Mem,ResearchInst.B.O.S.T.KinkiUniversityNo.2:19〜25(1999) 19
ニ ホ ンザ ル 繁 殖 シ ス テ ム へ の 顕 微 受 精 の 応 用
細 井 美 彦 、鳥 居 隆 三1、 増 田 善 行2、 佐 伯 和 弘 、
松 本 和 也 、 加 藤 博 巳、 入 谷 明
要 約
野 生 動 物 か ら実 験 動 物 化 が進 め られ て い る ニ ホ ンザ ルを用 い て、 人 工 生 殖 技 術 と して 開 発 さ れ た 顕 微 授 精 に よ る胚 生 産 シ ステ ム が機 能 す る事 を確 認 し、 そ こに含 ま れ る問 題 点 を検 討 した。 実 験 で は、9頭 の ニ ホ ンザ ル を使 い、 全 部 で108個 の卵 子 を回 収 した。 しか し、 そ の うち成 熟 した卵 子Class1は 、36個 で あ った。 過 剰 排 卵 処 理 に よ る卵 胞 と回 収 卵 子 の 増加 は認 め られ る ものの 、 卵 子 の 成 熟 率 は33%と 低 く、
ま た回 収 さ れ た成 熟 途 上 卵 と未 成 熟 卵 の培 養 後 の 成熟 率 は10%と 非 常 に低 か っ た。 顕 微 授 精 を 行 っ た 卵 子 は36個 で 、15個 に前 核 が確 認 で きた。 ま た、15個 の前 核 期 卵 を培 養 した 結 果 、11個 が 分 割 した 。 この うち、2個 は2頭 に移 植 され たが 、残 る9個 は培 養 さ れ、2個 は桑 実 期 胚 ま で 発 育 した 。 これ らの 結 果 は、 ヒ トの人 工 生 殖 技 術 が ニ ホ ンザ ル で有 効 で あ る こ とを示 唆 して い るが 、 実 用 化 に は 改 善 さ れ な くて は な らな い点 が多 い と考 え られ る。
緒 言
現 在 、 ヒ トで人 工 生 殖 技 術(ART)と 呼 ばれ る 「母 体 か らの卵 子 の回 収 方 法 、 卵 子 の 体 外 成 熟 、 そ し て 顕 微 授 精 を含 め た授 精 方 法 と胚 培 養 な らび に移 植 法」 の一 貫 した シ ス テ ム が 、 電 子 機 器 の 発 達 や 分 析 技 術 の改 善 な らび に他 の先 端 技 術 の複 合 化 に よ り著 し く進 歩 して お り、 絶 滅 の 危 機 に瀕 した 動 物 の 繁 殖 に直 接 応 用 す る こ とが で き る一 っ の手 段 とな って い る(7)。 特 に ヒ トに生 殖 系 列 が 近 いサ ル類 で 、 受 精 生 理 学 的特 性 が研 究 対 象 に され て お らず不 明 確 で 、 体 外 受 精 条 件 の検 討 の 余 地 の な い絶 滅 危 惧 種 で は 、
この シス テ ム が大 きな 役割 を 果 た す可 能 性 が 高 い。 これ を検 証 す る た め に、 野 生 動 物 か ら実 験 動 物 化 が 進 め られ て い るニ ホ ンザ ルを用 い て、ARTの 中 で も顕 微 授 精 に よ る胚 生 産 シ ステ ム が機 能 す るか ど うか、
そ して さ らに そ の 問題 点 を検 討 した。
近 年 、 生 殖 生 理 学 の 分野 で体 外 に お け る配 偶 子 の 操 作方 法 が確 立 され 、 そ れ に伴 い精 子 の 顕 微 授 精 も 著 しい発 展 を遂 げ た(5)。1965年 か ら1980年 にか けて 、 マ イ ク ロマ ニ ピュ レー タ ーで精 子 を 卵 子 へ 注 入
し、 配 偶 子 の膜 融 合 や 卵子 の活 性 化 メ カ ニ ズ ム、 オ ス と メ スの 前 核 形 成 、 精 子 のDNAテ ンペ レ ー トの 利 用 な ど受 精 初 期 の生 理学 的 な変 化 を研 究 す る手 法 が確 立 して きた。 しか し、 こ の よ うな 基 礎 研 究 の み な らず 、 哺乳 動 物 の体 外受 精 研 究 と ヒ ト不 妊 症 治 療 の 体 外 受 精 プ ロ グ ラ ム の急 速 な 発 展 に と もな っ て 、 精 子 の運 動 能 力 が欠 如 す る場 合 の 受 精 な どで 、 これ らの 技 術 が 新 た な受 精 法 と して 注 目 され た(7)。
