Serpentinization and blueschist-facies metamorphism beneath the Mariana forearc
マリアナ前弧域直下の蛇紋岩化作用と低温高圧型変成作用
AbstractA zone of dome-shaped diapiric seamounts occurs along the trench axis in the Mariana forearc. The seamounts mainly comprise blocks of serpentinized peridotite of varying sizes and fine-grained serpenti-nite matrix. The serpentine minerals are mostly chrysotile and/or liz-ardite, but antigorite is also found in peridotites recovered from the Raijin, Conical, Twin Peaks, Big Blue, Celestial, and South Chamor-ro seamounts. Antigorite is commonly associated with iChamor-ron-rich sec-ondary olivine (Fo86–89) as rim overgrowths or along the cleavage
traces of primary olivine (Fo90–92). The assemblage is indicative of
high-temperature serpentinization at ~500°C. Chrysotile and/or liz-ardite veins, both predating and postdating antigorite formation, are also present in antigorite-bearing samples. This may reflect a com-plex serpentinization history, suggesting the tectonic migration of serpentinized peridotites from the shallow mantle wedge to greater depths, and then back to the surface. Blueschist-facies rocks recov-ered from the Conical, Twin Peaks, and South Chamorro seamounts have a variety of mineral assemblages and chemistries, suggesting a wide range of metamorphic conditions, but all formed under low-temperature, blueschist-facies conditions (150–300°C, 0.5–0.7 GPa). The protolith of some blueschist-facies clasts from the Twin Peaks Seamount was amphibolite. The clasts contain metamorphic pargas-ite, Al-rich epidote and rutile, which are indicative of higher-grade epidote-amphibolite-facies metamorphism prior to blueschist-facies metamorphism. It is likely that these samples were initially meta-morphosed at depths of ca. 40 km within the subduction zone, and then ascended along the subduction boundary to depths of 20–25 km, where they were metamorphosed under blueschist-facies conditions. Although the progressive metamorphic evidence cannot be detected from metamorphic rocks, the P-T histories obtained from the ser-pentinized peridotites and metamorphic rocks are broadly consis-tent, implying that both the serpentinized peridotites and metamor-phic rocks experienced similar transport histories within the subduction zone.
Keywords: serpentinite diapir, blueschist, Mariana, forearc, peridotite
前川寛和
*村田恵子
**Hirokazu Maekawa
*and Keiko Murata
**2017年1月11日受付.
2017年7月20日受理.
* 大阪府立大学大学院理学系研究科
Graduate School of Science, Osaka Prefec-ture University, 1-1 Gakuen-cho, Naka-ku, Sakai, Osaka 599-8531, Japan
** 神戸女子大学文学部
Department of Literature, Kobe Women’s
University, 2-1 Higashisuma-aoyama, Suma-ku, Kobe 654-8585, Japan,
Corresponding author: H. Maekawa, [email protected]
©The Geological Society of Japan 2017 907 は じ め に
太平洋西縁に沿う海溝陸側斜面では,蛇紋岩化したかんら ん岩類がしばしば露出している.トンガ海溝の陸側斜面にお けるかんらん岩類,はんれい岩類,玄武岩類の存在は早くか ら知られていた(
Fisher and Engel, 1969; Hawkins et al.,
1972
等).マリアナ海溝陸側斜面では,1970
年代後半から 超苦鉄質岩,苦鉄質岩等が露出しているとの報告はあったが (Honza and Kagami, 1977; IGCP Working Group,
1977
),いずれもドレッジによる岩石試料の回収に基づくも ので,その産状は明らかではなかった.Fryer et al.
(1985
) はマリアナ海溝西側に拡がる前弧域の地形を詳細に解析し, 地形上の特徴からホルスト状の高まりとドーム状の形をもつ 海山(ダイアピル海山)を区別すると共に,後者が海溝軸に 沿って延びる大規模な蛇紋岩海山群をなすことをはじめて示 した.蛇紋岩海山群は,そのさまざまな特徴から,マントル ウエッジを構成するかんらん岩が,沈み込むプレートの上載 堆積物から絞り出された水により蛇紋岩化し,結果として軽 くなり浮力を得た蛇紋岩がダイアピル岩体として上昇し,海 底に吹き出して形成されたと考えられている.近年,マント ルウェッジのかんらん岩の蛇紋岩化は,沈み込み帯における 物質循環の観点から注目を浴びており(例えば, Hyndman
and Peacock, 2003
),そのアウトプットのひとつの形とし ての蛇紋岩海山の研究意義は急速に高まっている.1989
年に実施された国際深海掘削計画第125
次研究航海 (ODP Leg 125
)において,蛇紋岩海山群に関する情報は飛 躍的に増加した.ODP Leg 125
では,伊豆–
小笠原海溝陸 側斜面に分布する鳥島前弧海山とマリアナ海溝陸側斜面に位 置するコニカル海山が掘削された(Fryer et al., 1990
).コ ニカル海山は典型的な同心円状の形をなす海山で,山頂のチ ムニーからの水を主成分とする流体の湧出や間隙水の組成, 化石年代等の特徴は,比較的新しい活動時期を示唆してい た.一方,鳥島前弧海山は,さまざまな特徴から活動時期が 古いことが明らかとなり,両者の特徴を比較することで,ダ イアピル岩体として上昇・形成された蛇紋岩海山の成因が精 度良く理解できるようになった[詳細についてはMaekawa
et al.
