1.はじめに
御紹介にあずかりました、南山大学の平岩でご ざいます。よろしくお願いいたします。 御案内のとおり、本年の9月15日を最後に、北 朝鮮につきましては今のところ静かな状況が続い ております。それまでは、毎週末、毎週のように ミサイルを発射したり、核実験をやってみたり、 あるいはいわゆる舌戦というもので、非常にアメ リカを挑発したり、逆にトランプ大統領がそれに 対して過激なことを言って、ますますヒートアッ プする、そういう状況がずっと続いておりました が、40日以上にわたって何もない状況にあります。 では北朝鮮が姿勢を変えたのかということにな るのですが、残念ながらそうではないです。 中央委員会総会(10月7日開催)において、金 正恩委員長は「自分たちがやってきたことは間違 いではなかった」「経済制裁その他についても自分 たちで十分準備ができていて耐えられるのだ」「核 兵器は民族の生存権を担保する威力ある抑止力で ある」と、こういうようなことを言っています。 この時の人事では、金正恩の妹の金与正の政治 局員候補への選出、崔竜海の党中央軍事委員への 選出、李容浩外相の政治局員への昇格が注目され たところです。 そういうようなことで、北朝鮮は沈黙にもかか わらず、少なくとも今の時点では、北朝鮮がこれ までの姿勢を変えて、核ミサイルを放棄する方向 に動くことはなさそうであると。ではそもそもこ の核ミサイルの今の状況というのは、どういうふ うに考えたらいいのかというところをもう一回お さらいをしたいと思います。2.北朝鮮の核ミサイル問題の現状
(1)2016年に核実験2回、ミサイル
発射23回
そもそも今回の一連の核ミサイルは、昨年(2016 年)の1月に通算4回目となる核実験が一つのき っかけと言いますか、それ以後非常に激しい状況 で続いてくるわけです。 その前年、2015年のときは恐らく北朝鮮から すると、アメリカとの水面下での交渉等があった わけで、なおかつ韓国との間にも交渉があったわ けですが、そのアメリカとの交渉がうまくいかな い。それから南北の軍事当局者会談も12月に決 裂をした。北朝鮮からすればオバマ政権との交渉 はもう難しいと。だとすれば次の政権がスタート するまでに、できる限りのことをやって、その能 力を上げて、次の政権と交渉したいと、恐らくそ ういう思いだったのだろうと思います。北朝鮮の核ミサイル問題と国際社会
講 師
演 題
平岩 俊司
氏
南山大学 総合政策学部 教授職員トップセミナー
平成29年10月27日(金)開催
連
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セミナー月に行い、飛躍的にミサイルと核の技術を向上さ せ始めていきました。
(2)トランプ政権発足とシリア攻撃
ところが、アメリカでトランプ候補が当選する と同時に、そういった行為というのが中断いたし ます。ミサイルも発射しない、核もやらないとい う時期がずっと続いていたのですけれども、今年 の2月ですか、マティス国防長官が韓国・日本を 訪問して、従来の北朝鮮政策をそのまま、いわゆ る日米韓を中心として圧力を加えていくというこ とが明らかになりましたので、それをきっかけに 今度はまた北朝鮮がミサイル発射を繰り返すとい うことになったわけです。 そもそもトランプ大統領という人は、この北朝 鮮問題にそれほど関心があったわけではないのだ ろうと思います。ところが、昨年末のオバマ大統 領からトランプ大統領への引き継ぎの際に、オバ マ大統領が、アメリカにとっての喫緊の課題が北 朝鮮問題であるということを言って、一気に関心 が高まったと言われております。3月からは、米 韓軍事合同演習があり、北朝鮮がそれに対抗し て、いろいろな形で威嚇を行うということで、朝 鮮半島がまさに危機的な状況が演出されると。 とりわけ、御記憶にあるかと思いますが、習近 平国家主席がアメリカを訪問して、米中首脳会談 をやっているまさにそのときに、アメリカはシリ アに攻撃を加えました。 オバマ大統領ができなかったシリアへの攻撃を トランプ大統領がやったと。だとすると、これは ひょっとするとアメリカは場合によっては軍事力 を使うかもしれないと、恐らくかなり北朝鮮も緊 張したのだろうと思います。 北朝鮮が行う実験というのはいわゆる固形燃料 であったり、あるいは潜水艦から発射するような ものであったり、あるいはそれまで隠しておいて 直前になって出してくる、要するに反撃力がある ということを見せつける。要するに、自分たちに の兵器で反撃できるのだということを見せつける ような実験だったと私は思っております。(3)ICBM(大陸間弾道ミサイル)発射実験
