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初級中国語の語順理解に関する一考察 An approach for understanding the word order in Mandarin Chinese 兼本 敏

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【研究論文】

初級中国語の語順理解に関する一考察

An approach for understanding the word order in Mandarin Chinese

兼本 敏

Satoshi KANEMOTO

はじめに

 大学で初修外国語として中国語を履修する学生の多くが示す学習上の混乱には、音韻、声調の習得 から始まり、語彙、表記、語順と多岐にわたる。受講生の多くは外国語習得に際し、母語である日本 語からの干渉に加え小学校から高校まで学習した8年間の英語の習得体験の影響を大きく受けてい ることが観察される。

 例)×我留学中国来年  /我中国留学来年。 → 〇我明年去中国留学。

    来年は日本語からの影響 → 初級クラスで「明年(来年)」     時間を表す語句を文末に置くのは英語の影響であろう。

上述の事例は学習の初期段階だけでなく、学期を通して観察される1

 母語からの影響が「正の言語転移」となる場合と「言語干渉」となる負の場合がある。正の場合は 学習者にとって有利に働き、習得が容易であると感じる。日本人の中国語学習者の多くは、中国語の 言語表記として使用されるのが漢字であることから、「中国語の習得は容易である」との考えを一様 に持っている。しかし、教室内で実際に学習をスタートしてみると多くの学生は戸惑いを隠せない。

それは恐らく音韻の習得から始まり声調の習得段階に入る頃には、期待していた「正の言語転移」を 感じることができないからだと考えられる。音韻の習得における正の言語転移を意識して編まれてい る教科書もある。例えば、四声の習得に、日本語で発話する短文や語尾のイントネーションを類似(相 似)を紹介したり、視覚的に捉えられるように図表を提示したりと工夫がみられる2。更に所謂る存 在文は次のように示せる。

 

      学校前面 有 便利商店。

   A   B        

      便利商店 在 学校前面。

        B   A

※ 存在を示す文(有・在)ではA とBの関係は主部と述部の関係が 入れ替わる。つまりAとBの文中 での位置が前後、逆になる。

(2)

この様な工夫は、母語からの正の転移を無意識に期待する学生にとっては動機づけの一つになっ ていて、理解から習得・定着に至る過程の強化に寄与している。

 語彙の学習においては、漢字が中国から伝来し借用されてきたという知識から簡単に習得できると 疑わず、実際に学習を始めると字形(簡体字)の違いに驚き落胆するようだ。更に字形の違い以外に 同形異義語の学習時には愕然とする。望月によれば主要品詞である動詞、名詞、形容詞に関しては中 国語語彙の50%が日本語と同じか類推可能であると述べている3。 一方、この数値は学習者が辞書 なしで推測できる語彙が半分ほどあるということを示すと同時に、中国語の漢字語彙の半分が日本語 のそれと違うことを初級段階で確認することが必要になる。中国語学習は英語のような他の外国語学 習と同様な姿勢で取り組むべきであることを促す好要因ともなる。

 以上、中国語を学習する上での言語転移および教科書の工夫をかい摘んで紹介した。中国語は日本 語や英語と異なる言語であることは明白であり、履修指導において母語からの正の言語転移や既習外 国語(英語)からの言語干渉を活用することで学習者の負担削減やモチベーションの維持の強化につ なげる工夫が多くの教科書に散見できた。

 次に、大学で初修外国語として中国語を履修する学生の母語(日本語)と既習外国語である英語と の言語的特徴を示し、それら3つの言語間の比較・対照を行うことによって母語や既習言語(英語)

からの正の転移および負の転移(干渉)を予測することが可能になると考える。本稿は、言語間の差 異を明示することで初級中国語の学習指導上散見される履修者の誤用や間違いの起因を指摘、矯正す るための助けになることを目的とする。

1.中国語、日本語、英語の言語的特徴について

中国語、日本語、英語の3言語は言語の形態論上の分類に準じると、孤立語、膠着語、屈折語と いえる4。更にそれぞれの語順からVO言語とOV言語に2つに分類できる5

 先ず、習得目標言語である中国語の特徴を孤立語、VO言語の特徴に照らし文例を挙げておく6

中国語(孤立語)の特徴

  ・現代中国語は特徴として孤立語でありVOの語順を持つ7

    孤立語の特徴としては、さまざまな文法範疇を語形変化ではなく文脈・語順や前置詞や後置 詞のような接置詞などの機能語によって表現することが挙げられる。

a.) 中国語が孤立語であり、時制による動詞の変化を伴わない。

        S   Adv.  V.  O.

