• 検索結果がありません。

HOKUGA: 刑事判例研究 最高裁平成28年3月24日第三小法廷決定(刑法207条の趣旨及び適用の可否)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "HOKUGA: 刑事判例研究 最高裁平成28年3月24日第三小法廷決定(刑法207条の趣旨及び適用の可否)"

Copied!
27
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

タイトル

刑事判例研究 最高裁平成28年3月24日第三小法廷決

定(刑法207条の趣旨及び適用の可否)

著者

瀬川, 行太; SEGAWA, Kouta

引用

北海学園大学法学研究, 54(4): 63-88

発行日

2019-03-30

(2)

・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ 判 例 研 究 ・・・・・・・ ・・・・・・・・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・

【 事 実 の 概 要 】 被 告 人 A 及 び 被 告 人 B は 、 い ず れ も 本 件 ビ ル 四 階 に あ る バ ー Z の 従 業 員 で あ り 、 同 店 で 勤 務 し て い た 。 被 告 人 C は 、 本 件 当 日( 平 成 二 五 年 一 一 月 二 三 日 )、 被 告 人 B の 誘 い を 受 け 、 客 と し て Z を 訪 れ て い た 。 D も 、 本 件 当 日 、 午 前 四 時 三 〇 分 頃 、 他 で 飲 食 し た 後 、 女 性 二 人 と 共 に 、 客 と し て Z を 訪 れ て い た 。 D は 、 被 告 人 A か ら 三 人 分 の 飲 食 代 金 と し て 八 万 六 千 円 を 請 求 さ れ 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド で 支 払 お う と し た が 、 思 う よ う に 決 済 で き ず 、 同 日 午 前 六 時 四 三 分 頃 か ら 午 前 六 時 五 〇 分 頃 ま で に 三 回 に 分 け て 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド で 合 計 七 万 円 分 の 支 払 手 続 き を し た が 、 残 額 一 万 六 千 円 に つ い て は 決 済 で き な か っ た 。 相 当 に 飲 酒 を し て い た D は 、 こ の よ う な や り 取 り を 重 ね る う ち に 、 い ら だ っ た 様 子 と な り 、 被 告 人 A に 対 し 、 代 金 に つ い て 文 句 を 言 っ た り 、 同 人 の 首 を つ か む な ど の 行 為 に も 及 ん だ 。 そ し て 、 D は 残 額 の 支 払 い に つ い て 話 が つ か な 北研 54 (4・63) 521

(3)

い ま ま 、Z の 外 に 出 た 。 被 告 人 A と 被 告 人 B は 、そ の 後 を 追 っ て 店 外 に 出 て 、 Z の 出 入 口 外 側 に 当 た る 本 件 ビ ル 四 階 の エ レ ベ ー タ ホ ー ル で D に 追 い つ き 、 同 日 午 前 六 時 五 〇 分 頃 か ら 午 前 七 時 一 〇 分 頃 ま で の 間 、 相 互 に 意 思 を 通 じ た 上 で 、 被 告 人 A が D の 背 部 付 近 を 蹴 っ て 三 階 に 至 る 途 中 に あ る 階 段 踊 り 場 付 近 に 転 落 さ せ 、 四 階 エ レ ベ ー タ ホ ー ル に 連 れ 戻 し た 上 で 、 被 告 人 B が 同 ホ ー ル に あ っ た ス タ ン ド 式 灰 皿 に D の 頭 部 を 打 ち 付 け て 、 関 節 技 を か け 、 そ の 状 態 の D に 対 し 、 被 告 人 A が 顔 面 を 拳 や 灰 皿 の 蓋 で 殴 り 、 被 告 人 B も 馬 乗 り に な っ て 殴 る な ど し た ( 第 一 暴 行 )。 同 日 午 前 七 時 四 分 頃 、 被 告 人 C は 、 四 階 エ レ ベ ー タ ホ ー ル に 現 れ 、 Z の 従 業 員 E が 、 倒 れ て い る D の 近 く で 被 告 人 A 及 び 被 告 人 B を 制 止 し よ う と し て い る 様 子 を 見 て い た が 、 E と 被 告 人 A が D の そ ば か ら 離 れ た 直 後 、 床 に 倒 れ て い る D の 背 部 付 近 を 一 回 踏 み つ け た 。 そ の 様 子 を 被 告 人 A 及 び 被 告 人 B は 見 て お り 、 被 告 人 B は 被 告 人 C を 制 止 し 、 Z に 戻 る よ う に 促 し た 。 し か し 、 被 告 人 C は 店 内 に 戻 っ た 後 も 、 再 度 四 階 エ レ ベ ー タ ホ ー ル に 現 れ 、 午 前 七 時 一 五 分 頃 、 D に 膝 蹴 り を し 、 背 中 を 蹴 る な ど 暴 行 を 加 え た ( 中 間 の 暴 行 )。 被 告 人 A は 、 D か ら 運 転 免 許 証 を 取 り 上 げ 、 飲 食 代 金 を 支 払 う 旨 の 示 談 書 に D の 氏 名 を 自 書 さ せ て 、 運 転 免 許 証 の コ ピ ー を 取 っ た 。 そ の 後 、 D は し ば ら く 店 内 の 出 入 り 口 付 近 に 倒 れ て い た が 、 午 前 七 時 四 九 分 頃 、 突 然 走 っ て 店 外 に 出 た た め 、 E が D の 逃 走 を 阻 止 す る た め に 追 い か け 、 D を 四 階 か ら 三 階 に 至 る 途 中 の 階 段 付 近 で 取 り 押 さ え た 。 被 告 人 C は 、 電 話 を す る た め に 四 階 エ レ ベ ー タ ー ホ ー ル に 行 っ た 際 、 E が D を 取 り 押 さ え て い る の を 知 り 、 同 現 場 ま で 行 き 、 午 前 七 時 五 〇 分 頃 か ら 七 時 五 四 分 頃 ま で 、 D の 頭 部 顔 面 を 多 数 回 に わ た り 蹴 り つ け る な ど の 暴 行 を 加 え た ( 第 二 暴 行 )。 午 前 七 時 五 四 分 頃 、 通 報 を 受 け た 警 察 官 が 臨 場 し た と こ ろ 、 D は 大 き な い び き を か き 、 ま ぶ た や 瞳 孔 に 動 き が な く 、 呼 び か け て も 応 答 が な い 状 態 で 倒 れ て い た 。 D は 、 午 前 八 時 四 四 分 頃 、 病 院 に 救 急 搬 送 さ れ 、 手 術 を 施 行 さ れ た が 、 翌 日 午 前 三 時 五 四 分 頃 、 急 性 硬 膜 下 血 腫 に 基 づ く 急 性 脳 腫 脹 の た め 死 亡 し た 。 検 察 官 は 、 罪 名 及 び 罰 条 は 、⽛ 傷 害 致 死 二 〇 五 条 、 二 〇 七 条 、 被 告 人 A 及 び 同 B に つ き 更 に 六 〇 条 ⽜ と 記 載 し 、 公 訴 事 実 の 要 旨 は 、⽛ 被 告 人 A 及 び 同 B は 、 共 謀 の 上 、 本 件 当 日 午 前 六 時 五 〇 分 頃 か ら 同 日 午 前 七 時 一 〇 分 頃 ま で の 間 、 本 件 ビ ル に お い て 、 D に 対 し 同 人 の 背 後 か ら そ の 背 部 付 近 を 蹴 っ て 階 段 の 上 か ら 落 下 さ せ て 転 倒 さ せ 、 多 数 回 に わ た っ て そ の 頭 部 顔 面 や 胸 腹 部 等 を 殴 り 、 蹴 り つ け る な ど の 暴 行 を 加 え 、 被 告 北研 54 (4・64) 522 北研 54 (4・65) 523

(4)

人 C は 同 日 午 前 七 時 五 分 頃 か ら 午 前 七 時 一 五 分 ま で の 間 、 同 所 に お い て D に 対 し 床 に 倒 れ て い る 同 人 の 背 部 を 踏 み つ け る な ど の 暴 行 を 加 え た 上 、 同 日 午 前 七 時 五 〇 分 頃 、 同 所 に お い て 、 同 人 に 対 し そ の 頭 部 顔 面 を 多 数 回 に わ た っ て 蹴 り つ け る な ど の 暴 行 を 加 え 、 よ っ て 前 記 一 連 の 暴 行 に よ り 、 同 人 に 急 性 硬 膜 下 血 腫 等 の 傷 害 を 負 わ せ 、 翌 日 午 前 三 時 五 四 分 頃 、 同 人 を 急 性 硬 膜 下 血 腫 に よ る 急 性 脳 腫 脹 に よ り 死 亡 さ せ た が 、 被 告 人 三 名 の い ず れ の 暴 行 ( 第 一 暴 行 ・ 第 二 暴 行 ) に 基 づ く 傷 害 に よ り D を 死 亡 さ せ た か を 知 る こ と が 出 来 な い も の で あ る ⽜ と し て 、 同 時 傷 害 致 死 を 内 容 と す る も の で あ っ た 。 【 第 一 審 判 決 ( 名 古 屋 地 判 平 成 二 六 ・ 九 ・ 一 九 、 刑 集 七 〇 巻 三 号 二 六 頁 )】 ⽛ 第 一 暴 行 が 終 了 し た 段 階 で は 急 性 硬 膜 下 血 腫 の 傷 害 が 発 生 し て お ら ず 、 も っ ぱ ら 第 二 暴 行 に よ っ て 同 傷 害 を 発 生 さ せ た 可 能 性 は も と よ り 存 す る が 、 仮 に 、 第 一 暴 行 で 既 に 同 傷 害 が 発 生 し て い た と し て も 、 第 二 暴 行 は 同 傷 害 を 更 に 悪 化 さ せ た と 推 認 で き る か ら 、 第 二 暴 行 は い ず れ に し て も 、 D の 死 亡 と の 間 に 因 果 関 係 が 認 め ら れ る こ と と な り 、 死 亡 さ せ た 結 果 に つ い て 、 責 任 を 負 う べ き 者 が い な く な る 不 都 合 を 回 避 す る た め の 特 例 で あ る 同 時 傷 害 致 死 罪 の 規 定 ( 刑 法 二 〇 七 条 ) を 適 用 す る 前 提 が 欠 け る こ と に な る 。 そ れ ゆ え 、 被 告 人 A 及 び 被 告 人 B は 共 謀 の 上 、 D に 対 し 第 一 暴 行 を 加 え て 傷 害 を 負 わ せ た も の と し て 傷 害 罪 が 成 立 し 、 被 告 人 C に は 、 傷 害 致 死 罪 が 成 立 す る こ と と な る 。 上 記 の と お り 、 本 件 で は 、 同 時 傷 害 致 死 罪 の 規 定 を 適 用 す る 余 地 は な い が 、 訴 訟 の 経 過 に 鑑 み 、 争 点 に 係 る ⽝ 同 一 の 機 会 ⽞ と い え る か に つ い て の 判 断 を 示 せ ば 、 次 の と お り で あ る 。 す な わ ち 、 第 一 暴 行 と 第 二 暴 行 は 、 確 か に 、 時 間 的 場 所 的 に は 近 接 し て い る 。 し か し な が ら 、 被 告 人 C は 、 当 時 、 第 一 暴 行 の 発 端 と な っ た 被 告 人 A と D と の 間 の 料 金 ト ラ ブ ル を 知 ら ず 、 そ の 内 容 に つ い て も 利 害 関 係 を 有 し て い な か っ た こ と 、 第 一 暴 行 の 後 、 Z で 、 同 ト ラ ブ ル 等 に 関 す る 示 談 書 が D に よ り 作 成 さ れ 、 被 告 人 A ら と し て も 、 D と の 間 の 問 題 は 解 決 し た と 考 え て い た こ と な ど を 踏 ま え る と 、 被 告 人 A 及 び 被 告 人 B に お い て 、 Z か ら 逃 走 し た D に 対 し 、 被 告 人 C が 、 第 二 暴 行 の よ う な 激 し い 暴 行 に 及 ぶ こ と を 予 期 で き た と は 認 め ら れ ず 、 少 な く と も 、 被 告 人 A 及 び 被 告 人 B の 立 場 か ら は 、 第 一 暴 行 と 第 二 暴 行 を ⽝ 同 一 の 機 会 ⽞ に 行 わ れ た 暴 行 と 見 る こ と に は 疑 問 が 残 る と い う べ き で あ る 。⽜ と し て 、 被 告 人 A 及 び 被 告 人 B は 、⽛ 頭 部 顔 面 に 加 療 期 間 不 明 北研 54 (4・64) 522 北研 54 (4・65) 523

