Author(s)
三谷, 惠子
Citation
Dynamis : ことばと文化 (2002), 6: 28-44
Issue Date
2002-09-20
URL
http://hdl.handle.net/2433/87688
Right
Type
Departmental Bulletin Paper
Textversion
publisher
DYNAMIS, 6 (2002) , 28-44
言 語の 〈 自立 〉 と社 会
― ユ ー ゴ ス ラ ヴ ィ ア(SFRJ)崩 壊 か ら10年 を 経 て ―三谷
惠子
0. は じ め に 現 在 、 セ ル ビ ア と と も に ユ ー ゴ ス ラ ヴ ィ ア 連 邦 を 構 成 す る ツ ル ナ ゴ ー ラ2は 、 セ ル ビ ア 、 ク ロ ア チ ア 、 ボ ス ニ ア ・ヘ ル ツ ェ ゴ ヴ ィ ナ と 同 じ くセ ル ビ ア ・ク ロ ア チ ア 語 の 使 用 地 域 で あ り 、 伝 統 的 に そ の 言 語 は 「セ ル ビ ア 語(srpski jezik)」 も し く は 「セ ル ビ ア ・ ク ロ ア チ ア 語(srpskohrvatski jezik)」 と 呼 び 慣 わ さ れ て き た 。 そ の 古 都 ツ ェ テ ィ ー ニ エ で1997年 、 『ツ ル ナ ゴ ー ラ 語 正 書 法 辞 典 』 お よ び 『ツ ル ナ ゴ ー ラ 語 一 起 源 、 タ イ ポ ロ ジ ー 、 発 展 、 構 造 特 徴 、 機 能 』 と 題 され た 書 籍 が 刊 行 さ れ た[Nikcevi 997(a), 1997(b)1。 「ツ ル ナ ゴ ー ラ 語 」 一 旧 ユ ー ゴ 連 邦 崩 壊 の 後 、 セ ル ビ ア ・ク ロ ア チ ア 語 は 使 用 さ れ る 地 域 に 応 じ て 『セ ル ビ ア 語 」 「ク ロ ア チ ア 語 」 「ボ ス ニ ア 語 」 と い う別 々 の 名 称 を 持 つ に 至 っ た が 、 そ れ ら に 次 ぐ 第4番 目 の 言 語 の 出 現 を 宣 言 す る か の よ う な 表 題 で あ る 。 そ し て 『ツ ル ナ ゴ ー ラ 語 正 書 法 』 で は 、 「ツ ル ナ ゴ ー ラ 語 」 は 「セ ル ビ ア 語 と 何 ら 異 な る 特 別 な 言 語 で は な い 」 と し な が ら も 、 セ ル ビ ア ・ク ロ ア チ ア 語 標 準 語 に 存 在 し な い3つ の 子 音 音 素/5/,/彡/,/(セ/を 含 む34の 音 素 が あ る と 明 記 し て い る 。 こ こ に は 明 ら か に 、 新 た な 言 語 規 範 の 形 成 へ の 意 図 が 伺 え る。 で は な ぜ 、 こ の よ う な こ と が 起 き た の か 。 本 稿 で は 〈 言 語 の 自 立 〉 と い う概 念 を 鍵 に 、 旧 ユ ー ゴ ス ラ ヴ ィ ア 連 邦 の 言 語 状 況 を 振 り返 り 、 そ こ か ら分 裂 後 の 各 地 の 状 況 を ま と め て こ こ に い た る ま で の 経 緯 を 明 ら か に す る 。 1. 言 語 と 社 会 言 語 の 通 時 変化 の 要 因 に は 、同化 や 異 化 に よ る音 韻 の 変 化 、類 推 や 再 解 釈 に よ る形 態 素 や 文 法 形 式 の 変 移 とい っ た 言 語 内 的 な もの と、 外 的 な 現 象 す な わ ち体 制 や 産 業 構 造 、 1本 稿 は2001年12月1日 、法 政 大 学 に お い て 開催 され たJSEES東 京 大 会 に お け る 口頭 発 表 に 基 づ き 作 成 し た も の で あ る 。 2日 本 で は イ タ リア 語 経 由 で 英 語 名 と な っ た 「モ ン テネ グ ロ(黒 山 国)」 が 一 般 的 だ が 本 稿 で は 原 語 の 名 称 Crna Goraを 使 用 す る 。 28交 通 お よ び 情 報 伝 達 の 形 態 、人 口構 成 、教 育 や 行 政 、周 辺 地 域 との 接 触 とい っ た 、社 会 の あ らゆ る 局 面 の 変 化 とそ の 累 積 が あ る。 社 会 の諸 相 の 変 化 か ら言 語 が 被 る影 響 の 質 や 程 度 に は さ ま ざ ま な もの が あ り、そ う した 言 語 変 化 の 中 に は 一 過 性 の も の と して 消 滅 す る も の も あ ろ う。 しか し社 会 変 化 とい う要 因 は早 晩 、言 語 運 用 の 実 態 に浸 透 し、言 語 内 的 な 要 因 と不 可 分 とな って 言 語 構 造 の 質 を変 え て い く。 言 語 の あ り方 に 関 与 す る 社 会 的 要 素 と し て 、Fishman(1972)は 「標 準 化(standard-ization)」 「自 立(autonomy)」 「来 歴(historicity)」 「活 力(vitality)」 を 挙 げ て い
る。 こ れ ら の 要 因 は い ず れ も 、2節 以 下 で 述 べ る セ ル ビ ア ・ク ロ ア チ ア 語 圏 の 問 題 に 関 連 す る の で 、 そ の 内 容 を 念 頭 に 、 本 稿 論 者 の 理 解 す る と こ ろ を 以 下 に ま と め て お く ― (1)「 標 準 化 」 一 一 っ の社 会 共 同体 に は 通 常 、 さま ざ ま な 言 語 変 種 の 話 者 が 暮 ら し て い る が 、そ うい っ た 多 様 な言 語 社 会 の 構 成 員 の共 通 の コー ドを 定 め るプ ロ セ ス が 「標 準化 」で あ り、そ れ に よ っ て制 定 され た コー ドが 「標 準 語 亅 で あ る。 こ の 共 通 コー ドは 、 一 定 の 規 範 体 系(標 準 語 辞 書 、文法書、正書法辞典 な どに具現 され る もの)を 持 ち、行 政 、司 法 は じめ 通 信 、教 育 な ど社 会 の公 的 な領 域 で 利 用 され る コ ー ドとな る。 そ の 形 成 は 、権 限 を 依 託 され た 特 定 の 機 関 を 中 心 に進 め られ る か 、マ ス メ デ ィ ア や 言 語 文 化 の 担 い 手(文 学 者 な ど)の 活 動 を核 に求 心 的 に 生 じ る こ とが 多 い が、 政 権 担 当者 の 政 治 的 立 場 が そ の 過 程 に影 響 を 与 え る こ と も少 な くな い 。 (2)「 自立 」一 あ る 言 語 変種 が 、 周 辺 の 他 の 言 語 変種 とは 異 な る 〈独 立 言 語 〉 とな る こ とを指 向 しそ れ を獲 得 す るプ ロセ ス と、そ れ に よ っ て獲 得 され た 言 語 の 自 立性 を 意 味す る。 言 語 の 「自立 」 は しば しば 、そ の 言 語 変 種 の話 者 た ち の 民 族 的 覚 醒 や 政 治 的 自 立 に 動 機 づ け られ て 生 じ、社 会 制 度 的 に は上 記 の 「標 準 化 」 に よ っ て 実 現 され る。 一 つ の 社 会 共 同体 の 中 で複 数 の言 語 変 種 が 「自立 」 を試 み た 場 合 に は 、複 数 の 「標 準 語 」 が 競 合 す る こ と に な る。 (3)「 来 歴 」一 あ る言 語 も し く は言 語 変 種 が もつ 文 化 の 蓄 積 。 これ は 言 語 文 化 圏 さ ら に は 民 族 文 化 圏 の 形 成 とい う概 念 に 投 射 され る 要 因 で あ る。 ど の よ うな 言 語 変 種 に もそ れ な りの 「来 歴aが あ る と考 えれ ば 、そ の言 語 変 種 が 「自立 」 を志 向 し た 時 、 独 自 性 の 主 張 す な わ ち 他 者 との 差 異 化 の た め に 「来 歴 」 が 重 要 な 要 因 と して 注 目 され る こ と は 容 易 に 予 測 で き る。 歴 史 的 権 威 付 け とい え るか も しれ な い 。 (4)「 活 力 」 一 「言 語 民 族 的 活 力ethnolinguistic vitality」 と い う こ と も あ る 。 「活 力 」 を 評 価 す る 因 子 と し て は 、 ① 客 観 的 因 子 、② 主 観 的 因 子 、 の 二 つ を 考 え る こ と が で き る ―
