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5 1 5 / Atmosphere and Ocean research Institute, The University of Tokyo Research and Information Center (TRIC)/ School of Information Scie

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太陽放射と再生可能エネルギー

竹 中 栄 晶

・中

**

・高 村 民 雄

***

・中 島 映 至

*東京大学大気海洋研究所 千葉県柏市柏の葉 5–1–5 **東海大学情報理工学部/情報技術センター 神奈川県平塚市北金目 4–1–1 ***千葉大学環境リモートセンシング研究センター 千葉県千葉市稲毛区 弥生町 1–33

*Atmosphere and Ocean research Institute, The University of Tokyo **Research and Information Center (TRIC)/ School of Information Science

& Technology, Tokai University

***Center for Environmental Remote Sensing (CEReS), Chiba University *E-mail: takenaka@aori.u-tokyo.ac.jp

キーワード:再生可能エネルギー (renewable energy), 放射収支 (radi-ation budget), 大気放射 (atmospheric radi(radi-ation), 気候変動に関する政府 間パネル (IPCC), 再生可能エネルギー源と気候変動緩和に関する特別 報告書 (SRREN), 衛星観測 (satellite observation).

JL 0001/14/5301–0024⃝2014 SICEC

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はじめに

東日本大震災を契機として再生可能エネルギーへの関心 が高まっている.太陽光発電は地球に降り注ぐ太陽放射を 電力に変換する発電手法である.発電時に温室効果ガスを 排出することがなく,また,発電に伴う廃棄物,冷却など による排水・排気,作動に伴う騒音・振動なども発生しな い利点がある.そのため,一般の家屋を含む建物など電力 需要地点に直接設置可能であり,小規模な電源として分散 設置することが可能となる.太陽熱利用は太陽放射を吸収 することによって発生する熱エネルギーを熱媒体を通して 給湯や冷暖房,または発電に利用するエネルギー利用法で ある.一般的にエネルギーを熱に変換することは容易であ ることから,太陽熱利用は高効率である特徴をもつ.また, 蓄熱による熱量保存によって短時間のエネルギー貯蔵が可 能であるという長所をもっている. 厳密には「再生可能エネルギー」の定義は複数存在する が,気候変動に関する政府間パネル (Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)の定義による再生可能 エネルギーとしての太陽光発電および太陽熱利用は気候変 動緩和策の一つとして期待されている(Special Report on Renewable Energy Sources and Climate Change Miti-gation: SRREN).2008年における世界の再生可能エネル ギー普及率は一次エネルギー供給量の12.9%となっており, その約8 割はバイオマス燃料が担っている.さらにバイオ マス燃料の内訳は6割以上が薪をエネルギー源としている. 薪は燃焼時にCO2 が発生するが,化石燃料と異なり地球 システムにおける炭素循環のサイクルの中で比較的早く固 定されるため,再生可能エネルギーの一つとして分類され る.気候変動予測シナリオを踏まえた再生可能エネルギー のシェア増加においてバイオマス・エネルギーは最も大き な値を示しているが,太陽エネルギーと風力エネルギーも 有効なエネルギー源であることがSRRENによって示され ている.日本の太陽光発電累積導入量は2008年において 2.17 GW程度だが,長期的な温暖化対策として2050年に おいて173 GW程度の導入が必要と試算されており,太陽 光発電ロードマップPV2030+では 2025年における導入 目標を102 GWと定めるなど積極的な導入が推進されて いる.太陽光発電は,特に夏季日中に電力需要のピークと 重なる形で発電量が増えることから,ピーク時の電力供給 に効果をもつ.また,火力・水力などの発電設備と異なり 設置に際して長期に渡る工事を必要とせず,小型化も容易 なことから,東日本大震災直後には一部地域において夜間 の懐中電灯の充電や携帯通信機器の緊急の電力源としての 役割も担った.また,火力,水力をはじめとする既存のエ ネルギーと再生可能エネルギーの調和利用に向けて家庭や ビルを対象とするエネルギー管理システム(Home Energy Management System: HEMSおよびBuilding Energy Management System: BEMS)といったエネルギー制御 のアプローチも増えつつある.東日本大震災以降,エネル ギーの多様化が望まれ太陽光発電・太陽熱利用,また風力 エネルギーの導入へ流れは加速しているが,そのためのさ まざまな技術開発は今まさに現在進行中である.本稿は気 象学的アプローチに基づく太陽放射量,すなわち日射量の 推定手法と,その最新の研究成果を概説し,再生可能エネ ルギーにおける異分野間の融合促進に資する情報を与える.