       他  昨天 去 食堂。(あの人 昨日 行った 食堂)

       他  明天 去 食堂。(あの人 明日 行く  食堂)

(3)

     両文中の動詞“去”は昨天(昨日)や明天(明日)の時を示す語である。

b.) 孤立語の特徴として品詞は語順によって決定される。

他   在 家。 (彼は家にいる。→ 動詞)

他 在 学 英語。(彼は英語を勉強している。→ 副詞)

  

 前文の“在”は動詞として彼が在宅であることを表し、後文は副詞として動詞の前に置かれ 動詞の進行・継続を表している。

c.) VO言語のもつ特徴として、前置詞を持つ。中国語も前置詞(介詞)を持つ。

S     V  O

他 在家 作 飯。(彼は、家で 食事を作る;She cooks (food) at home )    

 “在 家”=(at home)は動詞“作”の前方に位置しているが品詞としては上記のb)副詞

とは異なり前置詞(介詞)に分類される8。   

d.) 助動詞は動詞に先行する。

 

他 会 来 学校。(He will come to school)

         ※“会”は通常「できる」と教授するが、確定的未来を表すのでwillと訳する。

 以上、中国語が孤立語でVO言語の特徴を示す事例である。しかし、中国語には日本語と同様に OV言語の特徴をも持つ以下のような文法範疇がある。

e.) 名詞の修飾語は名詞に先行する。

   

This is the book he wrote.

これは彼が書いた本だ。

是他写的 ( =書=本)※“的”は名詞の修飾を示す文法的指標

(4)

f.) 副詞的な付加語は被修飾的動詞や形容詞に先行する。

He told me gently.

彼は私に優しく話した。

他    我  。  ※“地”は副詞的修飾を示す文法的指標

(彼 優しく 私に 話す/話した。)

g.) (モダリティーを示唆する)文末助詞を持つ。日本語では終助詞、中国語では語気助詞 と分類される9

*He is going to school tomorrow?

  ⇒ Is he going to school tomorrow?   

彼は明日学校へ行きますか。

他明天去学校 ? ※ “?”は現代中国語では表記する。

   

  以上、中国語、日本語、英語の語彙の品詞、修飾法の特徴を対照的に紹介してみた。孤立語で VO言語である中国語、膠着語でOV言語である日本語、既習外国語であり中国語と同様な語順を 持つ屈折語と分類される英語との対照比較を整理すると、中国語はVO言語として基本的な語順 を保持すると同時にOV言語の語彙修飾と同様な修飾法や文末助詞でモダリティーを示す特徴が あることが分かる。

実際の教材に記載されている学習項目でこのような対照的特徴を示すことで初級の学習者が、

言語間における正の転移を活用し中国語の習得意欲が高まると期待できる。また、言語間の差異 で負の転移(干渉)を意識的に避けることが可能になるであろう。

 

2.中国語初級における基本文型について

中国語の特徴として、英語や日本語と違い動詞が時制や主格による変化がないと紹介すると学習 者は既習英語で体験した動詞の変化(活用)から解放されると同時に過去や未来をどのように表すの かと困惑を示す。これらの不安は前述したa)の例文を紹介することで一旦は解消される。講義の初 めの段階は、音韻の表記法としてピンインの習得と発音の習得練習に時間をかけ、続いて基本文型の 導入と進んでいくことになる。中国語の多くの教科書が同様な流れで編まれている。それぞれの教科 書は基本文型の導入の順序に工夫と特徴がみられるが、中国語教授法に関する全体を網羅した所謂「教 師指導要領」的なガイドブックは英語教育や日本語教育の分野におけるほど多くは見られない。勿論、

言語分析として各論的な研究や分析は論文して多く発表されている。

(5)

