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Vol. 55, No. 645, pp , Aerodynamic Characteristics of Flapping Motion of a Two- Dimensional Wing Model Shaped Like a Dragonfly Wing S

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Academic year: 2021

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日本航空宇宙学会論文集 ―論 文― Vol. 55, No. 645, pp. 459–466, 2007

トンボの翅断面形状を有する翼型のはばたき運動における空力特性

1

Aerodynamic Characteristics of Flapping Motion of a

Two-Dimensional Wing Model Shaped Like a Dragonfly Wing Section

露 木 浩 二2・須 3・五十嵐 三武郎2

Koji Tsuyuki, Seiichi Sudo and Saburo Igarashi

Key Words : Aerodynamic Characteristics, Dragonfly Wing, Flapping Motion, Numerical Simulation

Abstract : This paper describes the aerodynamic characteristics of the flapping motion of a dragonfly wing model. The orbit and feathering angle of a dragonfly wing were measured using a high-speed video camera. The measurement data was used to formulate two mathematical models: linear and Fourier models. The aerodynamic characteristics of a thin plate and dragonfly wing models, which were investigated using a numerical simulation, revealed that the linear model generated a high vertical force during descent and high thrust force during ascent. Although the Fourier model could not generate a high thrust force during ascent, it generated a higher vertical force than the linear model. During the flapping motion in both the models, a marginal difference was observed between the forces generated at the top and bottom. When the feathering angle approached the stroke angle, the resultant force direction acting on the wing models was reversed. 1. 緒 言 飛翔昆虫のはばたき飛行は複雑で繊細な運動をするため 観察が難しく,そのメカニズムは完全に解明されてはいな い.しかしながら,はばたき飛行のメカニズムは微小流体 の制御やはばたきロボットへの応用などの可能性が考えら れるため,飛翔能力に優れているトンボは広く研究されて きた. たとえば,Alexanderは飛行には通常の空気力よりも大 きな力を必要とすることを見出した1)Wakeling Elling-tonは,自由飛行するトンボに準定常解析を適用して平均 揚力係数を明らかにした2)Azumaらはトンボのはばたき 特性を運動量理論,翼素理論,LCM法などにより分析し た3).また,さまざまな流速における風洞内で自由飛行す るトンボを撮影し,その飛行性能について解析した4).近 年ではさらに研究が進み,高揚力発生の要因に翅の前縁付 近に発生する前縁渦が関係していることや,はばたき運動 には失速遅れ,回転循環,後流捕獲の3つのメカニズムが 存在するなどの報告がなされている5, 6) 実験によるはばたき運動のメカニズム解明が非常に困難 なことから,数値シミュレーションを利用してはばたき運 動のメカニズムを解明する研究も活発になってきた.たと えば,Wangは2次元のホバリング運動を行う翼のシミュ レーションを行い,翼により発生する渦や揚力などを明ら 1° 2007 日本航空宇宙学会C 平成 18 年 8 月 29 日原稿受理 2いわき明星大学科学技術学部 3秋田県立大学システム科学技術学部 かにした7, 8)SunLanはトンボがホバリングをしてい る状態の数値シミュレーションを行い,はばたきのサイク ルに大きな力のピークが2つ発生すること,前翅と後翅が 同時にはばたいても翅1枚だけの結果に比べて垂直方向の 力を減少させないことを明らかにした9).しかしながら,は ばたき運動は多様であるため,従来の研究では2次元の場 合も3次元の場合も計算モデルには平板を用いている場合 が多く,実際のトンボの翅断面に近い形状モデルによる数 値シミュレーションの例は少ない. 本研究では,トンボが滑空飛行にある場合の空力特性を 明らかにした実験と数値シミュレーション10)に引き続き, まず,はばたいているトンボの翅の動きを実験により解析 し,その軌跡とフェザリング角度を明らかにした.そして, その実験データを用いてトンボの翅断面形状を持つ2次元 翼型モデルの数値シミュレーションを行い,はばたき運動 の空力特性を明らかにした. 2. はばたき運動の実験的解析とその数学モデル 2.1 翅端の軌跡とフェザリング角度の実験的解析 ト ンボのはばたき運動を解析するため,スタンドに固定され たテザード状態にあるトンボの翅の動きを2台の高速度ビ デオカメラから構成される3次元運動解析システムを用い て測定した.第1図にその構成を示す.本システムは翅の はばたきをトンボの前方と側面から同時に撮影することで, 翅の動きを正確に捉えることができる.本研究では,トンボ のはばたきを4500 fpsで撮影した.測定に使用したトンボ はショウジョウトンボ(Crocothemis servilia mariannae) で,体長L = 40.07 mm,前翅長l = 34.40 mmである.

