2016年12月27日
慈恵
ICU Journal Club
研修医
2年目 石割 圭一
背景①
ü高酸素血症の直接的な肺毒性が、間質の線維化 や無気肺、気管・気管支炎に至る可能性がある。
N Engl J Med.1983;309(15):878-883. Annu Rev Physiol.1986;48:721-731.
ü高酸素血症が全身の末梢血管を収縮する。
Chest.1991;99(3):690-694.
ü動物実験において、高酸素血症が活性酸素を増 加させる。
背景②
üThe PROXI trialにおいて、周術期のFiO2高値と術 後30日死亡率の増加傾向を報告した。 JAMA. 2009; 302(14):1543-1550. üThe AVOID trialにおいて、低酸素血症の合併しな いST上昇の心筋梗塞への酸素投与が、早期の心 筋障害を増加し、発症6か月時点での心筋梗塞の サイズと相関した。 Circulation.2015;131(24):2143-2150.
目的:ICU患者において、控えめな酸素投与(SpO2:94 ~98%)は従来の酸素投与(PaO2≦150mmHgまたは SpO2:97%~100%)と比較して、予後を改善するのか。
方法①
ü単施設(イタリアのModena大学のsurgical ICU) üデザイン:非盲検化、無作為化比較試験 ü期間:2010年3月1日~2012年10月30日 ü対象:18歳以上で72時間以上のICU入室が見込ま れる患者Exclusion criteria
ü18歳未満、妊娠者、ICU再入室、治療制限、免疫抑制また は好中球減少症の患者。 ü生命予後が24時間未満と見込まれる患者。 üCOPDの急性増悪患者やARDSの患者でPaO2/FiO2比が150 未満の患者は、異なるプロトコールで酸素投与療法が行わ れるので除外された。Inclusion criteria
ü 18歳以上で72時間以上のICU入室が見込まれる患者方法②
【統計解析】
üサンプルサイズの決定
3日以上の
ICU滞在患者の死亡率:23%
両群間で
6%の死亡率の差を検出するため、
検出力
80%, αエラー0.05と設定して計算。
üサンプルサイズ:
2年間で660人⇒32カ月で
480人(中断のため)
方法③
【研究の中断】
2012年5月に大規模な地震が発生した。その後、病 床数の削減によって患者登録が予定より18-20カ 月間の延長が必要となった。また看護スタッフによ る酸素療法の標準化に偏りが起きる可能性があっ た。2012年10月に研究を32カ月間(480人)で中断し て、予定外であるが中間解析を行われた。Primary outcomeにおいて両群間で有意差が得られ、統計 専門家と倫理委員会と相談の上で研究は中断され た。方法④
【統計解析】
ü
Outcomeの解析:intention-to-treat解析
ü
Baselineと outcome の検定:Mann-Whitney
UとX²検定
ü 死亡までの時間における控えめな酸素投
与療法の効果は、
Kaplan-Meier解析とlog-rank検定で行われた。
ü患者背景と
ICU滞在時間でprimary outcome
のサブグループで
post hoc解析が行われた。
Study treatment
Conservative群: 控えめな酸素療法 • PaO2:70~100 mmHg またはSpO2 94~98% • 上記の目標を達成でき る最小限の値。 • FiO2は徐々に減量し、 PaO2 100mmHg または SpO2 98% 以上ならば、 酸素投与は終了とする。 Conventional群: 標準的な酸素療法 • PaO2≦150 mmHg また はSpO2:97%~100% • 上記の目標を満たすま では、最低0.4以上。 • SpO2が95~97%以下に 低下した場合は、目標 のSpO2に至るまでFiO2 を増加させる。 目標 設定変更 FiO2Outcome
üPrimary outcome: ICUにおける死亡率 üSecondary outcome: ・ICU入室後、48時間以上が経過してからの新 規発症の呼吸器、心血管、肝臓、腎の機能 不全(SOFA score≧3点) ・再手術 ・血液・呼吸器系・創部の感染 ・院内死亡率 ・ICU滞在期間でのVentilation-free hoursフローチャート
