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平城宮跡資料館 過去3回 の発掘速報展における展示 比較

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Academic year: 2021

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Ⅰ 研究報告

3

1 はじめに

 平城宮跡資料館ではリニューアルオープン以来、毎年 度末に「発掘速報展」を開催し、その都度異なるコンセ プトや展示手法に取り組んできた。本稿では、各年度の 発掘速報展を振りかえり比較分析することで、今後の展 示のありかたを考えたい。

2 発掘速報展 平城₂₀₀₉・₂₀₁₀

 資料館のリニューアルオープン後初めての発掘速報展 である(この展示については、『紀要2012』4~5頁でも触れ ているので、そちらも併せてご参照いただきたい)。

わかりやすい展示 9カ所にのぼる多くの遺跡を紹介す るため、発掘調査の内容や成果を「わかりやすく」説明 することを第一に心がけた。

整理された展示構成 まず会場を宮と京にエリア分けし て、床の空中写真やパネル等で遺跡の位置を示し、壁面 に各遺跡の展示をおこなった。調査の概要を記した解説 パネルの横に遺構写真を、手前にその遺跡の遺物展示 ケースを配置したコンパクトな構成にし、調査遺跡を効 率的に把握できるようにした。

要点をまとめた展示解説 各遺跡の解説の項目を「遺跡 の概要と調査の目的」、「調査で見つけた遺構と遺物」、

「調査でわかったこと」、「わからなかったこと、今後の 課題」に統一し、要点を押さえつつも簡潔な記載にした。

テキストは、各調査担当者にそれぞれの項目を箇条書き で記入してもらい、展示企画室で再構成した。解説パネ ルには、キープランや遺構図を盛り込み、各遺跡タイト

ルには「○○を発見!」のようなキャッチコピーをつけ、

内容が頭に入りやすいようにした。

体験や親近感による理解促進 自身で体験してもらうこと で、より遺跡や調査成果への理解が深まるよう、主に出 土遺物に関連した体験コーナー(檜扇の紐を通す、寄生虫 卵を顕微鏡でのぞく等)を随所に設けた。

 発掘担当者によるギャラリートークや展示パネルの

「担当者の声」など、研究員の生の声を届け、発掘調査 を身近に感じられるようにした。

3 発掘速報展 平城₂₀₁₁

発掘現場の再現 2011年度の発掘速報展では、「遺構」を メインにし、発掘現場を探索しながら遺跡を理解する展 示を目指した。

現場空間の演出 発掘現場の状況を再現するため、床に 10分の1の遺構平面図を設置し、遺構図の上を歩きま わってもらえるようにした。左京三条一坊一坪の井戸 は、原寸大の検出状況俯瞰写真を床展示した。井戸の出

平城宮跡資料館 過去3回 の発掘速報展における展示 比較

表1 発掘速報展 一覧 タイトル (会 期)

発掘速報展 平城2009・2010

(2011.2.19~5.8)

発掘速報展 平城2011

(2012.3.10~5.27)

発掘速報展 平城2012

(2013.3.16~6.2)

展 示 遺 跡 名 (調査次数)

平城宮第一次大極殿院地区(第454次)

平城宮東院地区(第446・469次)

平城宮東方官衙地区(第429・440・466次)

興福寺南大門(第458次)興福寺旧境内(第2009-7次)

薬師寺東院(第457次)海龍王寺旧境内(第456次)

春日東塔院(第477次)平城京右京三条一坊八坪(第448次)

平城宮東院地区(第481次)

平城京左京三条一坊一・二坪(第478・486次)

興福寺北円堂院(第483次)

※文化財レスキュー展と同時開催

平城京左京三条一坊一・二坪(第478・486・488・491・495次)薬 師寺食堂(第500次)

法華寺周辺(第501・504次)

※展示構成上、過去の調査も含む 年度

20201120

図1 発掘速報展 平城₂₀₀₉・₂₀₁₀ 会場風景

図2 発掘速報展 平城₂₀₀₉・₂₀₁₀ 会場平面図 平城宮の調査

平城京の調査 東院地区

第一次大極殿院

糞便

入口

興福寺旧境内 春日東塔院

右京三・一・八

薬師寺東院 基壇剥ぎ取り

鎮壇具

土師皿 東塔院以前の遺物 軒瓦・隅木蓋瓦・銭

墨書画土器・甕・

釘・帯金具・銭

籌木・種 木簡

檜扇体験 創建期軒瓦

断面実測体験

鎮壇具画像 発掘調査風景写真プロジェクター投影

瓦・香炉 白鳳期瓦海龍王寺

東方官衙

書籍紹介アンケート

興福寺南大門 寄生虫を顕

微鏡で実見

瓦・土器・土 米軍関係遺物

参加型パネル(魚)