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気象学における太陽放射

地球は太陽放射をうけて温まる一方で,その温度に伴う 地球放射(赤外放射)によってエネルギーを宇宙に射出して いる.これら加熱と冷却の作用によって地球は生物が生存 可能な環境に保たれている.太陽放射と地球放射における 放射エネルギーの収支を放射収支(Radiation budget)と呼 び,潜熱と顕熱を含めた地球システムにおけるエネルギー の収支を地球のエネルギー収支(Energy budget)と呼ぶ. 地球表層の環境を現在の状態に保っているのは大気である が,大気がもっていると考えられている地球のエネルギー 収支に対する効果はいまだ定量的に解明されていない.雲 は太陽放射を反射し地球を冷却する効果と,地球放射を吸 収,再放射することで地球を保温する効果を併せもつが,雲 の発生・発達は蒸発散や降水など地球大気系の水循環をは じめとする他要素との複雑なフィードバック結合によって 関係づけられるため,雲の気候に対する効果の定量的な評 価は難しいものとなっている1).気候変動に関する政府間

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53-01-05 パネル(IPCC)においても雲の効果は一次の冷却効果のみ の評価となっており,二次的なフィードバック効果の評価 は見送られている.これは雲による気候フィードバック効 果の評価が非常に難しいものであることを示している.ま た,2013年に公表された第五次報告書では,エアロゾル と雲の相互作用による放射強制力が,地球のエネルギー収 支の見積りに最も大きな不確実性を与えていることが示唆 されている.IPCCをはじめとする温暖化の議論において さまざまな気候モデルの予測結果が用いられているが,雲 のフィードバック効果については,モデルと観測に基づく フィードバック感度評価の比較が重要な要素となる.對馬 らは雲のフィードバック効果が全球平均地表面温度に対し てどの程度の感度をもつかを調査し,気候モデルと観測に おけるその差異について議論した2).これは雲の気候に対 する効果の理解そのものがいまだ低い状態であることを示 すが,これらの問題へ取り組むためには,雲による地球の エネルギー収支に対する効果を観測に基づいて精度よく評 価することが重要である.地表における日射量に対しては 雲が最大不確定要素となるが,同様に観測に基づく解析が 重要な要素となる. 日本の気象庁による日射量地上観測は1931年より開始 され,全国展開により最大で60地点ほどの観測点が存在し た.また,直達日射量地上観測は1932年から行われてお り,最大で87地点ほどで観測されていた.初期の観測精度 は現在と比較すると高精度とは言いがたいが,当時は地上 観測による放射量への関心が高かったことがわかる.その 後,1957年の国際地球観測年(International Geophysical Year: IGY)を境に熱電堆型の日射計が導入され,高精度な 日射観測が可能になり現在の観測体制の地盤が整えられた. 特に全天日射量の観測は1970年代に最大で67地点で行われ ていたが,現在は若干減少している.世界で最も広域を網羅 している日射量地上観測網は基準地上放射観測網(Baseline Surface Radiation Network: BSRN)である.BSRNは 世界気候研究計画(World Climate Research Programme: WCRP)の全球エネルギー・水循環観測計画(Global En-ergy and Water Cycle Experiment: GEWEX)によって