と水爆実験
それが大きく変わったのが、7月4日のアメリ カの独立記念日に合わせたように1回目のICBM 発射実験を行ったことです。これはこれまでトラ ンプ政権にとってのいわゆるレッドライン、ここ を超えたらアメリカは軍事力を行使するかもしれ ないと言われていたものでした。 北朝鮮は、このICBMを発射し、しかも2回や り、なおかつ9月には通算6回目となる水爆実験 を行った。ここのあたりまでは、恐らく北朝鮮は トランプ政権というのは軍事力を行使できないだ ろうと足元を見ていたのだろうと思います。それ はなぜかと言いますと、トランプ大統領は激しい ことを言うにもかかわらず、マクマスター補佐官 やマティス国防長官が繰り返し「軍事力行使なん てとんでもない」とか「軍事力を使って北朝鮮に 反撃を受けたら何百万人もの犠牲者が出る」と、 だからとてもそんなことできないみたいなことを 言うわけですね。ですからアメリカから出てくる メッセージというのが、ちぐはぐな印象があった わけですけれども、その中から恐らく北朝鮮側は アメリカは軍事力を行使することが難しいと判断 したからこそ、ICBMなどのミサイル、核実験を 行ったのだろうと思います。(4)北朝鮮のこの40日の沈黙が意味
するもの
こうして水爆実験まで北朝鮮はやるわけです が、ここでまた今なぜこの40日間の沈黙がある かということにもつながるのですけど、恐らく中 国も北朝鮮も慎重になってきていることは事実だ ろうと思います。 6回目の核実験を受けての国連の決議に関して は、アメリカが当初言っていたものよりは大分ト連
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セミナー職員トップセミナー ーンダウンしたものにはなったのですけれども、 例えば原油にも言及がされるようなものだったわ けです。ここら辺でかなりアメリカの反応が厳し くなっているというような状況もあってか、中国 はまた少しアメリカ寄りで北朝鮮に対する圧力を 強め始めているのかなと思います。それが象徴的 なのが、6月の後半ぐらいに行われた米中の安全 保障と外交のツー・プラス・ツーの前まで、トラ ンプ大統領は、中国はよくやっている、中国はす ばらしい、ということを言っていたにもかかわら ず、ツー・プラス・ツーぐらいから、中国は何も やってないと。あいつらがやっているのは経済で 自分たちが儲けることで、北朝鮮には何もやって ないみたいな不満が出てくる。これはアメリカ、 とりわけトランプ大統領から見たときの中国の動 きがそういうふうに見えたということなのだろう と思います。 そういう意味で、アメリカについての認識とい うのが、北朝鮮あるいは中国で少し揺れ動いてい て、その結果今は少し慎重な状況にあるのかな と。さらにはその水面下で、恐らく米朝の協議が 行われているのだろうと思われます。 北朝鮮の沈黙が続いている理由としては、いく つか考えられるのですが、一つは次にやりたいこ とというのは、通常の発射角度に近い形でのICBM 発射訓練とか、いわゆる核弾頭の再突入技術の向 上、核実験の継続といった非常にアメリカを刺激 するものです。ですから、非常に慎重になってい るのだろうと思います。トランプ大統領の「ロケ ットマン」発言に対する金正恩委員長の声明の中 で「史上最強の超強硬対応措置の断行を慎重に (原文は深重)検討する」という文言がありまし たが、「慎重(深重)」というひと言が入っている ところからもそれが伺えるのかなというふうに思 います。 恐らく接触はいろいろなところであるでしょう から、そうしたものを見ながら次のタイミングを 見計らっているというのが北朝鮮の今の状況かと 思います。
3.北朝鮮はなぜ核ミサイルに
固執するのか
(1)未完の冷戦終結
