まえがき
点過程の時系列は時間軸上で不規則に起こる事象(イベント)の時系列 である.本書は,研究や実務において点過程の時系列データを解析するこ とを念頭におき,それに必要な点過程の理論や点過程のモデルをデータか ら推定する方法を,基礎から体系的にわかりやすく解説することを目的と している.対象としては,初等的な確率・統計についての知識をもってい る読者を想定しているが,本書で必要になる事項についてはできるだけ本 書内で解説を行うように心がけた. 点過程は潜在的に幅広い応用の対象をもっているにもかかわらず,点過 程の理論・応用についての入門書は,筆者の知る限りこれまでなかったよ うに思える.これは,10年ほど前までは点過程の応用研究が行われてい た分野が限られていたことに原因があるのではないかと考えられる.点過 程は1980年頃から地震活動の解析に用いられるようになり,大きな成功 を収めた.また2000年頃からは神経回路網での神経細胞のスパイク信号 の解析にも点過程が用いられるようになった.このような点過程の応用研 究での成功の一方で,応用分野は長い間,主にこの二つに限られていた. しかしながら,この10年でその状況は大きく変わり,今日では応用の範 囲は急速に拡大している.その背景として,情報技術の発展により様々な システムの大量のデータの観測・記録が可能になり,点過程の時系列デー タも多く蓄積されるようになったからである.その典型的な例が金融取引 の高頻度データ(すべての取引の情報が記録されたデータ)であり,この 高頻度データを解析するために,2010年頃から金融経済学でも点過程が 用いられるようになった.また近年,実社会やSNS上の人の行動データ を解析するためにも,点過程が用いられるようになっている.このような 背景から,ますます重要性が増している点過程の時系列解析に関する体系 的かつ実践的な専門書を提供することは,この分野の研究者として重要な 統計学One Point 【14】巻 点過程の時系列解析 近江 崇宏・野村 俊一著 https://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320112650vi まえがき 使命であると考えている.そして本書がその役割を果たせれば望外の喜び である. 本書は主に第1∼3, 5, 7, 8章を近江が担当し,第4, 6章を野村が担 当した.本書の執筆の機会を与えてくださった鎌倉稔成先生(中央大学) や,原稿にコメントいただいた尾形良彦先生(統計数理研究所)には,こ の場を借りて御礼を申し上げたいと思います.また,編集委員と閲読者の 方々からも詳細なコメントをいただき,とても感謝しております.また, 近江は(株)構造計画研究所から支援を受けており,そのことに関しても 感謝の意を表したいと思います. なお,本書で用いたコードの一部や誤植などはwww.kyoritsu-pub. co.jp/bookdetail/9784320112650から確認してほしい. 2019年4月 近江崇宏・野村俊一 統計学One Point 【14】巻 点過程の時系列解析 近江 崇宏・野村 俊一著 https://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320112650