次の文章を読んで、後の問い （問 1〜 6）に答えよ。 1 世 代 間 倫 理 の 観 点 と 地 球 生 態 系 の 有 限 性 と い う 観 点 を 掛 け 合 わ せ れ ば、 有 限 な （ア） マ イゾ ウ資 源 に 依 存 す る よ う な 生 存 条 件、 例 え ば エ ネ ル ギ ー 戦 略 は、 未 来 世 代 の 生 存 可 能 性 を 破 壊 す る と い う 結 論 に な る。 倫 理 的 に （イ） キ ョ ヨ ウ 可 能 な 形 態 は、 太 陽 エ ネ ル ギ ー を 用 い た 資 源 の 循 環 的 な 使 用 と い う こ と に な る。 も し も 世 界 の 人 口 が 定 常 化 す る と い う 未 来 像 が 正 し い と す る な ら、 定 常 化 時 代 の 文 化 は 資 源 の 循 環 的 使 用 と い う 構 造 的 な 特 色 を も た ざ る を え な い だ ろ う。 進 歩 か ら 循 環 へ と 歴 史 の 構 造 が 変 わ るはずである。 2 し か し 人 々 は な か な か こ の 歴 史 像 を 認 め た が ら な い。 も っ と も っ と 進 歩 と 成 長 の 時 代 が 続 く と 予 言 し て く れ な け れ ば 困 る と い う。 成 長 に ブ レ ー キ を か け な い 範 囲 で 環 境 対 策 を や れ な ど と 言 う。 現 代 の 人 間 は 生 態 系 の 有 限 性 と い う 観 念 に 耐 え ら れ ない。 3 宇 宙 船 地 球 号 と い う 言 葉 が あ る。 地 球 は 有 限 で 完 結 し た も の だ と い う こ と を は っ き り 示 し て い る。 し か し、 こ の 言 葉 の 意 味 を イ メ ー ジ す る こ と は た や す い が、 Ａ 私 た ち の 観 念 の 内 部 に 巣 く っ て い る「 無 限 空 間 」 と い う 概 念 を 追 放 す る こ と は 決 し て 楽な仕事ではない。 4 宇宙船地球号という概念を内側から骨抜きにするような観念的な仕組みがたくさんあって、 入り組んでいる。自由も進歩も、 無 限 空 間 と い う 観 念 と 手 を 結 ん で わ れ わ れ の 文 化 の な か に 定 着 し て い っ た の で あ る。 そ れ は「 事 実 上 は 有 限 だ け ど 当 面 は 無 限 と み な し て 差 し 支 え な い 」 と い う 空 間 の 概 念 で あ る。 ど う し て、 そ う い う 奇 妙 な 概 念 に 近 代 文 化 が 依 存 す る こ と に な っ た のだろうか。 5 近 代 の Ｂ 個 人 主 義・ 自 由 主 義 を 基 礎 づ け た 思 想 家 は、 宇 宙 が 無 限 だ と い う 世 界 像 を も っ て い た。 お 椀 を 伏 せ た よ う な ア リ ス ト テ レ ス・ プ ト レ マ イ オ ス 型 の 世 界 像 か ら コ ペ ル ニ ク ス・ ニ ュ ー ト ン 型 の 無 限 の 空 間 と い う 世 界 像 へ （ウ） テ ン カ ン す る こ と の で き た 人 が、 お お む ね 近 代 思 想 の 担 い 手 と な っ た。 そ の 観 念 に は と て も 受 け 入 れ ら れ な い よ う な 欠 点 が あ っ た。 ま ず、 宇 宙
第五講
センター論説
オリジナル予想問題で全体演習
が 無 限 で あ る と す る と、 宇 宙 に は 中 心 が 存 在 し な い と い う こ と に な る。 「 そ ん な 馬 鹿 な こ と が あ る も の か。 そ れ で は 神 様 は ど こにいることになるんだ」という素朴な反発が根強かった。 6 そ れ だ け で は な い。 運 動 す る 物 体 が す べ て 下 に 落 ち る こ と か ら わ か る よ う に、 「 地 球 上 」（ と い う 観 念 は 当 時 は 存 在 し な い の で「月下」 ）の運動には必ず終わりがある。宇宙は有限で、運動する物体はしかるべきところで運動を止める。