30 言 語 の く 自 立 〉 と社 会 ― ユ ー ゴス ラ ヴ ィ ア(SFRJ)崩 壊 か ら10年 を経 て ― ① 客 観 的 因 子:言 語 身 分(「 国 家 語 」 「公 用 語 」 とい っ た 体 制 内 の 位 置 付 け)、 言 語 人 口、 教 育 の 規 模 と水 準(学 校 ・学 級 数 、教 師 や 児 童 ・生 徒 の 数 、初 等 教 育 か ら高 等 教 育 ま で の どの 段 階 まで 整 備 され て い る か)、 新 聞 ・書 籍 な ど 出 版 物 の 発 行 部 数 、 メ デ ィ ア 状 況 、 識 字 率 な ど。 ② 主 観 的 因子 一 話 者 の意 識 、す な わ ち母 語 に対 す る評 価 、言 語 集 団 の 一 員 と して の 自覚 を 持 つ か 否 か 、 積 極 的 に使 用 す る か 、 な ど。 上 記(1)∼(4)の 因 子 は 、 相 互 に密 接 に 関 わ る もの とい え る だ ろ う。 例 え ば 「自 立 」 とい う因 子 を 中 心 に考 えれ ば 、 「自立 」 のた め に は 、 当 該 社 会 に 固 有 の 自 立 的 な 言 語 コー ド-そ れ に よ っ て 他 の 言 語 変 種 と差 異 化 され る よ うな 記 号 の セ ッ ト― の 制 定 す な わ ち 「標 準 化 」 が必 要 不 可 欠 な要 件 で あ り、 「自立 」 の 意 義 と正 当性 を 主 張 す る た め に は 「来 歴 」 が 重 要 な 要 素 とな る。 ま た 「活 力 」 は 「自立 」 を支 え る基 盤 で あ り、 同 時 に ま た 「自 立 」 に よ っ て 安 定 し増 大 す る もの で あ る 。 と こ ろ で 、 現 実 に 言 語 が 「自立 」 す る た め に は 、 い くつ か の条 件 が 必 要 と考 え られ る。 そ れ らは 、 以 下 の よ うな社 会 的 条 件 と言 語 的条 件 に わ け る こ とが で き るだ ろ う一 (1)社 会 的 条 件 一 言 語 の 制 度 化 を支 え る 『自立 」 した 社 会 の存 在 -「 自立 」 し た言 語 を 自 らの言 語 と し て受 容 し、そ の 話 者 で あ る とい う意 識 を も っ 言 語 集 団(あ る い は 民 族 集 団) (2)言 語 的 条 件 一 他 の言 語 変 種 とは 異 な る コ ー ドの 実 態 、す な わ ち 、音 韻 や 文 法 構 造 、語 彙 体 系 な ど の ど こ か で 独 自の 特 徴 を 持 つ 言 語 コー ドの 存 在 。 これ ら の条 件 が整 っ た 時 、言 語 変 種 は 、我 々 が 通 常 「○ ○ 語 」 と して 認 知 す る よ うな 独 立 言 語 に な る とい うこ とが で き る。 2. 旧 ユ ー ゴ 連 邦 の 言 語 状 況 言 語 の 自立 の 基 盤 と もい え る 言語 活 力 は 、前 節 で言 及 した よ うに 、複 数 の 因 子 に よ っ て 支 え られ る。 そ こで まず 、多 言 語 国家 とい われ た か つ て の ユ ー ゴ連 邦 内 の 諸 言 語 の活 力 が どの よ うな も の で あ っ た の か を 、 言 語 身 分 と規 模 と い う二 つ の 基 準 に 鑑 み て 振 り 返 っ て み た い 。 表1は 、連 邦 に お け る言 語 身 分 を ま とめ た も の 、 ま た 表2は 連 邦 内 の言 語 構 成 を 、 言 語 人 口 と使 用 面 積 で 示 した もの で あ る[Skiljan 30-31]。
〈 表1>連 邦 内 諸 言 語 の 言 語 身 分 連 邦 内諸言語 の公 的地位 公 用 語 と して の 地位 連 邦公 用語 上 記 に 準 ず る公 用 語 共 和 国 、 自治 州 レベ ル の 公 的 言 語 地 方 自治 体 の 公 的 言 語 言語名 セ ル ビ ア ・ク ロ ア チ ア 、 ス ロ ヴ ェ ニ ア 、 マ ケ ドニ ア ア ル バ ニ ア 、 マ ジ ャ ー ル トル コ 、 ル シ ン 、 ル ー マ ニ ア 、 ス ロ ヴ ァ キ ア チ ェ コ 、 ブ ル ガ リ ア 、 イ タ リ ア ロ マ 民 族 集 団 に よ る 地 位 連 邦 主要民族 語 連邦構成 民族 語 民 族 集 団 の言語 <表2> ユ ― ゴ ス ラ ヴ ィ ア 連 邦(SFRJ)の 言 語 構 成3 言 語 名 セ ル ビ ア ・ク ロ ア チ ア ス ロ ヴ ェ ニ ア ア ル バ ニ ア マ ケ ドニ ア マ ジ ヤ ー ル ロ マ ヴ ラ フ ① トル コ ス ロ ヴ ァ キ ア ル ー マ ニ ア ブ ル ガ リ ア ル シ ン ② イ タ リ ア チ ェ コ ウ ク ラ イ ナ 言 語 人 口 (総 数22,424,711) 16,342,885 1,761,393 1,756,663 1,373,956 409,079 140,618 135-.589' 82,090 74,033 59,869 37,268 19,413 19,409 16,197 7,058 人 口 比 % 72.88 7.85 7.83 6.13 1.82 0.63 0.60 0.37 0.33 0.27 0.17 11' 11' 0.07 0.03 使 用 範 囲 (全 体255,804km2) 225,230 20,561 27,429 26,847 18,717 14,065 14,676 5,578 5,414 1,681 1,951 1,278 1,045 631 領 土 比 % 88.09 8,04 10.72 10.50 732 5.50 5.74 2.18 2.12 0.66 0.76 0.50 0.41 025
31981年 の 国 勢 調 査 に 依 拠 し た1988年 版 統 計 年 鑑(Statisticki godi'snjak)に よ る[Skiljan 30-31]。 使 用 面 積 は 、 最 小 行 政 単 位(日 本 の 市 町 村 に あ た る 自治 体)に お い て 当 該 言 語 の 話 者 の 占 め る 割 合 が3%を 越 え る 場 合 に そ の 地 域 を 言 語 使 用 領 域 とみ な し算 定 し た も の。 従 っ て 合 計 の 数 値 は 実 際 の 国 土 面 積 よ り大 き
32 言 語 の く 自 立 〉 と社 会 一ユ ー ゴ ス ラ ヴ ィ ア(SFRJ)崩 壊 か ら10年 を 経 て 一
