下肢麻痺者のための歩行補助装具システムの開発
渡邉 恭弘*1 奥村 克博*1 石田 康弘*1
立石 憲治*2 蜂須賀 研二*3 和田 太*3 中西 貴江*3 荒井 光男*4
Development of the Stance-Control System for Lower Extremity Dysfunction
Yasuhiro Watanabe, Katsuhiro Okumura, Yasuhiro Ishida,
Kenji Tateishi, Kenji Hachisuka, Futoshi Wada, Yoshie Nakanishi and Mitsuo Arai
下肢麻痺者は膝折れを生じるため歩行が困難である。歩行障害の対策として,膝関節を伸展位に固定する長下肢 装具を使用する。長下肢装具により膝折れは防止できるが,足の振り出し時に膝の屈曲がないため歩行が困難であ る。そのため患者から,立脚期に膝を伸展位に固定し,遊脚期に自由に屈曲できる膝継手の要望が強い。本開発で は,装具の足圧パターンから下肢運動を推定し,歩行タイミングに合わせて膝ロック状態を制御する歩行補助装具 システムの開発を行った。
1 はじめに
下肢麻痺者は膝折れを生じるため歩行が困難である。
歩行障害の対策として,図1のような長下肢装具を使 用する。膝継手によって膝関節を伸展位に固定するた めに,リング状になった金具で固定する輪止め式や,
膝を完全伸展させると自動的に固定になり,継手後方 のレバーを引き上げることで固定を解除するスイスロ ック式等を使用する。これら膝継手を使用することで 膝折れは防止できるが,足の振り出し時に膝の屈曲が ないため歩行が困難である。
そのため患者から,立脚期に膝を伸展位に固定し,
遊脚期に自由に屈曲できる膝継手の要望が強い。本開 発では,装具の足圧パターンから下肢運動を推定し,
歩行タイミングに合わせて膝ロック状態を制御する歩 行補助装具システムの開発を行った。
図1 長下肢装具,膝継手について
2 開発方法
長下肢装具を使用する下肢麻痺者の要望に対し,表 1(2)の振り子式膝継手1)があり,振り出すタイミング に合わせて膝ロックを解除するが,予期せぬ解除が起 こるため日本では普及していないのが現状である。ま た,表1(3)のパワーアシストスーツ2)は安定動作が可 能だが,駆動時間と価格の問題があり,日常使用で普 及するにはまだ時間がかかる。そこで,表1(1)のよう に,誤作動に対処するために電子式とし,低価格で既 存の長下肢装具に容易に後付装着できるシステムを目 標とする。
表1 従来製品との比較
(1)開発手法 (2)振り子式 (3)パワーア シストスーツ
①方式
歩行に合わ せて膝ロッ クを制御
振り子の動 きで膝ロッ クを解除
歩行に合わせ て下肢全体を
駆動
②取付 方法
長下肢装具 に後付
膝継手と 交換
長下肢装具と 代替使用
③駆動
時間 4 日以上 制限無し 60~90 分
④重量 800g(膝継
手含む) 1kg 12kg(バッテ リ除く)
⑤価格 25 万円(膝
継手含む) 10 万円 200 万円
本開発では,長下肢装具で一般的に使用されるスイ スロック膝継手(図 1 参照)を利用する。スイスロッ ク膝継手は常にバネ力で膝をロックする力が働いてお り,このロックを解除する機構だけにすることで,非 輪止め式 スイスロック式
膝継手
長下肢装具 ※(社)日本義肢協会より転載
*1 機械電子研究所
*2 アイクォーク株式会社
*3 産業医科大学 医学部
*4 有限会社荒井義肢製作所
常にシンプルな設計が可能である。よって,ロック解 除用サーボモータ,下肢運動を推定するための足裏セ ンサ,および歩行制御用マイコンのみで構成し,図 2 のように既存の長下肢装具に後付装着する。
図2 歩行補助装具システムの構成
スイスロック膝継手は,図3①のようにバネ力でロ ックされており,装具の足圧パターンから下肢運動を 推定し,足の振り出し時に図3②のようにモータでロ ックを解除することで,図3③のように膝の屈曲が起 き,スムーズな足の振り出しが可能となる。その後は,
図3④のようにバネ力によって再度ロックがかかる。
図3 ロック解除のメカニズム
3 結果と考察
本開発で試作した歩行補助装具システムを既存の長 下肢装具に後付装着したものを図4に示す。装着者の 負担を減らすために,重量物は腰以上の位置に配置す るのが望ましいので,歩行制御用マイコンやサーボモ ータ,電源等をまとめてコントローラとし,ワイヤー 方式で分離した。この方式により,長下肢装具自体に
はワイヤーやロックジョイント金具,足裏センサのみ 装着するのみであり,重量増加は100g未満に抑えた。
図4 歩行補助装具システムを装着した長下肢装具
健常者2名,およびポリオ患者2名で,平地歩行にて 正常に作動することを確認した。また,目的とした動 作以外の動作「平地歩行,横歩き,後ろ歩き,台の上 の物を拾う,その場で回転する,急に立ち止まる」で 膝継手が誤作動(ロック解除)しないことを確認した。
今後の課題としては,長時間駆動の検証や,足裏セ ンサの耐久性の検証,サーボモータの静音化である。
また,症例により足圧変化と荷重タイミングの調整や 基準化を検討する必要がある。
4 まとめ
本開発では,装具の足圧パターンから下肢運動を推 定し,歩行タイミングに合わせて膝ロック状態を制御 する歩行補助装具システムの開発を行った。既存の長 下肢装具のスイスロック膝継手を利用することで,非 常にシンプルで効果的なシステムを可能とした。ポリ オ患者による検証実験にて有用性を実証した。
謝辞
本開発は,独立行政法人科学技術振興機構(JST),
およびロボット産業振興会議の助成を受けて行った。
深く感謝いたします。
5 参考文献
1)BASKO HEALTHCARE:SPL 2 Hinge system,
http://www.basko.info/
2)CYBERDYNE株式会社:ロボットスーツHAL®, http://www.cyberdyne.jp/
②ロック解除状態
モータで引く ロック解除
③膝折状態 バネ力でロック
①ロック状態
④ 膝 の 再 ロ ッ ク 後付装着
歩行制御用マイコン ロック解除用 サーボモータ
足裏センサ
足裏センサ スイスロック
コントローラ
(マイコン,サーボモータ,電源内蔵)