• 検索結果がありません。

プライシング:デフレ下の収益向上, 実現価格アップ:販促コストのマネジメント, 金融サービスにおける戦略的プライシング, The Untapped Power of Pricing, 産業財企業の最適プライシング, Precision Pricing for Profit, Growth, and Advantage

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "プライシング:デフレ下の収益向上, 実現価格アップ:販促コストのマネジメント, 金融サービスにおける戦略的プライシング, The Untapped Power of Pricing, 産業財企業の最適プライシング, Precision Pricing for Profit, Growth, and Advantage"

Copied!
32
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

●実現価格アップ:  販促コストのマネジメント ●産業財企業の最適プライシング ●金融サービスにおける    戦略的プライシング 2003 SPRING プライシング:  デフレ下の収益向上

(2)
(3)

●実現価格アップ:  販促コストのマネジメント 産業財企業の最適プライシング 1 ●金融サービスにおける戦略的プライシング 9

C O N T E N T S

18 プライシング:デフレ下の収益向上

(4)

実現価格アップ:販促コストのマネジメント デフレの波の中で自社製品の販売価格が低下していく傾向は、経営者の 大きな悩みの一つである。しかし多くの場合、販売価格は一律に低下してい るわけではなく、顧客・商品ごとにバラツキが存在し、その中に実現価格引 き上げの機会が潜んでいる。 日本メーカーは、生産現場にTQCという「科学の目」を持ち込み、バラツ キを解明し平準化する努力を積み重ねることで、仕事のやり方そのものを変 革し、競争力を高めてきた。しかし、営業現場、特にプライシングにTQCを 活用している例はまれである。生産現場で培ってきた「科学の目」を営業に も持ち込み、実現価格のバラツキをマネージしていけば、持続的な収益改善 への道が見えてくる。 販促コストのブラックボックス化 消費財企業において実現価格を向上させるための大きなカギを握るのが、 値引きを含む販促コストである。流通のバイイングパワー増大やメーカー間 競争によって、値引きやリベート等の販促コストが高騰し、売上げの30%以 上にも達している企業はざらにある。しかも、複雑ないくつもの要素が絡み 合い、どの施策がどんな結果を生んでいるのかが見えないと感じておられる 経営者・経営幹部の方々も多いのではなかろうか。本来、販促コストとは、 売上げ・利益を増加させるための「投資」としての支出であり、そのマネジ メントの巧拙で、全社利益が大きく左右される性質のものであることは言う までもない。しかし現実には、流通構造の複雑さや取引慣行の非合理性を格 好の言い訳にして、販促コストがブラックボックス化するのを許してきてい る。「販促予算を抑えるよう、現場の指導を徹底している」とか「最大限努力

実現価格アップ:

販促コストのマネジメント

(5)

実現価格アップ:販促コストのマネジメント をしている」とかいった営業担当の説明を鵜呑みにして、現状のままでやむ を得ないものと半ばあきらめの境地の経営者が多いことに驚かされる。コス ト予算管理の徹底とガンバリズムだけで、販促コストを本当にマネージする ことはできない。逆に、「科学の目」を営業にも持ち込み、この販促コストの ブラックボックスを開けることができれば、そこには大きな収益改善チャン スが眠っている。 ボストン コンサルティング グループ(BCG)では、「収益ドライバー」のマ ネジメントという手法を適用して、販促コストのどんな要素が、実現価格、 ひいては収益にどのように作用しているのかを見極め、さらには、解明され たメカニズムに基づき、営業マネジメント自体を変革していくお手伝いをさ せて頂いている。「収益ドライバー」とは、収益改善のためにコントロール可 能な(あるいは、コントロールすべき)要素をさす。様々な複雑性を伴う要 素の中で、何が「収益ドライバー」となっているかを特定し、収益改善のメ カニズムを解明した上で、体系的に組織活動のミッションを再定義していく というのが、この手法の骨格である。以下、主として消費財企業の販促コス ト・マネジメントの例をとりあげ、「収益ドライバー」のマネジメントによっ て、営業を変革していくアプローチにつきご説明していきたい。 3つのバラツキ=収益改善のカギ 多くの企業の生産現場では、統計的手法を使って様々な「バラツキ」を把 握し、カイゼンのチャンスを見出す努力を長年重ねてきた。販促コストにつ いても、その実態を科学的に分析すると、3つの重要なバラツキの存在が明 らかになる。このバラツキにこそ、今まで手をつけられずに眠っていた収益 改善の大きなチャンスが潜んでいるのである。 1. アカウント別収益性のバラツキ 小売アカウントごとに実際に使った販促コストを精査してみると、費用対 効果には驚くほど大きな幅がある。当然収益性にも大きなバラツキがあるわ けで、あるメーカーの場合、売上げが同程度の同業態小売り間で、メーカー 利益率に最大15ポイントもの差があった。私たちBCGの試算の結果、もし平

(6)

実現価格アップ:販促コストのマネジメント 均以下のアカウントの利益率を平均並にできれば、利益率が3ポイント向上 し、全社の経常利益額が倍増することが判明した。(図1参照) この数字は決して例外的なものではない。直接の販売先(通常は卸や特約 店)についても、きちんと収益性を把握している消費財メーカーは少なく、 まして小売りのアカウントごとに商品別の利益を測定できている会社はほと んどない。私たちBCGの経験では、管理会計システムで「顧客別収益」の数 値が得られると自他ともに認めている企業でさえ、残念ながら恣意的・機械 的に費用を割り振っているレベルにとどまり、真に「顧客別収益」を把握し ているとは言えない場合が多かった。 さらに、営業マネジメントの中で、アカウント別商品別の利益数値を、生 きた形で使っている例は数少ない。「数値データが取れる」だけでは何の価値 もない。現場の計画策定、意思決定のプロセスに組み込み、アカウント別の 出所: BCG分析 図1. チェーン別の売上 対 利益率(分析例) チェーン別利益率 (%) 1 0 10 100 1,000 売上 (指数)

GMS/スーパー

(7)