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第 1 図 はばたき挙動解析用高速度ビデオカメラシステム概略図 第 2 図 はばたいているショウジョウトンボの連続写真 翅の打ち下ろしを開始する時刻をt = 0 sとし,第2図 に側面から撮影した高速度ビデオカメラの連続写真を示 す.このとき,はばたきの周波数は f = 31.25 Hz(周期 T = 0.032 s)であった.このような高速度ビデオカメラの 映像から,前翅の付け根を原点として第3図のように座標 系を定義し,はばたいているトンボの前翅端(Wing tip) の軌跡を計測した.測定位置1.0 l におけるはばたき1周 期分の軌跡の一例を第4図に白丸および破線で示す.図中 の矢印は翅端の移動する方向を示している.第4図からは, トンボはストロークの上部と下部において小さな円を描く ように翅を反転させ,異なる軌跡で打ち下ろしと打ち上げ をしていることがわかる.また,ストローク面の角度はお よそγ = 48◦ であった. さらに,第3図(b)に示したように,縁紋(Pterostigma) 中央部を通る断面(0.91 l)のフェザリング角度θを高速度 ビデオカメラの映像から計測した.その結果を第5図に白 丸および破線で示す.横軸は無次元化した時間 t/T であ (a) トンボ (b) 翼断面 第 3 図 座標系およびトンボと翅の定義 第 4 図 ショウジョウトンボの前翅端の軌跡と 2 つの数学モデル る.はばたき1周期における打ち下ろしと打ち上げの範囲 を図中に矢印で示す.ただし,これらの範囲にはストロー クの上部と下部で翅を反転させる動作の時間も含まれてお り,その時間は高速度ビデオカメラの映像から,下部でお よそ t/T = 0.260.50,上部でおよそ t/T = 0.881.0 の範囲であった.第5図から,これらの時刻においてトン ボは翅のフェザリング角度θを急速に変化させていること がわかる. 2.2 はばたき運動の数学モデル トンボの翅のはばた き運動を数値シミュレーションに適用するため,実験によ

