―感動詞の機能と音調接続パターンに関する一考察
須 藤 潤
1.はじめに
話しことばは、すべてを記憶にとどめておくことも、後から参照すること も困難であるため、実時間的な相手とのやり取りは、書きことばと同様の仕 組みでは成立しないということは言うまでもないだろう。しかし、話しこと ばについての研究は、認知科学、会話分析、音声学など、さまざまな分野で 現在進行中である。そのため、外国語教育、少なくとも日本語教育において は、現時点で、話しことばの特徴を教師がすべて把握でき、体系的に指導で きるような状況ではない。だが、話しことばの習得に対する学習者のニーズ はいうまでもなく高く、本研究も含め、発展が望まれる分野である。
さて、日本語の感動詞・応答詞(以下、感動詞)も、話しことばには必ず といってよいほど現れるにもかかわらず、その形式や機能に関する知見は十 分蓄積されてきているとは言えない。感動詞を聞けば、相手の処理状態や処 理の内容を察知することができ、どのような反応がかえってくるか、その大 体の方向性を具体的な内容を持つ発話がなされる前に察知することができる
(田窪・金水 1997)ということからも、感動詞は、談話を実時間的に管理す るための働きを持っているといえるだろう。また、感動詞の形式についても、
音調パターンを含めた音韻的な枠組みで考えると、一般語以上に複雑な音調 パターンを持っており、それぞれが談話に対して何らかの働きを持っている といえる(例えば、須藤 2009)。感動詞自体の音調パターンの究明も、書き ことばの研究では十分明らかにできなかった、感動詞の多様な形式の記述に 貢献していると言える。
しかし、感動詞については、それ自体の音調に限らず、後続にどのような
『コミュニカーレ』9(2020)1–20
©2012 同志社大学グローバル・コミュニケーション学会
高さで続くか、ということも、感動詞の特徴として考慮に入れておくべきで はないかと考える。この考え方のきっかけになったのは、終助詞の音調の記 述である。轟木(1995,2009 等)のように、単に終助詞区間の音調のみでは、
十分にそのパターンを示せず、直前の部分との接続のしかた、つまり、順接 か低接か、という接続パターンを示すことにより、音調パターンと機能の関 係に迫ることが可能となっている。本研究は、同様のことを、感動詞からそ れに続く発話にかけての音調接続パターンとして見ていくことで、感動詞に 関わる音調パターンと機能の関係に、さらに迫ろうとするものである。
2.先行研究―感動詞とそれを含む発話の音調
感動詞自体の音調に関しては、これまで感動詞の意味の記述を行う際に、
その形式的な特徴を明示する必要性から、内省に基づき、断片的に記述され ることが多かった。感動詞を広くカバーした音調の記述については、ごくご く限られている。例えば、定延(2015)では、「いま・ここ・私」の内部状 態と結びついているかどうかで、感動詞を大きく 1 類と 2 類に分類している。
内部状態と結びついている前者については、その内部状態に応じて、上昇調 や低い平坦調、下降調といった具合に韻律が変化する、と概略的に述べてい る。また、須藤(2009)では、「あ」「うん」「え」といった 1 音節の感動詞 の音調を、機能と結びつけるとともに、語アクセントと文末音調(郡 1997,
2003)の枠組みでの記述を試みている。上記 2 つはいずれも、内省的な観察 をもとにした研究である。一方で、実験的に協力者から採集した発話データ をもとにした、肯定的な応答「うん」、否定的な応答「ううん」といった、
うん系感動詞の音調と機能に関する研究(須藤 2008,2010)なども見られる。
それに対して、感動詞から後続発話にかけての音調パターンに関する研究 については、次のようなものが見られる。まず、須藤(2016a)では、許可 求めの発話に対する「ああ、大丈夫」という応答発話に着目し、この発話を
「…てもいい」という許可を与える意図で発話する場合(先行発話の期待に 沿う場合)と、「…なくてもいい」という不必要の意図で発話する場合(先 行発話の期待に沿わない場合)とで、「ああ」から「大丈夫」にかけての音 調パターンが異なるかどうか、実験的に協力者から採集した発話データおよ
