【論 文
1
UDG :550.
34.
09 :550.
34.
038 日本建築学 会構造系論 文報告 集 第4e3 号・
1989 年 9 月地 震 波
の
発 生 伝 播 理論
を
考
慮
し た
模 擬
地
震動作
成 法
正 会 員 正 会 員 名誉会 員武
釜
小
村
田
堀雅
正鐸
之
*毅
* *一
* **1.
は じめ に 地震 動を合成す る方法は, 地 震 学 的な断 層モ デル に基 づ く方法と 工学的な模擬 地 震 動 作 成 法に大 別さ れる。
断 層モ デル による場 合は 地震の 震 源 か ら観測 点の直下に至 る までの地 震 波の発 生 伝 播 過 程をモ デル化し地震 波の振 幅だけで なく位 相 〔伝 播 時 間 ) も含めて震源 か ら評価す る の に対し, 模擬 地 震 動 作 成 法は震 源か らの波の 伝 播過 程につ いて は ほ と んど考 慮せ ず特に位 相 特 性に関しては 観 測 点に到 達 後の 地 震 波の特 性を経 験 的に数 学モ デル に 置き換え る方法が と ら れ てい る。
短 周 期 地 震 動の複 雑な 位 相 特 性を考 慮す る と位 相を 震 源 か ら順 次 評 価してゆく こ と は非 常に困 難であり,
決 定 論 的 考え 方 を 主 と す る断 層モデル によ る方 法の大きな問 題 点と なっ て い る。 こ の 意 味で は,
時 刻 歴 包 絡 線や継 続 時 間 等 観 測 され る地 震波 の現象論的パ ラメー
タに よっ て確率 論的に位 梱 特 性を と ら え よ う と す る模 擬地震動作 成 法は短周期 地 震 動 を予 測 す る上 で一
っ の 有 効な手段を与え る もの である と言え る。
模 擬 地 震 動 を構 成 する地 震動の諸特性に は, 上記の時 刻 歴 包 絡 線や地 震 動 継 続 時 間の ほかに,
振幅ス ペ ク トル や位 相 差 分 (ま たは位 相の傾き〉 等が あ る。 こ れ ら は も ち ろ ん互いに独 立で 無く位 相 差 分の平 均 値は包 絡 形の最 大値の 出現時間 を与え,
波 形の継 続 時 間は位 相 差 分の分 散と振幅スペ ク トル の周波 数に対す る変 動によ り決 まる 等の 指 摘が あ るILz 〕 。 し た がっ て,
これ らの特 性はい ず れ も ある断 面で見た 地 震 動の特性に対 応 してお り,
普 通 これら の特 性の い くっ か を用い て模擬地 震 動が作成さ れ て い る。
そ の際,
こ れ ら諸 特 性は工学 的な 応用を考慮 し,
すべ て経 験 的に地 震のマ グニ チュー
ドM
と 震 源 (震 央 ) 距 離X
(△)とに関 係づ けられ,
M と X(A
)を与え る と 地 震 動が計 算さ れ る よ う配 慮さ れ て い る3)−
5)、
渡 部・
藤 堂6〕は 断 層モデル の よ うに震 源 か ら 地 震 波の 発 生 伝 播 過 程 を 考 慮し て地 震 動を評 価す る方 法を 地震 学 零 鹿 島建 設小堀 研究室・
理 博 輯 鹿 島 建 設 小 堀 研 究 室 # * 京 都 大 学 名誉 教授・−
L博 (1989年 1月1〔)日原 稿 受理,
且989 年6月 19日 採 用 決 定} 的な思 考,
本 稿で いう模 擬 地 震 動 作 成 法を 工学的な 思考 と大別して いる (上記論 文で は, 人工的に作 成さ れた地 震 動の総称と し て模 擬 地 震 動 とい う言 葉 を 使っ て い る が,
模擬地震動という言 葉は地 震 学で使 用 され る頻 度が 少ないよう なの で,
本 稿で は 工学 的 思 考に基づ く もの の 総 称と して模 擬 地 震 動とい う言 葉を使 用す る。)。 工学的 思考に基づ く方 法が決 定 論 的に解釈さ れに くい短周期地 震 動の特性を現 象 論 的に とら え,
ある程 度 工 学 的な応 用 に供して いるこ とは評 価 すべ きである。 も ちろ ん 工学 的 思 考に基づ く 方 法 と 言っ て も さま ざま な地 震 波 作 成 上の 手 順が考え ら れて い る6)。
し か しこ れ らの方 法 をその ま ま短 周 期 地 震 動の予測に用い る場 合には,
ほ ぼ例 外な く.
.
一
・
つの大きな問 題 点が あ る 。 そ れ は,
地震 動の上記 諸特 性が単な るM
やX
(A
)に対 する線 形な経 験 式で表 現さ れて い ることで ある。
武 村ほが 1が振 幅スペ ク トル に対 し て指 摘 してい る よ うに, こ のよ うな経 験 式の関 数 形 を 決め ること は,
地 震 波の震 源での発 生 過 程や伝 播 過 程に 対し暗 黙の う ちにあ る 種のモ デル を仮 定する ことに対 応 して い る。 も ちろ ん経 験 式の係 数は観測 され た地 震動記 録 を もとに決められ る た め,
既 に経 験し てい る範囲で は モ デル化が 多少 異なっ て い ても結 果 的に観 測 値に近い地 震 動を評 価し ていると言 う考え方 も ある。 た だ し,一
般 に地震動 予 測は観 測 史 上 未 経 験の大 地 震を対 象に行わ れ ること が多く,
その場合は モ デ ル化が決 定 的な影 響 を及 ぼす もの と考え ら れ る。
つ ま り経 験 式 を物 理 的に 妥 当な もの に し な い限り,
大 地 震に よ る地 震 動 を合 理 的に評 価 す ることは でき ない もの と考え ら れ る。 本稿で は以上の 観 点か ら,
工学 的 思 考に基づ く模 擬地震 動 作 成法 に,
地 震波の発生 伝 播 過 程を考 慮し た地 震学的思考の利点を盛 込 み, 主に周 期1秒 以 トの短周 期 領 域を対 象と す る新し い作 成 法 を提 案 する。 ま た その方 法を用い て強 震動記 録 の シ ミュ レー
シ ョ ンを試み る。
2.