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り得られた翅先端の軌跡および翅断面のフェザリング角度 θの値を直線近似とフーリエ級数で数式化した.すなわち, 直線近似ははばたきを単純な運動モデルで置き換えた場合 を意味し,フーリエ級数ははばたき運動を実際のトンボに 極力近づけた場合を意味している. 直線近似モデルにおいて,翅先端の軌跡とフェザリング 角度をそれぞれ x = xasin(ωt − φ) + xi y = yasin(ωt − φ) + yi ( 1 ) θ = θasin(ωt) + θi ( 2 ) と表した.ここで,ω は角振動数である.0.91 l におけ る振幅の値は,付け根における振幅を0と仮定し,翅端 (1.0 l)の測定結果から,xa= 14.56 mmya= 16.38 mmθa = 80 とした.またストローク面の原点からの距離を xi = −9.1 mmyi= 5.46 mm,フェザリング角度のずれ をθi= −45◦ としてそれぞれ与えた.φは位相で,t = 0 s のときx = 4.65 mmy = 20.93 mmとなる値をとる.ま た,フーリエ級数モデルでは,翅先端の軌跡とフェザリン グ角度をそれぞれ, x = ax0+ n X k=1 n axkcosk(ωt−φ)+bxksink(ωt−φ) o y = ay0+ n X k=1 n aykcosk(ωt−φ)+byksink(ωt−φ) o            ( 3 ) θ = aθ0+ n X k=1 n aθkcosk(ωt)+bθksink(ωt) o ( 4 ) と表した.axaybxbyはフーリエ係数である. Azumaらはフェザリング角度の変化を4次の調和振動と して表しているが4),本研究では打ち上げと打ち下ろしの 非対称性をより忠実に再現するためn = 8 とし,8次の調 第 5 図 ショウジョウトンボ前翅のフェザリング角度の変化と 2 つの 数学モデル 和振動とした.φは位相で,t = 0 sのとき x = 6.13 mmy = 20.82 mmとなる値をとる.これら数学モデルの描 く0.91 lの軌跡を第4図,第5図に黒線で示す.細線は直 線近似モデル(Sine model),太線はフーリエ級数モデル (Fourier model)を表している.また,同様にして計算し た0.35 lの軌跡を灰色の線で示す. 第5図から,直線近似モデルではフーリエ級数モデルと比 較するとストロークの上部と下部で翅を反転させる動作が 緩やかに行われていることがわかる.また,t/T = 0.050.10t/T = 0.500.75において,フーリエ級数モデル ではθを大きく変化させない時間が存在しているが,直線 近似モデルではθを常に緩やかに変化させている.ただし, トンボのはばたき運動は打ち下ろしと打ち上げで対称では ないため,直線近似モデルは打ち上げにおいてフーリエ級 数モデルほどθをよく近似していない.このような違いが はばたき運動の生成する空気力にどのような影響を及ぼす か,0.35 l0.91 lの場合におけるはばたき運動を数値シ ミュレーションにより検討した. 3. はばたき運動の数値シミュレーション 前節で得られたはばたき運動の実験データから,本節で は数値シミュレーションによってトンボの翅の空力特性を 明らかにする.そのために,(1)翅を剛体と仮定し,(2) 静止した空気中ではばたき運動をする流れは乱流のk–εモ デルで記述できるとした.数値計算は有限要素法解析ソフ トウェアのANSYSを用いて行った. 3.1 シミュレーションの翼型モデル形状 数値シミュ レーション上ではばたき運動を行う2次元翼型モデルの形 状として,まず最も単純な第6 図(a)に示すような平板 モデルを設定し,数値シミュレーションを行った.このと き,前縁と後縁を結んだ翼弦長は7 mm,モデルの厚さは 20 µm一様とした.続いて,トンボの翅断面形状に近い翅 型モデルについて数値シミュレーションを行った.翅断面 のモデル化にあたっては,著者らの報告10)で取り上げた, L = 39.81 mml = 32.51 mmのアキアカネ(Sympetrum frequens)前翅の断面形状を用いた.このアキアカネは,は ばたき運動の解析に用いたショウジョウトンボと同じ不均 翅亜目に属しており,かつ体長,前翅長共にほぼ同じサイ ズである.したがって,アキアカネの翅の断面形状およびは ばたきの挙動は,本研究に用いたショウジョウトンボと同 様であるといえる.翅断面形状はスパン方向にその形を大 きく変化させるが,本研究では凹凸のない平板と凹凸のあ (a) 平板モデル (b) 翅型モデル 第 6 図 数値シミュレーションに用いた翼型形状