1980年 代 に入 り、 ヒ ト以 外 の動 物 に お け る胚 の マ ニ ピュ レー シ ョン操 作 に よ る基 本 的 な 知 識 と技 術 が 蓄 積 され、 哺乳 動 物 にお い て も、 透 明帯 の下 に精 子 を注 入 した り、 透 明 帯 の一 部 を 破 壊 して 、 受 精 効 率 を 上 げ る顕 微 授 精(SUZI)に よ る受 精 が行 われ たが 、 一 定 の成 果 が得 られ なか った。 そ こ で 、 顕 微 授 精 で
も直 接 卵 細 胞 質 へ精 子 を 注 入 す るICSI(lntra‑CytoplasmicSpermInjection)が 注 目さ れ た。
初 期 のICSIの 実 験 は、 ウニ や カエ ルで 為 さ れて お り、正 常 な産 子 も得 られ て い るが 、 哺 乳動 物 で は、
ハ ム ス タ ーの 卵 子 を使 って ヒ トや マ ウ スの前 核 の形 成 に関 す る研 究 が 中心 で あ った。 しか し、1986年 に ウ サ ギで 精 子 のICSIに よ る産 子(2)が 得 られ て以 来 、ウ シ、 ヒ ト、マ ウスで 産 子 が 得 られ た(1,9,11)。
近畿大学生物理工学部遺伝 子工学科、生物理工学研究所 1.滋 賀医科大学実験動物施設
2.滋 賀医科大学医学部産婦 人科
これ らの 実 験 か ら、ICSIが 動 物 の繁 殖 シス テ ム に広 く応 用 され る可 能 性 が示 唆 され た。 しか し、 ヒ ト以 外 の 動 物 のICSIに お いて は、 効 率 よ く受精 を起 こす た め に は、 精 子 の 注 入 時 の 卵 母 細 胞 の活 性 化 が 必 要 な こ と も知 られ て い る(8)。 そ こで 、 本実 験 で は、 ニ ホ ンザ ル にお い て も ヒ トと同 じ条 件 でICSIを 試 行 で き るか ど うか を検 討 した。
材 料 と 方 法
滋 賀 県 下 で 捕 獲 さ れ た 個 体 を 滋 賀 医 科 大 学 実 験 動 物 施 設 で 、 学 内 実 験 動 物 飼 育 規 則 に 準 拠 し て 飼 育 さ れ て い る 性 成 熟 個 体 を 実 験 に 供 試 し た 。 メ ス は年 齢5〜16歳 、 体 重5,0〜9.2kgの9頭 、 オ ス は 年 齢15歳 以 上 、 体 重11.6〜13.5kgの2頭 を 用 い た 。 飼 育 環 境 は 、 温 度23±1℃ 、 湿 度55±5%、 照 明 は12L、12D、
個 別 ケ ー ジ 、 午 前 に サ ル 用 固 形 飼 料(20g/kg/day)、 午 後 に サ ッ マ イ モ(50g/頭)、 バ ナ ナ(1本/
頭)、 飲 水 はadlibitumaccessと し た。
メ ス 個 体 は 生 理 出 血 を 確 認 して 性 周 期 を 決 定 した 。 卵 子 の ドナ ー と な る 個 体 は 、 生 理 を 確 認 し た 日 に 、 以 後 の ホ ル モ ン投 与 に よ り 自 己 の 下 垂 体 か らの 生 理 的 な フ ィ ー ドバ ッ ク に よ る 下 垂 体 ホ ル モ ン の 分 泌 を 引 き起 こ さ な い よ う を 下 垂 体 脱 感 作 を 誘 起 さ せ る た め 、 効 果 が 長 期 間 持 続 す るGnRHア ゴ ニ ス ト (leuprelin;TakedaPharm.Co。Ltd.,Osaka,)0.75〜3.75mg/頭 を 投 与 した 。 移 植 す る 個 体 は 、 性 周 期 の 記 録 か ら排 卵 期 に あ る 無 処 理 の 個 体 か ら 、 腹 腔 鏡 下 で 排 卵 点 を 確 認 し て 、 胚 の 移 植 日 に 排 卵 後
2‑3日 目 と な る 個 体 を 選 択 し た 。
過 剰 排 卵 に 供 試 す る メ ス は 、 卵 母 細 胞 の 回 収 予 定 日 の8日 前 か ら、1日1回25iu/kg/dayPMSGを
7日 間 皮 下 に 注 射 し、 最 終PMsGか ら24時 間 後 に400iu/kghcGを 筋 肉 注 射 し た 。HcGを 投 与 後40時 間 で 卵 母 細 胞 供 試 メ ス を 麻 酔 し、 ラ バ ロ ス コ ー プ で 卵 胞 を 吸 引 し卵 母 細 胞 を 回 収 し た 。 回 収 の 溶 液 は
