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精神科医が常勤でない総合病院でのコンサルテーション・リエゾン活動と心理士の重要性

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Academic year: 2021

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経  験

Clinical report

精神科医が常勤でない総合病院での

コンサルテーション・リエゾン活動と心理士の重要性

國芳 浩平

*1-3

  時川ちづる

*1

  武井 優佳

*1

  上野 隆登

*1

内村 直尚

*2

Consultation-liaison service and inportance of clinical psychologist

in general hospital without full-time psychiatrist

Kohei Kuniyoshi*1-3, Chizuru Tokikawa*1, Yuka Takei*1, Takato Ueno*1, Naohisa Uchimura*2

1 Asakura Medical Association Hospital

2 Department of Neuropsychiatry, Kurume University School of Medicine

3 Chikusuikai Hospital, 1191 Yoshida, Yame-shi, Fukuoka 834-0006, Japan

Abstract:In the Asakura Medical Association Hospital (our hospital), one psychiatrist performs

consul-tation-liaison services for only half a day each week, as a part-time service. In our hospital, all informa-tion regarding patients with psychiatric symptoms and those requiring mental follow-up is gathered by clinical psychologists, and these clinical psychologists intervene for all such patients and refer to a psy-chiatrist only when necessary. Consequently, about 70% of the referred patients undergo intervention with clinical psychologists alone. While the psychiatrist is on duty for half a day, in many cases, consul-tation-liaison services may be sufficient with the clinical psychologists alone. In our hospital, many cases improved with clinical psychologist intervention and did not require pharmacotherapy for adjustment disorders. The activities of the clinical psychologists in our hospital suggest that clinical psychologists are essential in a general hospital without a full-time psychiatrist in charge, and suggest that it could be recommended to expand their activity in hospitals with a part-time psychiatrist.

Key words: Consultation-liaison psychiatry,Clinical psychologist,A part time psychiatrist,General

hospital

序  言

コンサルテーション・リエゾン精神医学とは「身 体疾患と精神疾患との関係を研究し,診療実践を 行い,教育を行う分野である」とされている1) これは「コンサルテーション精神医学」と「リエ ゾン精神医学」に分けられる。コンサルテーショ ン精神医学とは,精神科医が患者の精神的な諸問 題への対応について,臨床各科の医師や医療ス タッフから相談を受け助言,提案する機能であ る。 これに対して,リエゾン精神医学はさまざまな 意味で使用され,保坂2)はその定義を①コンサル *1 朝倉医師会病院 *2 久留米大学神経精神医学講座 *3 筑水会病院(〒 834-0006 八女市吉田 1191)

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テーション・リエゾン精神医学と同義語として使 われる場合,②患者−医療者関係,患者−家族関係 などの関係性を扱う機能を意味する場合,③他科 入院中の患者を精神科が併診する場合(「精神科 が一緒に診ていく」という意味で使われている場 合),④リエゾンを構造としてとらえている場合 (ある病棟やセンターに精神科医が常駐したり, 回診やカンファレンスに定期的に参加してチーム の一員として機能すること)としているが,本稿 では院内において精神科医や臨床心理士(以下, 心理士)が活動をしている構造自体を「リエゾン」 と定義し,精神科医や心理士が総合病院内で他科 と協力して精神的問題の解決にあたっている活動 を,リエゾン活動と定義して稿を進める。 コンサルテーション・リエゾン精神医学は,総 合病院精神科の大きな役割の一つとして周知され てきている。総合病院の精神科リエゾン活動の場 は大きく,①精神科病床を有する総合病院や大学 病院,②精神科入院病床はないが精神科医が常勤 である総合病院,③精神科を標榜していない病院 における非常勤でのリエゾン活動などがあり,リ エゾン活動のスタイルとしては「リエゾンチーム での活動」「精神科医師による単独活動」などが あると思われる。そのいずれにしても精神科リエ ゾン活動の重要性は広く認知されてきており,今 後の期待も大きいと思われる。 朝倉医師会病院(以下当院)は,週に半日だけ 精神科医が非常勤としてリエゾン活動のみを行っ ている総合病院である。当然,週に半日という時 間制限のあるなかでのリエゾン活動には限界があ り,「そもそもリエゾン活動として成立している のか」という疑問すらあるだろう。そんななか, 当院ではリエゾン活動を行うにあって,心理士の 存在が重要となっている。 当院での現状と課題からみえてきたリエゾン活 動,特に精神科医が常勤でない総合病院でのリエ ゾン活動における臨床心理士の重要性について考 察する。 なお,集計に際し対象者データに関しては個人 を特定できる情報は使用せず,すべて匿名化し倫 理的配慮を行った。

