• 検索結果がありません。

ピラジナミドを含んだ治療の80 歳以上への適応について 日本結核病学会治療委員会 69-70

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ピラジナミドを含んだ治療の80 歳以上への適応について 日本結核病学会治療委員会 69-70"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

69

ピラジナミドを含んだ治療の 80 歳以上への適応について

平成 30 年 1 月  

日本結核病学会治療委員会

1. 背景   感 受 性 結 核 の 標 準 治 療 に お い て は,イ ソ ニ ア ジ ド (INH),リ フ ァ ン ピ シ ン(RFP)お よ び ピ ラ ジ ナ ミ ド (PZA)が最も重要な薬剤である。そのため,結核医療 の基準にては,薬剤選択の基本的な考え方,治療開始時 の薬剤選択,の項目では,治療レジメンについて,「(ア) 初回治療で薬剤耐性結核患者であることが疑われない場 合について,次に掲げるとおりとする,i PZA を使用で きる場合には,まず,INH,RFP および PZA に SM 叉は EB を加えた 4 剤併用療法を 2 カ月行い,その後 INH 及 び RFP の 2 剤併用療法を 4 剤併用療法開始時から 6 カ月 (180 日)を経過するまでの間行う,(中略),ii PZA を使 用できない場合には,まず INH 及び RFP に SM 叉は EB を 加えた 3 剤併用療法を 2 月ないし 6 月行い,その後 INH および RFP の 2 剤併用療法を 3 剤併用療法開始時から 9 カ月(270 日)を経過するまでの間行う。」と i と ii を並 列して記載し,いずれを優先とする,とも記載されてい ない1)。一方,結核医療の基準を具体化するうえで用い られる,日本結核病学会治療委員会の勧告2)では,「初回 治療患者の標準治療法として,その病型や排菌の状況に かかわらず,表 4 の(A)法(筆者注,結核医療の基準の i )を用いて治療することとし,副作用等のため PZA が 投与できない場合に限り(B)法(筆者注,結核医療の 基準の ii )を用いる。PZA の使用について慎重に検討す べき状況は以下のとおりである。①肝硬変,C 型慢性肝 炎との肝障害合併患者(肝障害が重篤化しやすい) ② 妊娠中(米国胸部学会は妊娠中の安全性が確認されてい ないので使用を勧めていないが,WHO は勧めている)  ③ 80 歳以上の高齢者(肝障害が起きた場合に全身状態 が重篤化する可能性がある) なお,80 歳以上であって も臓器障害がない場合には,短期治療の観点から PZA を 使用することもよい選択肢である。」としており,80 歳 以上の結核患者については,PZA を用いないことを原則 とする,とも読める記載となっている。本報告は,80 歳 以上の薬剤耐性が疑われない結核症の治療開始時レジメ ンとして,PZA を使用することの是非について論じるも のである。 2. 外国の指針  結核治療の標準としては,2 カ月の INH,RFP,PZA お よびエタンブトー ル(EB)の 4 剤で治療を開始するこ とを標準としているものが多い3) ∼ 5)が,米国ガイドライ

ン5)は“Because PZA is the most common culprit, the benefi ts

of including PZA in the initial regimen for elderly patients with modest disease and low risk of drug resistance may be outweighed by the risk of serious adverse events. Consequent-ly, some experts avoid the use of PZA during the intensive phase among patients > 75 years of age. In such cases, the initial regimen consists of INH, RIF, and EMB. If PZA is not used during the intensive phase, then the total duration of tu-berculosis treatment should be extended to at least 9 months.” という記載もあり,専門家意見であるが,菌量が多くな い場合,PZA なしの 9 カ月治療も容認している。ただこ の場合も,並列ではなく,専門家意見として PZA 無しの 治療も容認されるという書き方となっている。 3. 日本の治療成績報告  PZA を高齢者に使用した例の課題は肝障害である。肝 障害の比率についての文献的な報告を以下に記す。薬剤 惹起性肝炎の頻度として,80 歳以上で PZA を使用した 群では 6/23(26%)に対して PZA を使用しなかった群で は 11/229(4.8%),80 歳 未 満 で PZA を 使 用 し た 群 で は 151/1773(8.5%)に対して PZA を使用しなかった群では 37/595(6.2%)(和田6))。肝障害による薬剤中止の比率は 80 歳以上で 1/8(12.5%),80 歳未満で 4/28(14.3%)(宮 沢7))。80 歳以上で PZA を使用した群と使用しなかった 群での肝障害の比率は肝障害全体で 47/287(16.4%)対 84/848(9.9%),AST/ALT 500 IU/L 以上または T bil 5 mg/ dl 以上で 9/287( 3 %)対 9/848( 1 %),AST/ALT 1000 IU/ L 以上で 3/287( 1 %)対 3/848(0.4%),ベースの肝障害 無有害事象肝障害合併の死亡例で 4/287(1.4%)対 5/848 (0.6%),ベースの肝障害無アルブミン 2.5 以上 PS1 以上 での有害事象肝障害合併死亡例で 1/287(0.3%)対 2/848 (0.2%)(結核療法研究協議会8))であった。PZA を含ん だ治療での 80 歳未満と 80 歳以上とで,肝障害の比率は Kekkaku Vol. 93, No. 1 : 69_70, 2018

(2)