1990年に発足した,気候変動の理解と予測の不確実性の 低減に貢献することを目的とした放射観測ネットワークで ある.日本からは舘野(つくば)と昭和(南極昭和基地)が 1994年よりBSRNに登録されていたが,2010年より札幌, 福岡,石垣島,南鳥島の観測点もBSRNに登録されている. また,研究コミュニティによる観測網がいくつか存在する が,東アジア域を中心に展開している観測網にSKYNET がある3)SKYNETはエアロゾル,雲,放射の相互作用を よりよく理解するために設置された地上観測ネットワーク である.現在は日本をはじめとしてアジアを中心とする各 国の大学や研究機関と連携して運用されており,エアロゾ ルの光学特性および日射量など大気放射の観測を基本とし て行っている. 地上観測と同様に日射量の推定は古くからさまざまな手 法で試みられているが,気象学の分野における日射量の推 定は大きくつぎの3つの手法に分類される.(1)実観測値 に基づく回帰分析モデル.地上に設置した日射計によって 観測された日射量と気象場のパラメータを結びつけ,統計 的に大気の透過率を表現することで日射量を計算する.計 算量が少ないため高速に作動する点に優位性があるが,明 確な物理モデルをもたないため対応条件には限界があり, 観測値に依存するため回帰分析として変化に対し常に統計 を取り続ける必要がある.また,統計値に依存するため, 元となる統計データと異なる傾向をもつ場所,もしくは気 候変動に伴う状況の変化への対応は困難である.(2)太陽 エネルギーの分配を記述したエネルギーフローモデル.太 陽から降り注ぐエネルギーが大気の各要素に減衰されて地 上に到達するまでのエネルギーフローを1次元,もしくは 0次元で記述した簡易式を用いて日射量を計算する.エネ ルギーフローのみを取り扱うため,大気の各要素における 波長特性を考慮することはできない.ある程度広い領域を ターゲットとして比較的長い期間のエネルギー状態を解析 する場合は有効である.(3)大気要素の波長特性を考慮し た放射伝達モデル.太陽から地球大気上端に到達した太陽 放射は,水蒸気やオゾンなどの吸収ガスや雲粒子など大気 中の微粒子によって吸収・散乱され地表面に到達する.こ れを電磁波の放射伝達理論に基づいて各波長ごと,大気層 ごとに計算する.放射伝達解は放射量の厳密解が得られる が,他の手法と比較すると非常に長い計算時間が必要とな る.近年における気象学では回帰分析やエネルギーフロー モデルなどの古めかしい手法が研究の最前線で使用される ことはなく,放射伝達モデルによる物理解法が主流となっ ている.世界的に見ると放射伝達モデルの開発は多数行わ れているが,中島ら4), 5)による研究成果物である放射伝達 コードRSTARは,国内外のさまざまなプロジェクトにお いて多岐にわたり適用されている(図1).

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予測と現況把握技術

太陽光発電および太陽熱利用を積極的に導入してくため には,その出力を事前に把握することと発生する電力/熱量 の制御技術が重要となる.両者は現在積極的に研究開発が 進められている分野でもあるが,気象モデルを用いた研究 は産業技術総合研究所と気象研究所が共同で取り組んでい る.大竹らは気象庁メソ数値予報モデル(JMA MesoScale Model: MSM)を用いて日射量の1時間平均値予測とその 評価を行った6).関東領域において夏季に過小評価,冬季 に過大評価の傾向が見られるが,時空間的に変動する日射 量を予測するためには気象モデルの適用性が十分に高いこ とがわかる.予測に最も大きな不確実性を与えているのは 雲であるが,これは雲の光学的特性の時空間的な変化を予