当院におけるコンサルテーション・リ

エゾン活動

1.概 要 当院は 300 床を有する急性期病院である。標榜 診療科は 20 科あるが,精神科は外来,入院とも になく,週に半日のみ精神科医が非常勤としてリ エゾン活動を行っている。臨床心理士は 2 名が常 勤であり,医局,医師サポート科,臨床心理科の 3 つの部署に分かれる診療部に所属している。職 員のメンタルヘルスにも関わっており,心理専門 職は心理士のみであるため,医師からの依頼に限 定せず,看護師やコメディカルスタッフからの依 頼も受けており,比較的自由度の高い活動を行っ ている。 一般に総合病院でのコンサルテーション・リエ ゾン活動は,身体科主治医もしくは病棟看護師な どの紹介元から直接精神科医が紹介を受けて診察 を行う紹介受診や,精神科医が病棟巡回を行う, いわゆる御用聞きスタイルが一般的であると思わ れる。いずれにしても,精神科リエゾンチームを 有していない病院では,精神科医が依頼を受ける ことが多いだろう。 一方,精神科医が常勤でなく,しかも週に半日 の勤務である当院の場合は,紹介元から紹介を受 けるのは心理士であることという点で,他の病院 とは大きく異なっている。 当院でのリエゾン活動の流れとしては 2 つの経 路がある。1 つめは,精神科医がリエゾン回診と して心理士と一緒に関わる場合である。身体科主 治医が「精神科受診が必要である」と判断した場 合,他科依頼としてオーダーをする。それが各病 棟看護師より心理士の下に集められる。 2 つめは,心理士のみが関わる場合である。病 棟における患者の精神面の異変に気付いた看護師 やコメディカルスタッフからの進言によるもの で,電話あるいは病棟内で直接心理士へ相談され る場合である。患者に関わるどの職種からの相談 でも受け付けており,特に依頼箋なども必要とは していない。この場合,看護師やコメディカルス タッフが,精神科医への紹介までは必要ないと考

