〈要約〉
制御理論におけるフィードバック過程との邂逅以来,本流(新)古典派理論を他となす別 流が嵩が増す奔流の態を備えていく。‘Keynes の経済学’(economics of Keynes)の登場で ある。しかしながら,やがて,そこから(新)古典派的枠組に取り込まれ換骨奪胎された分 派‘Keynes 経済学’(Keynesian economics)なるものが台頭してくる。
序
工学,医学の分野では,研究開始当初予期してもいなかった発見に巡り合う可能性が重視される ごとくである。 理論は目的達成のための手段であり,その目的に対して理論がどの程度まで適切であり,また, どのような限界があり,どのような陥穽が待ち受けているかに思いを致さなければならないとする 主張もあり得る。他方,特定の目的なしにただ理論を立て,それを推進する態度を徹底させること により,普遍性のある定理やその証明が得られる可能性もある。かかる後者の態度は,セレンディ ピティ(serendipity)と呼ばれ,一部の科学者の信仰を獲得している。Serendipity は,1754年の Horace Walpole の寓話‘The Three Princes of Serendip’の主人公が予 想することなく大きな発見をすることに由来する造語である。尤も,主人公は,かかる発見をなし 得る才能,能力を秘めているという裏書き保証が用意されてはいるが…。 線型制御系理論の基礎の上に自動制御理論は古くから発達していた。そこでの基本的方法は,定 数係数の常微分方程式によって体系の運動を規定し,制御の安定性を問うことを中心的課題とする ものであった。Laplace 変換の適用による応答特性の判定,Routh 安定条件の適用による体系の安 定性の判別は,その代表例であり,1930年代までは,既製理論の適用化が制御理論の中核であった。 かかる時代背景の中にあって,R. F. Kahn(そして,恐らく J. M. Keynes)は,総合的制御系の構 成要素として最も基本的なフィードバック制御を自らの雇用乗数理論の核に据えるという着想を得 た。それが,セレンディピティの所産であったと言う積りは固より無いが,既製理論の適用化,応 用化の流れに沿ったものであったことは間違いなかろう。 フィードバック制御系の流れの延長上にある Samuelson=Hick 型の乗数―加速度因子モデルは, 離散時間による差分方程式体系として定式化された。離散時間と連続時間の間の選択は分析上の便 宜に依存している。因みに,数値計算,実証分析に対しては離散時間が必要とされるのに対し,分 析目的のためには連続時間の方が優れているといった具合である。Phillips[13]は,連続時間によ る適応調整過程として乗数―加速度因子モデルの再定式化を試みた Beckmann=Puu[5],Puu[14]は,かかる乗数―加速度因子モデルの活動の場としての経済体 系自体を,空間的次元の追加によって,より包括的な空間経済への拡張化を図り,そこでの乗数― 加速度因子モデルのパフォーマンスを検討した。かかる空間経済は,経済の構成単位を成す地域が 共通の輸入性向の下でそれぞれの所得差に応じた交易を展開する同次的空間をもつ同次型空間経済 (homogeneous spatial economy)と,地域差,すなわち立地に依存する個々の輸入性向の下で交易 を展開する非同次空間をもつ非同次型空間経済(inhomogeneous spatial economy)とに二分された。
我々の本稿の目的は,上の Beckmann=Puu, op. cit., Puu, op. cit., の示唆にしたがいながら,非同 次型空間経済における乗数―加速度因子モデルのパフォーマンスを吟味することにある。
まず,次節では,空間的次元を考慮しない伝統的経済の文脈において,静学的な乗数―加速度因 子モデルのフィードバック制御の特性を確認した後に,同モデルの解を与える解方程式を導く。第
JEL 区分:R11,R12
