2014 年 9 月 30 日原稿受付;2014 年 12 月 5 日受理 * サンコーコンサルタント株式会社 〒136-8522 東京都江東区亀戸 1-8-9 岩上ビル ** 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構 鉄道建 設本部 九州新幹線建設局 〒812-8622 福岡県福岡市博多区祇園町 2-1 シティ 17 ビル *3 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構 鉄道建 設本部 新幹線第四課 〒231-8315 神奈川県横浜市中区本町 6-50-1 横浜ア イランドタワー *4 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構 鉄道建 設本部 設計技術課 〒231-8315 神奈川県横浜市中区本町 6-50-1 横浜ア イランドタワー © 2015 SEGJ
トンネル弾性波探査マニュアル(案)を適用したトンネル地質調査
相澤隆生
*・伊東俊一郎
*・青野泰大
*・落合慶亮
**・八鳥雄介
**・中嶋啓太
*3・赤澤正彦
*4 要 旨 土木分野において,弾性波探査(屈折法地震探査)法は,古くから重要な地質調査法の一つとして 広く利用され,特にトンネル建設に関する重要な地質調査技術として適用されてきた。一方で,トン ネルが線状構造物である故の難しさも伴い,施工において事前地質調査と施工中の地質状況が相違す るケースや,設計支保パターンが施工支保パターンと一致しないケースが以前から認められてきた。 これらの要因については,地質調査,地質解釈,設計,施工の各工程の様々な問題を内包しているも のと考えられてきた。弾性波探査においても,制約条件や測定上あるいは解析上の適用限界を踏まえ て,探査計画の立案や測定作業を行う必要があるが,建設実務で直面する様々な課題に対して,各調 査会社の経験や知識・ノウハウによって対応しているのが実状である。そのような背景と近年の調査 機器・解析技術の技術革新もあり,(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下,鉄道・運輸機構と 称する)と(公社)物理探査学会は平成21 年から平成 23 年度までの間,弾性波探査による調査計画 の立案からとりまとめまでの一連の標準的な手順を定めた,「トンネル弾性波探査マニュアル(案)」 を作成した。 本稿では,本マニュアルを実際の業務に適用した事例として,鉄道トンネルを対象とした物理探査 業務(九州新幹線,西九州ルート)について報告する。 キーワード:弾性波探査・トンネル地質調査・トモグラフィ解析・電気探査・火山岩類 1. はじめに 山岳トンネル工事において事前に地質状況を高い精 度で把握することは,適切な設計によるコスト管理の観 点と,工事中に突発的に不良地山に直面することを防ぐ 観点で非常に重要である。山岳トンネルの地質調査では, 地表踏査,屈折法地震探査(ここでは弾性波探査と称す る),ボーリング調査等を行い,各調査結果を総合的に判 断した上で地質状況を把握する方法が一般的である。そ の中でも,トンネル計画路線の地質状況を簡便に推定で き,得られる地山弾性波速度が地山分類の指標となるこ とから弾性波探査の結果が重要視されている。 弾性波探査は,古くから土木地質調査において主要な 地質調査方法として利用されてきた(物理探鉱技術協会, 1973)。弾性波探査が我が国で普及した理由は,まず, 萩原(1938)が簡単な計算と図式的解析方法による 2 層構 造における解析方法を開発したことが挙げられる。次い で増田・北野(1957),田治米・武内(1958),金子(1961) がその拡張解析法を示したことにより,比較的複雑な地 形および地層構成に対しても弾性波探査の適用が可能と なったことが挙げられる。そして,これら一連の方法は, 「萩原の方法とその拡張法」または「ハギトリ法」等と 称されている。 ハギトリ法による図式解析から,現在主流となりつつ あるPC を用いたトモグラフィ的解析手法の利用が始ま ったのは,1990 年代後半に入ってからのことである(例 71BUTSURI-TANSA, Vol. 68, No. 2 (2015) pp. 71-81
物理探査 第68 巻第 2 号 (2015) 71-81 頁