び聴取実験により分析を行った。その結果、先行発話の期待に沿わない場合 は、期待に沿う場合と比べ、「ああ」を基準とした「大丈夫」の高さの取り うる幅がより広い、つまり、より高いものも、より低いものも見られるとい うことがわかった。
さらに、須藤(2016b)では、親しい関係の男性同士、女性同士の約 10 分 の雑談に現れる、あ系感動詞およびうん系感動詞と後続語との F0(基本周 波数)の高さの関係を調べるとともに、後続語の特徴や、その発話が談話構 造上、どのような機能を持つかについて観察した。その結果、感動詞の F0 を基準に、後続語が同程度の高さ、または低い発話には「なるほど」「そう」
といった後続語が多いといった特徴が見られた。
以上のように、感動詞と後続発話の間の音の高さと意味については、何ら かの関係を示唆するような結果は見られるものの、管見の限り、明示的な関 係があることを裏付けるところまでに至っていないのが現状である。そもそ も、感動詞から後続発話にかけて、どのような高さで続くのが典型なのか、
ということも明らかではないことから、本研究では、まず、感動詞から後続 にかけての典型的な音調接続パターンの特徴の分析を試みることとする。典 型的な音調接続パターンが分かれば、そこから逸脱するものが、どのような 意味を持つか、ということを分析しやすくなるだろうと考えるからである。
3.問題のありか―感動詞の機能と音調接続パターン
前節で述べたとおり、そもそも冒頭の感動詞から後続発話にかけての典型 的な音調接続パターンというのが明らかではないので、本稿では、まず、そ の特徴の一端を明らかにすることを試みる。
自然発話のデータから、冒頭に感動詞を含む 1 文節の発話を抽出し、感動 詞から後続にかけて、どのような高さで推移するかを分析する。その際、感 動詞に続く発話は、長いものも短いものもあるため、比較的短い、1 文節の 発話に条件を揃えることとする。
また、あ系感動詞、うん系感動詞、え系感動詞 1の 3 種類の感動詞に絞り、
感動詞の種類による影響について検討する。これら 3 種類の感動詞は、意味 や、談話上の機能の面で、相互に異なることから、感動詞に応じて、異なる
音調接続パターンが出る可能性がある。さらに、同じ感動詞が反復する場合 も、反復の 1 回目と 2 回目でどのような高さの関係があるか、そして、上述 の 1 文節の発話が後続した場合とどう異なるかを、あ系感動詞とうん系感動 詞 2の反復について検討する。
また、感動詞の種類以外にも、様々な要素が音調接続パターンに影響を及 ぼす可能性がある。例えば、感動詞の持続時間、音調パターンや、後続語の アクセント核の有無等も考えられるが、本稿では、感動詞の後のポーズ(無 音区間)に注目し、無音区間の有無が音調接続パターンにどのように影響を 及ぼすかについて検討する。
4.研究方法 4.1 調査協力者
本稿で分析の対象となる会話の録音については、首都圏出身の 4 組 8 名に ご協力いただいた。表 1 のとおり、年齢層が異なる場合もあるが、いずれも 親しい関係の女性同士の会話を録音した。
表 1 調査協力者
協力者 性別 生育地 3 年齢層 関係
J 女性 東京都新宿区 30 歳台前半
大学からの友人 K 女性 栃木県宇都宮市 20 歳台後半
L 女性 神奈川県川崎市 20 歳代後半 M 女性 神奈川県川崎市 20 歳代前半 姉妹 N 女性 神奈川県横浜市 20 歳代後半 P 女性 神奈川県横浜市 50 歳代後半 親子 Q 女性 埼玉県さいたま市 20 歳代前半
大学の友人 R 女性 東京都立川市 10 歳代後半
4.2 会話と録音
協力者 2 名が、別々の部屋で電話等を使って話す会話を、各々の会話参加 者に装着したヘッドセットマイクを使い録音した。これは、会話の重なりが あっても、1 人 1 人の音声を重なりなく録音できるようにするための措置で ある。
協力者は雑談と課題会話(地図を使った道案内、2 人の持っている絵の間 違い探し、コマをバラバラにして 2 人に分けた 4 コマ漫画の復元)をしても らった。課題会話は、協力者に共通して得られる表現や条件等を手がかりに 発話を分析する意図があるが、本稿での分析では、雑談のデータとともに、
