groupホームページ『Brands』https://www.loreal.com/brand (2018/11/17)より筆者作成
プ、ヘアケア)の拡大を企図した期間と言えるだろう。
その後の
1996
〜2010
年は、市場拡大を企図した期間と言えるだろう。Softsheen
とCarson
はアフリカ市場獲得を目的とする買収であった。また、現地企業のMiss Ylang、
Colorama
、Mininurse
を買収し、Maybelline
やGarnier
の認知度を補完することで、市場 拡大を図るケースもあった。最後に、
2010
年以降は市場拡大に加えて、フェイスマスクやネイルなど新事業の拡張 を企図した期間といえるだろう。また、MaybellineとNYX Professional
はアメリカ発の グローバルメイクアップブランドで特徴に被りがあるが、デジタルマーケティング戦略に強い
NYX Proffesional
を獲得することで、カラーコスメティクス市場活性化を狙った買収図表 3 コンシューマー プロダクツ事業部における各ブランドの特徴 LʼOréal paris Garnier CCB Paris Maybelline Softsheen
Miss Ylang→
Maybelline
と統合 Carson
買収年
/撤退年 1907 1967 1987
/2014 1996 1998 2000 2000 買収元 仏(自社) 仏 仏(自社) 米 米 アルゼンチン 米
製品用途
Skincare Hair care Makeup
Skincare Hair care
Makeup
(通信販売 のみ)
Makeup Skincare
Hair care Makeup Hair care 展開先 グローバル グローバル グローバル グローバル アフリカ アフリカ
展開国数 38 33 不明 38 1 1
ターゲット 全世界の男女 全世界の男女 女 女 アフリカの男
女 アフリカの男
女 獲得目的
/撤退理由
オーガニック ヘアケア部門 の強化
通信販売の構
造的弱体化 アメリカ市場 の補強
有色人市場の 補強
→ABBへ
南米市場の補 強
Softsheen と統合
→ABBへ Colorama→
Maybelline と統合
Mininurse→
Garnier
と統合 Essie NYX
Professional
Interbeauty
(ケニア)
→ABBへ Niely Magic
買収年
/撤退年 2001 2003
/2014 2010 2014 2013 2014 2014
買収元 伯 中 米 米 ケニア 伯 中
製品用途 Makeup Skincare Nail Makeup Hair care Hair care Face mask
展開先 グローバル グローバル 南米 中国
展開国数 18 28 1 1
ターゲット 女 女 南米の女 女
獲得目的
/撤退理由 南米市場の補 強
中国市場の補 強/他ブラン ドとの被りを 避ける
ネイル事業の
獲得 カラーコスメ
事業の補強 アフリカ市場
の補強 南米市場の補
強 マスク事業の 獲得
出所: LʼOréal Finance『Annual Reports Archives』https://www.loreal-finance.com/eng/annual-report-archives(ア
クセス2018/11/1)より筆者作成
であった。
一方で、市場拡大だけでなく、2014年には
2
つのブランドを撤退させた。一つはイン ターネット販売の普及による通信販売の撤退であり、もう一つはターゲットに被りがある ブランドを1
つ撤退させた。これらのように、コンシューマー プロダクツ事業は基幹事業を充実・活性化させる努 力を続けつつも、新市場と新事業を広げより広い顧客に対応できるブランドポートフォリ オになっていることがわかる。
4 ─ 3 ブランドポートフォリオの財務的効果
次に、上で見たブランドポートフォリオの変遷による財務的な効果を分析してみたい。
コンシューマー プロダクツ事業における
2001
年から2017
年の売上成長率は図表4
の通 り、乱高下している。2014年のように買収・撤退の翌年に大きく成長した年もあれば、2003
年のように成長率が下がった年もあり、買収・撤退と売上成長率の間に明確な関係 は見られなかった。一方、
2004
年から2017
年までの営業利益率の変化をみると、コンシューマー プロダ クツ事業はブランド買収による拡大を続けながらも営業利益率を17─ 20%に保ち続けてい