作 成 法 模 擬 地 震 動 作 成 法と して,
よ く用い ら れて いる方 法の一・
つ と して, 地 震 動の振 幅ス ペ ク トルお よ び,
時 刻歴包 絡形を用い る方 法が ある。 時 刻 歴 包 絡 形と して最 も有 名 な もの に,
Jennigns
et at.
,
u }に よ る包 絡関数が あ る。
25
一
この関 数は経 験的に決め ら れ たもの であ り
,
お おまか に は一
定の振幅を与え る主 要 動 部 分とそれに続く指 数 関 数的 減少部 分に より構 成 さ れて い る
。
我が国で は こ の包 絡 線にHisada
andAndo
”)が地 震 規 模に対し経 験 的に求め た地 震 動の継 続 時間 を組み合わ せ た 設計 用 模 擬地震 動 評 価 法が提案され実用 化され てい る]D ) 。 この ような従 来か らの経緯を踏ま え
,
本 稿では まず 新しい模 擬 地 震 動 作 成 法を 検 討 す るに際し,
こ の よ うな包 絡 線や継 続 時 間を最 近の地 震 学 的 知 見に照 ら して検 討 する ことか ら始め る。
Izutani and Hirasawam は地 震 動の継 続 時 間
T
. は震源の み か け の破 壊 時 間に比例すると指 摘 し
,
例え ばユ ニ ラ テ ラル破 壊の場合以 下の よ う な関 係 式を導い て い る。T.
=A
,L
(1/V
配一
cos θ/Vs)十A2……
…・
…
(1) こ こ で,L
は断 層の 長さ,
VR,
Vs
はそ れ ぞれ破 壊 伝 播速度お よ びS
波 速 度,
θ は破 壊 伝 播 方 向 と 観 測 点の方 向の なす角 度で あり,
A,お よ び A,は経 験 的に決ま る 定数で ある
。
Izutani andHirasawalD
は,
A
、=
αVR
/0.
8
な る関 係 を もつ 定 数 α を定 義し,
多 数の地 震に対し求ま る L と T. との 関 係か ら観測点ご とに α の値を求めて いる。
その際TdO
はエ ネルギー
積 算 曲 線 (Husid plot)の
.
05か ら0.
85の間の時 間で定 義さ れ て い る。
その結 果に よ れ ば αの値は 0.
1か ら0.
3程 度で あ り, 平均 的 な破 壊 伝 播 速 度VR
を2,
5
か ら3km
/sec と仮定す る と A1は 0.
3か ら1.
1程 度の値と な るこ と が わ か る。 こ の ほ か, 地 震動の経 時 的変化に関す る最 近の地 震 学 的 成 果 とし て,
震 源か ら直達す るS
波の後 続 波につ い て の検 討が あ る。一
般にS
波やP 波 等 直達 波に続く後 続 波 を総称して coda 波と呼ぶ が,
Aki and Choueti2}はS
波 の coda (以 下coda 波と呼ぶ とS波の後 続 波 を指す)に 対し
,
ラ ンダム媒 質に お け るS波の後方一
次散乱を仮定 して 周 波 数 別 に 評 価 し た地 震 動 振幅の root mean square 値 (以 下 rms 値 と 呼ぶ}の 時 間 的変化 A’
(∫,
t) を以F
の よ うに求め てい る。A ’
(f
,
t);
9(f
)exp (−
rrft /Qc
)/t・
・
・
・
・
・
…
…
(2) こ こ で g(f
)は散乱の 強 さ を支 配す る turbidity coeffi−
cient やS
波の 震 源ス ペ ク トル を 含む未 知 数で あ る。
ま たQc
は coda 波のQ
値で一
般にS
波のQ
値に近い値 を 示す13〕。
tは地 震の発 震 時か ら計 算され る時間であ る。
A ’
(f
,
t)は rms 値であり, 時 刻 歴 包 絡 線で は ないが その 関数形を検 討す る 上で参 考に な る。
以 上の結 果をもとにJennings
et al.
s )の包 絡 関 数を解 トー Td −
1
ts
一
26
一
QC
〕/し 図一
1 時刻歴包agee
E(f ,
t)t
釈し地 震 動の時 刻 歴 包 絡 線E
(f
,
t)を以 下の よ うに定 義する (図一
1)。
E (∫,t
)=
Ot
<ts
E (f
,t
); ハげ) ts≦ tくts十 T.E
(f
,t
);A
(f
)exp (一
π∫孟/Qc
)/t ×{exp 〔一
π∫(ts十Td
)/Qc
)/(ts十 丁訓一
且 ts十 Td≦t…・
…・
………・
・
…・
・
…
(3
) こ こ で t、は直達S波の走 時 を示し,T
,は以下の 式で定 義 する。
7
▼
d=kL
〔1
〆VR−
cos θ/Vs
)・
・
…・
・
…
……・
・
…
(4)Izutani
and Hirasawai]}の (1 )式 で示す継 続 時間T
.は こ こ で言う coda 波の部分も含めて定 義 され たもの で ある
。
(4}式と (1 )式のLIVn
の項の対 応よ りK
÷ A,と考え,
先 述のA ,
の値 を参 考に h=
O.