区別せずに利用している。課題会話では、各々の課題が終わったあとも、実 験実施者が止めに入るまで、雑談を続けていただいた。このようにして、1 組につき約 50 分、合計約 200 分の会話を収録した。
4.3 音声データの整理
録音後のデータは、文字化を行い、文字化データの形態素解析を行った
(Wincha 2000‒茶筌 ver.2.1 for Windows)。これにより、感動詞の出現箇所 を特定した。その後、感動詞を含む発話の音声を切り出し、音響分析ソフト Praat ver.6.0.30(Boersma & Weenink 2017)で、切り出した音声へ語や分 節音の情報を付与し、感動詞を含む発話の音声データとして整理した。
4.4 音響分析
語や分節音の情報を付与した音声データは Praat のスクリプトを用い、語・
分節音の F0 情報や持続時間を自動的に抽出した。抽出の際は、F0 の抽出や、
語や分節音の境界の付与が適切になされているかも適宜確認した。
そして、抽出されたデータをもとに、あ系・うん系・え系の各感動詞+ 1 文節の発話、そして、あ系とうん系の感動詞の反復における、冒頭の感動詞 と後続にかけての F0 の差を求めた。図 1 は、発話の F0 曲線を模式化した ものである。F0 の差を求めるにあたり、感動詞区間の中央、持続時間のちょ うど半分の時点(図 1 の○)での F0 値を基準とした 4。そして、後続発話の F0 最大値(図 1 の●)との差を求めた。図 1 の場合は、感動詞よりも後続 発話が高いということになる。
5.結果
5.1 感動詞から後続発話にかけての音調接続パターン
まず、前節で述べたように、冒頭の感動詞を基準として、後続の F0 最大 値がどの位置にあるかを、感動詞の種類、そして、感動詞の反復の有無でタ イプ別に分け、平均値をまとめた(表 2)。平均値が正の場合は、冒頭の感 動詞よりも後続が高いことを示す。これを見ると、反復のあるほうは、後続 が 1 半音程度低いのに対し、反復のないほうは、いずれも後続がおおむね 2 半音高いことがわかる。ただ、反復のない、え系感動詞の発話については、
他のあ系とうん系とは異なり、標準偏差の値が大きい。通常、標準偏差の値 が大きい場合は、平均値を中心としたデータの散らばりがより広範囲に及ぶ。
このことから、え系感動詞の発話の音調接続パターンは、反復のない、他の 感動詞の発話とはパターンが異なる可能性が推測される。
表 2 冒頭の感動詞を基準とした後続の高さ(n:データ数)
あ系 n=298
うん系 n=152
え系 n=124
反復あ系 n=14
反復うん系 n=145 後続の高さ
平均値(半音) +2.28 +2.40 +2.30 -1.12 -1.01 標準偏差 3.48 3.21 5.08 2.78 1.14
冒頭の感動詞の種類の違い、あるいは、感動詞の反復の有無により、後続 の高さの平均値に有意な差が生じるかを確認するために、一元配置分散分析
図 1 「感動詞 +1 文節」発話の F0 曲線のモデル
を行った。その結果、それぞれのタイプの後続の高さの平均値には有意な差 が見られたことから(F(4,728)=29.344,p<.001)、Tukey HSD の多重 比較により、タイプ間に有意な差が見られるかどうか検定を行った(表 3)。
その結果、感動詞の反復があるタイプと反復がないタイプで有意な差が見ら れたが、反復があるタイプ同士、反復がないタイプ同士、つまり感動詞の種 類の違いによって有意な差は見られなかった。
表 3 タイプ別の後続の高さ平均値の多重比較(Tukey HSD)
あ系 うん系 え系 反復あ系 反復うん系
あ系 − ns ns ** ***
うん系 ns − ns ** ***
え系 ns ns − ** ***
反復あ系 ** ** ** − ns
反復うん系 *** *** *** ns −
***:p<.001 で有意 **:p<.01 で有意 ns:有意差なし
以上の結果から、親しい関係の会話の発話中に現れる感動詞の音調接続パ ターンについて、以下の 1)2)が言える。