会場見取図

平城京空中写真

(床展示、調査位置図)

2m 0

(2)

4

奈文研紀要 2013

土遺物を(この井戸の)俯瞰写真の上に配置したり、瓦 溜りの出土状況を再現するなど、遺物を目線より低い位 置に展示し、現場で遺物を検出する雰囲気を作った。

 遺構写真は、床の平面図の各所に立ったときに見える 各方角の遺構写真を、その場所にスタンドに立てたり、

天井から吊るして、現場空間を演出した。

専門用語の使用 展示解説は前回と同様に項目仕立てに したが、「基壇」「掘方」「切り合い」など発掘調査員が 実際に使っている専門用語をあえてそのまま使用し、

「リアル感」を出した。入館者が難解な専門用語の意味 を理解できるよう、解説パネルの隣りに「発掘用語豆ち しき」のパネルを設け参照できるようにした。

発掘調査員の疑似体験 「なりきり!発掘調査員」と題し て、床の遺構平面図の炉跡を探して数を数える(左京三 条一坊一坪)、床の遺構平面図上で、回廊の幅や大きさを 測る(興福寺北円堂院)、遺構平面図の柱穴のサイズ、並 び、重複を観察し、建物線を結ぶ(東院地区)体験コーナー を設けた。いずれも、発掘現場で調査員がおこなう動作 を模したもので、各遺跡や遺構の特徴をふまえた内容と した(『紀要2012』4~5頁参照)。

4 発掘速報展 平城₂₀₁₂

発掘調査員の思考過程をたどる 2012年度は、発掘調査で 研究員が、いつの段階で、何を考え感じ、どのようにし て遺跡を解明しようとするのか、「発掘調査員の頭の中」

を紐解く展示を試みた。

思考過程を表現したデザイン 脳の神経細胞(シナプス)

の形状をイメージした円とそれをつなぐ線をモチーフ に、床面と展示パネルのグラフィックを統一した。床の 線が順路となって、入館者を次の思考段階(床の円形マー ク、タイルカーペットの色を変えて表現)へといざない、段 階ごとに展示をみるレイアウトにした。円がポイントに なっていることから、ラウンドパーティションを設置 し、壁面にも曲線をもたせた。

 リーフレットの形状は、前2回の速報展では見やすさ

と紙面の多さからA4サイズの「観音折」にしたが、今 回は、ページを開くごとに思考が展開していくイメージ が表現できるハンディサイズの「蛇腹折」を採用した。

各遺跡の思考の展開 展示した3遺跡では、それぞれの 思考の展開の特徴を活かした展示構成を考えた。

 左京三条一坊一・二坪は、5次にわたる調査の度に検 討を重ねていった試行錯誤のようすを、ぐねぐねと曲が る木の幹のような床の導線で表し、遺跡各次数ごとに、

発掘調査員の心境(調査前の予想、遺構が見つかったときの 心境、そこから派生した疑問など)が段階的に書かれた段 ボールPOPを思考回路の道標的に配置した。

 薬師寺食堂の調査では、絵図や文献資料、過去の伽藍 内調査で得られた情報や他の寺院の調査成果と照らし合 せながら、発掘調査前に予想を立て、調査後もこれらの 情報を参考にしつつ、さまざまな角度から遺跡を考えて いくようすを示した。

 法華寺周辺の調査では、小規模で断片的な調査を長年 にわたり記録し積み重ねていくことで、一帯の様相解明 に繋がるさまを、MAPケースに見立てた段ボール引出 しと一帯の既調査区めくりとの組み合わせで表現した。

来館者相互の参加型展示 左京三条一坊一・二坪と薬師 寺食堂には、参加型のコーナーを設け来館者自らが遺跡 について考えをめぐらせたり、他の来館者のコメントに 書きこむなど相互交流の場を作った。

5 各発掘速報展の展示比較

 以上の3年度にわたる発掘速報展で、展示にどのよな 変化がみられたのか考察する(図7)。

図3 発掘速報展 平城₂₀₁₁ 会場風景

図4 発掘速報展 平城₂₀₁₁ 会場平面図

東西溝1斜行溝2

斜行溝1

東西溝3

建物1

工房3建物5

建物4 建物2 建物3

工房1 廃棄土坑2

井戸原寸大 写真床展示

東面回廊

大土坑

南面回廊 溜り溜り

ビデオモニター

入口

発掘調査風景写真・動画プロジェクター投影

廃棄土坑2廃棄土坑2

遺構平面図床展示 床展示 床展示

(被災状況写真・解説、活動写真、活動スケジュール、新聞記事、従事者の声)

興福寺北円堂院 東院地区

←考古科学コーナー

発掘速報展 文化財レスキュー展

建物復原体験

回 廊 測量体験

炉跡観察体験

(スタンド)遺構写真

(天吊り)遺構写真

左京三条一坊一坪

出土遺物

出土遺物

募金箱

アンケート 処理後紙資料・クリーニング用具

レスキュー時 使用の服装

(マネキン)