る。この結果は全てブランドポートフォリオ戦略に起因するとは言えないが、この戦略が なければ利益率の拡大と規模の拡大の両方を実現するのは難しいと考えられ、ブランドポ図表 4 売上成長率と営業利益率の変化
出所: LʼOréal Financeホームページ『Annual Reports Archives』https://www.loreal-finance.com/eng/annual- report-archives(アクセス2018/11/23)より筆者作成
Carson, Miss Ylang
買収 Colorama
買収
Essie 買収 Yuesai
移動 Yuesai
買収
Interbeauty ケニア 買収 Mininurse
買収
Magic, NYX, Niely
買収 売上成長率 営業利益率
25%
20%
15%
10%
5%
0%
‒5%
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017
ートフォリオ戦略が財務面に一定の寄与があると考えた。
5 プロフェッショナル プロダクツ事業
5 ─ 1 概要
プロフェッショナル プロダクツ事業とは、いわゆる一般消費者向けに販売している製 品ではなく、美容室などの美容専門家を相手に製品を販売する事業のことである。製品の 種類は主にヘアケア、ヘアカラー、スタイリング、スキンケアの
4
つに分かれる。ブラン ドはロレアルの公式サイトに掲載された11
種類のブランドを見ていく。5 ─ 2 製品×展開地域でみたマトリクス
まず、プロフェッショナル プロダクツ事業の歴史を辿って各ブランドのポートフォリ オバランスを見ていきたい。横軸を国や地域展開の規模、縦軸を製品の種類に定め、ロレ アルが持つブランドを俯瞰したい。横軸の国や地域については各国のロレアルホームペー ジから採用されているブランドを調査し、縦軸の製品種類についてはロレアルホームペー ジに記載された各ブランドの概要や、ブランドの公式ホームページを参照した。
図表
5
は各ブランドの展開場所と製品の種類をまとめたものである。ロレアルが自社で開発したブランド
LʼOréal Professionnel
はプロフェッショナル プロ 図表 5 各ブランドの展開場所と製品種類によるマトリクス出所: LʼOréal Groupホ ー ム ペ ー ジ『History』https://www.loreal.com/group/history/2001---present-day
(アクセス2018/10/28)を参考に筆者作成 スタイリング カラーリング ヘアケア
スキンケア
欧米 グローバル
Matrix(2000)
L’Oréal Professionnel Redken(1993)
L’Oréal Professionnel
Kérastase(1964)
L’Oréal Professionnel Biolage(1990)
Mizani(2001)
CARITA, Decléor(2003)
Shu Uemura(2007)
Pureology(2007)
Shu Uemura(2007)
※Seed Phytonutrientsは不明
ダクツの製品種類を網羅的にカバーするブランドとなっている。それ以外のブランドは製 品の特質が被ることなく配置されていることがわかった。一見
Biolage
とMizani、
CARITA
とDecléor
が製品の分類上、被りが生じているようにも見えるが、Biolageはナチュラルハイクオリティを前面に押し出したブランドであるのに対し、Mizaniは黒人女 性の髪の毛を対象にしたブランドであるため、ターゲットが大きく異なる。また、
CARITA
はアンチエイジング事業を主に手がけているのに対し、Decléorはアロマセラピー事業に主力を注いでいる。年代別に見ると、2003年以降
CARITA
とDecléor
のような スキンケア事業や、Seed Phytonutrientsのようなオーガニック事業など、従来の製品と は異なるジャンルの領域に広げていることがわかった。5 ─ 3 ブランドの特徴まとめ
次に、プロフェッショナル プロダクツ事業が擁するブランドの製品的特徴を見ていき たい。
5
─2
で検討したように、製品の種類や展開している地域が同じでも微妙にブランド の特質が異なることがわかった。5─3
ではそれをまとめたい。図表
6
