VII.過 酸 化 の 関与 お よび そ の消 去 剤 の 効 果
38.脳
血 管 攣 縮 に 対 す る
α-tocopherol髄
腔 内 投 与 の 臨 床 効 果
名古屋保健衛生大学 脳 神経外科
佐
野
公
俊
庄
田
基
加
藤
庸
子
片
田
和
広
四
宮
陽
一
神
野
哲
夫
Clinical
Study
of Effect
of Intrathecal
Use
of Alpha-tocopherol
on Chronic
Vasospasm
Hirotoshi Sano, Motoi Shoda, Youko Kato, Kazuhiro Katada,
Youichi Shinomiya and Tetsuo Kanno
Department of Neurosurgery, Fujita-Gakuen
University, School of Medicine, Toyoake, Japan
Summary
Management for treatment of subarachnoid hemorrhage in acute stage is still controversial.
One of
the most important factors in the acute stage is chronic vasospasm.
There are many different theories
about the pathogenesis and treatment of chronic vasospasm.
Recently we can prospect the occurrence of the symptomatic vasospasm by CT findings.
Therefore
we evaluate the effect of intrathecal use of alpha-tocopherol to prevent the symptomatic vasospasm on
these cases.
Alpha-tocopherol (50-100 mg) were injected into subarachnoid space in 23 cases, including 15 cases
with early operation and 8 cases with delayed operation.
In cases with early operation, cisternal drainage
was put into parachiasmatic cistern, and 100 mg of alpha-tocopherol was injected via the drainage tube
every day for 2 weeks.
In cases with delayed operation
100 mg of alpha-tocopherol was injected via
spinal tap or ventricular drainage if CT revealed hydrocephalus.
Occurrence of symptomatic vasospasm
was evaluated in these 23 cases compared with that in cases without use of alpha-tocopherol as a control.
Occurrence of symptomatic vasospasm in control group was 3% in gr 0, 7% in 1, 4% in gr 2, 45%
in gr 4, 83% in gr 4. However, occurrence of symptomatic vasospasm in cases used alpha-tocopherol
was 0% in gr 0 and 1, 11% in gr 2, 20% in gr 3, 40% in gr 4.
Therefore, symptomatic vasospasm cccurred almost half in cases used alpha-tocopherol compared with
control group.
破 裂 脳 動 脈 瘤 患 者 の予 後 を 決 定 す る 因 子 と し
て 、 術 前 の重 症 度 と と もに,晩 期 血 管 攣 縮 も見 の
が せ ない.し か るに クモ膜 下 出血 急 性 期 に お け る