えば林・斎藤,1998)。トモグラフィ的解析手法の普及 により,ハギトリ法による層構造を仮定した手法では正 しい解析が困難な起伏に富んだ地形や,弾性波速度が連 続的に変化するような地山についても,地下構造の解析 が可能となり,トンネル地質調査に対する弾性波探査の 利用価値が高まった(斎藤,2010;財津・相澤,2010)。 一方,弾性波探査による地山状況の事前予測と施工後 の地山状況が相違するケース(鈴木・富田,1993)や, 設計支保パターンが施工支保パターンと一致しないケー スが以前から認められており,様々な視点から評価や考 察がなされてきた(赤澤ほか,2010b;赤澤ほか,2011; 岡崎ほか,2008;鈴木ほか,1991;中川ほか,2000; 門藤ほか,2000)。これらの課題を改善していくために は,事前調査における弾性波探査技術の標準化・高度化 が必要であった(赤澤ほか,2010a;赤澤ほか,2012)。 鉄道・運輸機構と(公社)物理探査学会では,平成21 年度から平成23 年度までの 3 年間に渡りトンネル探査 研究委員会(委員長 松岡俊文 京都大学大学院工学研 究科教授)を立ち上げ,「山岳トンネルにおける屈折法地 震探査の高度化に関する調査研究」を行った。鉄道・運 輸機構では,その成果を「トンネル弾性波探査マニュア ル(案)」(鉄道・施設機構,2013)として取り纏め,ト ンネル地質調査を行う際の基準図書として利用している。 ここでは,この「トンネル弾性波探査マニュアル(案)」 (以下,マニュアルと称する)を基に実施した,九州新 幹線における弾性波探査業務の成果を例に,トンネル弾 性波探査の新しいマニュアルの特徴とその有効性につい て報告するものである。 2. 新長崎トンネルの概要 新長崎トンネルは,武雄温泉~長崎間を結ぶ九州新幹 線(西九州ルート)の長崎市内に位置する鉄道トンネル であり,トンネル延長は7,460m である(Fig.1)。 (b)
Fig.1. (a) Route map of Kyushu-Shinkansen and (b) Location of survey area for Shin-Nagasaki tunnel. Red dashed line: Route of Kyushu-Shinkansen, Blue solid line: Seismic line, Pink solid line: Resistivity line, White circle: Boring for explosive sources.
相澤ほか:トンネル弾性波探査マニュアル(案)を適用したトンネル地質調査 新長崎トンネルの計画路線沿いの地形は,起点方(武 雄温泉方)では概ね標高200~400m 程度の山地となっ ており,トンネルの最大土被り厚は約310m 程度となる が,概ね100~200m の厚さで増減する。トンネル中央 部付近では住宅団地区間の真下を通過し,終点方(長崎 方)では山腹斜面まで住宅が密集して張り付いた市街地 となり,終点方坑口部はJR 長崎駅周辺の商業施設が立 ち並ぶ区画となる。トンネル計画線形は,起点方から約 2km が直線区間となり,終点方に向かって大きく左へ湾 曲するルートとなっている。また調査地には新第三紀以 降に噴出した長崎火山岩類が広く分布している(Fig.2)。 以上のような本調査地の特徴は,特に火山岩および火 山砕屑岩類の分布するトンネル調査において往々に直面 する課題であると考えられ,調査計画では地形的・地質 的条件や探査効率を十分に検討する必要がある。弾性波 探査においても,三木ほか(2004)や土木学会(2007)で指 摘されたように,本調査地の地形的・地質的制約条件と ともに測定技術上あるいは解析技術上の適用限界も踏ま えて,探査計画を立案する必要がある。本物理探査業務 において着目した点と探査計画について以下に述べる。 3. トンネル地山の探査計画 3.1 計画ルートが大きく曲がる場合の測線設定 物理探査における測線配置計画は,計画トンネルルー ト上に主測線を設定することから始まる。本対象トンネ ルルートは,Fig.1 に示すように大きく曲がっており, このようなルートの場合はマニュアルでも述べられてい るように,複数の直線の主測線を組み合わせた測線配置 計画を行う必要がある。またマニュアルでは,弾性波の 波線経路が探査領域を大きく外れないようにするために, 「測線とトンネル計画線の離れは施工面までの深さの半 分程度を最大許容範囲とする」,「最大受振距離は対象と する探査深度の7~10 倍を目安とする」との測線設定上 の留意点も挙げられている。これらを参考にして,弾性 波探査測線は新長崎トンネル計画路線に縦断方向に4 本 の主測線を配置した。 受振点・起振点計画の判断プロセスは,すべてマニュ アルに記載されており,トンネル地山を対象として最適 な弾性波探査が実施できるように,具体的な測定パラメ ータ・ノウハウがマニュアルによって網羅されている。 対象トンネルで実施した弾性波探査の諸元をTable 1 に
Fig.2. Geological map around survey area for Shin-Nagasaki tunnel.
