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女性アスリートのヘルスケア

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 838 42 巻第 8 号 838 ∼ 839 頁(2015 年) 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 分科学会・部門教育講演. 女性アスリートのヘルスケア* 能瀬さやか** 土肥美智子** 川 原   貴**. はじめに.  これらの月経随伴症状への対策として,基礎体温や体重の変 化,気になる症状を最低 2 ∼ 3 ヵ月記録してもらい,まずはア.  近年,女性アスリートの活躍および女性競技参加の拡大,. スリート自身に月経周期と症状の関連性があるのか,また,コ. 2020 年東京五輪招致決定も影響し,これまで取り上げられる. ンディションがよい時期はどの時期なのかを把握するよう指導. ことが少なかったスポーツと女性特有の問題への関心が高まっ. している。たとえば,PMS の症状は,排卵後に分泌されるプ. ている。アスリートが抱える女性特有の問題を,婦人科の立場. ロゲステロンによってもたらされるため,基礎体温を測定し,. から①コンディションと②障害予防に分けて考えてみる。. 無排卵を示す一相性の基礎体温の場合,PMS とは考えにくく. コンディション. 他の原因を考えるべきである。また,月経痛や PMS により月 経前後がコンディションが悪いことを自覚するアスリートは多. 1.女性アスリートの現状. く,記録を付けることではじめて月経周期と症状の関連性を自.  女性の月経周期は,月経期,卵胞期,排卵期,黄体期に分類. 覚するアスリートもいる。. され,排卵前にピークを示すエストラジオールと排卵後に分泌.  月経周期によるコンディションの変化が,パフォーマンスに. されるプロゲステロンにより心身に様々な変化がみられる。当. 影響を与える場合は,コンディションがよい時期に大会が迎え. センターで 630 名のトップアスリートを対象に調査を行ったと. られるよう,月経周期の調節(月経をずらす)を考慮する。こ. ころ,全体の 91.0%(573 名)が月経周期とコンディションの変. の際,使用するホルモン剤は,中用量または低用量ピルを使用. 化を自覚しており,もっともコンディションがよい時期は卵胞. することが多いが,はじめてホルモン剤を使用する場合は,吐. 期にあたる月経直後から数日後と回答したアスリートが 76.5%. 気,頭痛,不正出血等の副作用がでる可能性もあるため,重要. (482 名)ともっとも多かった(図 1)1)。しかし,月経中や黄体. な試合の直前での開始は避け,副作用出現時にも対応できるよ. 期にコンディションがよいと自覚しているアスリートもみられ,. うに少なくとも 2 ∼ 3 ヵ月前からの対策を勧めている。特にア. アスリート毎にコンディションがよい時期は異なっていた。. スリート,指導者のなかでは,ホルモン剤は「太る薬」という.  コンディションやパフォーマンスに直接影響を与える疾. 認識が強い。一時的ではあるが 1 ∼ 2 kg 程度の体重増加を示. 患として,月経困難症(いわゆる月経痛)と月経前症候群. すこともあるため,事前に体重増加の可能性について説明し,. (premenstrual syndrome:以下,PMS)が挙げられる。当セ. 服用開始は体重について慎重に経過をみている。また,競技上,. ンターでの調査では,630 名中 25.6%(161 名)のアスリート. 体重増加の副作用やホルモン剤服用中の減量しにくさを心配す. が月経困難症に対しなんらかの薬物を使用している結果となっ. るアスリートでは,ピル以外の薬剤による月経周期の調節を行. た 1)。また,月経前約 7 日頃から,浮腫,乳房の張り,便秘,. いはじめている。. 体重増加,イライラ等様々な身体的・精神的症状が出現し,月.  下記の症状がパフォーマンスに影響を与える場合は,婦人科. 経開始後に症状が改善するものを PMS という。PMS について. 医からの情報提供が必要であるため受診を勧めていただきたい。. の調査では,630 名中 70.3%(443 名)のアスリートが,体重 増加や精神不安定等なんらかの症状を訴えていた 1)。. 【婦人科受診を考慮すべきアスリート】  ①月経前に浮腫,腰痛,下腹部痛,気分の落ちこみ等の症状.  これらの結果から,月経周期によるコンディションの変化に 対する事前の対策が必要であることは明らかである。実際に対 策を行う際は,アスリート毎にコンディションのよい時期が異 なることや,減量の有無等の競技特性を理解し対応することが 重要である。 2.月経周期の調節 *. Health Care in Female Athletes 国立スポーツ科学センターメディカルセンター (〒 115‒0056 東京都北区西が丘 3‒15‒1) Sayaka Nose, MD, Michiko Dohi, MD, Takashi Kawahara, MD: Japan Institute of Sports Sciences, Medical Center キーワード:コンディション,月経周期の調節,障害予防. **. 能瀬ら,日本臨床スポーツ医学会,2014. 図1 月経周期とコンディション.