70 結核 第 93 巻 第 1 号 2018 年 1 月 80 歳以上で高いという報告(和田)と,違いはないと いう報告(宮沢)があり,肝障害の比率はいずれも(80 歳以上も 80 歳未満も)PZA を含んだ治療は含まない治 療より高かった。そのほか,学会報告では 80 歳以上と 80 歳未満とで肝障害の比率に違いがない(茨城東病院 2017),80 歳以上で PZA 使用群は非使用群より肝障害が 少ない(西新潟病院 2017),との報告がある。 4. 比較衡量すべき事象  PZA を含んだ治療と含まない治療とで比較衡量すべき メリット,デメリットは,治療に伴う有害事象の発生頻 度,有害事象に伴う死亡,および最終的な治療成績とし ての治療失敗および死亡,治療期間短縮に伴う事象であ る。80 歳以上での肝障害の頻度は,PZA を含んだ治療は 含まない治療より有意に多い(和田,結核療法研究協議 会),有害事象を伴う死亡は有意差を認めない(結核療 法研究協議会),治療失敗は認めず,全体の死亡も多変 量解析を行っても PZA 有無で差を認めない(結核療法 研究協議会)。PZA を含んだ治療でみられる治療期間の 短縮は,患者,服薬確認を実施する者および介護者にと ってメリットがある。また,INH のみの耐性結核であっ た場合に 3 剤治療で開始し感受性結果の入手が遅れるこ とに伴う RFP の耐性化の危険は,PZA を含まない治療の デメリットであるが,耐性遺伝子を調べる方法の開発普 及,液体培地を用いた培養および感受性検査による感受 性検査の短期化の普及により,そのデメリットは今後よ り小さくなるものと推定される。 5. 提言  結核病学会治療委員会の勧告における,PZA 使用を慎 重に検討すべき項目から,「③ 80 歳以上の高齢者(肝障 害が起きた場合に全身状態が重篤化する可能性がある) なお,80 歳以上であっても臓器障害がない場合には,短 期治療の観点から PZA を使用することもよい選択肢で ある。」を削除し,「なお,80 歳以上では肝障害の危険か ら,PZA を使用せず,INH,RFP に SM もしくは EB を含 んだ 9 カ月治療を勧める意見もある。」に変更し,日本 結核病学会治療委員会「『結核医療の基準』の見直し― 2014 年」の表 4 の(A)法,(B)法を削除することを提案 する。 〔文 献〕 1 ) 結健感発0129第 1 号平成28年 1 月29日「結核医療の基 準」の一部改正について,(参考)改正後全文, 結核医 療の基準 平成二十八年一月二十九日改正, 平成二十一 年厚生労働省告示十六号, 厚生労働省健康局結核感染 症課長通知. 2 ) 日本結核病学会治療委員会:「結核医療の基準」の見直 し― 2014年. 結核. 2014 ; 89 : 683 690.

3 ) World Health Organization: Treatment tuberculosis: guide-lines― 4th ed. WHO/HTM/TB/2009.420 World Health Or-ganization. Stop TB Dept. ISBN 978 92 4 154783 3 (NLM classifi cation: WF 360) Geneva, 2010.

4 ) https://www.nice.org.uk/guidance/ng33/chapter/recommenda tions#managing-active-tb-in-all-age-groups (UK NICE guide-lines, available with website, observed on April 14th, 2017) 5 ) Nahid P, Dorman SE, Alipanah N, et al.: Offi cial American

Thoracic Society/Centers for Disease Control and Preven-tion/Infectious Diseases Society of America Clinical Prac-tice Guidelines: Treatment of Drug-Susceptible Tubercu-losis. Clin Infect Dis. 2016 ; 63 : e147 e195.

6 ) 和田雅子:標準治療における肝障害. 結核. 2005 ; 80 : 607 611. 7 ) 宮沢直幹, 堀田信之, 都丸公二, 他:80歳以上の高齢者 肺結核におけるPZA併用治療の検討. 結核. 2013 ; 88 : 297 300. 8 ) 結核療法研究協議会内科会:80歳以上の結核標準治療 の検討. 結核. 2017 ; 92 : 485 491. 日本結核病学会治療委員会 委 員 長  齋藤 武文        委  員  網島  優  高橋  洋  石井 芳樹  桑原 克弘       加藤 達雄  露口 一成  山岡 直樹  泉川 公一       重藤えり子  石井 幸雄  近藤 康博  佐々木結花       吉山  崇       

参照

関連したドキュメント

PAD)の罹患者は60歳では人口の7.0%に,80歳では 23.2%にのぼるとされている 1) .本邦では間欠性跛行

日歯 ・都道府県歯会 ・都市区歯会のいわゆる三層構造の堅持が求められていた。理事 者においては既に内閣府公益認定等委員会 (以下

【外部有識者】 宇田 左近 調達委員会委員長 仲田 裕一 調達委員会委員 後藤 治 調達委員会委員.

二月八日に運営委員会と人権小委員会の会合にかけられたが︑両者の間に基本的な見解の対立がある

倫理委員会の各々は,強い道徳的おののきにもかかわらず,生と死につ

委員会の報告書は,現在,上院に提出されている遺体処理法(埋葬・火

【大塚委員長】 ありがとうございます。.

8月 職員合宿 ~重症心身症についての講習 医療法人稲生会理事長・医師 土畠 智幸氏 9月 28 歳以下と森の会. 11 月 実践交流会