5と仮 定 して 以下の解析を行うことにする。 こ の よ う に し て定 義し た包 絡 線のM
依存 性を見る た め,
以 下に示す断 層 長さ L と M との経 験 的 関 係14 〕 を用 い て包 絡 線の地 震 規 模に よ る変化を見る。log
L
(km
)=
0,
5M − 1.
88 ……・
…
……・
……
(5 )結 果 を 図
一
2に示す。 図一
2で は時 刻 歴 包絡 線の振 幅A
(f
}は1.
0
に規準 化さ れて い る。
(2)式の tは先に述 べ た よ うに発 震 時を原 点と考え るが,
こ こ で はM との 関 連 性の み に注 目するた め最も簡単な場 合とし てS
波の 到 達 時 刻が発 震 時に等しい場 合 (震源 と観 測 点が非 常に 近い場 合に対 応 ) を 想 定し た。
ま た観 測 点の方 位 角は中 立 的な位 置 とし て θ=90
度を仮 定し た。 さらにQ
。値は ノ=
3Hz で 300としM =
8の 場 合に限り同 じ値に対 す る 9Hz お よ び IHz の際の結 果も示し た。
図一
2よ り本 稿 で用い た包絡線につ い てM
に よる 直達S
波部分の継 続 時間の 変化お よ び coda 波 部 分で の周波数 に よ る継 続 時 間の 変化の様 子がわ か る。
次に, こ のよ うに して定 義さ れ た包 絡 線が従 来 観 測され ている さ まざま な規 模の地 震 に対 しどの程 度 有 効であ る かの 目 安を得る ため, 図一
2 に示すf
=
3Hz の包絡線と強 震 記 録の比 較 を 試み る。
比 較に際して は,
震 源距離の影 響は考 慮せず,
ま た強 震 1M≡
8 010
20
30
40
50
60
70
80
90S 1
匹 爬
O TO 20 30 40S O 10 20SO IO
図
一
2時 刻 歴 包絡 線のマ グニ チュ
ー
ド依 存 性。
最 大振 幅A(f
)L75
、
9 {Gall一
175.
9 」2B.
工 〔G己n一
428.
1U79.
6 {Gai}一
479.
, 30[ 1ユμ1
症
一
1198,
ユ 3U1.
1 tGal〕一
341、
7102.
8 (Cal、一
ユ02.
B 図一
3 異な る規 模の地 震の強 震 記 録と時刻 歴 包絡 線の比較。
カ ル フオルニ アの強 震記録の場合。
詳細は本 文 参 照。
222.
5 1Gaり一
222.
5161.
3 〔Gal〕 3iD.
.
a ユ
【
口 G61一
963 厂.
M
=
7
.
5
(
Aftershock
)
〔Gal)1一
96.
3 ユ13.
2 {Gal〕一
113.
2 64.
4 {Gal〕 km一
且6.
1M
=
6
.
7
一
巳 μ u 19SO 6.
29 N直KA]ZU 開S △−
22km 図一
4 異な る規 模の地震の強震記録 と 時 刻 歴 包絡 線の比較。
日 本の強震 記録の場 合。
詳 細は本 文 参 照。
CGall一
391.
85
.
4
HOSHI圓《 HS △−
4km一 27
記 録の いわゆるヒゲ 的な振 幅の影 響を避 ける ため
A
(f
) の値は仮に最 大 振 幅 値の 70% に一
致する よう 設 定さ れ てい る。
(3)式で定 義し た包絡 線は本 来 周 波 数ごと に 定 義されたもの で あり,
鴻げ 〉は周 波 数ごとの最 大 振 幅 値を規 定する もの で あっ て,
強 震 記 録そ の もの の最 人 振 幅値を直接 規 定す るもの で は な い が, 地 震 規 模による包 絡線の変 化 を 大 雑 把につか むという目的の た めに は上記 の よ う な 比較は有 効であ る。
記録は 比較 的震 源 距 離の 小 さい もの を選び,
図一
3はカ リフォル ニ アの例,
図一
4 は口本の例であ る。
細か な部 分は別に して,
こ こ で定 義 し た包 絡 線が規 模の異な る地震に対し, S波 到 達 時 刻 以 後の強 震 記 録の大 勢 をほ ぼ説 明し て い る ことが わか る。
次に周 波 数ごとの 包 絡 線の最 大ne
A
(f
)を求め る。
後 で述べ る よ うに振幅ス ペ ク トル は直達S
波の フー
リエ ス ペ ク トルU
(f
)で与え ら れ る た め , 以 下にA
(f
)とU
(f
} の関係を求め る。
その際,
地 震 波の 時 刻歴 をf
(t)としf
(t)の 2乗 平 均 値〈f
(t)’ 〉とパ ワー
ス ペ ク トル密 度 P(f
)(−
o。<f
〈 十 co )との 関 係 を用い る 。Aki
andChoueti2
)に ょれ ば,
十 分 狭い周 波 数 範 囲fo
く /<fi
でP
(f
)が一
定 値P
ノ となる と する と 同 じ 周波 数 範囲のf
(t)の 2乗 平 均 値は以 下の よ うに書 表すこ と がで き る。
<丿「 (t)2>= 2P /∠鮎ノ「
・
・
…
r・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
…
(6} こ こ でAf ・
=
f
,−
fo
であ る。
ま たP
∫をS
波のパ ワー
ス ペ ク トル 密 度と考え る とU
(/)とPx
の 関係は その継 続 時聞Td
よ り以 ドの ようにな る。P