1) 感動詞が反復する場合は、冒頭の感動詞から、後続の感動詞にかけて、
より低く接続する音調パターンになる。
2) 感動詞が反復せず、1 文節の発話が後続する場合は、冒頭の感動詞 から、後続発話にかけて、より高く接続する音調パターンになる。
5.2 無音区間の有無による音調接続パターン
次に、前節でわかった音調接続パターンの特徴をより詳細に分析する目的 で、感動詞が反復しないタイプについて、感動詞と後続発話の間の無音区間 の有無と後続の高さについて分析を行った 5。なお、感動詞が反復するタイプ はすべて無音区間がないもので、後続の感動詞がより低くなるという結果で あった。発話冒頭に伴う感動詞別に、無音区間のあるものとないもので後続 の高さを求めた。
表 4 無音区間の有無と後続の高さ
あ系 うん系 え系
後続の高さ 平均値(半音)
/標準偏差
無音区間あり +2.71 / 3.51 +3.12 / 3.78 +1.38 / 5.30
無音区間なし +2.17 / 3.47 +1.72 / 2.28 +3.10 / 4.78 有意差の有無
(t 検定(両側):有意水準 5%)
なし(p=.285)
t(296)=1.071
あり(p=.005)
t(157)=2.815
なし(p=.060)
t(153)=1.895
表 4 は、発話冒頭の感動詞別に、無音区間の有無による、後続の高さの平 均値、さらに、無音区間の有無によって、有意に後続の高さに差があるかど うかについて、t 検定の結果を示したものである。これを見ると、後続の高 さに有意な差が見られるのは、発話冒頭にうん系感動詞が伴う場合のみで、
無音区間があると、ない場合よりも、後続の高さがより高くなることがわか る。その他は、有意な差は見られないものの、データの傾向としては、え系 感動詞の場合は、無音区間があると、ない場合と比べ、反対に、より低くな る傾向がある。一方、あ系感動詞については、どちらもあまり差がないよう に見える。
以上の結果から、親しい関係の会話の発話中に現れる感動詞の音調接続パ ターンについて、上述の 1)2)に続き、以下の 3)4)が言える。
3) 感動詞の後の無音区間の有無により、有意に後続の高さが異なるのは、
冒頭にうん系感動詞が伴う場合のみであり、無音区間があれば、後 続はより高くなる。
4) 冒頭にえ系感動詞が伴う場合は、有意な差はでないものの、無音区 間があれば、後続はより低くなるという、うん系感動詞とは反対の 傾向が観察された。
2)のように、感動詞が反復せず、発話冒頭に感動詞が置かれるタイプは、
互いに後続の高さには有意に差がなく、どれも似たような傾向であったが、3)
4)のように、無音区間の有無を基準に見ると各タイプに違いが見られるこ
とに注目したい。
次節では、このように冒頭に置かれる感動詞の特徴と音調接続パターンの バラエティーについて考察する。
6.考察
前節では、うん系感動詞が冒頭に伴う発話については、無音区間があると、
有意に後続がより高くなる傾向が見られたが、あ系・え系の感動詞には無音 区間の有無により有意な差は見られなかった。ただし前節の 4)にあるよう に、え系感動詞については無音区間があるとむしろ後続がより低くなる傾向 を示した。
そこで、このような、冒頭の感動詞の違いにより、なぜ音調接続パターン の違いが生じるのかについて考えてみる。
6.1 感動詞の高さ
感動詞の高さを基準に、後続発話が高いか低いかを検討する場合、感動詞 そのものの高さが種類を問わず一定であれば、後続発話の高さについて検討 すればよい。しかし、前節まで見てきたとおり、感動詞の種類によって、そ の傾向が異なるということであれば、まずは各々の感動詞自体がどのぐらい の高さで発せられるか、感動詞間で違いが見られるかについて検討してみる ことにする。
そこで、まず、今回の協力者 8 名の「感動詞+ 1 文節」発話での、あ系感 動詞、うん系感動詞、え系感動詞の区間中央の F0 値の平均にどのような違 いがあるか検討した(表 5)。
表 5 協力者ごとの各感動詞の区間中央 F0 値の平均
(n: データ数,SD: 標準偏差)
協力者 あ系感動詞 うん系感動詞 え系感動詞 有意差(Tukey HSD)
J 235Hz