無限に運動が続 くというのならいざ知らず、無限の空間などという観念には何の意味もない。 7 と こ ろ が 近 代 人 は、 「 運 動 す る 物 体 は、 他 か ら 力 が 加 え ら れ な い 限 り、 そ の 運 動 を 持 続 す る。 地 上 の 物 体 と 天 体 と は 同 じ 運 動法則に従う」と考えるようになった。閉じた世界から開かれた宇宙へと宇宙観が転換した。ホッブスはニュートンよりも早 く慣性の法則と無限空間とを自分の世界像に組み込んでいるが、そこでは運動量が不滅であるように、人間の欲望も不滅で無 限なのである。運動が無限であるように欲望も無限である。運動の空間は無限であるが、しかし欲望の空間は無限ではない。 8 無限空間という想定は個人と個人との責任の概念にも影響をもっている。個人と個人との関係には、まず物を交換すること がある。他人の物を盗んだり、破壊したりしてはいけないとか、他人の身体を傷つけてはいけないとかいう関係もある。これ は物体と物体の関係によく似ている。それぞれが独立に規定される剛体と剛体の機械的な関係によく似た、個体と個体との目 に見える関係だと解釈されていた。だから責任と因果は同じ機械論のモデルで解釈された。因果関係が機械論的に理解されて いたのと同じように、責任関係も機械論的に考えることができる範囲で考えられた。 9 個人は自分の行為が影響する一定の範囲で責任を取ればいいので、後は原始林のように自由な領域である。個人の行為は一 つの個体・アトムである。アトムは無限の空間のなかに浮かんでいる。ところが環境倫理のモデルでは、個体の行為と環境は 図柄と地柄の関係になる。私が一枚の紙の一部を塗ったとすれば、残りの部分は私の塗った分から独立に存在するのではなく て、 私 の 塗 っ た 分 の 形 を 切 り 抜 い た 残 り の 形 で あ る。 Ｃ こ う い う 関 係 を ゲ シ ュ タ ル ト（ 図 柄 ）関 係 と い う。 そ こ で は、 単 独 の 行 為は同時に世界の一部の形だから、単独の行為は必ず世界の全体を変える。私が一本の草を摘めば、他人はもう同じ草を摘む ことができなくなる。他者と関わりをもたない行為はない。 自由主義は無限の空間が存在しないと成り立たない。だから地球環境問題によって、近代から始まる産業と商業を中心とす る 文 化 全 体 を 見 直 す 必 要 が 出 て き た の で あ る。 「 無 限 の 空 間 の な か で 自 由 に 資 源 を 消 費 し、 自 由 に （エ） ハ イキ す る 」 と い う 意 味
での自由は制限されざるをえない。 平等という観念もまた、無限空間の想定を必要とした。すべての人に無限に増大する欲望の充足の機会を与えることは、無 限の空間という想定がなければ不可能だった。 たとえ個人には平等を保証できなくても、国家と国家の間には完全なアトミズムを保証するというのが十九世紀の建前だっ た。国家の独立なしに個人の自由は保証されない。国家は個人に先行するという国家全体主義が主張された。国家が領土を拡 張しなければ個人に欲望の拡張はできない。 個人の自由と国家の拡張とは連動していた。 Ｄ 環境倫理から生まれる全体主義は、 こうした十九世紀から二〇世紀にかけての「国家全体主義」とは性格が違う 。国家ではなくて地球こそが、すべての価値判断 に 優 先 し て 尊 重 さ れ な け れ ば な ら な い。 「 絶 対 的 な も の 」 な の で あ る。 国 家 エ ゴ は こ れ に よ っ て か え っ て （オ） ヨ ク セ イ さ れ る こ とになる。 （ 加 か 藤 と う 尚 ひ さ 武 た け 『環境倫理学のすすめ』による。ただし、本文の一部を省略したところがある。 ） 問 1 傍線部 （ア） 〜 （オ） の漢字と同じ漢字を含むものを、次の各群の
①
〜⑤
のうちからそれぞれ一つずつ選べ。 （ア） マイ ゾウ①
病院でナイ ゾウ の検査②
電圧を ゾウ フクする③
宅地を ゾウ セイする④
書斎の ゾウ ショを整理⑤
ゾウ トウ用の高額商品 （イ） キョ ヨウ①
ヒツ ヨウ な道具を準備②
手先をキ ヨウ に動かす③
ヨウ セキを計算する④
金属を ヨウ セツする⑤
真珠を ヨウ ショクする （ウ） テン カン①
カン キ扇を回す②
聴衆の注意を カン キする③
会場が カン キにわく④