∫=
σ(f
) 2 /T
.・
………・
……・
………・
………
(7> A(f
>は ヒ記 周 波 数 範 囲で振 幅の最 大 値 を 与え る ことか ら,
最 大 振 幅A
(f
)と,
f
{t
)の rms 値 〈f
(t
}2〉 との 比 をa と し,
(6) (7) 式の 関 係 を用い る とA
(f
)と U (f
)の関係を以 下の よ うに導くこと が で きる。
A
(f
)=
αこ1
(ノつ2
△∫/Td ・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
…
一
・
・
・
…
(8
) α の値を簡単な関数と して求める ことは困難な問題で あ る。 し か し な がら,
例え ば,
地 震 動の ピー
ク値の分 布が レー
リー
分 布ない し は正 規 分 布とな る場 合に は,
両 極 端 な場 合とし て,
ピー
ク の個 数 n が十 分 大き い と の 条 件 下 で α を n の 関 数 とし て簡 単に 書 表す こ とが で き る15〕・
16 )。Cartwright
andLonguet−Higgins
ヨ5〕に よ れ ば,
レ
ー
リー
分布の場合は波 動が狭 帯 域の ス ペ ク トル を もつ ことに対 応し て お り, (8
>式の条 件に よ り近 い もの と 考え られ る。
その場 合の a と n の関 係 を 以 下に示す。
a=1
〔2ln
n)’
fz+ γ/(2ln
n)’
i21………
(9) こ こで, γは オイラー
定 数であ る。 α の値の見当をつ け る た め に (9
)式を利用 す るこ と も考え ら れ る。
以 ヒの よ うに して包 絡 線の 絶 対 振 幅 が 定 義 さ れ る と,
正 弦 波に そ れを 作用 さ せ て模 擬 地 震 動を作 成す るこ と が で き る。
その 際 用い る正 弦 波の位 相は,
複 雑な短周期 地 震 波の発 生 伝 播 過 程を考 慮し周波 数ご と に ラ ンダム に与 え る。一 28
次に地震 波の震源 伝播過 程を考 慮し σげ )を以 下の よ う に定 義す る]’) 。U
(f
)=S
(f
)H (f
)exp (一
πfts
/Qs
)…・
……・
(10) こ こでS
(f
)は震 源ス ペ ク トル,
H (∫)は地 盤の伝 達 関 数,
Qs
は S波のQ
値, tsは S波の走 時であ る。
こ こで い う 地 盤と は地 震 動 特 性 が 地 点に よ らず 共 通の性質を持つ と 考えられる程 度の深さまで の表 層 を意 味 し,
基本的には い わ ゆ る地 震 基 盤8似浅の地層に 対 応す る。S
(/}と し て は,震 源ス ペ ク トルを議 論す る際の一
つ の指 標とし て, ω一
2 モ デル聖9脚 〕が よ く用い ら れ る。
こ こ で は,
ω一
t モ デ ル を簡 単に以 下の よ うに書 き表す。
F。〔ノ)=
Ω。f2
/[1+(∫〃,) 2 ]一 …・
…・
・
……・
…
(u ) Ωo置
πMo/x
ρ嘘 こ こで,fc
はコー
ナー
周 波数,
M
。,
ρ,
Vs
はそれぞれ,
地 震モー
メ ン ト,
密度,S
波速度である。
Boorem
} は本研 究 と 同様の 立場に たっ て震 源 伝 播 経 路 の影響を考慮し た模 擬 地 震 動 作 成 法 を 用い て短 周 期 地 震 勤 を評価して い る。
そ の な か で M7.
0以下の地 震に 対 しω一
: モ デルが有 効である と指 摘 して い る。..
方,
大 地 震に対 して ω一
2 モ デル を仮 定す る と短 周期領域で観 測 結 果 を過 小評 価 す る との指 摘 も あ る22}・
!3) 。 そこ で, 本 稿で は武村ほか24)の 断 層 面上での不 均 質 破 壊の考え方に 基づ き Q)−
tモ デ ルFo
(ω)を基 準に震 源ス ペ ク トル とし て 以.
ドの関係 を仮 定す る。S
(∫)=
=
flF
。(∫〕・
・
…
…・
……・
………・
…
…・
…・
・
『
(12
) こ こ で,
βは断 層 面のすべ りの不 均 質 性の程 度により決 まる パ ラ メー
タ で あ る24 )。
不 均質すべ り を伴 う断 層にっ い て の理 論 的 結 果25)・
26〕に よ る と短周期領 域で の破 壊 伝 播 に よる震 源ス ペ ク トル の 方 位依 存性はほ と ん どな くな る。
また さ らに ラ デ’
t
エー
ショ ンパ ター
ン係 数11) に よ る 方位依存性も断 層 面上で のすべ り の方 向の変 化や震源近 傍で の地球 内部構造の不 均 質 性に よる地 震 波の 散乱等の 影 響 を考えると,
短 周 期 領 域で は ほ と ん ど影響し な くな り,
そ の ことは観 測 事 実か ら も裏 付け ら れて い るZ61・
。
こ40 ’
N
38 ’
N
140’
E
142’
E
図一
5 解 析に用い た宮 城 県 沖 地 震の断層 面 と 観測 点の位 置表
一
1 震源 伝播過程に関す る諸パ ラメー
タ 表一
2 観 測 点の地 盤構造 観 測 点 層 厚 (m ) 密 度 (9
〆cヅ
s
波 速 度 〔k鵬〆sec)Qs
宮 古 2.