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えている場合や,精神科医へ紹介すべきなのかの 判断に迷っている患者も含まれている。そのため, 心理士へ直接依頼があった患者のうち,精神面に おける薬物療法が必要ではないかと心理士が感じ た場合や,精神科医の診察を行ったほうがよいと 心理士が考えた場合には,主治医に提案したうえ でリエゾン回診へとつなぐこととなる。看護師, コメディカルからの依頼である場合には主治医が 知らないケースもあるため,カルテ上に介入を 行っている旨を記載し情報の共有を図っている。 カルテ上で心理士が介入していることは必ずわか るようになっているため,最終的な責任の所在は 主治医が担うこととなる。 上記 2 つの経路どちらかから依頼を受けた心理 士は,対象患者との面接を行い,必要時には心理 検査を行ったうえで主訴をまとめ,病棟ごとのリ ストを作成する。リエゾン回診はそれを基に行わ れる。この際に行う心理検査の多くは,長谷川式 認 知 症 ス ケ ー ル や Mini-Mental State examina-tion,Clock drawing test,ウェクスラー式知能 検査などであり,最初の面談時に心理士が必要で あると判断した場合に行い,基本的には主治医の 許可や指示の下に心理検査を行う。もちろんリエ ゾン回診後に精神科医の指示により適宜行う場合 もある。身体疾患で入院している患者が対象であ るため,初回面接の前には患者の状態や病棟での 様子など情報収集し,心理検査を行ううえでも患 者の同意を得て行っている。また,心理士が介入 する抵抗感を軽減するために,検査の前後で検査 の目的を説明し,雑談をするなどで関係を築ける よう配慮している。 当院のリエゾン回診は週に一度,精神科医 1 名 と心理士 2 名で行っている。精神科がリエゾン活 動に関わるのはこのリエゾン回診時のみである。 精神科医は心理士からの情報を基にリエゾン回診 を行い,診察,薬物療法などを行うこととなる。 診察時,まずは心理士が作成したリストを基に, 病棟看護師から改めて患者の主訴や依頼理由,既 往歴,病棟での状態などの情報提供を受ける。患 者の診察は基本的にはベッドサイドであるが,場 合により病棟の診察室や面談室などで行う。診察 には可能な限り病棟看護師にも同席してもらい, 必要時にはソーシャルワーカーにも同席してもら う。診察の後,今後の対応,使用する薬物や副作 用出現時の対応について,または精神科病院への 転院の必要性などについて病棟看護師と話し合い を行う。次回の精神科医診察は 1 週間後になるた め,それまでの対応は身体科主治医,病棟看護師, ソーシャルワーカー,そして心理士で行ってもら う。これが当院におけるリエゾン活動の主な流れ である。 2.リエゾン活動の実際 平成 23 年 4 月~平成 25 年 3 月までの 2 年間で 紹介された新患数は 941 名(男性 462 名,女性 479 名)であった。全例がなんらかの身体疾患に て当院で入院をした患者である。 年代別では,20 歳代未満 6 名(1%),20 歳代 6 名(1 %),30 歳 代 26 名(3 %),40 歳 代 27 名 (3%),50 歳代 65 名(6%),60 歳代 170 名(18%), 70 歳 代 295 名(31 %),80 歳 代 271 名(29 %), 90 歳代以上 75 名(8%)であり,60 歳代以上で 85%以上を占めていた。 紹介元は,医師からが 437 名,看護師からが 464 名,その他のコメディカルスタッフからが 40 名である。 紹介科としては,消化器内科 208 名(22%), 呼吸器内科 181 名(19%),循環器内科 154 名(16 %),神経内科 58 名(6%),外科 202 名(22%),整 形外科 100 名(11%),泌尿器科 25 名(3%),皮 膚科 11 名(1%),小児科 2 名(1%未満)である。 介 入 形 態 は, 心 理 士 の み の 介 入 が 648 名 (69%),精神科医がリエゾン回診として介入した のは 293 名(31%)であった。ただし,精神科医 の診察前に面接や情報収集,心理検査を行ってお り,心理士は全例と関わっていることになる。 941 名すべてのリエゾン依頼理由では,最も重 要なものを 1 つ選んで集計したところ不安焦燥が 最も多く,次いで不穏,癌緩和ケア,精神状態評 価,抑うつ,不眠と続いていた。疾患分類につい ては神経症圏(F4)が最も多く,次いで器質性 精神障害(F0),気分障害圏(F3)となっていた。 介入形態別では,リエゾン回診で精神科医の介 入が必要になるのは,症状で不穏,疾患分類では

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Fig. 2.診断:F コード(941 例) 器質性精神疾患(F0)が最も多く,心理士のみ の介入で完結しているものは,症状で不安焦燥が 最も多く,疾患分類での神経症圏(F4)が大半 を占めていた。疾患分類は,心理士のみの介入例 では精神科医がカルテを基に後方視的に分類を 行った(Fig. 1,2)。

精神科医と心理士に求められているこ

との違い

精神科医が半日の勤務で,リエゾン活動として 成立しているのか,という疑問はある。実際,リ エゾン活動のみを考えた場合に,精神科医が常勤 である総合病院との違いは大きい。精神科医が非 常勤である場合,例えば精神科的な救急対応な Fig. 1.依頼理由(941 例)