①Vlachは 、言 語 系 統 的 に はル ー マ ニ ア語 と同 じく東 ロマ ンス 語 系 に 属 し地 域 的 に はAromanian と も呼 ば れ る 言 語 の 話 者 で 、 旧 ユー ゴ地 域 の ほ か 、 ア ル バ ニ ア 、 ブ ル ガ リア な ど バ ル カ ン 各 地 に 少 数 民 族 と し て 居 住 す る。 な お 、Vlachあ る い はVlaxと い う呼 び 方 は 、 ロ マ ニ(Romany)人 に対 す る 俗 称 と して 用 い られ る こ と もあ り、 両 者 が 混 同 され る文 脈 も あ る。 ②Rusynは 、 カ ル パ チ ア 地 方 を 中 心 に 、 ウ ク ラ イ ナ 、 ス ロ ヴ ァ キ ア 、 ヴ ォ イ ヴ ォ デ ィ ナ な ど に 居 住 す る東 ス ラ ヴ 系 の 人 々 で あ る。 そ の 名 称 か ら、 キ エ フ ル ー シ を 築 い た ル ー シ の 人 々 の 末 裔 で あ る と い う通 説 が あ る が 、 史 的 根 拠 が あ る わ け で は な く 、 民 族 的 形 成 過 程 の 明 ら か な こ とは わ か っ て い な い 。 な お1995年 の 時 点 で 中 ・東 欧 に住 む ル シ ン 人 の 総 数 は お よそ80万 乃 至100万 、 うち お よ そ30万 人 が セ ル ビア 北部 を 中 心 に 旧ユ ー ゴ地 域 に 居 住 す る と報 告 され て い る[Magosci 22]。 上 記 の 数 値 よ りか な り多 い 数 が 挙 げ られ て い る の は 、母 語 に よ る 規 定 と民 族 的 帰 属 の 不 一 致 の 現 れ と も理 解 で き る が 、同 時 に こ う した 少 数 民 族 の 人 々 の 実 態 把 握 が 困 難 で あ る こ と を示 唆 して い る と も 言 え る だ ろ う。 表1に 示 され る よ うに、連 邦 レベ ル の 公 用 語 と定 め られ て い た の は セ ル ビア ・ク ロア チ ア 語 、 ス ロ ヴ ェ ニ ア 語 、 マ ケ ドニ ア語 で 、 これ らの 言 語 は ま た 、 「連 邦 主 要 民族(ナ ロー ド)」 の 言 語 とい う意 味 で 「連 邦 主 要 民 族 語(jezik naroda)」 と も呼 ばれ た。 す べ て 南 ス ラ ヴ語 に属 し、言 語 コー ドの 実 質 的 な 近 さ は 、直 感 的 な 言 い 方 をす れ ば 、互 い の 言 語 を ま っ た く学 習 した こ との な い 者 同 士 で も あ る程 度 の 意 思 疎 通 が 可 能 な 程 とい え る だ ろ う。 しか し この 中で 、言語 人 口が 最 大 のセ ル ビ ア ・ク ロ ア チ ア 語 が 実 質 的 に は 連 邦 の 中 心 言 語 で あ り、言 語 人 口の 比 率 は そ の ま ま 、連 邦 政 府 の 中枢 に お け る重 要 性 、特 に 連 邦 議 会 の 運 営 や 連 邦 軍 の 指 揮 系 統 にお け る使 用 に反 映 され 、 この 言 語 の 重 要 性 は 他 の 言 語 とは 比 較 に な らな い もの と な っ て い た 。 こ れ ら三 言 語 に 準 じて 連 邦 公 用 語 扱 い と され た の が マ ジ ャー ル 語 とア ル バ ニ ア 語 で あ る 。 前 者 は ヴォ イ ヴォ デ ィ ナ 自治 州 、後 者 は コ ソ ヴ ォ 自治 州 に お い て 多 数 派 とな る ハ ン ガ リー 人 と ア ル バ ニ ア 人 の 使 用 言 語 だ が 、 どち ら も言 語 系 統 的 に異 な る 語族 、語 派 に 属 し、 南 ス ラ ヴ語 話 者 と の 間 の 意 思 疎 通 は 、二 言 語 併 用 が 日常 的 で あ る地 域 の 者 以 外 に は 不 可 能 で あ る 。 アル バ ニ ア 人 とハ ン ガ リー 人 は 「連 邦 構 成 民 族(ナmド ノ ス ト)」で あ る た め 、彼 等 の 言 語 は 「連 邦 構 成 民 族 語jezik narodnosti」 と呼 ばれ た。 ま た 、同 じく連 邦 構 成 民 族 とい う位 置 付 け に あ っ た 諸 民 族 の うち 、 トル コ人 、ル シ ン人 、ル ー マ ニ ア 人 、ス ロ ヴ ァ キ ア 人 の言 語 は 、法 的 に は そ れ ぞ れ の 民 族 が 比 較 的 多 く居 住 す る共 和 国 や 自治 州 に お い て 公 的 使 用 を認 め ら
れ た 言 語 と され た。 こ こで の 公 的使 用 とい うの は、例 え ば 行 政 文 書 や 学校 教 育 に お け る 使 用 で あ る 。 ス ロ ヴ ァ キ ア 語 とル シ ン 語 は ス ラ ヴ語 に属 す るが 、南 ス ラ ヴ語 話 者 との 意 思 疎 通 、容 易 と は言 い 難 い もの で あ る。 さ らに 連 邦 構 成 民 族 の 中 の よ り少 数 派 で あ るイ タ リア 人 、 ブル ガ リア 人 、 チ ェ コ人 の言 語 は 、地 方 自治 体 レベ ル で公 的 な使 用 を認 め ら れ た 言 語 で あ っ た。 そ して これ らの 範 疇 に属 さず 、 単 に 「民 族 集 団 」 と され た の が ロ マ ニ で あ る。 ロマ ニ 人 は 人 口や 使 用 面積 か らす れ ば トル コ 人 や ス ロ ヴ ァキ ア 人 よ り上 位 に あ っ た が 、 ど の地 域 で も法 的 権 利 につ い て は何 の 言 及 も され て い な か っ た。 こ の状 況 は ヴ ラ フ人 に つ い て も あ て は ま り、彼 等 は時 にル ー マ ニ ア 人 、時 に ロ マ ニ 人 と 同範 疇 と して 扱 わ れ た よ うで あ る(以 上 の 数 値 資 料 等 につ い て はBugarski,Skiljan, Kovacec を 参 照)。 言 語 の 規 模 と身 分 、 そ こ に コー ドの 実 質 的 違 い とい う要 素 を加 え た だ け で も、 多 民 族 国 家 の 中 に 存 在 した 言 語 の 重 層 的 な 構 造 と、 そ こ に 含 ま れ る 問 題 ― 言 語 権 利 の 問 題 が 垣 間 見 え る よ うで あ る。 た とえ ば ア ル バ ニ ア 語 は 、 言 語 人 口の 上 で は連 邦 第3位 で あ り、 コ ソ ヴォ 自治 州 に お い て は80%近 い 人 口比 を 占め る 多 数 派 ア ル バ ニ ア 人 の 言 語 で あ る。 に もか か わ らず セ ル ビア 共 和 国全 体 で はア ル バ ニ ア 人 は14%に 過 ぎ な い 少 数 派 で あ り、 ア ル バ ニ ア 語 は連 邦 公 用 語 に準 じる言 語 と憲 法 に 定 め られ て い る と は い え、 中 央 に 出 れ ば 所 詮 は 地 域 語 で しか な い 。 一 方 セ ル ビア 語 に は ま つ た く逆 の構 図 が あ て は ま る。 共 和 国 の み な らず 連 邦 全 体 で は圧 倒 的優 位 に 立 っ 民 族 で あ るに も拘 わ らず 、 コ ソ ヴォ 自治 州 に住 む セ ル ビア 人 は 自治 州 人 口の13%ほ どに 過 ぎ ず 、 圧 倒 的 な アル バ ニ ア語 の 前 に は 無 力 で あ る。 しか もア ル バ ニ ア 人 とセ ル ビア 人 の 意 思 疎 通 は 、た と えば 同 じ南 ス ラ ヴ 語 の 話 者 で あ るセ ル ビア 人 とマ ケ ドニ ア 人 との 場 合 と は 異 な り、相 手 の 言 語 の 学 習 を 前 提 と しな け れ ば 不 可 能 で あ る。 