3%BSAを 含 ん だPBS溶 液 を 、 吸 引 用 の 注 射 筒 は2m1の シ リ ン ジ(テ ル モ)を 用 い た 。
回 収 さ れ た 卵 母 細 胞 は 、 パ ラ フ ィ ンで 覆 わ れ た200μ1の3㎎/m4BSAを 含 ん だBWW溶 液 ス ポ ッ ト中 に集 め た 後 、2時 間 、37℃ 、5%CO2の 条 件 下 で 培 養 し た 。 卵 子 の 成 熟 率 を 確 認 す る た め 、801Uの hyaluronidase(Sigma,Japan)を 含 むPBS溶 液 中 で1分 間 さ ら した 後 、 ピ ペ ッ テ ィ ン グ で 卵 丘 細 胞 を 除 去 し た。 回 収 し た 卵 母 細 胞 は 、 倒 立 顕 微 鏡 下 で 、 以 下 のClass1‑4の4種 類 に 分 類 し た 。
Class1一 第1極 体(1stPB)を 持 つ 成 熟 卵 子 、
Class2‑PBと 卵 核 胞(GV)が 観 察 さ れ な い 成 熟 途 上 卵 子 、 Class3‑GVが 観 察 さ れ る 未 成 熟 卵 子 、
Class4一 形 状 の 変 形 が 著 し い か 、 細 胞 質 が 変 成 、 退 行 的 変 化 を 示 して い る 卵 子
Class1は 確 認 後3時 間 以 内 に 、 顕 微 授 精 に 供 試 した 。Class2とClass3の 卵 子 は 更 に パ ラ フ ィ ン で 覆 わ れ た200μ1の3mg/m4BSAを 含 ん だBWW溶 液 ス ポ ッ ト中 に 集 め た 後 、37℃ 、5%CO2の 条 件 下 で 継 続 培 養 し た 。 培 養i後24時 間 と48時 間 で 成 熟 状 態 を 確 認 し、 成 熟 し た も の は そ の 時 点 で 、 顕 微 授 精 に 供 試
した 。Class4の 卵 子 は 受 精 に は 供 試 しな か っ た 。
精 子 は 、 滋 賀 医 科 大 学 実 験 動 物 施 設 で 飼 育 さ れ て い る性 成 熟 し た 雄 固 体 を 麻 酔 か で 電 気 射 精 さ せ 、 使 用 した 。 通 常 の 射 出 精 液 は、 ご く少 量 の 液 体 精 子 と凝 固 物 に 別 れ る が 、 こ れ を15m1の 試 験 管 に い れ 、37℃ 、
5%CO2の 条 件 下 で30分 間 培 養 し液 化 を 試 み た。 液 化 し た 精 液 を 卵 黄 ・グ リセ リ ン加 精 子 保 存 液(TYB;
ア ー バ イ ン)を 用 い て 希 釈 し、 濃 度 を1x108sperm/mlに 調 整 し、 液 体 窒 素 蒸 気 中 でToriiら の 方 法 (15)で 凍 結 保 存 した 。 凍 結 精 子 を30秒 間 空 気 中 で 保 持 した 後 、37℃ の 温 水 中 に 漬 け て 融 解 し た 後 、 凍 結 融 解 後 の 精 子 の 運 動 性 が50%以 上 あ る もの を 実 験 用 に 保 存 した 。
凍 結 融 解 し た 精 子 は 、1mMのcaffeineと1mMのdbcAMPを 含 む3㎎/m2BSA添 加BWW溶 液
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5m1で 希 釈 さ れ ・ 遠 心 後 、 上 澄 み を 除 去 し、 同 じ溶 液 を1ml加 え て30分 間swimupし 、 運 動 性 を 検 査 し た 。 運 動 性 の 喪 失 と 異 常 が 多 い場 合 は、 別 個 体 の 精 子 を 再 度 同 様 の 処 理 を し て 、 条 件 に 会 う も の を 供 試 した 。
顕 微 授 精 は、 ナIJシ ゲ の マ イ ク ロ マ ニ ュ ピ ュ レ ー タ ー を 装 備 した オ リ ン パ スIX70倒 立 顕 微 鏡 下 で 行 っ た 。 手 順 は 、 ま ず150mmデ ィ ッ シ ュ に 、 ス ポ ッ ト1:希 釈 精 子 を10μ1、 ス ポ ッ ト2:10%ポ リ ビ ニ ル ピ ロ リ ド ン(PVP:Mr360,000)を 含 ん だBWW溶 液 を10μ1、 ス ポ ッ ト3:洗 浄 用3mg/m4BSA添 加 BWW液10μ1と ス ポ ッ ト4:卵 子 操 作 用 の3mg/m4BSA添 加BWW溶 液10μ1を 順 に 置 き、 表 面 を ミ
