ため池群の成り立ちおよびため池環境を守る今後の保全管理についての考察-いなみ野台地
を事例として-
History of Artificial Pond Groups and Future Management of Environment Conservation
around Ponds– Case Study of in Inamino Plateau –
和田 有朗
*・山内 九仁男
**Nariaki WADA and Kunio YAMAUCHI
要旨:いなみ野台地のため池群が保全管理の危機に直面している。本研究では,ため池について 文献調査,ヒアリング調査,および明石市で管理者アンケート調査を行い,いなみ野ため池ミュー ジアムでのアンケート調査結果を踏まえて,その実態と経緯,問題点を明らかにし,保全管理のた めの解決策を提案することを目的とした。その結果,1960 年代からの 50 年間に現在のため池の保 全管理の危機を招いたことが明らかとなり,ため池を存続させるためには,ため池の保全管理への 地域住民の参加をさらに高めることが重要であり,広報誌の有効利用および地域住民への意見聞き 取り調査の実施が重要であることを示した。 キーワード: ため池,いなみ野台地,保全,管理者,危機,変遷Abstract : The Inamino plateau artificial pond group is confronting a conservation management crisis. This study was undertaken to propose a solution for conservation management of artificial ponds (tameike) by elucidating the actual conditions, details, and problems of artificial ponds through bibliographic and hearing surveys related to artificial ponds, a questionnaire survey of Akashi City supervisors, and results of a questionnaire survey conducted at the Museum of Inamino Tameike . Results reveal that the present crisis of conservation management of artificial ponds has been realized during the 50 years since the 1960s. For conservation of artificial ponds, it is necessary to encourage further participation of community residents in conservation management activities of artificial ponds. These results underscore the importance of using public relations magazines effectively and to conduct hearings to elicit opinions from community residents.
Key Words:Artificial pond, Inamino plateau, Conservation, Supervisor, Crisis, Transition はじめに 兵庫県には全国一の約3 万8 千を超えるため池があり, その数は全国の2 割を占めている。中でも加古川市の加 古川以東と稲美町,播磨町,神戸市西区の一部および明 石市の明石川以西にまたがるいなみ野台地には貯水面積 の大きいため池が多い。東播磨の歴史を考える実行委員 会(2002)によると,遠い昔,海に沈んでいた土地が隆 起したあとに,六甲山地から分離された台地だというこ とがわかる(図11))。また,いなみ野台地は洪積層の構 成する洪積台地である(竹内,1980)。そのため,台地 を形成するこの土地にあっては地表を川となって流れる ことや,池が自然にできて水がたまる可能性はとても低 い地質となっている。