示した。 受振点間隔は,対象トンネルでは最大土被りが 310m 程度と100m を超えるため,10m 間隔を基本とした。た だし起点方坑口付近については,土被り厚100m 以下の 区間(DH-1 測線の距離程 0~440m)となり,坑口周辺 における風化層の分布をより詳細に把握する必要がある ため,受振点間隔を5m 間隔とした。 起振点間隔は,受振点6~12 点ごとに設け,地形の変 曲点に対して移動または追加して配置した。発破孔は, 土被り厚がおおむね100~200m(一部で 300m)で推移 すること,周辺環境の安全性,データ取得の効率性など を考慮して,主測線交点付近を基本に1,000~1,800m 間 隔に配置した。起振方法は,取り扱いが容易でエネルギ ーが大きい爆薬などの火薬類の使用が基本であり,本探 査においても含水爆薬(ハイジェックス)と電気雷管(瞬 発)を使用した。 3.2 電気探査の併用と副測線の配置 既存資料の収集・整理と探査計画立案の段階において, 調査地に分布する火山岩類が様々な岩種・性状を示し, 複雑な構造を示すことから,弾性波速度のみから地山の 性状を予測することは困難であると考えられた。そこで 弾性波速度と比抵抗分布から総合的に地質解析を行うた めに電気探査(比抵抗探査法)を併用する探査計画とし た。 マニュアルでは,弾性波探査と併用される比抵抗探査 法(電気探査・電磁探査)の適用方法について検討され ている。それによると,トンネル調査における比抵抗探 査法の適用方法は以下のとおりである。①地下水状況を 調査する。②弾性波探査の探査精度を向上させる。③地 表から200m 以深を調査する。④環境上の制約で火薬を 使えない場所を調査する。⑤自然由来の重金属類を調査 する。本調査では,前述の適用方法のうち①,②,③が 該当し,トンネル地山評価に電気探査(比抵抗探査法) を併用することが有効であると考えられる。 さらにトンネルルート沿いで地形地質的に特に留意 が必要と判断した区間では,3 次元的な周辺の地下構造 を把握するために,トンネルルート直交方向に副測線(横 断 測 線 ) を 設 定 し た 。 そ の 区 間 は , 起 点 方 坑 口 部 (57k910m),土被りの小さい区間(59k150m),変朽 安山岩と輝石・角閃石安山岩の境界部付近(61k020m), 新 期 溶 岩 円 頂 丘 を 形 成 す る 金 比 羅 山 北 側 山 頂 付 近 (63k035m)の 4 区間である。本調査において立案した 物理探査は,弾性波探査の測線延長は9,500m:7 測線, 電気探査の測線延長は9,600m:6 測線である(Table 2)。 3.3 市街地における探査計画 対象トンネル区間のほぼ中央部には,西山台団地 (61k500m~62k500m:区間長約 1km)が位置してお り,測線上に小学校や住宅地等の建物が密集しているこ とから,通常の弾性波探査の測定作業で実施される様に, 受振器を直線状に配置することや振動源に爆薬を用いる ことが困難であった(Fig.3)。このような条件下では, 一般的には弾性波探査は欠測区間とされる場合が多く, マニュアルにも具体的な測線設定に関する指針は示され ていない。しかし本市街地区間では,地盤に関する情報 がほとんどないため,物理探査によってトンネル地山の 状況を推定するための情報を得る必要があった。そこで 道路や階段を利用して受振器を一括して展開し,測線両 端部に設けた発破孔により受振距離が大きな配置のデー タを取得し,基盤速度の情報を得ることを目的に探査を 実施した。 ここでの探査測線は,マニュアルの「測線とトンネル 計画線の離れは施工面までの深さの半分程度を最大許容 範囲とする」に従い,土被り厚100~140m に対し測線 離れ50~70m 以内として設定した。測定方法としては, 通常の弾性波探査に用いられるデータ収録装置は最大受 振点数が24ch または 48ch であるが,西山台団地区間の 測定において発破回数を減らし,展開間のトリガー時間 ずれをなくして測定精度を上げるために,分散型探鉱シ ステム(DSS-12)を用いた 120ch の展開による同時測 定を実施した(相澤ほか,2006;災害科学研究所,2009)。
Table 1. Survey parameters of seismic refraction surveys.