ネ ラ ル オ イ ル で 覆 い 乾 燥 を 防 ぎ、 顕 微 授 精 の ワ ー キ ン グ ・フ ィ ー ル ド と し た 。 な お 、 本 実 験 で は 、 加 温 ス テ ー ジ を 用 い な か っ た 。
注 入 用 の ニ ー ドル は 、 ヒ トICSI用 の 傾 斜 角 度30度 の も の を 利 用 し た(メ デ ィ コ ン イ ナ タ ー一ナ シ ョナ ル)。
直 径 は、 外 径7〜8μm、 内 径5〜7μmで あ った 。 こ れ を 動 作 精 度 の 高 い ア ル カ テ ル シ リ ン ジ(Research Instrument社)に 接 続 した 。 卵 子 保 持 用 ニ ー ドル は、 同 じ く ヒ トICSI用 の 傾 斜 角 度30度 の も の 、 あ る い は マ グ ネ テ ィ ッ ク ・プ ラ ー(PN‑30、 ナ リ シゲ)を 用 い て 作 製 した。 こ れ は、 外 径 約100μm、 先 端 の 内 径 約15
μmの もの を作 製 し、2000μ1の エ ア ー タイ トシ リ ン ジ を付 け た ナ リシ ゲ の イ ン ジ ェ ク タ ー に 接 続 した。
精 子 は 、 ス ポ ッ ト1:で ヒ トICSIの 基 準 に 従 い 運 動 性 の あ る も の を 選 び 、 吸 引 し て 、 ス ポ ッ ト2へ 移 し、 排 出 し た 。 ス ポ ッ ト2で はPVPの 粘 性 に よ り、 精 子 運 動 性 が 低 下 す る 。 そ の 精 子 尾 部 を イ ン ジ ェ ク シ ョ ン ニ ー ドル で 強 打 し、 精 子 の 運 動 性 を 停 止 さ せ 、 粘 性 の 高 い 溶 液 と と も に 吸 引 し、 ス ポ ッ ト4へ 移
し た 。 成 熟 卵 子 を ス ポ ッ ト4に 入 れ 、 保 持 用 ニ ー ドル で 極 体 が 注 入 用 ニ ー ドル で 壊 さ れ な い よ う6時 あ る い は12時 の 位 置 に 固 定 し た 。 そ の 後 、 注 入 用 の ニ ー ドル の 先 端 に 精 子 を 置 き 、 卵 子 へ 刺 し込 ん だ 。 透 明 帯 の 通 過 を 確 認 後 、 卵 細 胞 膜 を 吸 引 す る 。 膜 の 断 裂 が 起 こ っ た の を 確 認 し て 、 注 入 用 ニ ー ドル 内 の 内 容 物(精 子 と卵 子 の 細 胞 質)を 注 入 す る。 この 操 作 を 繰 り返 し行 う。 一 回 の 操 作 で2‑3個 卵 子 に 顕 微 授 精 を 行 う。 精 子 や 卵 細 胞 質 に よ り先 端 の 内 側 が 汚 れ た 場 合 は 、 ス ポ ッ ト3で 洗 浄 す る。 顕 微 授 精 が 終 了
した 卵 子 は す ぐ に 培 養 器 へ 戻 さ れ て 、37℃ 、5%CO2の 条 件 下 で 培 養 を 開 始 し た。
顕 微 授 精 の 翌 日 、Day1(15時 間 後)に 倒 立 型 ホ フ マ ン微 分 干 渉 顕 微 鏡 で 前 核 を 確 認 し た 。 ま た 、 前 日 、 未 成 熟 卵 と して 判 定 の あ っ た 卵 子 の 成 熟 度 を 観 察 し、 極 体 を 持 っ 第 二 成 熟 分 裂 中 期 に 達 し た も の が あ れ ば 、 前 日 と 同 様 の 処 理 で 顕 微 授 精 を 行 っ た 。
Day2(39時 間 後)に 倒 立 顕 微 鏡 で 前 核 と分 割 を 確 認 す る 。 ま た 未 成 熟 卵 子 の 成 熟 度 を 観 察 し、 極 体 を 持 っ 第 二 成 熟 分 裂 中 期 に 達 し た もの が あ れ ば 、 前 日 と 同 様 の 処 理 で 顕 微 授 精 を 行 な う。