Modified intention-to-treat解析から46人が除 外された。 ・2人が同意を撤回。 ・9人がデータ不足。 ・35人が72時間以上の ICU滞在時間がなかった。 1045人中、565人が除外基準をみたした。 480人が無作為化割り付けをされた。 236人がConservative群、244人 がConventional群。Characteristic of the patients
患者背景としては、ICUの入室形態はSurgicalが約60%と多く、呼吸不全と人工呼 吸器管理患者の割合が多い。またSAPSⅡスコアの中央値は38前後。有意差は ないが患者背景はConventional群で重症な傾向がある。 呼吸不全 人工呼吸器→Conservative群でICU死亡率、院内死亡率、新規発症のショック・ 肝不全・菌血症は有意に少く、またVentilation-free hoursが有意に 長かった。
→Conservative群で生存率が有意に改善する。
Median follow-up: 22days 〔IQR,13-37〕
Median follow-up: 24days 〔IQR,15-35〕
Oxygen control
• Conventional群: median FiO2,0.39〔IQR,0.35-0.45〕 median PaO2,102mmHg〔IQR,88-116〕 • Conservative群: median FiO2,0.36〔IQR,0.30-0.40〕 median PaO2,87mmHg〔IQR,79-97〕 →時間的荷重平均で、Conventional 群で有意にFiO2, PaO2は高かった。 控えめな酸素療法群 標準酸素療法群 102 87 0.39 0.36→ICU死亡率とPaO2の時間的加重平均はU字の相関を示して いる。またPaO2>107mmHg以上が最も死亡率が高い。
→新規発症の臓器機能不全は、PaO2の時間的加重平均 と相関して増加した。
→Ventilation-free hoursは、PaO2の時間的加重平均と逆U 字の相関があった。
ü434人に対して、ICU死亡率をサ ブグループで事後解析を行った。 üConservative群は、ICU入室時に 呼吸器不全であった患者のICU 死亡率を12.8%下げた。 ü 人工呼吸器管理であった患者の ICU死亡率を10.9%下げた。 üICU滞在時間が6日以下の患者 のICU死亡率も9.4%も下げた。
事後解析
呼吸不全 人工呼吸器 ICU滞在期間≦6日 ショック 肝不全 腎不全 感染症 有意差はないが、その他 のICU入室時の患者背景 でも、Conservative群は ICU死亡率が少ない傾向 があった。ü478人にITT 解析も行われた。 üModified ITT 解析と同様の 結果であった。 üconservative群はICU死亡率 を8.7%、院内死亡率を8.2% 減少させた。 üConservative群は新規発症 のショック・肝不全・菌血症 も有意に少く、Ventilation– free hoursが有意に長かっ た。 ü呼吸器や創部感染症の新 規発症は、両群で有意差は 認めなかった。
ITT解析
Discussion①
ü控えめな酸素療法(目標:SpO2 94-98%)が従来の 酸素療法と比較して、ICU死亡率を8.6%改善した。 ü控えめな酸素療法は、菌血症とショック、肝不全 の新規発症率低下と関連があった。 ü本研究の結果は、自然免疫における高酸素血症 の有害な効果が影響している可能性がある。Discussion②
ü本研究では呼吸不全患者(
58%)が多く含ま
れていたため、新規発症の呼吸不全が両群
で有意差が出なかった可能性がある。
ü従来の酸素療法群で
Ventilation-free hours
が短かったのは、過剰な酸素投与が既存の
肺障害を悪化させ、回復を妨げている可能
性がある。
高酸素血症の有害性
ü短時間の常圧の高濃度酸素(FiO2≧0.8)が白血球のサ
イトカイン産生を減少させ、肺胞マクロファージの構造変 化を引き起こす。
Anesthesiology.2010;113(2):369-377. Am J Respir Cell Mol Biol.2003;28(4):443-450.
ü甲状腺手術を行った患者において、術後の酸素投与を FiO2:0.8で行った群では、FiO2:0.3の群よりCRPと血清IL-6、IL-10の値が少なかった。
Am J Respir Cell Mol Biol.2003;28(4):443-450.