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1 放射伝達コードRSTARによる日射量計算例 散乱日射量(青),直達日射量(緑),大気外日射量(赤).上段は晴天時を 示し,下段は薄曇りを示す.上段は直達日射量が卓越してるが,下段は雲粒 からの散乱が直達よりも強くなっていることがわかる. 測することが非常に難しいことを示している7) 国内では予測技術の開発に多くの期待が掛けられている ため予測値への関心は高いが,基準となるべき現況値への 関心はきわめて低い.現況を把握できない状態で高精度な 予測を望むことは,気象学では大きな矛盾である.また,電 力など制御理論の構築にも現況となるデータは入力情報と して有効となる.したがって時空間的に変化する日射量を 現況把握する技術が必要である.多くの場合地上観測の日 射計を基準として用いるが,日射計は点観測であり空間の 情報を持たず観測点も限られる.太陽光発電や太陽熱利用 は面的にエネルギーを得ることから空間情報が大きな意味 をもち,かつ任意地点の情報を得られることが望ましい.こ こでは日射量の時空間的な情報を得る手法として衛星観測 に基づく日射量について述べる.衛星観測による日射量の 推定は衛星観測データから大気パラメータの情報を抽出す ることで実現される.特に最大不確定要素である雲の光学 特性を観測に基づいて得られるところに優位点がある.こ こでは雲を中心に説明を行う.中島ら8)および河本ら9) 雲粒における水分子の吸収特性を利用し,吸収帯と非吸収 帯の波長特性から雲の光学特性を推定するアルゴリズムを 構築した.雲解析アルゴリズムCAPCOM (Comprehen-sive Analysis Program for Cloud Optical Measurement:

2 衛星搭載センサおける水雲粒子と氷雲粒子の特性の 違い

雲の光学的厚さと雲粒有効半径によって,観測波長のシグナルが異なること を示す.これら波長特性の差異を利用することで衛星観測データから雲の光 学特性を推定することができる.

CAPCOM)はADEOS-II / GLI (Advanced Earth Ob-serving Satellite -II/Global Imager)におけるスタンダー ド・アルゴリズムであり,雲の光学的厚さ,雲粒有効半径, 雲水量,雲頂温度等を可視と熱赤外,近赤外の各チャンネ ルの放射輝度に基づいて推定する.このとき,赤外チャン ネルから雲頂の情報を得ると共に,可視チャンネルの放射 輝度を用いて,大気プロファイルと衛星と太陽の角度を考 慮しながら逆解析によって雲の光学パラメータが求められ る(図2).ここでは,衛星搭載センサーのチャンネル分 光応答特性や,地表面と大気との多重反射,また雲粒によ る光の散乱は電磁波の散乱問題に帰結することから,水雲 と氷雲の粒子形状も考慮される.得られた雲の光学特性は 水蒸気などの吸収ガスと合わせて日射量の計算に使用され る.雲は短いタイムスケールで大きく変化するため,静止 衛星の高時間分解能のデータが必要である.静止衛星は約 36,000 km上空の静止軌道から地球を観測するため定点の 高頻度観測が可能であり,観測波長は限られるものの雲の 光学特性を得ることに適している10).日射量の推定では各 国の衛星運用機関が運用している静止衛星の観測データが 効果的である.大気要素の光学特性が明らかであれば,各 波長の日射量を計算することが可能となる.しかしながら, 放射伝達計算を伴って日射の全波長を計算するためには計 算時間が掛かるためなんらかの高速化手法が必要である.一 般的な衛星解析アルゴリズムは,LUT法による放射伝達解 のデータベースに基づいて解析が実行される.しかしなが ら,LUT法は対象となるパラメータが増加する際,データ ベース容量が爆発的に増加していくため複雑な問題を解く 場合原理的に問題を抱えている.また,パラメータが増加 した場合データベースの内挿/外挿手法も複雑になるため, 計算コストが増加するという問題も同時に発生する.これ

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53-01-05 図3 静止衛星5機による日射解析例 静止軌道上に位置する 5 機の衛星を利用することで任意地点の時々刻々と変 化する日射量を得ることができる. らの問題を克服するためにニューラルネットによる放射計 算ソルバの開発も行われた11).一般的にニューラルネット による解析手法は物理過程をもたない回帰モデルに用いら れているが,ここでは放射伝達コードRSTARを高精度に 近似する学習アルゴリズムを開発することで物理過程を放 射伝達モデルで保持し,実際の計算をニューラルネットの ソルバで実行する手法を用いている.放射伝達計算の関数 近似によって作成されたソルバは,高速に作動する放射計 算ソルバとして振る舞う.これにより太陽放射の波長域を 高速に計算することを可能とした.このソルバの高速性に よりEXAM SYSTEMは衛星観測に合わせた準リアルタ イム解析を実現している.また,この手法を複数の静止衛 星に適用することで全球のエネルギー状態を得ることがで きる(図3,図4).