(2001
)および前川(2003
)を参照されたい].蛇紋岩海 山は,主に蛇紋岩化したかんらん岩塊と蛇紋岩が細粒化し泥 状になった基質で構成されている.かんらん岩の蛇紋岩化の 程度(かんらん石等の初生鉱物の蛇紋石化の比率)は様々で, ほぼ完全に蛇紋岩化したものから,中には10%
以下の比較 的新鮮なものもある.岩塊の大きさは多様であるが,コニカ ル海山の掘削で回収されたコアから推定すると,少なくとも 径1.5 m
を越えるかんらん岩塊が存在する.Mottl
(1992
) は,コニカル海山の山頂部の掘削で得られた蛇紋岩質シルト の間隙水の分析から,流体が山体内を年間数ミリメートルの 速度で上昇することにより,海水の影響による流体の化学組 成の変化が表層部のみに留まっていることを指摘すると共 に,間隙水が強アルカリ性を示し,最高値がpH
=12.6
に 達することを明らかにした.さらにMottl
(1992
)では,間 隙水中にメタンやエタン,プロパン,酢酸塩が存在すること から,蛇紋岩海山内を上昇する流体が有機物から高温条件下 (>150
°C
)で発生したと結論し,コニカル海山から湧き出す 流体が沈み込むスラブの上載堆積物に起源を発し,上盤のか んらん岩の蛇紋岩化を引き起こした流体そのものであるとし た.ODP Leg 125
では,コニカル海山の掘削孔778A
か ら,細粒化した蛇紋岩泥と共に,アラゴナイト,ローソン 石,アルカリ輝石,ウインチ閃石,パンペリー石等を含む低 温高圧型変成岩類の小岩片(長径1
∼4 cm
)が多数発見され た(Maekawa et al., 1992, 1993
).このことは,前弧域直 下において低温高圧型変成作用が発生しており,蛇紋岩ダイ アピルが深所から上昇し,変成域を貫通する際に変成岩類を 岩片として取り込み,海底まで運び上げたことを示唆してい る.ODP Leg 125
の12
年後の2001
年に実施されたODP
Leg 195
では南チャモロ海山の山頂部が掘削された.主に 沈み込み帯における流体の振る舞いについてその化学的性質 が詳細に調べられ,コニカル海山と同様に海山内部に強アル カリの間隙水が存在することが明らかにされると共に,圧砕 された蛇紋岩基質中に細粒の変成岩片が多数回収された (Shipboard Scientific Party, 2002
).伊豆
–
小笠原弧の地震波速度断面によると,前弧域の上部 マントルのP
波速度が海溝に向かって徐々に遅くなる傾向 が認められる(Takahashi et al., 1998
).マントルウエッジ 内において沈み込むスラブがもたらす水によりかんらん岩の 蛇紋岩化が進行していると考えられ,蛇紋岩ダイアピルによ り形成されたと推定されるコニカル海山の諸特徴と調和的で ある.Oakley et al.
(2007
)は,R/V Maurice Ewing
の研究航 海で得られた3
つの蛇紋岩海山(ビッグブルー,
タークォイ ズ,セレスチャル)のマルチチャンネル地震波反射記録によ り海山の内部構造および周囲の基盤岩との関係を解析し,中 心部から蛇紋岩が粉砕されてできた泥流(serpentinite mud
flow
)がエピソディックに噴出することによって蛇紋岩海山 が形成されたと結論した. 本論文では,海洋研究開発機構の研究航海YK03-07
,KR06-15
,YK08-08
,YK09-06
において有人潜水調査船 『しんかい6500
』および無人探査機『かいこう7000
Ⅱ』を用 いて行ったマリアナ前弧中部∼北部の蛇紋岩海山の潜航調査 による結果を中心に,主に著者らがこれまでに公表してきた マリアナ前弧域の蛇紋岩海山で認められる蛇紋岩化作用およ び変成作用の特徴について紹介し,後者については研究の途 中段階であるが,新たに得られた情報を加えて報告する.な お,蛇紋岩化作用の著者等の研究の大部分はすでにMurata
et al.
(2009a, b
)で報告しているので,詳細はこちらをご覧 頂きたい. 変成鉱物の化学分析は,オックスフォード社製エネルギー 分散型分析装置ISIS 200I
を装備したJEOL JSM-840A
と フィールドエミッション電子プローブマイクロアナライザーJXA-8530F
を相補的に用いて行った.本論文で用いる角閃 石の名称は,Leake et al.
(1997
)に従った. 蛇紋岩海山の構成岩種 マリアナ海溝西側に拡がる前弧域,特に前弧外縁部,海溝 寄りの地域(海溝から60
∼90 km
)では,展張応力場によっ て形成されたホルスト・グラーベン構造が発達している.こ の地域の基盤は,島弧性と海洋性の地殻–
マントル物質, すなわち,蛇紋岩化したかんらん岩類,はんれい岩類,火山 岩類とそれらに由来する緑色片岩相,角閃岩相の変成岩類, チャートなどで構成されている(Ishii, 1985; Johnson and
Fryer, 1990
).なめらかな側面をもつドーム状の蛇紋岩海 山は,前弧外縁部に分布し,海溝に沿って延びる巨大な海山 群を形成している(Fig. 1
).個々の海山は,底面径15
∼30 km
,比高1
∼2 km
の規模をもち,その中には,コニカ ル海山のように見事な同心円状の等深線をもつものが認めら れる.Table 1
は潜航調査を実施した海山のリストである. ドーム状のダイアピル海山(D
)とホルスト状の高まりの断層 崖(FS
)を区別してある.蛇紋岩海山と基盤の断層崖から採 取された岩石種の量比には顕著な違いが認められ,蛇紋岩海 山から採取された岩石の60%
(個数比)以上が蛇紋岩化した かんらん岩であるのに対し,断層崖からのそれは40%
以下 である.1
.蛇紋岩・かんらん岩 かんらん岩類は主にハルツバージャイト,ダナイト,稀に レルゾライトを原岩とする.Ishii et al.
(1992
)は,コニカ ル海山と鳥島前弧海山から回収されたかんらん岩類を解析し,島弧の火成活動に関係して
30%
程度部分溶融した溶け 残 り か ん ら ん 岩 で あ る と し た. 一 方,Parkinson and
Pearce
(1998
)は,かんらん岩類の地球化学的特徴,特に酸 素フュガシティの違いに基づき2
種を識別した.すなわち, 中央海嶺のかんらん岩と同様の低い酸素フュガシティを示す コニカル海山のかんらん岩を,前弧に取り込まれた海洋性プ レート起源とし,それに対し,高い酸素フュガシティを示す 鳥島前弧海山のかんらん岩類を,島弧の火成活動に関係して 部分溶融したマントルウェッジ起源とした.D'Antonio and Kristensen
(2004
)お よ びKahl et al.