は、各ブランドの特徴をまとめたものである。このように並べてみると、Kérastase、Redken、Matrixの
3
つを製品の代表格として押 さえながら、その下に中〜小規模の特定ターゲット向け製品ブランドを構えていると考え ることができる。このことからロレアルはヘアケア、カラーリング、スタイリングで安定図表 6 各ブランドの特徴 LʼOréal
Pro Kérastase Biolage Redken Matrix Mizani Pureology Shu
Uemura CARITA Decléor Seed Phytonutrients 買収年 自社開発 1964 1990 1993 2000 2001 2007 2007 2013 2013 自社開発
買収元 米国 米国 米国 米国 米国 米国 日本 仏 仏
製品種類 ヘ ア ケ ア、カラ ー リ ン グ、スタ イリング
ヘアケア ヘアケア カラーリ ング スタイリ
ング ヘアケア ヘ ア ケ ア、カラ ーリング
ヘ ア ケ ア、スタ イリング
スキンケ ア スキンケ
ア
ヘ ア ケ ア、スキ ン ケ ア、
ボディケ ア
展開先 グローバ ル グローバ
ル 欧米 グローバ ル グローバ
ル 欧米 グローバ ル(発展 途上)
グローバ ル(発展
途上) 欧米 欧米 不明 展開国数 37 39 4 23 27 4 11 14 9 11 不明
製品特徴 ロレアル を代表す る総合ブ ランド
タイプ別 ケア オーガニ
ック
化 学 強 め、デザ イン性
買収前か ら規模の 大きなブ ランド
黒人女性 の髪の毛 対象
S u l f a t e
Free アジア発 アンチエ
イジング アロマセ ラピー
オーガニ ック、サ ステイナ ビリティ 備考
出所: LʼOréal Groupホームページ『Brands』https://www.loreal.com/brand(アクセス 2018/07/01)より筆者作成
的な大きいブランドを持ちつつ、オーガニックやアジア発のブランド、スキンケアという 新しい事業領域に挑戦していると推測できる。さらに長期的な観点でみると、自社で開発 した
Seed Phytonutrients
によってオーガニック領域を広げ、CARITAとDecléor
によっ てスキンケア事業をさらに拡大していくものと推測できよう。また、このポートフォリオのバランスの良さが実際ロレアルに対して良い影響与えてい るのかを検証してみた。しかし、プロフェッショナル プロダクツ事業に関してはブラン ドの買収と売上の成長の間に必ずしも直接的な相関関係が認められないことがわかった。
長期的傾向として売上の成長はしているものの、ブランド買収直後の売上は前年より減少 しているケースも少なくなく、ブランド買収によって売上の伸び率が上昇したわけでもな い。よって、プロフェッショナル プロダクツ事業に限定して言えば、各ブランドの特徴 が被ることなく配置されているものの、それが必ずしも財務的効果を生まないと結論づけ られる。
6 アクティブ コスメティクス事業
6 ─ 1 概要
アクティブ コスメティクス事業は顧客の健康美肌の獲得をサポートするために設立さ れた部門である。敏感肌や脂性肌など顧客の様々なニーズに対し薬用コスメティクスを提 供しており、流通チャネルはドラッグストア、薬局やスパ施設まで多岐にわたる。さら に、世界中の皮膚科医や小児科医と共同研究した成果を化粧品へと応用することで効果的 な商品を製造することを可能としていることが特徴の事業部門である。
6 ─ 2 アクティブ コスメティクス事業のブランドポートフォリオ
Vichy、La Roche-Posay、SkinCeuticals
の3
社はいずれも皮膚科医などの医療従事者と 共同研究を行うことで質の高い薬用化粧品を目玉としている(図表7)。製品用途、製品
チャネル共に共通点が多く、製品用途からそのターゲットにも重複がある。しかし展開国数で
Vichy
がその他2
ブランドを圧倒しており、展開力とターゲットとする層に大きな違いがあることがわかる。比較すると
Vichy
は東南アジアを中心に9
カ国、東ヨーロッパに は5
カ国に進出しており、これは他(La Roche-Posay
、SkinCeuticals
)と比較して2
倍以 上の国に進出していることになる。Sanofloreはフランス以外ではイギリスとベトナムの2
カ国のみの展開になっているものの、オーガニック化粧品分野で他社にはない優位性を 築いているため、今後ロレアルとの共同研究などの期待が高まるブランドである。CeraVe