移 植 す る 個 体 は 、 腹 腔 鏡 下 で 排 卵 点 を 確 認 して 、 成 熟 卵 子 と して 回 収 さ れ た 卵 子 で 分 割 が 認 め ら れ た 受 精 卵 を 排 卵 点 の あ る 側 の 卵 管 へ 腹 腔 鏡 を 用 い て 、 非 切 開 に よ る 移 植 を 行 っ た。 移 植 後6‑8週 間 で 画 像 診 断 に よ る 妊 娠 確 認 を 行 っ た 。
結 果
回 収 卵 と 成 熟 率:9頭 の ニ ホ ンザ ル を 使 い 、 全 部 で108個 の 卵 子 を 回 収 した 。 しか し、 そ の う ち 成 熟 し た 卵 子Class1は 、36個 で あ っ た 。 回 収 卵 数 は 、 平 均10,8個 と過 剰 排 卵 処 理 に よ る 増 加 は 認 め られ る も の の 卵 子 の 成 熟 率 は33%と 低 か っ た 。
体 外 成 熟 率:27個 の 成 熟 途 上 卵Class2と32個 の 未 成 熟 卵Class3を 培 養 した が 、 成 熟 率 は6個 、10%
と非 常 に 低 か っ た 。 特 に 未 成 熟 卵 子Class3は 、 本 実 験 条 件 下 で は 、 ほ と ん ど 成 熟 し な か っ た 。 体 外 成 熟 し た 卵 子 は 、 細 胞 質 が 不 均 一 で 、 状 態 が 悪 く顕 微 授 精 が 出 来 な か っ た 。
前 核 率:Class1で 、 顕 微 授 精 を 行 っ た 卵 子36個 の う ち 、15個 に前 核 が 確 認 で き た 。(Table.1)
体 外 培 養 率:Class1の 前 核 期 卵15個 の う ち 、11個 が 分 割 した 。 こ の う ち 、2個 は2頭 に 移 植 さ れ た 。 ま た 、 移 植 出 来 な か っ た 分 割 胚 は 、 さ ら に 培 養 を 続 け 、Day5ま で 連 日 観 察 し た 。 そ の 間 に 培 養 液 は Day3、 交 換 した 。 培 養 した9個 の う ち2個 は 桑 実 期 胚 ま で 発 育 した 。(Table.1)し か し、 移 植 さ れ た 雌 は 、 全 て 妊 娠 が 成 立 しな か っ た 。
Table. 1 In vitro fertilization by ICSI using live spermatozoa of Japanese monkey
考 察
ニ ホ ンザ ル に お け る過 剰 排 卵 シス テ ム は、Toriiら に よ って 報 告 され て い る(13)。 本 実 験 で も、 卵 胞 の 誘 導 が 安 定 して10個 以 上 直 径3‑5mm以 上 のantralfollicleが 得 られ た の に比 べ て、 得 られ る成 熟 卵 母 細 胞 が 、3‑10個 と安 定 しな か った。 こ れ は、 ニ ホ ンザ ル が遺 伝 的 に斉 一 で な い こと に よ り ホ ル モ ンに 対 す る反 応 性 の差 が反 映 して い る可 能 性 が 高 い と考 え られ る。 ま た、 ヒ トで も年 齢 的 な 上 昇 が 卵 細 胞 の 質 を低 下 させ る こ とが 知 られ て い るが 、 本 実験 で使 用 した サ ル群 の年 齢 構 成 も問 題 と な るか も しれ な い。
特 に、 生 殖 寿 命 と個 体 寿 命 の 近 い野 生 動 物 で は、 老 齢個 体 で もホ ル モ ン反 応 が 正 常 で あ る可 能 性 も高 い と考 え られ る。 しか し繁 殖 の 成 功 率 を 考 え る と老 齢 個 体 の受 胎 効 率 的 を 下 げ た方 が 、 種 と して の 産 子 の 発 達 に 有 効 な 可 能 性 が 高 いの で 、 卵 母 細 胞 や 胚 の 質 を 下 げ る機 構 が 加 齢 と と も に働 く と も考 え られ る。
野 生 動 物 のARTを 考 え る と き、性 周 期 の 解 明 され て い な い状 態 で 過 剰 排 卵 を行 うた め 、 卵 子 の 質 や 成 熟 の 問題 は必 ず 伴 って くる可 能 性 が高 い。 今 後、 い か に効 率 よ く配 偶 子 を 回 収 す る か は大 き な 問 題 と な る だ ろ う。