(2015
)は,ODP Leg 195
において南チャモロ海山から回 収された蛇紋岩類を解析し,クリソタイル/
リザダイトを主 体とする蛇紋岩化作用が支配的であるとした.D'Antonio
and Kristensen
(2004
)は,クリソタイル/
リザダイト+Fe
に富むブルーサイトを蛇紋岩化作用を特徴づける鉱物共生と みなし,その形成温度の上限を200
∼300
°C
とし,一方,Kahl et al.
(2015
)は,低温下での蛇紋岩化の際,磁鉄鉱は 生成されず余分なFe
成分が蛇紋石やブルーサイトに格納さ Fig. 1. Topographic map of the Mariana forearc region, showing the locations of investigated serpentinite seamounts and basement fault scarps. The dive numbers with underline (i.e., #372, #373 and #786) indicate the dive sites at the fault scarps, and others at the diapiric seamounts. The propotions of constituent rock types corresponding to the number of covered samples from each dive site are also shown. The circled numbers in the bottom left of each diagram indicate the re-covered rock samples. SMT = seamount.れ,結果として
Fe
に富むブルーサイトが形成されることか ら(Klein et al., 2009, 2014
),南チャモロ海山において認 められる蛇紋岩化作用の温度を磁鉄鉱が晶出するより低いと みなし200
°C
以下とした.彼らの指摘のように,われわれ の調べた蛇紋岩海山においても蛇紋石鉱物としてクリソタイ ル/
リザダイトを含むものが多いが,アンティゴライトを含 むものも決して稀ではない.雷神海山,コニカル海山,ツイ ンピークス海山,ビッグブルー海山,セレスチャル海山,南 チャモロ海山では,クリソタイルとリザダイトを主とするア ンティゴライトを欠いた蛇紋岩塊に加え,アンティゴライト を含む蛇紋岩塊も多数認められた.アンティゴライトを含む かんらん岩類は,劈開の発達したcleavable olivine
(Kuro-da and ShimoKuro-da, 1967
)を常に含むことで特徴づけられる (Fig. 2A, Murata et al., 2009b;
村田ほか, 2012
).アン ティゴライトを含むかんらん岩の多くは,針状あるいは葉片 状のディオプサイド,トレモラ閃石,稀にブルーサイトを伴 う.Cleavable olivine
を含むかんらん岩には,しばしば初 生かんらん石(Fo
90-92)の周縁部や劈開に沿ってFe
に富む二 次かんらん石(Fo
86-89)が見出される.また,コニカル海山, 南チャモロ海山,ツインピークス海山,雷神海山のかんらん 岩には,初生かんらん石の内部に幅0.5
∼2.0
μm
のFe
に富 む 特 異 な ス ト ラ イ プ(Fo
86-89)が 認 め ら れ(Murata et al.,
2009a
),このストライプの成因についてEvans
(2010
)は, 高温下での劈開に沿うFe–Mg
のパイプ拡散によるとした.Fe
に富むかんらん石が,かって存在した流体の通路に沿っ て分布するようにみえ,また,かんらん石を置換した蛇紋石 のFe
2+/Mg
が元のかんらん石より高い傾向が認められるこ とから,アンティゴライト形成時にFe
に富む流体が外部か ら供給された可能性が考えられる.Murata et al.
(2009b
)では,アンティゴライト+ディオ プサイドの組合せ形成時の蛇紋岩化作用の温度を450
∼550
°C
と推定したが,この組合せを含むかんらん岩には, 二次的にクリソタイル/
リザダイトが脈状ないしは基質に生 じている.またその一方で,クリソタイル/
リザダイト脈を 切って成長するアンティゴライト結晶も見受けられる.南 チャモロ海山,コニカル海山等の蛇紋岩海山の直下では,沈 み込むスラブの深度は海底から25
∼30 km
と推定されるの で,これら海山直下の沈み込み境界面付近の温度は200–
250
°C
程度と考えることができる(Hyndman and Peacock,
2003
).したがって,このような蛇紋石の前後関係は,沈み 込み帯境界面の浅所において比較的低温条件下でかんらん岩 の蛇紋岩化作用が開始された後,高温条件下,おそらく,よ り深所でアンティゴライトを含む鉱物組み合わせが生じ,再 び上昇して浅所にいたる過程でクリソタイルやリザダイトが Table 1. List of Kaiko 7000II and Shinkai 6500 dives off serpentinite seamounts in the Mariana forearc for this study. D = diapiric seamount; FS = fault scarp.形成された可能性を示唆している(
Murata et al., 2009b
). 蛇紋岩海山においてこれらが混在するという事実は,蛇紋岩 海山を構成する岩石類が,Cloos and Shreve
(1988a, b
)が 提案したサブダクションチャネル内での流動のような混合過 程を経た可能性を示唆している.2
.低温高圧型変成岩類 マリアナ前弧では,これまでに,コニカル海山,南チャモ ロ海山,ツインピークス海山から低温高圧変成岩類が回収さ れている.Fryer et al.