次に、そもそも論として、なぜ北朝鮮が核ミサ イルにこれだけ固執するのか、というところから お話をしていかなければいけないと思うのです が、これは端的に言うと、朝鮮半島における冷戦 構造の解体過程が未完のままというか、うまくい かなかったことに起因します。 朝鮮半島の対立構造というのは御案内のとお り、韓国と北朝鮮の分断国家ですから、この民族 間の対立と、これに覆いかぶさるように東西冷戦 が重なっている、こういう二重構造が朝鮮半島の 対立構造の特徴です。冷戦を終結させるために何 をしなければいけないかというと、南北が和解を して、そしてその冷戦体制が融解するためには韓 国の後ろ盾となっている同盟国であるアメリカ、 それから友好国である日本、これらの国が北朝鮮 と国交を正常化し、北朝鮮の後ろ盾になっている 中国・ソ連が韓国と国交を正常化するということ だったわけです。(2)ソ韓、中韓の正常化
ところが、ソ連と韓国は1990年に、中国と韓 国は 92 年に正常化をするわけですが、アメリ カ・日本と北朝鮮は国交正常化できていないわけ です。北朝鮮が孤立をしてしまった。当時、まず ソ連が韓国と国交を正常化した後に、どうやら中 国と北朝鮮の間には密約があって、中国は北朝鮮 がアメリカか日本と国交を正常化するか、あるい は国交正常化がもう時間の問題というふうになる までは、中国は韓国と国交を正常化しないと約束 していたようなのですが、中国は天安門事件での 孤立であるとか、それから当時の台湾の李登輝総 統の弾力外交といって、中国と国交を持っている アフリカの国にアプローチして、中国と断交させ て台湾にオセロゲームをひっくり返すような事例 が幾つか出てきた。 そこで中国は、台湾に対して一番ダメージにな ることは何かと考えたときに、東アジアで台湾と ともに反共の砦と言われた韓国との関係を正常化連
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セミナーそのようなことがあって、北朝鮮と中国の間に は裏切った、裏切られたという認識があったこと は間違いないと思います。 中国・ソ連が、韓国と国交正常化をしたことに よって、自分たちだけ核の傘を提供されているか どうかわからなくなる。だとすれば、自分たちが 一方的にアメリカの核の脅威に晒されている状態 じゃないかと。これを解消するためには、自分た ちが自前で核を持つしかないのだというロジック です。
(3)第一次、第二次核危機と2つの教訓
第一次核危機というのは、1993年の3月に北 朝鮮がNPT(核兵器不拡散条約)からの脱退を 宣言してからなのですけれど、その頃から「北朝 鮮にとって核保有は明確な目標であって、単に時 間稼ぎをしてきたのだ」という見方があります。 でも私は、さすがにそこまでないだろうなと思 います。この時点では恐らく、将来の核開発・核 保有と現状の体制維持のようなものを交渉で何と か取引できないかと考えたのだろうと思います。 第二次核危機以降は、恐らく核保有そのものが 目的化してきたのだろうと思うのですが、北朝鮮 からすると、二つの教訓、すなわち「イラクのフ セイン大統領とリビアのカダフィ大佐」というも のがあったわけです。 ブッシュ政権のイラク戦争は、御案内のとお り、イラクが大量破壊兵器を保有しているという ことで開始されたわけですけれども、結果として それはなかった。 北朝鮮の立場からこれがどう見えるかという と、本当は(イラクは)最初から(大量破壊兵器 を)持ってないということはアメリカはわかって いたはずだと、だからやったのだと。(イラクが) 持っていればあんな攻撃はできなかったはずだ、 というのが彼らの理屈です。 それから2つ目は、リビアのカダフィ大佐の例 です。2003年末に核放棄を宣言したカダフィ大 北朝鮮から見ると、やはりリビアのカダフィ大 佐も核を放棄するからあんなことになるのだと。 核さえ持っていれば、あんなひどい末路はなかっ たはずだというのが彼らにとっての教訓というこ とになるのだろうと思うのです。 だからこそ是が非でも、アメリカ本土への核攻 撃能力を獲得するのだというのが彼らの目的であ って、最終的にはそこが目標であると。これを手 に入れることができれば、対米抑止力であると同 時にアメリカとの交渉力の源泉になるという思い が恐らく彼らの中にはあるのだろうと思います。 では現状はどうかというと、李容浩外相が国連 演説の中で「核戦力完備の最終門から数歩のとこ ろまで来た」という言い方をしております。国際 社会の北朝鮮の核ミサイルについての評価も、本 当に近いところまで来たのではないかと言われて おります。4.北朝鮮との交渉可能性
(1)
「恐怖政治」の意味