はアメリカにおけるドラッグストアチャネルに優位性をもつブランドである。低価格で幅広い顧客層から根強い人気を持つことから、ロレアルは同ブランドの買収によっ
て今後アメリカにおける流通チャネルを拡大し、より強固なものにすることができると考 える。このようにアクティブ コスメティクス事業部のブランドは直接マス市場へと働き かけるものではなく、より強いニーズを持った特定層へのアプローチ、または長期的な視 点に立ってロレアルの世界的なプレゼンスをあげるために一躍を担うであろうブランドに よって構成されていることがわかる。
7 むすび
以上、ロレアルの各事業部別のブランドポートフォリオを分析してきた。リュクス事業 部では高級ブランドを抱える一方で、それらブランド内でさらに価格別、ブランドイメー ジ別にターゲットを区分できていることが分かった。コンシューマー プロダクツ事業部 は一般消費者を幅広くターゲットとしているが、同事業部で特徴的なのは変化する市場に 対応するためのブランドの取捨選択を行うという特徴的な戦略をとっている。
2014
年以 降はデジタルマーケティングを得意とするブランドの買収を成功させるなど、市場の拡張 のための買収と同時に市場の変化に合わせたブランド整理を行うことで、効率的に被りの ないブランドポートフォリオを実現している。プロフェッショナル事業部は美容師などの 美容専門家を主たるターゲットとしている。そのため、プロフェッショナル事業部の特徴 は専門家の異なるニーズに応えるためブランド別に細かい特徴があり、ブランドの棲み分 けができていると考えられる。アクティブ コスメティクス事業部にはオーガニック・医療系のブランドが多く存在 図表 7 事業部内各ブランドの比較
Vichy La Roche-Posay SkinCeuticals Roger&Gallet Sanoflore CeraVe
買収年 1989 2005 2008 2006 2017
買収元 仏 米 米 仏 仏 米
製品用途
Skincare
(薬用・アンチエ イジング)
Skincare
(薬用・アンチエ イジング)
Skincare
(薬用・アンチエ イジング)
Fragrance Skincare Skincare
展開先 グローバル グローバル グローバル グローバル グローバル グローバル
展開国数 60 32 20 10 2 11
獲得目的 Vichy湧水や
Vichy研究所の 知見獲得
皮膚科治療用化 粧品に関するノ ウハウの獲得
アメリカにおけ る高級化粧品の
販路拡大
高級フレグラン スブランドの獲
得
オーガニック化 粧品のパイオニ ア企業のノウハ
ウ獲得
ドラッグストア チャネルの拡大
流通チャネル 高級スパ
皮膚科医 皮膚科医 形成外科
皮膚科 形成外科
スパ
店舗
ドラッグストア ドラッグストア ドラッグストア 出所:筆者作成
し、他の事業部よりターゲット層が明確である。また長期的な視野に立ってロレアル研究 を進めていくブランドや戦略的な足がかりとなるブランドを抱えている。このように各事 業部においてそれぞれのブランドがお互いに差別化を図りながら事業展開することで全体 として被りの無い効率的なポートフォリオを構築していると言えるだろう。
8 今後の課題
本稿では、ロレアルのポートフォリオマネジメントとマルチブランド戦略を明らかにし た。今後は他の軸を用いてマトリクスを作成することで、より詳細なブランド分析を行い たい。また、本研究での反省点として、ポートフォリオの効果に関する適切な測定尺度を 明確に導入することができなかった。今後ブランドポートフォリオのバランスのあり様が 企業の財務にどのような影響を及ぼすのかを分析したい。
参考・引用文献
[1]ケラスターゼ公式サイト『ケラスターゼについて』https://www.kerastase.jp/brand/(アクセス 2018/11/01)
[2]デイビット,A.アーカー著、阿久津聡監訳(2005)『ブランド・ポートフォリオ戦略』ダイヤモ ンド社
[3]マイケル,E.ポーター著、竹内弘高翻訳(1999)『競争戦略論Ⅰ』ダイヤモンド社
[4]吉原英樹・白木三秀・新宅純二郎・浅川和宏(2013)『ケースに学ぶ国際経営』有斐閣ブックス
[5]Angelo, D.(2016)Merger and Acquisition Strategies: How to Create Value. Chapter 11. Edward Elgar Publishing Ltd.