(5)

の 出 血 を 伴 う 傷 害 ⽜ を 負 わ せ た 傷 害 罪 の 共 犯 と し 、 被 告 人 C に は 、⽛ 急 性 硬 膜 下 血 腫 等 の 傷 害 を 負 わ せ 、 又 は 第 一 暴 行 に よ り 生 じ て い た 急 性 硬 膜 下 血 腫 を 更 に 悪 化 さ せ 、 急 性 硬 膜 下 血 腫 に よ る 急 性 脳 腫 脹 に よ り 死 亡 さ せ た ⽜ 傷 害 致 死 罪 が 成 立 す る と し た 。 こ れ に 対 し 、検 察 官 は 、控 訴 趣 意 に お い て 、⽛ D の 死 因 と な っ た 急 性 硬 膜 下 血 腫 の 傷 害 は 第 一 暴 行 に よ る も の か 第 二 暴 行 に よ る も の か 不 明 で あ り 、 同 暴 行 に は 機 会 の 同 一 性 も 認 め ら れ る の で 、 同 時 傷 害 の 特 例 を 認 め て 、 被 告 人 A ・ B に も 傷 害 致 死 罪 が 成 立 す る ⽜ と 主 張 し た 。 【 控 訴 審 判 決 ( 名 古 屋 高 判 平 成 二 七 ・ 四 ・ 一 六 、 刑 集 七 〇 巻 三 号 三 四 頁 】 ⽛ 原 判 決 の 前 記 の 認 定 を 前 提 と す る 以 上 、 被 告 人 A 及 び 同 B が 共 謀 の 上 で 行 っ た 第 一 暴 行 と 、 被 告 人 C が 行 っ た 第 二 暴 行 と は 、 そ の い ず れ も が D の 急 性 硬 膜 下 血 腫 の 傷 害 を 発 生 さ せ る こ と が 可 能 な も の で あ り 、 か つ 実 際 に 発 生 し た 急 性 硬 膜 下 血 腫 の 傷 害 が 上 記 両 暴 行 の い ず れ に よ る か 不 明 で あ る と い う こ と に な る か ら 、 も し 両 暴 行 に 機 会 の 同 一 性 が 認 め ら れ る の で あ れ ば 、 取 り 合 え ず 死 亡 の 結 果 の 発 生 を ひ と ま ず お い て 考 え る の で あ れ ば 、 同 時 傷 害 の 特 例 に 関 す る 刑 法 二 〇 七 条 が 適 用 さ れ 、 被 告 人 三 名 全 員 が 、 両 暴 行 の い ず れ か ( あ る い は そ の 双 方 )と 因 果 関 係 が あ る 急 性 硬 膜 下 血 腫 の 発 生 に つ い て 、 共 犯 と し て 処 断 さ れ る こ と に な る こ と に 疑 い は な い … … 被 告 人 三 名 が 急 性 硬 膜 下 血 腫 の 傷 害 の 発 生 に つ い て 共 犯 と し て の 刑 責 を 負 う と い う 前 提 で 考 え る 以 上 、 こ の 場 合 被 告 人 三 名 が 共 犯 と し て の 刑 責 を 負 う べ き 急 性 硬 膜 下 血 腫 を 原 因 と し て 生 じ た D の 死 亡 に つ い て も ま た 、 被 告 人 三 名 は 共 犯 と し て の 刑 責 を 負 う こ と に な る と 解 す べ き で あ っ て 、結 局 被 告 人 三 名 は 、 上 記 死 亡 を 内 容 と す る 傷 害 致 死 罪 の 共 犯 と し て 処 断 さ れ る こ と に な る と 解 す べ き で あ る 。⽜ と 述 べ 、 原 判 決 の 判 断 に つ い て は 、⽛ し か し 、 こ の 判 断 は 、 そ も そ も 実 際 に 発 生 し た 傷 害 と の 因 果 関 係 に つ い て 検 討 し な い で 、 直 ち に 死 亡 と の 因 果 関 係 を 問 題 に し て い る 点 で 、 暴 行 と 傷 害 と の 因 果 関 係 が 不 明 で あ る こ と を 要 件 と す る 刑 法 二 〇 七 条 の 規 定 内 容 に 反 す る と 考 え ら れ る し 、 こ の よ う に 解 し た 場 合 、 本 件 で 、 急 性 硬 膜 下 血 腫 の 傷 害 の 発 生 に つ い て 、 結 局 は 誰 も 責 任 を 問 わ れ な い こ と に な る 結 果 と な る こ と を 看 過 し た も の で あ る と い わ ざ る を 得 な い 。 後 者 の 点 に つ い て 補 足 す る と 、 原 判 決 は 被 告 人 A 及 び B に つ い て は 、 第 一 暴 行 に よ り 、 D に 頭 部 顔 面 に 加 療 期 間 不 明 北研 54 (4・66) 524 北研 54 (4・67) 525

(6)

の 出 血 を 伴 う 傷 害 を 負 わ せ た と い う 事 実 を 認 定 し 、 他 方 被 告 人 C に つ い て は 、( 中 間 の 暴 行 と ) 第 二 暴 行 に よ り D に 急 性 硬 膜 下 血 腫 等 の 傷 害 を 負 わ せ 、 又 は 第 一 暴 行 に よ り 生 じ て い た 急 性 硬 膜 下 血 腫 等 の 傷 害 を 更 に 悪 化 さ せ た と い う 択 一 的 な 事 実 の 認 定 を し て い る に と ど ま っ て い る か ら 、 致 命 傷 で あ る 急 性 硬 膜 下 血 腫 の 傷 害 の 発 生 自 体 に つ い て は 結 局 の と こ ろ 、 被 告 人 三 名 の い ず れ も が そ の 責 任 を 問 わ れ な い 結 果 に な っ て い る と 理 解 せ ざ る を 得 な い 。 念 の た め 補 足 す る と 、 原 判 決 が い う よ う に 、 第 一 暴 行 に よ っ て 既 に 急 性 硬 膜 下 血 腫 の 傷 害 が 発 生 し て い た 場 合 を 想 定 し て も 、 第 二 暴 行 に よ っ て こ れ が 更 に 悪 化 し た と 認 め ら れ る か ら 、 第 二 暴 行 と 死 亡 と の 間 の 因 果 関 係 が 認 め ら れ る と 考 え る と し て も 、 そ の こ と は 、 こ の 場 合 に は 、 第 一 暴 行 と 急 性 硬 膜 下 血 腫 に よ る D の 死 亡 と の 間 に 因 果 関 係 が あ る こ と を 否 定 す る 理 由 に は な ら な い こ と は 、 い う ま で も な い こ と で あ る し 、( 最 高 裁 判 所 平 成 二 年 一 一 月 二 〇 日 第 三 小 法 廷 決 定 刑 集 四 四 巻 八 号 八 三 七 頁 参 照 ) 原 判 決 も こ の 点 を 否 定 し て い な い と 考 え ら れ る 。 以 上 で 検 討 し た と お り 、 前 記 の よ う な 理 由 に 基 づ い て 、 本 件 に お け る 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 を 否 定 し た 原 判 決 の 判 断 は 、 同 条 の 解 釈 適 用 を 誤 っ て い る と い わ ざ る を 得 な い 。 … … 本 件 で 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 が 認 め ら れ る た め に は 、 被 告 人 A と 同 B が 共 謀 の 上 で 加 え た 第 一 暴 行 と 、 被 告 人 C の 第 二 暴 行 と が 、 外 形 的 に 共 動 実 行 に 等 し い と 評 価 で き る ほ ど の 態 様 で 行 わ れ た と い う 意 味 で 、 両 暴 行 の 間 に 機 会 の 同 一 性 が 認 め ら れ る こ と が 必 要 で あ る … … 第 一 暴 行 と 第 二 暴 行 と の 間 に 時 間 的 場 所 的 な 近 接 性 が あ る こ と は 、 両 暴 行 が 同 一 の 機 会 に 行 わ れ た と う か が わ せ る に 足 り る 重 要 な 事 情 が あ る と 考 え ら れ る 。⽜ と 述 べ た 。 そ し て 、 共 謀 関 係 に な い 者 が そ れ ぞ れ に 加 え た 暴 行 に 関 す る 機 会 の 同 一 性 を 考 え る に 当 た り 、 予 期 を 問 題 に す る こ と が 相 当 か 否 か が そ も そ も 疑 問 で あ る と 考 え ら れ る と 述 べ て 、 原 判 決 が 予 期 を 問 題 に す る 根 拠 と し て 、 被 告 人 C が 代 金 を 巡 る ト ラ ブ ル を 知 ら な か っ た こ と 、 被 告 人 A ら と し て も 示 談 書 の 作 成 に よ り ト ラ ブ ル が 解 決 し て い た と 考 え て い た こ と な ど を 挙 げ て い る の は 相 当 で あ る と は 必 ず し も 考 え 難 い と 指 摘 し た 上 で 、⽛ 被 告 人 B は 、 被 告 人 C が 、 第 一 暴 行 に よ っ て 既 に 相 当 の 打 撃 を 受 け て い る D に 対 し て 自 ら 中 間 の 暴 行 を 加 え た 際 、 当 初 は 同 被 告 人 を 制 止 し た が 、 そ の 後 は 製 止 し な か っ た と う か が え る し 、 被 告 人 A に つ い て も 同 様 の 事 情 が う か が え る 上 、 被 告 人 C の 第 二 暴 行 自 体 を 被 告 人 A と 同 B が ど の 程 度 認 識 し た の か 、 両 被 告 人 の 供 述 自 体 が 極 め て 曖 昧 で あ る と は い え 、 両 被 告 人 の 供 北研 54 (4・66) 524 北研 54 (4・67) 525