本 実 験 で は、 ヒ ト過 剰 排 卵 シ ステ ム と同様 に ロ ング ア クテ ィ ングのGnRHに よ る下 垂 体 機 能 の抑 制 と 外 因 性 下 垂 体 ホ ルモ ンの 効 果 が有 効 な こ とを確 認 で き た。 この 事 は、 季 節 繁 殖 動 物 で あ る サ ル 類 が 、 下 垂 体 機 能 が抑 制 され て い る非 繁 殖 季 節 に も ホル モ ン感 作 に反 応 す る こ とを 示 唆 して い る(14)。 しか し、
ヒ トと異 な り特 徴 的 で あ るの は、 反 復 過 剰 排 卵 に お いて 同 一 の ホ ルモ ンが効 か な い こ とで あ る。 我 々 は 、 卵 胞 の成 長 誘 起 の た め に 、PMSG、hMG、FSHを 利 用 した。 こ れ ら は、 す べ て 反 復 して 使 用 す る と卵 胞 を 誘 起 で きな か った。 これ は、 各 過 剰 排 卵 処 理 で7回 も皮下 注射 を行 うた め抗 体 が で きて い る可 能 性 が 高 いが 、 抗 体 価 を測 った予 備 的 な実 験 で は これ を 証 明 す る こ とが で き な か っ た。 今 後 、 少 数 個 体 を効 率 よ く利 用 す るた め に も、 この問 題 を解 決 す る こ と は重要 で あ る。
ま た、 成 熟 率 が ヒ トほ ど上 が らず 、 細 胞 質 の 状 態 が 良 くな い の は、 種 差 に よ る も の と卵 胞 誘 起 とhCG の タイ ミング の問 題 が あ る か も しれ な い。 ニ ホ ンザ ルで は、 卵 胞 刺 激 ホ ル モ ン に よ る過 剰 な 卵 胞 の 誘 起 が 引 き起 こす で あ ろ う早 期 の エ ス トラ デ ィオ ー ル の 上 昇 が 、 初 期 に 発 育 を 始 め た 卵 胞 を 過 熟 状 態 に し、
hCGが 作 用 しな くな る可 能 性 を が推 測 され る。 そ の た め卵 子 は回 収 で きて も適 正 な 成 熟 状 態 に あ る もの
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は限 られ、 卵 胞 の一 部 は閉 鎖 し未 成 熟 卵 子 も体 外成 熟 す る こ とがで き な か っ た可 能 性 が 高 い。 今 後 これ らを 改善 す る た め に は、 過 熟 状 態 を な くす ため に ホル モ ン投 与 を減 ら し、 卵 胞 を絞 り込 む こ と に よ り質 の 良 い卵 子 を 少 数 回 収 す るか 、 あ る い は未 成 熟 卵母 細 胞 を過 剰 排 卵 の早 い時 点 で 回 収 し、 体 外 成 熟 で 成 熟 卵 子 を 得 る事 を検 討 す る必 要 が あ ろ う。 その た め に も、 ニ ホ ンザ ル 卵 子 や胚 の適 正 培 養 シ ス テ ム を 検 討 す る こ とが 重 要 とな る。
ヒ トと異 な り、 ニ ホ ンザ ルICSIの 前 核 形 成 率 は比 較 的低 い(4)。 これ は、 ウ シ な ど と 同 様 に 活 性 化 が 必 要 で あ る可 能 性 もあ る(12)。 ヒ ト以 外 の 動 物 のICSIが 比 較 的一 般 化 され な か っ た理 由 も、 こ の 授 精 条 件 の 設 定 に あ る と思 わ れ る(6)。 ニ ホ ンザ ルのICSIで 効 率 よ く受 精 を 起 こす た め に は、 精 子 の 注 入 時 に卵 母 細 胞 の活 性 化 が必 要 で あ ろ う。 正 常 な 受精 で は、 精 子 が卵 子 と膜 を融 合 した と き に 、 カ ル シ
ウ ム波 が 起 こ り、 オ シ リン と呼 ば れ る精 子 フ ァク タ ーな どに よ って、 長 時 間 に わ た り細 胞 内 カ ル シ ウ ム イ オ ンの 流 動 化 が起 こ り、MPF活 性 を下 げ て、 精 子 と卵 子 の核 が 、細 胞 質 の サ イ クル に合 わ され て い く (3)こ とが 知 られ て い る。 ヒ トに お い て は、 卵 子 側 も、 注入 され る精 子 側 も、 注 入 刺 激 以 外 の刺 激 を 必 要 と して い な い。 お そ ら く、 膜 を破 った際 に起 こ る一 時 的 な脱 分 極 と細 胞 外 液 の流 入 に よ る一 過 性 の カ ル シ ウ ム上 昇 な ど が、 通 常 の受 精 の カ ス ケ ー ドを開始 させ るに足 るので あ ろ う。 これ に比 べ 、 現 在 ま で 、