西山台団地区間の測線配置図をFig.4 に,分散型探鉱シ ステムによる測定状況写真をFig.5 に示す。なお探査測 線から受振器を道路沿いにオフセットして設置した区間 については,初動走時からオフセット距離による補正走 時を算出し,弾性波探査の解析データとした。 基盤層より浅部の速度層構造の解析には,測線上に調 査ボーリング(H25-No.1)を計画し,その掘削情報や速 度検層結果から風化層の層厚や弾性波速度を参考に深度 分割を行うこととした。なお電気探査については,団地 区間は周辺環境(高圧線鉄塔や人工構造物)によって発 生する電気的ノイズにより測定困難であるため未実施区 間とし,H25-No.1 孔を利用した電気検層から地質状況 と比抵抗値の対比を行うこととした。 4. 弾性波探査の解析方法 弾性波探査の解析は,鉄道・運輸機構と(公社)物理 探査学会で開発した弾性波探査解析ソフト(以下,JRTT 解析ソフトウェアと称する)を用いて,マニュアルに従 って行う。初めに測定波形記録より,弾性波動が起振点 から測線上の各受振点まで到達するのに要した初動伝播 時間を,各受振点について1/1,000 秒単位まで読みとり, 縦軸を時間,横軸を距離としたグラフにプロットして走 時曲線を作成する。次にJRTT 解析ソフトウェアによる 解析を行い,解析断面図(速度構造断面図)を作成する。 JRTT 解析ソフトウェアは赤澤ほか(2010a)にて紹介 されており,ここでは全体構成を引用しFig.6 に示す。 図中に示したように,JRTT 解析ソフトウェアでは,萩 原の方法とその拡張法をベースとした層構造解析結果を 初期モデルとしてトモグラフィ的解析を行う手順となっ ており,低速度帯の検出やミラージ層,水平方向に変化 の激しい複雑な構造などに対応するために両手法を併用 するアルゴリズムを採用している。弾性波探査の解析結 果例として,トンネル起点方のDH-1 測線について層構 造解析結果の速度断面図,層構造解析結果を初期モデル としてトモグラフィ的解析を行った最終的な速度断面図, および電気探査から得られた比抵抗断面図をFig.7 に示 した。層構造解析結果とトモグラフィ的解析結果を比較 すると,表層の風化層の層厚の変化は大局的な傾向は同 様であるが,層構造解析結果がトモグラフィ的解析によ って水平方向の変化や中間層の速度値が修正され,観測 走時と理論走時の差(RMS 残差)が小さくなっている。 これは変朽安山岩中の変質部や多亀裂部などの不均質構 造がミラージ構造や水平方向の速度変化として解析され, より詳細な速度分布が再現されたものと考えられる。
Fig.5. Field photograph of the seismic spread using the distribution exploration system (DSS-12).
Fig.3. Aerial photograph of the urban area (Nishiyamadai).
Tunnel route
Fig.4. Layout of multi-channel data acquisition in the urban area.