実現価格アップ:販促コストのマネジメント 利益(即ち、販促コストの費用対効果)を積極的にマネージしていくことで、 初めてバラツキのコントロールが可能となる。 アカウント別利益のバラツキの実態を把握し、営業マネジメントに組み込 んでいく。この一見当たり前のことを、徹底的に実行するのは意外と難しい し、これまではやられてきていない。ここに目をつければ、大きな収益改善 チャンスが存在するわけだ。 2. 販促タイプ別の費用対効果のバラツキ 販促行為には様々な種類がある。スーパー店頭でのデモンストレーション、 商品サンプルの添付、チラシによる拡売、エンドゴンドラでの特売、等々。 これらをどう組み合わせ、どの価格帯で実施するかで、売上げには大きな差 が生じる。ある商品の場合、最も効果の高い組み合わせをとると、1日当た り売上げが、販促を実施しない場合の約16倍にまで増加した。 販促タイプ別の効果を定量的にとらえ、それぞれの費用と比較した上で、 営業活動を行う。これだけで販促の費用対効果は大きく改善するのだが、こ れも実行できている会社は数少ない。「どういう販促が効きそうか」という感 覚だけが社内の共通認識で、現場での実際の商談は営業マンの勘に任せてい るメーカーが大部分だ。 データの制約や競争環境の変化といった「できない理由」を並べ立てるの ではなく、経営の意志として「科学の目」を用いたマネジメントをまず導入 する。その上で、仕事のやり方やデータの精度を継続的に改善していく。こ れができれば、販促タイプ別の費用対効果のバラツキをチャンスに変えてい くことが可能となる。 3. アカウント別価格ビヘイビアのバラツキ ほとんどの消費財メーカーは、小売りレベルでの消費者価格を直接コント ロールできない。インセンティブや販促金を支払って、小売りへの納入価格 を間接的にコントロールし、その上で、小売り側が自分のマージンを乗せて 消費者価格を決めるに任せるしかない。 この小売りの価格決定ビヘイビアにも大きなバラツキがあり、かつチャン

(8)

実現価格アップ:販促コストのマネジメント スが潜んでいる。(図2参照) ある小売りが客引きの目玉として超低価格の値付けをしているとしよう。 この小売りの動きに刺激されて近隣の小売りも値下げし、市場価格が次第に 下がっていく。メーカーとしては、本来この小売りに対しては、非価格訴求 型の販売促進活動を勧めるような商談を行うべきだが、セールスマンは売上 げ目標達成のために、つい価格条件に応じてしまう。結果として、製品の市 場価格下落に自ら手を貸しているわけだ。 このような事例に対しての打ち手が、「担当営業マンのあるべき行動を期待 する」といった抽象的な指針だけに留まり、具体的な方法論を打ち出せずに 終わっている企業も多い。消費者価格と自社製品の納入価格をアカウントご とに定量把握し、アカウントごとの販促商談内容に反映する。この仕組みを きちんと作り上げれば、短期の売上げと長期の利益(市場価格維持)のバラ 出所: BCG分析 図2. チェーンごとの価格ビヘイビアのバラツキ(分析例) 消費者価格 チ エ ー ン A     B     C     D     E     F     G     H     I     最高値 最低値 小売り納入価 “目玉”型 たまに値引き 粗利確保型

: 実 売 価 格 加 重 平 均

(9)

実現価格アップ:販促コストのマネジメント ンスをとり、利益成長に道筋をつけるチャンスが生まれてくるのである。 変革の3つのツボ 以上みてきたように、販促コストの効果には3つのバラツキが存在し、バ ラツキの定量的把握とコントロールが実行できれば大きな収益改善のチャン スとなる。これらのバラツキは、従来型の営業マネジメント思想と仕事のや り方自体から発生し、温存されてきた。したがって、チャンスを現実のもの にしていくには、従来型の営業マネジメントの変革が不可欠だ。 変革実現にはいくつかのキーポイントがあり、「変革の3つのツボ」と題し て、その内容をご説明してみよう。 1. コスト総枠主義からの脱却 バラツキを温存している企業に共通する特徴は、販促コストを「コスト= 必要悪」と位置づけていることだ。売上げ予算とは別建てでコスト予算とし て策定され、総枠を抑えることが経営者の関心事となる。実行上も「コスト 予算の総枠を遵守する」ことが第一義となって、予算を超過した支店長が叱 責を受けたりする。 冒頭でも述べた通り、本来、販促コストは売上げと利益を生む「投資」で ある。したがって、きちんとした費用対効果の見通しに基づき、売上げ予算 と一体化したパッケージとして計画されるべきもので、コスト予算の総枠抑 制だけを議論するのはナンセンス極まりない。実行上も、アカウントごと商 談ごとに、一定以上の費用対効果が見込める限り、当初の予算枠に関わらず、 極端に言えば青天井で使っても問題がない類の費用のはずだ。 販促コストを見る際に、「コスト総枠」の視点ではなく「アカウント別費用 対効果」という視点に立つことが、変革の第一のツボである。 2. コントロールの軸変革 「コスト総枠」ではなく、「アカウント別費用対効果」の視点に立てたとし ても、行動が変わらなければ意味がない。このためには、内部コントロール の軸を変革していく必要がある。営業部門のコントロールは、多くの場合、

(10)

実現価格アップ:販促コストのマネジメント 売上げ目標とコスト予算の策定・管理、およびそれに基づく報奨システムを 軸としている。これに代えて、新たな軸を作っていく。 具体的には、アカウント別利益計画を基礎とする予算管理体系、担当アカ ウントの利益目標達成に応じた評価報奨システムを構築することで、支店長 から営業マンに至るまでの行動の変革を促すことになる。面白いもので、 一旦アカウント別利益で評価されるとわかった途端に、営業マンが値引き の許可をもらいにくる回数が減る。今値引きして売上げを作っても、実勢 価格が下がってしまい来期の利益目標が達成しにくくなるという風に、思 考プロセスそのものが変わっていくのだ。 3. ツールとインフラの整備 内部コントロールの軸を変革した後に残された課題は、営業マンのため のツールとインフラの整備だ。営業マンが担当アカウントの利益を改善し ようとしても、販促タイプ別の費用対効果がシミュレーションできなけれ ば、効果のある打ち手は立てにくい。アカウント別利益、アカウント別利 益といっても、数字自体が容易に手に入るように、情報システムが手直し されていなければ、絵に描いた餅である。また、アカウント別の価格ビヘ イビアも含めた信頼できる「アカウント情報データベース」があってこそ、 営業マンに意味のある指示ができる。 見落とされがちだが、こういったツールとインフラを地道に整備して、 初めて営業における「収益ドライバー」のマネジメントが本当に可能にな るのだ。 営業改革のスタートライン 販促コストというブラックボックスを開け、いかに営業「収益ドライバ ー」をマネージしていくべきかについて、簡単にご説明してきた。 「オープンプライス制」、「取引制度の変更」といったコンセプトを導入 しようとしている企業は多いが、ここまでに述べた営業「収益ドライバー」 マネジメントが満足にできていなければ、その成功は覚束ない。新しい酒 は新しい皮袋に注ぐ必要があるのだ。将来への一歩としても、ぜひ販促コ