(n=22,SD=46)
194Hz
(n=17,SD=22)
358Hz
(n=1)
あ系―うん系 **
あ系―え系 **
うん系―え系 ***
K 242Hz
(n=52,SD=55)
189Hz
(n=7,SD=22)
345Hz
(n=3,SD=55)
あ系―うん系 * あ系―え系 **
うん系―え系 ***
L 227Hz
(n=33,SD=39)
193Hz
(n=11,SD=19)
259Hz
(n=19,SD=54)
あ系―うん系 ns あ系―え系 * うん系―え系 ***
M 274Hz
(n=19,SD=28)
271Hz
(n=8,SD=31)
326Hz
(n=4,SD=37)
あ系―うん系 ns あ系―え系 * うん系―え系 *
N 232Hz
(n=59,SD=42)
192Hz
(n=30,SD=17)
308Hz
(n=11,SD=76)
あ系―うん系 ***
あ系―え系 ***
うん系―え系 ***
P 218Hz
(n=51,SD=49)
199Hz
(n=33,SD=31)
242Hz
(n=27,SD=59)
あ系―うん系 ns あ系―え系 ns うん系―え系 **
Q 241Hz
(n=34,SD=41)
240Hz
(n=23,SD=52)
299Hz
(n=38,SD=83)
あ系―うん系 ns あ系―え系 ***
うん系―え系 **
R 246Hz
(n=28,SD=26)
223Hz
(n=23,SD=16)
307Hz
(n=21,SD=81)
あ系―うん系 ns あ系―え系 ***
うん系―え系 ***
***:p<.001 で有意 **:p<.01 で有意 *:p<.05 で有意 ns:有意差なし
これを見ると、え系感動詞はあ系・うん系感動詞との間では、ほとんどの 協力者で、有意に高いということがわかる。そして、あ系感動詞はえ系感動 詞との間ではほとんどの協力者で有意に低く、うん系感動詞との間では、協 力者によって有意に高い場合も、有意な差がない場合も見られた。
以上をまとめると、少なくともうん系感動詞とえ系感動詞については、同 一発話者内で、え系感動詞のほうがより高いピッチで発せられているという ことがわかる。このように、え系感動詞が高いピッチで発せられるというこ とは、何かの理由でえ系感動詞を際立たせる必要があるからではないかと考 える。次節以降で考える。
6.2 フォーカス
次に、「感動詞+ 1 文節」の発話にフォーカスが置かれるかどうかという 観点から考えてみたい。フォーカスとは「聞き手に対する訴えかけの焦点」(郡
1989)である。例えば、(1)(2)のような疑問文に対する応答では、それぞ れ下線部が訴えかけの焦点、つまりフォーカスである。この場合は、疑問文 が求める情報が訴えかけの焦点である。
山田さん、あした来ますか?―私はあしたは休みます。
じゃ、誰が来るんですか?―村山さんが来ます。 (郡 1989)
このようなフォーカスは、感動詞にも置かれる可能性はある。どのような 場合なのかについて、今回、無音区間の有無で、後続と高さのパターンに対 照的な傾向が現れている、え系感動詞とうん系感動詞について考えてみる。
6.2.1 え系感動詞とフォーカス
まず、え系感動詞であるが、今回の研究対象は親しい関係であるため、目 上や初対面の聞き手に対して発せられる、あいづちや、肯定的な反応(あい づちや応答など)の際に現れる、下降音調(アクセント型では頭高型)を持 つものは現れなかった。また、持続時間が非常に長く、話し手が発話を始め るまでの間つなぎとして発する、いわゆるフィラーもわずかであった。ほと んどは、「意外・驚き」(田窪・金水 1997)の機能を持つものである。この タイプは、心内処理を仮定すれば「半活性情報との適切な関連性の確保に失 敗したことの標示」(冨樫 2005)と説明されるものである。つまり、相手の 発話内容を聞いて推論してみたものの、理解や納得ができなかったような状 態を標示するものである。例えば、以下のようなやり取りに見られる。
( 道案内課題が終わった後、Q が唐突に課題の前に話していた話題を持 ち出す) 6
168Q だから、今度行こう。
→ 169R え? どこに?