27,
9
1400.
0
一
1,
6
1.7
2,
34
2.
5
0
コ2
0
.
23
1、9
3.5
20
20
150
200
大 船 渡 防地360、
〇一
2,3
2、
5
1.5
3.O
でOO
200
石 巻25.
0
200.
O
1.
9
2.
〔}2.
5
o.
4
0.
8
3
{}10
30
200 ga レ sec 1000 OO 1 0
1 E , 」
一
り oOQ り 」 Φ = = o 」 0、
1 0 5 10 15 20HzFreouency
図一
6 宮 古に対し作成さ れ た模擬地震動の振幅一
定部分 くte〜
ts+T∂の FFT に よ るフー
リエ ス ペ ク トル と σげ 〉と の比 較 の よ うな結 果 を考 慮し (11}式で示す震 源ス ペ ク トル は 破 壊 伝 播に よる方 位 依 存 性の項や ラ ディ エー
ショ ン パ ター
ン係 数を含んで いない。
3.
模 擬 地 震 動の特 性 以 上の方 法によ り計 算さ れ る模擬 地震 動が どの よ うな 特 性を示すか を ユ978 年宮城 県 沖 地 震の 場 合 を例に検 討 す る。 図一5
に宮城 県 沖地震の断 層モ デル を示す。
で き る だ け簡 単なモ デル と する た め,Seno
et aL 271 に よる モデルの う ち 最 も簡 単な 1面の断 層 面 を もつ モ デル を採 用 し た。Seno
et al.
z7)による と,
断 層 破 壊は沖 合か らO
−
20Ga
一
200
200Gal
一
200
020
翩
一
2eo
図一
7 宮古を例に し た震 源か らの加 速 度記 象の方 位依存性の検 討(
一
雨 O〕
● ⊇ 」一
り oΩ
の o ψ 虚 ○ 色 の o 傷.
り り くー
oD10 500 0=
O°
己
go°
−
180°
図一
8 o 口,
02 0.
05 0.
1 0.
2 0.
5 1.
0 ?.
Perjod 〔s) 応答ス ペ ク トル の方位依存性の検討 (図一
7の加 速 度 記 象につ いて〉}
、
弋、
°
.
ゐ
ヘ
ズ
゜
ハ筏.
.
へ、
、
一ゾ
ご 亀 ホ零
/
磐一 29 一
200
(Gal
) D 200 (Gal) lSHINOMAKl200
(Gal) 0 200 (Gal) OFUNATO−
BOCHI階
200 (Gal)0
200 (Gal)0
MIYAKO OBS EW200「 (Gal)
0
SYN.
20S −.
図一
9 加 速 度 記 象の シ ミュ レー
一
ショ ン結 果 陸地に向かっ て進ん だ と さ れ ている。
各観測点の方 位 角 θならびに震 源 距 離X
は 断 層の 中心 か ら計 算 し た。 表一
1に計 算の た めに用い た諸パ ラ メー
タ を ま とめる。
コー
ナー
周 波 数f
. は断 層 面積を等し く し た場 合の円 形 ク ラッ ク モデル2e)より計 算し, そ の結 果fc
=
O.
046Hz
と な る。
またQs
値 とQ
。値は近 似 的に等しい と し,色々 な検 討 結 果ZS }ig
考慮し て定め た。
さ ら に βの値は観 測 値 と計算 値との対 応よ りβ=
2 と決 定し た が,
この点にっ い て は後で議 論す る。
表一2
に各 観測点の地盤構造を示 す。 これ ら は,
文 献 2”}一
川 を参 考に仮定し た もの であるn α の値につ い て は (9) 式で検 討 し た。 その 際 n の値 は n=
・
fm
〃c に よ り評 価 し た。
こ こ でfm
は地 震 動の 卓 越周波 数,
fc
は コー
ナー
周波 数で あ る。
対 象と す る 地 震 動の周波数 範囲 を考慮し, 例えば10Hz
と2Hz
の場 合を計算す る と,
(9
)式で,
そ れ ぞ れ α=
・
3、
4,
2.
9 と 求ま る。
こ れ らの 値 を 参 考に,
こ こで は,
α・
・
3 と仮 定 し た。 図一
6は以上の条 件 下で求め た宮 古に お ける加 速 度 記 象の S波 初 動の 時 刻 tsか ら時 間 T。分の FFT に ょる フー
リエ スペ ク トル と (10) 式に よ り計 算 さ れ るU
(f
) の比較である。
両 者の 平均 的な振 幅レベ ル は ほぼ 対 応 し てお り,
ヒ記の α の値が適切であ ること が わ か る。 次に,
宮占を例に加 速 度記象の方位依 存性を検討す る。
こ の た め ま ず 仮に 宮 古 が 破 壊の伝 播 方 向 (θ=
o°
),
そ の 直角 方 向 (θ=
90°
〉,
な ら びに逆方 向 〔θ=
180°
〉にあ る と し た場 合を想 定す る。
図一7,
図.