(11)

実現価格アップ:販促コストのマネジメント ストのブラックボックスに手をつけていただきたい。 さて、どんな変革でも同じだが、これらの手法はトップマネジメントの コミットメントがあってこそ実を結ぶ。営業というのは意外なほど保守的 な部門で、従来のやり方を変えるにあたっては大きな心理的抵抗感がある ものだ。トップが納得ずくで「一緒にリスクをとろう」と言い、かつ行動す ることが、心理的抵抗感を打ち破る唯一最大の手だてとなる。営業「収益 ドライバー」を成功裏にマネージするためには、ぜひ、トップのコミット メントを示すことから始めていただきたいと思う。 御立 み た ち 尚資 た か し 御立 尚資 BCG東京事務所 ヴァイスプレジデント 本稿は、展望Vol. 135 「販促コストのブラックボックスを開ける―『収益 ドライバー』による営業革新」 を再編集したものである。

(12)

あなたの会社には、利率や手数料など、金融商品・サービスのプライシン グに関わる体系が全部で何種類あるだろうか? 数百? それとも数千? ま た、あなたの会社には、山ほどある商品やサービスに、最適な値段をつけ収 益を最大化する“仕組み”があるだろうか? 「取引高を減らさずに価格を最大何%まで引き上げることができるか」、 「あと何%価格を引き下げれば、他社から顧客が乗り換えてくれるか」―― 常に戦略的な視点で価格を設定していくことは、非常に重要なことである。 ところが、金融機関において、価格はまわりの環境に応じて受身的に決め られることが多かった。経営幹部の直観、競合他社の動き、売上目標達成の ための圧力等に基づいて、価格を決めていたのである。本来は、顧客セグメ ント別の特性や価格感度を理解し分析した上で、能動的に価格を設定するべ きだが、そうした例はあまり見られない。その結果、価格メカニズムや価格 水準がバラバラになり、様々な弊害が生じているのが実情だ。たとえば、安 すぎる値段を設定したために利益をあげる機会を逸したり、高すぎる値段を 設定したために顧客を他社の低価格商品にとられてしまったりしている。 私たちBCGの見るところ、金融機関の多くは、プライシングをもっとうま く活用することで、収益やマーケットシェアを伸ばすことができる。実際、 プライシングは収益に最も大きな影響を与える施策だと言っていい。たとえ ば、BCGが最近リテール・バンクを対象に行った調査によれば、取引高とコ ストを変えずに、商品の実質価格を1%上げることができれば、ROE(株主 資本利益率)が6.8%も上昇することがわかった。逆に価格はそのままで、取 引高だけを1%増加させてもROEの伸びはわずか1.8%。コストだけを1%削減 してもROEは2.3%しか伸びない。これはファンドマネジメント業界や保険業 金融サービスにおける戦略的プライシング

金融サービスにおける

戦略的プライシング

(13)

界にも共通する構造である(図参照)。 プライシングを効果的に行うには、顧客の反応や競合のポジショニングに 関する情報を収集し、分析することが不可欠だ。しかし残念なことに、その ための情報システムがきちんと備えられている金融機関はほとんどない。 実は、プライシングの失敗により、企業は大きな損害を被るリスクがある。 たとえば、全体から見ればわずかな人数でも、優良顧客の一部が離れていっ たり、彼らが購買意欲を失ったりすれば、その被害は莫大だ。反対に、プラ イシングに成功した場合は、大きな収益向上が期待できる。優先施策として プライシングに取り組んだ企業では、対象となった商品の収益が25%も伸び たという。重要なのは、プライシングを戦略として有効活用していない現状 を認識し、それを生かす方法を考えることである。 金融サービスにおける戦略的プライシング 図 . プライシングの収益へのインパクトは、取引高増加やコスト削減より大きい ROEは何%上昇するか? 出所: BCG分析 6.8% 1.8% 2.3% 3.5% 1.7% 1.8% 12.0% 5.2% 2.6% 15.0% 7.7% 1.3% 実質価格が 1%上がると 取引高が 1%増加すると コストを 1%削減すると 銀 行 マネジメント ファンド 損 保 生 保

(14)

プライシング向上への7つのカギ 金融業界の競争は激化する一方だ。よく似た金融商品・サービスが、同じ ような価格で一律に並び、スイッチング・コストも低下している。このよう な環境でプライシングを改善するには、多角的な取り組みが必要である。以 下に、最も効果的にプライシングを行うための7つの原則をご紹介したい。 1. 事業戦略に連動したプライシング まず、自社の商品について、それぞれの戦略的なポジショニングを明確化 することが必要だ。プレミアム志向か、低価格志向か、それともマスを狙う のか? 現在の価格設定が戦略を実現する上でどのように役に立つのか、逆 に障害にならないか? プライシングで他社と差別化するにはどうしたらよ いのか? ――こうした問いに一つひとつ答えを出していくのだ。 たとえば、イギリスのハリファックス・バンク・オブ・スコットランド (HBOS)は、「Consumer Champion(お客様は神様です)」と呼ばれる戦略を推 進した。消費者向けの住宅ローンや預金口座で、貸出金利と手数料を引き下 げて、取引高を増やすことを目指したのだ。その結果、事業規模は拡大し、 ユニット・コストは削減され、他社と大きく差別化することができた。事業 戦略を強化・促進することを目標に価格を設定したことが、結果的に消費者 向け住宅ローン市場でのマーケットシェア拡大につながった。さらに、取引 高の増加に伴い、コストがどんどん削減されていったため、価格面でもさら に競争力を増し、競合他社にとって後追いは困難となった。 2. 顧客の価値評価に見合うプライシング 商品、サービス、さらには、それらを構成する一つひとつの要素に対する 価値評価は、顧客セグメントによってさまざまである。その違いを理解した 上で価格を考えれば、より効果的に価格設定ができるようになる。より有効 な顧客セグメンテーションの方法を追究し、セグメントごとに購買意欲をか きたてるような革新的な価格体系を開発することが大切だ。 その方法の一つとして考えられるのは、商品・サービスのアンバンドルだ。 すなわち、一つに束ねられた形で提供されている商品・サービスを要素ごと 金融サービスにおける戦略的プライシング

(15)