(7)

述 中 に は 、 被 告 人 C の 第 二 暴 行 を あ る 程 度 認 識 し つ つ そ れ を 放 置 し た こ と を う か が わ せ る 内 容 の も の も あ る よ う に う か が え る の で あ っ て 、 こ れ ら の 事 情 に 照 ら し て も 、 被 告 人 A と 同 B の ⽝ 予 期 ⽞ を 原 判 決 が い う よ う に 問 題 に す る こ と が 必 ず し も 相 当 で あ る と は 考 え 難 い ⽜ と し 、⽛ む し ろ 、 第 二 暴 行 当 時 、 被 告 人 C と し て も 、 被 告 人 A ら Z 側 と D と の 間 に ト ラ ブ ル が 存 在 す る こ と を 相 応 に 認 識 し て い た と う か が え る こ と は 、 既 に 説 示 し た と お り で あ る こ と な ど の 事 情 に 照 ら す と 、 被 告 人 C が 第 二 暴 行 に 及 ん だ 事 情 に は 、 被 告 人 A 及 び 同 B が 第 一 暴 行 に 及 ん だ 事 情 と 、 相 応 に 共 通 す る と こ ろ が あ っ た と う か が う こ と も 、 可 能 で あ る よ う に 考 え ら れ る ⽜ と し て 、 機 会 の 同 一 性 等 に 関 し て は 、 そ の 意 義 等 に 関 す る 適 切 な 理 解 の 下 で 更 に 審 理 評 議 を 尽 く す の が 相 当 で あ る と し て 、 本 件 を 名 古 屋 地 裁 に 差 し 戻 し た 。 【 決 定 要 旨 】 ⽛ 同 時 傷 害 の 特 例 を 定 め た 刑 法 二 〇 七 条 は 、 二 人 以 上 が 暴 行 を 加 え た 事 案 に お い て は 、 生 じ た 傷 害 の 原 因 と な っ た 暴 行 を 特 定 す る こ と が 困 難 な 場 合 が 多 い こ と な ど に 鑑 み 、 共 犯 関 係 が 立 証 さ れ な い 場 合 で あ っ て も 、 例 外 的 に 共 犯 の 例 に よ る こ と と し て い る 。 同 条 の 適 用 の 前 提 と し て 検 察 官 は 、 各 暴 行 が 当 該 傷 害 を 生 じ さ せ 得 る 危 険 性 を 有 す る も の で あ る こ と 及 び 各 暴 行 が 外 形 的 に は 共 同 実 行 に 等 し い と 評 価 で き る よ う な 状 況 に お い て 行 わ れ た こ と 、 す な わ ち 同 一 の 機 会 に 行 わ れ た も の で あ る こ と の 証 明 を 要 す る と い う べ き で あ り 、 そ の 証 明 が さ れ た 場 合 、 各 行 為 者 は 、 自 己 の 関 与 し た 暴 行 が そ の 傷 害 を 生 じ さ せ て い な い こ と を 立 証 し な い 限 り 、 傷 害 に つ い て 責 任 を 免 れ な い と い う べ き で あ る 。 そ し て 、 共 犯 関 係 に な い 二 人 以 上 に よ る 暴 行 に よ っ て 傷 害 が 生 じ 更 に 同 傷 害 か ら 死 亡 の 結 果 が 発 生 し た と い う 傷 害 致 死 の 事 案 に お い て 、 刑 法 二 〇 七 条 適 用 の 前 提 と な る 前 記 の 事 実 関 係 が 証 明 さ れ た 場 合 に は 、 各 行 為 者 は 、 同 条 に よ り 、 自 己 の 関 与 し た 暴 行 が 死 因 と な っ た 傷 害 を 生 じ さ せ て い な い こ と を 立 証 し な い 限 り 、 当 該 傷 害 に つ い て 責 任 を 負 い 、 更 に 同 傷 害 を 原 因 と し て 発 生 し た 死 亡 の 結 果 に つ い て も 責 任 を 負 う と い う べ き で あ る ( 最 高 裁 昭 和 二 六 年 ( れ ) 第 七 九 七 号 同 年 九 月 二 〇 日 第 一 小 法 廷 判 決 ・ 刑 集 五 巻 一 〇 号 一 九 三 七 頁 参 照 )。 こ の よ う な 事 実 関 係 が 証 明 さ れ た 場 合 に お い て は 、 本 件 の よ う に い ず れ か の 暴 行 と 死 亡 と の 間 の 因 果 関 係 が 肯 定 さ れ る と き で あ っ て も 、 別 異 に 解 す べ き 理 由 は な く 、 同 条 の 適 用 は 妨 げ ら れ な い と い う べ き で あ 北研 54 (4・68) 526 北研 54 (4・69) 527

(8)

る 。 以 上 と 同 旨 の 判 断 を 示 し た 上 、 第 一 暴 行 と 第 二 暴 行 の 機 会 の 同 一 性 に 関 し て 、 そ の 意 義 等 に つ い て の 適 切 な 理 解 の 下 で 更 な る 審 理 評 議 を 尽 く す こ と を 求 め て 第 一 審 判 決 を 破 棄 し 、事 件 を 第 一 審 に 差 し 戻 し た 原 判 決 は 相 当 で あ る 。 よ っ て 、 刑 訴 法 四 一 四 条 、 三 八 六 条 一 項 三 号 に よ り 、 裁 判 官 全 員 一 致 の 意 見 で 、 主 文 の 通 り 決 定 す る 。⽜ Ⅰ : 問 題 の 所 在 本 決 定 は 、 共 犯 関 係 に な い 二 人 以 上 の 暴 行 と 死 亡 と の 間 の 因 果 関 係 が 肯 定 さ れ る 場 合 で あ っ て も 、⽛ 各 暴 行 が 当 該 傷 害 を 生 じ さ せ 得 る 危 険 性 を 有 す る こ と ⽜、 ⽛ 各 暴 行 が 、 外 形 的 に は 共 同 実 行 に 等 し い と 評 価 で き る 状 況 に お い て 行 わ れ た こ と 、 す な わ ち 同 一 の 機 会 に 行 わ れ た こ と ⽜、 と い う 二 点 が 証 明 さ れ た 場 合 、 各 行 為 者 は 自 己 の 関 与 し た 暴 行 が そ の 傷 害 を 生 じ さ せ て い な い こ と を 立 証 し な い 限 り 、 刑 法 二 〇 七 条 が 適 用 さ れ 、 各 行 為 者 は 傷 害 を 原 因 と し て 発 生 し た 死 亡 結 果 に つ い て も 責 任 を 負 う こ と を 示 し た も の で あ る 。 本 決 定 の 第 一 の 問 題 点 は 、 共 犯 関 係 に な い 二 人 以 上 の 暴 行 と 死 亡 と の 間 の 因 果 関 係 が 肯 定 さ れ る 場 合 に も 、 刑 法 二 〇 七 条 が 適 用 さ れ る の か と い う 点 で あ る 。 こ の 問 題 点 に 対 し 、 本 件 の 第 一 審 は 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 を 否 定 し た が 、 控 訴 審 及 び 最 高 裁 は 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 を 認 め て お り 、 結 論 が 分 か れ て い る 。 そ こ で 、⽛ 第 一 審 が ど の よ う な 論 理 で 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 を 否 定 し た の か ⽜、 ⽛ 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 を 否 定 し た 第 一 審 の 論 理 に 対 し 、 控 訴 審 及 び 最 高 裁 は ど の よ う に 考 え て い る の か ⽜ を 検 討 す る 必 要 が あ る 。 本 決 定 の 第 二 の 問 題 点 は 、 本 件 で ⽛ 機 会 の 同 一 性 ⽜ が 認 め ら れ る の か と い う 点 で あ る 。 こ の 問 題 点 に 対 し 、 本 件 の 第 一 審 は ⽛ 機 会 の 同 一 性 ⽜ を 否 定 し て い る が 、 控 訴 審 及 び 最 高 裁 は ⽛ 機 会 の 同 一 性 ⽜ を 肯 定 し て い る 。 そ こ で 、⽛ 第 一 審 は ど の よ う な 論 理 で 機 会 の 同 一 性 を 否 定 し た の か ⽜、 ⽛ 機 会 の 同 一 性 を 否 定 し た 第 一 審 の 論 理 に 対 し 、 控 訴 審 及 び 最 高 裁 は ど の よ う に 考 え て い る の か ⽜ を 検 討 す る 必 要 が あ る 。 上 記 二 点 の 問 題 点 を 、 刑 法 二 〇 七 条 に 関 す る こ れ ま で の 判 例 ・ 学 説 の 議 論 を 考 察 し た 上 で 、 検 討 す る こ と と し た い 。 Ⅱ : 刑 法 二 〇 七 条 の 概 説 及 び 法 的 性 質 刑 法 二 〇 七 条 は 、⽛ 二 人 以 上 で 暴 行 を 加 え て 人 を 傷 害 し た 場 合 に お い て 、 そ れ ぞ れ の 暴 行 に よ る 傷 害 の 軽 重 を 知 る こ と が で き ず 、 又 は そ の 傷 害 を 生 じ さ せ た 者 を 知 る こ と が で き な 北研 54 (4・68) 526 北研 54 (4・69) 527

(9)

