論文内容要旨
論文題名 Coupling of dyspnea perception and occurrence of tachypnea during exercise(健常人における運動負荷時の 呼吸状態と呼吸困難感の相関性に関する検討 )
掲載雑誌名 Journal of Physiological Sciences(2016 年掲載予定) 生理系生理学(生体調節機能学分野) 塚田節郎
【背景】健常人での運動負荷換気応答試験では、代謝の亢進とともに換気 量と呼吸困難感が増大する。換気量の増大は呼吸数の増加と1回換気量の 増加によりもたらされるが、それらには特有の呼吸パターン変化があるこ とが知られている。一般的には、最初に1回換気量が上昇し、ある特定の 運動負負荷量に到達すると呼吸数が急激に増加する(呼吸数閾値)。一方、
運動負荷中の呼吸困難感も特有の変化を示し、ある特定の運動負荷量に到 達すると急激に増加し始める(呼吸困難閾値)。先行研究においては、再 呼吸法による高二酸化炭素血症時の換気応答においても運動時と同様な 呼吸パターン変化が生じ、主観的指標である呼吸困難感閾値と客観的指標 である呼吸数閾値の相関性と一致性が示されている。つまり同じ高二酸化 炭素血症レベルに呼吸困難感と呼吸数が急激に増加した。本研究では運動 負荷時においても、呼吸困難感閾値と呼吸数閾値は同じ運動負荷レベルで 増加するのかどうか、両者の一致性を検討した。
【方法】健常成人 27 人に対し、サイクルエルゴメータを用いて漸増運動 負荷を行い、負荷中の呼吸困難感と換気パラメータ(呼吸数、1回換気量、
分時換気量、酸素摂取量、二酸化炭素排出量)を測定した。呼吸困難感お よび各パラメータは対応する運動負荷量(酸素摂取量)に対してプロット した。Two-segment linear regression を用いて各パラメータの屈曲点に おける酸素摂取量を求め、それぞれのパラメータの閾値とした。呼吸困難 感閾値と各パラメータの閾値の一致性について級内相関と Bland–Altman プロットを用いて検討した。
【結果】呼吸困難感、呼吸数、分時換気量、二酸化炭素排出量は閾値(屈 曲点)で急激な増加を示した。一方、1回換気量だけは運動開始直後から 急激に増加し、閾値でプラトーとなった。平均値の比較では、1回換気量 閾値は呼吸困難感閾値よりも有意に高い値を示したが(p < 0.01)、呼吸 困難感閾値と他の閾値の間に有意差は認めなかった。呼吸困難感閾値と呼
吸数閾値は最も良い相関を示し (相関係数 0.75、p < 0.001)、級内相関 係数(0.71、p < 0.001)および Bland–Altman プロットから呼吸困難感閾 値と呼吸数閾値の良好な一致性が示された。
【考察】健常人の漸増運動負荷時において、呼吸困難感閾値と呼吸数閾値 に良好な一致性を示した。つまり呼吸困難感と呼吸数は同程度の運動負荷 量で急激に増加し始めることが示唆された。安静時において不快感が呼吸 数を増大させるという情動性呼吸反応に関する多くの先行研究があるこ とから、運動負荷時においても、呼吸困難感が不快感を誘発し、それがあ る閾値に達すると呼吸数増加という情動性呼吸反応を引き起こす可能性 がある。