に分解し、一つひとつの構成要素に対して個別に価格を設定し直すのである。 たとえば、アメリカの地方銀行ワシントン・ミューチュアルは、当座預金 口座を利用する顧客の不満に対応して、新しい課金システムによる口座をつ くった。預金者の多くが、「取引ごとに手数料○ドル」、「口座維持のための 最低残高は○ドル」、「月額の口座手数料は○ドル」といった制度にウンザリ していることに気づき、こうした制約が全くない口座をつくったのだ。その 代わり、この口座は無利子で、しかも小切手を不渡りにすると違約金を課す など、罰則規定によって課金される仕組みになっている。この新しい口座は 大ヒットして、同社の当座預金口座の利用者数は大幅に増加し、収益も飛躍 的に拡大した。 小切手の不渡り、支払遅延、クレジットカードの利用限度額オーバーなど に対しては、金融機関が比較的自由に課金額を変更できる。顧客は、普段は 「自分たちには関係のない罰金」だと思っているので、値上げに対する抵抗感 も少ない。仮に実際に課金されることになっても、顧客は、銀行を責めるの ではなく、自分の責任なので仕方がないと考える。しかも、こうした罰金に ついて、たいていの顧客は無頓着で、他の銀行と条件を比較することも少な い。したがって罰金額の値上げが、収益の伸びにつながる余地は十分にある わけだ。そうは言っても、顧客が他社に乗り換える危険性には注意しなけれ ばならない。値上げには常にリスクが伴っている。 3. リスク・レベルを反映したプライシング どんな金融機関でも、リスクの評価と管理には多くの労力を注いでいる。 その割には、リスクが価格に適正に反映されていることは少なく、収益を悪 化させているケースも多い。 たとえばある世界的な銀行のケースを見てみよう。1990年代後半、アジア の金融危機の影響を受け、企業向け融資のリスク・プロファイルが大きく変化 した。にもかかわらず、この銀行ではしばらくの間、従来の低いリスク・レ ベルに応じた価格を変えなかった。ところが改めてリスク・レベルと価格設 定を比較分析したところ、価格が適正でないことがわかった。そこで、融資 を4つのカテゴリー――回収、価格再設定、再格付け、現状維持――に分類 金融サービスにおける戦略的プライシング

(16)

し、価格設定を定期的に見直す仕組みを確立した。この銀行の概算によれば、 価格設定を定期的に見直すことにより、融資による収益は年間500万ドル以上 増加したという。 4. コスト構造に応じたプライシング 金融機関の中には、コスト構造についての理解が不十分なため、効率の悪 い価格体系になっているところがある。金融商品は多くの場合、コスト構造 が複雑で、流通チャネルも多岐に渡る。したがって、コスト構造に応じて価 格を再設定できる余地は十分あり、大幅な収益改善も期待できる。 たとえば、ある証券会社では、顧客からの収入は取引額の大きさに比例し、 コストは取引の回数に比例して増える収支構造になっていた。つまり、顧客 が少額の取引を頻繁に行うと、会社は損失を被る仕組みになっていたのであ る。さらに悪いことに、このコスト構造に気づいた競合が、この会社の顧客 の中から、最も収益性が高い顧客(取引回数が少なく取引額が大きい)を引 き抜き始めた。この会社の収益とROEは、年々低下し続けたのは言うまでも ない。 依頼を受けたBCGは、まずこの会社の世界各地の主要顧客に対してインタ ビュー調査を行い、顧客にとって受容できる価格帯を調べた。それを受けて、 価格設定モデルを再構築し、収益性の高い顧客を奪い返し、収益性の低い顧 客向けには価格体系を見直す戦略を策定した。その結果、過去10年間で初め て、収益とROEを増加させることに成功した。 5. 価格と取引高のトレードオフを最適化するプライシング どんな金融商品やサービスでも、理論上、最大の利益をもたらす価格と取 引高の最適値が存在する。しかし、この最適値を特定するのは極めて困難な ため、最後は結局、客観的分析ではなく直観に頼って価格を決定している金 融機関が多い。ところが、過去のデータを分析し、綿密な調査を行えば、価 格と取引高のトレードオフの実態を浮き彫りにすることが可能なのである。 たとえばアメリカのクレジットカード会社キャピタルワンでは、価格と取 引高のトレードオフを探る一連の施策を実行した。まず、価格と取引高に関 金融サービスにおける戦略的プライシング

(17)

するテストを年に数千回も行い、さらには、顧客の取引記録を分析して、顧 客プロファイルの精度を高めていった。その結果、商品ごとに、価格の変化 に応じて取引高がどれだけ増減するかを細かく把握できるようになった。そ して、顧客をその購買特性により細かくセグメント化し、それぞれのセグメ ントごとに、最も収益性の高くなる利率、クレジットカードの利用限度額、 支払条件を設定し直したのである。こうした努力の結果、この会社は、1995 年の創業以来、数千種類のクレジットカードを開発し、約5千万口座に及ぶ 顧客ベースを獲得して、高いマーケットシェアを誇ることになった。 ときに、顧客が受容できる価格帯が、市場での動きではっきりわかるよう になることもある。たとえば、オーストラリア銀行業界の調査によると、 1994年から2000年の間に、銀行間の貸出金利差が25ベーシス・ポイントに達 したとき、顧客は他行への預け換えを始めたという。 6. 実現価格の向上 商品・サービスに対する適正価格を決めるのは難しい。さらに、現場で は意味のない値引きや課金漏れが頻繁に起こる。金融機関のトップは、社 員が正規価格から値引きをしたり、システムや事務手続きのミスが原因で 課金もれが生じている現状に、どれだけイライラしていることだろう。 たとえば、ある世界的な投資会社が、プライベート・バンキング部門の 収益向上を目指して、従来の価格設定方法を見直そうとした際のことだ。 現場の顧客営業担当者たちは、旧来のやり方に固執して抵抗した。「これ まで自由に価格を設定することによって、契約を取ってきたわけだから、 突然変えられても困る」というのである。ところがよく調べてみると値引 きによって取引高が増えることはなく、収益性も向上していなかった。 その後、この投資会社では、改めて価格設定の指針を明確化し、例外を 認める場合には厳しい条件を課した。また、営業担当者が、顧客に対して 価格をきちんと説明できるように、彼らにコミュニケーション技術のトレ ーニングを行った。また実際の価格に対するモニタリングも開始した。こ うした施策の結果、プライベート・バンキング部門の収益は短期間に約 15%増加した。 金融サービスにおける戦略的プライシング

(18)