「な ぜ我 々 が彼 等 の こ とば に譲 歩 しな け れ ば な らな い の か 」-こ の 不 満 は双 方 の 側 に生 じた ので あ る。 マ ケ ドニ ア に お け る ア ル バ ニ ア 語 話 者 の 状 況 に も 、 コ ソ ヴ ォ の 場 合 と共 通 す る 点 が あ る 。 連 邦 全 体 で は ア ル バ ニ ア 人 は マ ケ ドニ ア 人 よ り多 い が 、 言 語 身 分 と して はマ ケ ドニ ア 語 の 方 が格 が 上 で あ っ た。 ま た マ ケ ドニ ア に 住 む ア ル バ ニ ア 人 はマ ケ ドニ ア 人 口の20%ほ どで 、少 数 派 とは い え 無 視 で き な い 比 率 で あ る。 彼 等 の 意 思 疎 通 も ま た、セ ル ビア 人 とア ル バ ニ ア 人 との 場 合 同様 、 どち らか が相 手 に 〈 譲 歩 〉 しな い 限 り不 可能 で あ る(マ ケ ドニ ア語 は ブ ル ガ リア 語 、 ア ル バ ニ ア 語 、 ル ー マ ニ ア 語 と と もに い わ ゆ る 『バ ル カ ン言 語 圏 』 を形 成 し、 統 語 構 造 や 語 形 成 、 語 順 な ど に お い て 言 語 類 型 論 的 に 興 味 深 い 相 似 性 を 示 す 。 しか し言 語 コ ー ド自体 が ア ル バ ニ ア 語 と異 な る点 に お い て は ス ロ ヴ ェ ニ ア 語 や ク ロ ア チ ア 語 とア
34 言 語 の く 自立 〉 と社 会 ― ユ ー ゴ ス ラ ヴ ィ ア(SFRJ)崩 壊 か ら10年 を経 て ー ル バ ア 語 が 異 な るの と同 じで あ る)。 す べ て の 民 族 の 友 愛 と平 等 を 掲 げ た 国 家 で は あ っ た が 、連 邦 の複 雑 な 状 況 は この よ うな 錯 綜 した 言 語 状 況 に も現 れ て お り、 これ らの 局 所 的 問 題 は 連 邦 が 消 滅 した 今 日、新 しい 独 立 国 の枠 内 に 引 き継 がれ て 今 な お 、紛 争 の 火 種 と して 存 在 す る。 連 邦 崩 壊 の 後 、南 ス ラ ヴ語 の 中 で 、ス ロ ヴ ェ ニ ア とマ ケ ドニ ア の 言 語 は そ れ ぞ れ 、新 た な 独 立 国 家 の 公 用 語 とな った 。 ス ロ ヴェ ニ ア 語 は 、少 な く と もそ の標 準 形 式 に お い て 他 の 南 ス ラ ヴ 諸 言 語 と異 な る音 韻 お よび 文 法 体 系 を持 つ(ア クセ ン ト、音 素 特 徴 、双 数 カ テ ゴ リー の 存 在 、名 詞 や 形 容 詞 の 屈 折 形 態 素 の 違 い 、 あ る い は 他 の 南 ス ラ ヴ語 に あ る 単 純 過 去 時 制 形 の 喪 失 、 も とも との未 来 完 了形 に 由 来 す る未 来 時 制 形 な ど)。 ま た マ ケ ドニ ア語 は 第 二 次 大 戦 後 の マ ケ ドニ ア 共 和 国 の 成 立 と と も に 「独 立 言 語 」 と して認 め ら れ た 言 語 変 種 だ が 、標 準 形 にお い て は ブ ル ガ リア 語 と若 干 異 な る 特徴 を持 ち 、す で に 社 会 的 に 自 立 し た 言 語 と認 め られ て い る。 した が っ て 独 立 国家 に な っ た 従 来 の 言 語 運 用 の 実 際 と、そ れ ぞ れ の 言 語 社 会 の構 成 員 と して 自 己規 定す る言 語 意識 の 間 に亀 裂 が 生 じ る こ とは な か っ た だ ろ う。 これ に対 し、 「セ ル ビア ・ク ロ ア チ ア 語 」 と よ ばれ た 言 語 が 使 用 され た 各 地域 で は 、新 た な 問題 ― 独 立 国 家 の 誕 生 に あ わせ て 、言 語 の 「自立 」 を い か に実 現 させ る か と い う課 題 に 直 面 した の で あ っ た 。 3. 〈 多 極 的 言 語 〉 の 特 徴 3.1 ク ロ ス[1967:38]は 、 「(ある言 語 集 団 の 中 の)よ り小 さな 言 語 集 団 が 、彼 等 に と って 伝 統 的 な 言 語 変 種 を 、(自 分 達 に とっ て)適 応 可 能 で利 用 しや す くす る よ うな計 画 的 統 合 化 と拡 張 とい う手 段 を用 い て保 持 し、全 体 的 同 化 に抵 抗 す る こ と が あ る 」 と述 べ 、そ の具体例 と してセル ビア ・ク ロアチア語 に見 られ る微 妙 に して複雑 な状況 を指摘 し た。 この 言 語 は19世 紀 に標 準 語 の形 成 が 試 み られ は じ め た 時 か ら旧 ユ ー ゴ 時 代 の終 焉 に至 る ま で 、 「セ ル ビア ・ク ロア チ ア 語 」 と して一 つ の 理 想 的 な 標 準 語(す な わ ち一 種 類 の 正 書法 と文 法 規 範 を もつ)に 収 束 す る こ と は な く、 こ の 言 語 が使 用 され るそ れ ぞ れ の 地 域 に存 在 す る 地 域 的 変 種 を基 に した複 数 の 「標 準 形 」 の複 合 体 で あ っ た。 具 体 的 に は 、セ ル ビ ア、ク ロア チ ア 、ボ ス ニ ア、ツル ナ ゴー ラ の各 共 和 国 で 、基 本 的 に は ほ ぼ 同 じ、 しか し少 しず つ 異 な る標 準 形 式 が用 い られ て い た 。 こ の よ うな く 多 極 的 言 語 〉 と して の セ ル ビア ・ク ロア チ ア 語 に つ い て は 、Dmitrieva【19881が 詳 し く論 じ、 三 谷[1993] もそ れ に依 拠 しな が らセ ル ビア 語 と ク ロア チ ア 語 の極 性 の 現 れ 方 にっ い て 検 討 した 。 そ れ らを ふ ま え 、 標 準 語 の 極 性 分布 のパ ター ン を こ こ に簡 略 に 示 す と、 次 の よ うに な る。
あ る 言 語 形 式4を 取 り上 げ る と、 それ は ― どの 地 域 で も 共 通 して 使 用 され る 形 式 特 定 の 地 域 で使 用 され る形 式 の どち らか で あ る。 こ の うち前 者 を く無 極 型 〉、後 者 を く 偏 極 型 〉 と す る と、形 式 の 極 性 分 布 の パ ター ン は 、両 者 の 組 み 合 わ せ か らお お よ そ 、 以 下 の よ うな名 称 で 特 徴 付 け で き る も の に 分 け られ る: (1)無 極 的 分 布 一 す べ て の 地 域 で 共 通 して 「標 準 形 」 と して 用 い られ る 形 式 が あ る (2)排 他 的 偏 極 型 分 布-そ れ ぞ れ の地 域 に他 の地 域 と異 な る形 式 が あ る (3)無 極-偏 極 型 分 布 ― 無 極 型 の 形 式 が あ り、同時 に 、そ れ ぞ れ の 地 域 に そ れ と等 価 の 異 な る形 式 が あ る (4)無 極 ―特 定 偏 極 型 分 布 一 無 極 型 の形 式 が あ り、 同 時 に 、 特 定 の地 域 に の み 、そ れ と 等 価 の 異 な る 形 式 が 競 合 す る (5)複 合 偏 極 型 分 布 同 じ意 味 の 形 式 が 複 数 競 合 し、 地 域 に よ っ て そ れ らの 偏 りの 度 合 いが 異 な る こ の うち 、形 式 の圧 倒 的 多 数 は無 極 型(1)に 含 ま れ 、す べ て の 地 域 で 共 通 す る も の で あ る 。 