そうなってくると、果たして北朝鮮は交渉が可 能な相手なのか、というような印象があろうかと 思います。これは金正恩委員長がいわゆる恐怖政 治というような表現をされておりまして、頻繁に 人事異動が行われたり、あるいは張成沢という自 分の義理のおじを処刑したり、それから今年の2 月には金正男という自分の実の兄がマレーシアで 殺害されるという、そういう事件が起こるわけで す。これはもちろん事実としてはそうですけれど も、その背景等が韓国によってかなりの脚色がな されているというのが事実です。これは韓国から すると、分断国家ですから、北朝鮮をどういうふ うにイメージづけたいのか、ということがあるの だろうと思います。 我々もやはりもう少し捉え方を変えなければい けないのだろうと思います。 それはどういうことかと言いますと、北朝鮮の 恐怖政治というのは、単に金正恩が気まぐれで人連
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セミナー職員トップセミナー 事を動かしたり、あるいは居眠りしたからといっ て死刑にしたりという、そういう意味での恐怖で はなくて、彼らには彼らの鉄の掟のようなものが あって、それに触れた場合には親戚だろうが排除 されるのだというのが、そういう意味での恐怖だ と思います。
(2)北朝鮮は合理的か
最近、「北朝鮮は合理的か」という話を特にア メリカは気にするようですけれども、私は合理的 だと思うのです。例えば核ミサイルの問題でも、 北朝鮮が間違って先制攻撃をするようなことは絶 対しないだろうと。なぜならば、先制攻撃をすれ ば反撃をされて当然自分たちの体制は崩壊してし まうため、そんなことはしないだろうと。そうす ると次の質問で出てくるのは、では例えばアメリ カがいわゆる軍事施設であるとかあるいは核関連 施設を限定的に攻撃した場合、北朝鮮は反撃をし てくるかという質問が来るわけですね。そこで私 が「それは反撃してくるだろう」と言うと、「そ れはアメリカ人の考える合理性ではない」と言わ れてしまう。 「これまで名だたる独裁者と言われている人た ちもそうだった。カダフィに関してもアメリカは 空爆をやったけどカダフィは反撃してこなかっ た。それから(パナマ侵攻の時も)ノリエガ将軍 は反撃してこなかった。だから、合理的であれば 反撃してこないだろう。部分的な限定の攻撃であ り、体制を壊すとは言ってない。ティラーソン国 務長官が盛んに、北朝鮮の体制変化を求めるもの ではないということはそういうことなのだ」とい う、こういう議論があるのですね。 それに対して私がどうお答えするかというと、 「それはアメリカに対する不信感があるからであ る。北からすれば一回目の攻撃だけで止まるとど うして信用できるのか。黙っていたらまた敵の二 の矢、三の矢が来るかもしれない。だとすれば一 の矢が来たところで、もう反撃するしかないとい うのが北朝鮮の合理性なのだ」と私が言うと、 「それは合理性とは言わない」という話になって 分かれてしまうのです。 やはり彼ら(北朝鮮)なりの合理性というのは どこにあるのかというところを見きわめていく必 要があるように思います。(3)対話の意味するもの:北朝鮮と国際社会
北朝鮮にとっての対話というのは、自ら核保有 国として受け入れさせる、あるいはそれを前提と した対話だったら彼らはいつでもやりたいわけで す。 けれども、国際社会としては当然ですけれども 北朝鮮に核を放棄させるための対話でないと意味 がない、アメリカのティラーソン国務長官なども 繰り返し、核放棄のための対話なのだという言い 方をしております。 ですから、この二つの対話にどうやって接点を 見出すのかというのが恐らく今後の課題ですが、 なかなか難しいというのが今の状況かと思いま す。5.国際社会の対応
(1)米・中・ロ・韓の動き
(ア)米国 アメリカのトランプ政権の北朝鮮政策の特徴と いうのは二つあって、一つは北朝鮮への圧力とい うのがまず基本です。それからもう一つは、中国 に働きかけて中国が北朝鮮に持っている影響力を 行使させることです。ですから今は、いわゆる二 次的制裁といって、北朝鮮と取引のある企業に対 してプレッシャーをかけていく。これは多くの場 合中国の企業ですから、米中関係の枠組みがどう なっていくのかというのが今後の課題になってく るだろうと思います。 (イ)中国 中国の立場というのは恐らく完全に仲介役の立 場であって、例えば今は中断している六者協議と いうのは、中国からすると、北朝鮮に核を放棄さ せると同時に、アメリカもその枠組みの中に入れ て乱暴なことをしないようにコントロールする、 そういう思いがあるわけです。 前回の六者協議がスタートするタイミングとい連