課金漏れや価格のバラツキは、収集されたデータが誤っていたり、デー タの使われ方が間違っていたりしたときにも起きる。取引やサービスの種 類を取り違え、契約条件とは異なる料金を請求し、実際の課金額がかなり 減ったという例は数多くある。こうした課金漏れや間違いを見つけるのは 容易ではないが、改善すれば短期間で大きな見返りが期待できるのは言う までもない。 7. 効果的なプライシングを行うための体制 プライシングは、一度見直すだけでも大きな効果が期待できる。しかし、 本当に目指すべきなのは、常に最適な価格を設定する仕組みをつくることで ある。これこそ他社がなかなか真似できない組織能力となる。このような体 制をつくるには、組織全体と関連プロセスの隅々にまで注意を払う必要があ る。 まず、価格設定に関わる各人の責任・役割を明確化し、結果に対して、厳 しい説明責任を課すようにしなければならない。はっきりとした役割分担を 行い、組織全体で整合性のとれた価格設定が行われるように体制を整える必 要があるのだ。さらに、価格設定後も動向を分析し続け、将来に役立つよう にフィードバックを行う仕組みも不可欠だ。 また、プライシングに関連する評価指標を見直せば、さらに効果を発揮さ せることができる。まず品目ごとの収入と収益性の変動を、情報システムで 追跡し分析できるようにする。営業部隊のインセンティブもこれに連動させ、 彼らが実際の営業活動の中で最適価格を実現するよう促す。価格設定モデル は、顧客別の生涯収益、削減可能なコスト、顧客獲得のためのコストなどを 考慮したモデルにする。これら一連の取り組みのためには、価格設定に不可 欠なデータを収集・管理して運用できる情報システムの整備が必須となる。 プライシングの戦略的活用に向けて 今日では、あらゆる手段を使って価格に関する情報を収集・分析すること が可能となり、プライシングを戦略兵器の一つとして活用できる環境が整っ ている。あなたの会社が、今すぐプライシングに真剣に取り組み、継続的に 金融サービスにおける戦略的プライシング

(19)

組織能力構築に努めていけば、持続的な競合優位を築くことができる。一方、 今グズグズしていると、後に挽回しようとしても、悪戦苦闘を強いられるこ とになる。 「どうしたら自社のプライシング能力を改善できるだろうか」と考えてい る方は、まず、次のポイントを自問してみてほしい。

自社の上位5つの商品について、取引高を10%減少させることなく、価 格を10%引き上げることができるか? あるいは価格を10%引き下げたほうが、自社にとって良い結果が得ら れるだろうか? これらの問いに対して、あなたはどれくらい自信をもって答えることが できるだろうか?

自社の商品やサービスをアンバンドルあるいはリバンドル(商品・サー ビスの束ね方・組合せ方を変えること)して価格を設定し直したら、そ れに対して顧客が喜んでお金を払うような価値を最大限提供できるよ うになるだろうか?

現行の価格体系は、低コスト・チャネルの利用を促進するようになっ て いるか? 他チャネルへの乗り換えが起こった場合、全体収益が増加するのか、 減少するのかを、きちんと把握しているか?

価格のバラツキや課金漏れという問題はないか? それはどうしたらわかるか? 自社のプライシングを本気で改善するつもりなら、現行モデルを前述の7 つの原則に照らしあわせて、厳しく評価してほしい。それだけでも、短期に プライシング向上に結びつく方策がいくつか見つかるにちがいない。同時に、 今後長期的に集中して取り組むべき課題も浮き彫りになるだろう。さらには、 柔軟で耐久力があり、収益を最大化できる価格設定モデルを構築するために は、何から改善すればいいのか ――ヒト、組織、インフラ(ITシステム等) の中での優先順位――も明確になるはずだ。 金融サービスにおける戦略的プライシング

(20)

つまるところ、最適なプライシングを行うには、“科学とアート”をうま く組み合わせることが何よりも重要だ。競合他社はすでに一歩を踏み出し ているかもしれない。 あなたの会社はもう始めていますか? ピーター・ウィテンホール フィリップ・モレル カール・ルッツスタイン

原題: The Untapped Power of Pricing

ピーター・ウィテンホール BCGメルボルン事務所 ヴァイスプレジデント フィリップ・モレル BCGパリ事務所 ヴァイスプレジデント カール・ルッツスタイン BCGシカゴ事務所 ヴァイスプレジデント 金融サービスにおける戦略的プライシング

(21)

この時代に値上げなんか、できるわけない――産業財企業の経営陣の多く は、値上げに対して半ばあきらめの境地だ。世界的に経済状況は不透明で、 グローバル競争は激化するばかり。過剰設備はいつになっても解消されない。 顧客の立場はどんどん強くなり、電子調達やネットオークションも増えてい る。こんな風に考えれば、価格には一方的な下降圧力が働いているように思 えるのも無理はない。挙句の果てには「経済状態が好転すれば、きっと価格 の下落も止まるにちがいない。それまで当面引き上げは無理だ。」と、言い 訳がましい“価格戦略”を繰り返す始末だ。 価格に対して自分たちには何もできないという無力感を増幅しているの が、産業財業界の悪しき旧弊だ。「我々は決められた価格を受け入れるだけ だ」、「所詮、汎用製品メーカーには価格をコントロールする力はない」とい った通念が業界を支配しているのだ。 現在、残念ながら多くの産業財企業は、こうした近視眼的戦略や思い込み から脱却できないために、プライシングに失敗して、数十億ドルにのぼる損 失を被っている。しかし、私たちBCGが見るところでは、こうした旧弊から 脱却しさえすれば、産業財企業がもっと収益を高められる余地は充分にある。 たとえば、私たちが「最適プライシング」と呼ぶ一連の戦略の実行をお手伝 いさせて頂いた企業の多くでは、営業利益が3∼5ポイント、場合によっては 10ポイントも上昇した。しかも効果は短期間で現れている。多くの場合、最 初の数週間で目に見える効果(クイックヒット)が現れ、一年以内にさらな る効果がもたらされる。しかも収益の最大化に留まらず、売上増加やマーケ ットシェア拡大につながり、ひいては持続的な競合優位性が獲得できる。 産業財企業の最適プライシング

産業財企業の最適プライシング

(22)