vasospasmの 対 策 は い ま だ に 確 立 さ れ て い な い の が 現 況 で あ る2)3)4)5)9)10)13)14)15).近 年 ク モ 膜 下 出 血 の 血 腫 の 程 度 に よ りsymptomatic vasospasmの 発 生 を 予 測 で き る よ うに な っ て き た1)6)7)8)11). そ こ で そ の よ うな 症 例 に α-tocopherolの 髄 注 を 行 いsymptomatic vasospasmセ こ対 す る 効 果 を 検 討 し,若 干 の 知 見 を 得 た の で 報 告 す る. 対 象 CTの 画 像 が 安 定 し た1976年9月 か ら1982年3 月 ま で に 本 院 で 行 っ た 脳 動 脈 瘤 直 達 手 術 例 は308 例 で あ りそ の うち1981年4月 以 後 に α-tocopherol 髄 腔 内 注 入 を 行 っ た23例 を 対 象 と し,そ れ 以 前 に 治 療 を 行 っ た 同 一 術 者 に よ る155例 をcontrolと し て 対 比 検 討 し た. 方 法 ク モ 膜 下 出 血 急 性 期 の 治 療 方 針 を 発 症2日 以 内 の 症 例 で は,70歳 以 上 と,マ ニ トー ル 等 の 投 与 で も全 く反 応 し な い 完 全 なgrVの 症 例 を 除 い て 緊 急 手 術 の 対 象 と した.3日 以 後 に 来 院 した 例 で は 待 期 手 術 と し た.更 に 来 院 時 のCTに てsympto-matic vasospasmの 発 現 を 予 期 さ れ る 症 例(see No.42)に 対 し て 急 性 期 直 達 手 術 患 者 に は 脳 底 槽 ド レナ ー ジ を 設 置 し,待 期 手 術 例 に 対 し て は,腰 椎 穿 刺 ま た は 脳 室 ド レ ナ ー ジ の み を 設 置 しそ の ド レ ナ ー ジ チ ュ ー ブ よ り 毎 日 α-tocopherol 30∼ 100mg14日 間 投 与 し た.ま た 片 マ ヒ等 の 症 状 が 恒 久 的 に 出 現 しか つCT上 脳 梗 塞 像 を 呈 し た も の をsymptomatic vasospasmあ り と した.脳 底 槽 血 腫 の 重 症 度 別 に α-tocopherol使 用 群 に お け る vasospasm発 生 率 を α-tocopherol使 用 以 前 の 症 例 のsymptomatic vasospasm発 生 率 と比 較 検 討 した. 結 果 α-tocopherolは 髄 液 と よ く混 和 し 放 置 し て お い て も分 離 す る こ と は な か っ た.は じめ に α-toco-pherolの 使 用 症 例 を 提 示 す る. case 1.56歳 男 性,ク モ 膜 下 出 血grIVに て 来 院,CTに て 血 腫 は 脳 底 槽 に 充 満 し,ambient cis-ternか らquadrigeminal cisternに ま で 及 ぶ SAHCT-gr4で あ っ た.脳 血 管 撮 影 に て 前 交 通 動 脈 動 脈 瘤 を 認 め,同 日緊 急 手 術 を 行 い,clip-ping,血 腫 除 去,脳 槽 ド レナ ー ジ,外 減 圧 を し た.術 後 患 者 はstupor∼drowsyに 改 善 し た.連 日 ド レナ ー ジ チ ュ ー ブ よ り α-tocopherol 30mg Fig.1
を 注 入 して い た が3日 後 に 患 者 はdrainagetube を 自 己 抜 去 し て し ま っ た.そ の 日 のCTで は 脳 底 槽 の 血 腫 は 残 っ て お り,皮 下 にCSFの 貯 留 を 認 め る た め 連 日皮 下 穿 刺 に てCSFの 排 液 と α-toco-pherol 100mg投 与 を2週 間 に わ た り施 行 した. そ の 間 患 者 はdrowsyの 状 態 で あ っ た がCT上 特 にvasospasmに よ る 梗 塞 像 を 認 め る こ と な く完 全 社 会 復 帰 し た. case2.55歳 男 性,ク モ膜 下 出 血gr彊 に て 発 症2日 目に 某 院 入 院 し た.入 院 時 のCTで は 脳 底 槽 血 腫 はgr3で あ り翌 日の 脳 血 管 撮 影 に て 前 交 通 動 脈 動 脈 瘤 を 認 め た.待 期 手 術 と し腰 椎 穿 刺 に て 連 日50mgの α-tocopherolを2週 間 に 亘 り注 入 し た.6日 目 に 軽 い 失 語 症 お よ び 右 片 マ ヒ を 呈 し,7日 目に 行 わ れ たCTに て 左cingulate gyrus に 小 さ なLD areaを 認 め た.10日 目に 行 わ れ た 脳 血 管 撮 影 で は 前 大 脳 動 脈 に 軽 い 中 等 度 の 血 管 攣 縮 を 認 め た が 以 後 症 状 は 改 善 し19日 目で 直 達 手 術 を 行 い,神 経 症 状 を 残 す こ と な く退 院 し た. α-tocopherolを 使 用 し た23例(急 性 期 手 術 例 15例,待 期 手 術 例13例)の 経 過 の 一 覧 表 をTable