2節では,非空間経済の空間経済への拡張化を図り,また,地域が同一の輸入性向を共有する同次 型空間経済において,Gauss 定理の適用化により,ラプラシアンの解となるポテンシャルとしての 所得の完全解を導く。次いで,立地依存型輸入性向をもつ地域から成る非同次型空間経済において, 導かれた解方程式を発散型に変換し,自己随伴微分作用素の適用化と同次境界条件の想定の下で, Sturm=Louiville 問題に準ずる固有値問題を構築し,級数を成す固有値各個に対応する可付番無限数 の解の重ね合わせとしての一般解を導く。 最後に,若干の結論的言及がなされる筈である。 なお,本稿は最終稿ではない。
第1節
乗数―加速度因子モデルの拡張化
1.連続的動学モデル化 本節では,静学的文脈の中で展開された Samuelson=Hicks 型の離散的乗数―加速度因子モデル を連続的動学モデル化し,同次的な地域間交易が展開される空間経済モデルへの拡張化を図る。 本項では,空間が考慮されない非空間経済における静学的乗数―加速度因子モデルの連続的動学 モデル化を図る。1) 経済モデルの動学化の萌芽ともみなし得る乗数分析は,産出量と投資の関係を事前的関係として の消費函数のみで関係づけたそれであり,投資面に関する事前的配慮を欠いていた。ここに,かか る欠落を補填するかのごとくに,投資決定要因の明確化を経て,誘発投資を産出量の変化に関係づ ける加速度原理との結合化の試みが現出するに至るのも極く自然な流れがしたがった。 まず,対比のために静学的な乗数過程と加速度原理の構造を確認しておこう。 静学的乗数は,産出量(所得)Y ,消費 C ,投資 I に対し,均衡条件 Y =C!I (1) or Y"C(Y )=A (2)ている。それぞれの所得水準において,s=1*c であり,正の値を取るから,c<1がしたがう。c が一定ならば,均衡所得は Y = 1 1*cA (5) で与えられる。 次に,加速度因子は,連続的な形で
I(t)=I%'dtd Y(t)&( (6)
で表現される。ここで,Y(t)は産出量(所得)の率であり,I(t)は誘発投資の率であり,いずれも, t 時点におけるフローとして捉えられている。いま,1次近似を施せば,(6)式は I(t)=vdtdY(t) (7) と変形される。ただし,v は投資係数であり,正の定数とされる。 しかるに,上の乗数過程がフィードバック過程(feedback process)を成すことは,周知のごとく である。2)Y が C を通じて自らによって影響されていくフィードバックが作用するからである。 同様に,加速度因子において,v d dtを一定乗数として捉えれば I =vdYdt =v!#d dt"$Y =(vD)Y (8) がしたがい,上と同様にフィードバック過程を成すことが確認される。ただし,D =d /dt は,代 数的取扱いを可能にする微分演算子(ないし微分作用素)である。 ここで,乗数過程と加速度因子のそれを結合すれば,乗数―加速度因子モデル
Y =C)I )A; C =cY and I =vdYdt (9)
がしたがう。(9)式は,2つの回路をもつ2重のフィードバック過程を含む,すなわち,同じ動作 を繰返す閉回路制御体系(closed loop control systems)を構成する。(図−1参照。3))
ところで,Tustin[17],Phillips[13]は,工学モデルと経済のそれを関連づけるべく加速度因子 に時間ラグ(time lag)を導入する形の動学化を試みた。4)
例えば,加速度因子にズレτ があるとき,乗数―加速度因子モデルは,方程式
Y =C)I )A; C =cY and I =vdtdY(t*τ) (10)
で表わされる。(図−2参照。5))
Q(t)=ξ ! ! " e&ξτX(t&τ)dτ (11) で表わされる。このとき,ξ∈(0,1)に対して, !!"ξe&ξτdτ=1 (12) が満たされる。 ここで,t&τ を x で置き換えると,(11)式は, Q(t)=ξ ! !" !
e&ξ(t&x)X( x)dx=ξe&ξt!