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セミナーで中国は、アメリカは放っておいたら当時のブッ シュ政権が北朝鮮に軍事攻撃をするかもしれな い、それはもうとんでもないということで重い腰 を上げて、六者協議を準備して、その枠組みの中 に入れたという経緯があります。 現在、その六者協議がありませんので、アメリ カが軍事行動に出るかもしれないと判断した中国 からすれば、自分たちが前に出て、北朝鮮に対し て厳しく対応しなくてはいけないと判断したのだ ろうと思います。 でもその後、米国から聞こえてくるいろいろな シグナルがちぐはぐだということもあって、6月 の米中の安全保障と外交のツー・プラス・ツーあ たりから、中国もアメリカが軍事力を行使できな いだろう、しないだろうと判断するようになる。 だとすれば本来の仲介者の立場に戻っていく。 それを見透かしたように、翌7月4日に北朝鮮 はICBM発射実験をするわけですけれども、その 直後に中国はロシアとともに「両方ともやめろ」 という言い方をするわけです。北朝鮮に対しては これ以上の核ミサイルの実験をやめろと。一方で アメリカに対しても米韓軍事合同演習をやめろと 非常に具体的な要求をするわけです。しかも中露 の外相会談の声明では、北朝鮮の立場もわかると まで言うわけです。本来の仲介者の立場に立つと いうことだったのだろうと思います。 中国の私の友人たちに話を聞くと、米中関係と いうのは重要だが、それがトランプ政権なのかど うかというのはいろいろ余地があると言うのです ね。普通で考えればあと3年で終わるだろうと。 だとすればその3年間をしのげば、次にもう少し リーズナブルな大統領が出てきたときに、この米 中関係というのは北朝鮮問題をもう少し管理でき るような方向にいけるのではないのか、と言う中 国人もいます。 一般的には中国の人に聞くと、北朝鮮というの はあってもなくても困ると。あればあったでいろ いろ面倒だし、なければないで在韓米軍付きの韓 (ウ)ロシア ロシアは朝鮮半島問題そのものにそれほど大き な関心があるわけではなくて、アメリカとの関係 の中で考えているのだろうと思います。 もう随分前ですけれども、2000年のときに1 か月ぐらいモスクワの国立国際関係大学というと ころにいたのですけれども、そのときにロシアの 専門家と話をしたり、あるいは当時のロシアの外 務省朝鮮担当の人と話をしたら、まだそのとき六 者協議とかなんとかというのが全然ないタイミン グだったのですけれども、その外務省の担当官 が、ロシアとしてはメンバーが自由に議題を設定 できる多国間協議をやって、そこで在韓米軍につ いて議論をしたいと言うわけですね。 彼らが言っていたのは、ヨーロッパに展開する アメリカ軍に関して口を出す枠組みというのは 我々にはいっぱいあると。ところが自分たちの後 背地である朝鮮半島、韓国にいる在韓米軍につい て口を出す枠組みというのは一切ない。そういう 枠組みがほしい、ということを言っておりまし た。恐らくそこには在日米軍というのも入るのか もしれませんけれども、いずれにせよ、ロシアが 大国であることを目指せば目指すほどアメリカと の関係というのが出てきて、その中での朝鮮半島 という、恐らくそういう位置づけなのかなという ふうに思います。 (エ)韓国 韓国では、朴槿恵大統領が職務停止に追い込ま れて、新しい大統領が今年の5月に当選したわけ です。この5月の当選直後に、新聞社のみならず、 いろんなところから意見を聞かせてほしいという 話があったのですけれども、みんなその立場は違 うけれども同じことを聞いてきました。すなわ ち、今年になってから北朝鮮問題というのは非常 に緊迫して、それが主としてアメリカと中国によ って進展しているが、今回韓国に新しい大統領が できたことで、今まで失ってきたイニシアティブ