75 相澤ほか:トンネル弾性波探査マニュアル(案)を適用したトンネル地質調査
Fig.6. Configuration of the processing software for seismic refraction method. (Akazawa et al.(2010))
Fig.7. Seismic sections of Layer structure analysis (top) and Tomographic analysis (middle). Resistivity section (bottom) was obtained in same line. (Seismic line: DH-1, Resistivity line: HH-1)
また基盤層の速度分布は,層構造解析による速度区分 がトモグラフィ的解析でもほぼ反映された結果となり, 低速度帯などの局所的な速度情報がトモグラフィ的解析 でも取り込んだかたちで速度断面図が得られることが確 認できる。 5. トンネル地山の地質解釈結果 対象トンネル起点方ではプロピライト化した輝石安 山岩が分布しており,終点方へ向かって角閃石安山岩, 凝灰角礫岩や貫入岩が複雑に分布しているため,風化や 亀裂帯,熱水変質等の地山状況の推定は,弾性波速度と 比抵抗分布を総合的に解釈して行う必要がある。 トンネル入口から2,500m 付近までの直線区間で,土 被りが100m 前後から 300m 以上へ急激に増加している 範囲の速度断面図および比抵抗断面図をFig.7 に示した。 測 線 距 離 1,510~2,600m の区間では,弾性波速度 Vp=3.2~3.4km/s を示し,大きな速度変化は認められな いが,トモグラフィ解析では測線距離1,900~2,300m 付 近の深度100m 前後の領域で若干速度が上昇している傾 向が認められる(Fig.7 中段)。比抵抗分布では,測線距 離2,100~2,300m 付近で比抵抗が 500Ωm 以上の高比抵 抗域が確認されており,輝石安山岩のプロピライト化作 用が強い範囲であることが推定される(Fig.7 下段)。ま た既往資料では,花崗閃緑岩の貫入も示されていること から,貫入岩の分布を示す高比抵抗域,それに伴い周辺 の安山岩が熱変成による硬化した領域を高速度域として 捉えていると考えられる。 59k150m 付近(DH-1 測線・HH-1 測線の 1,340m 付 近)は,Fig.8 (a)に示すように沢地形部の直下を通過し ており,本調査区間の中でも小土被りの区間(土被り厚 は約43m)である。この区間においてもプロピライト化 し た 輝 石 安 山 岩 が 分 布 し て お り , 既 往 ボ ー リ ン グ (S58-No.3)ではトンネル断面付近に多亀裂部も確認さ れている。マニュアルでは,「トンネル孔口付近や小土被 り区間では,風化や新期堆積物の分布を明らかにするた めに,トンネル横断方向に副測線を設定する」と測線配 置計画に示されている。そこで小土被り区間の地質状況 を把握することを目的として,トンネル縦断方向の弾性 波探査(DH-1 測線),電気探査(HH-1 測線)に加えて, トンネル横断方向に弾性波探査(DH-6 測線),電気探査 (HH-4 測線)を実施した。Fig.8 (b)にトンネル縦横断 方向の速度分布図,比抵抗分布図を示した。速度断面図 か ら 縦 断 測 線 DH-1 で 得 ら れ た 1,180 ~ 1,510m (58k990m ~ 59k320m ) 区 間 の 基 盤 速 度 値 は Vp=4.5km/s を示し,DH-1 測線の中で最も高い速度値 であることが読み取れる。一方,横断測線DH-6 測線で 得られた基盤速度値は,始点側(南側)で 2.7km/s,終 点側(北側)で4.5km/s となり,トンネル断面は 2.7km/s 層に位置している。交点付近の基盤速度を比較すると, 縦断測線(DH-1)と横断測線(DH-6)で整合しない結 果となるが,これは弾性波探査で測定される初動走時が, 地盤の最速の伝搬経路を反映したものであることに起因 している。つまり,DH-1 の基盤速度値はトンネルルー トより北側の地山速度の大きな経路を伝搬した見かけの 速度と考えられるため,本区間の基盤速度は,横断測線 で得られたVp=2.7km/s にて評価した。 宅地開発が進み住宅団地となっている 61k500m~ 62k500m 付近(Fig.3~4)では, 3.3 で述べた多チャ ンネ ル測 定の 弾性 波探 査に より 基盤 速度 を把 握し , 62k300m 付近で実施したボーリング(H25-No.1)と物 理検層による地質情報から総合的な解釈を行った。懸念 された熱水変質に関しては,H25-No.1 において,輝石 安山岩,凝灰角礫岩の変質部が出現し,ボーリングコア から膨張性やスレーキング性を有することが判明し,そ こでは砂質粘土化していることが確認された(Fig.9)。 同ボーリングで実施された物理検層結果(Fig.10)では, PS 検層による区間速度とポアソン比,電気検層による 見掛け比抵抗曲線と自然電位曲線を整理し,コア観察に よる岩級区分とRQD(1m 区間に得られた 10cm 以上の コア総長の百分率)を示した。トンネル断面周辺の変質 部では,RQD に顕著な傾向が認めらないものの,弾性 波速度は3.0km/s 程度以下の低速度を示し,見掛け比抵 抗は10Ω-m 程度の顕著な低比抵抗を示していることか ら,変質帯における典型的な「低速度」「低比抵抗」の特 徴を示すことが確認された。弾性波探査から得られた速 度断面図(Fig.11)では,トンネル計画高の弾性波速度 は Vp=3.0~4.0km/s を示す一方,測線距離 1,300~ 1,390m 区間では Vp=2.1km/s の低速度帯が検出された。 この低速度帯は,物理検層による弾性波速度,比抵抗値 の低下区間として捉えられ,ボーリングで確認された安 山岩の熱水変質部に相当するものと考えられた。
Fig.9. Boring core from H25-No.1 shows expansibility by hydrothermal alteration.