Q =D%ξξ X (18)
がしたがう。
ところで,連続変数を用いるとき,(10)式に3つのラグ,すなわち,生産ラグ L0,消費ラグ Lc, そして投資ラグ Liが作用すると想定することが可能である。このとき,方程式
Z =C%I %A; C =L(cY )c ,I =L(vDY )i (19)
がしたがう。消費は単一ラグ,投資は2重ラグをもつ。 いま,生産過程における均衡条件 Y =A%I %(1&s)Y は,反応速度 λ の下で時間定数 T0=1 λ の ラグを伴なう適応型反応 DY =λ(A%I &sY ) (25) における均衡条件と同値となり,モデルの乗数部分を与える。 他方,加速度原理は, ! ! K =I =vY (26) を主張する,すなわち,資本ストックの変化率である投資が所得変化率に比例することを主張する ものであり,そこでの均衡条件は,反応速度 κ の下での時間定数 Ti=1κ を伴なう適応型反応 DI =κ(vDY&I ) (27) における均衡条件と同値となり,モデルの加速度因子部分を与える。 いま,反応速度λ,κ を用いれば,(24)式は, 1
λ( D%κ)DY %(D %κ)sY &κvDY %κsY =κA (28)
or 1
λD2Y%!#κλ%s&κv"$DY%κsY =κA (29)
!! !
or Y%(κ%λs&κλv)Y %κλsY =κλA (30) と変形される。
ところで,自生的支出 A は,体系に強制振動(forced vibrations)を与える振動子として作用する。A !
は定数と設定されており,A=0がしたがうから,一定の均衡−Y が特解として得られる。そこからの振
ラー函数の勾配(gradient)として得られる。すなわち, v
(P )=grad f(P ) (31)
がしたがう。函数 f(P )は,ポテンシャル函数(potential function)ないし v(P ) のポテンシャル(po-tential)と呼ばれる。かかる v(P )と,それに対応するベクトル場は,保存的(conservative)と呼ば れる。そこでは,エネルギーが保存される,すなわち,物体を点 P0から別の点 P に移動させ,ま
た P0に戻してもエネルギーが失われることがない。7)
かかる議論は,Newton の万有引力の法則(Newton’s law of gravitation)に由来することは言うま でもない。
いま,距離 r をもつ2点 P0:(x0,y0,z0)とP:(x,y,z)における2つの質点の間に引力(force of attraction)
p=*rc3r=*c%' x*x0 r3 , y*y0 r3 , z*z0 r3 &( (32) が作用するとき,上の p はポテンシャル f(x,y,z)=c/r をもつ。したがって, p=grad f =grad(c/r) (33)
! ! いま,(42)式を時間に関して微分し,(27)(4,0)′式を代入し,I ,X を消去すれば, !! ! Y =vY!m!2Y"X (43) がしたがう。さらに,(43)式に(41)′式を代入すれば, !! ! Y"(1!s"v)Y !sY =m!2Y (44) を得る。(44)式は,地域間で共通の輸入性向の下で交易が展開される空間経済に拡張された乗数― 加速度因子モデルの解を与える解方程式を構成することが帰結される。 しかるに,地域間交易に際して,輸入性向が共通する空間経済は,地域差が交易のあり様に影響 することのない線型性が支配する線型空間経済であった。 以下では,輸入性向に地域差が反映する非同次型空間経済の文脈の中で,乗数―加速度因子モデ ルのあり方をみる。 1) 本項の議論について,Allen[1],[2],Phillips[13]参照。
2) Keynes 体系に対する不均衡論的接近(disequilibrium approach)が華やかりし項,Cochrane=Graham[6], Aoki=Leijonhufvud[4]は,サイバネティクス(cybernetics)の視点から,乗数過程をフィードバック過程と して位置づけた。
3) Allen[1](Chap.9),Fig.36A に準ずる。
4) Tustin は,純粋の工学者,Phillips は,工学の経験のある経済学者である。 5) Allen[1](Chap.9),Fig.36B に準ずる。
6) Allen[2](Chap.17),Fig.17.5A に準ずる。
7) ポテンシャル(potential)の議論として,Kellogg[11],(Chap.I,II & III),Kreyszig[12](Sec.9),Sneddon[16] (Chap.4)参照。
8) Kellogg, op.cit.,(Chap.VII),Sneddon, op.cit.,(Chap.4)参照。