しかし、中国語学習の初期段階で教師が学習者に各論的ではなく中国語の全体像を総論的に紹介 することは大切であり、学習者に対する総論的な指導要領、ティーチャーズマニュアルの存在は重要 であると考える。「中国語の語順指導について―標準的語順のシステム化―」(鈴木進一)が示すよう に学習者の混乱や負担は文法事項に係る中国語独特の品詞の分類や文型の文成分にあることは否めな い10

鈴木が述べるように英語という外国語学習で得た学習者の知識を中国語習得に係る負担の軽減に つなげる試みは教える側だけでなく学習する側にとっても大変有効な手段だと感じる。英語との対照 比較を活用した中国語教科書も販売されている11。これらはVO言語である英語の基本文型に擬えて これから学習する中国語の文型を大まかに紹介することにより、学習者に今後の道標と到達点を示唆 ことになる。これは初級段階での学習者にとっては既習文型と未習文型を認識できることになり学習 継続の動機づけとして心理的に大きな指標として働く。

鈴木は中国語の基本文型をS+V+OとS+Vの2文型にまとめ、形容詞と判断される語彙を 状態動詞とし、コピュラ(所謂BE動詞)を判断動詞として整理している。教える側にとっては簡潔 明瞭であり、学習者にとっても単純で覚えやすい。しかし状態動詞(Stative Verbs)は日本人学習 者には多少の説明が必要だと思える。日本語の語彙で形容詞、形容動詞は外国人の日本語学習者に対 しては「い形容詞」と「な形容詞」として教えている。同様に日本人の学習者に状態動詞を認識させ るためには、日本語では「形容詞/形容動詞+なる」が中国語では一塊として使用されることを示す 必要があるだろう。

叶子     了。 (The leaf is redden/ turns red.) 葉っぱ が 赤くなる ⇒ 紅葉する

 学習しなければならない文法事項を軽減するために既習外国語である英語と母語である日本語と中 国語間の正の転移を活用するのであるから、大学での初級中国語では品詞の名称は紹介程度に留め ておきたい12。 同様に「判断詞」をbe動詞に擬え、その働きをA=B (AとBは品詞も=である)

とすることで英語からの負の転移(干渉)を避けることを促せないだろうか。

彼は嬉しい(喜んでいる)(他高 。他很高 13

He is happy. 中国語に訳する場合は、A=(名詞) B=名詞の条件を厳守    よって、

他是高   [ 他(名詞 ) 是高興(形容詞)]は不成立。

 このような文法解説は学習者が簡単に理解できるよう言語間の正の転移を活用しているといえる。

(6)

特に第7章に記述されている「中国語の標準的語順と主な品詞の位置」においては、時間詞、語気 助詞、助動詞、前置詞と副詞の五つを主な品詞として、それらの品詞が文中においてどの位置に出現 するかを観察し解説している。これは孤立語では語彙が変化せず、文中の位置で語の役割(品詞)を 決定するという特徴を活用した解説であり理解しやすいといえる。語順に関していえば、中国語研究 で1985年にJames Taiによって提唱された“Principle of Temporal Sequence(時間順序原則)14”(以 下PTS)が適用された語順の提示となっていると考える。

 鈴木によれば、中国語の主な品詞の語順は次のようになる15

  時間詞

     +S+時間詞+副詞+助動詞+前置詞(句)+(副詞)+V+O/C+語気助詞。 

  副 詞

文頭に置く「時間詞」や「副詞」は、後続する文が発生する場面を提示していると看做すことができ、

これは英語でも日本語でも見られる現象である。

 上記の語順を英語および日本語で既習した品詞名を使い、更に簡素化すると、

   S + 副詞 + 助動詞 + 動詞 + 目的語 + 終助詞

と表記できる。この場合、副詞に対する説明を補足する必要がある。ここで表す副詞とは時間、場所、

方法、様態を表す語句だと定義する。これら副詞句はあくまでも後続する動詞が発動する時点に深く かかわる。

  ①「時間」を表す語句は動詞が発動する前(事前)を示す。

  ②「場所」を示す語句は動詞が発動する場所を示す。

  ③「方法」を示す語句は動詞がどのような手段で発動するかを示す。

  ④「様態」を示す語句は動詞の発動の状態がどのようであるかを示す。

以上の要件を満たす語句は副詞に帰属すると分類する。品詞が語句の働きを決定するのではなく語句 の位置がその働きを決定する孤立語の特性を理解してもらう。

 この中国語の語順はPTSに依って説明が可能である。PTSは中国語の語順が時間の流れに沿って 発動していくことを中心に述べている。これは複合動詞を形成する語順や中国語の短文の連続を連結 した一文を作成することで理解が容易である。