産業財企業の最適プライシング 「最適プライシング」戦略は、まず価格・販売量・利益の三者間のトレード オフを深く理解することから始まる。そして、「プライシングの改善により、 もっと収益や売上を増大できる機会はないか」と、体系的に見直していくの である。これは、従来多くの企業が行ってきた、価格水準を全体的に引き上 げたり据え置いたりするやり方とは異なる。必ずしも値上げを意味するわけ ではなく、なかには販売量増加とシェア拡大のために値下げをするケースさ えある。最適なプライシングを行うためには、「顧客は自社の製品をいくら で、どれだけ買うだろうか?」ということを常に深く考えなければならない。 これは、基本的だが、極めて重要な問題だ。 プライシング軽視の風潮を改める 現在、プライシングを重点施策の一つとして扱っている企業はほとんどな い。企業は、何十年にもわたってコスト削減には必死になって取り組んでき た一方で、プライシングにはあまり注意を払ってこなかったのが実情だろう。 米自動車メーカービッグスリーの一つに勤務するシニア・マネジャーは次の ように嘆く。「うちでは優に6,000人を超える専門スタッフがコスト削減やキ ャパシティーの問題に取り組んでいるが、収益管理やプライシングを専門に 見ている人材は100人にも満たない。そもそも収益へのインパクトは、プラ イシングの方がはるかに大きいのに。」 どの企業でも、プライシングに関わる業務に携わる人数は多いにもかかわ らず、オーナーシップをもって取り組んでいる人が少ないのも問題だ。プラ イシングに関わる意思決定プロセス、専門知識、情報は、さまざまな機能、 地域、事業部門に分散してしまっている。また、プライシング施策の成果や、 価格設定見直しの機会、自社の価格方針に対する脅威となる競合の動きや環 境変化をモニターする指標やプロセスも整っていない。その結果、経営幹部 は、不完全あるいは不正確な情報を基に、価格設定に関わる意思決定を行わ なければならない。さらに、営業のインセンティブ体系が連動していないた めに、事業戦略と現場で行われているプライシング戦術がかみ合わないとい う問題も生じている。 そうなると企業は結局、収益を得る機会を逸し、逆に、大きな危険を予知

(23)

産業財企業の最適プライシング して未然に防ぐこともできなくなる。またせっかく蓄積した顧客情報も充分 活用できず、さらには競合企業につけこまれてしまう。現在、多くの企業に 見られるのが、顧客が支払う実質価格と、その顧客の取引規模や顧客価値と の間にほとんど相関関係がないという現象だ。私たちはこれを「プライシン グの暗雲(Pricing Cloud)」と呼んでいる(図参照)。残念なことにこの雲は、 業種に関係なく、実に多くの企業で発生している。 上図に示したのは、ある産業財メーカーのケースだ。小口顧客に対して、 大口顧客と同程度か、あるいはもっと有利な実質価格を提供している現象は、 この企業以外にも一般的に見られる。何か特別な理由がある場合もないとは 言えないが、私たちの経験から言えば、一般に「暗雲」が現れるのは、事前 によく考えて価格が設定されていない場合である。私たちが提唱する「最適 プライシング」戦略を実行すれば、すぐにこうした暗雲を吹き飛ばすことが 図 . 典型的な「プライシングの暗雲」 ある大手産業財メーカーのある商品の例: 各顧客に対する実質実現価格と、その顧客の取引規模との間には、 相関が殆ど見られない *下限価格(=変動費)を100とする 出所: BCG分析 実質実現価格 (指数)* 赤字の価格 85 100 110 120 130 140 150 0.001 0.01 0.1 1 10 100 各顧客の取引規模(千個)

(24)

産業財企業の最適プライシング できるだろう。 「最適プライシング」への4つのヒント 「最適プライシング」戦略を行えば、価格のメカニズムを解明し、透明性を 高めることができる。買い手よりも売り手優位な製品を割り出し、より収益 を高められるように、価格体系を再設計していくのである。 こうした価格体系見直しの機会は、どんな企業にもどんな業種にも存在す る。典型的なのは、顧客の需要が大きく、しかも代替製品がほとんどない (もしくは全くない)製品の価格だ。たいていの企業は、長年こうした機会 を追求しては、有利に価格を設定しようとしてきた。 また、「黄金のパンくず」を集める(小額の利益をかき集めて収益性を向 上させる)という地道な方法もある。これは個々の製品・サービスの価格を 細かく見直したり、取引条件やディスカウント構造を改善したりするやり方 だ。一つひとつのの価格改善から得られる効果は小さいが、全部集めれば、 全体収益に与える影響は大きくなる。 私たちがお手伝いしてきた経験では、こういった施策は汎用製品でも有効 である。「黄金のパンくず」をいくつも発見し、そのパンくず一つ一つに重 点的に取り組むことで、価格・収益・シェアを大幅に改善した汎用製品メー カーもある。 ところで、あなたの会社で、“自社製品が高いシェアを占める顧客”、“短 い納期の顧客”、“特別の梱包や半端なロット・サイズなど標準外の対応が必 要な顧客”という3つの顧客層に対して、収益性向上のために値上げ(もし くは値下げ)を検討したのはいつだったろうか? また、競合他社のディス カウント構造、取引条件、ターゲット顧客について分析したのはいつのこと だっただろうか?  こうした問題については、ごく一部のみ、しかもたまに思い出したおりに しか取り組んでいない企業がほとんどであろう。しかし本当に収益を向上し ようと思うなら、これら全てについて、継続的かつ計画的に検討していかな ければならない。 「最適プライシング」戦略を立案し実行するには、綿密な分析が必要である。

(25)

産業財企業の最適プライシング 以下に、うまく「最適プライシング」戦略を行った企業が実施した代表的な施 策を4つご紹介したい。 1. 価値ベースのプライシング たいていの産業財企業は、“コスト積上げ方式”のプライシングから、“顧 客価値を反映させた”プライシングに切替えることで、大きな利益を生み出 すことができる。これは汎用製品でも例外ではなく、顧客価値に基づいた価 格に設定し直すことで収益が向上する製品・サービスもある。大切なのは、 自社の製品・サービスの価値をエンドユーザーがどのように評価しているか を深く理解することである。 ある大手の汎用金属加工会社は、同じような製品でも、ユーザーの用途に よって販売価格を変えられることに気づいた。たとえば、この会社の顧客に は、製品を最先端のハイテク製品に使用していたハイエンドユーザーもいた。 そして彼らは非常に精度の高い製品を求めており、少々高くても精度が高け れば買ってくれることがわかった。そこで同社は、顧客のニーズに合わせて、 製品に少し手を加えるとともに、何段階かに分けた価格体系を導入し、仕様 保証書も添付するようにしたのである。 もしこの会社の経営陣が昔ながらの経営哲学にこだわっていたら、こうし た戦略は、すぐに却下されていただろう。製造工程と価格構造の両面で複雑 になるからだ。しかし同社は「最適プライシング」という視点で事業を見直し、 この新しい戦略を敢行した。その結果、販売量を減らすことなく、利幅を標 準製品の3倍以上に伸ばすことに成功した。さらに、製品・サービスの質で 他社との差別化を進める結果となり、マーケットシェアも拡大した。 一方、ある産業財メーカーでは、製品とサービスをセットにした新サービ スを始めた際、顧客価値に基づいて価格を設定することにした。このサービ スには、人件費を削減できるという直接的なメリットがある上に、エネルギ ーや設備投資も節約され、事業も効率化するといった間接的メリットもあり、 これを利用する企業は大きな利益を享受することになった。ただし間接的メ リットに関しては、企業が製品を購入するまで、その顧客価値を証明するこ とは難しい。そのため同社では、顧客の価格感度を測定するシステムを開発