9) 勾配(gradient),発散(divergence)に関して,Courant=Hilbert[7](Chap.4),Courant=John[8](Vol II, Chap.2),Kreyszig, op.cit.,(Sec.9)参照。
10) Gauss定理(Gauss Theorem)について,Аминов(Aminov)[3](Глава1,§(1)),Courant=John, op.cit.,(Chap.2, §5),Kellogg, op.cit.,(Chap.II,§5),Kreyszig, op.cit.,(Sec.10.7)参照。
11) かかる単純化の手続きは,Samuelson[15],Hicks[9]に準ずる。
第2節
非同次型空間経済
1.Sturm=Liouville 問題 本節では,非同次型空間経済における乗数―加速度因子モデルの展開をみる。 本項では,前節で想定された各地域が共通の輸入性向をもつ同次型空間経済を各地域が独自の輸 入性向,すなわち立地依存型の輸入性向をもつ非同次型空間経済に拡張し,そこでの解を得るため の準備として Sturm=Liouville 問題を考える。12)く。13)
いま,独立変数 x の函数 u を考える。このとき,函数 u の線型同次微分作用素(linear homogene-ons differential operator)
さて,伝統的乗数―加速度因子モデルの同次型空間経済への拡張化に加えて,地域差を含む相異 なる立地依存型輸入性向の下で地域間交易が展開される非同次型空間経済への拡張化を試みよう。 ところで,前節における同次型空間経済において,乗数―加速度因子モデルが導いた解方程式は, !! ! Y"(1!s"v)Y !sY =m"2Y (44) で表わされる。 ここで,所得が時間を要素とする時間函数Τ(t)と立地座標(x1,x2)を要素とする空間函数 S( x1,x2) とに分解され Y =Τ(t)S(x1,x2) (49) で表わされるものとする。このとき,(44)式に対する解は,2つの方程式 !! ! Τ!(1!s"v)Τ!(λm!s)Τ=0 (50) "2 S!λS =0 (51) に分離される。 伝統的な静学的乗数―加速度因子モデルの同次型空間経済への拡張化に加えて,地域差をもつ非 同次型空間経済への再拡張は,地域間で相異なる立地依存型の輸入性向に基づいて交易がなされる 非同次空間をもつ非同次型空間経済を想定することによって展開されることは繰返すまでもない。 いま,両地域には,交易に際して輸送能力に差異があり,その結果,両地域の輸入性向は立地依 存的(location−dependent)であり m=m( x1,x2) (52) で表わされるものとする。15)このとき,m"2Y は "・(m"Y )=m"2 Y!"m・"Y (53)
or div(m・grad Y )=m"2Y!gradm・gradY (54)
r( x)>0 (56) がしたがうものと仮定される。このとき,上の微分方程式が満たすべき境界条件
(a) k1y(a)&k2y′(a)=0 (57)
(b) l1y(b)&l2y′(b)=0 (58)
が設定される。ただし,k1,k2,および l1,l2は,それぞれ同時にゼロとならない定数である。
(55)式の微分方程式は,Sturm=Liouville 方程式(Sturm=Liouville equation)と呼ばれ,(a)(b), の境界条件は,Sturm=Liouville 境界条件(Sturm=Liouville boundary conditions)と呼ばれ,(a)(b), の境界条件と微分方程式((55)式)が構成する境界値問題は,Sturm=Liouville 問題と呼ばれる。同 問題は,(55)(5,7)(5,8)式の特解のタームでの便利な級数展開をもたらす。
しかるに,(55)式の均衡方程式は,Legendre 函数,Bessel 函数に変換し得る。16)ここで,1次元
において,両函数が Sturm=Liouville 方程式を成していることを確かめておこう。17)
まず,Legendre 方程式
(1'x2)y″'2xy′&n(n&1)y=0 (59)
を考えよう。(59)式は,直ちに, [(1'x2)y′]′&λy=0,λ=n(n&1) (60) と書き改められる。(60)式において,p( x)=1'x2,q( x)=0,かつ r( x)=1と対比させれば,(60)式 は(55)式に帰着する。 次に,Bessel 函数 " "! ! " x2!!
y&x y&(x2'n2)y=0, y=dy/dx (61)
" ! " "
を考えよう。ただし,x=kx と設定される。このとき,y=dy/dx=(dy/dx)(dx/dx)=y″/k,!!