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るトンボの翅との比較が目的の1つであるため,著者らの 報告10)で示した翅において,最も凹凸形状の顕著な0.35 l の位置における断面形状を採用した.その形状を第6図(b) に示す.すなわち,本論文では 0.35 l0.91 l の位置に おけるはばたき運動モデルを,第6図で示した翅断面形状 (0.35 l)と平板に適用した結果について述べる. 3.2 はばたき運動のシミュレーション結果 第6図に示 した2つの翼型モデルのはばたき運動について,数周期分 の数値シミュレーションを行い,その結果の中より第2周 期から第3周期分の翼型モデルに働く力の変化を示す.翼 型モデルに働く力は第3図(b)に示したように,垂直方向 に働く力(垂直力)をFv,水平方向に働く力を Fh とし た.すなわちFh が負の場合,翼型モデルには推進力が働 くことを意味する.さらに,翼型モデルに働く合成された 力F の方向を Θ と定義した.Θ は第3図(b)のように 垂直線から反時計回りを正とした.すなわち,Θ > 0◦ の 場合は前向きに力が働き,Θ < 0◦ の場合は後向きに力が 働く.また,|Θ| > 90◦ では下向きに力が働き,|Θ| < 90 では上向きに力が働くことを意味する.なお,はばたき開 始直後を除き,翼型モデルに働く力の変化はどの周期もほ ぼ同じ傾向を示した. 翼型モデルに働く摩擦抵抗は,次式で表される壁パラメー タy+を用いて評価した11) y+= C 1/4 µ kp1/2δ ν ( 5 ) ここで, は定数(Cµ= 0.09),kpは翼型モデル壁面近 傍の節点における乱流運動エネルギ,δ は翼型モデル壁面 から壁面近傍節点までの距離,ν は動粘性係数である.y+ を用いると,有効粘性係数µe は µe = µy + 1 κln(Ey +) ( 6 ) で表される.ここで,µ は層流粘性係数,κおよびE は 定数(κ = 0.4E = 9.0)である.粘性底層の厚さy+t を ANSYSでは y+t = 11.5 としており,y+ < y+t のとき, µe = µ となる.y+ を式(5)で評価して µe を求めれば, 翼型モデルに働く摩擦抵抗τ (τx, τy) は線積分を用いて次 式で表される. τx= Z s µeupcosβ δ ds, τy= Z s µeupsinβ δ ds( 7 ) ここで,upは壁面に沿った方向の速度,βは水平面と壁面 とのなす角,sは翼型モデル表面の全長である. 平均レイノルズ数Re および無次元周波数ω は,翼型 モデルの平均移動速度をU,翼弦長をcとして,次式で求 めた. Re = c U ν ( 8 ) ω = c ω U ( 9 ) 本研究のはばたき運動における平均移動速度は,U(0.91l)= 2.7 m/sおよびU(0.35l)= 1.1 m/sである.したがって平均 レイノルズ数は,Re(0.91l)= 1.2 × 103およびRe(0.35l)= 4.7 × 102となる.また,無次元周波数は,ω (0.91l)= 0.50 および ω(0.35l)= 1.31である. 3.2.1 直線近似モデルの場合 第7図に,直線近似モデ ルによりはばたき運動を行った翼型モデルに働く垂直力Fv の変化を示す.図中の細線は平板モデルの結果を,太線は翅 型モデルの結果をそれぞれ表している.また,黒色は0.91 l の結果を,灰色は0.35 lの結果をそれぞれ表している.さ らに,式(7)によって得られた摩擦抵抗計算結果の一例と して,翅モデル(0.91 l)の場合における摩擦抵抗値の変化 を示した.図から明らかなように,圧力抵抗に比べて摩擦 抵抗の影響は極めて小さい. 第7図から0.91 lの場合は,どちらの翼型モデルの場合 においても,まず打ち下ろし開始後に Fv の値は減少する が,すぐに増加に転じ,およそ t/T = 0.28で最大値を示 した.第5図におけるθのピークと異なる時刻で最大値を 示すのは,翼型モデルの移動速度や回転速度の変化が影響 しているためである.その後,およそt/T = 0.43までFv の値は急激に減少していく.高速度ビデオカメラの映像か らは,t/T = 0.250.50の範囲で翅の反転動作が行われて おり,この間は垂直力を上手く生成できていないことがわ かる.また,打ち下ろし中は平板モデルよりも翅型モデル の方が常に大きな値を示しているが,反転動作中はどちら のモデルでも大きな差はないことが見て取れる.翼型モデ ルごとの Fv の平均値を第1表に示す.これより,翅型モ デルは平板モデルの約1.2倍の垂直力を生成することがわ かった.しかしながら,打ち上げにおいてFv の値は逆転 する.すなわち,打ち上げでは平板モデルは翅型モデルよ りも大きな垂直力を生成できる.さらに,本研究における 翅型モデルのFv は,第1表に示したとおり負の値である ことから,翅型モデルでは打ち上げにおいて垂直力を生成 できないことがわかった.0.35 lの場合は,0.91 lの場合ほ 第 7 図 直線近似モデルの条件を与えた各翼型モデルに生じる垂直方 向に働く力の変化

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第 1 表 はばたき 1 周期において生じた力の平均値 (a) 平板モデル

Plane Stroke Sine model Fourier model Fh[mN/m] Fv[mN/m] Fh[mN/m] Fv[mN/m] 0.35 Down −0.920 23.4 −1.90 23.3 Up −21.7 −18.5 −16.6 −16.7 0.91 Down −12.3 56.0 −19.2 74.2 Up −45.4 2.69 −17.8 3.08 (b) 翅型モデル