こ こ で 強 調 さ れ な け れ ば な ら な い の は 、 だ か ら こ そ 、 そ れ 以 外 の わ ず か な 形 式 の 違 い が こ の 言 語 集 団 に 属 す る 各 地 域 の 話 者 に と っ て 重 要 な 意 味 を 持 ち う る と い う点 で あ る 。(2)の パ タ ー ン の 例 に は 、 未 来 時 制 の 形 式(セ ル ビ ア の 〈hteti+da+現 在 時 制 〉 と ク ロ ア チ ア の 〈htjeti+不 定 形 〉)や 、 主 に 外 来 語 の 語 幹 か ら 動 詞 を 派 生 さ せ る 派 生 形 態 素 の{-isati}(セ ル ビ ア)と{-irati}(ク ロ ア チ ア)[HG 376]、(3)の 例 と し て は 、 「劇 場 、 演 劇 」 を 表 す 語 彙 に 共 通 形 式 と して 外 来 語 のteatarが あ る の に 対 し,偏 極 分 布 す るpozoriste(セ ル ビ ア)―ka,zaliste(ク ロ ア チ ア)が あ る 、 な ど5が 指 摘 さ れ て き た 。 ま た(4)に は 「∼ を 除 い て 」 と い う意 味 の 前 置 詞 に 無 極 分 布 す るosimと 偏 極 形 式 のsem(semは セ ル ビ ア で 主 と し て 用 い られ る)、(5)に は 「世 紀 」 を 表 すv(ij)ek (セ ル ビ ア 、 ツ ル ナ ゴ ー ラ で 主 流)-stolje馥(ク ロ ア チ ア で 主 流)が 挙 げ ら れ る 。 3.2.セ ル ビア ・ク ロ ア チ ア語 は この よ うに、微 妙 な 地 域 的 差 異 が 指 摘 され て きた 言 語 で あ る が 、連 邦 時 代 の 人 々 の言 語 運 用 に 実 際 に 地域 的 な 差 異 は ど の よ うに 反 映 され て い た の だ ろ うか 。 電 子 テ ク ス トが利 用 可 能 に な っ た今 、本 稿 で は改 め て こ の こ と につ い て 4こ こで い う 「形 式 」 に は 、 音 素 、形 態 素 、形 態 統 語 論 的特 徴 、 構 文 特 徴 、 語 彙 な ど 、 言 語 を 特 徴 づ け る諸 要 素 が す べ て 含 ま れ る 。
5teatarはRSHKJ, RHJに は 掲 載 さ れ て い る が 、 Bmdnjakに は 記 載 が な い 。 ま たHCRでteatar は522位 、 出 現 頻 度0―0042,kazali'ste 422,0.0128だ が 、 pozoristeに 関 し て は 記 載 が な い 。
36 言 語 の 〈 自 立 〉 と社 会 一 ユ ー ゴ ス ラ ヴ ィ ア(SFRJ)崩 壊 か ら10年 を 経 て ― 調 べ る こ と と し た 。 具 体 的 に は 、セ ル ビ ア と ク ロ ア チ ア の 間 で 極 性 を 持 っ て 現 れ る と さ れ て き た 語 彙 の ペ ア3つ を 選 び 、 そ れ ら が 旧 ユ ー ゴ 圏 の セ ル ビ ア/ツ ル ナ ゴ ー ラ 、 ボ ス ニ ア 、 ク ロ ア チ ア の3つ の 地 域 の20世 紀 大 衆 文 学 の 中 で ど の よ う に 出 現 す る か を コ ー パ ス 検 索 し た 。 同 時 代 の 日 常 生 活 を 題 材 と し た 大 衆 文 学 は 、 新 聞 記 事 や 論 説 、 歴 史 物 語 な ど の テ ク ス ト に 比 べ 、 目常 言 語 に 近 い 言 語 運 用 が 実 現 さ れ て い る と 考 え ら れ る た め 、 調 査 の 資 料 体 と し て 適 切 で あ ろ う と 判 断 し た 。 選 ん だ 語 彙 の ペ ア は 、 上 に 例 示 し た 前 置 詞osimとsem、 「乾 い た 」 と い う形 容 詞 のsuh一 とsuv-,そ し て 数 の 「千 」 を 表 す tisu饌とhiljadaで あ る 。 こ れ ら の 語 彙 は 、 極 性 を も っ て 使 用 さ れ る 語 彙 で あ る こ と が 従 来 指 摘 さ れ て お り 、 か つ 、 作 品 や 作 家 の 個 性 に 依 存 し て 極 端 に 使 用 頻 度 が 片 寄 る と い う こ と が 起 こ り に く い 常 用 語 彙 に 含 ま れ る と い う 条 件 を 勘 案 して 選 ん だ も の で あ る 。 ま ず 、HCRで こ れ ら の 語 の デ ー タ を 参 照 す る と 、 osim, suh-, hiljada, tisu饌の 数 値 は 以 下 の 通 り で あ る(HCRの 資 料 体 は20世 紀 の 詩 、 散 文 、 ジ ャ ー ナ リ ズ ム テ ク ス ト な ど100万 語 か ら 構 成 さ れ て い る)。 な お 、sem, suv-に つ い て はHCRに は デ ー タ が な い 。 こ れ ら は ク ロ ア チ ア 語 の 変 種 に は 属 さ な い と み な さ れ て い る た め で あ ろ う。 osim suh一 順 位(100万 語 中) 頻 度 248位 0.0347 408位 0.0162 hiljada tisu饌 順 位(100万 語 中) 頻 度 520位 0.0050 398位 0.0172 ま た 、 選 択 し た3組 の 語 彙 が 地 域 的 偏 り を 持 つ と い え る か ど う か を 比 較 検 討 す る た め 、 無 極 型 に 属 す る と 考 え られ る 要 素 に つ い て も そ の 出 現 状 況 を 調 べ る こ と と した 。 調 査 対 象 に は 、osim/semな ら び にsuh-/suv一 と 同 じ語 彙 範 疇 に 属 し 、 か つ そ れ ぞ れ に も っ と も 近 い 出 現 頻 度 を 持 つ 語 彙 と い う 条 件 を 与 え た 。 そ の 結 果 、HCRの デ ー タ か ら 、 前 置 詞protiv fと 反 対 に 」(275位 、 頻 度0.0307)と 形 容 詞obi6―an「 ふ つ う の 」 (407位 、 頻 度0.0163)が 適 切 な 候 補 と な っ た 。 本 稿 筆 者 の コー パ ス は 、WWW上 で公 開 され て い る南 ス ラ ヴ文 学 電 子 テ ク ス トお よ びCD版 テ ク ス トか ら作 成 され た も の で あ る。 資 料 体 の サ イ ズ は セ ル ビア 、 ボ ス ニ ア 、 ク ロア チ ア そ れ ぞ れ の 地 域 ご とに32万 ∼38万 語(タ イ トル 、章 題 も含 め 、単 純 に 出現 語 数 の 総 数 を 数 え た も の)、 作家 の 帰 属 は 出身 地 で は な く 、 民 族 的 帰 属 や 作 家 と して の 主 た る活 動 の場 に よ っ て 区 分 した。 た と え ばKaporは ボ ス ニ ア の 首都 サ ラエ ヴォ の 生 ま れ だ が ベ オ グ ラ ー ドで 活 動 す るセ ル ビア 系 作 家 で あ る た め 、 セ ル ビア 文 学 に 区分 し た 。 ツル ナ ゴ ー ラ の 作 家(Lali驍ネ ど)の 帰 属 は 今 後 改 め て 問 題 とな る べ き事 柄 で は あ