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セミナー職員トップセミナー を韓国は取り戻すことができると思うか、という 質問を受けました。 私は、あまりイニシアティブを取ることに一生 懸命になって、これまでの流れを壊すということ だとそれはかえってあなたたちにとってよくない のではないかという話をしたのですけれども、い まだに韓国などの会議に出ると、彼らは必ず「ド ライバーズシート」(支配的な立場)と言うこと があります。北朝鮮問題のドライバーズシートに は本来韓国が座るべきなのだと、そういう思いが あることは間違いない。しかしながら今の文在寅 政権も、日米韓の動きを壊してはいけないという こともよくわかっていますし、それから北朝鮮の 行動がかなりひどいということもあって、今の段 階では日米韓でとりわけその圧力でというこの路 線を受け入れているということかと思います。た だ、彼らはやはりドライバーズシートへの憧れと 言いますか、思いが非常に強いし、それから文在 寅大統領自身はいわゆる圧力路線ではなくて、対 話あるいは融和路線を旨とするそういう大統領で す。 対話にいきたいからというのでいろいろ準備を しているようですが、この間韓国で聞いてきた話 でおもしろかったのは、保守政権の9年、本来は 10年ですけど、朴槿恵政権が1年短かったので 保守政権の9年の間で金大中、盧武鉉の間にでき ていたパイプというのが全部潰れちゃったので、 もうこれは特使しかないのだというような言い方 をしています。 今はまさにアメリカそれから日本が軸となっ て、北朝鮮に対する圧力路線というのが続いてい るわけですけれども、これがどこかの局面で一気 に潮目が変わって対話の方向にいくだろうと韓国 側は読んでいるし、私もそれがどういうきっかけ なのかわかりませんけれども、そういう局面が変 わる瞬間があるのかもしれないと思っておりま す。そういうタイミングをどういうふうにうまく つかめるかというのが、今の韓国側が一生懸命考 えていることのように思います。
(2)共有しうる最終目標
これまで北朝鮮に対して効果的に国際的な協調 というのができてこなかったのは事実です。その 結果、北朝鮮の核ミサイルの能力がここまで上が ってしまったというのを我々は考えなければいけ ないのですが、朝鮮半島の非核化というのを最終 目標としているということに関しては、これは中 国もロシアも含めて恐らく間違いないと思います。 しかしながら、そこに至るプロセスと時間、こ れが決定的に違うのだろうと思います。日米韓は 基本的には、韓国はちょっと微妙ですけど、少な くとも日米は今はまだ対話のときではないと。要 するに圧力をかけて、北朝鮮が姿勢を変えてから 対話なのだという考え方で、圧力に軸を置くとい うことになるのだろうと思います。 一方の中国・ロシアからすると、北朝鮮という のは圧力をかけても変わらんと。だからむしろ対 話で何とかうまく彼らを納得させて、自分たちの 決断として、核放棄に導くしかないのだというの が基本的な中国・ロシアの考え方だと思います。 さらに日米と中ロでは最終目標に至るまでにか ける時間について大きな違いがあります。可能な 限り短期間で、と考える日米に対して、中ロはか なり長い時間をかけなければいけない、との立場 です。 日米韓と、とりわけ日米と中ロがどういうふう に接点が設けられるのかというのが、今後の課題 だろうという気がしますが、なかなか難しいとい うのが今の状況かと思います。6.圧力によって北朝鮮の姿勢を
変えられるのか
(1)3つの過小評価
結局今の問題というのは「圧力によって北朝鮮 の姿勢を変えることができるのかどうか」という ところです。 アメリカのティラーソン国務長官が北朝鮮政策 は過去20年間失敗してきたと言い、トランプ大 統領も過去の三代の大統領は北朝鮮政策を失敗し たと言うわけですけれども、これは恐らく圧力を もっとかければよかったとか、あるいは圧力から連
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セミナーないかと思います。 (ア)体制の強靭さ 一つは北朝鮮の体制の強さを過小評価したとこ ろがあったように思います。これはどういうこと かというと、あんな体制が持続するわけがない。 あんなひどい国がそんなに長続きするわけがない のだというのがどこかにあったと思います。 北朝鮮というのは困っていて、それがいわゆる 米国の「戦略的忍耐」の背景にある考え方なのだ ろうと思うのですけれども、困っているのは向こ うだと。時間はこっちに有利だから、ほったらか しにしとけば向こうが勝手に頭を下げてくるとい うのがあるし、どこかで崩壊しちゃうから大丈夫 だという、そういう意味で真剣に向き合ってこな かったところがあるというのはやはり一番大きな 問題なのだろうと思います。 (イ)技術力 それからもう一つは、彼らの技術力をかなり過 小評価したことがあると思います。90年代、北 朝鮮が核兵器を持てるなんて誰も思っていません でした。2000年代に入ってからミサイル発射を 繰り返しても、あんなおもちゃみたいなものが飛 ぶわけないと言って過小評価してきた。ところが 最近、ロシアの技術だとかウクライナの技術だと 言われますが、ここまで技術力を上げてきたとい うことをやはり我々は考えなければいけない。技 術力というのは全部自前でやる必要はないわけで すから、そういう外部の技術協力、あるいはその 技術を買うとかそういうことも含めて評価すべき だったろうと思います。 (ウ)プライド(主体) それから3つ目。北朝鮮のプライドというもの をどう評価するのか。まさに圧力によって北朝鮮 は姿勢を変えるのかどうかということです。専門 家の多くは、やはり変えないだろうというのが一 うと。圧力には絶対屈しないというのがいわゆる チュチェ思想という北朝鮮の指導指針ですから、 そこが崩れてしまうようなことに関しては恐らく やらないだろうと。 国際社会の北朝鮮に対する圧力で変えられるの ではないかという成功体験というのは、いわゆる 「悪の枢軸」から日朝交渉が始まった、日本に頭 を下げてきた、そして小泉総理の訪朝につながっ た、という見方があります。また、中国のパイプ ラインの修繕という名目で2003年に止めて、そ れが(北朝鮮の)六者協議への参加につながっ た、という見方があります。 ただ残念ながら、小泉総理の訪朝の後に第二次 核危機がスタートしますし、それから六者協議も なかなかうまくいかなかった。要するに北朝鮮の 姿勢そのものを改めさせることはできなかったと いうことですが、圧力路線に意味があるのだとい うお立場の人たちは、これまで最後の最後まで圧 力を加えてこなかったじゃないかと。どこか途中 で止めてきたから北朝鮮が逃げ延びてきた、とい う言い方をしますし、実際確かに最後の最後まで 圧力をかけた経験はないと思います。 ですからこれはまだ結論の出ていない未完の実 験ということが言えるのかもしれませんが、この 最後のプライドを我々は過小評価したのか、ある いはまだ過小評価ではなくて、やはり圧力を加え れば変わったのか、変わるのかというのがこれか らの見ていく必要があるところだろうと思いま す。
(2)日米韓と中ロ:2つの立場の違いを
つなぐ努力が必要
では、国際社会はこの国に対してどういうふう に向き合わなきゃいけないのか、やはりなかなか うまく協力ができていなかったわけですから、日 米は短期的な問題として北朝鮮の問題を考える必 要があるのですけれども、中国やロシアが言うよ うに少し構造的な問題、冷戦の解体がうまくいか連
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セミナー職員トップセミナー なかったという、そういった視点を尊重すべきだ と私は思います。 だけどその一方で、中国・ロシアは日本や韓国 やアメリカも含めてですけれども、(北朝鮮によ る)非常に喫緊の脅威について考えてもらわなけ ればならないわけです。脅威に対する懸念を中国 やロシアはリスペクトしなければいけないわけ で、この二つの立場の違いをうまくつなげられる かどうかで、北朝鮮に対する国際的な協力という のは今後できるかどうかというような話になって くるのかなというふうに思います。 私からは以上とさせていただきます。どうもあ りがとうございました。 講師略歴 平岩俊司 1987 年東京外国語大学外国語学部朝鮮語学科卒業。 1989年慶應義塾大学大学院法学研究科にて修士課程修 了後、韓国・延世大学校大学院に留学。1995年に慶應 義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得。2001年 博士号(慶應義塾大学)。 1994年から松阪大学専任講師、助教授。その間、1996 年から98年まで、在中華人民共和国日本国大使館専門調 査員。99年から静岡県立大学大学院国際関係学研究科助 教授、2003年より静岡県立大学大学院国際関係学研究 科教授。2010年より関西学院大学国際学部教授、2017 年4月より現職。 現代朝鮮論、国際政治論、および中国・朝鮮半島関係を専 門とする。 著書として「独裁国家北朝鮮の実像」「北朝鮮」「北朝鮮は 何を考えているのか」など。