(2) 女性アスリートのヘルスケア がみられ競技に影響がでる. 839. 重増加を図ることである。本邦における治療指針はないが,ア.  ②月経周期とコンディションの変化に関連がある. メリカスポーツ医学会では,①最近減少した体重を回復させる,.  ③月経痛に対し鎮痛剤が効かない・鎮痛剤の使用量が増えて. ② BMI 18.5 kg/m 以上をめざす(思春期では標準体重の 90%以. いる. 2. 上をめざす),③最低 2,000 kcal/ 日以上を摂取する,④ 200 ∼.  ④月経時以外でも下腹部や腰痛等の痛みがでる. 600 kcal/ 日摂取エネルギー量を増やす,等を推奨している 2)。.  ⑤年齢とともに月経痛が強くなっている. アスリートにおけるエネルギー不足は,パフォーマンス低下に つながることを理解させ,治療を行うことが重要である。. 障害予防. 【婦人科受診を考慮すべきアスリート】. 1.疲労骨折.  ① 3 ヵ月以上月経が来ていない.  女性アスリートが抱える問題として,アメリカスポーツ医学.  ② 15 歳になっても初経が来ていない. 会では,視床下部性無月経,疲労骨折,摂食障害の有無によら. 2.関節の弛緩性. ない Low energy availability(以下,エネルギー不足)を女性ア.  過去にも月経周期との非接触型前十字靭帯損傷の関連につい. 2). スリートの三主徵と定義している 。エネルギー不足について. て報告は散見されるが,その詳細については明らかになってい. は,以前は摂食障害と定義されていたが,2007 年にエネルギー. ない。普段アスリートの診療を行うなかで,月経前に関節が緩. 不足と定義が変更された。この三主徵の起点はエネルギー不足. むことを主訴に婦人科を受診するアスリートがいる。この原因. であり, (摂取エネルギー)−(運動消費エネルギー)が 1 日除. について,月経前に分泌されるリラキシンとの関連が報告され. 脂肪量 1 kg あたり 30 kcal 未満と定義され,このエネルギー不. ており,現在当センターでも月経周期とこのホルモンの変動に. 足が続くと下垂体からの LH(黄体形成ホルモン)の分泌が低下. ついて調査を行っている。今回の講演では中間報告となるが,. し無月経となる。しかし,普段の診療でこのエネルギー不足を. 現在当センターで行っている調査結果について紹介した。. 正確に評価することは困難でありアメリカスポーツ医学会では, BMI や思春期では標準体重を指標としている。無月経に伴い卵. おわりに. 巣から分泌されるエストロゲンが長期間低下すると 10 代の若.  部活動を楽しむ学生から競技スポーツに参加するアスリート. い女性であっても骨量低下や骨粗鬆症につながる可能性があ. まで,多くの女性が月経と上手につき合い,目標とする試合で. る。10 代後半は,最大骨量を獲得する時期であり,長期の低. 最高のパフォーマンスを発揮できるよう,また,過度なスポー. エストロゲン状態が続くことは,最大骨量の獲得が制限され,. ツによる障害のリスクをひとつでも減らせるように,女性アス. 生涯に渡り骨密度が低いまま経過する可能性があり,特に 10. リートのヘルスケアについて述べた。特に 10 代の女性がひと. 代の低エストロゲン状態はけっして放置してはならない。. りで婦人科を受診する機会は少なく,周囲のスタッフや保護.  当センターで 683 名,47 種目のアスリートを対象に行った. 者,学校医等の早い気づきが早期発見,早期治療につながる。. 調査では,全体の約 4 割で月経周期異常がみられ,競技特性. アスリートのヘルスケアを考える際,理学療法士や栄養士等,. 