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ど,身体科主治医や病棟スタッフが必要とすると きに精神科医がいないこと,精神科医と検査や手 術に入っている身体科主治医とのコミュニケー ションがとりにくいこと,診察の間隔が 1 週間空 いてしまうこと,時間の関係から精神科医が緩和 医療に深く関わることやスタッフの精神的ケアを 行うことが難しいこと,などがあげられるだろう。 そのため,当院の医師や看護師が,週に半日勤務 の精神科医と常勤の心理士に対して求めているこ とは,当然異なっていると考えられる。 そこで,実際に医師や看護師は当院における非 常勤精神科医と常勤心理士に対して何を求めてい るのかを把握するため,身体科主治医 35 名,リー ダー業務を行う看護師 40 名を対象に,「精神科医 に期待すること」「心理士に期待すること」を自 由記述式で質問紙調査を行った。 結果は,精神科医に対して期待される役割は, 精神科領域の診断,治療,アドバイスが 64%, 家族への対応やフォローが 6%,スタッフ教育が 8%,「医師不在時に相談できるシステムの確立」 「リエゾン回数の増加」など勤務形態に関する意 見が 12%であった。一方,心理士に対しては, 心理面接による入院ストレス軽減など患者への介 入が 51%,スタッフへのサポートやメンタルヘ ルスが 15%,医師,看護師,患者のつなぎ役が 10%,家族へのフォローが 4%であった(Fig. 3)。 カテゴリー化すると,精神科医に対しては①精 神症状の評価,診断,投薬,②転院先など退院後 のアドバイス,③せん妄や不穏患者への対応,④ 器質的,身体的,精神的要因を含めた総合的アセ スメントなどの役割が中心となっていた。心理士 に対しては,①入院に伴う不安の軽減,②重症化 しないための予防的な役割,③精神科医へつなぐ 役割,④リエゾン回診前後のフォローなど患者へ の直接的介入に加え,⑤チーム医療の一員として 患者・家族と医療者,医療者間をコーディネート する役割,⑥スタッフのメンタルヘルス,⑦家族 (遺族)ケアなど,間接的介入のニーズも高く, 関係性においてつなぐ役割も求められた。ただし, この結果について,精神科医,心理士の違いだけ ではなく,常勤,非常勤という違いがこれに表れ ている可能性は否定できない。

考  察

高齢化社会が本格化するなか,総合病院におい て認知症を有する患者の入院や,入院中にせん妄 を発症する患者が今後増加することは明らかであ り,精神科のニーズも大きくなると思われる。ま た,緩和ケアチームを中心とした終末期医療での 精神科医への期待も大きい。それは精神科医が常 勤として勤務をしていない総合病院においても同 様である。 当院は週に半日,精神科医がリエゾン活動のみ 精神科医に期待すること スタッフ教育 家族への対応や フォロー 8% 6% その他 10% 精神科領域の診断, 治療,アドバイス  64% 勤務形態に 関する意見  12% 心理士に期待すること 家族への フォロー スタッフへのサポートや メンタルヘルス 医師,看護師,患者の つなぎ役 4% 15% 10% その他 20% 患者への介入  51% Fig. 3.精神科医・心理士に期待すること

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を行う総合病院である。当然,時間の制約やマン パワーの点でも,リエゾンチームを有するような 他の総合病院と同等の充実したリエゾン活動は不 可能である。そんななかでもリエゾン活動が成り 立っている背景には,常勤の臨床心理士の存在が 大きい。 リエゾン活動における心理士の役割について は,重要なテーマとして今までにもさまざまな議 論があったが,1999 年 12 月の総合病院精神医学 会において町田は『「リエゾン心理士」活動の試み』 について発表し,それ以後さらにリエゾン活動に おける心理士の役割が注目されるようになった。 現在も精神科の常勤がなく,心理士のみで「リエ ゾン心理士」としての活動を行っている病院があ り,その苦労は想像に難くない。 町田はリエゾン心理士の役割として,専門治療 が必要な患者を適切な治療につなげること,神経 症圏の患者への継続的なカウンセリングをするこ と,精神症状への対処法を他のスタッフに伝達す ること,チーム医療のなかでコーディネーターと して機能することと述べている3)。町田のいう コーディネートは,医療チームをまとめるという ことではなく,リエゾン活動におけるコーディ ネート,つまり患者を取り巻く精神的諸問題の状 況を看護師,主治医,精神科医相互に伝える橋渡 しの機能であるが,「(身体的治療を含めた)チー ム医療のなかでコーディネーターとして機能する こと」の役割については治療方針など医学的な専 門知識が必要であり,心理士が担うことは現実的 には不可能であると考える。しかし,リエゾン活 動においては,十分にコーディネーターとしての 役割を果たすことは可能であると考える。当院に おいては,患者や医療従事者における精神的問題 の解決や負担軽減を担うことに加え,患者,家 族,看護師,主治医,精神科医の間の橋渡しを行 い,患者の利益となるべく調整を行うことがリエ ゾンにおける心理士の役割となっている。 もちろん,リエゾンチームにあるような,精神 科医が疾患の診断,薬物療法や精神療法を行い, リエゾンナースが看護師の支援を重んじた看護 チーム内の葛藤の調整や対応困難な患者の理解へ の促進,適応障害患者への積極的な傾聴を中心と した保証や認知の気づきの促し,心理士が認知機 能,性格傾向に対する客観的ツールも加味した精 神状態の査定,より精神病理の重い患者に対する 体系的な心理療法を行うといった役割分担4)が患 者にとって有効性は大きいと思われる。しかし, 精神科医が週に半日非常勤である当院では,常勤 である心理士がリエゾン活動の中心であり,精神 科医の立場は,薬物療法という手段をもたない心 理士がリエゾン活動を行いやすいようにする補助 的な立場ともいえる。 また,最初の依頼を心理士が受けるという点に おいても通常とは異なっているのではないだろう か。これは,紹介する側から考えると,精神科医 でなく心理士に依頼を行うということで,看護師 やコメディカルスタッフも気軽に依頼することが 可能となり,リエゾン紹介への敷居が低くなって いる面につながっている。受診する患者も同様に 心理士への相談という形であり,受診を受け入れ やすい状況になっていると考える。そして実際に 精神科医の介入が必要である場合にも,精神科医 診察の時点で心理検査も含めた患者の情報がある ため,診察に必要以上の時間を使う必要がない 分,すべてを精神科医が行うより合理的であると 思われる。 リエゾン活動における心理士の関わりについて は,精神科医と並行して面接を行うと患者−治療 者関係が複雑化し,結果として患者を混乱させて しまうことがあるので注意が必要であると指摘さ れている5)が,当院においては精神科医が半日の みの勤務であることから,そのようなことは起こ りにくいと考える。 当院では,精神症状のある患者や精神的なフォ ローの必要な患者の情報がすべて心理士に集約さ れ,それらの患者全員に心理士が介入し,必要が ある場合には精神科医へと橋渡しを行っている が,当院では依頼件数の約 70%が心理士のみの 介入で完結している。特に,環境変化に伴うであ ろう一時的なストレスや不安に関しては,心理士 のみの介入で患者自身の認知や洞察が深まり,自 身の疾患と向き合う精神的な力が出てくることも あり,症状も軽減する場合が多いように思われ る。しかし,症状が続く場合や不眠を認める場合