い と き は 、 共 犯 の 例 に よ る ⽜ と 規 定 し て い る 。 こ れ は 、 ① X と Y と が A を 意 思 連 絡 な し に 殴 り 、 A は 重 傷 を 負 っ た が 、 ど ち ら の 暴 行 が 重 傷 の 原 因 だ っ た か 不 明 な 場 合 、 ② A が 複 数 の 傷 を 負 っ た が 、 重 い 方 の 怪 我 が X と Y の い ず れ に よ る も の か 不 明 な 場 合 、 な ど の 二 人 以 上 の 者 が 意 思 の 連 絡 な し に 同 一 の 機 会 に 同 一 の 犯 罪 を 実 行 す る ケ ー ス ( い わ ゆ る 同 時 犯 ) で は 、 自 己 の 引 き 起 こ さ な か っ た 結 果 に 対 し て 責 任 を 負 う こ と は な い の で 、⽛ 疑 わ し き は 被 告 人 の 利 益 に ⽜ の 原 則 に よ れ ば 、 X と Y に は 共 に 暴 行 罪 の み が 成 立 す る こ と に な る ( ⚑ ) 。 し か し 、 刑 法 二 〇 七 条 の 存 在 に よ り 、 X と Y に は 傷 害 罪 が 成 立 す る こ と に な る 。 因 果 関 係 が 不 明 と い う 理 由 か ら 誰 一 人 と し て 傷 害 罪 の 罪 責 を 負 わ な い こ と に な る の は 不 合 理 で あ る こ と か ら 、 刑 法 二 〇 七 条 は 規 定 さ れ て い る 。 X と Y は そ れ ぞ れ 、 自 分 が 加 え た 暴 行 か ら 当 該 傷 害 が 発 生 し て い な い こ と を 立 証 し な い 限 り 、 傷 害 罪 の 罪 責 を 免 れ る こ と は で き な い 。 こ の よ う な 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 場 面 を 踏 ま え る と 、 刑 法 二 〇 七 条 を 適 用 す る た め に は 、 ① 複 数 人 が 意 思 連 絡 な く 特 定 の 者 に 対 し て 暴 行 を 加 え た こ と 、 ② 被 害 者 に 発 生 し た 傷 害 の 原 因 と な る 暴 行 を 特 定 で き な い こ と 、 ③ 各 暴 行 が 当 該 結 果 ( 傷 害 ) を 発 生 さ せ る だ け の 危 険 性 を 有 し て い た こ と 、 ④ 複 数 の 暴 行 が 同 一 の 機 会 に 行 わ れ た こ と ( 機 会 の 同 一 性 )、 と い う 四 つ の 条 件 を 満 た す が 必 要 あ る 。 な お 、 刑 法 二 〇 七 条 の 法 的 性 質 に つ い て は 、⽛ 挙 証 責 任 転 換 説 ⽜ が 通 説 で あ る 。 つ ま り 、⽛ 被 告 人 と し て は 、 自 己 の 行 為 と 結 果 と の 間 に 因 果 関 係 が な い こ と を 証 明 し な い 限 り 、 責 任 を 免 れ な い ( す な わ ち 、 通 常 の 場 合 と は 異 な り 被 告 人 側 に 挙 証 責 任 が 転 換 さ れ る ( 2) )⽜ の で あ る 。 ま た 、刑 法 二 〇 七 条 の 文 言 が 、 ⽛ 共 同 し て 実 行 し た 者 で は な く て も 、 共 犯 の 例 に よ る ⽜ の で あ る か ら 、 刑 法 二 〇 七 条 は 、 共 同 正 犯 関 係 が 存 在 し な い 場 合 に も 、 な お 適 用 さ れ る こ と を 前 提 に し て お り 、 共 犯 関 係 を 推 定 し た も の で は な い の で は な い と 説 明 さ れ る ( 3) 。 Ⅲ : 傷 害 致 死 罪 と の 関 係 刑 法 二 〇 七 条 を め ぐ る 議 論 と し て 、 傷 害 致 死 罪 に も 二 〇 七 条 は 適 用 さ れ る の か と い う 問 題 点 が 存 在 す る 。 以 下 で は 、 こ の 問 題 点 に 関 す る 、 判 例 及 び 学 説 の 見 解 を 検 討 す る 。 ( 1) 判 例 最 高 裁 は 、 刑 法 二 〇 七 条 を 傷 害 致 死 罪 へ 適 用 す る こ と を 認 め て い る 。 最 判 昭 和 二 六 ・ 九 ・ 二 〇 刑 集 五 巻 一 〇 号 一 九 三 七 頁 は 、⽛ 傷 害 致 死 罪 の 成 立 に は 傷 害 と 死 亡 と の 間 に 因 果 関 係 北研 54 (4・70) 528 北研 54 (4・71) 529

(10)

の 存 在 を 必 要 と す る に と ど ま り 、 致 死 の 結 果 に つ い て の 予 見 は 必 要 と し な い ⽜ と し 、 二 人 以 上 の 者 が 共 謀 し な い で 他 人 に 暴 行 を 加 え て 傷 害 致 死 の 結 果 を 生 じ 、 そ の 傷 害 を 生 じ さ せ た 者 を 知 る こ と が で き な い 場 合 は 、 共 同 暴 行 者 は い ず れ も 傷 害 致 死 罪 の 責 任 を 負 う と い う 論 理 に 基 づ い て 、 傷 害 致 死 罪 に 刑 法 二 〇 七 条 を 適 用 す る こ と を 認 め て い る 。 下 級 審 判 例 で も 、 傷 害 致 死 罪 に 刑 法 二 〇 七 条 を 適 用 す る こ と を 認 め る も の が 多 い 。 大 阪 高 判 昭 和 六 一 ・ 一 二 ・ 一 〇 判 時 一 二 五 九 号 一 三 四 頁 で は 、⽛ 本 件 は 、⽝ 共 同 者 ニ 非 ス ト 雖 モ 共 犯 ノ 例 ニ 依 ル ⽞ こ と と し た 刑 法 二 〇 七 条 の 、 い わ ゆ る 同 時 傷 害 の 規 定 が 適 用 さ れ る べ き 事 案 で あ る か ら 、 被 告 人 の 暴 行 と 被 害 者 の 死 と の 因 果 関 係 に つ い て そ の 不 存 在 を 確 認 し え な い 以 上 、 同 被 告 人 は 傷 害 致 死 の 刑 責 を 免 れ な い ⽜ と し て 、 傷 害 致 死 罪 に 刑 法 二 〇 七 条 を 適 用 す る こ と を 認 め て い る 。 東 京 高 判 平 成 一 一 ・ 六 ・ 二 二 高 刑 速 平 成 一 一 年 五 六 頁 で も 、⽛ 暴 行 な い し 傷 害 の 結 果 的 加 重 犯 で あ る 傷 害 致 死 罪 に つ い て も 、 刑 法 二 〇 七 条 の 規 定 が 適 用 さ れ る と 解 す べ き で あ り 、 こ れ を 適 用 か ら 除 外 す べ き 特 段 の い わ れ は な い ⽜ と し て い る 。 最 近 で は 、 神 戸 地 判 平 成 二 一 ・ 二 ・ 九 ( 裁 判 所 ウ ェ ブ サ イ ト ) は 、⽛ し た が っ て 、 本 件 で は 、 被 告 人 C と の 共 犯 関 係 に 基 づ い て 被 告 人 D が 加 え た 暴 行 と 、 被 告 人 両 名 と 共 犯 関 係 が な い ま ま に B が 加 え た 暴 行 の い ず れ が 被 害 者 に 外 傷 性 く も 膜 下 出 血 の 傷 害 を 負 わ せ た の か は 不 明 で あ る か ら 、 そ の 死 因 と な る 傷 害 を 被 害 者 に 負 わ せ た 者 が 被 告 人 D 又 は B の ど ち ら で あ る か は 知 る こ と が で き な い 場 合 と な り 、 被 告 人 両 名 に は 、 刑 法 二 〇 七 条 に 基 づ き 、 被 害 者 に 対 す る 傷 害 致 死 の 共 同 正 犯 が 成 立 す る 。⽜ と 判 示 し て 、 傷 害 致 死 罪 に 刑 法 二 〇 七 条 を 適 用 す る こ と を 認 め て い る 。 福 井 地 判 平 成 二 四 ・ 七 ・ 一 九( LE X /D B 25 48 23 69 ) で も 、⽛ E の 死 亡 の 結 果 は 第 一 暴 行 と 第 二 暴 行 の い ず れ か に よ っ て 生 じ た こ と は 認 め ら れ る も の の 、 い ず れ か 一 方 の 暴 行 に よ り 生 じ た と ま で は 認 め る こ と が で き な い 。 こ の た め 、 被 告 人 が E の 死 亡 の 結 果 に つ い て 責 任 を 負 う か ど う か は 、 同 時 傷 害 の 特 例 ( 刑 法 二 〇 七 条 ) の 適 用 に よ り 、 被 告 人 が 第 一 暴 行 及 び 第 二 暴 行 の 全 体 に つ い て C 及 び D と の 共 同 正 犯 と し て 処 断 さ れ る か ど う か に よ る こ と に な る 。⽜ と 判 示 し て 、傷 害 致 死 罪 に 刑 法 二 〇 七 条 を 適 用 す る こ と を 認 め て い る 。 し か し 、 こ の 二 つ の 判 例 は 、 な ぜ 刑 法 二 〇 七 条 が 傷 害 致 死 罪 に も 適 用 可 能 な の か に 関 し て は 言 及 し て い な い 。 他 方 で 、名 古 屋 地 判 平 成 二 五 ・ 七 ・ 一 二( LE X /D B 25 50 15 84 ) は 、 刑 法 二 〇 七 条 が 傷 害 致 死 罪 に も 適 用 可 能 か と い う 点 に つ 北研 54 (4・70) 528 北研 54 (4・71) 529

(11)