Plane Stroke Sine model Fourier model Fh[mN/m] Fv[mN/m] Fh[mN/m] Fv[mN/m] 0.35 Down −3.19 20.8 −2.76 26.0 Up −14.5 −15.7 −14.0 −15.6 0.91 Down −19.1 69.5 −25.9 88.8 Up −28.6 −9.46 −6.79 −8.13 第 8 図 直線近似モデルの条件を与えた各翼型モデルに生じる水平方 向に働く力の変化 ど激しい変化はなく,打ち下ろし時も打ち上げ時もFv の 変化は緩やかである.ただし,0.91 l の場合と異なり打ち 下ろしにおける垂直力は平板モデルの方が大きくなった. 第8図に,翼型モデルに働く推進力 Fh の変化を示す. 0.91 lの場合において,打ち下ろし始めはFhの変化は非常 に小さいが,徐々にその値は減少(すなわち推進力が増加) し,およそt/T = 0.24 でピークを迎える.その後,反転 動作において推進力の減少と増加が見られるが,t/T = 0.6 以降は推進力が徐々に増加し,およそt/T = 0.80で最大 のピークを示した.第1表に示した翼型モデルごとのFh の平均値より,打ち下ろしでは翅型モデルの方が高い推進 力を,打ち上げでは平板モデルの方が高い推進力をそれぞ れ生成することがわかった.また,打ち下ろしと打ち上げ で翼型モデルに働く力の大きさが逆転する傾向は,第7図 に示したFvの場合と同様であることがわかった.0.35 lの 場合では,Fv の場合と同様,やはりFhは緩やかに変化し ている.また,θの値が小さいため Fhはほとんど負の値 を示した. 第9図に,翼型モデルに働く合成された力の向きΘ の変 化を示す.0.91 lの場合において,t/T = 0.050.11付近 で平板モデルに大きな変化が見られるが,基本的に打ち下 第 9 図 直線近似モデルの条件を与えた各翼型モデルに生じる力の 方向 ろし中は力が鉛直上方もしくは斜め上方に向かっているこ とがわかる.打ち下ろしから反転動作に入るとt/T = 0.39 付近で力の向きは大きく変動し,翼型モデルに働く力は前 方に向かう.しかしながら,t/T = 0.54以降で力の向きは 急激に前方から後方へと変化した.これは,第5図による とフェザリング角度θ−100◦ 以下となったときに生じ ている.すなわち,翼型モデルを時計回りに回転させなが ら打ち上げる際に翼型モデルの傾きがストローク面の傾き に近づくと,ある角度で(本研究で解析したはばたき運動 の場合はθ < −100◦)翼型モデルに働く力の向きは反転す ることがわかった.ただし,t/T = 0.68付近で翼型モデル の回転方向を逆転させると,再び翼型モデルに働く力の向 きは反転したことから,打ち上げ時の翼型モデルに働く力 は極めて不安定な状態にあることが伺える.この力の向き は,ストローク上部における反転動作(t/T = 0.881.0) に入ると上方へと向かった.なお,一般に昆虫は打ち下ろ しで大きな垂直力を,打ち上げで大きな推進力をそれぞれ 得ているとされており12),第9図からはt/T = 0.540.68 の範囲を除き,確かにそのような傾向を示していた.0.35 l の場合も同様であるが,θの値が小さいため,0.91 lの場合 ほどモデルに働く力の急激な変化は見られなかった. 3.2.2 フーリエ級数モデルの場合 第10図に,フーリ エ級数モデルによりはばたき運動を行った翼型モデルに働 く垂直力 Fv の変化を示す.0.91 lの場合で,打ち下ろし では2つの大きなピークがおよそ t/T = 0.0850.25で 現れ,Fv の平均値は非常に大きな値を示した.このとき, 翅型モデルは打ち下ろしにおいて常に平板モデルよりも大 きなFv を示し,第1表からその差は約1.2倍となること がわかった.t/T = 0.25以降は,Fv の値が0付近まで急 激に減少し,大きな変動がない状態で打ち上げられている. このとき,平板モデルではFv が正の値で推移したが,翅 型モデルではほとんど負の値のままで推移した.すなわち, フーリエ級数モデルの場合も,翅型モデルでは打ち上げに おいて垂直力を生成できないことがわかった.0.35 l の場