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静止衛星による発電量モニタリング

現況把握技術に関連して,気候学的アプローチにより全 球規模で日射量の推定が可能となることを前章で示した. ここでは衛星推定全天日射量を用いた太陽光発電出力把握 について一例を示す.第一段階として衛星データに基づく 全天日射量推定値が,太陽光発電出力の現況把握に有効性 をもつかどうか調査した.衛星推定日射量は実利用を視野 に入れて準リアルタイム解析システムによる出力をそのま ま利用している.発電量は千葉県市川市の協力により市で 運用されている10地点の太陽光発電システムの発電量デー タが提供された.それぞれの発電システムはパネル面に平 図4 任意時刻における日射量の空間分布の例 地球に到達した太陽放射が大気を通過して地表に到達するとき,その分布を 衛星観測データに基づく解析から得ることができる.上段より全天日射量, 直達日射量,散乱日射量. 図5 衛星推定日射量と傾斜面日射計およびPV発電量の 対応 傾斜面日射計(青),PV 発電量(緑).衛星推定日射量は 4km 解像度 1 時 間間隔を使用. 行に日射計が設置されており,斜面に対する日射量のデー タも同時に得られる.おのおのは10 kWの発電システムと なっている.10地点のうち,発電量データが正常に記録さ れているものは6地点であった.さらに,衛星推定日射量と パネル傾斜面日射計,および発電量の比較から2地点の発 電システムになんらかのトラブルが発生している可能性が 指摘されたため,残り4地点のデータを使用した.ここで

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65に対応する日中平均値 日の出から日没までを平均して 1 日の代表値としてプロットしている.7 PVシステム発電出力日積算値 衛星推定値(青),地上 PV システム記録値(緑),オレンジのプロットは 両者の比率を示す.上段は PV システムの発電効率を考慮しない推定,中 段および下段は PV システムの発電効率変化を考慮した推定. は2地点の例を示す.パネルの傾斜角は約7度である.各 地点は市街地に点在しており,実際に一般の都市環境の中 で運用されているため,データは実践的なものである.し たがって斜面日射計も気象観測を目的とした日射計とは本 質的に異なり,建物などの遮蔽物の影響も確認される.図 図8 PV発電量マッピングの例 2 種類のパネルとパワーコンディショナを仮定し,4 種類のサンプルを作成 した.TC は太陽光パネルの温度係数であり,PC はパワーコンディショナ の変換効率を示す.発電量は 1 kW の PV システムに正規化されている. 5に傾斜面日射計および発電量と衛星推定日射量の関係を 示す.傾斜面日射計および発電量ともに気象学的な大気放 射量のみで観測値が決まっているわけではないことに注意 したい.図5に対応する日中平均値を図6に示す.瞬間値 では分散が大きいが,日平均値では全体の傾向が明らかと なっている.傾斜面日射計と衛星推定日射量は良い相関を 示しているが,発電量と衛星推定日射量は傾きに差が見ら

