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チンパンジーの眠りを感じる

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Academic year: 2021

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(1)32. 特集:「QOL+(プラス)」を考える. 座馬耕一郎 Zamma Koichiro 長野県看護大学. チンパンジーの眠りを感じる Feel as Chimpanzees Feel Their Sleep. Nagano College of Nursing. 1.野生動物の視点に立つということ 私たちヒトは、文化をもつ動物の一種である。この「文化」には、私たち の「モノの見方」を作るはたらきがある。そのため、私たちは知らず知らず のうちに物事を偏った視点で見つめてしまう。たとえば人が出会ったときに 「互いの体に腕をまわして頬をつけあう」という挨拶に戸惑う人は、その行 為が自分の持つ文化にはないことに気づき、自分とは異なる文化に対し何か しら違和感を持つだろう。ときにはそういった異文化に対して、自分が納得 しやすい適当な解釈をつけることで、異文化を理解したと思いこむこともあ る。そしてそういった解釈は、偏った見方になりがちである。 野生動物の生活を考えるときにも、私たちは偏った見方をすることがあ る。たとえば「野生動物の世界は弱肉強食である」とか「動物は厳しい自然 の中で生きている」といったイメージである。これが偏った見方であること は、「野生動物は調和のとれた世界を作っている」とか「動物は豊かな自然 の中で暮らしている」といった、先述の見方に反するようなイメージが提示 されたときに気づくだろう。 私は野生動物の研究をしている。野生動物の研究者は、研究対象である野 生動物の視点に立って、その生活や生きる姿を描きだしたいと望んでいる。 しかし描きだした姿には、どうしても、その人のもつ何かしらの偏見が入っ てしまう。たとえ数値を用いて行動を計測し客観的であろうと努めても、動 物のさまざまな行動の中でその行動を計測しようと注目した「その人の視 点」や、さまざまな計測項目(長さ、重さ、時間など)の中でその計測項目 にのみ注目した「その人の視点」が入り込んでしまう。おそらく研究者が真 に「野生動物の視点」に立つことは不可能で、「研究者が考えた『野生動物 の視点』」に立つことしかできないのだろう。そのことにもどかしさを感じ ながら、そして自分が偏った見方をしてしまっていることに注意しながら、 野生動物の視点に立とうと心がける。野生動物の研究は、かなわぬ夢を追い 続けるロマンチックな行為なのかもしれない。 本稿ではまず野生チンパンジーの眠りについて、さまざまな視点から描き 出した姿を紹介する。次に、野生チンパンジーの睡眠を研究する中で私が感 じた「チンパンジーの眠り」を再現した「人類進化ベッド」について紹介す る。そして最後に、このベッドを製作する過程で考えた、「睡眠に対する私 たちの視点」について議論し、眠りの質を高めることについて意見を述べた いと思う。.

(2) デザイン学研究特集号  Vol.26-1 No.99. 2.野生チンパンジーの睡眠 チンパンジーはヒトと同じく霊長類の仲間である。野生のチンパンジーは 熱帯林や乾燥林などの森林に生息し、アフリカの赤道付近に分布している。 アフリカの東西に広がる生息域の中で、私はタンザニアのマハレ山塊国立公 園で調査を行っている。マハレという調査地は、1965年より京都大学の西田 利貞先生が中心になって野生チンパンジーの長期調査が進められ、現在では 50年以上の歴史をもつ1)、2)。 チンパンジーのおもな食物は果実や葉、茎、昆虫などである。チンパン ジーは単位集団と呼ばれる数十頭からなる集団を作っている。しかし常に全 員で行動するのではなく、単位集団のうちの数頭から数十頭が小さな集団を 作り、メンバーが入れ替わりながら移動し、社会生活を送っている1)、2)。 チンパンジーの生息域にはさまざまな動物が生息している。マハレではチ ンパンジーのほかに、アカコロブスやアカオザルといった霊長類の仲間や、 イノシシの仲間、ヒョウなどが同所的に生息している1)(図1)。. 図1 マハレ山塊国立公園に生息する動物: (a)チンパンジー、 (b)アカコロブス、 (c)アカオザル、 (d)イ ボイノシシ、 (e)ヒョウ. 33.