y=y″/k2
がしたがい,(61)式は,
k2x2・y″/k2&kx・y″/k&(k2x2'n2)y=0 (62)
or x2y″&x y′&(k2x2'n2)y=0 (63)
と書き改められる。ここで,(31)式の両辺を x で除せば ( x y′)′&"$'n 2 x &λx#%y=0, λ=k2 (64) がしたがう。ここで,p=x,q='n2/x,かつ r=x と対比させれば,(64)式は(55)式に帰着する。 かかる Sturm=Liouville 問題は,(57)(5,8)式を満たす(55)式の解,すなわち,固有函数 (eigenfunc-tion)を探すことであり,このとき,ある数λ に対して,固有函数が存在するとき,λ は,Sturm= Liouville 問題の固有値(eigenvalue)と呼ばれる。
ここで,振動弦(vibrating string)を例にとって Sturm=Liouville 問題
の固有値と固有函数を求めよう。(65)式の問題は,例えば,x=0,x=π の2つの端点で固定されて いるヴァイオリン弦が少し弾かれたとき生ずる振動に関する問題である。y( x)は弦の変位 u( x,t) =y( x)ω(t)の空間函数を与える。ただし,t は時間である。 上の(55)(5,7)(5,8)式から,p=1,q=0,r=1,かつ a=0,b=π,k1=l1,k2=l2=0がしたがう。い ま,λ="ν(<0)2 とすれば,(65)式の一般解は, y( x)=c1eνx!c2e"νx (66) となるが,境界条件から,c1=c2=0,したがって y=0となる。これは固有函数たり得ない。今度は, λ=ν(>0)2 とすれば,一般解は,三角函数を用いれば
y( x)=Acosνx!B sinνx (67)
と表現し直される。 しかるに,上でみたごとく,Legendre 方程式は,Sturm=Liouville 方程式となり,p=1#x2,q=0, かつ r=1の下で [(1#x2)y′]′"λy=0 (74) で表わされた。このとき,p(#1)=p(1)=0となるから,境界条件は不要となり,区間#1
#
x#
1 における Sturm=Liouville 問題が得られる。境界条件が必要とされない類の同問題は,必要とされ る正規問題(regular problem)と区別され特異問題(singular problem)と呼ばれる。しかるに,Legendre 多項式(Legendre polynomials)P( x)n は,n=0,1,…,したがってλ=0,1・2, 2・3,…に対して,上の問題の解となることが知られている。ここで,同多項式に,上の直交性の議 論を適用すれば,同多項式は,同区間において直交する,すなわち !!!!Pm( x)P( x)n dx=0, m%"n (75) を導く。 " さらに,一定の整数 n
$
0に関する Bessel 函数 J( x)n は,Bessel 方程式 " " "! " " " x2J!! n ( x)"x J( x)n "(x2#n2)J( x)n =0 (76) ! " " " を満たすことが知られている。ただし,Jn=dJn/dx, !! Jn=d2Jn/dx2である。上でみたごとく,x=kx と 設定すれば,(76)式は,Sturm=Liouville 方程式 [x J(kx)n′ ]′"(#n 2 x "k 2x)J(kx)n =0 (77) に変形される。ただし,p( x)=x,q( x)=#n2/x,r( x)=x,さらに,λ=k2である。しかるに,p(0)=0 であるから,上の直交性の議論から,所与の R に対し,区間0#
x#
R 上で x=R においてゼロと なる解 J(kx)n は直交する,すなわち, J(kR )n =0 (78) を導く。 さて,項を改め,非同次2次元空間に拡張された乗数―加速度因子モデルの解方程式が,Sturm =Liouville 問題に相当する固有性問題を構成することを確かめ,そこでの所得の一般解を求めよう。 2.非同次型空間経済 本項では,立地依存的輸入性向による交易が展開する空間経済において,乗数―加速度因子モデ ルが導く解方程式の一般解を求める。 まず,前項において導入された微分作用素の特定化を行っておこう。 一般に,共役ベクトル空間(dual vector space)において,線型作用素Τを想定するとき,等式 <Τx,y>=<x,Τ*y> (80) によって定義される作用素Τ* Τ*: E → E (81) は,Τ の随伴作用素(adjoint operator)と呼ばれる。 いま,B=#e1,…,en$が E の直交基底である,すなわち <ei,ej>=δij (82) であるとき,Τ*のB―行列は,Τ の B―行列の転置行列となる。ただし,δijは Kronecker デルタ である。さらに,Τ*=Τ,すなわち,
<Τx,y>=<x,Τy> for all x,y∈E (83)
がしたがうならば,Τ∈L[E ]は,自己随伴作用素(self−adjoint operator)と呼ばれる。このことは, 直交基底において,Τ の行列[aij]が対称的(symmetric)である,すなわち,aij=ajiがしたがうこと を意味している。18)
ここで,2次元被積分函数をもつ変分問題から生ずる微分作用素を考えよう。19)
いま,独立変数が1つの場合について2次元作用素
Q[u,u]=au′2!2buu′!du2 (84)
を想定する。a,b,d は x の函数であり,u( x)は変函数(argument function)である。 次に,対称的双一次作用素(symmetric bilinear operator)
Q[u,v]=au′v′!b(u′v!v′u)!duv (85) を想定する。しかるに,(85)式から微係数 v′を消去するために部分積分を適用し,区間[x0,x1]に 対して積分すれば !! ! !" Q[u,v]dx="!! ! !"