利益を消費者に カン ゲンする⑤
外国の内政に カン ショウする（エ） ハイ キ
①
古い制度を ハイ シする②
暴力を ハイ ジョする③
試合のショウ ハイ を決する④
ハイ シン行為を断罪する⑤
偉人を ハイ シュツした学校 （オ） ヨク セイ①
ヨク トクずくで動く②
議場のリョウ ヨク を見渡す③
ヨク シツを掃除する④
ヨク アサの予定を確認⑤
声の ヨク ヨウに注意する 問 2 傍線部Ａ「私たちの観念の内部に巣くっている『無限空間』という概念を追放すること」とあるが、 「『無限空間』という 概念を追放する」とはどういうことか。その説明として最も適当なものを次 の①
〜⑤
の うちから選べ。①
世 代 間 倫 理 と 地 球 生 態 系 の 有 限 性 と い う 立 場 に 立 ち、 進 歩 か ら 循 環 へ と 歴 史 の 構 造 が 変 貌 す る こ と を 受 け 入 れ な い と い うこと。②
世 代 間 倫 理 と 地 球 生 態 系 の 有 限 性 と い う 立 場 に 立 ち、 有 限 の 資 源 へ の 依 存 か ら、 資 源 の 循 環 的 使 用 へ と エ ネ ル ギ ー 戦 略 を変更すること。③
世 代 間 倫 理 と 宇 宙 船 地 球 号 と い う 概 念 に よ り、 こ の 世 界 を 事 実 上 は 有 限 だ が 当 面 は 無 限 と み な し て 差 し 支 え な い 空 間 と 考えること。④
世 代 間 倫 理 と 地 球 生 態 系 の 有 限 性 と い う 観 点 か ら、 循 環 的 な 資 源 の 利 用 へ と 文 化 の 構 造 を 変 え、 未 来 の 人 口 の 定 常 化 を 見直すこと。⑤
世 代 間 倫 理 と 宇 宙 船 地 球 号 と い う 概 念 に よ り、 自 由 や 平 等 や 進 歩 と い っ た 考 え 方 を 私 た ち の 文 化 の 中 に あ ら た め て 定 着 させること。問 3 傍線部Ｂ「個人主義」とあるが、ここでいう個人主義とはどのような考え方であるか。その説明として最も適当なものを 次の
①
〜⑤
のうちから一つ選べ。①
個 人 の 行 為 を、 無 限 に 広 が る 空 間 を 想 定 し た 上 で、 他 者 と 切 り 離 さ れ た ア ト ム と み な し、 個 人 の 行 為 の 責 任 も 一 定 の 範 囲で考える思想。②
個 人 の 行 為 を、 世 界 や 全 体 と の つ な が り に お い て 考 え る ゲ シ ュ タ ル ト 的 モ デ ル の な か で、 あ ら た め て 問 い 直 そ う と す る 発想。③
個 人 と 個 人 の 関 係 を、 剛 体 と 剛 体 の 関 係 と 類 似 し た も の と 考 え る 機 械 論 的 な モ デ ル に よ り、 無 限 空 間 の 想 定 を 乗 り 越 え るという思考。④
個 人 を 立 脚 点 と し、 社 会 や 国 家 な ど の 集 団 も 個 人 の 集 合 体 と 考 え、 集 団 の 利 益 に 優 先 さ せ て 個 人 の 意 義 を 重 要 視 す る 考 え方。⑤
個 人 の 行 為 や 責 任 を、 非 常 に 限 定 さ れ た 範 囲 で 考 え る と と も に、 個 人 を 国 家 か ら 切 り 離 し、 国 家 全 体 主 義 か ら 個 人 を 擁 護するという思想。 問 4 傍 線 部 Ｃ「 こ う い う 関 係 を ゲ シ ュ タ ル ト（ 図 柄 ）関 係 と い う 」 に つ い て、 「 ゲ シ ュ タ ル ト 関 係 」 と は ど の よ う な 関 係 か。 そ の説明として 適当でないもの を次の①
〜⑤
のうちから一つ選べ。①
個人の行為の責任とまわりの環境を、図柄と地柄の関係とみなすような環境倫理がモデルとする関係。②
単独の行為に見えてもそれは同時に世界の一部をなすから、単独の行為も世界の全体に影響するような関係。③
外 国 の 発 電 所 の ガ ス で 自 国 の 森 林 が 荒 廃 さ せ ら れ た り、 個 人 の 少 量 の 大 気 汚 染 が 特 定 の 土 地 を 水 没 さ せ て し ま う よ う な 関係。④