(26)

産業財企業の最適プライシング して、この新サービスによって顧客が享受する潜在的メリットを見積もるこ とができるようにした。このデータを営業資料に載せるとともに、価格体系 に反映させた。まず人件費削減による直接的な価値に基づいて基本契約料金 を設定し、さらに利用開始後に実際に間接的な価値を測定し、その結果に応 じて特別付加料金を課したのである。この斬新なプライシング戦略のおかげ で、この会社の実現価格と収益は大幅に向上した。顧客からもこのサービス は高く評価され、新規顧客も増加した。 2. 製品ミックスの見直し 次に利益を向上させるために有効な施策は、製品ミックスの見直しである。 「最適プライシング」戦略では、バンドル(複数商品の抱き合わせ)、ディス カウント、リベートなどあらゆる戦術を駆使して、顧客が購入する製品の構 成が、より収益性の高い組合せになるよう促していく。 たとえばある大手の製紙会社では、製品ミックスを改善して平均実現価格 を向上させた結果、収益率を5ポイントも上昇させた。同社の製品構成には、 利幅が大きい見込生産品である特殊紙と、利幅が小さい受注生産品の紙の二 種類があった。見込生産品は主に流通業者が在庫補充用として発注し、価格 が入札で決まる受注生産品と比べて30%から50%も利益率が高かった。 この二種類の製品が同一の生産ラインで製造されていたにもかかわらず、 価格設定はそれぞれ別々に行われていた。しかも、受注生産紙は納期の短い 方が入札で有利だからということで、利益が小さい受注生産紙が優先して生 産され、見込生産紙の生産は後回しになることが多かった。また販売量に応 じたリベート・システムも、見込生産・受注生産の区別なく適用され、低利 益率の受注生産品を大量に買う顧客が最も得をするという、不合理な仕組み になっていた。 そこで、この会社では、より収益性の高い製品ミックスへ売上をシフトさ せようと改善を始めた。受注生産紙については、生産スケジュール・機械の 稼動時間・機械使用時間当りの収益性に基づき、希望入札価格を割り出せる システムを導入した。またリベート・システムを見直し、高利益率の見込生 産紙を買った流通業者の方が、より早くリベート目標を達成できるようにし

(27)

産業財企業の最適プライシング た。こうして製品ミックスを改善した結果、同社は顧客に対する価格を引き 上げることなく、平均実現価格を向上させることに成功したのである。実際、 見込生産品に乗り換えた顧客は、以前より多くのリベートを手にすることに なった。この影響は競合他社にも及び、この会社はますます優位になった。 競合企業では収益性の低い製品のシェアが拡大して、製品ミックスが悪化し、 全体の収益が落ち込んだのである。 3. サービスのアンバンドル いまだに一種類の定型サービス・プログラムしか提供していない産業財企 業が多い。価格設定も、流通・提供のしかたもすべて一律だ。全てを一まと めにした価格設定をやめて、顧客にサービスの選択肢とそれに見合った価格 を提示すれば、実現価格は向上し、収益も大幅に増加するはずである。サー ビスメニューには、たとえば、納期短縮、仕様保証、納品率保証、特別梱包、 小口注文、技術サポートなど多様なオプションが考えられる。 ある産業財メーカーは、汎用製品市場で厳しい競争を続けていたにもかか わらず、自社の付加サービスの中で、どの部分が価格プレミアムを支えてい るのかが、よくわかっていなかった。たとえば、技術サービスを受ける顧客 は、どの程度の価値を認識しているのか? 特別注文に対する対応はどう か? 保証つきの納期短縮サービスは?  このメーカーにとって一つひとつのサービスの価値を把握することは、何 よりも重要な問題だった。なぜなら、同社は全国に在庫倉庫とジャストイン タイムの拠点を持ち、広範な流通ネットワークを展開していたにもかかわら ず、これらの付加サービスにより全体のコストが割高になり、新規顧客獲得 の妨げになっていたからである。 そこで同社ではサービスを一部アンバンドルし(要素ごとに切り離し)、顧 客がいくつかの選択肢の中から選べるようにした。そして顧客が評価し、追 加料金を支払ってもよいと考えるサービス(たとえば小口注文、特別サイズ の注文、特別梱包、保証つきの納期短縮など)には、別々に特別料金を課し た。一方こうしたサービスを必要としない顧客には価格を下げた。また技術 サポート出張サービスなど、ほとんどの顧客が評価していないものは打ち切

(28)

産業財企業の最適プライシング った。その結果、同社は短期間に平均実現価格を向上させ、コストを削減し、 シェアを拡大した。 4. アフターサービスの価格体系見直し 産業財企業は、アフターサービスの価格設定を改善することによっても、 新たな収益源を開拓し、さらなる成長を遂げることができる。たとえば、あ る産業財企業では、以下の施策を実施することによって、効果的にアフター サービスの価格を見直した。 a) 無料で提供する部品の数を減らすために、保証期間中の製品に対して 請求された修理内容の調査などを系統的に行う。 b) 修理・メンテナンスのコスト(部品代と人件費)と、製品交換にかかる 全コスト(サービス費も含む)のどちらが安いか、把握しておく。 c) 特別な部品には、汎用の部品より大きい利幅を設定する。 d) 未稼働時間の機会コストの一部を価格に反映する。 ある有名なオフィス家具メーカーでは、赤字事業に過ぎなかったアフター サービス部門を急成長させ、立派な収益源に転換させた。まず、この企業は アフターサービス専門の部門を立ち上げ、その部門単独の収益が把握できる 部門損益計算書を作成した。さらに製品・サービスのポートフォリオを分析 して、それぞれの事業特性によりセグメント化し、新しいサービス仕様とマ ーケティング資料を作成した。そして、多くの部品及びサービスの価格を引 き上げることに成功した。 このメーカーは、どういう部品が特に顧客価値が高いかを割り出したのだ。 顧客価値が高くなるのは、部品を交換して製品寿命を延長した方が顧客にと って得になる場合(例:事務所向け椅子の特許付空気圧機器)や、独自のサ ービスを提供できる場合(例:同社が設置したキャビネットであれば、特別 なコード情報を所有していたため、すぐに非常用キーを作ることができた) だということがわかった。経営陣は、これらの部品の価格を値上げすること を決め、なかには150%から200%も値上げした部品もあった。反対に一般の 修復・メンテナンスのように競争が激しい分野では、プライシング戦略とマ