v[(au′)′!(b′"d )u]dx!(au′!bu)v││xx1
0 (86)
がしたがう。
ここで,微分作用素
L[u]=(au′)′!(b′"d )u (87) を定義し,(86)式に適用すれば,(86)式は, !! ! !" Q[u,v]dx="!! ! !"
vL[u]dx!(au′!bu)v││xx1
0 (88)
しかるに,Q[u,v]は,対称的であるから,同様の手続きから !" ! "" Q[u,v]dx=&!" ! ""
uM[v]dx=(av′%bv)u││xx1
0 (89)
がしたがう。ただし,M[v]は,微分作用素で
M[u]=(av′)′%(b′&d )v (90) を表わす。(88)(8,9)式から,直ちに
!"
!
""
(vL[u]&uM[v])dx=a(u′v&v′u)││x1
x0 (91)
がしたがう。(91)式は,対称 Green 公式(symmetric Green’s formula)を与える。このとき,(87), (90)式の2つの作用素は随伴的であると呼ばれ,L[u]=M[u]が恒等的に成立するならば,L[u]
は,自己随伴的(self−adjoint)であると呼ばれる。
次に,独立変数が2つの場合をみてみよう。上の(88)式に類似の関係が線型2次偏微分方程式に 対しても成立し,例えば,極形式
Q[u,v]=p(uxvx%uyvy)%quv (92)
を伴なう
Q[u,u]=p(ux2%uy2)%qu2 (93)
は,重要な一例を成す。
いま,区分的に滑らかな境界(piecewise smooth boundary)!G をもつ領域 G に対し,Q[u,v]を 積分すれば,部分積分を経て,Green 公式
!!
!Q[u,v]dxdy=&!!!vL[u]dxdy%!!!pv !
u
!nds (94)
を得る。ただし
L[u]=( pux)x%(puy)y&qu (95) であり,S は線素,!/!n は外向き法線の方向での微分である。 もし,v が u と同一の条件を満たすならば,上の公式において u と v を交替させることが可能 となり,(94)式から2番目の作用素を引き算すれば !! !(vL[u]&uL[v])dxdy=!!!p!#v ! u !n &u !!nv"$ds (96) がしたがう。(96)式は,対称 Green 公式(symmetric Green Formula)を与える。
ここで,p=1,q=0と設定すれば,自己随伴微分作用素 L[u]は,ポテンシャル論(potential theory) のラプラシアン(Laplace operator)!2u に帰着し,(94)(9,6)式は周知の Green 公式を与える。20)
伴作用素 M[v]は任意の偏微分作用素 L[u]と随伴可能である。
因みに,領域 G において,F =f・grad g が発散定理(divergence theorem)の要件を満たすような スカラー函数 f ,g を想定する。このとき,
div F =div( f・grad g)
=div!#%'f !g !x1,f !g !x2 & ("$ =!#!x!f!g 1!x1)f ! 2g !x12 " $)!#!x!f!g2!x2)f ! 2g !x22 " $ = f!2g)grad f・grad g (97) がしたがう。さらに,!G の外向き接線方向における g の方向微係数を !g/!n で表わせば, !! ! ( f!2g)grad f・grad g)dV =! !!f ! g !n ds (98) がしたがう。さらに,f ,g を交替させ(98)式から引き算すれば !! ! ( f!2g*g !2f )dV =! !! ! #f ! g !n *g ! f !n"$ds (99) がしたがう。(98)(9,9)式は,それぞれ Green 定理の第1形式,第2形式と呼ばれる。 さて,立地依存的輸入性向 m( x1,x2)の下で交易が展開される非同次空間をもつ空間経済におい て,輸出超過 m!2Y は !・(m!Y )=!m・!Y )m!2Y (100) を満たすことが確かめられた。しかるに,(100)式は,上の Green 定理((97)式)を適用すれば