(3) 34. 特集:「QOL+(プラス)」を考える. こういった環境の中で、チンパンジーはどのように眠っているのだろう か。ヒョウなどの肉食性の動物がいることに注目する人は、「天敵におびえ るチンパンジー」をイメージし、「安全を確保して眠る姿」を描くだろう。 実際にチンパンジーは木の上で眠っており、地面よりも安全な場所で眠って いる。また安全な木の上で眠る傾向はほかのサルの仲間にもみられ、アカコ ロブスやアカオザルも枝の上で眠る。 しかしチンパンジーの眠る場所を「安全」の視点だけで説明するのは難し い。というのは、アカコロブスなどのほかのサルは木の上の枝の上で眠るの だが、チンパンジーは枝の上に枝葉でベッドという構造物をわざわざ作って 眠るからだ 3-5)。 チンパンジーのベッドは、木の上の5∼20m ほどの高さに作られる(図2) 。. 枝葉は楕円形に組まれ、縁が盛り上がり、中がくぼんだお皿のような形をして. いる(図3) 。大きさは平均すると長径90cm、短径70cm ほどだが、製作する. チンパンジーの体の大きさによって異なる。製作時間は2、3分ほどである5)。 ベッドは眠るために作られる。日没頃に作られ、その上で夜を過ごし、朝 になるとベッドを出て活動をはじめる3)。ときには昼寝用にベッドを作るこ ともある。チンパンジーは広い森の中で果実などを食べ歩いて生活している ため、ベッドはほぼ毎日、別の場所に作られる。1日に1個、1年に365個、 一生に1万個ほどベッドを作るチンパンジーは、「ベッド職人」と呼ぶこと ができるだろう5)。. 図2 チンパンジーのベッド(矢印). 図3 チンパンジーのベッド(上から撮影). このベッドの上で、チンパンジーは、横向きやうつ伏せ、仰向けなど、さ まざまな寝相をとる3)(図4)。頭はベッドの縁の盛り上がった部分の上に あり、腕も使いながら、頭が胴体よりも上の位置になるようにして眠る。こ のことからベッドの縁の盛り上がった部分には枕の役目があるということが できる。そしてこのベッドは、チンパンジーのさまざまな寝相を受け止める 土台ということができる。広い土台が眠りについた身体を支えてくれるた め、チンパンジーは「安心」して眠ることができると考えられる5)。.

(4) デザイン学研究特集号  Vol.26-1 No.99. 図4 樹上のベッド上のチンパンジーの寝相:(a)横臥位、(b)仰臥位. ベッドは数十本の枝葉を積み重ねて作られる。その構造を調べると、下層 には折り曲げられた太くて長い枝が多くみられ、上層には切り取って置かれ た細くて短い枝が多くみられる3-5)。ベッドの機能を「身体を支える土台」 という視点からみれば、太くて長い枝を折り曲げて組み上げられる下層の構 造がその役目を果たすということができる。この土台があれば、チンパン ジーの体重を支えることができるからだ。それでは細くて短い枝で作られる ベッドの上層の構造には、どのような機能があるのだろうか。 チンパンジーは葉のついた生の枝を用いてベッドを作る。そのため枝先か ら切り取った小枝には、多くの葉がついている(図5)。このような葉の多 い小枝が多く積み重なったベッドの上層には、枝葉と枝葉の間に空間がつく られるため、上から体重をかけるとフカフカのマットレスのように沈み込 む。しかし沈み込むばかりではない。生の枝には弾力があるため、積み重ね られた枝のそれぞれがバネとなり、全体として体重を持ち上げようと働く。 また葉の多い小枝は、下層にある太い枝を覆い隠すため、枝が身体に当たる のを和らげる働きもあると考えられる。ベッドの一番上にある小枝は身体に 直接触れる位置にある。図5のような小さな枝がなくても寝心地は変わらな いように思えるが、チンパンジーはその小枝を置いて微調整をしているよう だ。このように、ベッドの上層の構造には「寝心地を良くする」という「安 図5 ベッドの上層に積み重ねられた小枝. 楽」につながる機能があると考えられる5)。. 35.