ü高酸素血症の肺毒性は、ARDSや人工呼吸器関連肺障
害と同様の組織学的変化を引き起こす。
N Engl J Med.1967;276 (7):368-374. Crit CareMed.2004;32(12):2496-2501.
Limitation①
ü単施設非盲検化試験
ü本研究は、予定外に早期中断された。
ü患者背景において、従来の酸素療法群で重症
患者
(人工呼吸器管理、ショック、感染症、呼
吸・肝・腎機能不全)が少し多い傾向にあったこ
とが、
ICU死亡率に影響を与えた可能性がある。
ü細菌学的検体で同定されたときのみ感染症と
判断するので、新規感染症の発症を過小評価
している可能性がある。
Limitation②
ü本研究は、新規発症の臓器不全や感染症の
不十分なデータを避けるために、
Outcomeの解
析方法として
Modified ITT解析が選択された。
üただし、
ITT解析でもModified ITT解析と同様の
結果が得られている。
ü脳卒中や外傷性脳損傷
31人(6.9%)、急性心
筋梗塞
19人(4.4%)に関して、サンプルサイズ
が小さく、解析がなされていない。
Conclusion
ü
ICU滞在時間が72時間以上となる重症
患者において、控えめな酸素療法は従
来の酸素療法と比較して、
ICU死亡率
を低下させる。
ü早期に中断した研究に基づいた結果
であり、より大規模な多施設の研究で
控えめな酸素療法の有効性を評価す
ることが求められる。
Editorial①
ü両群の患者背景に偏りがある。控えめな酸素療 法群で年齢や重症度、臓器不全に関して有利で ある。 ü本研究は予定外の中間解析で良好な結果が得ら れた後に、研究が早期中断となった。中間解析は 過大評価の可能性があると知られている。 ü500人近い患者を集めたにも関わらず、Outcome の数が極めて少ない。控えめな酸素療法群での ICU死亡者数は25人のみである。有意差があって も偽陽性である可能性が高い。Editorial②
ü
Modified ITT解析は、無作為化した後のイベン
トに基づいて患者を除外するので、その介入が
解析結果に影響を与える。
üただし本研究では、
Modified ITT解析とほとん
ど同様の結果が
ITT解析でも得られた。
ü
ITT解析でも、控えめな酸素療法はICU死亡率
を
8.7%(P=.009)低下させた。
ü
The ANZICS Clinical Trial GroupからのPilot
studyでは、控えめな酸素療法に関して、本研
究と異なる結果であった。
ü 研究デザイン:多施設無作為化試験 ü 目的:人工呼吸器管理を必要とする患者で、制限のない 酸素療法と比較して控えめな酸素療法の実現可能性を検 討する。 ü 対象:18歳以上で24時間以上の人工呼吸管理を受けた ICU患者108人 ü 方法:控えめな酸素療法(SpO2:88~92%)群52人と制限 のない酸素療法(SpO2:96%以上)群51人で比較した。 控えめな酸素療法は、制限のない酸素療法と比較して、新規臓器 不全発症・ICU死亡率・90日生存率に改善効果がなかった。
制限のない酸素療法群でも、SpO2>98%の時間は22%、PaO2>120mmHgの 時間は13%であり、高酸素血症であった時間が短い。 生存分析曲線は両群で有意差 はない。 制限のない酸素療法 控えめな酸素療法
Conservative群 vs. Liberal群 SpO2 (93.4% [92.9–93.9%] vs. 97% [96.5–97.5%]) SaO2 (93.5% [93.1–94%] vs. 96.8% [96.3–97.3%]) PaO2 (70 [68–73] mm Hg vs. 92 [89–96] mm Hg) FIO2 (0.26 [0.25–0.28] vs. 0.36 [0.34–0.39) (P, 0.0001forall). 88~92% 96%以上 →Girardis らの研究では、FiO2、 PaO2が高めに設定されている。 FiO2:0.36 vs. 0.39 PaO2:87 vs. 102 mmHg