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第 10 図 フーリエ級数モデルの条件を与えた各翼型モデルに生じる 垂直方向に働く力の変化 第 11 図 フーリエ級数モデルの条件を与えた各翼型モデルに生じる 水平方向に働く力の変化 合でもFv の値は小さいが,打ち下ろしにおいては同様の 傾向が見られる.しかしながら,打ち上げでは両翼型モデ ルともにFvは負の値を示した.また,0.91 lの場合ほど翼 型モデル間で差はつかなかった.さらに,はばたき1スト ロークの移動距離は0.91 l0.35 lで2.6倍の差であるが, 生じる垂直力には7.7倍もの差が生じた.すなわち,効果 的なはばたき飛行を行うには,はばたきの振幅と移動速度 をある程度大きくする必要があるといえる. 第11図に,翼型モデルに働く推進力Fhの変化を示す. 0.91 lの場合において,打ち下ろしで大きな推進力を生成 しているが,打ち下ろし後は値の変動が激しく,第1表に 示したとおり,打ち上げで生成される推進力はかなり小さ い.打ち上げ時のフェザリング角度を第5図で確認すると, フーリエ級数モデルではθ = −120◦前後で推移しているの がわかる.すなわち,打ち上げ時に大きな推進力を得るた めには,翼型モデルを反時計回りに回転させてθの値をプ ラス方向に近づける必要があることがわかった.逆に,推 第 12 図 フーリエ級数モデルの条件を与えた各翼型モデルに生じる 力の方向 進力を必要としない場合はθを一定にしたまま(本研究で 解析したはばたき運動の場合は θ = −120◦ 程度)で打ち 上げればよいことがわかる.0.35 lの場合では,両翼型モ デルともに打ち下ろしでは推進力がほとんど生じていない が,0.91 lの場合と異なり,打ち上げでは大きな推進力を 生成した.また,0.91 l0.35 lで垂直力には7.7倍の差 があったが,推進力に関してはその差は2.0倍でしかなく, 高い推進力を得る要因は,はばたきの振幅と移動速度の大 きさではないことがわかる. 第12図に,翼型モデルに働く合成された力の向きΘ の 変化を示す.0.91 lの場合では,いずれの翼型モデルの場 合においても,打ち下ろしでは Θ の値に大きな変動はな く,安定した力が鉛直上方から斜め上方に向かって生じて いることが見て取れる.打ち下ろしから反転動作に入ると t/T = 0.32付近で力の向きは大きく変動し,翼型モデルに 働く力が前方に向かう.その後,t/T = 0.45付近で力の向 きは急激に前方から後方へと変化し,t/T = 0.61 付近で 再び力の向きは反転した.力の向きが後方へと変化すると きのフェザリング角度を第5図で確認すると,θ−100◦ 以下となったときに生じていた.また,t/T = 0.61以降で 2つのモデルの間に大きな差が現れており,平板モデルの 方が翅型モデルに比べて力は上向きに働くことがわかった. 0.35 lの場合は0.91 lの場合ほど,働く力の向きの変動は 見られなかった.0.91 lの打ち上げで働く力の向きの変動 が激しく不安定なのは,モデルの移動速度増加に伴い,わ ずかなフェザリング角度の変化によって流れ場が大きく変 化するためであると考えられる. 3.2.3 両数学モデルの比較 以上の結果から,0.91 lの 場合について比較すると,本研究で示した直線近似モデル によるはばたき運動は,打ち下ろしで大きな垂直力を,打 ち上げで大きな推進力を生成することがわかった.このと き,打ち下ろしで大きな垂直力を得るには翅型モデルの方 が平板モデルよりも効果的であり,逆に,打ち上げでは平 板モデルの方が翅型モデルよりも大きな推進力を生成した.