(29)

産業財企業の最適プライシング ーケティング戦術を駆使して、顧客が他社のサービスに乗り換えるときのス イッチング・コストをうまく引き上げ、これによりシェアを拡大した。さら には、アフターサービス契約を確実に受注できるように、自社の製品供給プ ロセスと受注プロセスを刷新した。その結果、この会社は、アフターサービ ス部門で売上を3倍以上伸ばし、営業利益率は50%(業界平均の3倍)を上回 った。 「最適プライシング」のための体制作り 「最適プライシング」戦略を立案、実行するには、組織体制の整備が必要と なる。プライシングを重要施策と考えている企業では、自社のプライシング 戦略を明確に定義し、実行し、その成果や市場・競合の動向をモニターし、 実際の市場での実現価格をマネージするまでの一連の体制をきちんと整えて いる。こうした体制づくりは基本的なことであるにもかかわらず、実際にで きている企業はごくわずかだ。一貫した戦略の下、整合性のとれたプライシ ング施策を実行するには、プライシングのための専門組織を設け、専門知識 を持ったスタッフを配属する必要がある。この専門チームが、事業全体を総 合的な視点で見て最適化を図るようにするのだ。 私たちが多くの企業のお手伝いをさせて頂いた経験から言うと、うまく 「最適プライシング」を実現させるためには、次の4つを実施することが必要 だ。

組織体制の整備と、役割・責任の明確化 表示価格から実質価格に至るまで、価格設定に関わるすべてのプロセ スにおいて、どこに誰が責任をもつのかを明確にしなければならない。

プライシング方針の策定と仕組みづくり プライシングに関わる意思決定には一貫性が求められる。そのために は、価格設定に関わる権限を明確に定義し、価格決定のためにどんな分 析が必要かを取り決め、成果をモニターし監査する必要がある。

プライシング戦略に連動したインセンティブと方針の遵守 収益目標と具体的な実現価格の目標をインセンティブ体系に組み込む ことで、営業部隊の安易な値引きを防ぐことができる。

(30)

産業財企業の最適プライシング

プラットフォームとシステムの整備 全マネジャーが価格設定に関する意思決定プロセスとその成果をきち んと把握できるように、表示価格、ディスカウント、インセンティ ブ、コスト等がすぐにわかるようにしておく。さらには、製品・顧客別 の実質実現価格と貢献利益について、正確な最新情報を提供できる情報 システムを備える必要がある。 こうした「最適プライシング」が行える組織能力を身につけると、持続的な 競合優位性も獲得できる。このような仕組みや能力は、組織の深部で機能す るため、他社の目につきにくく、模倣するのはきわめて難しいからだ。しか も戦略的な価格の見直しを組織的に継続して実施すれば、企業は毎年新たな 価値を創出していくことができる。 *  *  * 「最適プライシング」戦略を実行すれば、企業は、短期間で大きな成果をあ げることができる。しかし、これは一回限りの戦術ではなく、実行するには、 あらゆる関連業務において、根本的な構造改革が必要となる。 私たちがお手伝いした企業では、すでに最適なプライシングを行うための 仕組みが規律正しく根付いている。そしてそれは、収益向上や売上成長のみ ならず、持続的な競合優位性の確立へとつながっている。 ジェームズ・P・アンドリュー J・ケビン・ブライト

原題: Precision Pricing for Profit, Growth, and Advantage

ジェームズ・P・アンドリュー

BCGシカゴ事務所 シニア・ヴァイスプレジデント J・ケビン・ブライト 

(31)

弊グループでは、企業経営に関する様々なテーマについて コンサルティングサービスを提供しております。 ご関心をお持ちの方は、下記までお問合せください。   ナレッジグループ部長 満 喜(電話:03-5211-0436)   秘     書     室 久須美

電話:03-5211-0386

       FAX:03-5211-0333   電 子 メ ー ル [email protected] ま    き く す み

(32)

アムステルダム  アテネ  アトランタ  オークランド  バンコク バルセロナ  北 京 ベルリン  ボストン  ブリュッセル  ブダペスト ブエノスアイレス  シカゴ  ケルン  コペンハーゲン  ダラス デュッセルドルフ  フランクフルト  ハンブルグ  ヘルシンキ 香 港 ヒューストン  イスタンブール  ジャカルタ  クアラルンプール リスボン  ロンドン  ロサンゼルス マドリッド   メルボルン メキシコシティ  マイアミ ミラノ  モンテレー  モスクワ  ムンバイ ミュンヘン  ニューデリー  ニューヨーク  オスロ  パリ ローマ サンフランシスコ サンティアゴ  サンパウロ  ソウル  上 海  シンガポール ストックホルム  シュツットガルト  シドニー  台 北 東 京 トロント  ウィーン  ワルシャワ  ワシントン  チューリッヒ

株式会社 ボストン コンサルティング グループ

東京都千代田区紀尾井町4-1 ニューオータニガーデンコート 〒102-0094 Tel.03-5211-0300  Fax.03-5211-0333

参照

関連したドキュメント

これに加えて、農業者の自由な経営判断に基づき、収益性の高い作物の導入や新たな販

燃料・火力事業等では、JERA の企業価値向上に向け株主としてのガバナンスをよ り一層効果的なものとするとともに、2023 年度に年間 1,000 億円以上の

関係会社の投融資の評価の際には、会社は業績が悪化

本稿で取り上げる関西社会経済研究所の自治 体評価では、 以上のような観点を踏まえて評価 を試みている。 関西社会経済研究所は、 年

経済的要因 ・景気の動向 ・国際情勢

2020年度 JKM (アジアのLNGスポット価格) NBP (欧州の天然ガス価格指標) ヘンリーハブ (米国の天然ガス価格指標)

従って,今後設計する機器等については,JSME 規格に限定するものではなく,日本産業 規格(JIS)等の国内外の民間規格に適合した工業用品の採用,或いは American

従って,今後設計する機器等については,JSME 規格に限定するものではなく,日本工業 規格(JIS)等の国内外の民間規格に適合した工業用品の採用,或いは American