い て 詳 細 に 言 及 し て い る 。 名 古 屋 地 裁 は ⽛ 傷 害 致 死 罪 の 行 為 は 刑 法 二 〇 四 条 と 同 じ く ⽝ 身 体 を 傷 害 し ⽞ た こ と で あ り 、 二 〇 七 条 の ⽝ 二 人 以 上 で 暴 行 を 加 え て 人 を 傷 害 し た 場 合 ⽞ に 当 た る も の で あ る こ と 、 同 条 は 傷 害 罪 ( 二 〇 四 条 ) の 規 定 の 直 後 で は な く 傷 害 致 死 罪 ( 二 〇 五 条 ) の 規 定 よ り 後 に 位 置 し 、 特 に 二 〇 四 条 の 適 用 に 限 定 す る よ う な 文 言 も 付 さ れ て い な い こ と に 照 ら す と 、 二 〇 七 条 を 傷 害 致 死 罪 の 場 合 に 適 用 す る こ と は 同 条 の 文 理 に 何 ら 反 す る も の で は な い 。 ま た 、 刑 法 二 〇 七 条 の 制 度 趣 旨 は 、 複 数 の 者 に よ る 暴 行 に よ り 傷 害 が 生 じ た 場 合 に あ っ て 、 そ の う ち の 誰 の 暴 行 に よ り ど の 傷 害 結 果 が 生 じ た の か を 特 定 す る の が 困 難 な 場 合 も 多 い と こ ろ 、 そ の こ と に つ い て 具 体 的 な 因 果 関 係 を 立 証 し な い 限 り 、 い ず れ も が 暴 行 な い し 軽 い 傷 害 罪 の 限 度 で 処 罰 さ れ る に と ど ま る と い う 不 合 理 な 結 果 が 生 じ る の を 避 け 、 立 証 の 困 難 を 救 う 必 要 性 が あ る と の 点 に あ る 。 こ の 趣 旨 は 、 同 じ 傷 害 と い う 行 為 に お い て 結 果 が 傷 害 致 死 に 発 展 し た 場 合 に お い て も 妥 当 す べ き 点 で 差 異 は な い と い う べ き で あ り 、 傷 害 致 死 に つ い て 適 用 を 排 除 す る こ と は 合 理 的 で は な い 。 そ し て 、 二 〇 七 条 は 検 察 官 に お い て 当 該 傷 害 を 惹 起 す る に 足 り る 暴 行 が 各 人 に 存 在 し た こ と に つ い て 立 証 が な さ れ 、 こ れ に 被 告 人 が 反 証 す る こ と が で き な い と き に 限 っ て 適 用 さ れ る 規 定 と 解 さ れ る の で あ っ て 、 無 限 定 に 立 証 の 転 換 を 認 め て い る わ け で は な い 点 で も 合 理 性 が 認 め ら れ る 。 以 上 の 理 由 か ら 、 刑 法 二 〇 七 条 を 傷 害 致 死 罪 に 適 用 す る こ と は 文 理 上 問 題 が な く 、 必 要 性 も 合 理 性 も 認 め ら れ る ⽜ と 述 べ て い る 。 こ の 判 例 は 、 刑 法 二 〇 七 条 の 傷 害 致 死 罪 へ の 適 用 の 可 否 を 、 必 要 性 ・ 合 理 性 と い う 観 点 か ら 説 明 す る 点 に 特 徴 が あ る 。 他 方 で 、 下 級 審 判 例 で は 、 傷 害 致 死 罪 に 刑 法 二 〇 七 条 を 適 用 す る こ と を 否 定 し た も の も 存 在 す る 。 秋 田 大 曲 支 判 昭 和 四 七 ・ 三 ・ 三 〇 判 時 六 七 〇 号 一 〇 五 頁 で は 、⽛ 刑 法 二 〇 七 条 は 、 二 人 以 上 の 者 が 意 思 の 連 絡 な し に 各 自 、 他 人 に 暴 行 を 加 え て 傷 害 の 結 果 を 生 ぜ し め た 場 合 に お い て 、 そ の 傷 害 の 軽 重 を 知 る こ と が で き ず 、 ま た は そ の 傷 害 を 生 ぜ し め た 者 を 知 る こ と が で き な い と き に 、 生 じ た 結 果 に つ い て の 責 任 を 何 人 に も 問 い 得 な い と い う 立 証 上 の 困 難 か ら 生 じ る 不 都 合 を 救 済 す る た め 、暴 行 者 全 員 を 共 同 正 犯 と し て 処 断 す る と い う の で あ っ て 、 刑 法 に お け る 個 人 責 任 の 原 則 に 対 す る 重 大 な 例 外 を 定 め た も の で あ る か ら 、 こ れ を み だ り に 拡 大 し て 適 用 す べ き で な い こ と は 言 う ま で も な い 。 本 条 の 立 法 趣 旨 と 責 任 主 義 の 原 則 の 調 和 を 考 え れ ば 、 傷 害 致 死 罪 に 本 条 の 適 用 を 認 め 得 る と す る た 北研 54 (4・72) 530 北研 54 (4・73) 531

(12)

め に は 、 傷 害 と 死 亡 と の 間 に 単 に 因 果 関 係 の 存 在 が 認 め ら れ る だ け で な く 、 さ ら に 各 行 為 者 に と っ て 、 行 為 の 当 時 致 死 の 結 果 を 予 見 す る こ と が 可 能 で あ っ た こ と を 必 要 と す る と 解 す る の が 相 当 で あ る 。⽜ と 判 示 し 、 本 件 で は 死 因 が 、 外 力 に よ っ て シ ョ ッ ク 状 態 を 招 来 す る よ う な 体 質 異 常 或 い は 発 育 不 均 衡 に よ る シ ョ ッ ク 死 で あ り 、行 為 当 時 の 具 体 的 事 情 の も と で は 、 被 害 者 の 致 死 の 結 果 を 予 見 す る こ と は 、 被 告 人 両 名 は も と よ り 、 一 般 通 常 人 に と っ て も と う て い 予 見 し え な い と し て 、 傷 害 致 死 罪 に 刑 法 二 〇 七 条 を 適 用 す る こ と を 否 定 し た 。 こ の 判 例 は 、 刑 法 二 〇 七 条 に 傷 害 致 死 罪 が 適 用 さ れ る こ と は 認 め な が ら も 、 致 死 の 結 果 に 対 し て 予 見 可 能 性 を 要 求 す る こ と で 、 二 〇 七 条 を 限 定 的 に 適 用 す る 立 場 を と っ て い る 。 こ の よ う な 立 場 は 、 加 重 結 果 の 予 見 可 能 性 が な い 場 合 で も 、 結 果 的 加 重 犯 の 成 立 を 認 め る 判 例 の 傾 向 と は 異 な る 。 な お 、 強 姦 致 死 罪 ・ 強 盗 致 傷 罪 に つ い て は 、 判 例 は 、 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 を 認 め て い な い 。 強 姦 致 死 罪 に つ い て は 、 仙 台 高 判 昭 和 三 三 ・ 三 ・ 一 三 高 刑 一 一 巻 四 号 一 三 七 頁 で 、⽛ い わ ゆ る 同 時 犯 に 関 す る 刑 法 二 〇 七 条 は 、法 文 上 明 ら か な と お り 、 傷 害 の 結 果 ま た は そ の 軽 重 に つ い て 法 律 上 の 推 定 を な す の で あ る か ら 、 個 人 責 任 の 原 則 に 反 し 、 刑 法 上 重 大 な 特 例 で あ る 。 従 つ て 、 こ れ を 厳 格 に 解 釈 し 、 み だ り に 外 形 上 類 似 の 犯 罪 に ま で 拡 張 適 用 す べ き も の で は な い 。 強 姦 罪 は 、 本 来 性 道 徳 に 関 す る 犯 罪 で 、 そ れ が 致 傷 の 結 果 を 伴 う 場 合 に は 、 強 姦 致 傷 罪 と し て 刑 を 加 重 す る に 過 ぎ な い の で あ る か ら 、 こ れ と 全 く 保 護 法 益 を 異 に す る 暴 行 、 傷 害 に 関 す る 特 例 規 定 で あ る 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 は な い と 解 す べ き で あ る 。 か く 解 す る こ と に よ つ て 、 所 論 の よ う に 、 刑 の 不 均 衡 、 犯 罪 捜 査 の 困 難 を 来 た す こ と が あ ろ う と も 、 右 明 文 上 の 重 大 な 特 例 に 加 え て 、 さ ら に 解 釈 上 の 特 例 を 設 け る こ と は 、 罪 刑 法 定 主 義 の 建 前 か ら も 厳 に 慎 ま な け れ ば な ら な い ⽜ と 判 示 し て い る 。 強 盗 致 傷 罪 に つ い て は 、 東 京 地 判 昭 和 三 六 ・ 三 ・ 三 〇 判 時 二 六 四 号 三 五 頁 は 、⽛ 刑 法 第 二 〇 七 条 の い わ ゆ る 同 時 犯 の 規 定 は 傷 害 、 傷 害 致 死 罪 の 場 合 と 異 り 本 質 的 に そ の 罪 質 を 異 に す る 強 盗 傷 人 罪 に お け る 傷 害 の 場 合 に は 適 用 の な い も の と 解 す る の を 相 当 と す る ⽜ と 判 示 し て い る 。 こ の よ う に 、 判 例 に お い て は 、 刑 法 二 〇 七 条 が 例 外 規 定 で あ る こ と か ら 、 罪 質 が 異 な る 犯 罪 に 刑 法 二 〇 七 条 を 適 用 す る こ と は 罪 刑 法 定 主 義 の 観 点 か ら 許 さ れ な い と さ れ て い る 。 北研 54 (4・72) 530 北研 54 (4・73) 531

(13)

( 2) 学 説 傷 害 致 死 罪 に 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 を 肯 定 す る 見 解 と し て 、 ⽛ 死 亡 は 、 生 理 的 機 能 障 害 の 極 致 と し て ⽝ 傷 害 ⽞ の 一 種 で あ る と 考 え る な ら 、 肯 定 説 に も 合 理 性 は あ ろ う ⽜ と 主 張 す る も の ( ⚔ ) や 、⽛ 死 因 と な っ た 重 い 傷 害 が 誰 の 暴 行 に よ る か 不 明 な 場 合 で も 本 条 の 適 用 が あ る か ら 、 傷 害 致 死 罪 に も 適 用 が あ る と い え る ⽜ と 主 張 す る も の ( ⚕ ) が あ る 。 他 方 で 、 傷 害 致 死 罪 に 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 を 否 定 す る 見 解 と し て 、⽛ 本 条 が 例 外 規 定 で あ る こ と 、⽝ 人 を 傷 害 し た 場 合 ⽞ と の 文 言 で あ る こ と を 考 え れ ば 、 本 条 は 傷 害 罪 に つ い て の み 適 用 さ れ る と 解 す べ き で あ ろ う ⽜ と 主 張 す る も の ( ⚖ ) や 、⽛ 傷 が 一 つ で あ る に も か か わ ら ず 、 共 犯 と ⽝ み な す ⽞ こ と に よ っ て 、 二 人 と も こ の 傷 害 に つ い て 処 罰 す る の は 、 二 人 の う ち ど ち ら か 一 人 は む じ つ の 罪 を 負 わ さ れ る こ と に な る の で あ っ て 、 こ の よ う な 規 定 は お そ ら く 憲 法 に 反 す る と い う べ き で あ ろ う ⽜ と 主 張 す る も の ( ⚗ ) が あ る 。 Ⅳ : 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 条 件 の 一 つ で あ る ⽛ 機 会 の 同 一 性 ⽜ に つ い て ⽛ 機 会 の 同 一 性 ⽜ は 、 判 例 で は 、 ど の よ う に 判 断 さ れ て い る の で あ ろ う か 。 札 幌 高 判 昭 和 四 五 ・ 七 ・ 一 四 判 時 六 二 五 号 一 一 四 頁 は 、 食 堂 内 に お い て 客 で あ る 被 告 人 A が 、 飲 酒 中 の 被 害 者 が 絡 ん で き た こ と に 立 腹 し 、 被 害 者 に 対 し 、 顔 面 を 一 発 殴 打 し 、 そ の 場 に う つ ぶ せ に な っ た 被 害 者 の 頭 部 腹 部 を 蹴 り 上 げ る な ど の 第 一 暴 行 を 加 え 、 そ の 約 四 〇 分 後 、 食 堂 経 営 者 で あ る 被 告 人 B が 、 食 堂 内 及 び そ の 付 近 に お い て 、 通 路 に 仰 向 け に 横 た わ っ て 眠 っ て い た 被 害 者 の 態 度 に 立 腹 し 、 被 害 者 の 足 を 掴 ん で 店 外 に 引 き ず り 出 し 、 更 に 起 き 上 が っ て 店 内 に 入 っ て き た 被 害 者 を 店 外 に 押 し 出 し 、右 側 腹 部 を 蹴 り つ け て 、 第 二 暴 行 を 加 え 、 被 害 者 は 死 亡 し た と い う 事 案 で あ る が 、 札 幌 高 裁 は 、⽛ 同 条 ( 刑 法 二 〇 七 条 ) の 適 用 を 認 め 得 る の は 、 原 則 と し て 、( イ ) 数 人 に よ る 暴 行 が 、 同 一 場 所 で 同 時 に 行 な わ れ た か 、 ま た は 、 こ れ と 同 一 視 し 得 る ほ ど 時 間 的 、 場 所 的 に 接 着 し て 行 な わ れ た 場 合 の よ う に 、 行 為 の 外 形 そ れ 自 体 が 、 い わ ゆ る 共 犯 現 象 に 強 く 類 似 す る 場 合 に 限 ら れ 、か り に 、( ロ ) 右 各 暴 行 間 の 時 間 的 、 場 所 的 間 隔 が さ ら に 広 く 、 行 為 の 外 形 面 だ け で は 、 い わ ゆ る 共 犯 現 象 と さ し て 強 度 の 類 似 性 を 有 し な い 場 合 に つ き 同 条 の 適 用 を 認 め 得 る と し て も 、 そ れ は 、 右 時 間 的 、 場 所 的 間 隔 の 程 度 、 各 犯 行 の 態 様 、 さ ら に 暴 行 者 相 互 間 の 関 係 等 諸 般 の 事 情 を 総 合 し 、 右 各 暴 行 が 社 会 通 念 上 同 北研 54 (4・74) 532 北研 54 (4・75) 533