るが 、 本 稿 で は と りあ えず セ ル ビ ア文 学 の 範 疇 に 含 め た 。 そ の 結 果 が 表3で あ る(表 内 の 数 値 は 用 例 数)。 <表3> S;セ ル ビア 系 作 家 B:ボ ス ニ ア 系 作 家 C=ク ロ ア チ ア 系 作 家 資料体 語数 S 322500 B 339800 C 379200 計1041500 osim 47 100 36 183 sem 42 0 0 42 protiv 50 86 70 206 suh 0 41 89 130 S--V 50 0 0 51 obit-n 62 77 35 174 hiljada 43 103 54 200 tisu饌 0 0 29 29 ま ずsemとosimの 分 布 を 見 る と 、ク ロ ア チ ア 系 お よ び ボ ス ニ ア 系 作 家 で はosimの 使 用 し か 認 め ら れ な い が 、 セ ル ビ ア 系 で はsemとosimが 競 合 し 、 セ ル ビ ア 人 作 家Kapor の よ う に 同 一 の 作 品 の 中 でsemとosimを 併 用 し て い る ケ ー ス も あ っ た 。 つ ま り こ の 語 彙 ペ ア は 、 上 記(4)の 無 極 一特 定 偏 極 型 の 分 布 を示 す も の と 見 る こ と が で き る 。 こ れ ら が 地 域 的 極 性 を 持 っ て 現 れ る こ と は 、 無 極 型 のprotivが 、 作 品 に よ っ て 出 現 頻 度 が 異 な っ て は い て も 、 地 域 レベ ル で は 全 体 に ま ん べ ん な く 分 布 し て い る こ と と 比 較 し て も 明 ら か で あ ろ う。 ま た 、suh-/suvー は 、 語 幹 末 の 摩 擦 性 子 音 が 無 声 軟 口蓋 音 か 有 声 唇 歯 音 か と い うだ け の 異 な り で あ る が 、2つ の 語 彙 の 分 布 は セ ル ビ ア 系 作 家 でsuh.が ゼ ロ 、 反 対 に ク ロ ア チ ア 系 でSUV― が ゼ ロ と 、 セ ル ビ ア と ク ロ ア チ ア で 明 確 な 排 他 的 偏 極 型 の 構 図 を 示 して い る 。 ボ ス ニ ア 系 作 家 の 場 合 も す べ てsuh一 す な わ ち 、 ク ロ ア チ ア と 同 じ 形 式 を 用 い て い る 。 こ れ も 、HCRで 頻 度 の 近 い 形 容 詞{obic-n}が ど の 地 域 の 資 料 体 に も ま ん べ ん な く 現 れ て い る こ と と比 較 し て も 、確 か に 排 他 的 偏 極 型 に 属 す る と判 断 で き る 。 一 方 、tisu饌‐hiijadaの 組 の 分 布 に は 注 意 す る 必 要 が あ る 。 と い う の も 、 若 干 逸 話 め く が 、 独 立 後 の ク ロ ア チ ア で 「hiljadaは セ ル ビ ア 語 、 ク ロ ア チ ア 語 はtisu饌」
と い う 『見 解 』 が メ デ ィ ア な ど の 一 部 で 出 さ れ 、 「Hiljadu sam ti puta reko da kanes tisu饌!TISUCA (千)と 言 え っ て 、 HILJADU(千)回 も 言 っ た だ ろ う!」 と い う 冗 談 が 聞 か れ た ほ ど に 話 題 と な っ た 語 彙 だ か ら で あ る 。 し か し資 料 体 の デ ー タ で は 、 確 か にtisu饌は ク ロ ア チ ア 系 の 作 家 に 限 っ て 用 い られ る 語 彙 で は あ る6が 、 hiljadaも 排 除 さ れ て い る わ け で は な い 。 あ き ら か に こ の 二 つ の 語 彙 は 、 ク ロ ア チ ア で は 併 用 さ れ 、 一 方hilj adaは 無 極 的 に 分 布 す る 。 つ ま り 「ク ロ ア チ ア がtisu饌,セ ル ビ ア がhilj ada」
と い っ た 区 分 の で き る よ う な 語 彙 ペ ア で は な い の で あ る 。
6こ の 分 布 は 現 代 語 に 限 られ た もの で あ る。 セ ル ビア の 古 い 文 献 た と え ば14世 紀 の ドゥシ ャ ン法 典 で は tisu饌が 使 用 さ れ て い る 。
38 言 語 の 〈 自 立 〉 と社 会 一 ユ ー ゴ ス ラ ヴ ィ ア(SFRJ)崩 壊 か ら10年 を経 て 一 上 で 明 らか に した 極 性 分 布 の 実 態 か ら、 次 の こ と が 確 認 され る だ ろ う。 す な わ ち 、 suh-/suv一 の よ うに 、 は っ き り と地 域 的 な 偏 りを も っ て 出 現 す る 形 式 が 存 在 す る こ と に 間 違 い は な い 。 しか し、 この よ うな 偏 りの 大 部 分 は 多 少 な り と も 混 在 的 な も の で あ り、Kaporのosim/semの 併 用 に 端 的 に見 られ る よ うに 、個 人 言 語 の 内 部 に も異 な る 形 式 が 競 合 して い る こ とが あ る とい う事 実 を看 過 して は な らな い の で あ る。 こ の 事 実 を 先 に の べ た 言 語 の独 立 の た め の 条 件 と照合 して み れ ば 、独 立 後 の 各 地 域 、 特 に ク ロ ア チ ア 、ボ ス ニ ア 、 さ ら に は ツル ナ ゴー ラで なぜ 、 こ と さ ら に そ れ ぞ れ の言 語 変 種 の 違 い が 強 調 さ れ そ の 独 自性 が 主 張 され な けれ ば な ら な か っ た か も理 解 で き る だ ろ う。 ほ とん ど違 い の な い 言 語 が 自立 す る た め に は 、そ の 中 に含 まれ る微 妙 な 違 い を最 大 限 に 強 調 す る必 要 が あ る。 と はい え、体 制 は一 夜 に して 転 換 す る こ とが あ りそ れ に応 じて標 準 語 の よ うな制 度 的 な 言 語 に も急 激 な変 容 が現 れ る こ と は あ り得 る が 、個 人 言 語 の 言 語 運 用 は それ に 即 応 し て 変 化 す る もの で は な い。 内 戦 期 の ク ロ ア チ ア で 行 われ た 、 政 権 担 当者 とそ の 立 場 に 賛 同 す る一 部 の メデ ィ ア な どに よ る 「ク ロア チ ア 語 」の 多 分 に 意 図 的 な 形 成 を振 り返 れ ば 、そ れ が しば しば 不 自然 さを 含 み 、話 者 の とま ど い 、批 判 や 嘲 笑 さ え を 呼 び 起 こ した こ とは 無 理 か らぬ こ とで あ っ た 。 先 の 「千 」 を め ぐる 冗 談 も ま た 、慣 習 に 基 づ く個 人 言 語 と制 度 的 に 定 め られ る人 為 的 な 言 語 の ず れ を 笑 つ た もの と見 る こ とが で き る の で あ る。 4. 〈 ボ ス ニ ア 語 〉 の 特 徴 3節 で 示 した コー パ ス 調 査 の結 果 の範 囲 で は 、ボ ス ニ ア の 地 域 方 言 は 「セ ル ビア ・ク ロ ア チ ア 語 」 の 標 準 形 の 中 で 、 あ る場 合 に は セ ル ビア 標 準 語 と一 致 し、別 の 場 合 に は ク ロア チ ア標 準 語 と一 致 す る とい う、両者 の 折 衷 的 な-別 の 言 い 方 をす れ ば 、明 確 な 独 自 性 を持 た な い 一 言 語 で あ るか の よ うにみ え る。 しか も言 語 の 名 称 に は 「ボ ス ニ ア ・ヘ ル ツ ェ ゴ ビナ 」 の 名 称 の影 さ え な く、 ボ ス ニ ア の 言 語 変 種 は 連 邦 時 代 、文 字 どお り 「名 も な き」 民 族 言 語 で あ っ た とい う印 象 さ え得 られ る よ うで あ る7。 