(5) 36. 特集:「QOL+(プラス)」を考える. ここまで、チンパンジーが眠りのために作るベッドの特徴として、 「安全: 捕食者を避けるために木の上で眠る」 、 「安心:眠る身体を支えるために土台 をつくる」 、 「安楽:寝心地をよくするために小さな枝葉を積み重ねる」の3つ の視点を指摘した。他にも、折られた枝から発生する植物の香りの成分に蚊 を除ける効果がある可能性が指摘されており6)、研究が進むにつれて、さら なる機能が見つかると考えられる。こうした研究の積み重ねは、野生チンパ ンジーのイメージも変化させていく。野生チンパンジーの眠りの姿は、 「天敵 におびえながら眠る」というイメージだけでなく、 「安心して心地よく眠る」 というイメージで語ることも可能である。さまざまな視点を見出して眠りの姿 を描くことで、野生チンパンジーの視点によりいっそう近づいていると思う。. 3.ベッドの寝心地 チンパンジーのベッドは、楕円のお皿型で、縁の部分には枕の機能があ り、身体を支える土台の上に、沈み込みながらも弾力のあるマットレスが載 るという構造を持つ。この構造には、安全や安心だけでなく、心地よさ(安 楽)という機能もあると考えたが、実際の寝心地はどうだろうか。 実際にマハレで野生のチンパンジーが作ったベッドの上で寝てみると、寝 心地がとても良い。チンパンジーの視点ではなく、「私の視点」という個人 的な主観評価になってしまう点に注意が必要だが、ベッドに横たわると、お 皿型のマットレスに体が包みこまれ、やさしい感覚をおぼえる。またベッド は木の上にあるので揺れるのだが、その揺れも、まるで揺りかごの中で揺ら れているようで心地よい。チンパンジーのベッドは、私がこれまで寝てきた 中で一番寝心地のよいベッドであると感じた。 この寝心地を再現したのが人類進化ベッドである。最初は個人的に布団や クッションを組み合わせて試作していたのだが、睡眠の文化的側面に注目す る NPO 法人睡眠文化研究会(注1)が主催するセミナーでチンパンジーのベッ ドについて紹介する機会をいただき、その発表を聞いてくださった東南西北 デザイン研究所の石川新一さんや、京都の老舗寝具メーカー株式会社イワタ の岩田有史さんとともにプロジェクトを開始して、多くの方に協力をいただ きながら作製したのだ5)、8)、9)。 プロジェクトでは、私がチンパンジーのベッドで感じた心地よい「感覚」 を伝え、石川さんを中心に皆でその「感覚」を「デザイン」し、岩田さんを 中心に皆でその「デザイン」を「形」に作り上げていった。この「感覚」を 「デザイン」や「形」にする過程は、興味深い経験だった。チンパンジーの ベッドで私が感じたことは「確かな感覚」だが、それを伝えるときには「心 地よい」といった言葉に置き換えられる。しかしこの言葉は、人それぞれの 「心地よい」経験をもとに理解されるため、あいまいで平均的な感覚になっ てしまう。そこで、もとの感覚を、揺れ具合や柔軟性、弾力性などの要素に 分割して客観的に分析し伝えることになる。しかし寝心地という感覚には他 にもさまざまな要素が関わっている可能性がある。そのため製作過程では、 ベッドの情報だけでなく、チンパンジーの身体や生活スタイルの話なども交 わされながら進められた。 (注1)睡眠文化研究とは,地域や時代によって異なる人 間の睡眠や眠りの多様性について,文化という視 点から研究する学問領域である7).そして NPO 法. 人睡眠文化研究会は,眠るという営みを,多様な. 学問分野から学際的に追及していく研究団体であ る.. こうして作られた試作品は、私を中心に皆でその「形」の上で寝ることで 「感覚」が確かめられた。そしてチンパンジーのベッドで感じた感覚との違 いをさらに「デザイン」し、「形」にするという過程を繰り返すことで、「心 地よい」としか言葉にできなかった感覚を再現することができた(図6)。.