170Q 〓〓〓さんち。
171R あー、えー、戻りすぎ。話戻りすぎ。びっくりした。なんか 今さ、コアラ駅(Q:うん)見てたからさ。
R は、168Q の「今度行こう。」が何のことかわからない、つまり R は道 案内課題が終わったという状況で 168Q の発話に接したために、戸惑いがち に 169R で「え?」を発している。171R で自ら釈明しているとおり、会話 遂行について、Q の発話に対する R の推論が、結果的に理解にまったくた どり着かず失敗したことを示している。
169R のように、話し手の推論の失敗を前面に出さざるを得ない場合に、
その心内処理を表示する「え?」にフォーカスが置かれるものと考える。発 話上では、「え?」そのもののピッチを高くしたり、あるいは、直後に無音 区間が置かれるなどして、際立たせることが可能である。この時、169R の「ど こに」は「え?」を基準に 4.63 半音低く、また、「え?」の直後に 258ms の 無音区間が伴っている。
一方で、え系感動詞にではなく、後続発話にフォーカスが置かれる場合を 考える。この場合は、推論は一旦失敗したものの、新たな手がかりを得て推 論を続けようとする発話が考えられる。相手の発話により、少し驚いたが、
それだけに関心もあり、相手に根掘り葉掘り聞きたくなるような状況である。
以下のようなやり取りが見られる。
(4 コマ漫画復元課題のあとの雑談)
380Q うちんとこ、全員いるよ。
→ 381R え、そうなの?
382Q あ、まあ、あれはいないけど。
383R 何? 〓〓ちゃん?
384Q うん。
このやりとりの直前までは、R は、クラスにいる 3 人の友達のうち 2 人が 留学でいなくなって、寂しがっているところを Q が冷やかしている。そして、
380Q で、Q のクラスについては友達が全員いるということを聞いて、R は、
Q のクラスと状況が違って、納得できないということで推論が一旦失敗する。
しかし、まったく理解不能というわけではなく、Q の友達のことにも関心が あるため、すかさず「そうなの?」と、本当に友達が全員いるのか確認要求
している。つまり、R は、推論が多少失敗したというところでとどまらず、
Q から情報をいろいろ引き出すべく、383R やそれ以降でも問いかけながら、
納得できる状態に移行しようとしている。「え」にフォーカスが置かれたや りとりと異なるのは、推論の失敗の重大さである。この時、381R の「そう なの」は「え」を基準に 9.96 半音高い。「え」の直後に無音区間はない。
以上のように、え系感動詞については、少なくとも「え」そのものにフォー カスが置かれる場合と、「え」に置かれず、後続発話に置かれる場合がある。
前者は、推論が失敗したということを前面に出す場合、後者は、推論が多少 失敗し、驚いたものの、それだけに関心が高いような場合が想定される。前 者のようにフォーカスが置かれる場合は、「え」の高さを高くするだけでは なく、直後に無音区間が伴うことも、「え」を際立たせるのに貢献すると考 える。
6.2.2 うん系感動詞とフォーカス
次に、うん系感動詞について考える。うん系感動詞は、理解や納得、同意 など、先行発話に対する肯定的な反応(あいづちや応答など)として現れる 場合が大半である。その際、感動詞は語末が下降音調、あるいは、持続時間 が短く全体的に平坦な音調となる。その他、え系と同様に、フィラーとして 現れる場合(平坦な音調)や、理解不能で聞き返すような場合(顕著な上昇 音調)、「ううん」と表記される否定的な応答(下降→上昇音調)として現れ る場合も見られたが、肯定的な反応と比べるとわずかであった。
話し手が特別に意図している場合を除けば、肯定的な反応として現れる場 合のうん系感動詞はそれ自体にフォーカスが置かれることはない。肯定的な 反応は、無標の応答形式であり、発話連鎖の面からみれば、好ましい
(preferred)形式である(Pomerantz 1984)。あえて「うん」がなくとも、
先行発話の一部を繰り返すだけでも、対面の会話ならうなずくだけでも、肯 定的な反応を示すことが可能であるため、肯定的な反応をするためにうん系 感動詞が担う部分は、通常大きくはないと考えることができる。
一方、後続発話はどうかというと、フォーカスが置かれる場合、置かれな い場合があると考える。まず、先行発話の一部分の繰り返し、あるいは「そ
う」といった、先行発話を指示する発話は、フォーカスが置かれにくい。肯 定的な反応以外の内容を示さないためである。以下にやり取りを示す。
(地図課題)
034Q うん。うんとねー、団子屋(R:うん)真っ直ぐ行くと、十字 路になってる?