そのため,主としてかんがい用水 に充てる目的をもって,人工的なため池が築造された。 2013 年 5 月の農林水産省農村振興局防災課ため池管理 マニュアル2)によると,ため池の主な機能として,以下 の5 項目が挙げられている。1 つ目は農業用水の貯留(農 業用水を貯め,必要に応じ補給する),2 つ目は洪水調整 (降雨時に一時的に洪水を貯留する),3 つ目は土砂流出 防止(上流から流入する土砂を溜める),4 つ目は生態系 の保全(水生植物,昆虫類等の生息場所の保全),5 つ目 は保健休養(地域の人々の憩いの場の提供)である。先 人たちが農業用水の確保に苦労を重ねてきたことが,現 存するいなみ野台地のため池群と水路網からみてとれる。 この歴史的,文化的遺産といえるいなみ野台地を潤すた め池群が,環境の維持,保護,保全の問題に直面してい る。これまで,農業用水を利用する関係者が水利組合等 をつくり,その管理者が中心となってため池環境を保全 管理・維持してきた。しかし,時代の変遷とともに産業 構造が変化して農家が減少し,高齢化や後継者不足もあ り近年では特に播磨灘に近い地域において,農家がほと んど残っていないところもでてきている。今後,ため池 は従来の保全管理の継続が困難な状況となり,このまま 推移すると,次世代に受け継いでいくことが危うくなっ てくる。 いなみ野台地のため池群には,河川から水を引く人工 用水が多い。これらの用水は多くのため池と複雑につな がっており,ため池密度が高い台地の地形は,この用水 * 滋賀県立大学 環境科学部 環境政策・計画学科 ** 元神戸山手大学 現代社会学部
開発と連動して形づくられてきた。また,複数のため池 が水路でつながり,ため池群は,台地の上流部から下流 部にかけて,特有の網の目のような水利ネットワークを 形成している。 ため池の保全管理について,深町ら(2006)によると, ため池に関する必要となる知織を次の世代に継承してい く仕組みそのものが失われていることが懸念されるとし ている。それゆえ,現在少数の高齢者層の有する知織が 次世代の管理者に受け継がれないまま消散し,将来的に 地域資源の管理不全が危倶されると指摘している。また, 管理組織の役職および年齢別のため池の保全管理に関す る知識保有の実態では,役職間・年齢間でその保有傾向 に偏在性があることを示している。さらに,管理者内で 知織の共有を積極的に進めていくことが急務であるとし ている。 星野ら(2014)によると,ため池の保全管理において は利水や農業生産といった農業関連知識が必須であるこ とが挙げられる。また,地域への関心や親水経験など地 域資源に関する理解・関心がため池の保全管理における 知識を理解するための素地(関連知識)として重要な役 割を果たしてきたためと考えられると示している。さら に,知識習得の素地となるため池経験や世代間でのコミ ュニケーションの少なさなど,知識継承の仕組みが機能 していないことが原因であるとしている。 さらに,都市化の進展が著しいこの地域では,「ため 池」への生活雑排水の流入や不法投棄ごみの増加,それ に伴う水質汚濁や悪臭の発生,これらを巡る「ため池」 等の管理者(農業者)と都市的住民(非農業者)との間 の考え方の違いの軋轢等,「ため池」の保全管理をより困 難にしている問題も山積している。この状況を打開して いかなければ,コミュニティの崩壊といった最悪の事態 を引き起こす可能性も否定できない3)。 本論文では,先人たちが苦労を重ねて保全管理してき たため池群を,上記のため池の保全・保存等に関わる問 題を解決しつつ,保全管理が行き届いている状態で将来 世代に残すための方策を検討,考察することを目的とす る。 1.研究の方法 図書館(兵庫県立図書館,明石市立図書館等)にある 文献・図書とインターネットでの文献検索等により,た め池の歴史およびこれまでの保全管理について調査した。 次に,加古大池管理棟ため池資料館(いなみ野ため池 ミュージアム展示)や淡山疏水・東播用水博物館に見学 に行き,現地で説明を受け,パンフレット等を参考資料 とするために収集した。 さらに,兵庫県庁,東播磨県民局,神戸市,明石市, 加古川市,播磨町,稲美町の行政の窓口に出向き,保全 管理面を中心に各担当者にヒアリングを実施した。 そして,中笠池クリーンキャンペーンに2015 年 6 月 28 日参加し,アンケート調査(1 名)を実施した。