別にみた無月経の割合は審美系競技 34%,続いて持久系競技. アスリートにかかわるスタッフが連携を取り,多角的な視点で. 14%だった. 3). 。また,疲労骨折の割合は,審美系競技で 27%,. 対応することが重要である。. 持久系競技で 18%だった 3)(表 1)。. 文  献.  国際オリンピック委員会では,スポーツにおける相対的なエ ネルギー不足は,月経や骨の問題だけでなく,精神面や発育, 代謝等全身に影響を与えパフォーマンス低下をもたらす,と警 鐘を鳴らしている。すべてのケースではないが,アスリートに おいて月経不順や無月経はエネルギー不足のサインであると考 え,このエネルギー不足を改善することが治療の大原則となる。 エネルギー不足の改善は,摂取エネルギー量(食事量)を増や す,または消費エネルギー量(運動量)を減らすことにより体. 1) 能瀬さやか,土肥美智子,他:女性トップアスリートの低用量ピ ル使用率とこれからの課題.日本臨床スポーツ医学会誌.2014; 22: 122‒127. 2) De Souza MJ, Williams NI, et al.: 2014 Female Athlete Triad Coalition consensus statement on treatment and return to play of the female athlete triad: 1st International Conference held in San Francisco, CA, May 2012, and 2nd International Conference held in Indianapolis, IN, May 2013. Br J Sports Med. 2014; 48: 289. 3) 能瀬さやか,土肥美智子,他:女性トップアスリートにおける無月 経と疲労骨折の検討.日本臨床スポーツ医学会誌.2014; 22: 67‒74.. 表1 競技特性別にみた無月経と疲労骨折の割合 技術系. 国立スポーツ科学センター 683 名の調査(2011.4 ∼ 2012.5) 審美系 重量 ‒ 階級系. 101. 持久系 陸上長距離、 トライアスロン、 競泳(400 m 以上)等 98. 56. 25. 年齢(歳) 専門的競技 開始年齢(歳) 初経年齢(歳). 21.3 ± 5.1. 22.2 ± 5. 19.7 ± 3.1. 23.3 ± 4.1. 21.9 ± 4.3. 20.5 ± 4.4. 14.2 ± 5.0. 12.9 ± 5.0. 10.0 ± 3.1. 14.5 ± 4.1. 13.3 ± 9.9. 12.9 ± 4.4. 12.4 ± 1.2. 12.9 ± 1.4. 14.5 ± 2. 12.4 ± 1.5. 12.9 ± 1.4. 12.7 ± 1.3. BMI(kg/m2). 21.7 ± 1.9. 20.8 ± 2.3. 19.3 ± 1.5. 27.3 ± 6.1. 22 ± 1.8. 20.9 ± 2.6. 無月経(名). 5(5%). 14(14%). 19(34%). 1(4%). 11(4%). 2(2%). 疲労骨折(名). 1(1%). 18(18%). 15(27%). 2(8%). 32(11%). 10(9%). 競技名 人数(名). ライフル、 アーチェリー等. 能瀬ら,日本臨床スポーツ医学会,2014. 新体操、体操、 フィギュアケート等. ウエイトリフティング、 レスリング、柔道等. ボール系 パワー系 バスケットボール、 ショートトラック、 バレーボール、 スケルトン、ボブスレー、 サッカー等 競泳(400 m 以下)等 291 112.

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