[6]CARITAホームページ『HOME』https://www.carita.com/page/la-maison(アクセス2018/11/01)
[7]Decléorホームページ『FACE』https://www.decleor.com/en/(アクセス2018/11/01)
[8]Giorgio Armaniホームページ『HOME』https://www.giorgioarmanibeauty-usa.com/(アクセス 2018/11/14)
[9]Influencerdbホームページ『Influencer marketingʼs finest; Yves Saint Laurent Beauté #getashock』
https://blog.influencerdb.com/influencer-marketing-campaign-ysl/(アクセス2018/11/22)
[10]LʼOréal Groupホ ー ム ペ ー ジ『History』https://www.loreal.com/group/history( ア ク セ ス 2018/9/1)
[11]LʼOréal Groupホームページ『Press Releases』https://www.loreal.com/media/press-releases(ア クセス2018/10/3)
[12]LʼOréal FINANCEホームページ『Annual Reports Archives』https://www.loreal-finance.com/eng/
annual-report-archives(アクセス2018/11/23)
[13]LʼOréal FINANCEホームページ『LʼOreal Investors and Shareholders https://www.loreal-finance.
com/eng/(アクセス2018/11/5)
[14]LʼOréal Groupホームページ『Brands』https://www.loreal.com/brand(アクセス2018/07/01)
[15]LʼOréal Groupホームページ『History』https://www.loreal.com/group/history/2001---present-day
(アクセス2018/10/28)
[16]Lancômeホームページ『HOME』https://www.lancome-usa.com/(アクセス2018/11/2)
[17]Martin Rollホームページ『Giorgio Armani – The Iconic Global Fashion Brand』https://martinroll.
com/resources/articles/branding/giorgio-armani-the-iconic-fashion-brand/(アクセス2018/12/03)
[18]Matrixホームページ『Biolage』https://www.matrix.com/biolage(アクセス2018/11/01)
[19]MBAskoolホームページ『Lancôme Marketing Mix (4Ps) Strategy』https://www.mbaskool.com/
marketing-mix/products/16882-lancome.html(アクセス2018/11/22)
[20]MIZANIホームページ『About Us』https://www.kerastase.jp/brand/(アクセス2018/11/01)
[21]Monthly Digest LʼOréal『LʼOréal Luxeʼs approach to building and expanding its fragrance expertise』
http://www.monthly-digest-loreal.com/en/article/comment-loreal-luxe-a-su-deployer-une-expertise- parfum-dexcellence/?pdf=768(アクセス2018/11/17)
[22]Monthly Digest LʼOréal『LʼOréalʼs vision of modern luxury』http://www.monthly-digest-loreal.
com/en/article/la-vision-du-nouveau-luxe-chez-loreal/(アクセス2018/11/17)
[23]Pureologyホームページ『ABOUT』https://www.pureology.com/about/discover.html(アクセス 2018/11/01)
[24]REDKENホームページ『PRODUCTS』https://www.redken.com/products(アクセス2018/11/
01)
[25]Seed Phyonutrientsホームページ『Our Products』https://www.seedphytonutrients.com/products
(アクセス2018/11/01)
[26]VOGUE JAPANホームページ『ランコム LANCÔME』https://www.vogue.co.jp/tag/beauty- brand/lancome (アクセス2018/11/22)
[27]Yves Saint Laurent Beautéホームページ『HOME』https://www.yslbeautyus.com/(アクセス 2018/10/28)
[28]Yeming, G.(2013)Global Operations Strategy:Fundamentals and Practice. Springer