さら に,2015 年 7 月 4 日~7 日において,明石市のため池管 理者にアンケート調査(8 名)を実施した。 2.結果と考察 2.1 いなみ野台地に存在するため池数 兵庫県全体のため池数は,1978 年 5 月構造改善局防 災課調べによると54,187 箇所となっていたが,2014 年 8 月の兵庫県広報によれば,2014 年 4 月時点で 38,583 箇所になり,36 年間に 15,604 箇所も減少している。い なみ野台地においても鈍化しているものの,減少傾向は 現在でも続いている。 いなみ野台地に現存するため池数を行政の関係窓口に 確認したところ,明石市104 箇所,稲美町 88 箇所,播 磨町12 箇所であった。神戸市西区は,資料が存在しな いため,1977~1978 年版新ため池台帳を閲覧し,ため 池名称と住所を調べ,その資料と神戸市西区役所まちづ くり課(2014)発行の『みどりと太陽のまち西区あんな い』とを照合して確認作業を行った結果159 箇所であっ た。また加古川市は,2015 年パンフレット(いなみ野た め池ミュージアム運営協議会,2015)と,インターネッ ト検索にて照合した結果88 箇所だった。よって,本論 文作成にあたって,いなみ野台地上で確認できた現存す るため池数は,これらの行政区合計の451箇所となった。 2.2 ため池群の成り立ち 1) 生産の増大と地価の上昇 大正時代になって淡河川・山田川疏水が完成し,数多 くのため池が新たに築造され,いなみ野台地はようやく 図1 地形区分図1)
全国屈指のため池密度を有する台地となった。 この時の地価上昇について,いなみ野ため池ミュージ アム運営協議会(2010)に「水田面積の飛躍的な増加と 従来の水田改良によって,生産の増大と地価の上昇をも たらしました」と記載されている。この資料から,開墾 で水田が増え生産も大幅に増加したが,地価も開墾前と 比べて平均40 倍近くまで上がったことがわかる(表 1)。 2) 戦後の工業化とため池群の変遷 (1)明石市,加古川市における高度成長期にみられたた め池転用 高度経済成長期に日本の人口が急伸し,産業構造が大 きく変化して工業化が進んだ。いなみ野台地にある関係 市町も例外ではなく,1960 年頃から農家人口が減少しは じめ,農地に用水を供給する水需要が下がり,不要ため 池の転用が進みだした。兵庫県(1984)に記載されてい る明石市と加古川市のため池転用に関する資料を表2 に 示す。表2 から 1963 年から 1970 年にかけて,ため池 は住宅用地や工場用地および公共用地への転用がほとん どを占めていることがわかる。これは,明石市・加古川 市の両市では不要ため池が増えており,同時に,工業化 と人口増加による用地の需要が伸びていた背景がある。 この当時に転用されたため池は,播磨灘近くの工業地帯 の工場や,駅近辺の住宅およびこれらの近くに新設され た学校等の用地に多く利用された。 (2)いなみ野台地における高度成長期末期以降のため 池転用 ため池から水を引く農家減少傾向は止まることなく, また,新たにできた疏水の影響から古いため池の統合が 進み,それまであった小規模ため池が不要となり潰廃が 続出した。一方,学校や公共施設,住宅等の用地は不足 し,1971 年以降も他の用途に転用となるため池が続いた。 兵庫県(1984)に記載されている 1971~1983 年までの いなみ野台地のため池転用に関する資料を表3 に示す。 表3 から,明石市と加古川市で,公共用地への転用が多 かったことがわかる。これは,両市への急激な人口流入 による学童の増加で,加速的に必要となった教育施設な どの公共施設の新増設に,ため池跡地が利用されたもの である。 2.3 ため池の保全管理の危機 1) いなみ野台地におけるため池の保全管理の推移と ため池数変化 ため池が危なくなってきた重要な要素としては1968 年の新都市計画法により,都市計画区域を市街化区域と 市街化調整区域に区分する制度が設けられたことが挙げ られる。この制度により,市街化区域とされた農地の資 産価値が上がり,税金も高くはねあがった。そこで,資 産価値が上がった田畑を売って手放し,農地をお金に換 える農家が続出した。このように前述の産業構造の変化 と税金の制度変更により,1960年代から1970年代には, ため池の保全管理の危機につながる動きが出てきており, 1960 年代からの約 50 年間に,徐々に現在の危機状態に 向かって進んできた。