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インドネシア人日本語学習者の格助詞の誤用研究 一場所を示す格助詞「にJIでJIを」に着目して一
教科・領域教育専攻 言語系コース(国語) 岳 下 朋 央
本研究は、インドネシアの高等教育機関で学 習するインドネシア人日本語学習者に対し、格 助詞穴埋めアンケート調査を行い、場所を示す
格助詞 I~こ」、「でJ 、「をJ とその他の助詞とで
瑚綾に差があるかどうかを明らかにするとと もに、調査から得られた結果を基に学習者の誤 用を分析し、その誤用にパターンが見られるか どうかを検証することを目的とするものである。
第1章では研究の動機と目的について述べて いる。国際交流基金の海外日本語教育機関調査 によれば、インドネシアにおいて 2006年度の 調査では272,719名(国際交訴湛金 2006)で あった日本語学習者数が、 2009年の調査では 716,353名(国際交流基金 2009)へと大きく 増加している。一方、日本語糊市数を見てみる と、 2009年の調査では榔市数は4
,
089人で、そ の内日本語母語教師数は147人と少なく、その 大部分を日本語を母語としない教師が占めてい る。そのような中で、日本語とインドネシア語 には多くの違いがあることから、それらの違い が教育上、学習上で困難となる要因になると考 えられる。特に大きな違いとして助詞の有無が 挙げられ、助詞の中でも場所を示す格助詞「に」、「で、」、「を」に関しては、 I~みんなの日本語 u
『みんなの日本語 II~~ 日本語の助詞』の耕オを 分析すると、日本語の場所を表す助詞『に』、『でよ
『を』は全てIDIJに翻訳されている。J
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alahi他 2010)という報告があり、学習者がそれら3
指導教員 小 野 由 美 子
つの助詞を区別することは難しく、日本語を学 習する上で問題点となると考えられる。実際、
それらの助詞の使い分けは他言語の学習者にと っても困難で、あり、多くの先行研究が報告され ているが、インドネシア入学習者を対象とした 研究はもともと数が限られており、インドネシ ア入学習者において場所を示す格助詞「に」、
「でj、「を」とその他の助詞とで理解度に差が あるかどうかは明らかにされていない。このよ うな現;伏を受けて、インドネシア入学習者の場 所を示す格助詞の誤用について取り上げること
は有意義であると考えられる。
第2章では先行研究として、他言語の学習者 にみられた格助詞濁Rの際のストラテジーにつ いて述べている。先行司院から、あるレベルの 学習者においては「に」の過剰使用が見られる こと、学習者の助詞選択の際のストラテジーと して「位置を示す名詞(例:前・中)+に」、「地 名や建物を示す名詞(例:日本・大学) +でJ のユニット形成が行われていること、ユニット 形成ストラテジーは学習者の母語の影響によっ て使用される傾向に違いがあることがわかった。
しかし、インドネシア語母語話者においても先 行研究と同様の結果が得られるかは明らかでな いため、本研究ではインドネシア入学習者に対 して行ったアンケート調査結果を分析し、イン ドネシア入学習者においても「に」の過弟腹用 が見られるか、ユニット形成ストラテジーを使
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第3章で、は調査方法について述べている。本 研究では、インドネシア人日本語学習者の場所 を示す格助詞「に」、「でj、「を」における正用、
誤用の傾向と助詞溺尺ストラテジーを分析する ことを目的として穴埋め問題によるアンケート 調査が行われた。また、アンケート調査終了後、
一部の学習者に対しフォローアッフ。インタビ、ユ ーが実施された。アンケートの内訳は、場所を 示村各助詞
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こ」、「で」、「を」が正容となる問 題各8問、それ以外の用法の「にJ、「でJ、「をJ が正答となる問題各2問、「が」、「と」が正答となる問題各6問、「の」が正答となる問題5 聞の計47間である。問題文は先行研究および
『みんなの日本語初級 I本冊』、『みんなの日本 語 初 級
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本冊』を参考に作成したベ。また、イン ドネシア語において、場所を示す寸各助詞「にJ、「で、」、「を」が rDIJで翻訳される影響を調査 するために、全ての問題にインドネシア語で翻 訳を提示した。調査対象は、ハサヌディン大学 文学部日本文学科とインドネシア教育大学言語 芸術教育学部日本語教育特ヰの学生計245名で あったO
第4章では調査乙結果の概要と考察について述 べている。調査の結果、対象助詞全体の正答率 は67.9%、その他の助詞全体の正答率は88.6%
であり、両者の正答数と誤答数で、χ2二乗検定 を行うと有意水準5%で差がみられた。このこ とから、インドネシア入学習者においても、場 所を示判各助詞「に」、「で」、「をJとその他の 助詞とで主韻事度に差があることが明らかとなっ た。また、対象助詞に目を向けると、「にJが正 答率81.3%、「で」正答率71.5%、「を」が正答 率50.9%で、正答数と誤穿数のが二乗検定で、
「を」、「でJ、「に」の)1慣に有意差が大きくなる
ことがわかった。また対象助詞の問題の誤答 数においても「に」が最も多く、正答率だけで なく、誤答中の使用率においても「に」の害JI合 が高いことから、インドネシア言昔話者において も「に」の過乗IJt吏用の傾向があることが示唆さ れた。また、ユニット形成ストラテジーを使用 しているかの検証においては、「位置十に」のユ ニット形成はみられたが、「地名+で」のユニッ ト形成はみられなかったo
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名詞+助詞」のユニ ット形成以外のストラテジー使用を探ると、「助 詞十動詞Jのユニット形成や、助詞の後にある 動詞の種類や意味に着目して助詞選択を行って いることも示唆された。また、 rDARIJという 単語から「から」を選択するなど、インドネシ ア語の影響もいくつかみられた。第5章では学習者の得点分布を概観し得点上 位群でも全体と同じような誤答傾向があるかど うかを検証した。その結果、得点上位群に属す る学習者においても、学習者全体の誤答と同様 の傾向を示していることが明らかになった。
今後の研究課題として、調査の結果を基に効 果的な授業案・教材の開発に取り組むこと、対 象者を絞って一定期間に定期的に調査を行うこ とにより、どの時期にどのようなストラテジー を使用しているか、どの時期にどの助詞の理解 が深まったのかを明らかにしていくこと、イン ドネシア語話者と他言語の話者とで同一の調査 を行し1比較することで、インドネシア語話者の 誤用の傾向をより明らかなものにしていくこと が挙げられる。