(7)

   持ち上げる ⇒  Lift up ⇒ 拿上来 ( 持ってから、上げる)

① 他坐 机(彼 座る 飛行機 ⇒ 彼は飛行機に乗る)

② 他去上海(彼 行く 上海  ⇒ 彼は上海へ行く)

③ 他 衣服(彼 買う 服   ⇒ 彼は服を買う)

上記の3文を①②③の順に発生したと考え、主語同一人物だとしたら、次のような一文が作り出さ れる。

他坐 机(他)去上海(他) 衣服   ⇒ 他坐 机去上海 衣服。

(彼は飛行機に乗って上海に行き服を買う ⇒ 彼は飛行機で上海に行き服を買う)

或いは例文を②③①の順で連結すると、次のような文になる。

  他去上海 买衣服坐飞机(彼は上海で服を買い飛行機に乗る)

 

この組み合わせ以外にも③①②など理論的には6通りの文の組み合わせが可能である。また、生成さ れたこれら6つの文は主になる動詞が最後になると看做した場合、その主動詞の前に位置する動詞 は副詞的に捉えることができる。日本語に訳す場合に、中国語の動詞が日本語の助詞「に」「で」に 訳されることで副詞的な働きをしていることが明白である。

 PTSなど一つの理論的解説で中国語が表出するすべての文型を説明することが可能であるなら学 習者にとっても教える側の立場でも大きな助けになる。また、Ⅹバー理論16や格理論などによる語 順の解析など、中国語が表出するすべての表現を説明する論文は多い。しかし、大学での初級中国語 の学習者が求める分かりやすい簡潔な説明を記述した手引書の必要性も高まっている。

3. PTS における課題

拙者は主にPTSを基に教室現場で語順解説を行ってきた。1年次における中国語では学習者は前 述したように日本語から正の転移をきたしている。文字の字形を紹介した後、漢字を覚えなおさない といけない、などと、ため息交じりの発言が出る。その際には語彙の学習に日本人が如何に有利かを、

同形同意語を紹介することで学習への動機の維持を喚起するように努めている。

 PTSで中国語の語順を説明する際に、VO言語である英語での語順と主要品詞を導入する。

文の主動詞と主語との間に配置される語句(副詞)の説明に事例を使い時間をかけて説明する。初年 度に学習する文型および語彙で英語からの干渉が最も強く表れるのが時間に関する語句である。「時間

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詞」として分類し紹介するのは至極簡単であるが、学習者の作文では時間詞の文末への後置がみられる。

   她昨天去日本菜 吃了两碗拉面。 (彼女は昨日日本料理店でラーメンを二杯食べた)

    ‘a) 她在日本菜馆吃了两碗拉面昨天。

    ‘b) 她在日本菜 昨天吃了两碗拉面。

‘a)の間違いは初期段階で頻繁にみられるが、‘b)の間違い文は学習時間が進んでからみられるよう になる。学習者は、時間詞は動詞と連動するという意識が強く、時間詞を動作動詞の前に置いたと言う。

動詞を強調した説明の結果、時間詞と動作動詞との関連が意識に強く残った結果だと言える。 中国 語の語順を認知的に説明するIconicityに準じて解説を試みると次のようになるだろう。

 

 発信(表現)したいことは・・・

  ① 表現したい事象が起きた場面設置を行う。

    場所が先か? 時間が先か? ⇒ いつ、どこで、

       ・・・この場合は、昨日のことで        場所は、在日本菜馆   ② どんなふうに? した?