m#2S!(k2"s)S =0 (104) に二分されることが示唆された。 まず,(104)式に関心を限定しよう。交易が立地依存的輸入性向にしたがって展開されるとき, (104)式に上の議論を適用すれば div(m・grad S )!(k2"s)S =0 (105) と書き改められる。いま,線型自己随伴微分作用素 L L[S ]=div(m・grad S )"sS (106) を定義すれば,(105)式から L[S ]!k2S =0 (107) がしたがう。しかるに,区分的に滑らかな境界が妥当し,境界条件 S =0 (108) がしたがうとき,(107)(1,08)式は,Sturm=Liouville 問題に相当する固有値問題を構成する。この とき,固有値問題は,(107)式が自明解ではない,固有函数をもつようなパラメータ,すなわち固 有値を決定するそれとなる。しかるに,もし,有界な領域 G において,固有値が可付番的無限列 (denumerable infinite series)k1,k2,…を形成するとき,各固有値に対応する随伴固有函数 S( x1 1,x2),
Τ(t)=aeθ1t!beθ2t (115) で表わされる。(114)式の判別式が負のとき,補助方程式は,共役複素解 θ1,θ2="1!s"v 2
±
i (λm!s)" (1!s"v)2 4 " ≡"α±
iβ (116) をもつ。ただし, α=1!s"v2 (117) β= (λm!s)"(1!s"v) 2 4 " (118) or β2=λm!s"α2 (119) である。ここで,Euler 公式 eit=cos t!isin t (120)or e"it=cos t"isin t (121) を想起し,上の一般解((115)式)に代入すれば
Τ(t)=ae("α!iβ)t!be("α"iβ)t
=e"αt(!α!β)cos βt!(α"β)isin βt "
=e"αt( Acosβt!B sin βt) (122) がしたがう。ただし,A=α!β,B=(α"β)i である。
しかるに,λm!s=k2が,k
12,k22,…の級数を成すとき,(119)式から,β も β1,β2,…の級数とな
り,したがって,Τ(t)も Τ(t)1 ,Τ(t)2 ,…の級数解をとり,
! がしたがうものとする。Y( x0 1,x2)は初期変位,Y( x0 1,x2)は初期速度を表わし,共に所与であるもの とする。前者の境界線上における制約は,境界条件を成し,後者の制約は,速度の初期条件を成す。 まず,t=0における境界条件((125)式)を(124)式に適用し,直交性を考慮すれば,Aiは陽表化 され Ai=!!Y( x0 1,x2)S( xi 1,x2)dx1dx2 (127) がしたがい,係数 Aiが決定される。 同様に,t=0における速度の初期条件((126)式)を(124)式に代入し,再び直交性を考慮すれば, Biは陽表化され ! Bi=!!Y( x0 1,x2)S( xi 1,x2)dx1dx2 (128) がしたがい,係数 Biが決定される。 繰返すまでもなく,S( xi 1,x2)は,(107)式の固有値問題を解く相異なる固有函数であり,βiは, 対応する固有値 kiから導出される周期である。固有函数は,空間経済の領域の形状に応じて形状 を異にするが,固有函数体系が直交集合を成すべく選ばれるところでは,初期条件が特定されれば, 定数 Ai,Biが直ちに決定されることを(127)(1,28)式は示唆している。このとき,完全解((124)式) は,個々の ki毎に導かれる各個解の合計として表わされる。ここに,線型体系に対する重ね合わ せ原理(superposition principle)の表出を見ることができる。各個の入力の和に,それらの出力の和 が対応することを示す上の原理が成立する根拠は,制御体系を成す上の体系の線型性によって裏打 ちされている。
12) Sturm=Louiville 問題について,例えば,Courant=Hilbert, op.cit.,(Chap.V,§10)参照。 13) Courant=Hilbert, op.cit.,(Chap.V)参照。