→ 035R うん、なってる。
035R の「うん」の後は、直前の「十字路になってる?」の一部を繰り返 したものであり、肯定的な反応のほかは特に示しようがない。この時、「なっ てる」は「うん」より 1.5 半音低い。無音区間はない。
一方、肯定的な反応以外の内容を示す部分にはフォーカスが置かれやすい。
(間違い探し)
244Q 分かんない、ちょっと。え? あとは? なんか変な女の子、
いる。
→ 245R うん。泣いてる。
上のやりとりの断片の 245R の「うん」は「なんか変な女の子、いる」に 対する肯定的な反応、つまり、同意を示している。さらに 245R はその「女 の子」について「泣いてる」と描写を加えていることから、245R の発話と しては、肯定的な反応以外の内容に言及していることがうかがえる。この時、
「泣いてる」は「うん」より 2.22 半音高い。無音区間はない。
以上のように、うん系感動詞が伴う発話の場合は、まず感動詞部分にフォー カスが置かれることはないことから、際立たせるために高いピッチになるこ とがないということが、え系感動詞とは大きく異なる点である。一方で、後 続発話については、フォーカスが置かれる場合、置かれない場合が考えられ る。
6.3 まとめ
以上の考察から、発話冒頭の感動詞の種類、そして、感動詞の直後の無音 区間の有無により、音調接続パターンが異なるかをまとめる。
まず、え系感動詞とうん系感動詞の違いから考えると、え系感動詞から始 まる発話は、無音区間が伴う場合と伴わない場合では、後続の高さは、前者 のほうが、比較的低い傾向がみられた。この点については、推論の失敗、つ まり、理解できない、納得できないことを前面に表示できることから、え系 感動詞自体にフォーカスが置けるという点が大きなポイントである。感動詞 にフォーカスが置かれると、相対的に感動詞のピッチが高くなる。実際に、
え系感動詞をいずれの協力者も最も高く発していたことから、フォーカスが 置かれやすいということが裏付けられる。また、直後に無音区間が入り、感 動詞を際立たせることができる。一方で、推論の失敗が重大でなければ、後 続発話にフォーカスを置くことも可能である。
それに対して、うん系感動詞から始まる発話は、無音区間が伴う場合と伴 わない場合で後続の高さを比べると、前者のほうが後続が高くなる。これに ついては、まず、うん系感動詞の主要な機能は肯定的な反応を表示すること であるが、感動詞自体が担う役割は大きくないことから、フォーカスは置か れにくい。実際、いずれの協力者もうん系感動詞のピッチは、え系感動詞よ りも低かった。後続は、単に肯定的な反応を示すだけならフォーカスは置か れず、それ以外の内容に言及する場合はフォーカスが置かれやすい。なお、
無音区間については、前者の場合は、感動詞と後続が一体となって単純に肯 定的な反応を示すので、無音区間が置かれにくい。逆に、後者の場合は、後 続が肯定的な反応以外を示すので、感動詞とは一体化しにくく、無音区間が 置かれやすいのではないかと考える。
そして、あ系感動詞については、うん系感動詞とえ系感動詞の中間的な性 質を持っているのではないかと推測する。今後の課題にはなるが、え系感動 詞のように、あ系感動詞は、思い出したり発見したりという心内処理を前面 に出すような発話は成り立つので、感動詞自体にフォーカスが置かれること は少なくないと推測する。一方で、「ああ、そうだね」のような、うん系感 動詞のように肯定的な反応の表示に寄与する発話も成り立ち、より複雑であ
ると考えられる。
7. おわりに
以上、本稿では、親しい関係での会話に出現するあ系・うん系・え系感動 詞が伴う発話、特に、感動詞+ 1 文節の発話、および感動詞の反復に限定し、
冒頭の感動詞から後続にかけての典型的な音調接続パターンについて検討し た。全体的な傾向として、感動詞の反復については、冒頭の感動詞を基準に すると、後続の感動詞が 1 半音程度、低くなることがわかった。一方で、1 文節の発話が続く場合は、どの感動詞が接続する場合もおおむね 2 半音程度、
後続が高かった。
しかし、感動詞の直後に無音区間が伴うかどうかで、後続の高さを見たと ころ、各感動詞とも異なる傾向を示した。これについては、各感動詞が持つ 意味、あるいは、談話上の機能をもとに、感動詞にフォーカスが置かれるか どうかである程度解釈可能であった。え系感動詞にフォーカスが置かれると、
感動詞区間を際立たせるため、無音区間が置かれ、後続が相対的に低くなる。
一方、うん系感動詞自体にはフォーカスが置かれにくく、後続と一体となっ て肯定的な反応のみを示すのであれば、無音区間も置かれず、後続にもフォー カスが置かれないため、無音区間がある場合と比べ、後続が低くなりやすい。
本稿の結論は、あくまで、親しい関係限定で、限られた年齢層の女性のデー タをもとにしたものであり、男性のデータ、あるいは、幅広い年齢層を対象 にすれば、より異なる結論が導かれる可能性があることを付言する。また、
感動詞から後続にかけての音調接続パターンについて、今回は、後続の最大 値のみに注目していたが、今後は、後続のはじめがどの高さになるかなど、
接続部分をより詳細に検討していく必要がある。
謝辞
本研究は JSPS 科研費 JP15K16750 の助成を受けたものです。
注