       ・・・この場合 ⇒ 2杯のラーメンを食べた。

        VOで述べると ⇒ 食べた2杯のラーメン

       (名詞の修飾は日本語と同じ、前置)

 このような発想を発話に反映できるように、次のような例文を複数紹介した。

  羽田空港で君にプレゼントを買ったよ。

       ① いつ?  ⇒ Φ

       ② どこで? ⇒ 羽田空港で        ③ 何故?  ⇒ 君にあげるため

       ④ 何をどうした?⇒ 小さな土産を買った⇒ 买了 一个礼物。

       (VO言語として語彙の配置換え)

  我 了一个礼物。

     *我 了一个礼物 。  

 *の文が間違いであることを理解するには、「買い物をしてから、君にプレゼント することを決

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めたのか? 或いは 君にプレゼントをするために買ったのか?」 プレゼントをする発想が先で購 入したのか、購入後に何をプレゼントにするかを決めたのか、が語順を決定すると指導すると分かり やすい。

  

  他 写一封信。 (母に一通の手紙を書く)     *他写一封信给妈妈

  *の文が間違いであることは、上述と同様に「手紙を書くのが先か? 母親にあげようと(送る)

したのが先か?」

同様な発想が定着しつつある学習者は次のような文章を作成する際に、質問をしてくることが多い。

   (私は)駅から学校まで毎日自転車で通学する。

   我每天从 站到学校 自行 (来) 上 。

① いつ? ⇒ 毎日

② どこで? ⇒(自転車に乗る)行為が行われる場所          ⇒从车站到学校(から駅 まで学校)

      ※前置詞となる(VO言語の特徴)

③何をどうした? ⇒ 大学に通学する。

学習者が戸惑うのは、「毎日」という時間ではなく、「駅から学校まで」の語句である。英語の干渉を 矯正していない学習者は次のような文章を書く。

    *我每天 自行 (来)上 从 站 到学校 

(from the station to the school)

学習を進めていく過程でVOの語順において動詞に係る補語的要素への理解が混乱を招くようになっ ていく。

我跟老 学了两小 的英  (私 先生と 学ぶ 2時間 英語)

        ⇒  我跟老 学英 ,学了两个小 。        (S V O, V C) C:補語

      *①我跟老  学 英 两个小 (私 先生と 学ぶ 英語 2時間)

      *②我跟老  两个小 学 英语

(10)

*①は、VOが2時間継続したと英語の語順と同様に捉えていると観察できる。中国の若者が時とし て使用している場面が認められる。これは明らかに英語からの干渉である。他言語接触が頻繁になっ ていくにつれ、このような変化は避けられないと思われる。また意思の疎通に大きな障害がない場合、

若者言葉として容認され定着していく可能性もある。

*②に関しては、時間量を表す語彙と時間軸を表す「時間詞」の混同が原因だと言える。

動詞の前に置く時間を示す語彙(時間詞)は文中の主動詞(時間詞の後に位置する)が発動する時間 軸(時間のポイント=時刻)を示す。一方、動詞の後ろに置かれるのは動詞が発動して継続した時間 量を表し、数詞+量詞の形を持ち、目的語と動詞の間に置かれる。これは動詞が継続した時間量を表 すのが主たる表現であり、動詞の影響を受ける目的語に焦点を当てた表現ではないと捉えられる。

PTSで説明できる文例の語順をもう少し挙げておく。

   我洗衣服煮 。(母は私の為に洗濯、料理をしてくれる)

      母は、(先ず)私の為に(という意思をもって)洗濯と料理をする。

     *母は、(先ず)洗濯や料理をして、私の為に(なる)

  他想明年去中国留学。(彼は来年中国に留学しようと思っている)

      彼は(先ず)考える 来年(になったら)行く 中国留学へ。

これまで述べたように、教室現場で教える側と学習する側にとって分かりやすく納得ができる説明 としてPTSを紹介した。どのような言語理論も未だ完全ではなく例外的な表現(文例)が存在する。

中国語においても天候を表す文は語順の倒置表現として学習者に紹介するのが常套であるが、「睡上 床去(ベッドに上がって寝る)」などの表出した語順がPTSに反した文例を挙げて分析しPTS理論 が適応することを検証している17。理論的な完全性は重要であるが、初級学習者には、「(先ず)睡眠(の ために)床に上がって行く」と当面解説することで納得できると考える。