表4 に,兵庫県(1984)に記載さ れている1982 年時点の市町別のため池数を示す。これ と,2015 年 4 月 1 日現在との比較が可能な市町別でみ 表1 淡河川・山田川疏水工事完了後の地価上昇 開墾反別 (町) 開墾前 開墾後 畑・山林 実価格(円) 反当価格 (円) 水田実価格 (円) 反当価格 (円) 印南新村 238.6 7,158 3.00 357,900 150 蛸草新村 64.0 5,120 8.00 108,800 170 野谷新村 58.0 2,030 3.50 98,600 170 野寺村 82.1 4,720 5.75 131,360 160 草谷村 83.0 2,282 2.75 124,500 150 下草谷村 44.1 1,212 2.75 66,150 150 計 569.8 22,522 平均3.95 887,310 平均155.7 ※町≒1ha 表2 ため池の転用目的別件数とその面積 (1963~1970 年) 転用目的 住宅用地 工場用地 公共用地 その他 計 加古川市 9 件 5 件 3 件 5 件 22 件
31.8ha 29.1ha 2.8ha 13.7ha 77.4ha
明石市 13 件 1 件 9 件 1 件 24 件
22.6ha 0.6ha 18.7ha 2.0ha 43.9ha
計 22 件 6 件 12 件 6 件 46 件
54.4ha 29.7ha 21.5ha 15.7ha 121.3ha
表3 ため池の転用目的別件数とその面積 (1971~1983 年)
転用目的 (田畑)
圃場整備 住宅用地 工場用地 公共用地 その他 計
神戸市 16 件 3 件 1 件 - 2 件 22 件
19.8ha 4.7ha 4.7ha - 5.5ha 34.7ha
三木市 - - 6 件 - - 6 件
- - 7.9ha - - 7.9ha
明石市 1 件 6 件 - 22 件 3 件 32 件
3.6ha 17.6ha - 62.2ha 0.9ha 84.3ha
加古川市 - 1 件 - 13 件 1 件 15 件
- 5.8ha - 35.9ha 0.3ha 42.0ha
稲美町 12 件 3 件 - 3 件 2 件 20 件
13.3ha 2.0ha - 4.8ha 2.5ha 22.6ha
播磨町 - - - - - -
- - - - - -
計 29 件 13 件 7 件 38 件 8 件 95 件
36.7ha 30.1ha 12.6ha 102.9ha 9.3ha 191.6ha
てみると,33 年間で,表 4 および表 5 に示すため池数の 推移となっている。ため池表示の項目は,元資料からそ のまま転載しているため同じではない。表4 にある灌が い面積0.5ha 以上の小計が特定ため池に相当し,0.5ha 未満が特定外ため池に相当する。 このため池数の推移からは,いずれの市町ともため池 数は減っているのがわかる。中でもいなみ野台地上では, 明石市における減少が際立っており,その大部分は, 0.5ha 未満の小規模ため池が消滅しているのが如実に表 れている。ここに,工業化・都市化の影響が色濃く反映 されているのが示唆される。加古川市の場合は,市全体 で減っている。稲美町では,136 箇所から 88 箇所とな り48 箇所減となっているが,明石市と異なり比較的規 模の大きいため池が減っている。残る播磨町では,ほと んど変化していない。このように各市町におけるため池 数の推移をみると,減少傾向が続いていても,減り方は, それぞれの行政区で差異があることがわかる。 2) ため池の保全管理,危機の現実 2015 年 3 月 8 日に開催されたいなみ野ため池ミュー ジアム推進フォーラムの第2 部【「今後のため池保全の あり方」を考えるフォーラム】において,「今後,10 年 以内に半数のため池で保全管理ができなくなるという実 態」1)との記述がある。 2015 年 2 月 3 日に行われたワークショップ(アンケ ート参加者47 名)と,2015 年 3 月 8 日のフォーラム(ア ンケート参加者83 名)で参加者にアンケート調査が実 施された。その結果をまとめている資料を兵庫県東播磨 県民局(いなみ野ため池ミュージアム運営協議会事務局) から,2015 年 6 月 10 日のヒアリング時に入手した(い なみ野ため池ミュージアム運営協議会(兵庫県東播磨県 民局),2015)。その内容の一部を下記に示す。 (1)2015 年 2 月 3 日ワークショップ問 3 結果より 「今後,皆さんの「ため池」は,どの程度先に保全管 理が困難になると考えられますか?」の問いに対し,6 割以上の人が,10 年以内に困難を予想している,もしく はすでに困難と回答している。また,市街化区域の人で は8 割を超えている。このことから今後,10 年以内に多 くのため池で保全管理が危うくなるという意見の管理者 が多数を占めている実態がうかがえる。 (2)2015 年 3 月 8 日フォーラム問 3 結果より 「公的機関など外部からの支援について,特に必要だ と思う支援は何ですか?(複数回答可)」の問いに対し, ほぼ全員が人的支援と回答し,次いで5 割の人が経費の 支援を求めている結果であった。この結果から,ため池 が危機に陥っている理由は,このまま推移すると今後た め池の保全管理ができなくなるという現時点における保 全管理面の不安な現実がうかがえる。 2.4 明石市のため池数動向と管理者アンケート 調査の実施 ため池の保全管理が今以上に危機に陥るのを防ぐため に,いなみ野台地で現在保全管理活動をしている管理者 らの意識調査を実施した。しかし,いなみ野台地全体の 2 市 2 町(明石市,加古川市,稲美町,播磨町)を対象 とするのは範囲が広すぎるため,いなみ野台地のある東 播磨地域で,かつ,人口の多い地域である明石市で調査 を行った。 1) 明石市のため池数動向 明石市役所農水産課の担当者にヒアリングを行った結 果,兵庫県東播磨県民局(2011)には,110 箇所と記載 されているが,2015 年の時点で,すでになくなったため 池や,廃止届が出ていて池そのものが実在していても, すでに,ため池ではなくなったものも含まれていると説 明を受けた。2015 年のため池数は 104 箇所である。 2) 明石市のため池管理者へのアンケート調査 アンケート調査を実施するため池の選定において,た め池協議会を組織しているかにこだわらず,市街化区域 を主に管理している管理者を優先した。そのため,海か ら約1.5km~2.5km あたりの陸地を,海岸線に沿って通 っている国道2 号線付近より南にある農地に,農業用水 を引いているため池を中心に12 箇所の候補ため池を選 定した。 表4 1982 年 10 月 1 日現在のため池数 5ha 以上 1ha ~5ha 未満 0.5ha ~1ha 未満 0.5ha 以上 小計 0.5ha 未満 計 神戸市 613 559 416 1,588 9,784 11,372 明石市 70 12 8 90 353 443 加古川市 180 128 31 339 33 372 稲美町 113 20 3 136 0 136 播磨町 12 0 0 12 1 13 小計 988 719 458 2,165 10,171 12,336 兵庫県計 5,483 3,958 3,414 12,855 41,219 66,929 表5 2015 年 4 月 1 日現在の農業用ため池数4) 特定ため池 特定外ため池 計 神戸市 1,546 761 2,307 明石市 99 5 104 加古川市 255 71 326 稲美町 88 0 88 播磨町 12 0 12 小計 2,000 837 2,837 兵庫県計 9,305 28,929 38,234
2015 年6 月28 日の中笠池ため池クリーンキャンペー ンに参加し,中笠池の管理者1 名の回答を得た。また, 2015 年 7 月 1 日に明石市役所農水産課の担当者にアン ケート調査を依頼し,2015 年 7 月 4 日~7 日と,先の 6 月28 日の分を合わせ合計 9 名のアンケート調査を実施 した。9 名の管理者(回答者)が,実質保全管理をして いるため池数を合計すると40 箇所であった。この他に 神戸市西区にある寛政池を,明石市の3 組合が共に保全 管理しており,このため池を含むと,現存するため池の 約4 割が調査対象になった。質問内容については,事前 に農水産課に伺って説明し,了承を得た上で決めた項目 である。 表6 にため池の管理年数と保全管理に対する地域住民 の参加についてのクロス集計表を示す。管理年数の長さ に関わらず9 人中8 人が地域住民の参加が必要と回答し ている。このことから,ため池の保全管理には地域住民 の参加が必要とされていることがわかる。 表7 にため池の保全管理に対する地域住民の参加と地 域住民との連携についてのクロス集計表を示す。