震災概要

レスキュー活動記録

事業概要

レスキュー工程保存処理関係 工 房出土遺物

出土遺物 井 戸

瓦溜り出土遺物

実測図・遺構カード 井戸出土木簡

・墨書土器

2m 0

(3)

Ⅰ 研究報告

5

展示者(研究員)と来館者の関係 3つの展示では、展示

を通した研究員と来館者の関係性が異なっている。

 速報展2009・2010は、展示者(研究員)=調査成果の 伝え手、来館者=受け手と、立ち位置が分かれており、

展示を媒体とするコミュニケーションの方向は研究員か ら来館者へと一方方向である。速報展2011では、来館者 が展示上の「発掘現場」を歩き調査の疑似体験をするこ とで、研究者と同じ空間に立ち調査成果を読み取る、両 者が対等な関係にある。さらに速報展2012では、来館者 が研究員の頭の中に入り込み、一体化している。

展示の主題・範囲 どの部分を展示として来館者に示す か、展示の主題や範囲にも違いが出た。

 速報展2009・2010は、調査内容や成果が展示対象であ り、速報展2011は、調査成果だけでなく発掘現場の空間 そのものを展示として考えた。速報展2012に至っては、

研究員が成果を導き出すまでのプロセスに展示の主眼を 置いている。

解説型展示からの脱却 速報展2009・2010では各遺跡ご とにコーナーが体系的に構成され、調査の内容や成果が 一目でわかる。従来の博物館にみられる教育・啓蒙的な

「解説型」の展示タイプといえる。

 速報展2011は説明的な解説は加えず、遺構や遺物の検 出状況など発掘現場のありのままの空間を提供すること で、入館者自身が展示空間から遺跡を感じ取る余地がで きた(体感による間接的な影響)。受け身な「解説型」の展

示から、自発的な「体感型」の展示となった。

 さらに速報展2012では「頭の中」というイメージを形 にし、物理的な空間の体感から、内面部分に対する体感 へと移行した。成果をまとめて提示するのではなく、思 考過程に沿って段階的に示し不規則に展開する展示空間 を来館者がたどることで、自ら次の展開を思考しようと する「想像力を引き出す」展示に発展している。

6 おわりに

 発掘速報展は、調査成果を報告する単調な構成になり がちであるが、異なる角度から展示を組立てることで、

各年度ごとで展示に特色を持たせることができた。2012 年度は、所謂「解説的な」展示とは全く異なる「思考過 程」というアプローチをとったため、慣れない展示構成 に苦労し、コンセプトに沿った展示が十分に達成できた とは言い難い。しかし困難であった部分にこそ、開拓の 余地があるように思う。今後も積極的に展示の新しい可 能性を見い出していきたい。 (渡邉淳子)

図6 発掘速報展 平城₂₀₁₂ 会場平面図

入口

左京三条一坊一・二坪

参加型パネル 参加型パネル

法華寺周辺

486次(工房跡)

478次(井戸)

488・491次(大型建物群)

担当者のつぶやき 段ボール POP

段ボール引出し

木簡アンケート

薬師寺食堂

食堂の用途 食堂の廃絶

基壇の構造

調査区めくり

調査前下調べ いざ、発掘!

成果のまとめ

495次(北)

!!

 コ

調  頭

495次(南)(道路遺構周辺)

沈下柱根模型 道路遺構模型

床プロジェクター投影

版築実験体

←考古科学コーナー

航空写真× 遺構平面図

501次

504次

タイルカー ペット(別色)

遺物展示 2m 0

図5 発掘速報展 平城₂₀₁₂ 会場風景

図7 各発掘速報展の展示概念図 成 果

展示者︵研究員︶

来館者 来館者

体感により受ける間接的な 影響の方向

展示を媒体とした コミュニケーションの方向

発掘速報展 平城 2009・2010 発掘速報展 平城 2011 発掘速報展 平城 2012

成 果

展示者︵研究員︶

来館者

・ 研究員(伝え手)と来館者(受け手、立ち位置異なる

・ 系統立てて整理された、解説・説明的な展示空間

・ 成果の説明(統一された解説事項、平易な文章表現

成 果

展示者︵研究員︶

・ 研究員と来館者は、同じ土俵に立ち視点を共有

・ ありのままの状態(発掘現場)を再現した、展示空間

・ 成果の説明(平易な表現にせず、研究員の用語で記述

・ 研究員と来館者は、一体になっている

・ (思考回路をイメージ化した)不規則な展示空間

・ 成果を導くまでの思考過程を段階的に展開

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展 示

展 示

展 示

参照

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