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フーリエ級数モデルの場合は,打ち下ろしで直線近似モデ ルよりも大きな垂直力を生成したが,打ち上げで生成され る推進力はかなり小さく,第1表に示したように,直線近 似モデルの半分以下の値となっていることがわかる.これ より,生成される力の変化は翼型の形状よりもフェザリン グ角度の方が支配的であるといえる.また,ストロークの 上部と下部における反転動作中は,いずれの数学モデル, 翼型モデルの場合でもFv およびFhの値に大きな差は見 られなかった.すなわち,反転動作中に翼型モデルに働く 力は,翼型形状にはあまり依存しないことを示唆している. なお,両数学モデルとも打ち上げと打ち下ろしで働く力は 変動しているが,はばたき1ストローク全体で見ると高い 垂直力と推進力が得られていることから,本翼型モデルは 斜め上前方に向かって飛行することがわかる. さらに,両数学モデルで大きく異なる点の1つとして, t/T = 0.050.10付近での力の向きの変化が挙げられる. フェザリング角度を第5図から確認すると,直線近似モデ ルは徐々にθの値を大きく変化させているが,フーリエ級 数モデルはθの値をあまり変化させていないことがわかる. すなわち,翼型モデルを反時計回りに回転させながら打ち 下ろす際に翼型モデルの傾きをストローク面の傾きに近づ けようとすると(本研究で解析したはばたき運動の場合は θ > 20◦),翼型モデルに働く力は極めて不安定になること がわかった.なお,翅型モデルでは力の向きが大きく変動 していないことから,トンボの翅断面は,θの値を大きく 変化させても安定した力の生成を可能とする形状であるこ とが考えられる. 本研究で示したフーリエ級数モデルによるはばたき運動 は打ち上げで大きな推進力を生成することはできないため, 打ち上げ時に大きな推進力を得るには,直線近似モデルの ようにフェザリング角度を調整することが必要であり,こ のときの翼型形状は,平板モデルに近い形状とすることが 望ましいというシミュレーション結果を得た.ただし,実 際のトンボの翅ははばたいているときに翅が変形している ことがわかっている.たとえば,著者らの行ったPIVシス テムを利用したはばたいているトンボまわりの流れ場解析 の結果13)には,打ち上げ時の翅断面形状が変形している様 子がレーザ光によって映し出されている.その詳細な変形 量は明らかではないが,翅断面の後縁部分が直線状になっ ている様子も見て取れる14).すなわち,本研究では翼型モ デルを剛体と仮定したため,打ち上げ時において第6図(b) に示した翅型モデルのような大きなキャンバーが形成され ていたが,実際のトンボの翅ではキャンバーは打ち上げ時 には小さくなることから,第1表に示した翅型モデルの打 ち上げ時の推進力の値は,現実には平板モデルの結果に近 い値を示すことが予想される. 3.2.4 翼型モデルまわりの流れ 両数学モデルおよび 両翼型モデルで異なる特性を示した時刻として,0.91 lt/T = 0.08における翼型モデルまわりの速度ベクトル分 布を示す.第13図は直線近似モデルの場合で,(a)は平板 モデルまわりの速度ベクトル分布,(b)は翅型モデルまわ (a) 平板モデル (b) 翅型モデル 第 13 図 直線近似モデルの条件を与えたときの速度ベクトル分布 (0.91 l,t/T = 0.08) (a) 平板モデル (b) 翅型モデル 第 14 図 フーリエ級数モデルの条件を与えたときの速度ベクトル分 布(0.91 l,t/T = 0.08) りの速度ベクトル分布をそれぞれ示している.また,この 時刻におけるフェザリング角度はθ = 27.0◦ であった.第 14図はフーリエ級数モデルの場合で,フェザリング角度は θ = 14.5◦ である.第13図,第14図を比較すると明らか なように,翼型まわりの流れは大きく異なっている.特に,