ウ シ と ウ サ ギ で はICSIに よ る産 子 は獲 得 さ れ て い る もの の、 そ の効 率 は極 めて 低 い(1、2)。 こ れ ら の 動 物 の顕 微 受 精 で は、 卵 子 の活 性 化 が注 入 刺 激 だ けで は不 十分 な こ とを示 唆 して お り、ICSI後 の活 性 化 処 理 を検 討 し、 受 精 効 率 を あ げ て い る報 告 が あ る(11)。 ニ ホ ンザ ル にお い て も、ICSI後 に 、 こ の よ う な活 性 化 刺 激 を与 え、 正 常 な受 精 の カ ス ケ ー ドを誘 起 す る必 要 が あ る と考 え て い る。 ま た、 卵 母 細 胞 の 老 化 を利 用 して、顕 微授 精 後 の受 精 と発 育 の促 進 を試 み た ロー ラ ン ドゴ リラの例 も報告 され てい る(10)。
受 精 適 期 よ り遅 れ た老 化 卵 子 は、 活 性 化 しや す い こ とが知 られ て い るが 、 彼 らはICSIで 受 精 の タ イ ミ ン グ をわ ざ と送 らせ 、 分 割 率 の 向上 に成 功 して い る。 この実 験 は、 ま だ 移 植 成 績 が 出 て い な い の で 評 価 し に くいが 、 示 唆 的 な もの で あ る と考 え て い る。 今後 、移 植 して産 子 を得 る た め に は、 胚 の 発 育 を 促 進 し、
胚 の 質 を維 持 す る た め に も低 酸 素 培 養 な ど の検 討 を進 め る と と もに、 顕 微 授 精 後 の 活 性 化 の 再 検 討 が 必 要 と な ろ う。
今 回 、 我 々が 卵 子 の回 収 と移 植 に用 い た腹 腔 鏡 下 で の腹 腔 内手 術 は、 動 物 へ の ダ メ ー ジ も少 な く、 個 体 の 回 復 も早 い事 が確 認 され た。 これ は、 動 物 福 祉 の面 か ら評 価 され るの み な らず 、 実 験 者 に と っ て も 心 理 的 ス トレスが 低 く、 個 体 数 の少 な い動 物 の実 験 ス ケ ジ ュ ー ル の調 整 に も適 して い る と考 え られ る。
また 、 野生 動 物 の繁 殖 に お い て、 動 物 へ の ス トレスが低 い こ とは必 須 で あ り、ARTを 野 生 動 物 に適 用 す る と き に は本 方 法 は必 要 不 可 欠 と な る だ ろ う(13)。
本 実 験 で は、 回 収 した卵 子 と精 子 を用 いて 顕 微 授精(ICSI)を 行 った 結 果 、 受 精 だ け で な く、胚 発 育 に も成 功 した が 、 受 精 率 が41.7%と 、 ヒ トに お け る顕 微 授 精(60〜80%)に 比 して ま だ低 く、 受 精 後 4‑cel1ま で は高 率 に発 育 した もの の、 そ れ 以 降 急 激 に発 育 率 が 低 下 した。 ま た 、2頭 の 自 然 排 卵 周 期 recipientsに 、 そ れ ぞ れ1個 の胚 を移 植 した が、 産 仔 に は至 らな か っ た。 こ の よ う に シ ス テ ム と して 利 用 で き る可 能 性 は示 唆 で きた が 、 未 だ 多 くの 問 題点 多 く含 ん で は い る こ とが 判 明 した 。 今 後 、 ニ ホ ンザ ル の繁 殖 に 応 用 に向 けて 、ARTの 技 術 を利 用 す る ため に は、 ニ ホ ンザ ル の生 殖 細 胞 に対 す る詳 細 な 検 討 を加 え る必 要 が あ る と考 え られ た。 また 、一 般 サ ル 類 へ の 普 遍 化 した 技 術 の確 立 に は、 カ ニ ク イ ザ ル 、 ア カゲ ザ ル な ど実 験 動 物 化 した サ ルで のARTの 応用 と技 術 的 な蓄 積 が 必要 とな るだ ろ う。
謝 辞