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には,患者への薬物療法の必要性も考え精神科医 へとつないでもらっている。 精神科医が週に半日の勤務でもリエゾンとして 成り立っている理由として,心理士のみで完結し ている例が多いこともその一つとしてあげられる のではないだろうか。実際当院においては,F4 の大部分を占める適応障害に関し,心理士のカウ ンセリングのみで改善している症例が多く,結果 的に薬物療法を要さなかった。 もちろん心理士が中心となったリエゾン活動は 対応が困難な場面もある。例えば,自殺企図や統 合失調症の急性増悪,亜昏迷状態,著明なせん妄 状態と考えられる症例など精神科専門治療が必要 と考えられる場合,心理士単独では見解を述べる ことや方針決定を行うことはできない。その場合 には,リエゾン回診日以外でも,主治医,病棟看 護師,ソーシャルワーカーなどが精神科医に相談 できるよう連絡調整を行っている。また,患者か ら治療についての要望(例えば薬を変えてほしい, 抗がん剤治療は行ったほうがよいかなど)があっ た場合には,専門的な回答をすることはできな い。その場合には,患者の困った状況などを,患 者のニーズに沿った形でカルテ上に提示するとと もに,病棟看護師へ直に伝え,主治医や看護師を 含む各職種の共通認識を図るように心がけてい る。そのような心理士の病棟内での活動が,医療 スタッフとのつながりを深め,院内の各職員のプ ライベートやメンタル面,部下や同僚のメンタル 面への相談を行いやすくしており,職員メンタル ヘルスの充実にも連動しているといえる。 当院では,医師に限らずどの職種でも心理介入 を依頼できるシステムがある。また,依頼を受け る際の看護師やコメディカルスタッフからの情報 収集などで連携し,介入後の患者の様子なども口 頭やカルテ,ケースカンファレンスにて共有して いる。このように,患者の精神面について多職種 で連携が行いやすいというメリットがある。依頼 しやすさの自由度が,心理士が組織内で周知され やすい環境を作っているのではないだろうか。 精神科病院においては,精神科医の依頼のも と,心理士が心理検査や面接を行うことが通常で あるが,精神科をもたない総合病院の心理士は “この症状については薬物療法が必要ではないか” “精神科医へのコンサルトをしたほうがよいので はないか”など,より幅広い視点でのアセスメン トやマネジメントをしていく技術が求められると 考えられ,その意味では,その判断の影響が大き いことも常に意識していなければならない。当院 においては,リエゾン精神科医とコミットしやす いという点において,精神科医と心理士がともに 連携しながら補完的に機能していけるシステムが 形作られてきていると思われる。 心理士が総合病院においてリエゾン活動の中心 となり得るかは,組織内での臨床心理士の位置づ けにより,その活動範囲が決まってくると思われ る。当院での心理士活動の自由な立場(各診療科, 病棟,他のコメディカルスタッフからみた外部性 が保たれていること)が,精神科医が週に半日の 勤務でもリエゾン活動として継続可能であった要 因であると考える。これは,学校でのスクールカ ウンセラーは外部性があるからこそ,学校,教 師,生徒の間を異なる視点をもってコーディネー トできていることに似ているのではないだろう か。 リエゾン精神医学については,現状,いわゆる 「総合病院」の半数近くに精神科が設置されてい るにすぎず,精神科病床を有した総合病院は激減 しているという事実もある6)。しかし,患者を中 心とした質の高い医療を実現するためには,精神 科医,看護師,薬剤師,臨床心理士など多職種で リエゾン活動を行うリエゾンチームの有効性も示 唆されているが,リエゾンチームをもたない総合 病院,さらには精神科医が非常勤である総合病院 においてさえも可能な限り質の高いリエゾン活動 が求められており,精神科医の負担増加が問題と なっている。そのようななか,心理士が機能する ことは,さらに質の高いリエゾン活動を行ううえ で欠かせないものであると考えられる。 当院における心理士の活動は,精神科医が常勤 でない病院はもちろん,精神科医が常勤ひとり医 長である総合病院においても心理士が必要不可欠 であり,さらに活躍の場を広げることができる可 能性を示すものであると考える。