1に 示 す.左 か ら症 例,Hunt and Hess grading, CT上 の 脳 底 槽 血 腫grading,2週 間 以 内 の 患 者
の 経 過,脳 血 管 撮 影 上 の 脳 血 管 攣 縮 の 有 無 お よ び 程 度,CT上 のLD areaの 有 無 一 小 さ なLD area が 出 現 した も の を ± と した.症 例1,2,5で は rectal gyrusの 吸 引 に よ る 小 さ なLD areaを,症 例4で はant.chor.Aを 一 緒 にclipし た た め と 思 わ れ るLD areaで あ りspasmと は 関 係 な い と 思 わ れ た.症 例21で はgdで 発 症 し た 多 発 動 脈
瘤 患 者(出 血 源 は 右 内 頸 動 脈 動 脈 瘤)で あ り,9日 目に 反 対 側 の 血 管 撮 影 を 施 行 す る ま で は な ん ら 異 常 な くCT-gr 2で あ り血 管 攣 縮 は 起 こ ら な い と 思 わ れ た 症 例 で あ っ た が,脳 血 管 撮 影 の た め の 前 投 薬 に よ りや やdrowsyと な り脳 血 管 撮 影 施 行 後 よ り右 片 マ ヒ と 失 語 症 が 出 現 し た.脳 血 管 写 で は severe spasmの 像 を 呈 し,翌 日 のCTで は 左 脳 半 球 全 体 お よ び 右 前 大 脳 動 脈 領 域 の 広 汎 なLD area を 呈 し,そ の3日 後 に 死 亡 し た 例 で あ る.最 後 の 段 は 患 者 の 経 過 で あ りExcellentは 発 症 前 と 同 様 に 完 全 社 会 復 帰,Goodは や や ボ ー と し て い る. Fairは 神 経 症 状 を 残 す も の,Poorは ね た き り, Dead死 亡 と 分 け る とExcellent 14例,Good 3 例,Fair 2例,Poor 1例,Dead 3例 で あ る
Table 1 Result
Table 2 Occurrence of the symptomatic vasospasm in the cases used vitamin E
(Table 1).次 にsymptomatic vasospasmの 発 症 をcontrol群 と 比 較 す る とcontrol群 で は 脳 底 槽 血 腫gr 0:3%,gr 1:7%,gr 2:4%,gr3: 45%,gr 4:83%で あ る の に 対 し α-tocopherol 使 用 群 で はgr 0,1,で は0,gr 2:11%,gr 3: 20%,gr 4:40%で あ り,CT-gr 0,1,2で は 変 り な い が,gr3,4で は 症 例 は 少 な い が 半 分 に 減 っ て い た. 考 察 ク モ 膜 下 出 血 後 に 発 生 す るchronic vasospasm は 予 後 に 重 大 な 影 響 を 及 ぼ す こ と は 異 論 を 見 な い.近 年CTの 出 現 に よ り脳 底 槽 血 腫 の 程 度 に よ り脳 血 管 攣 縮 の 発 生 が 予 想 で き る よ うに な っ た1) 6)7)8)11).し か しな が ら 脳 血 管 攣 縮 に 対 す る 予 防 法 も 治 療 法 も 確 実 な 方 法 は な い.脳 血 管 攣 縮 の 病 理 所 見 で は 内 膜 肥 厚,中 膜 壊 死 血 栓 形 成 な ど の 器 質 的 変 化 で あ り(3),一 度 起 こ っ て し ま っ た 器 質 的 変 化 が 容 易 に 寛 解 す る と は 考 え ら れ ず,脳 血 管 攣 縮 の 発 生 を 予 知 で き る よ うに な っ た 現 在,予 防 こ そ が 最 良 の 治 療 へ の 道 と 思 わ れ る.更 に 脳 血 管 攣 縮 で 問 題 に な る の は,そ の た め に 梗 塞 に 陥 る よ う なsymptomatic vasospasmで あ り,た だ 単 に 脳 血 管 撮 影 上 の 攣 縮 だ け で,無 症 状 に 経 過 す れ ば 問 題 に な ら な い.