(6) デザイン学研究特集号  Vol.26-1 No.99. 図6 京都大学総合博物館に展示された人類進化ベッド. このようにして完成したベッドは、2016年4月に京都大学総合博物館の企 画展「ねむり展 ─ 眠れるものの文化誌 ─ 」において、「人類進化ベッド」と いう名前で、公開された8)、(注2)。この「人類進化ベッド」という名前の由 来について、「チンパンジーがヒトの祖先だから」と思う人がいるかもしれ ないが、それは誤りである。チンパンジーはヒトの祖先ではない。私たちと 同時代に生きる者である。 木の上にベッドを作って眠る動物には、現在、チンパンジーのほかに、ボ ノボやゴリラ、オランウータンなど、ヒトに近縁な大型類人猿と呼ばれる霊 長類がいる。このことから過去を推測すれば、ヒトや大型類人猿の共通の祖 先がベッドを作り始めたと推測することができる。そして現在、その子孫た ちがベッド作りという行動を受け継いで、今を生きていると考えることがで きる。 このベッド作りという行動は、共通祖先から分かれてヒトに至る系統でも 受け継がれていたと考えられている。今から約440万年前に生息していたラ ミダス猿人は、直立二足歩行をしていたと考えられているが、足の拇指がほ (注2)博物館では展示物として扱われるため来場者が自 由に寝ることはできなかったが,イベント等で博 物館の許可が得られた場合には試していただく機 会があった.試された方を観察すると,寝る前は 半信半疑の様子なのだが,横たわった瞬間に顔が. かの指と向かい合うような形態をしていたことから、樹上生活に適した生態 を持ち、眠るときには木の上にベッドを作って眠っていたと推測されてい る 10)。こうした人類の進化の長い歴史の中で、眠りの場として作られてきた 木の上のベッドに思いを馳せて、人類進化ベッドと名付けたのだ5)、(注3)。. ほころび笑顔になっていた.「心地よさをうまく言 葉にできない」と表現される方もいらっしゃった. 発売に関する問い合わせもあったため,製品化に 向けた研究が続けられることになり,2017年5月 から株式会社イワタより一般に販売されることに なった. (注3)進化という言葉は,日本の日常では「より新しく, より良くなること」といった意味で使われること が多い.そのように進化という言葉をとらえてい る人は多く,「人類進化ベッド」という名前を聞い て,現代の寝具にはみられない「新しさ」を強く イメージする人もいた.名付けた当初は進化の過 去の歴史をイメージしていたが,現在は進化の意 味を多義的にとらえ,人類進化ベッドを「古くて 新しい眠りのカタチ」として再認識している.. 4.眠りを感じる 人類進化ベッドはチンパンジーのベッドの寝心地を再現したものだが、 ベッドを毎日自分で作るというチンパンジーの眠りの姿勢も取り入れられて いる。 チンパンジーのベッドの寝心地は、日によって異なることがあると思われ る。タンザニアの森で老齢のチンパンジーを調査していたときのことだが、 ある夜には数十本の枝でじっくりとベッドを作っていたのに対し、別のある 夜には数本の枝でざっくりとベッドを作っていた。このような違いが生じる 理由については、まだ研究中であり分からない。おそらくざっくりしたベッ. 37.

(7) 38. 特集:「QOL+(プラス)」を考える. ドを作った日は、寝心地が悪くても眠れるような日だったのかもしれない。 またじっくりベッドを作った日は、心地よさを存分に求めていた日だったの かもしれない。 私たちは日によって「求める寝心地」が異なることがある。ふだんは寝心 地のよい寝具でゆったりと眠っている人でも、歩き仕事などでくたくたに なった日にはベッドまで行くのもめんどうで、床やソファーで倒れこむよう に寝てしまった経験を持つ人もいるだろう。あるいは、いつもはちゃんと眠 図7 人類進化ベッドの下層の構造. れるのに、ときには寝心地に違和感を持ち寝付けなかったこともあるだろ う。私たちの日常は、毎日がまったく同じというわけではない。同じような 毎日に見えても、仕事の内容が異なっていたり、歩く場所が異なっていた り、食べ物が異なっていたりと、何かしらの違いがある。そういった日中の 過ごし方は、その日に私たちが求める眠りにも影響しているかもしれない。 こういった日によって異なる「求める寝心地」を作り出せるように、人類 進化ベッドは寝心地を微調整できるよう工夫されている。たとえば土台部分 に張られた格子状の麻ベルトは、弛みを調節することで、張りのあるベッド から沈み込むベッドまで調整して作りだすことができる(図7)。またマッ. 図8 人類進化ベッドのマットレス. トレスは外から抑えることで中のフェザーを移動させることができるため、 枕の高さや位置を調整することができる(図8)。このように、自分が欲し いと感じた眠り心地を自分で作ることができるのも、人類進化ベッドの特徴 である。 このような「自分にとって良い寝心地のベッドを自分で作る」という視点 から振り返ると、私たちの睡眠に対する視点には、「寝具は与えられるもの」 という文化が隠されていることに気づかされる。寝心地とは、「眠る身体」 と「寝具」の関わりによって作られる。よって寝心地に違和感があるときに は、身体や寝具、あるいはその関わりに問題があるということになる。そう 考えると寝心地を良くするための解決法には、「眠る身体」に働きかけたり 「寝具」を工夫するなど、いくつかのアプローチが可能性として考えられる。 その中で「寝具は与えられるもの」という文化を持つ者は、寝心地を良くし ようとする際に、専門店などで専門家が考えたより良い寝具を得ることで解 決しようとする。また一方で、与えられた寝具になお違和感を持つ者は、寝 具に向けていた視点を身体の方に向け、身体の調子を整えることでより良い 睡眠を得ようとする。 質の良い睡眠を求めることは、私たちの QOL の向上にもつながると考え. られる。そして QOL を向上させようとするとき、その解決法を方向付ける のが、私たちが持っている文化だといえる。ここで、質の良い睡眠の「その. 先」、つまり眠りの QOL+(注4)を考えるならば、自分の文化によって方向づ. けられた解決法だけでなく、自分の持つ文化を理解し、そして自分とは異な る文化も理解することで、より多様な解決法を模索することではないかと考 える。たとえば寝心地を良くする方法として、チンパンジーのように「ベッ. ドを自分で作る」という文化を持つ者は、「眠る身体」に合わせた「寝具」 にしようと自分自身で寝具に手を加えるだろう。 (注4)QOL+とは,『“デザイン”の時代 ─ QOL +』(日 本デザイン学会第65回春季研究発表大会オーガナ. イズドセッション,2018年6月24日)でオーガナ イザーの赤井愛,朽木順綱によって提起された考 え方であり,1960年代より用いられてきた Quality. of Life(QOL)の「その先」を捉える概念である.. このような捉え方で QOL+を考えるならば、それはもしかしたら「その. 先」にあるものではなく、他者の QOL について考えるときにこれまで行っ. てきた考え方の延長なのかもしれない。たとえば眠りに困っている他者に対 してより良い睡眠を提供しようとするときには、まず、その他者が求めてい る寝心地を感じ取ることが重要になってくる。もちろん、他者の求める寝心.