4. 疑問詞と「疑問代詞」について

 現在、大学で使用されている初級中国語の教科書は多くの場合、対話(ダイアローグ)形式で文型 が日常会話で発される形式で紹介されている。対話形式をとると疑問文(問い掛け)が必要となり、

それに対する回答で肯定否定も学ぶ。中国語の疑問文を提示する際に「疑問詞」として「疑問代詞」

を紹介、解説している。しかし、疑問詞がVO言語である英語に現れる語彙で疑問詞自体が文全体へ

(11)

の影響(語順の変化)を起こす指標であることを忘れている。中国語がVO言語でありながらOV言 語である日本語に近い特徴を持っている顕著な文法的特徴が疑問文における疑問代詞である。

 

  昨日、彼は 誰と 何処に行きましたか。

     彼は 私と 公園に行きました。

 昨天 他 跟 (一起)去哪儿 / 什么地方)?

    他 跟我(一起)去公园。

 上述の日本語の疑問文、それに対する返答文、中国語の疑問文および返答文が示している。

語順と返答となる語句の位置を観察すると一目瞭然である。つまり提示した文型の聞きたい情報部分 を特定の語句で代替している。返答はその代替された語句を入れ替えている。

このような代替が行われる点において中国語と日本語は共通の特徴を持っている。代替によって語順 が変化することもなく基本文型は維持される。

一方、英語の場合は明らかに語順全体に影響を与える。英語では疑問文を構成する独特の品詞と しての特徴を有している。

   Who/Whom did he go with, and where did he go?        He went to the park with me.

 以上のことから日本語および中国語における疑問文を構成する所謂「疑問詞」は、「疑問詞」と呼 ぶよりは代名詞と同様な特徴を観察できる。「疑問代詞」と称することと文中での働きを説明するこ とが重要だと認識する。基本文型を確実に習得し、質問したい語句を疑問代詞に置き換える。返答文 は同一文型を反復するように疑問代詞を適当な語句に入れ替える。第一人称と第二人称に関わる質問 文は当事者である人称に入れ替える必要がある。

 

   あなたは何を買いますか。 ⇒ 私は リンゴ を買います。

   你 什么? ⇒ 我 苹果

 中国語も日本語も基本文型と疑問代詞の習得が如何に重要かはこのような対話形式が日々のコミュ ニケーションに見られることからも明白である。教科書の構成も対話形式で展開されている。コミュ ニケーションの円滑さを求めるあまり、省略された短文や単語に終始した会話文を多用する教科書は 自然な日常会話を彷彿させるが、初級の学習者にとって果たして有益であるか疑問を持たずにはいら

(12)

れない。

結びに替えて

 昨今の中国語初級教材の変化は著しいものがあった。音読に終始した数十年前の教材から日常に聞 かれるコミュニケーション重視の教科書に変わってきた。会話表現の実際は会話する当事者間で共有 されている情報、前提が存在し多くの部分が省略され、短い文、時には一単語のみで会話が成立する。

しかし、中国語に限らず初級レベルを学習する場合、基本文型の習得が重要であると思える。例えば、

会話する相手の機嫌が悪い場合や、外国人を好ましく思っていない場合、返答や質問が短い文や単語 で済ますことが得策だろうか。短文や単語のみでの会話は、高圧的な印象や反感を招く恐れが十分に ある。完全な文型は情報を十分に提供し、丁寧な印象を与える18

 中国語が孤立語であること、日本語と同様に疑問代詞によって疑問文を構成する点からも初級段階 では基本文型を確実に習得することが必須だと信じる。学習への動機を維持するためには、母語や既 習外国語である英語の言語の特徴を正の転移として活用すべきである。そのためにもPTSによる語 順理解を促していくことが効果的だと思う。

 沖縄国際大学の11クラス(1クラス平均40名)で1年の学習を終え2年目の中国語を履修する 30名の学生に語順の復習としてPTSに基づき語順解説を2年間行った結果、PTSを応用した解説 は有効だとの回答があり、実際に行った学期開始前の習得度テストと中間・期末に実施したテストで は語順に関連する誤答は激減した19。しかし、この結果が学習時間、蓄積された知識から導き出され ていて、PTSによるもだと断言できないことも事実である。

 