− 8
に作成波 形な ら びに減衰定 数 九≡
5%の 応 答ス ペ ク トル を 示 す。
先に指 摘し た よ うに S波の 震 源ス ペ ク トルS
(f
)は方 位に 依 存: しない。
こ の た め (8 )式のA
(f
)はm
に反 比例し,
継 続 時 間 窺 が長く な る θ=
180”
で最も小さ く逆に θ=
ODで最も大き くな る こと がわ か る。
図一一
7よ り θ=
0°
と180
°
で の最 大 振 幅 値の違い は約 2.
6倍,
図一
8 よ り減 衰 (一
而O
) 崘”
‘1000
500
0
MIYAKO
、
[
「
、
鞏
目
〜
、
(
β鉗
〔 丶 弋NSEWSYN
Σ
⊃ α トQ
国 α の 国uoZO
薩 の 国500
0
0
,
1
1
.
O
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−
BOCHI
厂.
’
一
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丶.
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一
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・
1
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回
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一
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一 V>.
一
一
1000
500
0
0
.
1
1
.
0
O
.
1
.
一
01
PERIOD
(
S
)
図一
一
10 シ ミュ レー
ショ ン結果の応 答ス ペ ク トル 定 数 5 %の応 答スペ ク トル の違い は O.
2 秒付近の ピー
クで約 2.
2倍と最 大 振 幅 値よ り や や小さい こ と が わ か一
30
一
る
。
な おT
,の値 より (8)式を用い て計算され る A (f
) の違い は約 3.
1倍で ある。
波 形お よ び応 答スペ ク トル の 方 位 依 存 性に関して は,
4.
で さ らに検 討 するe 次に,
宮 古,
大船渡防地, 石巻の 各 点につ い て加 速 度 記 象を計 算 し,
図一
9に観測記象との比 較 を示 す。 模 擬 地 震 動に は いず れ も SMAC−B2
の 計器特 性を考 慮し,
観 測 記 象と直 接 比 較で き る よ う に し た。
石 巻は, 破 壊の 伝 播 方 向に位 置し,
宮古や大船渡 防地に比 較して,S
波 の は じまりにエ ネル ギー
が集 中す る傾向 が あるが,
今回 計算し た模擬 地 震 動 がそれ らの傾 向を よ く表現し ている こ と が わ か る。
こ の こ とは,
(3)式で定 義した包絡 関 数やパ ラ メー
タの設定が実地 震 記 録 を説 明す る 上で妥当 なもの で あること を示し てい る。
図一
10 に減 衰 定 数h
=
5%の応 答ス ペ ク トルの比較を 示 す。
石巻でや や観 測 値を 過大評価して い る周 期 帯が あ る が,
ほ かの 2点で ほ ぼ観測値を説 明して い る こと が わ か る。
地表で観 測さ れ る強 震 動の ス ペ ク トル形 状は地 盤 特 性に大き く左右さ れ るこ と が多く対象周期が長く な るほ ど深 層の 構 造まで知 る必 要が あ る。 以 上の結果は各観 測 点にお け る深 層地 盤 構 造の不 明確さを考 慮す る と まずまずの合 致 度で あると い え る。
4.
議 論地 震の 正体が断層運 動であることは疑 う余 地の ない事 実とな っ て いる が
,
この ことは, 震 源か ら放 出さ れ る地 震 波が方 位 依 存 性を 示 すこと を意 味 し,
方 位 依 存 性を考 慮し ない従 来の経 験 的な 地震 動の距 離 減 衰 式の一
つ の大 き な 問 題点と考え られ て い る。
大地 震に よ る短 周 期 地 震 動に関して は, 震 源か ら放 出さ れ る 地 震 波の方 位 依 存 性 の大き な原因 と して断 層 面 上で の破 壊 伝 播効果が考え ら れてい るZ6 )。
破 壊 伝播 効果に関し て は主に,
長 周期 地 震 動に対 し,
震源破壊の み か けの継 続 時 間 Tk;
L
(1/V
,−
cos θパ厂 ∫)に反 比例す る地 震 動 振 幅の変 化がよく知ら れ て お りL η seismic directivityに よ る効果と呼ばれ て い る。
これに対し断 層 面.
トの不 均 質すべ りの影響 を強く う け る短 周 期 地 震 動に関し ては振 幅はVT
:に反 比 例す る と指摘さ れて お りzs 〕・
zot, seismic directivityの 効果 と 区 別さ れ ている。
本稿での地 震 動 評 価 法は,
対 象と する周 期 帯を考 慮し,
後者の立 場 を取っ て い る。
こ の こと は先 に指 摘 した図一
7の 振 幅 方位依 存 性か ら も 明ら か で あ り,
振 幅の方 位に よ る差は約2.6
倍 と求 まっ て いる。 武 村ほ か3Ziは M7.
5ク ラス以 上の 日本 付 近の大 地 震に対 し,
最大加 速 度の距 離 減 衰を検討 し てい る が,
デー
タの ば らっ きの幅は約 4倍 程 度で あ る。 距 離 減衰の ばらつ き の 中に は,
観測 点 地 盤の差 や観 測 計 器の差 等,
ほ かの要 素 も含ま れてい るこ とを考慮す ると, 上記の 方 向性は 十 分 考え ら れ る程度の もの と言え る。
これに対し長 周 期地 震 動と同様seismicdirectivity
によ る方 位 依 存 性を考え た場 合に は, 振 幅は 1/TE に比例す る た め 約 6.