ため池 の保全管理活動における地域住民との連携については取 れていると思う人が4 人,思わない人が 5 人となり,あ まり連携が取れていない実態がうかがえる。さらに,地 域住民と連携が取れていると思う人でも4 人中4 人とも 地域住民の参加が必要と回答している。地域住民と連携 が取れていると思わない人では5 人中4 人が地域住民の 参加が必要と回答している。以上のことから,地域住民 との連携が取れていると思う,思わないに関わらず,地 域住民の参加が必要と思っている人が多いことが明らか となった。 また,「今後,ため池を保全管理していくために,公的 機関等の支援を必要とするか」については,9 人全員が 必要と回答しており,必要であると認識していることが わかる。 「ため池の保全管理活動は市や町との連携が取れてい ると思うか」についても,9 人全員が取れていると回答 した。ゆえに,連携の課題としては,市や町とではなく, 地域住民とに残されていることがわかる。 また,「ため池を多面的機能からみて次世代に引き継ぐ 池と思うか」については,9 人全員がそう思うと回答し ている。このことから管理者はため池を次世代に引き継 いでいきたいと思っていることがわかる。 3) 地域住民の参加を高める具体的施策の実施 明石市のため池管理者アンケート調査結果から人手が かかる作業を行う際には,地域住民(農業関係者以外も 含む)の参加や,公的機関(行政・自治会・団体)から の支援を望んでいる。 地域住民の参加を高めるのに有効と考えられる具体的 対策は,第一に,兵庫県広報課が毎月発行している「県 民だより ひょうご」の広報誌を有効利用することである。 記事の内容は,①ため池と水路の保全管理(洪水調整機 能を含む),②いなみ野ため池ミュージアムに関するお知 らせ,③自然環境保護や貴重な生物の保護,④ため池協 議会のお知らせ,⑤ため池管理者の報告・意見,⑥地域 住民の意見,⑦自治会連携に関するもの,⑧行政からの 連絡・要請,⑨ため池行事参加者の集い等の企画立案, ⑩ボランティア募集,⑪地産地消の推進情報,⑫関係行 事事前事後報告などである。 この新しい広報誌が地域住民に認知され,ため池に関 する有用な情報を継続的に伝えることができれば,地域 住民の参加向上にもつながると考えられる。 第二に,深町ら(2006)や星野ら(2014)が指摘して いるように,年齢,地域および住民によるため池知識の 共有が必要である。今まで保全管理してきた高齢者が若 い世代に知識を伝達することにより,誰もがため池の保 全管理に参加するようになると考えられる。これらが, 世代間,地域間のコミュニケーション力の向上につなが ると考える。 第三に,アンケート調査結果から,ため池の保全管理 への地域住民の参加が重要である。地域住民の参加によ って,草刈りや水路掃除およびごみ拾い等のため池の保 全管理作業がより円滑に進められると考える。 表6 ため池の管理年数と保全管理に対する地域住民の参 加についてのクロス集計表 地域住民の参加が 必要と思う (人) 地域住民の参加が 必要と思わない (人) 合計 5 年以下 5 - 5 5~10 年 2 1 3 10 年以上 1 - 1 合計 8 1 9 表7 ため池の保全管理に対する地域住民の参加と地域住 民との連携についてのクロス集計表 地域住民の参加 が必要と思う (人) 地域住民の参加 が必要と思わな い (人) 合計 地域住民と連携が取 れていると思う 4 - 4 地域住民と連携が取 れていると思わない 4 1 5 合計 8 1 9
第四に,地域住民への意見聞き取り調査が重要である。 ため池廃止前の段階で,そのため池と多面的機能からみ て,関係があると考えられる範囲の住民を対象に,将来 的にそのため池をどうするのが地域にとって良い選択か を,農地灌がいの受益農家だけでなく,自治会,子供会, 地域住民等にも意見を事前に聞くことが重要だと考えら れる。地域住民の意向を踏まえたため池の保全管理が持 続的な保全管理のもとになってくる。 ため池を地域の財産と認識し,多面的機能を理解し, そのため池を身近に感じ,ため池の将来について意見交 換しあうことが,ため池の保全管理への地域住民の参加 向上につながると考えられる。 おわりに 本論文では,いなみ野台地のため池群が保全管理の危 機に直面している現状を鑑み,ため池について文献調査, ヒアリング調査,および明石市で管理者アンケート調査 を行った。