これ を 示 す よ うに、 独 立 後 の ボ ス ニ ア で は 実 態 の 伴 っ たrtス ニ ア 語Jの 確 立 へ の 試 み が 現 れ 始 め た。 そ の た め に 重 視 され た の が 来 歴 で あ る。 た とえ ば 、1996年 に 刊 行 され た ハ リ ロ ヴ ィ ッチ の 『ボ ス ニ ア 語 正 書 法 辞 書 』[Halilovi 996]で は 、従 来 の セ ル ビ ア ・ク ロ ア チ ア標 準 語 7も ち ろ ん 、 連 邦 時 代 の ボ ス ニ ア の人 々 は 自分 達 の 言 語 を 「セ ル ビ ア ・ク ロ ア チ ア 語 」 と称 す る こ と に と りた て て 問 題 意 識 を 持 っ て は い な か っ た と思 わ れ る 。 特 定 の 調 査 を行 っ た わ け で は な い が 、 本 稿 筆 者 が か っ て 言 葉 を か わ し た ボ ス ニ ア ・ヘ ル ツ ェ ゴ ヴ ィ ナ の 人 々 は 自 分 達 の 話 して い る 言 葉 を 「セ ル ビ ア ・ク ロア チ ア 語 」、 さ も な けれ ば 、 もち ろ ん 正 式 に そ の よ うな 名 称 の 言 語 は 存 在 し な い が 「ユ ー ゴ ス ラ ヴ ィ ア 語 」 な ど と こ だ わ り な く呼 ん で い た 。
の 基 準 か ら は 「方 言 要 素 」 す な わ ち非 標 準 的 とみ な され て い た トル コ語 か らの 借 用 語 が 「標 準 語J要 素 と して 取 り入 れ られ た 。 トル コ 語 か ら の 借 用 語 彙 は 、 ボ ス ニ ア の 地 域 変 種 の み な らず 、 オ ス マ ン 帝 国 の 支 配 下 に 長 く あ っ た バ ル カ ン 半 島 の キ リ ス ト教 徒 社 会 に も 浸 透 して い る 。 セ ル ビ ア ・ク ロ ア チ ア 標 準 語 の 形 成 に 大 き な 役 割 を 果 た し た セ ル ビ ア 人 民 俗 学 者 カ ラ ジ ッ チV.Karadzi に よ っ て19世 紀 は じ め に 刊 行 さ れ た セ ル ビ ア 語 辞 書(初 版1818年)は 、26000語 を 収 録 す る が そ の う ち2500語 が トル コ 語 か ら の 借 用 語 、1851年 の 第2版 で は そ の 数 は 3500に の ぼ る 「Granie 34]。 セ ル ビ ア ・ク ロ ア チ ア ・ボ ス ニ ア 語 に 含 ま れ る トル コ 語 か ら の 借 用 語 に は (1)セ ル ビ ア ・ク ロ ア チ ア 語 に 固 有 の 代 替 表 現 が な く 、 標 準 語 の 語 彙 と し て 広 く 用 い ら れ る(bakar銅 、 celik鋼) (2)イ ス ラ ム 教 徒 社 会 以 外 の 地 域 で も 使 用 され る か 、 あ る い は 知 ら れ て い る が 、 類 義 的 な 代 替 表 現 が あ る(騏prija 「橋 」 ―most;avlija「 中 庭 」 ―dvori"steな ど) (3)ボ ス ニ ア の イ ス ラ ム 教 徒 社 会 に 特 有 の 要 素 で あ る(mahala「(イ ス ラ ム 教 の)教 区 、 地 区 」、sokak 「通 り」) の3タ イ プ が あ る が 、 こ の うち の(2)(3)の 要 素 を 積 極 的 に標 準 語 と して 取 り入 れ よ う とい う姿 勢 を しめ した の が 上 記 のHalilovi驍ナ あ っ た 。 特 に(3)に は 、 キ リス ト教 社 会 に は ほ と ん ど無 縁 で あ りな が らイ ス ラ ム教 社 会 に は 必 要 不 可欠 な 語 彙 が 多 く含 まれ 、ボ ス ニ ア.ヘ ル ツ ェ ゴ ヴ ィナ 全 体 が即 ち イ ス ラ ム教 社 会 とい うわ け で は な い に して も 、そ の歴 史 の 中 に あ るイ ス ラ ム 文 化 の 深 い影 響 に よっ て セ ル ビ アや ク ロ ア チ ア と異 な る個 性 を も つ 国 家 に と っ て は 、 独 自の 言 語 の 主 張 の た め に も 重 要 な 要 素 とみ な され た の で あ る。 ボ ス ニ ア の 方 言 特 徴 と し て 注 目す べ き も の に ま た 、h-音 の 挿 入 が あ る 。 セ ル ビ ア ・ク ロ ア チ ア 語 の 標 準 語 の 基 盤 と な っ た 新 シ ト方 言 で は 、 ス ラ ヴ共 通 語 彙 に 元 来 あ っ た 軟 口 蓋 摩 擦 音 系 の 音 素 の 反 映 形[h](声 門 摩 擦 音[h]な い し軟 口 蓋 摩 擦 音[xpが 脱 落 す る 傾
向 が あ り、 例 え ば 「軽 い 」 は*lbgaka>*lagk->dak Cfロ シ ア 語:1 gkij, legk ;ス ロ ヴ ェ ニ ア 語 冠 αh訛,lapko)と な る 。 し か しイ ス ト ラ 半 島 南 西 部 や ド ゥ プ ロ ヴ ニ ク 附 近 の 沿 岸 部 、 ツ ル ナ ゴ ー ラ 西 部 、 セ ル ビ ア 北 東 部 な ど の 局 部 的 な 方 言 と 、 大 部 分 の ボ ス ニ ア の 回 教 徒 の 方 言 で は こ の[h]音 が 保 た れ(標 準 形7nek增u 柔 ら か い 」 に 対 し て πL劭緬, frali「 腐 敗 し た 」 に 対 し てtruhli)、 さ ら に は 元 来[h]が な い位 置 に も 音 韻 添 加 が 生 じ る
40 言 語 の 〈 自 立 〉 と社 会 ― ユ ー ゴス ラ ヴ ィ ア(SFRJ)崩 壊 か ら10年 を 経 て 一
短 編 小 説 「3つ の 帝 国 を 経 た 男(Covjek iz tri carevine)」 に は こ の 方 言 特 徴 が 巧 み に 織 り 込 ま れ 、 ボ ス ニ ア の イ ス ラ ム 教 徒 の 話 し方 を い き い き と 再 現 す る 技 法 と な っ て い る ("Fatima, kahvu!「 フ ァ テ ィ マ!、 コ ホ ヒ ー!」";Redovi vjernika na njegov poziv pregibali su se na koljena i mehko tutnje駟 padali po zemlji.「 信 者 た ち の 列 は 彼 の 呼 び 声 に 応 じ て 跪 き 、 そ ほ っ と 呟 き な が ら地 に 伏 し た 」)。 前 掲 の ハ リ ロ ヴ ィ ッ チ も ま た 、 彼 の 正 書 法 で こ のh-音 を 含 む 形 を ボ ス ニ ア 語 の 標 準 形 と し て`復 権'さ せ よ う と し て い る 。 ボ ス ニ ア の イ ス ラ ム 教 徒 ス ラ ヴ 人 社 会 の 方 言 に こ の 特 徴 が 保 持 さ れ た の は 、 こ の 音 素 を 含 む トル コ 語 と イ ス ラ ム 経 文 化 の 語 彙 が15世 紀 以 来 の ボ ス ニ ア の 言 語 社 会 に 深 く 浸 透 し た こ と と 関 係 す る と い わ れ る([Ivi 6];た だ し イ ス ラ ム 教 徒 社 会 の 方 言 に も こ の 特 徴 の 現 れ な い 変 種 も な い わ け で は な い 。 こ れ に つ い て は[Graniti 37])。 