本 実 験 の一 部 は、 住 友 化学 工 業株 式 会社 環 境 科 学 研 究 所 、 日本学 術 振 興 会 ・未 来 開 拓 学 術 研 究 推 進 事 業 「食 資源 動 物 の 科 学」 よ りの 研 究 費 で行 な わ れ た。
of oocytes fertilised by sperm injection ; Theriogenology, 35, 205
2 . Hosoi Y., M. Miyake, K. Utsumi and A. Intani (1988) Development of rabbit oocytes after microinjection of spermatozoa ; II th International Congress on Animal Reproduction and AI, Dublin, vol. 3 , 331
3.細 井 美 彦 、 草 之 瀬 基 一 、 佐 伯 和 弘 、 松 本 和 也 、 入 谷 検 討 、 近 畿 大 学 生 物 理 工 学 研 究 所 紀 要 、1,20‑25.
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25
Application of ICSI on Japanese monkey reproduction system
Yoshihiko Hosoi, Ryuzo Torii ", Yoshiyuki Masuda 2), Kazuhiro Saeki, Kazuya Matsumoto, Hiromi Kato, Akira Iritani
We examined the efficiency of embryo production by ICSI using Japanese monkey.
Superovulation in 9 Japanese monkeys was induced by PMSG and hCG injections, and oocytes were collected from preovulatory follicles under laparoscopic observation. Maturity of oocytes was examined by removing cumulus cells. Thirty-six (33%) of 108 oocytes reached to MII stage. Immature oocytes were cultured for 24h in BWW medium supplemented with 0.3%
bovine serum albumin (BSA), and only 6 oocytes (10%) reached to MII stage. Fifteen of 36 (67%) of them were reached to pronuclear stage. Eleven oocytes were cleaved. Two of them were transferred to recipients and rest of them were cultured in vitro and two of them were reached to morulae stage. These data suggest that ICSI is a useful artificial reproductive technology in Japanese monkey, however, still these technology should be improved for practical use.
Dept. of Genetic Engineering, School of Biology-Oriented Science and Technology and Research Institute of Biology-Oriented Science and Technology, Kinki University
I ) The Institution of Experimental Animals, Shiga University of Medical Science 2 ) Dept of OB/GYN, Shiga University of Medical Science