5倍に も なる。 こ の 値は通常観測され る最大 加 速度値の ば らつ き に比べ て もか なり大き めの値で あ る。
断層面 上の破 壊 伝 播に よる短周期地 震動の方位 依存性 を地 震動 評価に取り入れた代 表 的 研 究と して,
翠 川,
小 林33} の断層モ デル が ある。 詳 細は文 献 a’
S} を参 照さ れ たい が,
この評価 法で は断 層 面上の各メ ッ シュ か ら発生す る 地震 波を応答包絡形の重ね合わ せ で表 現して お り,
その 方 法か ら判 断す ると 地 震 動の 方 位 依 存 性 と して は,
seismic directivityの効 果 と1
司様の特 性 を 示すと考え ら れ る。同様の考え方はSugito
andKameda5
:1 に も み ら れ, 本 稿の方 法との大きな違い であ る
。
こ の よ う な seismicdirectivity
の仮 定は,
断 層 面上の不 均 質すべ り とい う観 点か ら短 周 期 地 震 動 をみ た場 合に は,
振 幅の方 位 依 存 性 を 過 大 評価す る要因と な る。
次に,
時 刻 歴包絡線の問 題 点につ い て考え る。
本 稿で はJennings
et al.
s}の結果を,
主に直 達S
波に対 応す る 振 幅一一
定 部 分と,
coda 波 に 対応す る指 数関数 的 部分に 別け て解 釈して いる。 し か し な が ら実地震 記 録に おいて 両 者 を厳 密に区 別 すること は難し く,
その意 味での方 法 の不 明確さは認め ざる をえ な いn
(4)式で のil
はこの 問題点を直接 反 映す るパ ラメー
タである。
先に指 摘し たように
,
工zutani andHirasawaii
)の経 験 的な結 果 を もと に考え るとh
の 値VSO.
3
か ら1.
1程度で ある。
本稿で は それ らの結 果をもとにll=0.
5
と仮定し て宮城 県沖地 震の強 震 記 録の シ ミュ レー
シ ョ ンを行い,
観 測記録との 比較に よっ てパ ラメー
タの妥 当 性 を 確 認 して いる。 こ こ で はh
の 変動が工 学 的に重 要 な地 震 動の振 幅に対 しど の程 度 影 響す る か を考 察す る。
(8 )式の関 係より,
周 波 数 帯 域 別の振 幅は 》冗 に反比 例しTd
と比 例す るh
も地 震 動の振 幅に対し同様の影 響 をす る もの と考え ら れ る。
し た がっ て上記のk
の 値と その変 動 範囲 よ り,h
が ほ ぼ ファ クタ2程 度の変 動を す る と して も そ れ が振 幅 に及 ぼ す 影 響は 1.
4な い し0.
7倍 程 度で あり そ れ ほど大 き く ない こと が わ か る。
また T. の変 化に対する応 答ス ペ ク トル の変動は 図一8
の結 果よ り,
最 大 振 幅 値よtoさ ら に小さ い た め んの変動に よ る 影 響 も応 答ス ペ ク トル に対して はさらに小さ く な る ものと考え られ る。 こ の よ うに,le
の変 動に対 し地 震 動の最大振 幅値や応 答スペ ク トル 値がそれ ほど敏 感に変 動しない こ と は,
本方 法 を 工 学的に利 用す る上での有 利な点である。 し か し な が ら,
そ れに よっ て 直達S波とcoda 波の境 界に関す る 理論 的 不明確さ が解 消さ れ るわ けでは な く,
そ の点は今 後の課 題でφる。
最 近 佐 藤4レは 地 震 波の前方 散 乱 理 論を用い てS
波初動 以 後の地 震 動の包 絡 線を検討 し て お り, 上 記の 課題に対して今後こ の種の理論が参考になるもの と考え る。 最 後に地 震 動の予 測とい う 観点か ら本 稿の模 擬 地 震 動 評 価 法を考え ると,
最も 大 き な 問題 点と し て,
(12)式31 一
の β をいかに推 定する かとい うこ と が ある
。
宮 城 県 沖 地震の解 析で は,
観 測 値と計 算 値の 比 較か らβ を2.
0 と与え た。 震 源スペ ク トルが長 周 期 領 域か ら短 周 期 領 域 に か けて どの よう な形 状をし て い る か につ い て は さ ま ざ ま な方 法で検 討さ れて い るigLM )・
z2j.
/’s )が , 必 ずし も結 論 は一
一
致 して いない。 その原 因は,
仮 定 する断 層モ デル の 差,
地 震 波の伝 播 経 路の効果 や地 盤 特 性の評 価の差等,
解 析に当たっ ての前 提条件の違いに あ る と考え ら れ る。 こ の よ う な不 確 定要因 は伝播 経路のQ
値や 地盤の諸 定 数等に関して今 回の解 析におい て も同様に認め ら れ る。
以上の現状を考 慮 する と本 稿で用い たβの値 を も とに ω一
1 モ デル の妥 当 性な ど震 源スペ ク トル の特 性を詳 細に 議 論で き る段 階で は な い。
した が っ て, 地震 動 予 測とい う当 面の課 題に対 し て は,
本方 法を ほ かの大地震に適 用 し,
βのと り う る 範 囲 を 決 めてゆ くこと が 重要に な る。
さ らに,
地震動予 測とい う観 点か ら は,
大 地 震に多い 多重震源 が包 絡線に与え る影 響の評 価や,
その際 個々 の 震 源に対する震 源スペ ク トル の評 価等の 問題が考え られ る。 地 震 発 生 後 判 明し た多 重 震 源に よ る地 震 動の シ ミュ レー
ショ ンに関し て は,
個々 の震 源に対し本稿で提案す る方 法 を当て はめ,
そ れ らの 結果を時 刻 歴でた しあわせ て地震 動を評 価す る方 法が可 能であ る。 し か し な が ら, 予測とい う観 点か ら断 層 面上の細か な破 壊 過 程を あ らか じ め知ることは困 難な問 題で ある。
こ の点に関し て は, 断 層 面 上で の不 均 質 破 壊 を 少 数の 確 率 論 的パ ラメー
タで 統 計 的に評 価し よ う と す る試み が な さ れてお りsnl・
:S),
先 に指 摘し たβの評価に も関 連す る課 題で ある24)。 本稿で は, 多 重 震 源で あ る との 指摘が ある2「)宮城 県 沖 地 震に対 し,
この よ う な断 層 破 壊 過 程の予 測の現 状 も考 慮し て一
枚の断 層 面 を仮 定 した 評 価 を行っ てい るが,
図一9
に示 す ように そ の よ うな単 純なモ デル 化によっ て も 観 測 さ れ た強 震 動の特性をほ ぼ表現 する こと ができて い る。 こ の ことは,
予測す る地 震 動の周期 帯や予 測の 目的によっ て 多 重震 源 を仮 定し たモ デル化に は十 分 検 討の余 地が ある こと を示 唆するもの である。5.