(2000
)は,セレスチャル海山,ター クォイズ海山において,蛇紋岩が細粒化し泥状になった基質 中に針状あるいは自形のアラゴナイト結晶が含まれることか ら,アラゴナイトが安定な圧力下での低温高圧型変成作用を 考察した.しかしながら,南チャモロ海山でも表層部に同様 のアラゴナイト結晶が普遍的に見られるものの,針状結晶が 放射状に成長する組織をもつなど,その産状を見る限り,ア ラゴナイトは変成鉱物ではなく,海水から析出した自生鉱物 であると考えられる.両海山でも同様のものをみている可能 性が高いことから,ここでは,最初に挙げた3
つの海山に ついて述べる.なお,コニカル海山と南チャモロ海山につい ては,既存の研究成果を主に紹介し,ツインピークス海山に ついては,われわれが現段階で得られている未公表の成果に ついて報告する. (1
)コニカル海山1989
年に実施されたODP Leg 125
で は,マリアナ海域中部のコニカル海山の山頂部において掘削 孔#780
,中腹部において#778
,#779
の計3
地点の掘削 が行われた(Fryer et al., 1992
).このうち掘削孔#778A
か ら十数個の低温高圧型変成岩(以下,
高圧変成岩と記す)が発 見され(Maekawa et al., 1992, 1993
),掘削孔#779B
から1
個の特異な鉱物組合せをもつ高圧変成岩(Leg
125-779B-6R-1, piece 1, 19–22 cm
)が回収された(Maekawa et al.,
2001
).これらの岩片は,共通して長径2
∼4 cm
の岩片と して細粒化した蛇紋岩基質中に認められる.掘削孔#778A
の変成岩類は,玄武岩,ドレライト,はんれい岩を原岩と し,初生の単斜輝石と角閃石が残存しており,片理を欠くの が大きな特徴である.玄武岩を原岩とするものは,希土類元 素の解析から海洋性地殻起源である可能性が高い(Yama-moto et al., 1995
).変成鉱物として,ウインチ閃石,アラ ゴナイト,アルカリ輝石,ローソン石,パンペリー石などが 生じている(Maekawa et al., 1992, 1993
).ローソン石は 特徴的に鉄に富み,最大で8 wt%
のFe
2O
3を含む.ウイン チ閃石は,マグネッシオホルンブレンドの周囲や割れ目に生 じている.これらの変成岩類は,ローソン石+パンペリー石 +赤鉄鉱の共生から,青色片岩相の低温部,およそ0.5
∼0.6
GPa
(海底からの深さ16
∼20 km
),150
∼250
°C
で形成さ れたと推定される(Maekawa et al., 1995
).アラゴナイト は脈として産し,大部分が方解石に二次的に置換されてい る.コニカル海山直下の沈み込むスラブ境界面の深さは約30 km
と推定されるので(Mottl, 1992
),蛇紋岩が上昇する 際に,その上昇経路にあった変成岩類を捕獲して海底まで運 び込んだと考えられる.これら変成岩類は,蛇紋岩ダイアピ ルにより地下深部よりもたらされた捕獲岩とみなすことがで き,現行沈み込み帯における初めての高圧変成岩類の発見と なった. 掘削孔#779B
の変成岩の構成鉱物は,緑色角閃石(エデ ン閃石∼パーガス閃石),緑簾石,フェンジャイト,緑泥石, 蛇紋石(クリソタイル/
リザダイト),パンペリー石,アルカ リ輝石,ルチル,チタナイト,アパタイト,ジルコンである (Maekawa et al., 2001
).緑色角閃石は,縁部や劈開面に 沿って著しく緑泥石,フェンジャイト,粘土鉱物に置換され ている.アルカリ輝石は9
∼22 mol%
のヒスイ輝石成分を もつ.この変成岩は,蛇紋石を含むがCr
,Ni
などかんらん 岩に多い適合元素には乏しく,蛇紋岩と泥質岩の境界部にお いて特定の元素移動により形成された交代変成岩であると考 えられる(Maekawa et al., 2001, 2004
). (2
)南 チ ャ モ ロ 海 山Fryer et al.
(2000
)は,『 し ん か い6500
』による潜航調査により,マリアナ前弧域南部に位置す る南チャモロ海山の表層部を覆う蛇紋岩の泥質基質の中から 青色片岩の小岩片やアルカリ角閃石の結晶片を見出した.ODP Leg 195
では,山頂部南側を掘削し(掘削孔#1200
), 同様の径数mm
∼2 cm
の変成岩類や角閃石の結晶片が多く 回 収 さ れ た(Shipboard Scientific Party, 2002; Fryer et
al., 2006; Pabst et al., 2012
).Pabst et al.
(2012
)はLeg
195
で回収された青色片岩に含まれるホウ素同位体と軽元 素に注目して沈み込むスラブの元素の挙動を議論したが,そ の中で詳細な変成鉱物組合せを報告している.彼らは主要な 変成岩を角閃石–
滑石–
緑泥石片岩,緑泥石–
緑簾石片岩,角 閃石–
緑泥石–
フェンジャイト片岩とし,特徴的な鉱物組合 せとしてパンペリー石+アルカリ角閃石(マグネッシオリー ベック閃石∼ウインチ閃石)+緑簾石を挙げ,同様の鉱物組 合せが観察されるフランシスカン帯のBlack Butte
の青色 片岩の形成条件の推定(Brown and Ghent, 1983
)に基づ き,その変成条件を250
°C
∼300
°C
,約0.7 GPa
とした. 著者らもODP Leg 195
で掘削・回収された岩石試料に加 え,YK03-07
次航海で『しんかい6500
』が南チャモロ海山 の掘削孔周縁部の掘削屑から採取した砕屑物試料を用いて解 析を行っているが,含まれる変成岩類は,コニカル海山の掘 削孔#778
から回収された変成岩類とは異なり,概して片理 が良く発達しており,再結晶度も高く,元の組織を残してい るものはほとんどない.上記先行研究の報告と同じく,主に 角閃石(トレモラ閃石∼アルカリ角閃石)の集合物からなり, 緑泥石,チタナイトを微少量伴う変成岩が圧倒的に多い(Fig.
2B
).これらは,陸上の高圧変成帯において,蛇紋岩と周囲 の岩石との境界部で交代作用によって形成された反応帯の岩 石に対比させることができる(Maekawa et al., 2004; Ukar
and Cloos, 2013
).なお,われわれの研究では,他からの 報告にない変成岩として,砂粒大のアルカリ角閃石(マグ ネッシオリーベック閃石∼藍閃石)–
ザクロ石(スペッサル ティン)–
フェンジャイト–
石英片岩(Fig. 2C
)とザクロ石(ア ンドラダイト)–
石英片岩が見出されており,現段階では, 南チャモロ海山の変成岩類の全体像が把握できていない状況 にある.そのため,以下のツインピークス海山の変成岩類の 解析を含め,稿を改めて報告したい.Fig. 2. A: Cleavable olivine and antigorite in peridotite from Raijin Seamount (YK09-06-#1156-R9; plane-polarized light). Ol = olivine; Atg = antigorite. B: Small fragment of an aggregate of acicular tremolite crystals from South Chamorro Sea-mount (Leg195-1200F-2H-2, 12–20 cm; cross-polarized light). Trm = tremolite. C: Small fragment of blue amphibole-gar-net-phengite-quartz schist from South Chamorro Seamount (Leg195-1200F-1H-2, 48–55 cm; plane-polarized light). Grt = garnet; Qtz = quartz; Gl = gluacophane–magnesioriebeckite. D: Lawsonite–sodic pyroxene vein in metabasalt from Twin Peaks Seamount (YK08-08-#1087-R7; plane-polarized light). Npx = sodic pyroxene; Lws = lawsonite. E: Large fragment of amphibolite recovered from Twin Peaks Seamount (YK06-15-#371-R8). The scale bar at the bottom of the figure is 10 cm long. F: Microphotograph of the amphibolite in E. Pale-green pargasite has been replaced by magnesioriebeckite along the cleavage traces and crystal rims (plane-polarized light). Prg = pargasite; Mrb = magnesioriebeckite; Rtl = rutile.