(14)

一 の 機 会 に 行 な わ れ た 一 連 の 行 為 と 認 め ら れ 、 共 犯 者 で な い 各 行 為 者 に 対 し 生 じ た 結 果 に つ い て の 責 任 を 負 わ せ て も 著 し い 不 合 理 を 生 じ な い 特 段 の 事 情 の 認 め ら れ る 場 合 で あ る こ と を 要 す る ⽜ と 判 示 し 、 そ の 上 で 、⽛ 被 告 人 A の 被 害 者 に 対 す る 原 判 示 第 一 の 暴 行 と 、 被 告 人 B の 同 被 害 者 に 対 す る 原 判 示 第 二 の 暴 行 は 、 い ず れ も 原 判 示 食 堂 の 内 部 ま た は 同 食 堂 前 の 路 上 で 行 わ れ た も の で あ っ て 、 場 所 的 に は き わ め て 所 接 し た 地 点 で 行 わ れ て い る が 、 右 第 二 の 暴 行 は 、 第 一 の 暴 行 が 終 了 し 、 被 告 人 A が 右 食 堂 を 立 去 っ た 後 、 ふ た た び 同 店 内 に 立 ち 戻 り カ ウ ン タ ー 付 近 に 酩 酊 し て 寝 込 ん だ 同 被 害 者 に 対 し 、 ま っ た く 別 個 の 原 因 に 端 を 発 し て 被 告 人 B に よ っ て 行 わ れ る に 至 っ た も の で あ っ て 、 被 告 人 A の 暴 行 終 了 後 約 四 〇 分 の 時 間 的 経 過 が あ り 、 し か も 、 被 告 人 両 名 は 右 食 堂 の 客 と 主 人 と い う 以 外 、 何 ら 特 別 の 関 係 が な く 、 互 い に 他 方 の 暴 行 を 現 認 し て も い な い と い う の で あ る か ら 、 右 は 、 前 記 ( イ ) の 場 合 ( す な わ ち 各 暴 行 の 時 間 的 近 接 性 が と く に 強 く 、 行 為 の 外 形 そ れ 自 体 が 、 い わ ゆ る 共 犯 現 象 に 強 く 類 似 す る 場 合 ) に あ た ら な い こ と は 明 ら か で あ る と い わ ね ば な ら ず 、 他 方 、 右 暴 行 の 時 間 的 間 隔 の 程 度 、 各 犯 行 の 態 様 、 暴 行 者 相 互 の 関 係 等 い ず れ の 面 よ り し て も 、 共 犯 者 で な い 両 名 に 対 し 、 生 じ た 結 果 に つ い て の 責 任 を 負 わ せ て も 著 し い 不 合 理 を 生 じ な い 特 段 の 事 由 が 存 す る と は 認 め ら れ な い の で あ る か ら 、 前 記 ( ロ ) の 場 合 に も あ た ら な い ⽜ と し て 、 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 を 否 定 し て い る 。 札 幌 高 判 昭 和 四 五 ・ 七 ・ 一 四 判 時 六 二 五 号 一 一 四 頁 の 判 旨 か ら は 、 ① 数 人 に よ る 暴 行 が 同 一 場 所 で 同 時 に 行 わ れ た か 、 ま た は 、 こ れ と 同 一 視 し う る ほ ど の 時 間 的 場 所 的 に 接 着 し て 行 わ れ た 場 合 ( 同 時 犯 と 評 価 で き る 場 合 )、 ② 各 暴 行 の 時 間 的 場 所 的 間 隔 が さ ら に 広 く 、 行 為 の 外 形 面 だ け で は 、 い わ ゆ る 共 犯 現 象 と し て 強 度 の 類 似 性 を 有 し な い 場 合 に つ い て は 、 時 間 的 、 場 所 的 間 隔 の 程 度 、 各 犯 行 の 態 様 、 さ ら に 暴 行 者 相 互 間 の 関 係 等 諸 般 の 事 情 を 考 慮 し 、 右 各 暴 行 が 社 会 通 念 上 同 一 の 機 会 に 行 わ れ た 一 連 の 行 為 と 認 め ら れ 、 共 犯 者 で な い 各 行 為 者 に 対 し 生 じ た 結 果 に つ い て の 責 任 を 負 わ せ て も 著 し い 不 合 理 を 生 じ な い 特 段 の 事 情 の 認 め ら れ る 場 合 、 い ず れ か に 該 当 す る 場 合 に 、機 会 の 同 一 性 が 肯 定 さ れ る こ と が 読 み 取 れ る 。 そ し て 、 以 後 の 判 例 も 、 札 幌 高 裁 が 示 し た ⽛ 機 会 の 同 一 性 に 関 す る 判 断 枠 組 み ⽜ が 採 用 さ れ て い る 。 例 え ば 、 福 岡 高 判 昭 和 四 九 ・ 五 ・ 二 〇 刑 月 六 巻 五 号 五 六 一 頁 で は 、 B が D の 顔 面 を 手 拳 で 三 回 位 殴 打 し ( 第 一 暴 行 、 午 後 九 時 頃 )、 第 一 暴 行 か ら 約 二 〇 分 後 、 被 告 人 が 矢 庭 に 自 己 の 履 い て い た 草 履 を 北研 54 (4・74) 532 北研 54 (4・75) 533

(15)

も っ て D の 顔 面 を 二 、 三 回 殴 打 し ( 第 二 暴 行 、 午 後 九 時 二 〇 分 頃 )、 B の 第 一 暴 行 、 被 告 人 の 暴 行 の 双 方 な い し い ず れ か に よ っ て D の 顔 面 は 腫 張 し 、 皮 下 出 血 の 傷 害 を 受 け た 事 案 で あ る が 、 福 岡 高 裁 は 、⽛ 第 一 暴 行 と 第 二 暴 行 と の 間 に は 、 時 間 的 に 約 二 〇 分 の 差 、 場 所 的 に 約 二 な い し 三 ㎞ の 移 動 ( 当 審 証 人 H の 供 述 に よ る ) が あ る け れ ど も 、 本 件 は 前 記 の よ う に 被 告 人 、 B の 両 名 が B 運 転 の 自 動 車 に D を 乗 せ て 進 行 中 に 、 そ れ ぞ れ 下 車 し て 第 一 及 び 第 二 の 各 暴 行 に 及 ん だ も の で あ っ て 、 時 間 的 、 場 所 的 に 接 続 な い し 近 接 し た 暴 行 と い う べ く 、 し か も 各 犯 行 場 所 に 被 告 人 ら 両 名 以 外 の 者 は い な か っ た の で あ る か ら 、 被 害 者 の 受 傷 が 第 三 者 の 介 在 な い し 被 害 者 本 人 の 自 傷 に よ っ て 生 ず る こ と は あ り え な か っ た こ と を も 考 慮 に い れ る と き 、 前 記 の 程 度 の 時 間 的 、 場 所 的 の 隔 り が あ っ た と し て も 、 第 一 第 二 の 各 暴 行 は 相 競 合 し て 敢 行 さ れ た も の と 解 し て 差 支 え な く 、 従 っ て 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 が あ る と い わ ね ば な ら な い ⽜ と 判 示 し た 。 こ の ケ ー ス は 、 前 述 の 札 幌 高 裁 が 示 し た ① ⽛ 数 人 に よ る 暴 行 が 同 一 場 所 で 同 時 に 行 わ れ た か 、 ま た は 、 こ れ と 同 一 視 し う る ほ ど の 時 間 的 場 所 的 に 接 着 し て 行 わ れ た 場 合 ⽜ に 該 当 す る と い え よ う 。 ま た 、 広 島 高 岡 山 支 判 平 成 一 九 ・ 四 ・ 一 八 ( 裁 判 所 ウ ェ ブ サ イ ト ) は 、 被 告 人 及 び 他 の 一 名 が 、 そ れ ぞ れ 被 害 者 に 対 し 殴 打 す る な ど の 暴 行 を 加 え て 顔 面 打 撲 の 傷 害 を 負 わ せ た 事 案 で あ る が 、 広 島 高 裁 は 、⽛ 被 告 人 は 、 B 車 が A 車 に 衝 突 し た の に B が 謝 ら な い で 逃 げ た こ と か ら B だ け で な く B 車 に 同 乗 し て い た C に 対 し て も 暴 行 に 及 ん だ こ と 、 C は 、 被 告 人 か ら 上 記 暴 行 を 受 け た 後 、 A 車 で 約 二 七 ・ 八 ㎞ 走 行 し て E 方 に 連 れ て 行 か れ 、 時 間 的 に も 被 告 人 に よ る 上 記 暴 行 か ら 約 一 時 間 五 〇 分 を 経 過 し て E の 暴 行 を 受 け た こ と 、 E は 、 A の 意 向 を 受 け て C に A 車 の 修 理 代 を 要 求 し た と こ ろ 、 C の 態 度 が 煮 え 切 ら な か っ た た め 暴 行 に 及 ん だ こ と な ど を 指 摘 で き 、 こ れ ら の 諸 点 を 勘 案 す る と 、 被 告 人 及 び E の 各 暴 行 は 、 時 間 的 に 約 一 時 間 五 〇 分 の 隔 た り 、 場 所 的 に 約 二 七 ・ 八 ㎞ の 車 に よ る 移 動 が あ り 、 時 間 的 、 場 所 的 に 近 接 し て い る と は い え な い 上 、 被 告 人 及 び E は 、 全 く 別 個 の 動 機 や 原 因 で C に 対 し 暴 行 を 加 え て お り 、 互 い に 面 識 が な く 、 他 方 の 暴 行 を 現 認 し て も い な い の で あ る か ら 、 被 告 人 及 び E の 各 暴 行 が 社 会 通 念 上 同 一 の 機 会 に 行 わ れ た 一 連 の 行 為 と 認 め る こ と は で き な い 。 そ う す る と 、 本 件 は 刑 法 二 〇 七 条 を 適 用 す べ き 場 合 に は 当 た ら な い と い う べ き で あ る 。⽜ と 判 示 し 、刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 を 否 定 し た 。 こ の ケ ー ス は 、 各 暴 行 の 時 間 的 ・ 場 所 的 間 隔 が 大 き い た め 、 北研 54 (4・76) 534 北研 54 (4・77) 535