そして,いなみ野ため池ミュージアムでのア ンケート調査結果を踏まえて,その実態と経緯,問題点 を明らかにし,保全管理のための解決策を考察した。 その結果,1960 年代からの 50 年間に現在のため池の 保全管理の危機を招いたことが明らかとなり,ため池を 存続させるためには,ため池の保全管理への地域住民の 参加をさらに高めることが重要であり,広報誌の有効利 用および地域住民への意見聞き取り調査の実施が重要で あることを示した。また,地域住民間のコミュニケーシ ョンの強化も重要となってくる。 本論文では,いなみ野台地のある東播磨地域で,かつ, 人口の多い地域である明石市でアンケート調査を実施し たが,他の加古川市,稲美町,播磨町並びに神戸市西区 までは実施できていない。各行政単位によって保全管理 状況が異なることから,明石市とは違う点もあると想定 される。また,ため池から農業用水を引く農家が負担し ている水利費や,国・県等からの管理補助費,さらにい なみ野ミュージアム運営協議会に参加している協議会が 負担する費用や,運営協議会からの支援費等を含めた費 用面にも踏み込んでいくと,ため池の保全管理の費用面 もわかる。しかし,さらに調査・研究が必要となるため, 今後の課題とする。 謝 辞 本論文を作成するに際し,兵庫県庁・東播磨県民局の県関係者や,明 石市・加古川市・神戸市並びに加古郡稲美町・播磨町の各行政機関の関 係者の方々にご協力いただきました。明石市役所産業振興部農水産課農 業基盤整備係の担当者の方には,親身に教えていただきました。また, 明石市で実施したため池管理者アンケート調査に対し,9 名の管理者に 快くご協力を賜りました。皆様に,心より感謝申し上げます。 補 注 1) いなみ野ため池ミュージアム,“いなみ野”台地の概要.<http://www.i namino-tameike-museum.com/pdf/08_10/002.pdf>,2015.5.31 参照 2) 農林水産省農村振興局防災課(2013.5 更新)ため池管理マニュアル. <http://www.city.ena.lg.jp/files/4113/7895/1575/tameikemanyuaru. pdf>,2015.8.24 参照 3) いなみ野ため池ミュージアム.<http://www.japanriver.or.jp/taisyo/ oubo_jyusyou/jyusyou_katudou/no15/no15_pdf/inamino.pdf>,201 5.5.31 参照 4) 兵庫県内の農業用ため池数(2015.4.1 現在).<https://web.pref.hyo go.lg.jp/nk10/faq/documents/270401_hyogotameikesuu.pdf>,2015. 8.24 参照 引用文献 深町拓司・星野敏(2006)地域資源管理に関わる知識の偏在と継承の問 題,農村計画学会誌,25,359~364. 東播磨の歴史を考える実行委員会(2002):『東播磨の歴史 1 古代』,但 陽信用金庫. 星野敏・深町拓司(2014)地域資源管理に関わる知識の構造的把握の試 み─兵庫県稲美町のため池管理を事例として─,農村計画学会誌, 33(1),25~28. 兵庫県(1984)『兵庫のため池誌』,兵庫県,pp.197~199,付録. 兵庫県東播磨県民局(2011)いなみ野ため池ミュージアム運営協議会, 明石台地ゾーン明石のため池パンフレット. 兵庫県農政環境部農林水産局農村環境室(2014)『ひょうごのため池フ ァイル』,兵庫県各地域農地・水・環境保全推進協議会. いなみ野ため池ミュージアム運営協議会(2010)『淡河川・山田川疏水 開発の軌跡をたどる いなみ野台地を潤す“水の路”』~淡河川・山 田川疏水記録誌~,いなみ野ため池ミュージアム運営協議会(兵庫県 東播磨県民局),p.75. いなみ野ため池ミュージアム運営協議会(兵庫県東播磨県民局)(2015) 旗揚げアンケートによる「今後のため池保全のあり方」に対する意見 集約結果. いなみ野ため池ミュージアム運営協議会(兵庫県東播磨県民局)(2015) いなみ野ため池ミュージアム ~先人の“遺産”を次代の“資産”に ~ ,パンフレット. 神戸市西区役所まちづくり課(2014)みどりと太陽のまち西区あんない. 竹内常行(1980)『日本の稲作発展の基盤』-溜池と揚水機-,古今書 院,pp.130~147.