(
3
)ツインピークス海山 ツインピーク海山は,山の中央部 を南北に走る高角の断層により東側半分が取り去られ,山の 断面が断層崖としてむき出しになっている特異な形状をもつ 海山である(Fig. 3
).研究航海KR06-15
とYK08-08
にお いて,前者では『かいこう7000
Ⅱ』,後者では『しんかい6500
』を用いて,この断層崖の調査を実施した(それぞれ潜 航番号#371
と#1087
)(前川ほか, 2007a, b, 2008
).その 結果,蛇紋岩化したかんらん岩類に加え,縁部や劈開に沿っ て青色角閃石(マグネッシオリーベック閃石∼ウインチ閃石) 化した緑色角閃石(エデン閃石∼パーガス閃石)を主とする角 閃岩塊(YK06-15-#371-R08
)やアルカリ輝石,ローソン石, 青色角閃石(リーベック閃石),アラゴナイトを含む緑色岩 (YK08-08-#1087-R07
)が回収された(Tables 2, 3
).角閃 岩塊は径20 cm
を越える大きさを持ち,構成鉱物は,緑色 角閃石,緑簾石,パンペリー石,フェンジャイト,アルバイ ト,ルチル,チタナイトである.構成鉱物の粒径,産状から 判断すると,初期の変成鉱物として緑色角閃石,緑簾石,ル チル,二次鉱物として青色角閃石,パンペリー石,緑簾石, フェンジャイト,アルバイト,チタナイトが認められる (Figs. 2E, 2F
).緑簾石は粗粒で緑色角閃石と共生するもの は,ピスタサイト成分に乏しい組成[Fe
3+(/
Fe
3++Al
)=0.22
–0.23
]をもつ.一方,二次的に生じた細粒の集合体として 産する緑簾石は,ピスタサイト成分に富む組成[Fe
3+/
(Fe
3+ +Al
)=0.30–0.32
]をもち,両者は明瞭に区別することがで きる.チタナイトは,稀にルチルを部分的に置換している. 緑色岩のアルカリ輝石とローソン石は共に脈鉱物として認め Fig. 3. Bathymetric map of the Twin Peaks Seamount(counter interval = 40 m). A NW–SE-trending fault cross-es the summit of the seamount, and the seamount lacks the eastern half. The survey extended from the flank of the fault scarp to the seamount summit.
Table 2. Representative chemical analyses of amphibole, epidote, lawsonite, and sodic pyroxene. Ferric and ferrous irons for amphibole were calculated on the basis of Si + Ti + Al + Fe3+ + Fe2+ + Mn + Mg = 13 and O = 23, and those for
pyrox-ene were calculated on the basis of total cations = 4 and O = 6. Mrb = magnesioriebeckite; Wnc = winchite; Prg = pargasite; Ep = epidote; Lws = lawsonite; Npx = sodic pyroxene.
られ(
Fig. 2D
),アルカリ輝石はMorimoto et al.
(1988
)の エジリンオージャイトに分類されるが,組成的に不均質で, ヒスイ輝石成分は3–18 mol%
とばらつきが大きい.ローソ ン石は,コニカル海山の掘削孔#778
の変成岩と同様に鉄に 富む(Table 2, Fig. 4
). 従来,蛇紋岩海山から発見されている高圧変成岩類は高々 径4 cm
以下の大きさで,大きさそのものに制限があるかの ようにみうけられたが,回収された変成岩類には径20 cm
を超える大きな岩塊も含まれていた(Fig. 2E
).回収した岩 塊の角張った形状,近接する露岩の状況から判断すると,ツ インピークス海山では,小さくとも数メートル規模の岩塊と して高圧変成岩が蛇紋岩海山中に含まれている可能性があ る.ツインピークス海山において『かいこう7000
Ⅱ』,『し んかい6500
』をそれぞれ用いて実施した研究航海KR06-15
とYK08-08
は,海山の中央を走る断層崖を利用して海山 内部の観察を試みた点で,従来の蛇紋岩海山の潜航調査とは 大きく異なる.これまでは海山表層部の蛇紋岩フロー(土石 流)の産状を研究対象とする潜航が多く,したがって,回収 される岩片は海山表層部に運び出されたものに限定されてい た.深海掘削においても,ODP Leg 125
で変成岩が回収さ れた掘削深度の下限は海底下145 m
,ODP Leg 195
では45 m
であるので,やはりそれらの情報は海山の表層部に限 られていた.ツインピークス海山の断層崖は水深約2600 m
から3000 m
に拡がっており,海山の比較的深部の状況が 観察できることには大きな利点がある.径数m
規模の低温 高圧型変成作用を受けた角閃岩塊の存在を認めることができ たのは,表層部と内部の産状が異なることによるのかもしれ ない. 陸上の低温高圧型変成帯との比較 マリアナ前弧では,海溝から60
∼90 km
の範囲に蛇紋岩 海山が分布している.海山に高圧変成岩が含まれることか ら,前弧域直下で低温高圧型変成作用が発生しており,将来 隆起して低温高圧型変成帯を形成する可能性のある変成岩類 が地下深部に存在すると考えられる.蛇紋岩ダイアピルは変 成域を貫通し,地表まで蛇紋岩や変成岩類を運び上げ蛇紋岩 海山を形成する(Fig. 5
).蛇紋岩海山と火山フロントの間で は島弧と蛇紋岩海山から砕屑物が供給され,前弧海盆堆積物 層の形成が進行している.このような現在の島弧–
海溝系で 進行しつつある地学現象と,過去の沈み込み帯である陸上に 分布する低温高圧型変成帯の諸特徴とを比較検討すること Table 3. Mineral associations of metamorphic rocks recovered from Twin Peaks Seamount. Lws = lawsonite; Pmp = pumpellyite; Prg = pargasite; Mrb = magnesioriebeckite; Npx = sodic pyroxene; Chl = chlorite; Phn = phengite; Ep = epi-dote; Ab = albite; Qtz = quartz; Cc = calcite; Arg = aragonite; Rtl = rutile; Apt = apatite; Tnt = titanite; Iox = iron oxides. * Pargasite and rutile formed during the initial stage of metamorphism, and epidote and apatite formed during both stages of metamorphism.Fig. 4. Chemical compositions of coexisting lawsonite (A) and sodic pyroxene (B) in a vein through metabasite (YK06-15-#1087-R7) recovered from Twin Peaks Sea-mount. (A) : Lawsonites data for YK06-15-#1087-R7 are shown by the open circles, and those for Leg125-778A-6R-1(20–23 cm) recovered from Conical Seamount (Maekawa et al., 1992) are also shown by small solid cir-cles. (B) : Data for sodic pyroxenes from YK06-15-#1087-R7. The area surrounded by the broken line shows the range of sodic pyroxenes compositions in metabasites from Conical Seamount (Maekawa et al., 1992). Pyroxene end-member components were recalculated based on Morimoto et al. (1988).