ま た 術 前 す で にherniation signを 呈 し て い て,術 後 に も 意 識 の 改 善 の 認 め ら れ な い よ うな 例 で は,手 術 に て も 減 圧 さ れ ず,脳 浮 腫 の 強 い 例 で あ り,こ の よ うな 例 に 術 後 血 管 撮 影 を 行 え ば,著 明 な 血 管 攣 縮 ま た はnonfillingを 認 め る が, そ れ ら の 例 で 意 識 を 悪 化 さ せ て い る の は,脳 血 管 攣 縮 と い う よ りむ し ろ ク モ 膜 下 出 血 そ の も の に よ るbrain damage, brain edema, herniation等 で あ り,現 段 階 で は こ の よ うな 例 の 治 療 は 困 難 で あ る.現 在 一 番 問 題 と な る の は 術 前 半 昏 睡 で あ っ た 症 例 で も 術 後 一 時 期 は 少 な く と もdrowsy以 上 に 改 善 し,そ れ が,1週 間 程 度 で 意 識 が 再 び 悪 化 し,片 マ ヒ等 の 神 経 症 状 が 出 現 し 脳 血 管 撮 影 で 脳 血 管 攣 縮 を 呈 し,CT上 広 汎 な 梗 塞 像 を 呈 し て く る 例 で あ る 。 こ の よ うな 例 に 対 し て こ そ 脳 血 管 攣 縮 の 予 防 が 大 切 で あ る と 考 え る.そ こ で こ の よ う な 症 例 に 対 し,加 藤 ら に よ る α-tocopherol髄 腔 内 投 与 の 動 脈 実 験 に ひ きつ づ き 臨 床 応 用 を 行 っ た.control群 と し て は 著 者 自 身 が 本 大 学 で1976 年9月 以 後 に 行 っ たgrl∼gr IVの 症 例 の う ち, 以 前 に 脳 血 管 攣 縮 の 虚 血 症 状 防 止.のた め にclip-pingと 同 時 にSTA-MCA吻 合 術 を 行 っ た14例12) を 除 外 し た155例 の 破 裂 脳 動 脈 瘤 患 者 で,こ の 時 す で に 著 者 自 身 の 動 脈 瘤 直 達 手 術 数 は100例 を 越 え て お り,比 較 的 手 術 法 も安 定 し て お り,ド レナ ー ジ,外 減 圧 な ど も ほ ぼ 一 定 の 基 準 を 定 め て あ り,α-tocopherolを 使 用 以 外 は ほ ぼ 一 定 の 条 件 と 思 わ れ る.そ れ に 対 し α-tocopherol使 用 例 は 当 院 で α-tocopherolを 使 用 し た 症 例 全 例 で あ り, 著 者 自 身 以 外 の 手 術 例 はNo.4,8,9,12,13,15 で あ り こ れ を 除 外 す る と 成 績 は 更 に 良 好 と な る. 更 に 著 者 の 印 象 と し て α-tocophero1使 用 以 前 に 急 性 期 をCT上LDareaを 呈 す る こ と な く乗 り 越 え たgr IVの 症 例 で は,全 く元 通 りに は 改 善 せ ず,goodま た はfairと な る 例 が 多 か っ た が,α-tocopherol使 用 以 後 の 例 で はExcellentが 多 い こ
と で あ る.free radical injuryが 脳 血 管 に 障 害 を 与 え る と 同 時 に 脳 実 質 に 対 し て も 障 害 を 与 え る 可 能 性 は 十 分 に 考 え られ る が,病 理 学 検 索 で は そ の 障 害 が 攣 縮 に よ る 虚 一血 に よ る か,直 接 の 障 害 か の 判 定 は つ か ず 推 論 だ け で あ る が,α-tocophero1は ク モ 膜 下 出 血 に よ る 脳 血 管 に 対 し て の み な ら ず 脳 実 質 に 対 す るfree radical injuryを も 抑 制 し て い る と 思 わ れ る. 結 語 α-tocopherolの 髄 腔 内 投 与 は,symptomatic vasospasmの 発 生 に 対 し有 効 と思 わ れ た. 文 献 1) 有 竹 康 一,斉 藤 勇,茂 野 卓,渡 辺英 寿,佐 々 木 勝,金 子 美 紀 久:脳 血 管 攣 縮 とComputed Tomography.CT研 究,1:247-256,1978.
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