あ と がき い わ ゆるJennings
の包 絡 関 数よ り出発し, 地 震 波の 震 源 伝 播 過 程 を考 慮 した模 擬 地 震 動 作 成 法 を 提 案し た。
そ れ を用い て ユHz 以 上の高 周 波 数 領 域で, 1978 年宮 城 県 沖地震に よ る強 震 動 波 形をシ ミュ レー
シ ョ ン し以下の 点が明ら か に な っ た。
〔
1
) 新し く提案し た評 価 法は震 源 伝 播 過 程に対し簡 便 な 仮 定 を して いる が,
震 源か ら の方 位の異な る3
観 測 点の強 震 動 特 性を か な り適 切に評 価で き た。
(2) 短周期 地震波の発生過程を考 慮す る と,
震源 ス ペ ク トル は破 壊 伝 播 方 向に関 係 な く一
定で,
震 源で の み か けの破 壊 継 続 時 間を Tk とすると,
地震 動の最 大 振 幅 値は 1〈傭 に比 例する、
こ の こ とは,
長 周期 領 域で一一
32
一
seismicdirectivity
の効果に よ り,
振幅 が 1/TE に比例 して変 化す るの に比べ , 短周期 領域で の最 大 振 幅の方 位 依 存 性 が 小さ く な るこ と を示してい る。 こ の ような傾 向 は宮 城県沖 地震による強 震 観 測 結果と も よ く整 合する。
(3
) 震源 ス ペ ク トルと しては,
ω一
2 モ デル に比べ 2 倍 程 度 振 幅 を 大き く仮 定す る と,
宮城 県 沖 地 震の強震 動 を説 明す ること ができ る。
ただし,
こ の結果は複雑な地 球 内 部 構 造による伝 播 経 路で の地 震 波の反射屈折や減衰 等の不 確 定 要 素 を 考 慮する と,
現状で は ω一
e モ デル と の有 意な差とは結 論で き ない。
今 回 提 案し た方 法は 必ずし も完全 なもの で な く,
4.
で指 摘し た よ う ない くつ かの問 題 点が ある。
しか し な が ら,
ま れ に しか発 生し ない大 地 震の強 震 動 波形が 多数 観 測さ れ ない限り予 測に結び付きに くい 単な る経験 則に基 づ く方 法に比べ , 将 来へ の発展性は よ り大きい もの と考 え られ る.
謝 辞本研究を す す め るに当た り
,
鹿 島 建 設 技 術 研 究所池 浦友則 研 究 員ほ かの皆 様には貴 重な御 意 見 をい た だ き ま し た
。
また,
本研 究で用い た強 震 記 録は運 輸省 港湾 技 術 研 究所な らびに建 設 省 土 木 研 究 所に よ り観 測さ れ たもの です。
関 係 各 位に心よ り感 謝い た し ま す。
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SYNOPSIS
UDC:550.34.09:550.34.038
A
METHOD
FOR
STOCHASTIC
PREDICTION
OF
STRONG
GROUND
MOTIONS
ON
THE
BASIS
OF
THE
THEORETICAL
SEISMIC-WAVE
RADIATION
AND
PROPAGATION
by Dr.MASAYUKI TAKEMURA, MASAKI KAMATA, Kobori
ResearchComplex Kajima Corp.,Members of A.I.J., and
Dr.TAKUJIKOBORI, EmeritusPTof. of Kyeto Univ., Honora[yMember of A,I.J.
There
are two kindsof the methodfor
predicting strong ground motions.One
is
themethodbased
on thefault
model, which
has
been developedby
seismologists tosimuate earthquake motionsdeterministically
in
thelonger
periodrange.
The
other methodhas
been
deyeloped
by
earthquake engineers to calculate earthquake motions stochastically inthe shoTterperiod
range. The engineering method usually consists of amplitude spectrum, en-velopefunction,
andduration
time of strong ground motions.They
are usually estimated under the regression analysisfor
theempiTicat relations toearthquake magnitude andhypocentral
distance.
In
the present study, the engineering methodis
improved
on the basis of the theories of seismic-wave Tadiation and propagation.The
new method is applied to simulate accelerograms observed at 3 stationsfor
the 1978 offMiyagi ptefectureearthquake
(M=7.4).
The
characteiistics of alltheacceleTograms, e.g. the effect of rupturepropagation on the