で,低温高圧型変成帯をより精度良く理解することができ る.以上の観点から前川(
1999
)およびMaekawa
(2000
)で は,北米西海岸に分布するフランシスカン帯と北海道神居古 潭帯を取り上げ,マリアナ弧の蛇紋岩海山群との対比を試み ている.フランシスカン帯は,ジュラ紀後期から白亜紀に低 温高圧型変成作用を受けた典型的な地質体として知られてい る.白亜紀以後,サンアンドレアス断層に沿って水平移動に よる変位を被っているものの,変成作用時の海溝から東方へ 向けての地帯配列の大枠は変わっていない.すなわち,フラ ンシスカン帯の北部では西側,南部ではその周囲に,フラン シスカン帯と同時代の非変成堆積層で前弧海盆堆積物の特徴 を持つグレートバレー層が分布する.フランシスカン帯の約200 km
東方には変成年代と同年代の活動を示すシェラネバ ダ花崗岩体が広く分布し,プレートの沈み込みにより低温高 圧型変成作用が起きていた当時の火成作用の場,すなわち火 山フロントに対応している.変成帯内には,大小様々な大き さの蛇紋岩体が認められ,その中には周囲より高変成度の高 圧変成岩のテクトニックブロックを含むものがあり(例えば,
Coleman, 1961
),変成作用時に,ダイアピルによって上昇 し変成域を貫いた蛇紋岩メランジュであると考えられてい る.また,グレートバレー層の基底部には堆積性の蛇紋岩が 知られており,供給源として蛇紋岩海山のような高まりが存 在したと考えられることから,マリアナ前弧と同様の蛇紋岩 の迸入機構が提唱されている(Lockwood, 1972
).沈み込 み帯で形成される付加体は,海溝堆積物が加わることで成長 することから,フランシスカン帯に分布する蛇紋岩の一部 が,かって存在した蛇紋岩海山の崩壊に伴う海底地すべりに よって供給された蛇紋岩に由来している可能性は十分にある と思われる.Moore and Liou
(1980
)やPlatt et al.
(1976
)によって報告されたフランシスカン帯内の高変成度の高圧変 成岩礫を含む変成岩(変成礫岩)は,蛇紋岩ダイアピルによっ て海底まで運ばれた高度変成岩が海溝に堆積して礫岩とな り,沈み込み帯内部に引きずり込まれ再び変成作用を受ける というリサイクルプロセス(
Suppe, 1972
)を経たと考えられ ている. 神居古潭帯においても,全く同様に上記の特徴をすべて挙 げることができ(前川, 1999; Maekawa, 2000
),マリアナ 島弧–
海溝系は,海洋プレートの下に海洋プレートが沈み込 む,さらに付加体が発達していないという特異な場ではある ものの,上記2
つの低温高圧型変成帯のテクトニック・セッ ティングとは良い一致を示す. コニカル海山,南チャモロ海山の表層部から採取された低 温高圧型変成岩類は,いずれも数mm
∼4 cm
の小岩片であ る.それに対して,フランシスカン帯や神居古潭帯の蛇紋岩 メランジュに含まれる変成岩類は時に径数km
におよぶも のもある.コニカル海山で行われた掘削では,掘削速度が掘 削深度に依存して小さくなり,回収されたかんらん岩の蛇紋 岩 化 の 割 合 も 深 度 と 共 に 小 さ く な る(Maekawa, 2000;
Maekawa et al., 2001
).すなわち重いものが下に溜まって いる傾向が認められる.したがって,深所で比重や抵抗の大 きい高変成度の高圧変成岩を取り込んだとしても地表まで持 ち上げることができないで,海底近くまで運ばれたのは小岩 片だけであった可能性が高い.フランシスカン帯や神居古潭 帯の蛇紋岩メランジュは,深所の変成域での蛇紋岩ダイアピ ルの断面を示していると考えると矛盾なく説明できる. 一方,三波川変成帯は,蛇紋岩メランジュを伴わず,フラ ンシスカン帯や神居古潭帯に比べて,蛇紋岩の量そのものが 顕著に少ない.また,蛇紋岩の分布は,その多くが高変成度 Fig. 5. Schematic cross-section showing the tectonic framework during high-pressure metamor-phism in the Mariana arc–trench system. Figure modified after Maekawa et al. (2003, 2004).の黒雲母帯∼ざくろ石帯の泥質片岩中に限られている.最 近,
Aoya et al.