物体と物体、あるいは剛体と剛体との機械論的な関係によく似た個人と個人との目に見える関係。⑤
無限空間という近代から始まる想定ではなく、ある個人の行為も他者との関わりにおいてとらえるような関係。問 5 傍線部Ｄ「環境倫理から生まれる全体主義は、こうした十九世紀から二〇世紀にかけての『国家全体主義』とは性格が違 う 」 に つ い て、 「 環 境 倫 理 か ら 生 ま れ る 全 体 主 義 」 と は ど の よ う な 考 え 方 か。 そ の 説 明 と し て 最 も 適 当 な も の を 次 の
①
〜⑤
のうちから一つ選べ。①
地 球 環 境 問 題 の 視 点 か ら、 地 球 を 国 家 よ り 優 先 し て 尊 重 す る こ と で 近 代 的 個 人 主 義 と 自 由 主 義 を 乗 り 越 え、 世 界 的 な 平 等の実現が可能だという考え方。②
地 球 環 境 問 題 の 視 点 か ら、 個 人 の 自 由 や 平 等 の 拡 張 で は な く、 国 家 の 拡 張 に よ り、 地 球 規 模 の 全 体 の 問 題 も 解 決 で き る とする考え方。③
地球環境問題の視点から、 地球という無限空間は、 個人に優越する国家よりもさらに優越するものであるとする考え方。④
地 球 環 境 問 題 の 視 点 か ら、 近 代 の 産 業・ 商 業 中 心 の 文 化 を 見 直 さ な け れ ば な ら ず、 ア ト ミ ズ ム に も と づ く 国 家 優 先 の 思 想も見直されるべきだという考え方。⑤
地 球 環 境 問 題 の 視 点 か ら、 国 家 エ ゴ を 押 し と ど め る こ と に よ っ て の み 地 球 を す べ て の 価 値 判 断 に 優 先 し て 尊 重 す る こ と ができるという考え方。問 6 この文章の表現と構成・論旨の展開について、次のⅰ・ⅱの問いに答えよ。 ⅰ この文章の表現に関する説明として 適当でないもの を、次の
①
〜④
のうちから一つ選べ。①
第 １ 段 落 の 第 ３ 文 の「 も し も 〜 未 来 像 が 正 し い と す る な ら 」 と い う 表 現 は、 実 際 に は あ り え な い 仮 定 を 表 現 し、 こ の 立 場の論拠の危うさを示している。②
第 ２ 段 落 の 第 ２ 文 の「 予 言 」 と い う 表 現 は、 そ れ に 依 拠 す る 人 た ち の 考 え 方 が 十 分 に 学 問 的 な も の と 言 え な い こ と を 示 している。③
第 ５ 段 落 の 第 ５ 文 の「 そ ん な 馬 鹿 な こ と が あ る も の か 」 と い う 表 現 は、 し ゃ べ り 口 調 に す る こ と で 古 代 ら し い 発 想 の 素 朴さを示している。④
第 ９ 段 落 の「 一 定 の 範 囲 で 責 任 を 取 れ ば い い の で 」 と い う 表 現 は、 筆 者 が 是 認 し て「 い い 」 と し て い る の で は な く、 む しろ批判されるべき立場の見解を示している。 ⅱ この文章の構成・論旨の展開について最も適当なものを、次の①
〜④
のうちから一つ選べ。①
今 日 の 環 境 倫 理 の 観 点 か ら 見 る と、 世 界 が 無 限 だ と す る 宇 宙 観 で は 宇 宙 に 中 心 が 存 在 し な い こ と に な り、 神 の 存 在 証 明 もあやういという欠点が出てくることになる。②
ア リ ス ト テ レ ス や ホ ッ ブ ス、 ニ ュ ー ト ン は、 閉 じ た 宇 宙 観 か ら 慣 性 の 法 則 と 無 限 空 間 と い う 開 か れ た 宇 宙 観 へ と、 人 々 の空間意識の変化を導いた。③
国 家 全 体 主 義 を 乗 り 越 え、 ま た 世 代 間 倫 理 と 地 球 生 態 系 の 有 限 性 の 観 点 か ら、 あ ら ゆ る 資 源 を 循 環 的 に 使 用 し、 従 来 の 進歩の思想を変える必要がある。④
行 為 の 責 任 関 係 を 機 械 論 的 に と ら え る 個 人 主 義 や 自 由 主 義、 さ ら に は 平 等 主 義 や 国 家 全 体 主 義 は、 無 限 空 間 の 発 想 を 前 提にしている点で同根である。問 1 ア