(8) デザイン学研究特集号  Vol.26-1 No.99. 地を感じるということは、「自分が感じる『他者の求める寝心地』」であり、 真に他者の感覚を持つことはできないだろう。だが、「チンパンジーのベッ ドの寝心地の感覚」という、多くの人が経験したことのない寝心地を皆で作 り上げることができたように、他者が求める寝心地も、それを「確かな感 覚」とみなし、その感覚をデザインし、形にしようと対話を重ねることで、 実現させることができる。そしてその実践は、その他者が持っていた文化を 尊重したものとなっていることだろう。 チンパンジーの楕円形のお皿型で揺れるベッドは「変」かもしれない。し かしそれは、自分が「寝具は四角くて平らで動かないのが普通」という文化 で暮らしているということに由来するひとつの見方である。また「寝心地を 自分で作るなんてめんどうだ」と思う人がいたら、それも、そのような文化 の中で暮らしていることから来る感想だろう。そういった文化の中で、自分 にとっての(あるいは他者にとっての)QOL を高めるには、まず自分が(あ. るいは他者が)、どのような困難を感じているか、その感覚を感じることが. 必要である。そしてその困難に対する解決法を見出すには、自分が(あるい は他者が)どのような文化の中で暮らしているのか見つめ、そこから異文化 にも目を向けていく必要がある。 京都大学総合博物館での展示期間中には石川新一さんの発案で、チンパン ジーのベッドを作るワークショップ「チンパンジーのベッドを作ってみよ う」を開いた。このワークショップでは、チンパンジーの眠りの姿を垣間見 れるように、参加者が笹などの材料を用いて自分の寝心地を自分で作るとい う課題を行った。このような活動は、「寝心地を自分で作る」という「自分 とは異なる睡眠文化」に触れる機会になるだろう。そしてこのような異文 化に接し、より多様な睡眠のとらえかたを持つ人が増えることで、睡眠の QOL を高める考え方の幅がさらに広がると考えている。 参考文献 1)Nakamura M., Hosaka K., Itoh N., Zamma K. Eds. Mahale Chimpanzees: 50 Years of Research .. Cambridge University Press, 2015.. 2)西田利貞:チンパンジーおもしろ観察記 ,紀伊國屋書店,1994. 3)Goodall, J., Nest building behavior in the free ranging chimpanzee. Annals of the New York Academy. of Sciences, 102, 455-467, 1962.. 4)Izawa, K., Itani, J., Chimpanzees in Kasakati Basin, Tanganyika. 1. Ecological study in the rainy season 1963-1964, Kyoto University African Studies, 1, 73-156, 1966.. 5)座馬耕一郎:チンパンジーは365日ベッドを作る ─眠りの人類進化論 ,ポプラ社,2016. 6)Stewart F. A., Brief communication: why sleep in a nest? Empirical testing of the function of simple. shelters made by wild chimpanzees. American Journal of Physical Anthropology, 146(2), 313-318, 2011.. 7)高田公理,堀忠雄,重田眞義,睡眠文化を学ぶ人のために ,世界思想社,2008. 8)NPO 法人睡眠文化研究会編:図録ねむり展 ─眠れるものの文化誌 ─, 松香堂書店,2016.. 9)石川新一,岩田有史,座馬耕一郎,水町衣里,アイデアをかたちに ─ 人類進化ベッドはこう してできた:対話で創るこれからの『大学』(大阪大学 CO デザインセンター監修),大阪大. 学出版会,145-164,2017.. 10)諏訪元,ラミダスが解き明かす初期人類の進化的変遷,季刊考古学,118,24-29,2012.. 39.

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参照

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