(2013
)も同様の指摘を行っている.前川 (1999
)およびMaekawa
(2000
),Maekawa et al.
(2003
)では,これらの制約に基づき,三波川帯内における蛇紋岩 が,変成域内への蛇紋岩ダイアピルの迸入によるものではな く,付加体上面におけるウェッジマントルの削り込みによっ て取り込まれた可能性を指摘した.すなわち,付加体の形成 が始まると,上盤マントルは付加物に広く覆われ,沈み込む 海洋プレートはもはや上盤マントルに直接接することはでき ないことから,蛇紋岩が高変成度の泥質岩に集中して分布す るのは,沈み込み初期に上盤マントルに接していた堆積物が 蛇紋岩化したマントルを削り込み,取り込んだプロセスを反 映した結果と考えた. 陸上の低温高圧型変成帯および周辺地域の地質学的特徴 は,マリアナ沈み込み帯における地学現象をさらに考慮する ことによって,飛躍的に理解を深めることができる.逆に低 温高圧型変成帯から読みとれる情報から現行沈み込み帯で進 行中の地学現象をよりよく理解できることも少なくない.フ ランシスカン帯や神居古潭帯は蛇紋岩が多量に含まれてお り,異種岩塊を含む蛇紋岩メランジュの発達も著しい.一 方,三波川帯には蛇紋岩が少なく,蛇紋岩メランジュは認め られない.蛇紋岩メランジュが付加体内での蛇紋岩ダイアピ ルの有無を示しているとすると,変成帯が蛇紋岩メランジュ をもつことは,変成作用が進行していた当時に,前弧域が展 張応力場にあったことを示している可能性がある.三波川帯 は変成作用時に圧縮応力場にあったために,蛇紋岩メラン ジュをもつことがなく,蛇紋岩に乏しいのかも知れない.三 波川帯では,フランシスカン帯や神居古潭帯のように,変成 作用時の変成域周辺のテクトニックな枠組みが認められな い.このことは,後二者の変成域の上昇が,展張応力場の元 で(
Platt, 1986
),テクトニックな枠組みを温存した形で行 われ,一方,前者は,変成域の上昇時,プレートの斜め沈み 込みにより生じた東西方向の大規模な塑性流動(Wallis,
1995
)が,変成作用時のテクトニックな枠組みを消し去った 可能性が考えられる(Maekawa, 2000
). 考 察D'Antonio and Kristensen
(2004
)は,ODP Leg 195
に おいて南チャモロ海山から回収された蛇紋岩類の形成温度の 上限を,クリソタイル/
リザダイト+Fe
に富むブルーサイ ト の 共 生 か ら200
∼300
°C
と し た. 同 様 に,Kahl et
al.
(2015
)も蛇紋岩の鉱物組合せと酸素同位体の考察に基づ き,蛇紋岩化作用の温度を200
°C
以下とし,蛇紋石脈の形 成順序を解析し,共に低温下での蛇紋岩化作用が主体をなす とし,その重要性を指摘した.しかしながら先に述べたよう に,蛇紋岩海山では,アンティゴライトを含む鉱物共生をも つ蛇紋岩は決して稀ではない.Murata et al.
(2009a, b
)で は,アンティゴライト+ディオプサイドの組合せの形成時の 蛇紋岩化作用の温度を450
∼550
°C
と推定したが,同じ薄 片内に認められるクリソタイル/
リザダイト脈にアンティゴ ライト結晶を切るものが多い中で,稀に針状のアンティゴラ イト結晶に切られるクリソタイル/
リザダイト脈も存在する (Murata et al., 2009b
).この事実は,クリソタイル/
リザ ダイト→アンティゴライト→クリソタイル/
リザダイトの順 で蛇紋石鉱物が形成されたことを示しており,サブダクショ ンチャネル内での下降・上昇およびダイアピルによる上昇な どの,プレート境界部での複雑な動きを反映していると考え られる.ODP Leg125
においてコニカル海山の掘削孔#778
から 初めて発見された高圧変成岩類は,片理を欠き,元の組織お よび初生鉱物が残っており,変成鉱物が細粒である.ローソ ン石+パンペリー石+赤鉄鉱の鉱物組合せで特徴づけられ, アラゴナイトが安定である.Maekawa et al.
(1995
)では, これらの特徴から,青色片岩相の低温部,150
∼250
°C
,0.5
∼0.6 GPa
(海底からの深さ16
∼20 km
)で形成されたと推 定した(Fig. 6
).ODP Leg195
を初めとして南チャモロ海山でも高圧変成 岩類が報告されている.しかし,比較的大きな岩片(径 Fig. 6. Pressure and temperature (P–T) conditions of the metamorphism obtained from samples KR06-15-#371-R08 and YK08-08-#1087-R07 recovered from Twin Peaks Seamount. The P-T conditions of metamorphic clasts from South Chamorro Seamount (Pabst et al., 2012) and metab-asites from Conical Seamount (Maekawa et al., 1993) are also shown in this figure. The dotted lines indicate the boundaries of metamorphic facies after Banno et al. (2000). The phase relations of CaCO3 are after Johannes and Puhan (1971). AE = amphibole-eclogite subfacies; Am = amphibolite facies; EA = albite-epidote-amphibolite subfacies; EB = epidote-blueschist subfacies; Gs = green-schist facies; HG = hornblende-granulite subfacies; KE = kyanite-eclogite subfacies; LB = lawsonite-blueschist sub-facies; PA = pumpellyite-actinolite subsub-facies; PrA = prehnite-actinolite subfaices; PxH = pyroxene-hornfels fa-cies; Z = zeolite facies.5 mm
∼2 cm
)は,ほとんどが青色角閃石あるいはトレモラ 閃石/
アクチノ閃石の集合物で,形成条件の推定に有用な鉱 物組合せをもつ試料はすべて砂粒∼シルト大の砕屑物であっ たため,変成岩岩石学的な解析はほとんど行われていない. 回収された変成岩の多くは良く発達した片理を有し,細粒で はあるものの再結晶度は高く,元の組織や初生鉱物は残って いない.これらの特徴は,コニカル海山の掘削孔#778
の変 成岩類の特徴とは著しく異なる.Pabst et al.