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フーリエ級数モデルでは前縁において渦の発生が認められ, 揚力の発生を示唆しているが,直線近似モデルではそのよ うな渦がはっきりと現れていないため,第7図,第9図に 示したように力はほとんど生成されていない.ただし,第 13図(b)の翅型モデルでは凹凸の上部に僅かに渦の発生 が認められることから,トンボの翅の凹凸が空気力の生成 に効果的であることがわかる.しかしながら,この渦は 離していることから,わずかなフェザリング角度の変化に よって,生成される空気力が大きく変わることを示してい る.これは,第14図の平板モデルと翅型モデルを比較し, その渦の大きさが翅型モデルの方が大きいことからも明ら かである.これより,トンボは大きな空気力を得るために, 自身の翅形状に最適な迎角を与えてはばたき運動を行って いることがわかる. 4. 結 言 トンボのはばたき運動における空力特性を明らかにする ことを目的とし,トンボの翅断面形状およびはばたき運動 に関する実験的研究と,それらをモデル化した数値シミュ レーションを行った.得られた結果をまとめると以下のよ うになる. 1)高速度ビデオカメラから構成される3次元運動解析 システムを用いたトンボのはばたき運動の実験的解析によ り,トンボ前翅の翅端の軌跡とフェザリング角度の変化を 明らかにし,2つの数学的モデル(直線近似モデルとフー リエ級数モデル)を提起した. 2)実際のトンボの翅に近似した翅型モデル10)と,平板 モデルを用いて空力特性を計算した. (a)直線近似モデルでは,打ち下ろしで大きな垂直力を, 打ち上げで大きな推進力をそれぞれ生成した.このとき,翅 型モデルは平板モデルの約1.2倍の垂直力を生成した.フー リエ級数モデルでは,打ち上げで大きな推進力を生成する ことはできなかったが,打ち下ろしで直線近似モデルより も約1.2倍の大きな垂直力を生成した. (b)はばたきストロークの上部および下部における翼型 モデルの反転動作中に働く力は,平板モデルと翅型モデル の間でほとんど差がなかった. (c)翼型モデルの傾きがストローク面の傾きに近づくと, 翼型モデルに働く力の向きが反転し,はばたき飛行は不安 定な状態になる.本研究で解析したはばたき運動の場合は, 翼型モデルを反時計回りに回転させながら打ち下ろすとき はθ > 20◦ で,翼型モデルを時計回りに回転させながら打 ち上げるときはθ < −100◦ で力の向きが反転した.また, 翅型モデルには力の反転を抑制する効果が期待できる. 参 考 文 献

1) Alexander, D. E.: Unusual Phase Relationships between the Forewings and Hindwings in Flying Dragonflies, J. Exp. Biol., 109 (1984), pp. 379–383.

2) Wakeling, J. M. and Ellington, C. P.: Dragonfly Flight: III. Lift and Power Requirements, J. Exp. Biol., 200 (1997), pp. 583–600.

3) Azuma, A., Azuma, S., Watanabe, I. and Furuta, T.: Flight Mechanics of a Dragonfly, J. Exp. Biol., 116 (1985), pp. 79– 107.

4) Azuma, A. and Watanabe, T.: Flight Performance of a Drag-onfly, J. Exp. Biol., 137 (1988), pp. 221–252.

5) Sane, S. P.: The Aerodynamics of Insect Flight, J. Exp. Biol., 206 (2003), pp. 4191–4208.

6) Lehmann, F.-O.: The Mechanisms of Lift Enhancement in Insect Flight, Naturwissenschaften, 91 (2004), pp. 101–122.

7) Wang, Z. J.: Vortex Shedding and Frequency Selection in Flapping Flight, J. Fluid Mech., 410 (2000), pp. 323–341.

8) Wang, Z. J.: Computation of Insect Hovering, Math. Meth. Sci., 24 (2001), pp. 1515–1521.

9) Sun, M. and Lan, S. L.: A Computational Study of the Aerodynamic Forces and Power Requirements of Dragonfly (Aeschna juncea), J. Exp. Biol., 207 (2004), pp. 1887–1901.

10) Tsuyuki, K., Sudo, S., Yasuno, T. and Igarashi, S.: Flow Vi-sualization around Dragonfly Wing Sections Using Numer-ical Simulation and PIV System, Int. Symp. on Advanced Fluid/Solid Sci. and Tech. in Exp. Mech., 2006, pp. 1–5.

11) ANSYS, Inc.: ANSYS, Inc. Theory Reference, ANSYS Help, 2005.

12) 三橋 淳(総編集):昆虫学大事典,朝倉書店,東京,2003, pp.

281–283.

13) Tsuyuki, K., Sudo, S. and Tani, J.: Morphology of Insect Wings and Airflow Produced by Flapping Insects, J. Intelli-gent Mater. Syst. Struct., 17 (2006), pp. 743–751.

14) 露木浩二,須藤誠一:トンボの翅の三次元構造とトンボまわりの

参照

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