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53-01-05 れる.これは太陽放射によって太陽光パネルが温められるた め温度特性によって発電効率が変化しているためである.こ こで太陽電池パネルの温度特性を考慮した発電量推定を適 用する.対象としている太陽電池パネルはシリコンであり, −0.5[%/K]の減衰特性をもっていることから,モジュール の温度を経験的に計算しパワーコンディショナの変換効率 と掛け合わせることでPVシステムの発電効率変化を考慮 した.図7に結果を示す.発電効率の変化を考慮しない場 合は日積算によって約20%の誤差が明瞭となっているが, 発電効率を考慮した推定を行うことによって精度が向上し ていることがわかる.これによりPVシステムの発電効率 を考慮することで衛星観測データから精度よく発電量を推 定することが可能であることがわかる.さらに,これらを 面的に展開することで発電量のマッピングを行う.2種類 の太陽光パネルとパワーコンディショナを仮定し,その温 度特性と変換効率に基づいて4種類のマッピングを行った. 図8に結果を示す.これらの発電量計算スキームを準リア ルタイム解析システムに組み込むことによって,準リアル タイムで発電量のモニタリングが可能となる.また,衛星 解析は地上のPVシステムの情報を利用しないため,PV システムの故障と疑われる状態を準リアルタイムで検出で きることも特徴の一つといえるだろう.

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まとめ

再生可能エネルギーに関する技術開発に関連して,気象 学的アプローチに基づく太陽放射量と関連する研究につい て概説した.太陽光発電・太陽熱利用に関しては,地上観測 による実測,気象モデルによる予報,そして衛星観測によ る広域データとさまざまな情報を積極的に利用することが 有効と考えられる.しかしながら,いずれか一つの情報に 傾倒,盲信しては現象の本質を見失うだろう.おのおのの 情報の優位点と特性を理解し,さまざまなデータを調和的, 融合的に活用できる技術や理論の構築が求められている. (2013 年 12 月 4 日受付) 参 考 文 献

1) R.T. Wetherald and S. Manabe: Cloud feedback

pro-cesses in a general circulation model, J. Atmos. Sci., 45–8, 1397/1415 (1988)

2) Y. Tsushima and S. Manabe: Influence of cloud feedback on annual variation of global mean surface temperature, J. Geophys. Res., 106–D19, 22, 635/646 (2001)

3) T. Takamura, H. Takenaka, Y. Cui, T. Y. Nakajima, A. Higurashi, S. Fukuda, N. Kikuchi, T. Nakajima, I. Sano, and R. Pinker: Construction of aerosol and cloud validation system based on SKYNET observations and estimation of radiation budget using the ADEOS II/GLI data., Journal of Remote Sensing Society of Japan, 29, 40/53 (2009) 4) T. Nakajima and M. Tanaka: Matrix formulations for the

transfer of solar radiation in a plane-parallel scattering at-mosphere, J. Quant. Spectrosc. Radiat. Transfer, 35, 13/21 (1986)

5) T. Nakajima and M. Tanaka: Algorithms for radiative in-tensity calculations in moderately thick atmospheres using a truncation approximation, J. Quant. Spectrosc. Radiat. Transfer, 40, 51/69 (1988)

6) H. Ohtake, K-I. Shimose, Fonseca Jr., T. Takashima, T. Oozeki, and Y. Yamada : Accuracy of the solar irradiance forecasts of the Japan Meteorological Agency mesoscale model for the Kanto region, Japan, Solar Energy (in press) (2012)

7) R. Perez, S. Kivalov, J. Schlemmer, K. Hemker, Jr., D. Renne, and T.E. Hoff : Validation of short and medium term operational solar radiation forecasts in the US, Solar Energy., doi:10.1016/ J. SOLENER. 2010.08.014 (2010) 8) T.Y. Nakajima and T. Nakajima: Wide-area

determina-tion of cloud microphysical properties from NOAA AVHRR measurements for FIRE and ASTEX regions, J. Atmos. Sci., 52, 4043/4059 (1995)

9) K. Kawamoto, T. Nakajima, and T.Y. Nakajima: A global determination of cloud microphysics with AVHRR remote sensing, J. Climate, 14, 2054/2068 (2001)

10) H. Takenaka, T.Y. Nakajima, I. Okada, J.R. Dim, and T. Takamura: Cloud optical thickness estimation from GMS-5/SVISSR, Journal of the Remote Sensing Society of Japan,

29, 392/397 (2009)