14) Courant=Hilbert, op.cit.,(p.227)参照。
15) かかる特定化は,Beckmann=Puu, op.cit.,(Chap.8),Puu, op.cit.,に負う。
16) Legendre 函数(Legendre function),Bessel 函数(Bessel function)について,Courant=Hilbert, op.cit.,のそれ ぞれ Chap.7,Chap.5参照。
17) 以下の例証の展開に関して,Kreyszig, op.cit.,(Sec.5.7)参照。 18) Hirsch=Smale[10](Chap.9,§5)参照。
19) 以下の展開に関して,Courant=Hilbert, op.cit.,(Chap.V)参照。
20) 本稿におけるラプラシアン(ないし Laplace 作用素)の適用の数学的根拠を与える。 21) Courant=Hilbert, op.cit.,(pp.309―10)参照。
結びにかえて
るそれに観察可能な例として言及した。以来,同現象は,囁きの回廊(whispering gallery)と呼ば れるに至った。
当初,王立天文台長 Sir George Airy が下した,球面の一方の極から発せられた射線が対極に収 束することによる現象であるとする説明が支持を得ていたのに対し,Rayleigh 自身,異を唱え,波 動方程式(wave equation)を用いた波動伝播モデルに基づく説明を呈示した。それは,Bessel 函数 の漸近的挙動の解析によるものである。 ポテンシャルの概念は,速度,力,静電場,磁場,熱エネルギーといった文脈に汎用化されてい る。いま,ポテンシャルの概念を援用すれば,上の現象は,空間変数と時間変数の函数であり,物 理的には,圧力,密度の局所的大きさを表わす変数であり,その勾配が局所的速度を与える速度ポ テンシャル(velocity potential)の球状ドームにおける挙動のそれに帰着される。 速度ポテンシャルに対する方程式は,直交座標において空間の2階微分を3次元ラプラシアンで 置き換えた3次元波動方程式となる。さらに,それは,球面座標による方程式に変換される。この とき,ある条件の下で,解方程式の解を成す音波が,ある境界に近い薄い層では,その層内に捕捉 され,閉じ込められることが確かめられる。これが,囁きの回廊の謂である。 上の本文においては,空間経済を構成する地域の空間的位置と時間の函数である所得がポテン シャルとみなされた。 上では,まず,空間的要素が捨象された伝統的経済体系において,乗数―加速度因子モデルが制 御モデルとしての構造をもつことを確認した上で,本来,離散型の静学的同モデルを産出と投資の 過程に伴なう時間ラグに対する適応型調整過程を導入し連続モデル化を通じて,Samuelson=Hicks 型モデルの解,すなわち,一定周期をもつ単振動解を導く解方程式が得られた。 次いで,経済を構成する所得差をもつ地域が,共通の輸入性向にしたがって交易を展開させる同 次的空間をもつ同次型空間経済が想定された。Gauss 定理の適用により空間的所得差が所得のラプ ラシアンで測られることを確かめた上で,そこでの乗数―加速度因子モデルが2次元波動方程式に 相当する解方程式を導くことが確められた。 最後に,上の輸入性向が地域差を反映した立地依存型を成す非同次空間をもつ非同次型空間経済 が想定された。そこでの解方程式を発散型に変形し,自己随伴微分作用素を適用し,区分的に微分 可能な曲線を成す同次境界条件を想定すれば,直交性が支配する Sturm=Louiville 問題に相当する 固有値問題がしたがう。同問題は,級数の形をとる固有値に対応する可付番無限数の解をとり,固 有値毎に対応し成立する各個解を重ね合わせた形の一般解が導かれることが確かめられた。 References
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