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この論文の要旨は第 26 回日本総合病院精神医学会 (平成 25 年 11 月 29,30 日,京都)において報告した。 文  献 1) 加藤 敏,神庭重信,中谷陽二,他:現代精神 医学事典.弘文堂,東京,350-351,2012 2) 保坂 隆:総合病院における精神科医,コメ ディカルの役割.黒沢 尚,山脇成人(編): 臨床精神医学講座17 リエゾン精神医学・精神 科救急医療.中山書店,東京,9-18,1998 3) 町田いづみ:一般病院における「リエゾン心理 士」活動の試み.臨床心理学 2(1):63-77, 2002 4) 山内典子,安田妙子,小林清香,他:精神科コ ンサルテーション・リエゾンチームにおける各 職種の役割構築に向けたパイロットスタディ─ リエゾンナースと臨床心理士に焦点をあてて ─.総合病院精神医学 25(1):23-32, 2013 5) 渡邊洋一郎:精神科医から臨床心理士への要 望.山中康裕,他(編):病院の心理臨床.心理 臨床の実際,第4巻,金子書房,東京,193-201, 1998 6) 保坂 隆:リエゾン精神医学.Journal of Clini-cal Rehabilitation 19(2):155-158, 2010 受理日:2014 年 12 月 29 日 【要約】 朝倉医師会病院(以下当院)は,週に半日だけ精神科医が非常勤としてリエゾン活動のみを 行っている。当院では,精神症状のある患者や精神的なフォローの必要な患者の情報がすべて心理士 に集約され,それらの患者全員に心理士が介入し,必要がある場合には精神科医へと橋渡しを行って いるが,当院では依頼件数の約 70%が心理士のみの介入で完結している点が特徴であろう。精神科 医が週に半日の勤務でもリエゾンとして成り立っている理由の一つに,心理士のみで完結している例 が多いことがあげられるのではないだろうか。当院においては,F4 の大部分を占める適応障害に関 し,心理士介入のみで改善している症例が多く,結果的に薬物療法を要さなかった。当院における心 理士の活動は,精神科医が常勤でない病院はもちろん,精神科医が常勤ひとり医長である総合病院に おいても心理士が必要不可欠であり,さらに活躍の場を広げることができる可能性を示すものである と考える。 キーワード:コンサルテーション・リエゾン精神医学,臨床心理士,非常勤精神科医,総合病院

参照

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