11) H. Takenaka, T.Y. Nakajima, A. Higurashi, A. Higuchi, T. Takamura, R.T. Pinker, and T. Nakajima: Estimation of Solar radiation using a Neural Network based on Radia-tive Transfer, J. Geophys. Res., doi:10.1029/2009JD013337 (2011) [著 者 紹 介] たけ 竹 なか中 ひで栄 あき晶 君 2003 年千葉大学博士課程入学,千葉大学環境 リモートセンシング研究センター(CEReS)に て大気放射を学ぶ.09 年博士(理学)の学位を 取得.専門は放射収支とリモートセンシング.静 止気象衛星「ひまわり」のための可視センサ代替 校正技術の開発,放射伝達計算に基づくニューラ ルネットワークによる放射収支推定アルゴリズム の開発などを行っている.現在は全球の静止衛星 を使った準リアルタイム解析システムの構築に取り組む.エアロゾル-雲-放射の気候フィードバックに強い関心を持つ.東日本大震災を契機 として放射収支推定アルゴリズムを応用した再生可能エネルギー(太 陽光発電,太陽熱利用)の技術支援を開始.03 年より SKYNET メ インサーバの管理者.米国地球物理学連合の会員. なか 中 じま島 たかし孝 君 1992 年東京理科大学理学部物理学科卒業,94 年東京大学理学系研究科地球惑星物理専攻修了, 2002 年に博士(理学)号を取得(東京大学).宇 宙航空研究開発機構の研究開発系職員(1994∼ 2005 年)を経て 05 年から東海大学専任准教授, 12 年に専任教授.現所属は東海大学情報理工学 部および東海大学情報技術センター.専門は,地 球物理学,大気放射学,衛星リモートセンシング. 12 年から JST/CREST/EMS 研究課題「再生可能エネルギーの調和 的活用に貢献する地球科学型支援システムの構築」の研究代表者.日 本地球惑星科学連合,日本気象学会,日本リモートセンシング学会, 米国気象学会,米国光学会の会員.

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たか 高 むら村 たみ民 雄 君お 1948 年山口県生まれ.79 年東北大学大学院博 士課程を修了(大気物理学専攻)し,防衛大学校 数学物理学教室に勤務.86 年から 87 年にかけて, 防衛大学校に籍を置く傍ら客員研究員として米国 アリゾナ大学大気科学研究室で研究に従事した. 95 年から,千葉大学環境リモートセンシング研 究センター (CEReS) に移り,エアロゾル (大気 中に浮遊する微粒子) の光学特性や放射収支に関 する研究に従事して今日に至っている.この間,2011 年には中国科 学院安徽光学精密機械研究所の客員教授として,現地研究者と共同研 究も行った.日本気象学会,米国気象学会,米国光学会などの会員. なか 中 じま島 てる映 ゆき至 君 1950 年東京都生まれ,東北大学大学院理学研 究科 単位修得退学.理学博士.東北大学理学部技 官,助手,助教授を経て,東京大学助教授,教授. 2004 年より気候システム研究センター長,10 年 より東京大学大気海洋研究所 地球表層圏変動研 究センター長.1987 年∼90 年 NASA ゴダード 宇宙飛行センター上席研究員.地球気候形成,地 球温暖化,全球規模大気汚染の研究.95 年度日 本気象学会学会賞,第 7 回日産科学賞.日本学術会議会員世界気候研 究計画合同科学者委員会オフィサー.

図 2 衛星搭載センサおける水雲粒子と氷雲粒子の特性の 違い
図 6 図 5 に対応する日中平均値 日の出から日没までを平均して 1 日の代表値としてプロットしている. 図 7 PV システム発電出力日積算値 衛星推定値(青),地上 PV システム記録値(緑),オレンジのプロットは 両者の比率を示す.上段は PV システムの発電効率を考慮しない推定,中 段および下段は PV システムの発電効率変化を考慮した推定. は 2 地点の例を示す.パネルの傾斜角は約 7 度である.各 地点は市街地に点在しており,実際に一般の都市環境の中 で運用されているため,データは実践的なも

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