こ の 方 言 特 徴 は 単 に 地 域 方 言 と し て 偶 然 見 い 出 さ れ る も の で は な く 、 ボ ス ニ ア の イ ス ラ ム 教 徒 た ち に と っ て 独 自 の 民 族 文 化 と 不 可 分 の 言 語 特 徴 で あ り 、 ま さ に 来 歴 の 一 部 を な す も の な の で あ る 。 5. 〈 ツ ル ナ ゴ ー ラ 語 〉-4番 目の言 語 1990年 代 に ユ ー ゴ ス ラ ヴ ィ ア 社 会 主 義 連 邦 が 崩 壊 し 、 ス ロ ヴ ェ ニ ア 、 ク ロ ア チ ア 、 マ ケ ドニ ア 、 ボ ス ニ ア ・ヘ ル ツ ェ ゴ ヴ ィ ナ が 独 立 国 家 と な っ た 後 も 、 ツ ル ナ ゴ ー ラ は 連 邦 に と ど ま り 、 セ ル ビ ア と 歩 調 を 合 わ せ る 道 を 選 ん だ よ う に 見 え た 。 こ れ を 象 徴 す る よ う に 、92年 の 憲 法 で 《ツ ル ナ ゴ ー ラ 人 の 言 語 は セ ル ビ ア 語 で あ る 》 と 定 め ら れ た 。 こ れ に 対 し て96年 、 国 際 ペ ン ク ラ ブ の ツ ル ナ ゴ ー ラ セ ン タ ー が 『憲 法 に お け る ツ ル ナ ゴ ー ラ 語 の 地 位 に つ い て の 宣 言(Deklaracija craogorskog ―P.E.N. centr¢0賜8伽 ηom Polozaju crnogorskog jezika)を 発 表 し た 。 『宣 言 』 で は 「今 や す べ て の ス ラ ヴ 人 の 中 で 、
自 ら の 民 族 名 で そ の 使 用 言 語 を 呼 ぶ こ と が で き な い の は ツ ル ナ ゴ ー ラ 人 だ け 」 で あ り 、 独 自 の 言 語 文 化 と言 語 運 用 の 実 体 を 持 つ ツ ル ナ ゴ ー ラ 人 の 言 語 を 「ツ ル ナ ゴ ー ラ 語 と呼 ん で は な ら な い 理 由 は 学 術 的 に も 政 治 的 に も な い 」 と して 、 ツ ル ナ ゴ ー ラ で の 使 用 言 語 の 名 称 を 、 憲 法 で 正 式 に`ツ ル ナ ゴ ー ラ 語,と 認 め る よ う訴 え た 。 『宣 言 』 が 現 れ た背 景 に は 、 ツル ナ ゴー ラに 伝 統 的 で あ る 《常 に セ ル ビ ア と と も に 、 しか し従 わ ず 》 とい う心 意 気 、 ま たユ ー ゴ連 邦 内 で の セ ル ビア との 複 雑 な 政 治 社 会 的 関 係 、そ して 、 旧 ユ ー ゴ諸 国 が 独 立 しそ れ ぞ れ が独 自の 民 族 名 を使 用 言 語 の 名 称 に用 い 始 め た とい う事 実 が挙 げ られ る。 本 稿 冒頭 に述 べ たV.ニ ク チ ェ ヴ ィ ッチ の 『ツル ナ ゴー ラ語 正 書 法 辞 典 』『ツル ナ ゴー ラ語 』が 現 れ た背 後 に あ っ た の は こ う した 状 況 で あ っ た。
ニ ク チ ェ ヴ ィ ッ チ の 『ツ ル ナ ゴ ー ラ 語 正 ・書 法 』 で は 「ツ ル ナ ゴ ー ラ 標 準 語 」 の 音 素 は 「34あ る 」 と 明 記 さ れ(文 字 は33字)、 こ れ ま で の 標 準 セ ル ビ ア ・ク ロ ア チ ア 語 で は 認 め ら れ て い な い/S//Z//dz/が 加 え られ て い る 。 こ の うち/S//Z/は 、 ツ ル ナ ゴ ー ラ 南 部 の 方 言 で あ る ゼ トーサ ン ジ ャ ッ ク 方 言 、 あ る い は そ こ か ら北 に 隣 接 す る ボ ス ニ ア ・ ヘ ル ツ ェ ゴ ヴ ィ ナ 方 言 に 分 布 す る 東 ヘ ル ツ ェ ゴ ヴ ィ ナ 方 言 が 持 つ 音 韻 特 徴 で 、標 準 語 の 硬 口 蓋 歯 茎 摩 擦 音(s,z)が や や 口 蓋 化 す る の を 反 映 し た も の と 考 え ら れ る 。 っ ま り 標 準 語 の 文 字 と音 素 S/S/ Z/Z/ 標 準 語 /S/・[sutral[・]・[k・ZU] ゼ トーサ ン ジ ャ ッ ク 方 言 [s■[sjutra] [zj]:[kozju] の[sj][Z'をS, Zで 表 し 、 標 準 語 形 に し よ う と い う わ け で 、 sutra「 明 日 」 はsutra、 kozu 「ヤ ギ を 」 はko彡uの よ う に な る 。 ま た 、/dz/[dz](/c/[ts]に 対 応 す る 有 声 音) に つ い て は 、 ニ ク チ ェ ヴ ィ ッ チ は 文 字3(キ リル 文 字 に は 古 教 会 ス ラ ヴ 語 テ ク ス ト に 見
られ たs〈dzelo>の 文 字)を 当 て 、 こ の 音 で 始 ま る 語 と し て は30ra ldzora〕(標 準 語 で はzorg lzOra]「 夜 明 け 」)な ど わ ず か に7語 を 掲 載 し て い る 。 確 か に/5//彡/の2つ は 、 ツ ル ナ ゴ ー ラ の 地 域 方 言 に お い て あ る 程 度 体 系 的 に 分 布 す る と い え る か も しれ ず 、 音 素 と し て 認 め る こ と も で き な い で は な い だ ろ う。 し か し/dz/は 、 実 際 の と こ ろ/Z/[Z/ の 自 由 変 音 で あ る と 考 え られ 、 音 素 と し て 認 め る こ と に は 疑 問 が あ る 。 い ず れ に し て も 、 こ う した 地 域 方 言 の 要 素 の 強 調 は 、 ハ リ ロ ヴ ィ ッ チ の ボ ス ニ ア 語 に お け るh一 音 の 主 張 と 同 質 の も の で 、 そ こ に は 、 単 に 名 称 だ け が 異 な る の で は な い と い う言 語 の 〈 独 立 宣 言 〉 と も い え る 意 図 を 見 る こ と が で き る の で あ る 。 6. む す び か つ て の 連 邦 国 家 が 消 滅 し10年 以 上 の歳 月 が過 ぎ た 。 「セ ル ビ ア語 」 「ク ロ ア チ ア 語 」 「ボ ス ニ ア 語 」 と い う名 称 は す で に 、 旧ユ ー ゴ の セ ル ビア ・ク ロ ア チ ア 語 圏 の 社 会 に 定 着 し、 そ れ らの 言 語 の 話 者 で あ る 人 々 に対 して 「セ ル ビア ・ク ロア チ ア 語 」 とい う名 称 を 口 に しよ う も の な ら 、 露 骨 な 嫌 悪 の 表 情 あ るい は 冷 や や か な 視 線 、 も っ と も 礼 儀 正 しい 場 合 で も 「こ こ に は そ の よ うな 言 語 は(も う)な い の で す よ」 とい う警 告 を 頂 戴 す る の が 当前 と な つ た 。 ハ リロ ヴ ィ ッチ や ニ ク チ ェ ヴ ィ ッ チ の 主 張 す る よ うな 新 た な 標 準 語 の 基 準 制 定 の動 きが そ れ ぞ れ の 地 域 で本 格 的 に な っ て い る様 子 は 今 の と こ ろ な い 。 しか し類 似 の 動 き が この 先 あ らわ れ な い と も限 らず 、現 在 の ユ ー ゴ連 邦 の 将 来 と 同 じ よ うに 、 未 確 定 の 要 素 は 多 々 あ る よ うに思 わ れ る。
42 言 語 の く 自立 〉 と社 会 一ユ ー ゴ ス ラ ヴ ィ ア(SFRJ)崩 壊 か ら10年 を経 て ―
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Abstract
Language Independence and Social Change
Keiko MITANI