―――――――――――――

1 沖縄国際大学における履修1年目と2年目での習得度テスト結果による。

2 P5『仕事のための基礎中国語』荘厳・佐藤貴子など

3 望月(p.216)

4 アウグスト・シュライヒャーやカール・ヴィルヘルム・フォン・フンボルトに依る。

5 ジョーゼフ・グリーンバーグ

6 本章では沈力の研究会発表『中国語の語順と事象構造』を参照した。

7 Li &Thompson (p.26) では中国語はOV言語からVOへと変化したとする説(Thomas Givon) が記述されている。この変化が現代中国語がVO、OV言語の両方の特徴を持つ根拠の一つとされる。

8 相原(P82)“在”は動詞として分類されるが、文中の位置によっては“介詞(前置詞)”として機能し、

OV言語の日本語では“格助詞(後置詞)”となる。

9 日本語の「か」に関しては半藤、中国語に関しては樊・市瀬および井上を参照した。

10 鈴木(p14)で紹介されている表1は、英語や日本語における品詞や文成分を比較対照すること

(13)

で中国語の文成分との差異や全体像を把握するのに役立つ。

11 遠藤紹徳、船田秀佳、植田一三、高田直志など

12 専門的に中国語を学ぶには、中国語の文法用語への理解は絶対に必要となってくる。

13 形容詞の単音節語彙の場合、文節は不安定で“很”を加え2音節化で安定傾向がある。

14 Tai, James H-Y. (1985) ‟Temporal sequence and Chinese word order”. Iconicity in Syntax:

Typological Studies in Language, 6 (p. 49), Stanford.

15 鈴木p.20 図1を転写、加工

16 James Huang(1982)、沈力(p17)の孫引き。

17 島村典子は「現代中国語の逆行型述補構造について」と題し「原因→結果」の関係においてPTS に反しないことを論じている。

18 Iconicityに於いて、敬語葉の文の長さが総じて長くなることが指摘される。

19 プリテストでは語順に関しては50%、中間では85%の正答率、学期末では78%と減少した。

参考文献

樊冰・市瀬智紀 (2011)「日本語の終助詞と中国語の語気助詞の対応に関する一考察 -日本語教科書における終助詞「よ」「ね」「よね」を例に-」

『宮城教育大学国際理解教育センター年報』第7号

半藤英明 (2003)「文末「か」構文の意味的体系」『熊本県立大学文学部紀要』第10巻 井上優 (2013)「きもちと文末助詞」中日理論言語学研究会 第32回

沈 力 (2007)「中国語の語順と事象構造」 中日理論言語学会 第9回

輿水優 他 (2007)『中国語初級段階学習指導ガイドライン』中国語学会学力基準プロジェクト委       員会

相原茂 編(1989)『中国語学習ハンドブック』大修館書店     監訳 (1997)『現代中国語文法総覧』くろしお出版

    刘月 潘文娯 故韡著) 片山博美・守屋宏則・平井和之 訳)

島村典子 (2013)「現代中国語の逆行型述補構造について」『研究論叢』(p141-)京都外国語大学 Li & Thompson (1981)“MANDARIN CHINESE A functional Reference Grammar”U. of

California

王占華 他 (2011)『中国語概論』駿河台出版社

望月八十吉 (1981)『中国語研究学習双書13 中国語と日本語』光生館 香坂順一 (1991)『中国語研究学習双書7 中国語の単語の話』光生館

(14)

鈴木進一 (2014)「中国語語順指導について―標準的語順のシステム化―」『神奈川大学 心理・教 育研究論集』pp.13-21

現代漢語詞典 第5版 商務印書館(2005) 中国社会科学院語言研究所詞典编辑室

An approach for understanding the word order in Mandarin Chinese

Satoshi KANEMOTO

Abstract

This paper shows the contrastive study about the word order among the three different languag- es; Japanese as an agglutinative language, English as an inflectional language, and Chinese as an isolating language. Although Chinese shows VO word order, it also shows similarity to Japa- nese in terms of noun modification, and function of the question and answer sentence. Applying the Principle of Temporal Sequence to Chinese language, the word order of Chinese can be ex- plained as simpler and easier to understand to learners and teachers.

参照

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