77 相澤ほか:トンネル弾性波探査マニュアル(案)を適用したトンネル地質調査
Fig.8. (a) Plane view of in the section of low earth covering, (b) seismic sections (upper) and resistivity sections (bottom). (a)
Fig.10. Physical log profile of H25-No.1.
Fig.11. Travel time curve (top) in urban area using multi-channel data acquisition, and Seismic sections of Layer structure analysis (middle) and Tomographic analysis (bottom).
79 相澤ほか:トンネル弾性波探査マニュアル(案)を適用したトンネル地質調査
6. まとめ 本稿は,鉄道・運輸機構が作成した「トンネル弾性波 探査マニュアル(案)」に従い実施した,九州新幹線の新 長崎トンネル物理探査業務について報告したものである。 弾性波探査の手法は,古くから広く普及した技術であり, ここで取り上げたように実務においては様々な適用上の 課題がでてくるため,出来る限りのノウハウが整理・総 括されたマニュアルが必要となる。(公社)物理探査学会 においても,トンネル弾性波探査に特化したマニュアル は初めての試みであり,調査計画策定および調査の実施 に当たっては,従来の参考図書(例えば物理探査学会, 2008)に比べて実務的な内容となっている。また,複雑 に火山岩類が分布するトンネル地山において,弾性波探 査の適用限界が考えられる場合には,本マニュアルで推 奨されているように他の物理探査手法(ここでは比抵抗 探査や物理検層)を組み合わせることにより,詳細な地 質解釈が可能となることが確認された。さらに,マニュ アルの内部のみにとどまらず,最新の探鉱機器を活用し た探査計画を実行することによって,さらに詳細な地質 調査データが集まることになり,ひいてはより効率的で 客観的なトンネル地山評価が可能となるものと考えられ る。 謝 辞 本報告で紹介した事例,「九州新幹線(西九州),新長 崎トンネル物理探査」の現地調査に際しては,長崎市役 所,地元関係機関に多大なご協力を頂いた。また,査読 者のご指摘は,本論を纏めるにあたりとても有益でした。 ここに記して謝意を表します。 参 考 文 献 相澤隆生・伊東俊一郎・木村俊則・尾西恭亮・松岡俊文(2006): 干渉波反射法のための波形収録システムの開発,物理探査 学会第114 回学術講演会論文集,61-62. 赤澤正彦・相澤隆生・橋本 励・斎藤秀樹・松岡俊文(2010a): 山岳トンネル調査における屈折法地震探査技術の高度化に ついて,土木学会トンネル工学報告集,20,63-68. 赤澤正彦・杉本芳博・相澤隆生・橋本 励・北原秀介(2010b): 山岳トンネルにおける弾性波速度探査結果と実績支保パタ ーンの対比,日本応用地質学会,研究発表会講演論文集, 15-16. 赤澤正彦・相澤隆生・三木茂・斎藤秀樹・北原秀介(2011):合 理的な設計支保パターン選定のための屈折法弾性波探査ソ フトウェアの開発,日本応用地質学会,研究発表会講演論 文集, 107-108. 赤澤正彦・相澤隆生・北原秀介(2012):屈折法弾性波探査の改 良によるトンネル地山分類の高精度化の試み,日本応用地 質学会,研究発表会講演論文集, 117-118. 岡崎健治・伊東佳彦・馬場道隆(2008):トンネル地山の岩種に 応じた地山分類指標に関する検討―北海道の国道トンネル における施工計測データの分析事例―,北海道開発局第51 回北海道開発技術研究開発発表会,技-23. (公社)土木学会 トンネル工学委員会 技術小委員会 事前 調査・設計検討部会(2007):より良い山岳トンネルの事前 調査・事前設計に向けて,トンネルライブラリー18,丸善 (株). 金子徹一(1961):屈折法における 3 層構造の簡単な解析, 物理 探鉱,14,28-32. 斎藤秀樹(2010):ハギトリ法とトモグラフィ解析,物理探査学 会地盤探査研究会「弾性波探査における解析・解釈技術の 継承」シンポジウム講演概要集,47-52. 財津敏郎・相澤隆生(2010): 屈折法弾性波探査における速度構 造モデルと走時曲線,物理探査,63,121-132. (財)災害科学研究所 トンネル調査研究会編(2009):地盤の 可視化技術と評価法,鹿島出版会. (独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構(2013):トンネル弾性 波探査マニュアル(案). 鈴木昌次・古川浩平・井上洋司・中川浩二(1991):NATM 施工 実績に基づく事前設計の評価に関する一考察,土木学会論 文集 No.427,Ⅵ-14,261-270. 鈴木 守・富田宏夫(1993):トンネルの地質調査の性格と問題点 (2),トンネルと地下,24,49-58. 田治米 鏡二・武内俊昭(1958):屈折法の解析に対する萩原の方 法の拡張,物理探鉱,11,44-66. 中川浩二・保坂哲治・北村晴夫・三木 茂・藤本 睦・木村恒雄 (2000):トンネル事前設計における地質調査の問題点とそ の評価に関する研究,土木学会論文集,No.658,Ⅳ-48,33-43. 物理探鉱技術協会(1973):土木弾性波探査法. 物理探査学会(2008):新版 物理探査適用の手引き-土木物理探 査マニュアル2008-. 増田秀夫・北野昭彦(1957):浅い地下構造の屈折法について, 物理探鉱,10,56-66. 三木茂・寅岡千丈・吉田幸信・進士正人・中川浩二(2004):再 解析に基づくトモグラフィ的解析法に適した測線計画の検 討,土木学会論文集,No.756,Ⅳ-62,49-59. 門藤正幸・常光伸照・鷲見 勉・井原秀則・北川隆司(2000):付 加体中に計画されたトンネル地山の事前予測と施工時切羽 状況の対比,日本応用地質学会 平成12 年度研究発表会講 演論文集,289-292. 萩原尊禮(1938):基盤面の傾斜が一様でない場合の走時曲線解 析法,地震,10,463. 林 宏一・斎藤秀樹(1998):高精度屈折法地震探査の開発と適用 例,物理探査,51,471-492.