(16)

前 述 の 札 幌 高 裁 が 示 し た 判 断 枠 組 み の ① に は 該 当 し な い 。 そ こ で 、 札 幌 高 裁 が 示 し た 判 断 枠 組 み の ② に 該 当 す る か が 問 題 に な る が 、⽛ 第 一 暴 行 と 第 二 暴 行 の 動 機 ・ 原 因 が 別 個 で あ る こ と 、 被 告 人 ら に 全 く 面 識 が な く 、 相 互 に 他 方 の 暴 行 を 現 認 し て い な い こ と ⽜ か ら 、 機 会 の 同 一 性 は 肯 定 さ れ な い と 判 断 さ れ て い る 。 他 方 で 、 東 京 高 判 平 成 二 〇 ・ 九 ・ 八 判 タ 一 三 〇 三 号 三 〇 九 頁 は 、 第 一 現 場 に お い て 被 告 人 A 及 び 同 B が 、 第 二 現 場 に お い て 被 告 人 C が 、 そ れ ぞ れ D に 暴 行 を 加 え た が 、 D に 生 じ た 傷 害 が 、 い ず れ の 暴 行 に よ り 生 じ た か を 知 る こ と が で き な い と い う 事 案 で あ っ た が 、 東 京 高 裁 は 、⽛ 第 一 現 場 に お け る 暴 行 と 第 二 現 場 に お け る 暴 行 と の 間 に は 、 時 間 的 に 約 一 時 間 二 〇 分 の 差 、 場 所 的 に 約 二 〇 ㎞ 前 後 の 移 動 が あ る も の の 、 本 件 は A 及 び B が 第 一 現 場 に お い て D に 対 し て 暴 行 を 加 え た 後 、 自 動 車 に 乗 せ 、 引 き 続 き D を 詰 問 す る な ど し た り 、 C に も 連 絡 を 取 る な ど し な が ら 、 第 二 現 場 に 到 着 し 、 A 及 び B が 下 車 し た 後 に 、 A か ら 連 絡 を 受 け た C が 、 上 記 自 動 車 内 に 残 っ て い た D に 対 し て 暴 行 を 加 え た も の で あ っ て 、 こ れ ら の 暴 行 は 、 D が 被 告 人 三 名 の い ず れ か の 支 配 下 に 置 か れ て い た 一 連 の 経 過 の 下 で の も の で あ る 。 ま た 、 被 告 人 三 名 は Z 商 事 の 役 員 又 は 従 業 員 で あ る と こ ろ 、 D に 対 し て 無 断 で 出 勤 し な く な っ た な ど の 疑 惑 に つ い て 問 い 詰 め る な ど し な け れ ば な ら な い と 考 え 、 最 終 的 に は 被 告 人 三 名 が い ず れ も D に 対 し て 暴 行 を 加 え た の も 、 Z 商 事 の 従 業 員 で あ っ た D の 行 動 を 契 機 と す る も の で あ っ て 、 A 及 び B の 共 謀 に よ る 暴 行 と C の 暴 行 と は 、 そ の 経 緯 、 動 機 も 基 本 的 に は 同 一 で あ る 。 さ ら に 、 C は 、 A 及 び B が D に 対 し て 暴 行 を 加 え た こ と を 認 識 し て 自 ら も D に 対 し て 暴 行 を 加 え て お り 、 A 及 び B も 、 C と の 間 で 暴 行 に つ い て の 共 謀 ま で は 至 っ て い な か っ た も の の 、 被 告 人 C が D を 詰 問 す る こ と 自 体 は 十 分 に 予 期 、認 識 し て い た こ と が 認 め ら れ る 。 こ の よ う な 経 緯 か ら す れ ば 、 上 記 の 時 間 的 、 場 所 的 な 間 隔 の 程 度 の 下 で 、 第 一 現 場 に お け る 暴 行 及 び 第 二 現 場 に お け る 暴 行 は 相 競 合 し て 敢 行 さ れ た も の で あ っ て 、 被 告 人 三 名 の 各 暴 行 は 、 社 会 通 念 上 同 一 の 機 会 に 行 わ れ た 一 連 の 行 為 と 認 め る こ と が で き 、 被 告 人 三 名 は 、 刑 法 二 〇 七 条 に よ り 、 D の 傷 害 結 果 に つ い て の 責 任 を 負 う こ と に な る 。⽜ と 判 示 し 、 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 を 認 め た 。 こ の ケ ー ス も 、 各 暴 行 の 時 間 的 ・ 場 所 的 間 隔 が 大 き い た め 、 前 述 の 札 幌 高 裁 が 示 し た 判 断 枠 組 み の ① に は 該 当 し な い 。 そ こ で 、 札 幌 高 裁 が 示 し た 判 断 枠 組 み の ② に 該 当 す る か が 問 題 に な る が 、⽛ 第 一 暴 行 と 第 二 暴 行 の 動 北研 54 (4・76) 534 北研 54 (4・77) 535

(17)

機 ・ 原 因 が 同 じ で あ る こ と 、 被 告 人 ら が 互 い に 相 互 の 暴 行 を 認 識 し て い た こ と ⽜ か ら 、 機 会 の 同 一 性 は 肯 定 さ れ る と 判 断 さ れ て い る 。 以 上 、 こ れ ま で の 検 討 を 踏 ま え る と 、 判 例 に お い て は 、 ① ⽛ 両 暴 行 が 、 時 間 的 ・ 場 所 的 に 限 り な く 近 接 し て い る 場 合 ( 同 時 犯 と 評 価 で き る よ う な 場 合 )⽜ に は 、 機 会 の 同 一 性 は 肯 定 さ れ る こ と が わ か る 。 他 方 で 、 ② ⽛ 両 暴 行 が 時 間 的 ・ 場 所 的 に 限 り な く 近 接 し て い な く て も 、 諸 般 の 事 情 を 考 慮 し て 、 一 連 の 機 会 に 行 わ れ た と 評 価 で き る 場 合 ⽜ に も 、 機 会 の 同 一 性 は 肯 定 さ れ る 。 ② の ⽛ 諸 般 の 事 情 ⽜ と し て は 、 判 例 で は 、⽛ 両 暴 行 の 動 機 ・ 原 因 ⽜、 ⽛ 行 為 者 ら の 人 間 関 係 ⽜、 ⽛ 行 為 者 ら の 互 い の 暴 行 に 対 す る 認 識 の 有 無 ⽜ な ど が 考 慮 さ れ て い た と い え よ う 。 Ⅴ : 検 討 ( ⚑ ) 共 犯 関 係 に な い 二 人 以 上 の 暴 行 と 死 亡 と の 間 の 因 果 関 係 が 肯 定 さ れ る 場 合 の 、 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 の 有 無 に つ い て 最 高 裁 の 決 定 要 旨 か ら は 、刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 条 件 に 関 し 、 以 下 二 点 が 読 み 取 れ る 。 刑 法 二 〇 七 条 を 適 用 す る た め に は 、 ① 各 暴 行 が 当 該 傷 害 を 生 じ さ せ 得 る 危 険 性 を 有 す る こ と 、 ② 各 暴 行 が 、 外 形 的 に は 共 同 実 行 に 等 し い と 評 価 で き る 状 況 に お い て 行 わ れ た こ と 、 す な わ ち 同 一 の 機 会 に 行 わ れ た こ と 。 上 記 二 点 が 証 明 さ れ た 場 合 、 各 行 為 者 は 自 己 の 関 与 し た 暴 行 が そ の 傷 害 を 生 じ さ せ て い な い こ と を 立 証 し な い 限 り 、 傷 害 罪 の 罪 責 を 負 う こ と に な る 。 そ の 上 で 、 最 高 裁 は 、 ③ ⽛ 傷 害 致 死 の 事 案 に お い て も 刑 法 二 〇 七 条 適 用 の 前 提 と な る ① ・ ② の 要 件 が 満 た さ れ た 場 合 に は 、 本 件 の よ う に い ず れ か の 暴 行 と 死 亡 と の 間 の 因 果 関 係 が 肯 定 さ れ て も 、 各 行 為 者 は 、 当 該 傷 害 に つ い て 責 任 を 負 い 、 更 に 同 傷 害 を 原 因 と し て 発 生 し た 死 亡 結 果 に つ い て も 責 任 を 負 う ⽜、 と い う こ と を 示 し た 。 最 高 裁 が 述 べ た 、 ① ・ ② ・ ③ の う ち 、 ② は ⽛ 機 会 の 同 一 性 ⽜ に 関 す る も の で あ る が 、 こ の セ ク シ ョ ン で は 、⽛ 共 犯 関 係 に な い 二 人 以 上 の 暴 行 と 死 亡 と の 間 の 因 果 関 係 が 肯 定 さ れ る 場 合 の 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 の 有 無 ⽜ を 検 討 す る た め 、 セ ク シ ョ ン を 改 め て 別 途 検 討 す る こ と と し た い 。 以 下 で は 、 ① と ③ に つ い て 検 討 す る 。 ま ず ① は 、 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 条 件 と し て 、 こ れ ま で の 通 説 が 挙 げ て い た も の と 変 わ ら な い よ う に 思 わ れ る 。 し か し 、 北研 54 (4・78) 536 北研 54 (4・79) 537