(2012
)は,南 チャモロ海山の掘削孔#1200
から回収された変成岩類の特 徴的な鉱物組合せとして,パンペリー石+青色角閃石(マグ ネッシオリーベック閃石∼ウインチ閃石)+緑簾石を挙げ,Brown and Ghent
(1983
)に 基 づ き, そ の 変 成 条 件 を250
°C
∼300
°C
,約0.7 GPa
と見積もっている. 研究航海KR06-15
においてツインピークス海山から回収 された角閃岩塊(KR06-15-#371-R08
)は,2
つのステージ の変成作用を記憶している.すなわち初期ステージに形成さ れた鉱物として緑色角閃石(エデン閃石∼パーガス閃石),緑 簾石,ルチルを認めることができる.鉱物組織から緑色角閃 石と共に斜長石も初期ステージに存在したと推定されるが, 緑簾石やチタナイト,アルバイト,フェンジャイト等の細粒 鉱物の集合体に置き換わっているためその組成は不明であ る.角閃岩塊は,SiO
2に乏しく,Al
2O
3,TiO
2,K
2O
等に 富む特異な組成を有していることもあり,初期の変成条件を 推定するには至っていないが,恐らく緑簾石–
角閃岩相ある いはその周辺変成相の温度–
圧力条件で形成されたと推察さ れる(Fig. 6
).角閃岩にふくまれる青色角閃石(マグネッシ オリーベック閃石∼ウインチ閃石)やパンペリー石等の低温 条件を示唆する変成鉱物は,より低温の変成作用を二次的に 受けたことを示している.青色角閃石とパンペリー石との共 生は,Pabst et al.
(2012
)が南チャモロ海山で報告した鉱物 共生と同じで,恐らく同様の温度–
圧力条件で形成されたと 考えられる.研究航海YK08-08
においても,同じ断層崖 の潜航調査を実施し,青色片岩相を示唆するアルカリ輝石, ローソン石,青色角閃石(リーベック閃石),アラゴナイトを 含む緑色岩(YK08-08-#1087-R07
)が回収された.鉱物種, 鉱物組成からコニカル海山の変成岩類と同程度の温度–
圧力 条件で形成されたと考えられるが,コニカル海山の変成岩類 がローソン石+パンペリー石の共生で特徴づけられ,ローソ ン石とアルカリ輝石は決して共生しないのに対し,ツイン ピークス海山の緑色岩は,ローソン石+アルカリ輝石の共生 をもつ点が異なる.Maekawa et al.
(1995
)の結果に基づく と,後者がやや高圧条件側に位置すると考えられる.Fryer et al.
(2000, 2006
)は,南チャモロ海山の変成岩類 に含まれる角閃石について,共通して縁部がNa
に富み,核 部がCa
に富む累帯構造をもつことを報告している.また,Pabst et al.
(2012
)は,同様の変成岩に含まれる角閃石につ いて,エデン閃石(核部)→トレモラ閃石/
アクチノ閃石(縁 部)とマグネッシオホルンブレンド(核部)→藍閃石(縁部)の 累帯構造を報告している.これらの累帯構造は,高変成度か ら低変成度への変化を示しており,ツインピークス海山の角 閃岩の熱履歴と調和的である.ダイアピルによる上昇に先立 つ変成岩類の沈み込み帯境界に沿った上昇を示している可能 性が高く,先に述べた蛇紋岩化作用に認められる温度変化と 密接に関係しているように考えられる. 以上述べたように,マリアナ前弧の蛇紋岩海山に含まれる 変成岩類は実に多様である.深海底をフィールドにする場 合,ピンポイントのサンプリングであるため,陸上での調査 研究に比し研究のための制約が多く,研究が難しい.蛇紋岩 海山はそもそも不均質であり,採取される変成岩片も通常き わめて少量であるため,例えば変成相の解析一つを取り上げ ても容易でない.しかしながら,プレート沈み込み帯におけ る低温高圧型変成作用の本質を理解するためには,今後,変 成年代等も含めた広い視点からのさらなる検討を行い,マリ アナ前弧域における低温高圧型変成作用の詳細を解き明かし ていく必要がある.現在,国際深海科学掘削計画(IODP
)第366
次航海(2016
年12
月8
日∼2017
年2
月7
日)におい て,ブルームーン,セレスチャル,ビッグブルーの3
海山 の掘削が実施され,現在,採集試料の解析が行われている. その成果が大いに期待されるところである. 謝 辞 藤岡換太郎氏には,研究航海YK03-07
においてよこす か乗船の機会を頂き,これにより以後の研究航海を計画・実 施することができた.研究航海KR06-15
およびYK08-08
に際し,潜航地点の選定は横瀬久芳氏に負うところが大き い.本報告の一部は,大阪府立大学理学部の卒業研究並びに 大学院理学系研究科の修士論文の課題として取り組んだもの である.研究の過程において高原里佳,野上規子,吉田尚 悟,岡直樹の諸氏の協力を得た.また,植田勇人氏,市山祐 司氏,匿名の査読者の方々には,貴重かつ適切なご助言を頂 いた.以上の方々に深く感謝する次第である.本研究にあた り,JSPS
科研費(22540494, 25400520
)の一部を使用し た. 文 献Aoya, M., Endo, S., Mizukami, T. and Wallis, S. R., 2013, Pa-leo-mantle wedge preserved in the Sambagawa high-pres-sure metamorphic belt and the thickness of forearc conti-nental crust. Geology, 41, 451–454.
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(著者プロフィール) 前川寛和 大阪府立大学大学院理学系研究科教授 研究内容:高圧 変成帯のテクトニクス,マリアナ前弧の蛇紋岩海山群の岩石学的研 究.本研究では,全体の構成,変成岩類に関する記述,編集委員会 との対応を担当. 村田恵子 神戸女子大学文学部助教.研究内容:マリアナ沈み込み 帯における蛇紋岩化作用.本研究では,蛇紋岩化したかんらん岩類 に関係する記述を担当. (要 旨) 前川寛和・村田恵子,