A geological survey with the draft manual for seismic survey
of mountain tunnels.
Takao Aizawa
*, Shunichiro Ito
*, Yasuhiro Aono
*,
Keisuke Ochiai
**, Yusuke Hattori
**, Keita Nakajima
*3and Masahiko Akazawa
*4ABSTRACT
Seismic refraction method has been used as one of the important geological surveys in the civil engineering widely so far, and it has been applied as an important technology about the tunnel construction in particular. However, there was a difference between the results of the geological situation in the tunnel construction and previous studies. In addition, the support pattern of the tunnel under construction did not correspond to the pattern of design. It is considered that the issue of the differences was caused by various processes such as measurement of survey, geological interpretation, design and construction. For the present situation, various problems facing in the survey have been responded by the experience and knowledge and know-how which each service company is possessing. On the basis of such a background and the recent innovation of the instruments of exploration and the analysis technology, Japan Railway Construction Transport and Technology Agency and Society of Exploration Geophysicists of Japan established the draft manual for seismic survey during 2009-2011. The draft manual is relating seismic survey method, and which determines a series of standard procedure of the survey from the planning to the reporting for mountain tunnels.
In this report, the actual exploration for mountain railroad tunnel (Kyushu Shinkansen, Nishi Kyushu route) is mentioned as the case study which applied this manual to a real survey.
Keywords: Seismic refraction, Geological survey of tunnels, Tomography, Resistivity survey, Volcanic rock
Manuscript received September 30, 2014; Accepted December 5,2014.
* Suncoh Consultants Co., Ltd.
1-8-9, Kameido, Koto-ku, Tokyo 136-8522, Japan
** Kyushu Shinkansen Construction Bureau, Railway Construction Headquarters, Japan Railway Construction, Transport and Technology Agency
2-1, Gionmachi, Hakata-ku, Fukuoka 812-8622, Japan © 2015 SEGJ
*3 Shinkansen Dept., Railway Construction Headquarters, Japan Railway Construction, Transport and Technology Agency
6-50-1, Honmachi, Naka-ku, Yokohama 231-8315, Japan *4 Design and Technology Dept., Railway Construction Headquarters, Japan Railway Construction, Transport and Technology Agency
6-50-1, Honmachi, Naka-ku, Yokohama 231-8315, Japan 81 相澤ほか:トンネル弾性波探査マニュアル(案)を適用したトンネル地質調査