1 それぞれ、ア、ン、エの音素で主に構成される感動詞で、後ろに促音や長音 が伴ったり(アッ、ンッ、エッ、アー、ンー、エー)、前に /h/ の音素が伴っ たり(ハ、フン、へ)といったバリエーションも含めた総称である。ンの音 素、音声的には鼻母音または鼻子音で主に構成される感動詞は、日本語での 一般的な表記をもとに「うん系感動詞」としているが、実際には、母音 /u/
が明示的に発音されることはほとんどない。
2 本稿で扱う親しい関係のデータでは、え系感動詞の反復は出現しなかった。
また、あ系感動詞の反復は 14 例しかなく、用例数が他と比べて極端に少ない。
そのため、結果は参考程度にみなしておくことが妥当であろう。
3 15 歳までで最も長く居住していた場所としている。
4 感動詞区間の F0 最大値を基準とする考え方もあるが、本研究では感動詞に よっては上昇音調となりうることも考慮に入れた上で、感動詞自体の音調の 影響を受けにくい、感動詞区間の中央での F0 値を採用した。
5 無音区間は感動詞区間の終点から、後続発話区間の始点までの区間である。
冒頭の感動詞区間の終点の認定については、音声波形やスペクトログラムを 参照し、音圧が急激に小さくなる点、あるいは、波形やフォルマント周波数 のパターンが大きく崩れる点を目安に認定している。後続発話区間の始点も 同様に、各々の分節音の特徴が発現する点を目安に認定している。
6 会話断片に使われる記号は以下の通りである。感動詞の機能を例示するため の簡略的な表記であり、あいづち以外の発話の重なりや、沈黙等、発話連鎖 にかかわる精密な表記は行っていない。
? 疑問型上昇調で相手に応答等を求めている。
。 特徴的な文末音調を持たずに文(発話)が終わっている。
(Q:うん) 聞き手のあいづち。話し手の発話内で重なる部分に挿入する。
→ 本文で注目する発話
〓〓〓 人名等、伏せ字にしている箇所
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Tone Conjunction Patterns from the Japanese Interjections to the Subsequent Utterances: A Study of the Functions of
Interjections and Tone Conjunction Patterns
Jun Sudo
Keywords: Japanese interjection, tone conjunction pattern, subsequent utterance, affirmative reaction, surprise
Abstract
I conducted an analysis of the tone conjunction patterns of utterances headed by Japanese interjections in approximately 200 minutes of conversation data, paying special attention to the tone pattern from the interjection to the next word. My findings are as follows: (1) The maximum fundamental frequency (F0) of the next word is generally higher by about two semitones than the F0 at the middle of the interjection segment, while in the case of the repetition of an interjection, the maximum F0 of the second interjection is lower by almost one semitone than the F0 at the middle of the first interjection segment; and (2) the silent segment between the interjection and the next word affects the maximum F0 of the next word depending on the type of interjection. The next word has a higher F0 when the utterance accompanies an un-interjection with a silent segment than one without the silent segment, while the F0 of the next word is lower when the utterance accompanies an e-interjection with a silent segment than one without. The function of each interjection may underlie the above result: The first (an un-interjection) mainly concerns discourse management, such as an affirmative reaction, while the second (an e-interjection) mainly concerns the display of mental state, such as surprise.