(18)

第 一 審 判 決 及 び 控 訴 審 判 決 と 比 較 し て み る と 、 そ の 内 実 は 異 な っ て い る 。 第 一 審 判 決 は 、⽛ 第 一 暴 行 と 第 二 暴 行 は 、 そ れ ぞ れ 単 独 で 、 又 は 両 暴 行 が 相 ま っ て 、 本 件 の 死 因 で あ る 急 性 硬 膜 下 血 腫 を 発 生 さ せ た 可 能 性 が あ る ⽜ と 判 示 ( ⚘ ) し 、 控 訴 審 判 決 も 、⽛ 第 一 暴 行 と 第 二 暴 行 の い ず れ か に よ っ て ( あ る い は そ の 双 方 に よ っ て ) D の 急 性 硬 膜 下 血 腫 が 発 生 し た こ と は 認 め ら れ る ⽜ と 判 示 し て い る 。 他 方 で 、 最 高 裁 は 、⽛ 各 暴 行 が 当 該 傷 害 を 生 じ さ せ 得 る 危 険 性 を 有 す る こ と ⽜ と 判 示 し て い る 。 最 高 裁 が 言 う 、⽛ 各 暴 行 が 当 該 傷 害 を 生 じ さ せ 得 る 危 険 性 を 有 す る こ と ⽜ と い う の は 、⽛ 第 一 暴 行 又 は 第 二 暴 行 が そ れ ぞ れ 単 独 で 当 該 傷 害 で あ る 急 性 硬 膜 下 血 腫 を 発 生 さ せ る 危 険 性 を 有 す る こ と ⽜ を 意 味 す る 。 つ ま り 、 第 一 審 判 決 及 び 控 訴 審 判 決 が 言 及 す る ⽛ 第 一 暴 行 及 び 第 二 暴 行 が 相 ま っ て 当 該 傷 害 で あ る 急 性 硬 膜 下 血 腫 が 生 じ た 場 合 ⽜ は 、 最 高 裁 が 言 及 す る ⽛ 各 暴 行 が 当 該 傷 害 を 生 じ さ せ 得 る 危 険 性 を 有 す る 場 合 ⽜ に は あ た ら な い こ と に な る 。 そ れ ゆ え に 、 第 一 審 判 決 及 び 控 訴 審 判 決 は 、⽛ 第 一 暴 行 と 第 二 暴 行 が 相 ま っ て 当 該 傷 害 を 生 じ さ せ た 場 合 ⽜ を 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 場 面 と し て 考 え て い る が 、 最 高 裁 は 、⽛ 第 一 暴 行 と 第 二 暴 行 が 相 ま っ て 当 該 傷 害 を 生 じ さ せ た 場 合 ⽜ は 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 場 面 と し て は 考 え て い な い こ と に な り 、 こ こ に 相 違 点 が 存 在 す る 。 刑 法 二 〇 七 条 が ⽛ 疑 わ し き は 被 告 人 の 利 益 に ⽜ の 例 外 規 定 で あ る こ と を 考 え れ ば 、 第 一 暴 行 及 び 第 二 暴 行 が そ れ ぞ れ 単 独 で 当 該 傷 害 を 生 じ さ せ る 危 険 性 を 有 し て い な い 場 合 に 、 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 を 認 め る こ と は 、 責 任 主 義 に 反 す る こ と に な る 。 そ れ ゆ え に 、⽛ 第 一 暴 行 と 第 二 暴 行 が 相 ま っ て 当 該 傷 害 を 生 じ さ せ た 場 合 ⽜ に は 、 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 を 認 め る べ き で は な い の で 、 最 高 裁 の 見 解 が 妥 当 で あ る と 思 わ れ る 。 次 に 、 問 題 に な る の は 、 ③ の 前 半 部 分 で あ る ⽛ い ず れ か の 暴 行 と 死 亡 と の 間 の 因 果 関 係 が 肯 定 さ れ る 場 合 で あ っ て も 、 各 行 為 者 は 、 発 生 し た 死 亡 結 果 に つ き 責 任 を 負 う ⽜ と い う 点 で あ る 。 こ の 問 題 に つ い て は 、⽛ い ず れ か の 暴 行 と 死 亡 と の 間 の 因 果 関 係 が 肯 定 さ れ る の で あ れ ば 、 刑 法 二 〇 七 条 の 適 用 は 排 除 さ れ る ⽜ と 考 え る こ と も で き る 。 事 実 、 こ の よ う に 考 え た の が 本 件 第 一 審 で あ っ た が 、 第 一 審 の 見 解 に 対 し て は 、 控 訴 審 判 決 か ら の 以 下 の 批 判 が あ っ た 。 ⽛ し か し 、 こ の 判 断 は 、 そ も そ も 実 際 に 発 生 し た 傷 害 と の 因 果 関 係 に つ い て 検 討 し な い で 、 直 ち に 死 亡 と の 因 果 関 係 を 問 題 に し て い る 点 で 、 暴 行 と 傷 害 と の 因 果 関 係 が 不 明 で あ る こ 北研 54 (4・78) 536 北研 54 (4・79) 537

(19)

と を 要 件 と す る 刑 法 二 〇 七 条 の 規 定 内 容 に 反 す る と 考 え ら れ る し 、 こ の よ う に 解 し た 場 合 、 本 件 で 、 急 性 硬 膜 下 血 腫 の 傷 害 の 発 生 に つ い て 、 結 局 は 誰 も 責 任 を 問 わ れ な い こ と に な る 結 果 と な る こ と を 看 過 し た も の で あ る と い わ ざ る を 得 な い 。 後 者 の 点 に つ い て 補 足 す る と 、 原 判 決 は 被 告 人 A 及 び B に つ い て は 、 第 一 暴 行 に よ り 、 D に 頭 部 顔 面 に 加 療 期 間 不 明 の 出 血 を 伴 う 傷 害 を 負 わ せ た と い う 事 実 を 認 定 し 、 他 方 被 告 人 C に つ い て は 、( 中 間 の 暴 行 と ) 第 二 暴 行 に よ り D に 急 性 硬 膜 下 血 腫 等 の 傷 害 を 負 わ せ 、 又 は 第 一 暴 行 に よ り 生 じ て い た 急 性 硬 膜 下 血 腫 等 の 傷 害 を 更 に 悪 化 さ せ た と い う 択 一 的 な 事 実 の 認 定 を し て い る に と ど ま っ て い る か ら 、 致 命 傷 で あ る 急 性 硬 膜 下 血 腫 の 傷 害 の 発 生 自 体 に つ い て は 結 局 の と こ ろ 、 被 告 人 三 名 の い ず れ も が そ の 責 任 を 問 わ れ な い 結 果 に な っ て い る と 理 解 せ ざ る を 得 な い 。⽜ そ れ で は 、 控 訴 審 判 決 の 批 判 は 妥 当 な の で あ ろ う か 。 換 言 す れ ば 、 第 一 審 判 決 は 、 控 訴 審 判 決 が 指 摘 す る よ う に 、⽛ 当 該 暴 行 と 死 亡 と の 間 の 因 果 関 係 ⽜ を 直 接 問 題 に し て 、⽛ 当 該 暴 行 と 傷 害 と の 間 の 因 果 関 係 ⽜ に つ い て は 問 題 に し て い な い の で あ ろ う か 。 こ の 点 に つ い て 、⽛ 第 一 審 は 、 本 血 腫 の 悪 化 を 捉 え て 傷 害 と の 因 果 関 係 を 認 め て お り 、 そ れ に 基 づ い て 死 亡 と の 因 果 関 係 を 認 め て い る の で あ る 。 傷 害 と の 因 果 関 係 を 検 討 せ ず に 死 亡 と の 間 の 因 果 関 係 を 直 接 問 題 に す る も の で は な い ⽜ と の 見 解 ( ⚙ ) が あ る 。 こ の 見 解 は 、 第 一 審 判 決 は 、⽛ 通 常 の 傷 害 に 関 し て は 、 す で に あ っ た 傷 害 を 後 行 者 が 悪 化 さ せ た 場 合 で も 、 後 行 者 に は 最 終 的 に 生 じ た 傷 害 結 果 が 帰 責 さ れ う る し 、 傷 害 を 悪 化 さ せ て 被 害 者 が 死 亡 し た 場 合 で も そ の 死 亡 の 帰 責 が 認 め ら れ る 。 傷 害 に 関 す る 一 般 的 な 帰 責 理 解 に も と づ け ば 、 本 血 腫 を 生 じ さ せ う る 程 度 の 暴 行 が 行 わ れ た 場 合 に 、 そ の 暴 行 に よ る 寄 与 に 基 づ い て 傷 害 ・ 死 亡 の 帰 責 を 認 め る ⽜ 立 場 に 依 拠 し て い る と 説 明 す る ( 10) 。 仮 に 、 こ の 指 摘 が 正 し い の で あ れ ば 、 控 訴 審 判 決 の ⽛( 原 判 決 は ) 実 際 に 発 生 し た 傷 害 と の 因 果 関 係 に つ い て 検 討 し な い で 、直 ち に 死 亡 と の 因 果 関 係 を 問 題 に し て い る 点 で 、 暴 行 と 傷 害 と の 因 果 関 係 が 不 明 で あ る こ と を 要 件 と す る 刑 法 二 〇 七 条 の 規 定 内 容 に 反 す る ⽜ と い う 批 判 は 、 当 た ら な い こ と に な る 。 そ れ で は 、 第 一 審 判 決 は 、 本 血 腫 の 悪 化 を 捉 え て 傷 害 と の 因 果 関 係 を 認 め た 上 で 、 そ れ に 基 づ い て 死 亡 と の 因 果 関 係 を 認 め て い る の で あ ろ う か 。 確 か に 、 通 常 の 傷 害 に 関 す る 帰 責 の 理 解 を 形 法 二 〇 七 条 の 適 用 場 面 に も 及 ぼ せ ば 、⽛ 傷 害 を 悪 北研 54 (4・80) 538 北研 54 (4・81) 539

参照

関連したドキュメント

[r]

[r]

〔追記〕  校正の段階で、山﨑俊恵「刑事訴訟法判例研究」

〔附記〕

[r]

[r]

[r]

12―1 法第 12 条において準用する定率法第 20 条の 3 及び令第 37 条において 準用する定率法施行令第 61 条の 2 の規定の適用については、定率法基本通達 20 の 3―1、20 の 3―2